「あー眠い。」
やっと寝れたと思ったらあのメイドに2時間後に起こされてしまった。
「何で?」
「何でって…………。」
あの事を言えるわけがない。
「言えないことでもヤってたのかな?」ニヤニヤ
「や、ヤるわけないだろ!」
かなり危なかったが。
八幡の八幡が八幡するところだった。
「ふーん。」
「な、何だよ。」
稲城が怪しげな目で見てくる。
嘘は言ってない。
もちろん真実も言ってないが。
「……それはそれで良いんだけど……もしかしてED?」
「違う。」
現役です。
「もうどうでも良いや。今日、帰るの?」
どうでも良いこと聞くな!って話変わりすぎろ……。
「決めてない。というよりはあのあと何がしたかったのかわからないでいる。」
浩志さんに言われて考えているが、頭のなかがグシャグシャで整理ができてない。
「そうなんだ。」
「「……。」」
俺たちに気まずい空気が流れる……。
ゴホンッ
「「!!」」
浩志さんとエミさんが仕事に行ったのでこの話をしていたが、俺たちはこの屋敷にメイドがいることをすっかり忘れていた。
「金比羅御嬢様。比企谷様。申し訳ございませんがこういう話は自室か人がいないところでした方が良いかと……。」
稲城が立ち上がる。
「比企谷くん、部屋に帰ろう。」
「お、おう。」
俺たち以外、誰もいない廊下で話す。
「……結局どうするの?決まっていないならしばらく止まっても良いよ。父さんも母さんも喜ぶと思うし。」
…………。
「…………少し一人で考えさせてもらっても良いか?」
俺は稲城の方を見る。
「わかった……今日は我慢するから必ず答えを出してね。」
稲城が見つめ返す。
俺は稲城のその表情に何かを感じ取った。
「わかった。ありがとう。」
「またあとでね。バイバイ」フリフリ
稲城が自分の部屋に帰っていく。
「……落ち着いた場所に行くか。」
俺は初めてこの屋敷……広大な敷地から出た。
「……。」
迷子にならなくて良かった。
危うく稲城を呼ぶところだった。
番号交換してないから呼べないけどな。
……スマホの電源入れてない。
ポチッ
通信が再開される。
メールが300件以上来ていた。
着信は……。
「……アイツら暇か。否定した人にメールなんて送るなんて。送ってきても削除するから意味無いけど。ポチッ。」
それから俺は電車を乗り継いでとある公園に来た。
街を一望できる。
ここに来るとき、いろんな人にジロジロ見られていたが、更に目が腐ったのだろうか。
と思っているとカップルが話しかけてくる。
「もしかしてこれは君?」
彼氏(イケメン)の方がスマホの画面を見せてきたので、それを見るとそこには俺の写真がネットにアップされていた。
行方不明者扱いとして。
俺みたいのがたった一日いなくなっただけでニュースになるわけがない。
俺の両親はそういう人たちだから。
……あの姉妹だろうか。
「そうみたいですね。」
俺は正直に答えた。
隠すこともない。
「早く警察に!」と彼女が言う。
「ああ!」
それを聞いた彼氏が電話をかけようとしたので遮る。
「しなくて良いですよ。俺、捨てられたので。」
「「!」」
カップルが驚く。
それもそうだろう。
行方不明者が自ら捨てられたと言ったのだから。
「それなら!」
「……。」
誰かに助けを求めれば良い。
『助けて』と言えば……。
だが俺にそんな権利はない。
そんなもの捨てたから…。
「……ここにいること誰にも言わないでください。お願いします。」
俺はカップルに頭を下げた。
とにかく今は考える時間が欲しい。
俺が俺ではなくなるかもしれないから。
「行こう。」
「……。」
そして、カップルがいなくなる。
「……。」
俺は再び街を見て目を閉じる。
家族旅行に行ったことがない。
アイツが泣けば俺が怒られた。
小学生、中学生のときは虐めの標的にされた。
最近は犬を助けて入院、強制入部、暴力・罵倒・キモい等の繰り返し。
俺が依頼で動けば……それを否定される。
……俺は一体何のために生まれてきたのだろうか。
「君が比企谷君かな?」
肩をトントンされ後ろを向くとそこには数人の警察官とパトカーが二台停まっていた。
「……。」
俺は………………
飛び降りた。
逃げるために。
それは警察からか、アイツらからか、それとも…………自分自身からか。
目の前が真っ暗になった。