宙ぶらりんのお姫様   作:TS百合好きの名無し

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ハーメルンに挿絵を投稿するのはこれで三枚目ですが相変わらずの低クオリティです。普段絵を描かないから仕方なし。


無責任な神の使いと少女の旅立ち※挿絵もどき有り

 

 

 

 通勤途中の横断歩道で信号を待つ男が一人いた。どこにでも居そうな若いサラリーマンだ。

 

 男の周囲には通学途中の学生たちがいた。スマホをいじっている者、友達と喋っている者、信号をぼうっと待つ者。

 

 信号が青になり全員が歩き出す。ここの信号は距離が長いくせに短い。だから全員の歩くスピードは速かった。

 

(……そういやもうすぐ艦これのイベントがあるんだっけか)

 

 男は歩きながらふとそんな事を考える。信号を渡り終え、進路を変えて再び歩き出す男。

 

「ホント危ねえなあ、歩きスマホ」

 

 道行く学生の一人に、歩きスマホをしている者が一人いた。

 

(人とぶつかったらどうすんだよ)

 

 そう思っていると、その学生の前から自転車に乗った小柄な中学生の女の子が走って来た。

 

 女の子がその学生をよけようとした瞬間、その学生がふらりとその方向へ動いた。画面に目を向けたままで、女の子には気付いていない。

 慌ててハンドルを大きく切った女の子は、そのまま自転車から落ちて車道に転倒した。

 

 迫り来る大型トラック。きちんと前を見ていなかったのだろう。ブレーキは間に合いそうもなかった。

 

 考えるよりも先に男の体は動いていた。女の子の元へと必死で走る。

 

(くそ!間に合わない!なんで誰も動かないんだ……そこのお前なんか充分余裕を持って助けられるだろ!!)

 

 道行く他の人は誰も動こうとしない。ただ男を見ているだけ。歩きスマホの学生はようやく倒れている女の子に気付くが動かない。

 

 あの男の人運動神経良さそうだし。

 あの男の人が助けてくれるでしょ。

 

 男が倒れている女の子の体をすくい上げ歩道へと放り投げた直後、男の体は遅すぎるブレーキがようやく効き始めた大型トラックに跳ね飛ばされた。

 

 

 

(これは……)

 

 少女が見ていたのは前々世の自分の姿だった。

 

「ようやく会えましたね」

 

 振り向くとそこにいたのは肌と目以外の何もかもが白いスーツ姿の20代前半くらいの青年だった。

 周囲の景色が光の粒となって消えていき、二人が立っている場所は真っ白な空間へと切り替わった。

 

「だ、誰ですか?」

 

 混乱する少女に青年は丁寧に説明した。

 

「神の使いのような者です。そしてここはあなたの夢の世界ですね」

 

「神の使い……?」

 

「ええ、ちなみに私があなたを転生させた張本人です」

 

「え……」

 

 衝撃の発言に少女は固まった。

 

「前々世においてあなたが助けたあの女の子ですが……実は非常に重要な存在だったのです」

 

 未だに固まり続ける少女に青年は続ける。

 

「知ってましたか?あの女の子は将来、人類が新たなステージへと進むための新理論を作り上げる方なのですよ……」

 

 嬉々とした表情で青年が言う。

 

「……じゃあ私の死は無駄じゃなかったんだ」

 

「ええ、あなたの存在、人生にはきちんと意味があったのです。あの女の子を助けてくれて本当にありがとうございます」

 

「……」

 

「そこで、私はあなたにお礼をしようと考え、新たに第二の人生を与える事にしました。記憶を持ったまま転生というやつです」

 

 そこまで言った所で青年が困ったような顔をした。

 

「あなたが好きだったあのゲームと同じ世界へ転生させてあげようとしたのですが手違いで時代を間違えてしまったのです」

 

「はい?」

 

「あなたが第二の人生を送った世界は『艦これ』の世界なのです。ただしまだ艦娘ではなく軍艦だった頃ですが」

 

「やっぱりそうか……」

 

