縁切り(仮題)   作:White-Under

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縁切り-5-

 

ここは……病院か?

 

違う………………………………

……………………………………………………

……………………………………………………………………

………………………………………………………………………………

 

 

はい、ごめんなさい。

ここは神様がいるところではなく病院です。

一度やってみたかった。

 

テヘペロ……テヘペロ。

 

…………やっぱり俺がすると気持ち悪いな。

 

「……。」

 

横を見ると稲城が俺の手を握っていた。

 

「…… 稲城?」

 

「八幡!」

 

 

「嫌。」

「稲「金比羅って呼んで。」……。」

 

稲城ってこういう奴だったか?

 

何があって……ああ、俺が飛び降りたからか?

 

稲城の顔を見ると目が赤くなっている。

 

俺のために泣いてくれたのか?…………いや、勘違いだな。

 

今までがそうだったから。

 

周りに期待するのは止めた。

 

だけど、泣いたのは本当だから一応謝っておこう。

 

「……悪かった。」

 

「……二度とこういうことをしないでね。」

 

「ああ。」

 

約束はできないけどな。

俺は俺だから。

 

「約束を破ったら駄目だからね。」ニコッ

 

ブルッ

稲城の笑顔で体が震える。

これは……。

「……すみませんでした。」

 

「もう破ったんだ。」

あ……。

 

「何でもしますから。許してください。」

 

「何でも?」ニヤ

 

俺と違ってニヤっとしても可愛い……って今は違うだろ!

変なことを言われる前に言っておこう。

 

「俺にできる範囲でお願いします。」

体が動かせないので首だけを動かす。

 

「何にしようかな~♪♪」

 

「……。」

って俺の声が届いてない。

 

「あ!」

 

「き、決まったのか?」

 

「決まってないけど、重要なことを言うの忘れてた。」

 

「?」

 

重要なこと?

 

一生ベッドの上で暮らすことになったとか?

 

こ、これで働かなくて済む!

 

って、それは流石に駄目だろ、俺。

 

その前にさっき足を動かせたし。 

 

「八幡、もうあっちに帰らなくていいよ。」

 

「は?」

意味がわからない。 

どうゆうことだよ?

 

「あっちってどこだよ。」

 

「勿論、千葉にね。いやー、八幡が病院に運ばれたって聞いてここに来たら、変な人たちがいてね。

『どちら様ですか?』って聞いたら

『私たちは迷子の比企谷君(ヒッキー)の友達』って言うんだよ。

八幡は嫌がっているのにね。だからここに来たんでしょ?」

 

おいおい、アイツらここに来たのかよ。

そして、友達……笑えねー。

ここにはいないみたいだが。

 

「でも、安心してね。いろいろ言って追い返したから。」

 

「……。」

 

「聞きたい?」

 

「いいえ。」

絶対聞かない方がいい。

きっと後悔する。

…………アイツらを言い負かしたんだから結構なことを言ったのか?

姉の方も居ただろうし。

 

「あー、でも……八幡が言ってた、強化……外骨格の人は居なかったよ。」

 

ん?

居なかった?

 

あの人、こういう面白いところには必ずいそうな気がするが…………。

 

どうしたんだろうか?何かトラブルでも?

 

まさか…「八幡、余計な詮索するのはよくないと思うよ。」ニコッ

 

稲城が俺にニコリと笑う。

 

ゾクリ

その瞬間、俺の背筋が凍る。

 

なんだよ……これ……稲城ではない何かに心臓を鷲掴みされているような感覚は……。

 

今の稲城が何を考えているのかわからない。

 

あの人の仮面とはなにか違う……別の次元だ。

 

「……。」

 

「どうしたの?」

 

「いや……ただ、マッカンが飲みたいなと。」

 

余計な詮索は……しない。

 

「この病院の自動販売機にマッカンがあるみたいだよ。」

 

「マジか!」

ガバッ

俺はマッカンが飲めるという嬉しさに怪我をしていることを忘れて体を起こした。

「イテッ!」

 

全身が痛い。

 

「アハハ。そんなに飲みたいんだ。私も飲んでみようかな~。」

 

「俺の唯一の癒しだからな。」

 

「へぇー。でも残念なことに先生の許可が降りないと飲めないけどね。ワタシヨリモ…ケス…デモ、ハチマンガカナシムノハイヤダ……。」

 

