長期間に渡ってチマチマチマチマ書いてたので、途中で何を書こうと思ってたのか忘れてしまい話はまったく進んでいません。ついでに内容も微妙な気がする!残念!
でも、とりあえずどうぞー
「はい、姉さん。あーーん」
「あむ。ムグムグ………いやえっと、ティファニア?」
「はいはい、次はこっちね? あーーん」
「いや、あのね?」
「あ、こっちの方がいい?」
「そーじゃなくって! なんであたしを膝の上に乗せるんだい!」
なんとなく大人しくティファニアさんの膝の上に乗せられていたフーケですが、そのおかしさに気付き暴れ始めました。
「だって、姉さんこんなに小さくなっちゃったんだもの。膝に座らないとテーブルに届かないでしょう?」
「届くよ!? 普通に届くからね!? というか、あたしより小さいジャリ達も普通に座ってるでしょうがっ!!」
「じゃあもっと小さければ膝に乗せてもいいのね? ユエさん、もう一個お願い出来ますか?」
「するんじゃない!」
気絶したフーケをベットに寝かせている間に私がティファニアさんに事情を説明すると、彼女は少し考えるそぶりを見せた後自分にも一つ欲しいと言って来ました。特に断る理由もなかったので一粒彼女の手に乗せると、ティファニアさんはしげしげと詐称薬を眺めた後おもむろに寝ているフーケの口に放り込んだです。急に異物が口の中に入って来た事に驚き飛び起きたフーケが煙に包まれ、出てきた時は更に幼い5,6歳の姿になってました。それからティファニアさんは嬉しげにフーケを抱き上げると、その後1度も下ろそうとはしませんでした。
そして、昼食の準備が終わり食事を始めた今もフーケが離れるのを許さず終始膝の上に乗せているです。
「というか、何であたしは更に小さくなってるんだい!? このままドンドン小さくなっていくんじゃないだろうね!?」
「大丈夫ですよ。その姿はもう一つ薬を飲んだからそうなっただけで、そのまま変化し続けるなんて事にはならないです」
「なんで更に飲ませたんだい!! 戻せっていったろ!?」
「いえ、ティファニアさんがどうしても欲しいというので一つ差し上げた所、なんの躊躇もなしに貴女の口に放り込みまして」
「ティファニア!?」
「えへーー。だってユエさんが、飲めば小さくなるって言うからつい」
「つい、じゃないでしょうがっ! ついじゃ!!」
膝の上で暴れるフーケを危なげなく支えながらティファニアさんはとても楽しそうに彼女の頭を撫でています。今のフーケは本当にただ小さいだけの少女なので多少暴れたとしても日々ヤンチャな子供達の相手をしているティファニアさんにとっては可愛い抵抗でしかないのでした。
「さっさ、そんな事よりお食事を続けましょーねー?」
「食事なんてどーでもいいんだよ! いいから元に戻しな!!」
「まぁ、ダメよ? 姉さん。食べ物があるのがどんなに幸せな事か姉さんが知らない訳じゃないでしょう?」
「そーゆー事を言ってるんじゃないんだよ!もーーーっ!!」
とうとうフーケが頭を抱えてしまいました。今のティファニアさんはまさにワガママな子供に対応する母親のような態度で、何を言っても暖簾に腕押し状態です。自分の意見が何一つ通らない状況に八つ当たり気味に私を睨んでくるです。
いえ、確かに詐称薬を渡したのは私ですが、そんなに睨まれても困るです。
今私達はティファニアさんのご好意により少し遅めのお昼ご飯をご馳走になってます。フーケにニューカッスルの位置を聞いたらすぐに出るつもりだったのですが、話をする前にティファニアさんの胸で落とされてしまったのでどうしようもなく、まだ本調子でないキュルケや、食べ物にものすごく執着心を見せるタバサの無言の訴えもあってそのままお呼ばれする事にしたのでした。
