勢いで書いているので、見直してから投稿してるのですが、見逃すことも。
またあったらお願いします。
そんなこんなで第三話いきまーす
あーびっくりした。
年取ると涙もろくなるって言うけど、あそこまで泣かなくてもいいじゃない。
まぁ、確かに最近の子供にしてはやる気があるのは確かだけどねぇ。
しかしこの子、ユエとか言ったわね?
少し生き急ぎすぎじゃないかしら。まだ10歳くらいに見えるのにこの焦りよう。
あと5年はのんびりしててもいい気がするけどねぇ。
「オールド・オスマン、よろしいのですか?貴族ではない者を学院に入学させて」
「かまわん。何か言ってきても儂が一喝して黙らせてやるわい。
ミス・ファランドールは魔法が使えるそうじゃし、儂が見つけてきた東方の貴族の子女という事にすればいい。
生活費なども儂が出してやるわい。儂はこう言う生徒が欲しかったんじゃ!」
「あの、生活費まで出して貰う訳には・・・。
それくらい自分でどうにか稼ぐです」
「いやいや、私は君のその目標を応援したいんじゃ。生活費を稼ぐのに手間取って勉学を疎かにしてしまっては、ここで学ぶ意味が無くなってしまうわい。
それに、私くらいになるとそれなりに蓄えもある。勉学に励む少女の一人くらい養うなど訳ないわ」
おー、おー、言うわねぇ。貴族の小娘の生活費が小金で済む訳じゃないだろうに。
あ、この子は貴族じゃないのか。
まぁ、この爺さんなら相当溜め込んでそうだし、問題ないんでしょうね。
羨ましい限りだわ。
「そうと決まったらいろいろ考えねばのぅ。
東方の貴族の娘で、このトリステインに留学して来たとすれば問題ないだろうが、何か聞かれても大丈夫な様に、細かい事を決めて行こうかの」
そんな事を言って爺さんはどんどん色々な設定を考えて行く。
何でこんな張り切ってるのかしらねぇ。よほどこの子が気に入ったのかしら?
はっ!? まさか、いいところを見せてあとで美味しくいただくつもりなの?
こんな小さい子を?・・・って、いくらエロジジイでもそれはないか。
「そうじゃ、ミス・ロングビル。彼女の部屋も用意せねばならん。
どこか空いている所はあったかの?」
「少々お待ち下さい。今調べてみます」
部屋割りが書かれている書類を捲り、空き部屋ですぐ使えそうな所を探していると、
「おぉ、そうじゃ!東方に行っていた儂の孫が帰って来たという事にすれば万事解決じゃ!」
「えぇーー!?」
あ、なんか言い出したよ、この爺さん。
「うむ。そうすればいろいろ手続きも省略出来るし、生活費を儂が出していても不思議に思われん!なかなかいい考えじゃ!」
やたらといい笑顔を浮かべる爺さん。
書類作成の手間を減らすにはいいかもしれないけど。
「しかし、オールド・オスマン?
貴方が独身なのは皆が知っている事ですので、実の孫と言うのは些か無理があるのでは?」
「む。そ、そうだのう。儂の遺産を狙ったカタリだとか言われたら面倒じゃ。
どうするか・・・」
「普通に留学して来たじゃダメなのですか?」
「聞いての通り、東方とはほとんど交流がないでのぅ。
なので、最初から留学が目的と言うのはちと不自然かと思うての」
いきなり孫が帰って来たというのも、同じくらい不自然な気がするけど?