「なのでお詫びとして特別に三度目の人生を与えたのです。しかしこの世界は戦争の真っ只中……あなたが出来るだけ無事に生き抜けるようにと私がその体を与えました」

 

 少女は自分の体を見回す。

 

「でも無事に生き残るにしても何故こんな……」

 

(そもそもこういうのって、本人の意思を確認してから行うのが、よくあるテンプレだよね?何の断りもなく転生させられたし……)

 

「実はあなたにはある期待がかけているんです。こちらの手違いとはいえ三度目の人生を与えるには無条件とはいかなくて……」

 

「き、期待?」

 

「その世界におけるあなたの存在には無限の可能性があります。やり方次第で戦争を激化させる事も終わらせる事も出来てしまうでしょう」

 

「……」

 

「分かりますね?あなたはそんな立ち位置にいるのです」

 

「な、何ですかそれ……!」

 

 勝手に託された責任の重さに少女は怒りがわいてきた。

 

「怒るもの無理はありません。ですが安心してください、あなたは自由に生きればよいのです」

 

「え……」

 

「あくまで期待がかけられているだけです。従う必要なんて無いんですよ」

 

「……つまり?」

 

「この部分の話は忘れてくれて結構という事です。それに自由に生きたとしてもあなたならばきっと悪い方向へと進む事は無いでしょう。それでも心配なら……」

 

 青年は少女を見つめて言う。

 

「その世界でちょっとした旅でもしてみては?というのが私からのアドバイスです」

 

「旅……ですか」

 

「はい」

 

 青年が微笑む。

 

「分かりました……もうこの体で生きるしかないみたいですね」

 

 少女は一応の納得を示して頷いた。だが頭から青年の言葉が離れない。

 

(あの世界の命運が私次第とか勘弁して欲しい……知りたくなかったです、そんな事)

 

 

 

「ところで希望なさるのなら『世界の可能性~』のくだりの部分の記憶を夢から覚める際に消してあげますがどうします?」

 

「是非お願いします!!」

 

 即答だった。

 

 

 

 

 

 

「……ちゃん!」

 

「……」

 

「ハクちゃん!」

 

「……んぁ?」

 

 ハクが目を覚ますと蒼龍が彼女の顔を覗き込んでいた。

 

「やっと起きた!」

 

「蒼龍……」

 

(あれは……夢だけど……夢じゃないですね)

 

 思い出せない部分があるが何か嫌な予感がしたので気にしない事にした。

 

「なんだかうなされていたみたいだけど大丈夫?」

 

「大丈夫です。もう朝ですか?」

 

「うん」

 

 顔を上げたハクは目を細めた。眩しい朝日が木々の間から差し込んでいる。

 

「眩しい……」

 

 シロを呼び出し果物を出してもらう。

 

「便利だねその艤装さん……」

 

(まあたしかにシロの収納機能は結構チートですよね)

 

 軽い食事を済ませ二人は海へと出た。

 

 

 

 

 海へ出て10分ほど進んだ所でハクが突然停止した。

 

「ハクちゃん?」

 

「……艦娘の反応がありました。こちらに向かって来ています」

 

「本当!?」

 

「ええ……ここでお別れですね」

 

「あ……」

 

 喜びから一転、そう言われた蒼龍が寂しそうな顔をする。

 

「そんな顔をしないでください。きっとまた会えますよ」

 

「ハクちゃんは……この後どうするの?」

 

 出来ればもっと一緒にいたい。けれどそれは難しい。蒼龍は自分の気持ちを押し殺した。

 

「ちょっとした旅に出ようと思います」

 

「……旅?」

 

 返ってきた答えに驚く。

 

「ええ、この世界の事についてもっとよく知りたいんです。そのために旅でもしようかと」

 

「危険かもしれないよ?」

 

「きっと大丈夫です!それに神の使いさんからのアドバイスですし!」

 

「ぷっ……何よそれ。深海棲艦も神様とか信じてるの?」

 

「さあ……?でも少なくとも神様はいると思います」

 