急に人が増えて大変でしたでしょうが、年長の子供達と一緒にささっと作ってしまったのは流石という他ありません。
「んふふー。こっちも負けずにいくわよー? あーーん」
「あーー……んむ。ムグムグムグ」
ティファニアさん達に刺激されたのか、キュルケもタバサを膝に乗せて甲斐甲斐しく食べさせています。まるで確認もしないのにタバサが食べ切ったのを見越して次を口に運ぶのは流石です。
「どう、おいしい? タバサ」
「おいしい。けど、邪魔」
「まぁ! なんて事言うのかしら。もう、悪い子ねっ! お仕置き代わりにサラダばっか食べさせちゃうんだからっ! あーーん」
「あーー……モグモグ」
自分の分を食べながら更にキュルケから差し出される分も食べるから口が常にいっぱいになってます。なんかハムスターを見てるみたいで和みますね。
このままキュルケたちを眺めていても仕方がないので私も食事を再開します。学院の食事と違って質素なものですが私にはこれ位がむしろちょうどいいです。野菜の入ったポトフの様なスープとパン、それに干し肉とサラダ。これだけでも十分な量があります。
「ユエ君ユエ君」
「……んむ? なんです? ギーシュさん」
「キュルケにタバサ、ミス・ティファニアにあの少女。これは僕らも対抗するべきではないかい?」
私がのんびり食べていると、隣からギーシュさんがそんな事を言いながら自分の膝を叩きました。つまり乗れと?
「遠慮するです。私は子供じゃありません」
「あたしだって子供じゃないわーーーっ!!」
私がギーシュさんのアホな提案を蹴ると聞いていたらしいフーケがまたしても暴れ始めました。そのままティファニアさんの膝から飛び降り、テテテッという擬音と共に私の所まで走って来ます。
「早くあたしを元に戻しな! こんな格好、もう耐えられないんだよっ!!」
「しかし、ティファニアさんが……」
フーケが魔法を解けと言う度に、ティファニアさんがものすごく悲しそうな顔をして訴えてくるんです。よほど小さいフーケが気に入っているんでしょう。
「ほっときな! 珍しく我儘言ってるけど、もうお終いだよ! 良い歳して膝の上で世話されるなんて、どんなイヤがらせだい!」
まぁ、良い大人が膝の上に乗ってるだけで恥ずかしいものですね。今までは可愛い妹分の我儘に付き合っていたみたいですが、流石に羞恥心が耐えられなくなったようです。
「イヤがらせなんて酷いわ姉さん! 私はただ今までお世話になってばかりだった姉さんのお世話がしたかっただけなのに!!」
「わざわざ小さくしてやらなくてもいいでしょうがっ!!」
「大きかったらお世話させてくれないんでしょ?」
「当然でしょうがっ!」
「じゃあやっぱり小さくしないと」
「すんなって言ってんのよ!!」
「でも、せっかく今までお世話になっていた恩を返すチャンスなのに」
「あんたは恩を返すとか考えないでいいんだよ!」
「でも、私が今日までこれたのはマチルダ姉さんのおかげなのに、姉さんには苦労ばかりかけて………」
「あたしは今のまま、あんた達とこうして暮らしてるだけで十分幸せだよ。だからあんたは何も気にせず甘えてればいいんだ」
フーケがとても優しい顔でティファニアさんの手を取り語りかけます。本当に大切に思っているというのが側で見ていても伝わってくるです。
ティファニアさんも感激したという表情でフーケの手を握り返しています。
「そんな姉さん、今のままでなんて………つまりこれからも小さいままで居てくれるのね!?」
「今は不幸だよ!! どういう解釈してるんだい!?」
ふぅ、結局どっちもお互いが大切という訳ですね。姉妹喧嘩はオコジョも食わないです。