「では、彼女がここに来た経緯に少し着色しますか?」
「ほぅ?どういうことじゃ?」
「彼女が召喚されたドラゴンに乗っていたのは、あの時側にいた生徒達が見ています。なので、どの道彼女が自力でここまで来たと言う話はすぐ嘘とばれてしまいます。
そこで、家族と共にこちらに来ようとして事故に遭い、偶然召喚の儀に巻き込まれ助かったが天涯孤独の身になってしまった。その彼女をオールド・オスマンが不憫に思い養女にしたと言う筋書きでどうでしょう?」
血の繋がらない子供なんて貴族の間ではそこまで珍しくないし、これなら不自然ではあるけどあり得なくは無いでしょ。
「ふむ、なるほどの。それなら養女にしても不思議ではないし、妙な勘ぐりをするものも少ないだろう」
時間も時間だし、そろそろ寝たい。話し合いも終わったみたいだし、この辺りでお開きにしてもらおう。
「さて、空き部屋ですが、書類上寮の4階に一つ、5階に一つ、最上階に二つとありますが、内最上階の二つは現在倉庫となっていて今すぐ使う事は出来ません。
片付けるのに半日以上掛かるかと」
「ふむ、4、5階はどうじゃ?」
「どちらも家具は一通り揃っています。定期的に清掃もしてますので、寝具を整えれば今すぐにでも」
「ならばそのふた部屋のどちらかにしようかの。そうじゃなぁ・・・、ミス、今幾つじゃね?」
いきなり歳なんて聞いてどうするのかしら?
「私ですか?16ですが」
ブフッ!?え、16!?
もっと下だと思ってたわっ!高く見ても12、3あたりにしか見えないわよ!?
「ほう、16か。では、4階の部屋にしようかの」
「こほっ、オールド・オスマン、何故4階なのですか?」
「ん?何、4階なら同世代が多くて馴染み易いだろうと思っただけじゃ」
確かに4、5階は今年の2年が使っているから顔合わせも簡単だわ。
あら?これは・・・
「オールド・オスマン、どうやら5階には彼女が乗っていたドラゴンを召喚した生徒の部屋があるようです」
空き部屋の隣に入っている生徒の名前に気づき報告する。
「ほう、それは偶然じゃのぅ。だったら5階の方にするか。
ドラゴンと言う共通の話題があれば、仲良くなるのも早いじゃろうて」
そのドラゴンに魚取られてキレたとか言ってなかったかしら?
まぁ、こうして話していると大人しい良い子だし、その時は特別気が立ってたんでしょうね。空腹の時に食べ物取られたら、そりゃ怒るわよねぇ。
「では、5階の部屋に案内いたします。私はそのまま休む事にしますが、オールド・オスマンはどうなさいますか?」
「私もこの書類を仕上げたら休むとするよ。明日朝一番で処理したいからの。
それと、ミス・ファランドール。いや、書類上とはいえ親子になったのじゃから、こんな他人行儀ではいかんな。これからはユエ君と呼んでもいいじゃろうか?」
「は、はい、かまいません。私はなんと呼べばいいですか?」
いけない。また、長くなりそうだ。早く寝たいのに。
「ふむ。一応親子なのだから、お父様なのじゃろうか?」
「見た目からしていいところお爺様ですわ。」
さっさと答えを出させて終わらせないと。優秀な秘書は寝たいのよ。
「見た目って・・・。そんな身も蓋もないぞぃ」
「あ、あはは」
「まぁ、確かに祖父と孫にしか見えないのにお父様じゃおかしいかのぅ。
では、ユエ君。これからはお爺様と呼んでおくれ」
「はぁ、わかったです」
釈然としないながらも素直に頷く彼女。
「では、ユエ君。これがこの魔法学院の見取り図じゃ。
これから暮らす場所で迷うのもなんじゃしの。よく見て覚えるように」
「はい。何から何までありがとうです」
「よいよい。その丸が付けてある所が主な教室じゃ。明日最初の授業は、その本塔3階にある左の教室じゃ。担当の教師には伝えておくから、遅刻せん様にの」
「わかりました。でわ、お休みなさいです。オス、いえ、お爺様」
