TS転生 地味子と行くインフィニットストラトス~ハーレムには入らない~   作:地味子好き

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臨海学校編⑥

「え…?」

 

 

ISのインターフェイスにはシールドエネルギーの少量の減少が表示された。

 

しかし、ISの展開が解除されるほどの大ダメージではない。

 

そう。I()S()()()()()()()()ではなかった。

 

 

オータムのプラズマ・ナイフの一撃が()()()()()()()()()()()()()

 

そこに痛みはない。

 

バチバチとプラズマの放電する音と、()()()()()()()()()……

 

ガクン―と意識が奪われる感覚に陥る。

 

(嘘……なんで……なんで……絶対防御が……)

 

もう思考を巡らせることもできない。

 

早く…ただ早くこの意識を彼方へ追い出して楽になりたい。

 

そんな思いに駆られる。

 

(ああ、そっか……私、また死んじゃうんだ…)

 

懐かしい感覚が私を包み込む。以前の脳のオーバーヒートの時とは違う。私がこっちに来た時と……同じ感覚だ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

「なんだコイツらァ!クソがッ!」

 

オータムはISと戦っている。

 

しかし、それは銀の福音ではない。

 

アンノウン。以前一度のみ姿を現した、全身装甲(フル・スキン)

 

『オータム、分が悪いわ。撤退、できるわね?』

 

「ああ、だがよォ!一機ぐらいはぶっ潰させろォ!」

 

『最優先よ!オータム、あの娘のデータを不足なく持ち帰ることが貴女の任務でしょう?』

 

「……チッ!分かった。帰投する。」

 

眼前のISへレールバズーカを撃ち込みそのまま装備をパージ。

 

追加ブースターをコールし、一気に遁走した。

 

そしてIS…ゴーレム達も動き出し、南へと消えていった。

 

~~~~~

 

 

 

「………黒薊の反応、完全に消えました。」

 

空域内にいるISの管制を行っていた山田真耶は静かに告げた。

 

ドン!と部屋内に音が響く。柱には亀裂が入っていた。

 

そしてその音の主は何も言わず、静かに自分の携帯のメール画面を見る。

 

《千冬さんへ 先ず、勝手に出撃してすみません。皆には勝手に部屋を出たところを捕まえたので反省文を書いていると説明しておいてください。お叱りは後銀の福音をメッタメッタにして一夏君と箒と一緒に戻ってきたときに聞きますから》

 

普段、彼女からこんなメールが来ることはない。だからいきなりこれが来た時、千冬は訳が分からなかった。

 

しかし…今となっては彼女の遺書となってしまった。

 

「……すぐ戻る。篠ノ之の受け入れ用意いそがせろ。…一夏の反応はまだあるんだな?」

 

「は、はい!織斑くんはまだ。」

 

「よし、ボーデヴィッヒ、鳳で引き上げ、オルコット、デュノアに護衛させろ。…それと、皆にはアイツのことは黙っておけ。」

 

そう言うと千冬は力任せに扉を開け、すぐさま冬香を寝かせていた部屋へ向かう。

 

扉を開き、スーツにしわが付くことも構わず、乱雑になった布団へ倒れこむ。

 

まだ微かに彼女の匂いを感じる布団は千冬にとって至上のものであった。

 

そうして、千冬は涙があふれそうになるのを必死に堪えた。

 

もし、織斑一夏の反応まで消えていたら―千冬は想像が出来なかった。

 

「……どうすればいいんだ。私は…」

 

単純に分からなかった。何故こうなってしまったのか。

 

そうして一分が経ち、千冬は立ち上がった。

 

自らの悲しみを殺して。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

目を覚ますとそこは草の上だった。眼前には湖があり、そこの中央には塔がある。

 

すぐ真横には塔へ至る橋があり、右手には二つのカギがあるキーリングを握っていた。

 

「ここ…どこ…?」

 

私―天利冬香は死んだはずである。いつもならあのクソッタレの神のいる謎空間へすぐさま飛ばされるはずなのだが。

 

周りは森か林か。とにかく湖の周辺には木がたくさん生えている。

 

「……行けってことだよね。」

 

わざわざ自分が橋の真横にいるのはそういう事なのだろう。

 

「……青い瞳のキャスバル」

 

私はそう呟いた。若いハモンさんがガンタンクでキャスバルとセイラを迎えに来るのだ。

 

三人が幽閉…軟禁?されていた塔。それによく似ていた。

 

橋を渡り、塔の入口へ着く。

 

ノブをが回して開けようとするが…鍵がかかっている。

 

「ああ、そういう事か。」

 

右手に持っていた鍵の一つ。それを使って鍵を開ける。

 

すると、ガチャリと扉が開いた。目の前の空間はそれなりに広い。

 

壁にはろうそくが置いてあり照らしている。蜘蛛の巣やほこりが全くないため無人…と言うことはないだろう。

 

「すみませーん。誰かいますかー?」

 

声を出すが一向に返答が返ってこない。どうやらこの中に人はいないようだ。

 

この空間には扉は私が入ってきた一つしかない。あるのは上に行くための螺旋階段だ。

 

どうやらここを上るしか手段はない。上に何かあるんだろう。

 

私は一段一段数えながら上へ登ってゆく。

 

「228…299…300!」

 

300段あった階段を登り切った私は最上にある扉の前に立った。

 

その扉は黒く、赤い線で花が彫刻されている。

 

おそらくこれは…

 

「アザミの花……そっか。そういう事か。」

 

理解した。ここはおそらく、ISのコアの中だ。

 

扉にはカギ穴がついている。もう一つの鍵を差し込みまわすと

 

 

カチャリ―

 

音がした。ロックが外れた音だ。ふぅ…と深呼吸した私は扉を開け、中へと進んだ……。

 

 