もうキャンキャンやっているフーケ達は放っておくことにして、私は子供達が一生懸命食器を片付けているのを眺めつつ先ほど場所を聞く代わりに貰ったアルビオンの地図を広げてみます。本当は子供達の手伝いでもしようかと思ったのですが、お客様にそんな事させる訳にはいかないと言われてしまうと無理に手伝う訳にもいきません。
まぁ、確かに招待された側の私がいろいろ手伝うのは失礼と言えるですし、ここは大人しくしてるとしましょう。年長組の子供達は意外と手際が良いですし、心配いらなそうです。
私は広げた地図から現在地を探し出し、次いで事前情報として聞いていたニューカッスルという地名を探します。
「ここに降りる前に見た感じでは、現在地はこの辺りでしょうか? そしてニューカッスルは………ありました、ここですね」
地図がとても細かく描かれているおかげで知りたい情報がすぐに手に入りました。
「ユーエ、何してるの?」
かまいすぎてタバサが逃げたせいで暇になったキュルケが私のところまでやってきました。軽く地図を持ち上げてみせ、何をしているのか説明します。
「目的地の確認です。早いとこ行かなければ戦争に巻き込まれてしまいますからね。余りのんびりしてられないです」
「あー……、また移動? 流石にちょっと疲れちゃったんだけど」
「ここに居てもいいですよ? 全部終わってから迎えに来てあげるです」
「それじゃ、ここまで来た意味がないじゃないの! 私も連れていってよね!」
キュルケが我儘を言うです。
ドラゴンの背に一晩中座っていた事を考えると分からなくはないですが。
「まぁ、日が暮れるまでは動きませんからそれまでしっかり休んでて下さい。暗くなってからシルフィードで飛べば目立ちませんし、この距離ならすぐ着くです」
生意気にもシルフィードの飛行速度は電車並、悔しいですが私が機動箒で飛ぶより幾分かは速いうえに4,5人乗せても大丈夫だというのですから移動手段として使わない手はありません。
「ふぅん」
ストンと隣に座ったキュルケはひじをつきながら私の顔を覗き込みます。
「それにしても、ユエは全然疲れてなさそうね」
「私も疲れてますよ」
「そうは見えないけどー?」
「私は徹夜にも慣れてますからね。そのせいでしょう」
それでも本を読むとかではなくドラゴンに乗っての徹夜など初めてなので、いつもよりずっと疲れてます。こういう時栄養ドリンクがあるといいのですが、ハルケギニアにはありませんからね。我慢するしかないです。
「キュルケも随分疲れて見えるですよ? 一旦寝た方が良いです」
「そう? まぁ、確かにちょっと頭が重いかもとは思うけど」
「目の下にクマが出来てるです」
「えっ!? やだ、どうしよう!」
「目元を温めて寝るといいですよ。血行が良くなってクマも消えるはずですから」
「……そうね。どこか部屋を借りて寝る事にするわ」
「ええ、おやすみです」
いつも美容に気を使っているキュルケとしてはクマが出来た事は随分ショックだったみたいですね。ふらふらと部屋を出て行く彼女を見ていたら、私にも眠気が襲ってきました。これは私も一旦寝るべきですか。何かあった時、寝不足で不覚を取るなんて無様な真似はしたくありませんし。
私は使われていない家がどれかギーシュさんを突いて遊んでいた子供達に教えてもらい、その一室を借りて眠る事にしました。寝袋を亜空間倉庫から取り出して潜り込みます。いろいろ持って来ていて良かったです。
そうして1時間半ほどで目を覚ました私は、気怠い身体を強引に動かして井戸に向かいます。水道の無い世界はめんどいです。フラフラしながら歩いていくと、木陰に座って本を読んでいるタバサを発見しました。
「タバサ、おはようです」
「……おはよう?」
「少し仮眠を取ってまして。その本はどこから?」
「そこの家に置いてあった」