「うむ、お休み。
ほっほっ。昔なじみ達が息子や孫の自慢をする気持ちが少し分かったわい。
これはいいもんじゃのう」
お爺様と呼ばれてなんとも上機嫌で笑う爺さん。
義理、というか書類上の偽装孫に言われただけでこれなら、実の孫に言われたらもう溶けるかもしれないわね。
みっともないくらいデレデレだもの。
「さぁ、ミス・ファランドール、部屋に案内しますね?」
「はい。よろしくです」
あとは部屋に案内すれば終わり。
今日は疲れたわ。早く頂くもの頂かないと身が持たない。
早く気楽な怪盗家業に戻りたいわ。
案内された部屋のベットに腰掛けて、今日の事を思い返すです。
と言っても、夕方に起きてまだ5時間ほどしか立ってないですが。
「ここの月も2つなのですね。やたらと大きいですが」
魔法世界の月と比べると約二倍の大きさです。向こうの月は数は同じでもここまで大きくはありませんでしたから、なんとも不思議な感じですね。旧世界の月と比べたら余計です。
こちらの月に名前はあるのでしょうか。って、いえいえ、月の事はどうでもいいですね。後で調べれば済むですし。
それよりもこれからの事を考えなければ。
いろいろ予想外な事もありましたがしばらくはここの生徒として過ごすのですから、大いに勉強させて貰います。
そうして勉強していれば帰る方法も思いつくでしょう。
今はないですが、こちらの魔法と私達の魔法、両方を合わせれば帰る為の魔法を作り出せるかもしれません。
もちろん、帰らないと言う選択肢は有りません。必ずや帰って、もう一度ネギ先生やのどか。委員長達に会うです。
「何はともあれ、明日に備えてもう寝るです。せっかくなのでここの魔法を極めるつもりでいきましょう」
バフッとベットに倒れ込みます。スプリングは入って無いですが、分厚いマットのおかげでフカフカです。
清潔なシーツが気持ちいい2日ぶりのベットです、ぐっすり眠れるでしょう。
そしてゆっくりと目を閉じ、眠気に身を任せようと・・・、
「・・・その前にお手洗いです」
睡魔より先に来た尿意に気づき、急いで起き上がります。寝ている最中に来るよりマシですが、なんとも間が悪いです。
見取り図のお蔭で迷わず行けた私は、今度こそぐっすり眠りました。
わーんとーちゅーぅとーにゃっとな!あよいしょっ!わんとちゅーぅとにゃっとなっ!あっそれっ!ざんねんですけどあさですよー!わーんとちゅーぅとにゃピッ!
寝過ごしてはいけないとセットした目覚ましでしたが、なんとも気が抜けるです。買う時はのどかとこれはいいと絶賛したですが、いざ使ってみるとここまで起きる気を無くすとは。起きれた自分を褒めて上げたいです。
実用品を買う時は仲のいい友人と出かけてはいけませんね。
楽しくて買い物の内容が二の次になってしまうです。
ベットから降り、窓に掛かっているカーテンを開けるとまだ明け方と言った頃合いです。
こちらの時間感覚が分からないので早めにセットしたですが、少々早過ぎたようです。
「軽く散歩でもして来るですか」
このまま二度寝をしたら確実に遅刻します。
ご好意で通わせてもらうのに、初日からそれは許されません。
まず服を着替え、顔を洗おうとしたですが、洗面所などは見当たりません。部屋の隅にバケツと言うか桶が2つほど置いてあるです。
よくよく考えたら水道設備が整うのは、かなり後の時代でしたね。
建物の作りなどを見ても、大体中世辺りの文化レベルですから、まだないのでしょう。という事は、井戸から水を汲んで来なければならないのですか。
「散歩ついで、という事で行きますか」
備え付けのテーブルの上に置いてあった見取り図を取り、部屋を出ます。
鍵は要らないですね。そもそも盗られる物がないですし。
ふぅ、朝の空気は気持ちがいいですね。
日本の季節で言うと春と言ったところでしょうか?
