仮面ライダーアズライグ   作:ヘンシンシン

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女装と堕天使総督と

 

 授業参観の次の日。

 

 私たちは、部長に連れてかれて旧校舎の片隅に来てた。

 

 そこは、開かずの教室とも呼ばれている部屋。立ち入り禁止を示すテープがいくつも張られているうえに、呪術的な刻印も刻まれた厳重な封印状態だ。

 

 普通に考えて、こんな部屋を魔王の妹がいる場所に置いたりしないんだけど、それはある事情があるんだよね。

 

「部長、ここに俺と対をなす「僧侶」が?」

 

「ええそうよ。その子の能力が強すぎて、わたしには扱いきれないと判断されて封印されてるの」

 

 うん、ここにはグレモリー眷属最後の一人がいる。

 

 その子は実はものすごい強力な子で、部長でもやばいと判断された。

 

 だけど、最近のライザーとのレーティングゲームやコカビエルの戦いで部長の評価が上がったらしい。

 

 今の部長なら、その僧侶の制御も可能と思われたそうだよ。

 

 まあつまり―

 

「―イッセーが頑張ったから、その子も外に出られるってわけだね」

 

「お、俺のおかげなのか? ライザーの時もコカビエルの時も、姉ちゃんだって頑張ったじゃねえか」

 

「そうね。しいて言うなら二人のおかげかしら」

 

 いえいえ、私はビビリですよ部長。

 

 だから、これは全部イッセーのおかげだと思うんだけどなぁ。

 

「あ、でもその僧侶って閉じ込められてるようなもんですよね。……何して過ごしてるんですか?」

 

「一日中、ずっとここにいるわ。深夜には外にも出歩けるようになってるんだけど、本人がそれを拒否してるの」

 

「ひ、引きこもりですか?」

 

 思わずイッセーがそう漏らすけど、だけどそれも仕方がないといえば仕方がないんだよなぁ。

 

「一応、祐斗っちなみにひどい経験してるから仕方ないといえば仕方ないんだよ。ちょっとは遠慮してあげて」

 

 うん、みんながみんな強いわけじゃないんだよ。

 

 自殺してないだけでも頑張ってるといっていいから、もうちょっとオブラードに包んでくれると嬉しいかな?

 

「ですが、眷属の中では一番の稼ぎ頭なんですよ」

 

「マジですか!? 引きこもっていてどうやって!?」

 

 思わぬ展開に驚きの声が出てくるけど、まあ悪魔の業界も日々進歩してるからねぇ。

 

「最近はネット限定の契約もあるんだよ。彼はそれにおいては若手でも屈指の成果を上げているんだ」

 

 祐斗っちの言う通り、あの子の実力はちょっとシャレにならないからね。

 

 たぶん、潜在能力なら私にも匹敵するんじゃないかな。

 

「依頼主の中には、直接顔を合わせたくないって人もいるの。そういう人相手にとって、あの子はかなり重宝されているのよ」

 

 うん、本当に重宝されてるよね。

 

 部長もちょっぴり誇らしげだ。

 

 さて、そんなこんなでとりあえず扉を開きますよー。

 

 はい、耳ふさぐ。

 

「いやぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

 絹を裂くような悲鳴が一気に響き渡った。

 

 うん、想定してたけどやっぱりこうなったよ。

 

 イッセーは驚いて慌てて耳をふさいでいるけど、小猫っちは嘆息して祐斗っちは苦笑。そんでもってリアス部長と朱乃さんは気にせず部屋の中に入っていく。

 

「ごきげんよう、元気そうでよかったわ」

 

「こ、ここここんな時間に何事何ですか~!」

 

「あらあら、封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのですから、私達と一緒に出ましょう?」

 

「い、いやです、いやですぅううううう! お外嫌、他人はいやぁあああああ!!!」

 

「……相変わらず重傷だねぇ」

 

 部長や朱乃さんの声にも嫌がるあの子の声を聴いて、私は後ろを向いて苦笑した。

 

「と、とりあえず部長の達のところまで行こう」

 

 イッセーがそういいながら部屋の中へと入っていき、私達もそれに続く。

 

 そこには、私たちの仲間のギャスパーくんが涙を流しながら震えていた。

 

「し、知らない人が増えてるぅうううううう!?」

 

「き、金髪美少女ぉおおおおお!!!」

 