ツイっと手を上げて近くにあった家をタバサは指差したです。近寄って窓から中を覗き込むと、奥の方に置いてある本棚にはビッシリと本が並べられていました。
「結構な数ありますね」
「歴史やエルフの本が多かった」
「ほほう、エルフの事が書かれた本というのは珍しいですね」
「学院の図書館にも少ない。とても興味深い……」
ハルケギニアでは、エルフは恐怖の対象であり不倶戴天の敵という認識らしいのですがエルフについて書かれた本と言うのは驚くほど少ないです。少し興味を覚えた私は、急いで顔を洗い本棚のある家にとって返しました。鍵のかかっていない扉を開けて中に入ると、微かな埃と紙の匂いが漂って来ました。
「使われていない様に見えて結構手入れされてるですね」
部屋の隅に目を向けてみても綺麗に掃除されていて、ここがキチンと管理されているのが見て取れます。私はそのまま歩を進め、先ほど窓から見た本棚のある部屋に向かいました。それほど広くない家なのですぐに目的の部屋まで来れたのですが、壁一面に並ぶ重厚な背表紙に圧倒されました。
「これはまた………、随分と立派な本達ですね」
一冊手に取って見てみると、装丁がしっかりしていて随分手の込んだ仕上げがなされていました。街の本屋にあるような簡素な物ではなく、立派な図書館などに並んでいそうな本達がこんな民家に並んでいるなんて、かなり違和感を覚えるです。
「これらもフーケとして盗んできた物なのでしょうか?」
ずらりと並んだ本を一つずつ指でなぞりながらタイトルを確認して行くと、タバサの言っていた通り歴史書が多いようですね。パッと見たかぎりではエルフ関連の本と分かる物は無いですが、開いてみれば『砂漠の民』という文字がチラホラありました。ストレートにエルフと書くのは抵抗があったのでしょうか?
何冊か抜き出し斜め読みして内容を確認していると、本を抱えたタバサがやって来ました。
「おやタバサ。もうそれは読み終わったのですか?」
「そう。次を探す」
「ふむ、私も何冊か読んでみますか。日が沈むまでもうしばらく時間がありますし」
そう呟いて本の物色を始めると、隣に来たタバサがフワリと浮き上がって棚の上の方に持っていた本を戻しました。そのまま見ていると、タバサは戻した本とは別の本を手に取りパラパラとページを捲って次に読む本を選びだしたです。
やはりこの【 フライ 】という魔法は便利ですね。こうして本を物色するには持ってこいな魔法だと言えるです。箒だと狭い部屋の中で飛ぶのは難しいですし、私もそろそろ本格的に浮遊術の練習をしてみますか。
フワフワ浮かぶタバサを見ながら今後の修行法を考えていると、本を選びながら横に流れてきたタバサがほぼ真上にやって来ました。なかなか夢中で選んでいますが下にいる私からシルクの下着が丸見えですよ?
「おや……?」
タバサの揺れるお尻の少し横、分厚い背表紙が並ぶ本棚の中に何故か薄い背表紙が見えるです。
……あの薄さ、ハルナの本棚に入っていた少しページ数の多い同人誌によく似ているです。まさか、こんな立派な本棚にハルナが持っているようないかがわしい本が入っているとでも言うのでしょうか?
「むむむ………」
背表紙にタイトルが書かれていないせいで、ここからでは何の本か分からないです。ですが、もしハルナの本みたいないかがわしい内容なら、このままタバサに見せるのは教育上よろしく無いのではないでしょうか? 1度ハルナに読まされた事があるですが、あの衝撃はなかなか忘れられるものではありません。耐性がないであろうタバサがアレを見れば精神をやられてしまうのは確実。もし耐え切り覚醒しようものなら、大切な友人が冥府魔道に堕ちてしまうです。そうなったら私はどうすればいいのでしょうか!?