まだ少し冷たい空気に暖かい日差し。体の隅々まで活力が漲ってくるような爽やかな感じがいいですね。春は曙、よく言ったものです。
そうやって朝の散歩を楽しんでいると、少し先にシエスタさんを発見したです。
カゴに多分洗濯物だと思われる衣服を満載して歩いています。
きっと井戸か何かに行くはず。一緒に連れて行ってもらうとするです。
「おはようございます、シエスタさん」
「ぅわっひゃっ!?」
声をかけたらつまづいたです。洗濯物をぶちまける前に魔法で浮かせ、一緒にシエスタさんも転ばないよう浮かせます。
「うわっ!?へっ?えぇ!?」
「おはようです、シエスタさん」
私は慌てているシエスタさんの目に映る様移動し、もう一度挨拶しました。
「え?あっ!ユエさん!おはようございます。
って、これはユエさんが?」
「えぇ、声をかけたら転びかけるものですから咄嗟に。
今下ろしますね」
浮かせていたシエスタさんをゆっくりと下ろし、しっかりと立ったのを確認してから洗濯籠を彼女の前まで移動させます。
「どうぞです」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
洗濯籠を受け取りようやく落ち着いたシエスタさんがお礼を言ってきます。
「私が声を掛けたせいですから、別にいいですよ。
それより、顔を洗おうと思って出て来たですが、一緒に行ってもいいですか?」
「はい!これから洗濯するために井戸へ行く所だったんです。案内しますね?」
井戸の場所が分からないと察して案内を申し出てくれました。気の利くメイドさんです。
「お願いするです。水の用意をしてなかったもので」
「昨日来たばかりでしたものね。明日からは私がご用意しましょうか?」
「さすがにそれは申し訳ないですから。水場さえ分かればこうして散歩がてら出てこればいいですし、大丈夫ですよ」
いくらなんでもそこまでして貰う訳にはいかないです。
「そうですか?でわ、お洗濯があったら任せて下さい。部屋にある籠の中に洗濯物を入れて廊下に出して下されば、私達使用人が洗濯してまた部屋の前に戻しておきますので」
うぅ、あまり家事が得意ではないのでそれは助かるですけど。
麻帆良に居た時ものどかに半分以上やってもらってました。私も何度か教えてもらい、ある程度は出来る様になったですが、それでも得意とは言えません。
ましてや現代の文明機器を使ってそれです、籠に挿さっているあの有名ですが現代人はとんと見たことのない洗濯板でなんて無理でしょう。汚れは落ちないで服がボロボロになるだけなんて事になるのが目に見えてるです。
「すいません。あまり家事は得意ではないので、洗濯は任せる事にするです」
「ふふっ。お任せ下さい。
それにしてもユエさんって、貴族ではないって言ってましたが、やっぱり貴族みたいですよね。
平民で家事が出来ない人って、そうは居ないですよ?」
世界的に見ても恵まれた環境で育った日本人ですからね。文明の利器が無ければ生活もまま成らないのです。
「そう言えば、ユエさん朝食はどうするんですか?
よかったらまたご用意しますけど」
「いえ、食事はアルヴィーズの食堂とやらで取るように言われてますが」
「アルヴィーズの食堂ですか?あそこは貴族の方々しか入る事を許されていない所ですよ?」
「そうなのですか?
きっと対外的にですが貴族という事になったですからそこで取るよう言ったですね」
「貴族という事に、ってどういう事ですか?」
そう言えばシエスタさんにはまだ教えてなかったですね。
井戸へ向かいながら、ここの生徒になった経緯をざっと説明します。
「つまりユエさんは貴族になったという事ですか?」
「一時的に、ですがね」
話し終えるとシエスタさんはどこかショボンとしてるです。
「どうしたです?」
「い、いえ。やっぱり貴族って所に反応してしまって。すいません」
平民と貴族の間にある溝は相当深いのですね。
「普通に友人として接してくれていいですよ」
「そうですか?」
「えぇ、ですが学院に入る為に養女にして貰ったと言うのはあまり口外しないようにしてほしいです。
オスマンさんを騙して悪さしようとしてる、などと勘繰られたらめんどうです」
へんないざこざに巻き込まれたりして、学ぶ時間が取られたら困るですからね。
「はい、分かりました。普段は貴族として接すればいいんですね」
「人目のある所では、ですね。
こういう他に人が居なかったり、事情を知っている人だけの時は普通にして構いません。と言うか、普通に接してほしいですね」
せっかく出来た友人です。簡単に無くしたくはないです。
洗濯が終わるまで待ってからアルヴィーズの食堂とやらに行ってみると、すでに結構な人が席についていました。
座っている人が着けているマントの色が揃っているという事は、何かの基準があるのですね。しかし、一体なんでしょう?