~~~~~

 

「えっへへへへっへ!」

 

篠ノ之束は上機嫌であった。

 

昨日の亡国企業の接触こそ(想定の範囲内であったが)予定外であったが、それ以外は順調に事が進んでいる。

 

本来ゴーレム、もしくは銀の福音が担う役目がオータムに変わったところも想定内であった。

 

外的要因による天利冬香の死。それが何の苦もなく達成されたのだ。

 

嬉しくてしょうがなかった。

 

「束様、お茶です。」

 

「ありがと!くーちゃん!」

 

くーちゃん、つまりはクロエ・クロニクルもまた上機嫌だ。

 

天利冬香を襲った『IS保護下における炎症の苦痛のデータ』が十分に取れたことに加え、ナノマシンによる痛覚制御のデータも取れた。

 

これを応用すれば黒鍵はさらに凶悪になる。

 

「これで、冬香様が覚醒すれば…始まるのですね。」

 

「うん!楽しみだなぁ!黒薊の一次移行(ファーストシフト)!」

 

束は麦茶をすすりクロエが持ってきた水ようかんを流し込む。

 

「さて、ちーちゃんの面白い顔も見れたし!束さん万々歳だよ!あとは…箒ちゃんが昔に戻るのを待つだけ。」

 

ニヤリ。彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

~~~~~

 

戻った篠ノ之箒は回収された織斑一夏の姿を見て完全に気力を失っていた。

 

眼前の一夏はもう3時間も目を覚まさず、眠り続けている。

 

(私が…私がふがいないせいで…一夏は…!)

 

もう、何もかもがぐちゃぐちゃだった。

 

新しくできた友人からのアドバイスで…これからも付き合っていけると思ったのに。

 

「わっかりやすいわねぇ。」

 

後ろから声が聞こえた。

 

「………」

 

何も言えなかった。答えたくなかった。

 

「何それ?一夏がこうなったのは私のせいですってアピール?………ふざけんなよ。」

 

鈴の声が震えた。

 

「…ふざけんじゃないわよ!専用機持ちがそんな覚悟で務まると思ってんじゃねぇ!」

 

「だが……だが………」

 

「だがじゃないでしょ!私たちは悲しむ前に戦わなくちゃいけないのよ!」

 

「…もう、乗りたくない。」

 

心から出た本心だった。

 

「……ならいいわよ。悪かったわね。」

 

それを聞いた鈴はさっきまでの怒りは嘘だったかのように、まるで諦めたかのような声でそういった。

 

「千冬さんには伝えておくわ。無能の篠ノ之箒はすべてを投げ出して逃げましたって。」

 

「それは…!」

 

「反論するな!アンタは逃げたんだ!戦いからも!一夏からも!そして姉からも!それを自覚して弱弱しく生きなさい!」

 

逃げた―そうだ。私はいつも逃げてばかりだ。己の弱さを姉のせいにしたり、一夏のせいにしたり。

 

本当は……本当は……。

 

 

 

「銀の福音の位置は分かっているのか?」

 

立ち上がって、覚悟を決めた。

 

「今ラウラが…ってちょうど来たわね。」

 

扉を開け、タブレットを操作するラウラ。その顔は笑っていた。

 

「ああ、ちょうど見つけた。…ここから30キロでステルスモードで展開している。」

 

衛星からの画像を拡大する…あまりにも鮮明なその写真はおそらくISのハイパーセンサーのカメラ部を利用したものだろう。

 

「良い位置だ。私のパンツァー・カノーニアの射程内だからな。」

 

「アンタらは?シャルロット、セシリア!」

 

「すべて問題ありませんわ。」

 

「僕のほうも問題ないよ。いつでもいける。」

 

そう言ってシャルとセシリアも部屋に入ってくる。

 

「よし、じゃあ……作戦会議よ!」

 

乙女たちは今、茨を越える。

 

 