 ギャスパーくんが悲鳴をあげて、イッセーが歓声をあげる。

 

 うん、初見ならだれもがそう思うよね。

 

 小柄できゃしゃな体格で、おまけに女子制服を着てるから、当然女の子と思うはず。

 

「だが男だ」

 

 私は残酷な真実をイッセーに告げた。

 

 もちろん、イッセーはそれを理解できず数秒ぐらい固まった。

 

「………マジ?」

 

「まじまじ。なんなら生徒名簿見る?」

 

 うん、信じられないのはわかるけど、それが真実なんだよね。

 

 あ、イッセーが崩れ落ちた。

 

「嘘だああああああああ!!!! 俺は、俺と双璧をなす僧侶が美少女だといううれしはずかし妄想をしていたところだったのにぃいいいいい!!!」

 

 そこまでしてたんかい。

 

 いや、イッセーならそれ位の妄想は速攻でできる。個とエロがかかわっているときのイッセーは規格外だからね。

 

「残念ですわねイッセー君。この子は女装趣味があるんですの」

 

 朱乃さん、ドSにならないで。

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

「座布団一枚」

 

 私は小猫ちゃんに座布団を持ってきたい衝動にかられた。

 

 マジでうまい。

 

 そして、リアス部長が震えるギャスパーを愛おしそうになでながら、イッセーに紹介する。

 

「この子の名前はギャスパー・ウラディ。私のもう一人の僧侶よ。もともとは、人間と吸血鬼のハーフなの」

 

 うん、部長の眷属ってレアキャラ多いよね。

 

「いや、そんなことはどうでもいいです。っていうかなんで引きこもりが女装してるんですか! 意味ないでしょ!!」

 

 イッセーが渾身のツッコミを入れる。

 

 うん、言いたいことはわかるけど、それは違うよイッセー。

 

「イッセー。人には二種類いるんだよ? 人に見せるためにおしゃれする人と、自分に見せるためにおしゃれする人」

 

「ぼ、僕は自分が可愛ければそれでいいんですぅ」

 

 うん、信じたくないかもしれないけど、それがおしゃれの本質の一つなんだよね。

 

「っていうか、そもそもこの人誰なんですかぁ?」

 

「紹介するわ、彼は私の新しい僧侶のイッセー。一美の双子の弟よ」

 

「ああ、よろしくな」

 

 幽鬼のような絶望した表情でイッセーがあいさつするけど、ギャスパー君は震えまくりだった。

 

「い、ひ、ひぃいいいいい!」

 

 うん、ギャスパー君は引きこもりというか対人恐怖症だから、初対面の人はかなりきついか。

 

「お願いだから外に出ましょう? もうあなたが閉じこもる必要なんてないのだから」

 

「い、いやですぅうううううう!!! 僕は外になんか出たくないですぅうううう!!! 僕は一生ここにいたいですぅううううう!!!」

 

 うう、わかってたけど重症だ。

 

 でもこれ、イッセーあたりは見ててちょっとイラついてくるかも―

 

「ああもう! 部長が言ってるんだから少しぐらい外に出ろって」

 

 あ、やっぱりちょっと強引に行ってきた。

 

 その瞬間、私以外の時間が硬直した。

 

「……ごめんね、イッセーちょっと強引だったよね」

 

 私は、ギャスパーっちがなにも行動しないうちに抱きしめた。

 

「う、うぅううううう!!! 一美先輩ぃいいいい!!!」

 

 そして数秒後、硬直が解除される。

 

「あ、あれ? 姉ちゃん?」

 

 イッセーが戸惑う中、私はそのでこにデコピンを入れた。

 

「もう! イッセーはもうちょっと冷静にね!」

 

 この子、ギャスパー・ウラディっちは神器を持ってる。

 

 視界に映したものの時間を停止する神器、停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)だ。

 

 問題は、ギャスパーっちは時間停止を全く制御できないってことなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーっちは、はっきり言って私以上のチートといっていい。

 

 なにせ、吸血鬼の中でもハイデイライトウォーカーの名家であるウラディ家の血を引く優秀な吸血鬼。

 

 そこに加えて、人間の血が原因で神滅具に匹敵する能力を持っているといってもいい、停止世界の邪眼を持っている。

 

 間違いなく素人がバトル作品を書くときに主人公にしたくなるような設定だけど、だけど彼の人生は悲惨の一言。

 