「ユエもキュルケ?」
「……はい?」
私がハルナっぽくグフグフ笑ながら本を読んでいるタバサなんてものを想像していたら、上からタバサの少し戸惑ったような声が聞こえてきました。我に帰りタバサの方を見ると、彼女はジッと私を見ながらスカートを押さえてパンツを隠していました。
「ユエもパンツ見るの?」
どうやら私が上を見ながら唸っているのを、キュルケの様に下着を覗いていると勘違いしたようですね。失敬な。
「いえ、私が見てるのはそこにある薄い背表紙の本です。断じてキュルケの様な真似はしていません。」
「そう」
タバサは安心したように一つ頷きスカートから手を放しました。フワリとスカートが広がりまたタバサの白いパンツが見えるようになった訳ですが、乙女としては見えないように気を配ることをお勧めするです。
「ですがタバサ、見せていい訳ではないですよ?」
「ユエならいい」
「いえ、私相手でもちゃんと隠して下さい。そんな無防備でいると、またキュルケが暴走するですよ?」
本を取ろうとしていたタバサがピクッと震え、スカートを押さえながら素早く降りて来て軽く辺りを見回しました。
どうやらキュルケが飛びかかって来ないか警戒しているようですね。よほど『女神の杵』亭で襲われたのが怖かったのでしょう。無表情ながらキョトキョトと見回すさまは猫のようです。
私はその隙に件の薄い本を本棚から抜き出します。何の革を使ったのか分かりませんが、深い緑色をした落ち着いた装丁で綴じられたその本は、ぱっと見おかしな所はどこにもありませんでした。しかし、そういう風にカモフラージュしているだけかもしれないので油断は禁物です。話の展開に関係無く、いきなりそういった描写が始まるのはその手の本には良くある事で、表紙が普通だからといって中身まで普通とは限りません。
私は覚悟を決めてその本をゆっくりと開きました。もし私が心配した通りの本だったら、タバサに気付かれない内にどこかに隠してしまわねば………
「……ん?」
開いたページには実に見事な筆致で描かれた挿絵がありました。左上に数行の文章が書かれていて、挿絵の補足がされてます。何ページか捲ってみても心配していたような絵は出てきません。これはつまり、
「絵本?」
「の、ようですね。……っと、タバサいつの間に」
「ユエが眉を寄せながらその本を見てる間に」
「気配に気付かないとは私もまだまだですね」
一つの事に集中し過ぎる癖は早めに直さなければいけないですね。これでタバサが敵だったら私は簡単にやられてしまっていたでしょう。
まぁ、それはともかく私の心配は杞憂だったようで安心したです。よく考えたらハルナの同人誌みたいな物が中世に近い文化であるハルケギニアにある訳ないのですが、どんな事にも例外は付き物ですからね。用心するに越した事はないです。アレはそれ程危険な物なのですから。
「それ」
以前見たハルナの本を思い出してゲンナリとしていると、タバサが私の持っている本に興味を抱いたらしく、ちょこちょこと寄って来てページを覗き込んできました。
「あぁ、単に他の本に比べて極端に薄いので一体どんな本かと思っただけですよ」
「違う」
「ん? これを取った理由が聞きたかった訳ではないのですか?」
タバサは開いたページを物凄く熱心に見つめています。何か興味が湧くような事が書かれていたのでしょうか?