~~~~~

 

 

扉の先には少女がいた。

 

黒い髪に赤く輝く目。赤と黒のワンピースを纏うその姿はどこか儚げな印象を与える。

 

「女の子の部屋にノック無しで入るなんて、どうかと思うな。」

 

あっ、これにはぐうの音も出ない。

 

「…ごめんなさい。」

 

「いいよ。ほら座って座って!」

 

そう言われつつ、あたりを見回すと綺麗な部屋だった。

 

赤を基調とした内装でベッド、テーブル他家具が備え付けられている。

 

「…座んないの?」

 

その少女は上目遣いでこちらを見上げる。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

「うんうん。待ってね!今紅茶とお茶菓子出すから。」

 

そう言うと彼女は戸棚からマドレーヌを取り出し、カップにお茶を組む。

 

(ここ給湯設備あるの…?)

 

野暮なことを口に出してはいけない。

 

「さぁ、どうぞ。」

 

一緒にジャムまでついてきている。ロシアンティーのようだ。

 

「いただきます。」

 

カップを口につけると暖かい紅茶の風味が口いっぱいに広がってゆく。

 

「…おいしい。」

 

「そう!?良かった~。この日のためにいっぱい練習したんだ!」

 

にぃっと眩しい笑顔を見せる。

 

そうして座った彼女も紅茶を口にし、息をつく。

 

「さて、()()()は初めまして…だよね?冬香。」

 

「黒薊…でいいんだよね?」

 

「うん。私の名前は黒薊。正式名称も言う?」

 

マドレーヌを取り袋を開け咀嚼する。

 

「いや、それはいいけど……それより、なんで私はここへ?」

 

「私の鍵を開ける為…かな?」

 

「鍵…。」

 

「うん。冬香が開けてくれた二つの鍵。あれは唯の演出じゃなくて、きちんと意味があったってこと。」

 

彼女は私をじっと見つめる。

 

その赤い目には涙が浮かんでいた。

 

「く、黒薊!?」

 

「ごめんなさい。私…ずっと、ずぅぅっと声を出してたのに、冬香に気付いてほしくて、でも全然届かなくて……」

 

彼女は涙を流しながら語り始めた。

 

「でも…でも今日、やっと来てくれた。やっと会えた。」

 

「黒薊……」

 

「ごめんなさい、私気づいてほしくて頑張ったんだけど……でも、でも!それが冬香を傷つけることになって………!」

 

 

……そうか。黒薊の声だったんだ。それも悲痛な叫び声。私の頭に襲ったあの痛みはすべて彼女の呼び声だったんだ。

 

彼女の涙が頬を伝ってカーペットの上に落ちる。

 

 

 

―ぎゅっ

 

 

 

気が付いたら私は彼女を抱きしめていた。

 

「ごめんね。黒薊。今まで気づいてあげられなくて……」

 

「違うょぉ!とうかはぁ、わるくないのぉ!」

 

「ううん。こんなに肌身離さず一緒にいたのに、貴女の声を…受け止めてあげられなかった。」

 

「…私…わたしぃ!」

 