 昔のヨーロッパの貴族もびっくりな精神性の吸血鬼の世界において、ハーフはその時点で迫害されるというか扱いが悪くなる。

 

 しかも、停止能力なんてその時点で怖くなる。

 

 制御できないのがさらにきつい。普通なら、怖くて近づけないだろう。

 

 だから、さらに迫害されて追い出された。

 

 そしてヴァンパイアハンターに殺されそうになったところを、リアス部長に助けられて眷属入りって展開らしい。

 

 何ていうか、祐斗っちもそうだけど結構悲惨な境遇が多いよね、グレモリー眷属。

 

 私やイッセーも親と死別してる。しかも冷静に考えるとそれでもましな方だっていうのが特にひどい。

 

 朱乃さんも小猫っちも、それよりも悲惨な目にあっているからなおさらだ。

 

 そんなこんなでギャスパーっちは、心がいろいろとぼろぼろだったりする。

 

 しかも、部長たちも仕事があって大変ということで、とりあえず私たちが面倒見ることに。

 

 うん、まあとりあえず外に連れ出したんだけど……。

 

「ギャーくん。ほら、ニンニク食べて元気出して」

 

「うわぁああああん! 小猫ちゃんがいじめるよぉおおおおお!!!」

 

 小猫っち、なんかキャラが違う……。

 

「お、同い年だからフランクなのか?」

 

「イッセー、止めてきてよ」

 

 吸血鬼にニンニクとか、もうその時点で致命傷でしょうに。

 

 ショック療法とか素人がやってもあれだろうし、とりあえず外の空気に慣らす程度で抑えるつもりだったんだけどなぁ。

 

「っていうか、なんでそんなチートが僧侶の駒一つで転生できたんだ?」

 

 うん、それは良い質問だね。

 

 僧侶の駒は兵士の駒三つ分。どう考えても匙くんより強力そうな神器の持ち主だし、そんな程度で済むわけがない。

 

 だけど、悪魔業界は割と自由というか融通が利くんだよねぇ。

 

変異の駒(ミューテーション・ピース)って言ってね? 時々チートな駒が出てくるんだよ。バグの一種らしいけど面白いから放置されてるんだって」

 

「へぇ」

 

 そんなことを話していると、なんか見知った人が来た。

 

「よお兵藤姉弟。引きこもり眷属が解禁されたっていうから見に来たぜ?」

 

 と、匙君はきょろきょろあたりを見渡して、小猫ちゃんに追いかけられてるギャスパーっちを発見して目を見開いた。

 

「匙、感動してるところ悪いけど、あいつ男だ」

 

「な、なんだそりゃぁああああ!!!」

 

 あ、やっぱり匙くんはイッセーの同類だ。絶叫上げて崩れ落ちたよ。

 

「引きこもりが女装ってなんだそりゃ。誰に見せるんだよ」

 

「あの子は自分を着飾るためにおしゃれするタイプだから」

 

 私がさらりとフォローを入れるけど、やっぱりショックみたいだね。

 

 うん、でもこの調子で慣れていけば、数年ぐらいかかれば落ち着くかも。

 

 そんなことを思ってると、枝が折れる音がした。

 

 振り向くと、そこには着流しとかいう和服をきた、三十路前後の男の人がいた。

 

 あれ? 公開授業はとっくの昔に終わってるって、普通なわかりそうなものなんだけどなぁ。

 

「……あのー、ここ部外者は一応立ち入り禁止なんですけど―」

 

「おお、お前が赤龍帝か」

 

 へ?

 

「姉ちゃん離れろ!! そいつがアザゼルだ!!」

 

 へ? この人がアザゼル?

 

「あ、弟がどうもお世話になりまして」

 

「姉ちゃん落ち着きすぎだって!!」

 

「あ、あ、アザゼルぅうううう!?」

 

 イッセーと匙くんが悲鳴を上げるけど、でも全問題ないよ?

 

「やる気はないから安心していいよ。戦闘する気なら私はすぐにヘタレてるし」

 

「心底腑に落ちました」

 

 うんうん。小猫ちゃんはわかってるねぇ。

 

「そいつの言う通りだって。俺だって下級悪魔をいじめる趣味はねえよ。いいから武器をしまえって」

 

 うん。それはわかってる。

 

 少しでも殺意や戦意があれば、私はビビるからね。

 

 何ていうか、全然敵意どころか脅威すら感じない。これが真の強者かぁ。

 

「っていうかよ、聖魔剣の奴いねえのか? 俺はそいつに会いたくてここに来たんだがな」

 

 祐斗っち?