 ハクは蒼龍に微笑みかける。

 

「だって……蒼龍と出会う事が出来ましたから」

 

「あーもう!可愛いなあ!」

 

「もぎゅっ!?」

 

 正面から抱き付いた蒼龍の九九艦爆乳がハクの顔に押し付けられる。

 

「んんむ!むむーーー!(蒼龍!息が出来なーー!)」

 

 ハクが必死で蒼龍の背中をパシパシ叩く。

 

「……あ、ごめん」

 

「ぷはっ!……ホント見事な胸部装甲をお持ちのようで……」

 

「ハクちゃんは私より可愛いじゃない」

 

「むう……」

 

 苦笑いする蒼龍とむくれるハク。

 

『……もうじき視認される距離よ』

 

(……はい)

 

 別れの時間が迫っていた。

 

「……」

 

「……?」

 

 突然蒼龍が自身の髪をまとめている髪留めの紐を解いた。そして彼女はそのままそれをハクへと差し出す。

 

「……これは?」

 

「助けてくれたお礼代わりに受け取って。色々考えたけど今の私からあげられる物ってこれぐらいしかなくて……」

 

「え……お礼なんて別にいいですよ」

 

『きっとそれじゃ彼女の気が済まないのよ。受け取っておきなさい』

 

 結局受け取る事にしたハクだが、結び方がいまいち分からない。

 

「……自分でうまく出来るか分かりません」

 

「ああ、そっか……じゃあ私が結んであげるね」

 

 蒼龍がハクに近付き、その真っ白な長髪を丁寧に結ぶ。

 

「これでよし!」

 

「ツインテールですか……」

 

 自身の髪を手で触ってハクが確認する。

 

「うん!似合ってるよすごく!」

 

「……ありがとうございます」

 

 少し照れたように顔をそらす。

 

「……ね、ねえ、ちょっと髪を両手で持って自分の胸の前まで持ってきてくれる?」

 

「……?はい、こうですか……?」

 

 言われた通りハクが二本のテールの先を掴んで、両手を胸の前へ持ってくる。輪のように広がるテール。そのまま彼女が蒼龍の顔を見上げると……

 

 

【挿絵表示】

 

 

「いいわね!」

 

(ああ……最高!このままお持ち帰りしたい!ここにカメラさえあれば!)

 

 何やら興奮している蒼龍に、ハクは無意識の内に少し後ずさった。なんだか狩られそうな……気がしたのだ。

 

「そ、そうですか……大事にしますね」

 

「うん!」

 

『……あと二分以内に離脱しないとマズいわよ』

 

「蒼龍、もう時間が……」

 

「うん、ごめんね。でも最後に良いものが見れたよ」

 

 満足げな蒼龍。もう思い残しは無さそうだ。

 

「いつか……敵味方関係なく一緒にいられる日が来るといいですね」

 

「うん」

 

「また会う日までお互い元気でいましょう」

 

「うん」

 

「絶対にまた蒼龍に会いにいきますから」

 

「……うん」

 

 やはり寂しいのか、だんだんと返事の元気が無くなっていく蒼龍にハクは苦笑い。心の中で「甘えん坊な彼女はやっぱり可愛いなあ」と一人笑っていた。

 

「さようなら!」

 

 心配しなくてもきっとまた会える。そんな予感のあった彼女は笑顔で別れを告げた。

 

「……さようなら!」

 

 ハクが背を向けて去っていく。お互いの姿が見えなくなるまで二人は手を振り続けていた。

 

 

 

 

 

 

「……さて、旅に出るとしましょうか」

 

「旅ですか、わくわくしますねご主人!」

 

『行き先は決めてあるの?』

 

「そうですね……とりあえず北へ行こうと思います」

 

『了解』

 

 

 友と別れたお姫様は旅へ出る。

 その先に新たな出会いがある事を信じて……

 

 

 

 

 

 




主人公、旅立ち。

前に描いた金剛と榛名よりも(描く対象の容姿が定まっていない分)大変でした……主人公の容姿はイメージです。

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