魔法使いとしてのランク?学校なのですし学年?これが一番可能性がありますが。
この辺り、ちゃんと聞いておくべきでしたね。
食堂に入って来た私を、既にテーブルについていた他の人達がジロジロ見てきます。
まぁ、普段自分達しか居ない所に見慣れない服を着た、見慣れない人物が入って来たら、そりゃあ怪しむですね。
そんな不躾な視線に耐えながらどこに座るべきか見回していると、赤い髪の女性がこちらを見ながら手を振っているです。
自分の横や後ろを見ても誰も居らず、私を見ながらウインクまでしています。
恐る恐る近づくと、その女性は自分の隣の席を指差して、
「ほら、貴方。ここに座りなさいな」
座る場所を探していた私に席を勧めてくれました。
「ありがとうです」
「どういたしまして」
礼を言う私にニコリと、しかし何処と無く妖艶な笑みで返してきます。
「あなた、昨日風竜に乗ってた子でしょう?
私も昨日あの場所に居たからすぐ分かったわ。救護室に運んだのも私達なのよ?」
そう言って自分の左隣りの席に座っている青い髪の少女の肩に手を置く女性。
私が保健室、いえ救護室で寝てたのは彼女達のおかげだったですね。
「そうだったですか、有難うございます。
サモンサーヴァントの鏡にドラゴンと飲み込まれて気を失っていたようでして。
お手数おかけしたです」
「いいのよ。その貴方が乗っていた風竜を召喚したのは私の友達だったのよ。
ほら、この子。タバサって言うのよ。あ、私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね?」
「私はユエです。ユエ・ファランドール。こちらこそよろしくです。
今日からこちらの学院で勉強することになったです」
長い名前ですね。ここの生徒は皆貴族だと言う話ですが、身分の高い人は名前が長くないといけないのですかね?
明日菜さんの本名も長かったですし、へんな縛りでもあるんでしょうか。
「タバサさん、でしたね?貴方もよろしくです」
「ん。」
こちらをちらりと見てからコクリと頷き、また前を向いてしまいました。
「気を悪くしないでね?この子無口なのよ。
でも、すごくいい子よ?自慢の友達だから仲良くしてね?」
なんか母親のようなセリフを言いながらタバサさんの頭をその豊満な胸に押し付けるように抱くキュルケさん。仲良いですね。
「はい、もちろんです」
どうにか抜け出そうとするタバサさんの抵抗を無視して抱きしめ続けるキュルケさんを見ていると皆が居住まいを正したです。キュルケさんとタバサさんもじゃれ合いをやめ、正面を向いて座り直します。
「偉大なる始祖ブリミルよ・・・」
何やら祈りの言葉っぽい物が唱和され始めました。キリスト教での食事前の祈りと同じ位置づけのものでしょう。郷に入れば郷に従えと言いますし、私も手を合わせ、神妙に唱和の声を聴き続けます。
私は加わりません。文面わかりませんし。
朝食のくせにやたらと量のある食事が始まります。ヨーロッパ近辺の人は朝沢山食べて、昼は軽く済ませ、夜またしっかり食べると言う食事スタイルだと聞いた事があります。ここの人達もそんな食文化なのでしょうか。
「貴方、さっき変わった仕草をしてたわね?こう、手を合わせて・・・」
「私の国では食事の時、手を合わせて祈るです。
こうする事でより感謝の気持ちを示す意味合いがあるです」
「へぇ、そんな風習があるの。聞いた事ないわ」
キュルケさんは不思議そうにしていますが、私にとっては生まれた頃からの習慣です。タバサさんもモグモグと咀嚼しながら珍しげな目で見てきます。
「実は私は東方、ロバ・アル・カリイエから来たです。
だから、聞いた事がなくても不思議ではないです」
「ヘェ〜、東方から。私、東方の人に会った事なかったのよ!