私もタバサと同じように絵本に目を落とします。絵だけでも十分に話が分かるよう構成されていて、まだ文字が読めないような子供用に作られた物のようです。
「こんな本、見た事ない」
「絵本を……ではないですね。一体なにがです?」
「話の内容。……最初の方は見た事ある。けど、途中から全く違う展開になってる」
タバサがいつもより興奮したように目を見開いて絵本のページを捲っていきます。話としては始祖ブリミルが邪悪なモンスターを退治するという内容なのですが、タバサがいうには巷で出回っている物と内容が異なっているとか。
「……ここから」
本のちょうど真ん中あたりまで来た所でタバサはページを捲るのを止めました。
「ここから違う話になってる。私が見た本では、始祖ブリミルが攻めて来たエルフを退治するという話だったのに、この本では退治するどころか協力して巨大なドラゴンと戦ってる。エルフと協力するなんて話、普通はありえないのに」
タバサは更にペラペラとページを捲っていきます。その目は短い付き合いの中で見たことないほど輝いているです。
「私には普通の事のように思えるですが、それほど変なのですか?」
「変。エルフは敵、これは絶対。こんな風に人と協力するなんてあり得ない。そしてそんな話が書かれた本は今まで見たことがない」
「エルフを敵対視していることは知ってるですが、そこまでですか」
「もし書いたら、その作者はすぐに粛清される。関わった人もその本も全部」
「こうして本が残っている事もおかしい訳ですね」
「そう」
そのままタバサが本格的に読み始めたので、その本を彼女の手に持たせてあげました。彼女の言う通りならまず目にする事のできないものなのですから、同じ本好きとして夢中になってしまう気持ちはよく分かるです。彼女が満足したら私も後学の為に読ませて貰うとしましょう。ハルケギニアの文化を理解するにも有効でしょうし。
さて、当初の心配事も杞憂に終わった訳ですし、私も何か読むとしましょう。タバサの横から顔を出して一緒に絵本を読むのもいいですが、流石に読みにくいので素直に別の本を探すことにするです。
私は本棚に並ぶタイトルを端から順に眺めて行きます。
ざっと見た所、3分の1がエルフ関係の本で、残りがハルケギニアの歴史書のようですね。何冊か開いて見るも、歴史書の内容は学院の図書館でも見られる物ばかりでした。
「ふぅむ………どうせならここでしか読めない物がいいのですが」
私が本格的に物色を始めてしばらくすると、外をバタバタと走る足音が聞こえて来たです。次いでバン! と窓が叩かれる音がしたので振り向きますが、窓の外には誰も居ません。不思議に思い窓に近づこうと足を一歩踏み出した所でこの家のドアがけたたましい音を立てて開かれたです。
「こんな所に居たのかい紫チビ!!」
人の事を妙な呼び方をしながら飛び込んで来たフーケことマチルダさんは、どこから持ってきたのかやたらとフリフリな服を着ていました。少々荒いですがスタイル的には甘ロリというんでしたっけ? エヴァンジェリンさんがたまに着ているものに似てるです。おそらくパーティドレスに手を加えて作ったものなのでしょうが、小さくなって少女特有の可憐さを持ったフーケにとてもよく似合ってるです。エヴァンジェリンさんもそうですが白人系の顔立ちを持つ人はフリフリが似合うですね。
「………紫チビというのは私の事ですか?」
「いい加減このチビ化を直しな! テファがもう面倒くさくて仕方がないんだよ!!」
「直せと言われましても………」
パカリと携帯を開いて時間を確認すると、最後にフーケが詐称薬を飲んでから3時間は経ってました。薬の効果は手を加えなければ2時間ほどで切れるはずなのですが。
「普通ならとっくに効果が切れてる時間なのですが。……よっぽど薬との相性が良いんですね」
「どうにか出来ないのかい!?」
「薬の効果を消すのは簡単ですが。このまま消すとその服が破れてしまいますよ?」
「ぐっ!? ……だったら着替えれば問題ないんだね? さっさと行くよ!」
フーケは私の手を取り強引に連れて行こうとしますが、いくら小柄な私といえども5歳児サイズになった彼女には少々分が悪かったようで、進めなかったフーケが引っ張った反動でつんのめり、ポテンと尻餅をついてしまいました。