彼女は私の胸でそのまま泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

そうして少し経った。

 

 

 

「もう落ち着いた?」

 

「うん。ありがと」

 

今私たちはベッドの上に腰かけていた。

 

「話、途中だったよね?」

 

「ああ、うん。確かそうだったね。それで…鍵って?」

 

「私は今まで強固なリミッターが掛けられていたの。」

 

「リミッター?」

 

初耳だった。束さんからそんなことを聞いた覚えもないし、第一、今までだって黒薊の性能は実習で使う打鉄やラファール・リヴァイブより低く感じたことはなかった。

 

「そう、と言うかこのリミッターは元々専用機には全部あるの」

 

「……は?」

 

全く持って分からない。専用機には全部存在するリミッター…?そんな話どこにも………

 

「……あぁ!」

 

有った。一回だけ千冬さんから聞いたことがある。

 

専用機として運用される機体には先ず初期化(フォーマット)最適化処理(フィッティング)が行われる。

 

それが完全に完了したとき―ISは一次移行(ファーストシフト)を行い、初めて専用機となる。

 

とどのつまり…セシリア・オルコットと戦った時の織斑一夏のような状態。初期設定状態と呼ばれる。

 

つまり私は………

 

 

「ずっと初期設定状態で戦ってたってこと!?」

 

「うん。そういうこと。」

 

思い出せ私…。

 

初めて黒薊に触れた時、あのクソッタレな神のところに飛ばされて、それで………。

 

ああ、そうだわ。一度も初期化と最適化なんて表示出た覚えないわ。

 

「ちなみに、冬香が塔に入るための鍵を開けた時初期化が始まって、私の部屋の鍵を開けた時最適化が始まってる。」

 

やけに説明口調でに黒薊は教えてくれた。

 

「……あ、そうだ。そういえば一回だけそこの窓が開いたことがあったんだけど、冬香分からない…よね?」

 

「んーわかんない……かな?」

 

分からないといったが多分それあのクソッタレた神が手を貸してくれた時だと思う。

 

「そっか。あれ何だったんだろ…?」

 

ちなみに今の黒薊はベッドに寝転がり足をぶらぶらさせている。

 

 

ジリリリリリリリ!!!!

 

いきなり彼女の枕元にあった目覚まし時計が鳴り響いた。

 

…あれその目覚まし私が使ってるやつと同じ?

 

「鳴っちゃった…。」

 

「鳴っちゃダメなものだったの?」

 

「うん。これが鳴っちゃったら、冬香はもう行かなくちゃいけない。」

 

そういわれるとふわっと体が浮き始める。

 

私の周りには光の粒子のようなものが浮かび上がり始める。

 

「待って!また…また会えるよね?」

 

私が黒薊に向かって手を伸ばす。

 

彼女は…何も言わず笑っていた。

 