 

 ああ、そういえばアザゼルは神器の研究をしてるとかだれか言ってたような。やっぱり禁手は興味あるのかな?

 

 でも、さすがにそれは見逃せないよ。

 

「いや、敵勢力になんでそんなの見せるんですか? せめて会談の時にしてくださいよ」

 

「いいじゃねえかよ。俺がヴァーリの奴を送ったおかげで助かったんだろ? 少しぐらい見せてくれよ」

 

「させるわけねえだろ!! 木場に何かするっていうなら、ここでお前を倒す!!」

 

 イッセー、ドラッグシリングとドライバーまで出して警戒しない。

 

「おいおい、コカビエルごときにてこずるような奴が、俺を倒せるとでも思ってんのか? 第一やる気はねえって言ってんだろうが」

 

 アザゼルはうんざりするけど、その視点がふと気のあたりを向いた。

 

 あ、ギャスパーっちが震えながらこっちを見てる。

 

「ひ、ひぃいいいいい! 見ないでぇえええええ!!!」

 

 ギャスパーっちの神器が発動するけど、私とアザゼルには全然聞いてない。

 

 うん、さすがは堕天使の総督……って近寄らないで!! メンタル弱いんだから!!

 

「停止世界の邪眼か? しかも全く制御できてねえな。……制御用の装置位取り付けとけよあぶねえだろ」

 

 そうアザゼルは文句を言うけど、逝ってる意味が分からない。

 

 私たちがきょとんとしてると、アザゼルは何かに気づいてめんどくさそうに頭を書いた。

 

「……ああ、まだそこまで開発出来てねえのかよ。悪魔の神器研究は遅れてんな」

 

 そんな感じに、やれやれとため息をついた。

 

 え? 堕天使は神器を制御できるところまで研究進んでるの?

 

 感心するべきが戦慄するべきかよくわからないけど、すぐにアザゼルは匙くんの方に視線を向ける。

 

 見れば、匙くんは神器を展開しているのか、右手の甲にトカゲみたいなのが展開されていた。

 

「な、なんだよこら、やんのか!?」

 

 匙君チンピラ?

 

「それ、黒い龍脈(アブソーション・ライン)だな? ちょうどいい、それを使って力を吸収すれば、少しはましになるだろ?」

 

「……へ?」

 

 なんか意味が分からない感じで、匙くんはぽかんとする。

 

 それを少しの間眺めてから、アザゼルはあきれ果てた表情を浮かべる。

 

「はあ。大方相手のパワーを吸収するだけとでも思ってたのか? これだから最近の神器保有者は自分の力を追求しようともしない。なあ、そいつは伝説の五大龍王の一角である、黒蛇の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を秘めている。そいつの本質はラインを経由する力の流動だ。やろうと思えば、ラインを切り離して別の者同士につなげることだってできるんだぜ?」

 

「お、俺にそんな力が?」

 

 自分の右手をまじまじと見つめる匙君だけど、それこそ素直に信用していいの?

 

 っていうか、そもそもすごい疑問がある。

 

「そんなのペラペラしゃべっていいの? 一応敵だよ、悪魔は」

 

「こんなもん機密でも何でもねえよ。どうせ、いつか知られることだしな」

 

 そういうと、アザゼルは身をひるがえしてその場から去っていく。

 

 あ、もう帰るんだ。

 

 だと思ったら、一瞬だけ止まってわたしに振り返った。

 

「そうだ赤龍帝。完全に制御したいならお前の血を飲ませろ。ヴァンパイアなら、それ番手っ取り早い。それと―」

 

「なに?」

 

「ヴァーリが迷惑かけたみたいで悪かったな。ま、いくらなんでもアイツもいきなり二天龍対決をしようとは思ってねえから安心しな」

 

「正体隠して俺に接触してきたお前は謝らなねえのかよ?」

 

 イッセーが警戒心を隠さずにそう聞くけど、アザゼルはにやりと笑うだけだった。

 

「そりゃ俺の趣味だ。謝らねえよ」

 


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