いろいろ聞いていいかしら!?」
東方、ロバ・アル・カリイエとはほとんど交流がないと言っていましたね。
あまり喋りすぎるとボロが出そうですが。
「構いませんよ?私も全てを知っている訳では無いので、答えられることだけでいいのなら」
キュルケさんの質問に答えながら食事を進めます。ハルナも食事中に良く喋りますが、どうして食べながら喋れるんでしょうね?しかも、それでこぼしたりもせず、上品に食べています。貴族と言う身分だからでしょうか?見ていても全体的に洗練された仕草で食べています。こういう所は見習って自分に活かしたですね。
おっと、話にかまけてサラダを食べ忘れてました。
「ちょっとまった!それは食べない方がいいわ」
急にキュルケさんが私の手を止めさせました。一体どうしたんでしょう?
「食べない方がいいとは、どういうことですか?」
毒でも入っているとか、はたまたただの彩りで食べる物ではないのか。
こちらのテーブルマナーを知りませんから、何も知らずフィンガーボールの水を飲んでしまうと言うレベルの失態をしたのでしょうか。それは恥ずかしいかもです。
「それ、ハシバミ草って言うんだけど、ものすっっっっっごい苦いのよ。
それこそ悶絶するくらい。だから、食べない方がいいわ」
マナーや毒物などじゃなく、純粋に味の問題でした。
「そこまでですか?」
「えぇ。それを美味しそうに食べられるのは、このタバサくらいよ」
そう言って自分の隣に座っているタバサさんを指差します。
確かに顔色を変えずモシャモシャとサラダを食べてます。この人は全然表情を変えませんね。人のことは言えませんが。
「美味しいですか?」
「美味。」
味を聞くと簡潔に答えが帰ってきます。うーむ、これは・・・
「忠告はしたわよ?」
おもむろにフォークを伸ばす私にキュルケさんが諦めたようにつぶやきます。
そして、ゆっくり口に運び・・・
「む、むぐっ!?」
「ちょ!大丈夫!?ほらもう、だから言ったじゃない!ほらここにぺっしなさい、ぺっ!
それともワイン飲む!?」
やたらと慌てるキュルケさんですが、しかし、これは、
「お、美味しいです」
「へっ?」
この深い深い苦味、その中にある味覚をかき回す渋さ。そして、その奥の奥に隠れたちょっとした甘み。これはまた。
「なんともおもしろ美味しい。新しい味ですね、気に入りました」
オスティアで食べたあの珍妙アイスにも負けてないです。
これほどの物に出会えるとは!
「タバサくらいしかこんなの食べないと思ってたのに、完食しちゃったわ」
サラダを一気に食べ終えた私を見て、何やら呆れているキュルケさん。
こんなに美味しいのに、へんですね。
「とても美味しかったですよ?」
「舌大丈夫?」
失礼ですね。
あ、タバサさんは満足げに頷いてるです。
私とタバサさんはキュルケさんごしに熱く握手をして同志の出会いを喜びます。
「まぁ、いいけどね」
そんな私達をキュルケさんは呆れ半分、喜び半分な微笑みを浮かべて見つめてます。やはりなんか母親みたいな立ち位置なのですね。
すっかり仲良くなった私達は、食事が終わると一緒に食堂を出て、教室に連れて行ってもらいました。
食堂を出る時ちらっと見えたですが、あの人は何故わざわざ床に座っていたのでしょう。
というわけで、第三話でした。
2、3日で1話書けるかなとか思ってたけど、甘かったですね。
もっと速く書けるようになりたい。文才のある人が羨ましい。
でわ、次回もよろしくお願いします。
早速誤字修正。報告ありがとうです。