 

~~~~~

 

 

「………?」

 

海上に膝を抱くようにうずくまった銀の福音は、その顔をあげた。

 

そして次の瞬間電磁力によって加速された砲弾が直撃…大爆発を起こした。

 

「初弾、命中確認。継続して砲撃を行う。」

 

128ミリL80電磁投射砲『ブリッツ』を二門装備したシュヴァルツェア・レーゲン パンツァー・カノーニアの姿はクアッド・ファランクス装備のラファール・リヴァイブより数倍も威圧感を与えた。

 

グスタフ、ドーラの愛称を持つ二門の超電磁砲が福音が反撃へ移るよりも早く効力射を与えている。

 

(カタログスペックよりも速いぞ…!!あと2000切ったかッ!)

 

銀の福音は翼を広げドンドンこちらへ近づいてゆく。

 

1500…1000…500…そして距離が300を切った時さらなる急加速で銀の福音はラウラへと迫った。

 

そうして、ステルスモードのセシリアが急襲するポイントへ差し掛かった時、福音は()()()()()()

 

『敵機B確認、排除開始』

 

「何!?セシリア!不味い!ばれて…クッ!」

 

上を向いた銀の福音はそのシルバーベルの一部をラウラへ放った後、砲門の大部分を上空のセシリアへと放った。

 

『敵機C確認、排除開始』

 

そして二撃目にはさらに後方にいたシャルロットに向け放っていた。

 

「ISのステルスモードを突破する…?まさか!」

 

「でも、そんなんじゃ僕を落とせないよ!」

 

ブルー・ティアーズは換装した六基のブースターを巧みに操作しながら『スターライトMK-Ⅲ』を放つ。

 

ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡはそのペイロードを生かし、シルバーベルによる攻撃を受け止めながら『アルト・アサルト』や『レイン・オブ・サタデイ』で銀の福音の装甲をすり減らしてゆく。

 

『海中に新たなる敵機二機確認、以後D、Eと識別…』

 

シュヴァルツェア・レーゲンによる効力射も続く中、海面からさらに二機。ISが現れる。

 

「ばれちゃあしょうがないわね!やるわよ箒!」

 

「ああ、一夏の仇、討たせてもらう!」

 

甲龍のパッケージ崩山によって4門へ増加された衝撃砲…その赤き炎が福音を襲う。

 

「やったんですの!?」

 

「いいや……まだだ!」

 

紅椿の手には雨月と空裂の二振りが握られている。

 

『銀の鐘……最大稼働…開始!』

 

炎の中から姿を現した銀の福音は四肢と翼を目一杯に広げ、その持てるすべての砲門から光を放った。

 

「みんな下がって!僕の後ろに!」

 

シャルが叫ぶ。ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡのパッケージ、『ガーデン・カーテン』が防御の要であった。

 

紅椿のエネルギー消費問題を解決する上で、現在展開装甲の発動は防御時にもオフになっている。

 

しかし、篠ノ之流剣術から繰り出されるその攻撃は戦力として十分すぎるものであった。

 

「それでも…これはキツイかな…」

 

その強固な楯であったとしても現在の銀の福音の攻撃を受け止めることは至難の業であった。

 

しかし、ドン―と銀の福音に爆発が起きる。ラウラが発射した榴弾が命中したのだ。

 

その砲撃から生まれたの一瞬のスキを突き…攻勢に転じる。

 

「ラウラ!セシリア!援護よろしく!箒、切り込むわよ!」

 

スターライトMK-Ⅲとパンツァー・カノーニアから機体をパージさせたシュヴァルツェア・レーゲンが援護射撃を開始する。

 

そして正面からは箒の斬撃が、下方からは鈴の双天牙月が銀の福音を捉えた。

 

「もらったぁぁぁぁぁぁ!」

 

『攻撃…接近!()()()()()()()()()()

 

鈴の拡散衝撃砲をやすやすと回避すると銀の福音はその腕よりレーザーブレードを展開した。

 

「なっ…!?」

 

そうして双天牙月の一撃を受け止めると…もう片腕で甲龍を切り裂いた。

 

「鈴!!」

 

箒が叫ぶ。

 

「鈴さん!速く撤退を!その状態じゃ無理です!わたくしが援護します!」

 

状況をいち早く理解したセシリアは鈴の撤退の援護に回った。

 

「よくも鈴を!」

 

雨月と空裂の一撃を背後より急襲。鈴の衝撃砲のおかげか一瞬で反応が出来なかった銀の福音の右翼を破壊した。

 

「もらった!何ッ!ぐあッ!」

 

しかしそう易々と落とされるような相手ではない。

 

全身に装備されたスラスターとアポジモーターを巧みに使い、紅椿へ回し蹴りを叩き込んだ。

 

そして銀の福音の砲口が紅椿へ向いた。

 

「武器を捨てて回避!箒ー!」

 

そんなシャルの声も箒は聞き入れるつもりはない。

 

(今を逃したら…さっきと何も変わらない!)

 

そして今、光が放たれた。

 

「もし、お前が私の願いなら―答えて見せろ!紅椿ー!」

 