「何か言ったか?」

最後の方が聞き取れなかった。

 

「ううん、何でもないよ。こっちのはなし。」

 

「そうか…………今更だが飛び降りた理由聞かないのか?」

 

「聞きたいけど、八幡はそういうの嫌なんでしょ?大体予想はできるけどね。」

 

「あぁ。」

でも言わなくてもわかるのね。

女子ってコワイ。

 

「「……………。」」

 

会話が続かず、無言な時間だけが過ぎていく。

そこへ看護師さんが顔を覗かせた。

 

 

 

「稲城さん……あら、比企谷さん起きたのね。」

 

「はい。」

 

「……。」

結構美人だな。

出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。

まさに、パーフェクト。

こんな女性に……。

 

ツネリ

「イテッ!!何つねるんだよ!」

 

「知らない。」

 

「知らないって、稲城がしたんだろ。」

 

「忘れた。」

 

「忘れたって、早すぎだろ。」

 

はぁ、めんどくさい。

女子って何でこう……はぁ……。

溜め息しか出ない。

 

ここで俺たちのやり取りを聞いていた看護師さんがふふっと笑った。

そして、笑ったあと衝撃的な発言をする。

 

「ふふっ、あなたたちお似合いカップル。初々しくてあの頃の私を思い出すわ~。」

 

「「か、カップル!」」

 

「お、俺たちそういう関係では……。」

 

「そ、そうですよ!マダ、ソコマデ……デモ、イズレハ……。」

 

「そう、なら私が比企谷さんを狙おうかしら。それに比企谷さんみたいな男の子大好きだから。」

 

看護師さんが俺にウインクをする。

ドキッ

 

~妄想1~

 

『比企谷さん、点滴の時間よ。』

『…………。』

『どうかしました?』

『注射はどうも苦手で……。』

『仕方がないわね…『そ、それは!』………勿論、これは比企谷さんだけの特別サービスよ。』

『はい!』

 

良い。

 

 

~妄想2~

 

『比企谷さん、昼御飯の時間よ。』

『……。』

『どうかしましたか?』

『トマトが苦手で……。』

『好き嫌いは駄目よ。』

『…………。』

『仕方がないわね…………勿論、これは比企谷さんだけの特別サービスよ。これを食べて大きく逞しくならないと……ね。』

『はい!』

 

…………完璧だ。

 

 

 

「ダメ~!」

ん?

いきなり稲城が大きな声を出す。

 

「何が駄目なのかしら?」

 

「ダメなものはダメなの!」

 

「んー、でも昨日退院した○○さんと同僚の○○は付き合い始めたから大丈夫よ。イケナイ関係ではないわよ?」

 

「そ、それでもダメなの!」

 

「俺は別に「ダメ!」」

 

「看護師さんの冗談かもしれないし……。」

 

「お姉さんは冗談言うの好きじゃないの。」

 

ちょっ、何言っているんですか!

そこは冗談と言ってほしかった……。

 

「八幡!」

「比企谷さん♪」

 

ガバッ

 

俺は痛みを耐え、布団に包まった。

 

 

 

 

気が付くと俺は寝ていたようで、夕御飯の時間になっていた。

 

「八幡、やっと起きたんだ。」

 

「……えーと。」

 

頭が回らない。

確か何かあったような……絶対避けたい出来事があった気がする。

 

「美味しそうなおかずが並んでいるね。」

 

「そうだな。」

おかずより何か思い出さないといけないことが…………。

 

「痛みがあるなら食べさせてあげる。はい、あーん。」

何だっけな? 

んー。

 

「八幡、口開けて。」

……口?

俺は口を開けた。

すると、口の中に何が入ってくる。

 

「…………何してんだ?」

 

「あーん。」

 

「…………何入れた?」

 

「なんだと思う?」

 

「トマト。」

口に入った瞬間わかった。

 

「あったり~。」

イエーイ

ピースサイン

 

「……。」

 

不味い。

女子にあーんされても美味しくない。

でも、ピースサインする稲城は可愛い。

って、何考えているんだよ!