そしてその声に答えるかのように紅椿は放たれた光弾を避けた。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

二本の刀が狙うのは―福音の左翼のみ。そしてその絶大なエネルギーを秘めた刃は…届いた。

 

『機体…損傷…重大…制御…不可能…』

 

両翼を失った銀の福音はそのまま海中へ落ちてゆく。

 

「勝った…やったよ箒!」

 

シャルロットが嬉しそうな声をあげる。

 

「鈴さんも無事だったみたいですし、あとは一夏さんが目を覚ませば全部終わりますわね。」

 

恐らく山田先生からの通信を受け取ったのであろうセシリアは鈴の容態を伝えた。

 

「嫁へのいい土産話になったな。起きたらたっぷり……」

 

「どうしたんですの?ラウラさ…きゃぁぁぁ!」

 

突如海中からの一撃がブルー・ティアーズを襲った。

 

「全機、戦闘態勢!()()()()()()()()()!」

 

「何…あれ…」

 

海中から姿を現した銀の福音は青い光の球の中でうずくまっている。

 

『キィァァァァァァァ!!!!!』

 

獣のような叫び声をあげる銀の福音は破損し、失った翼部を修復するばかりかまるで蝶のようなエネルギー翼を構築する。

 

二次…移行(セカンド シフト)…」

 

ラウラがつぶやいた。ISの最高峰の一部しかたどり着けない領域。

 

同時に紅椿、リヴァイヴカスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、ブルー・ティアーズは恐れを感じたかのように一斉に警告音を鳴らす。

 

「何ッ…!?」

 

最初にロックオンされたのはラウラだった。

 

現状最も損害が軽微ではあったが二次移行したISを完全に捕捉し反撃する余裕などは微塵もなかった。

 

「ラウラを放せぇぇぇぇ!!!」

 

シャルロットはガーデンカーテンをパージし近接ブレードへ切り替え突撃。

 

「よせシャルロット!コイツは…!!」

 

その言葉が言い終わる前にシュヴァルツェア・レーゲンは光り輝く翼に包み込まれる。

 

その翼から放たれるエネルギーの弾丸は(レーゲン)のようにラウラへ降り注ぎ、機体がズタズタにされラウラは海面に没した。

 

「ラウラァ!コイツゥ!」

 

近接ブレードからレイン・オブ・サタディへ切り替え…それを福音の腹部へ撃ち込んだ。

 

しかしそれは…福音のさらなる攻撃につながるだけであった。

 

直撃を受けた腹部はまるで卵の殻のようにひび割れそしてそこから小型のエネルギー翼が生える。

 

そして腹部の崩壊から連鎖するように全身の装甲がひび割れそこから翼が生える姿はまるで一種の生命のように思えた。

 

エネルギー翼の直撃を受けたシャルロットもまた海中に落ちる。

 

「まずいなんてもんじゃありませんわ!」

 

懸命に射撃を続けるセシリアだが銀の福音は全身からレーザーを放った。

 

「回避を…!間に合わない…!?」

 

六基のブースターをフル稼働させ全力で回避に専念したとしても、銀の福音のレーザーから逃れることはできなかった。

 

一瞬にして数十の光弾の直撃を受けたブルー・ティアーズもまた海へと墜ちた。

 

「よくも―私の仲間を!」

 

展開装甲のロックを解除し、紅椿は空を駆ける。

 

紅椿の展開装甲を用いた防御と第四世代というスペックは銀の福音に追いつく…いや追い越すことも不可能ではなかった。

 

徐々にデッドヒートしてゆく格斗戦は互いの攻撃と回避の繰り返しの鼬ごっこだった。

 

「これで決める!」

 

すべての展開装甲を攻撃に転換させた紅椿は必殺の一撃と言わんばかりに雨月の打突を放つ…。

 

 

キュゥゥゥン

 

 

「なっ、こんなところでエネルギー切れだと!?」

 

眼前には銀の福音が間近までで待っていた。そして銀の福音はこちらに向け翼を開き獲物を狩る準備を整えていた。

 

(ああ、すまない一夏…。)

 

諦めた―その瞬間だった。

 

 

 

「ハァァァァァッ!」

 

「デリャァァァァァァ!!」

 

自分に向けられていた砲が放たれることはなく銀の福音は斬撃を受けた。

 

箒は二つの声が重なって聞こえた。

 

どちらの声も聞き覚えがある。しかし、二人ともISの形状が変わっていた。

 

「いち…か…」

 

「心配かけて悪かったな。」

 

白き鎧をまとい箒をそっと抱きしめる…織斑一夏。

 

漆黒の鎧をまとい赤き太刀筋を見せた…角谷奈津美。

 

 

形勢は―逆転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前々回であと3回で終わらせたいとか言っちゃったんですごく長くなりました。

IS二次創作だとかなりベタな展開ですね。

感想とか良ければどうぞ

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