煩悩を断ち切るために頭を振る。

 

「ど、どうしたの!?そんなにあーんが嫌だった!?」

 

「そういう訳じゃない。無性にしたくなっただけだ。」

 

「そ、そうなんだ…………ねぇ、八幡。」

 

下手したらただの頭のおかしい人だな。

…………そう言えば、目覚めてから呼び方がずっと八幡だった。

 

「突然だけどカップルってどう思う?」

 

「ブーーーッ

い、いきなりなんだよ。」

 

「寝る前に看護師さんが言っていた、お似合いカップルのことどう思っているかな~と。」

 

「あー、あれか。」

言われて思い出した。

そんなことがあったな。

あの看護師さん、良かった。

 

「八幡、聞いてる?」

 

「聞いてます。」

 

「怪しいな~。」ジトー

 

「ウグッ、そ、それでカップルがど、どうしたって?」

動揺しすぎだろ、俺。

 

「もう!だから、私と八幡がお似合いカップルと言われてどう思ってるかって話。」

 

それか…………。

 

「私は嬉しかったかな。人生で初めて言われたから。誰とも付き合ったことないから。八幡は?」

 

「俺は………。」

嬉しかったのか?

どうだろう。

稲城みたいな可愛い女子と付き合えるなら……あり得ないけど。

 

「嬉しいかもな。」

 

「な、なら、付き合ってみる?」

 

「はぁあ!」

 

「あ……ち、違う。これは違うから////

私、付き合ったことないから、一度でもカップルの体験してみたいな~と////」

 

「そ、そうか…………見た目だけだと何人かいそうだけどな。」

 

「私はそこら辺にいる尻軽女とは違うから。」

 

誰もいないドアの方を指差す。

 

「誰かいるのか?」

 

ガラガラ

 

 

 

「気付いてた?」テヘッ

 

あの看護師さんが俺たちの会話を盗み聞きしていた。

何歳か知りませんけど、テヘッは止めた方がいいと思います。

美人なのは認めますけどね…………。

 

そこへ誰かがあの看護師さんに話しかける。

 

「○○さん、ここで一体何をしているのかしら?暇なら手伝ってほしいことがあるのだけど……。」

 

「あ、○○(同僚)と飲みに行くんでした!失礼します。」

ピューン

 

あの看護師さんがあっという間に消えた。

 

「大丈夫だった?」

 

「は、はい。」

 

「あの子も悪気はないのよ。ただ……。」

 

「ただ……。」

 

「人を弄るのが大好きなのよ。」

 

「…………。」

それって悪気があるのと変わらないような。

 

「真面目にすればあの子も一気に私を抜くのに……。」

 

へぇー。

見た目とかなり違うな。

行動はあれだが。

 

「そろそろ、仕事に戻らないと。若いって良いわね。」

と看護師さん(2)と言って、仕事に戻っていった。

 

「「……。」」

 

「それでどうする?」

 

「え、何を?」

話の流れでわかっているが一応惚けてみる。

 

「か、カップルの真似!/////」

 

「えーと……稲城の方はどうなんだ?」

 

「わ、私は……したいな。」

 

「俺以外じゃあ、ダメなのか?」

俺、目腐っているしコミュ力ないし。

あの中身を除けば『ハザン』みたいな容姿の方が釣り合っている。

 

「私は……八幡が良いな/////」

 

「…………俺で良かったらお願いします。」

そんな顔で言われると断れません。

それに……。

 

「ほ、本当に良いの?私の我が儘に付き合ってもらっても……後悔しない?」

 

「とりあえず、"真似"だからな。」

それに……これはカップルの真似だから。

間違えることはない。

 

「……"真似"。」

 

「どうかしたか?」

稲城の顔が少し暗い。 

 

「ううん、何でもないよ。私、そろそろ帰るね。」

 

「おう。」

 

「明日も来るから。」

 

「無理しなくても良いぞ。」

 

「ダーメ、私たち一応カップルでしょ。真似だけどね。」

 

「おう、楽しみにしてる。」

そうだったな。

 

「バイバイ。」

 

俺は稲城に手を振った。

ガラガラ

ドアが閉まる。

 

「…………。」

真似だとしても人生で初めての彼女が稲城みたいな可愛い子で良いのか?

いろいろと後悔させそうで怖いんだが。 

それに、浩志さんを怒らせたくない。

 

こうして、俺の長い長い夜が過ぎていった。

 

 

 

 

 


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