そして私をキッ!と睨み付けてきたです。
「そんな睨まれましても……」
「あーーっ!! もう! さっさと来なよ! テファが来ちゃうじゃないかっ」
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないですか。小さい子を構いたくなるのは分からなくないですよ」
「限度ってもんがあんだろうが。昔の服を引っ張り出して来たり、バラして新しく仕立て直したりまでして着せ替えされるんだよ。あたしゃ人形にでもなった気分さ」
フーケが自分のスカートを引っ張りながら不満気に頬を膨らませています。
「すこぶる似合ってるですよ?」
「喧しいっ!」
20代女性という事を忘れてしまうほど自然な仕草に思わず褒めたですが、フーケは気に入らなかったようで思い切り怒鳴られてしまったです。
『あら? こっちから姉さんの声が………』
「げっ!? まずい、テファが来ちまう! ずらかるよ!!」
フーケは衛兵にでも追われてるようなテンションで私の手を掴むと、全身の力を使ってグイグイ引っ張っていきます。抵抗せず為すがままになっていると、部屋の奥まで連れて行かれ床に開けられた穴に放り込まれたです。
「な、なんです? ここは……」
そこは大人が立って歩ける程広い通路でした。おそらく魔法で掘削したであろう滑らかな手触りの壁がずっと向こうまで続いており、どこからか入ってくる風が、か細い音を立てて流れていました。
「よっと。ここは万一の時の為に作った脱出路さ。職業柄逃げ道は常に用意してあるんだよ」
小さい身体に苦戦しながら壁に掛けてあった梯子を降りてきたフーケが自慢気に説明してきました。
「なるほど、『錬金』の魔法で掘ったのですね」
「まーね。私に掛かれば簡単なもんよ。それより逸れないようにしっかり付いてきなよ? 迷子になって泣く事になるからね」
置いてあったランプに魔法で光を灯し、フーケはズンズンと奥に向かって進んで行きます。私も仕方なく付いていくと、数十秒程で出口に到着しました。フーケがランプ片手に壁の一部を弄ると、カコッという軽い音と共にロックが外れ、人ひとりが通れるくらいの隙間が出来たです。
スルリと中に入って行くフーケに続くと、そこは誰かの寝室らしい質素な雰囲気の部屋の……タンスの中でした。
「何故タンスなのですか……」
「そのままドンと抜け道があったら意味ないだろ? 寝室にあっても不自然じゃない、とっさに入れて扉を閉めれば時間も稼げる。これほどいい場所は他にないんだよ」
そんな事を言いながらフーケはストンとタンスを降りると、ゴソゴソと下の引き出しを漁り始めました。
「まぁ、とりあえずこれでいいか」
お目当ての服をベットに放り出したフーケは、サッサと自分が着ているティファニアさん特製のドレスと下着を一気に脱ぎ捨てました。5歳児サイズとはいえ、恐ろしいほどの脱ぎっぷりです。
「ほら、これで服は破れないだろ? 早く直しておくれ」
「はぁ………。まぁ、良いですが……」
素っ裸でどうしてここまで堂々と出来るんでしょう? 5歳児サイズとはいえ、人に見られて恥ずかしいとは思わないのでしょうか。……そういえばエヴァンジェリンさんも堂々と裸でウロついてましたし、中世産まれの人はみんなそういうものなのかもです。
「じゃあ、やりますよ?」
「あぁ、さっさとな」
このままでも別に良い気もするのですが、まぁこれ以上文句言われても面倒なのでサッサと直しますか。ベットの前に立っているフーケ目掛けて魔方陣を発動させます。
「ぅおっ!? なんだい? これはっ」
騒ぐフーケを無視して魔方陣の設定を変えていきます。呪文を唱えつつ円になっている部分に文字を打ち込んで、更に別の魔方陣を重ねていき魔法薬を打ち消す効果が出るように組み立てて解除の魔方を完成させました。
「行くです」
「う、うん」
魔法を発動させると、魔方陣に手を伸ばして不思議がってたフーケはビクリと跳ね光り始めた魔方陣から一歩離れます。そして魔方陣から出た光を浴びたフーケがポンと煙を出して元の姿に戻ると、自分の姿を見渡して大きくため息を吐いたです。
「おぉ……、やっと戻ったかぁ」
「………早く服着て下さい。流石にその姿で全裸はおかしいです」
「へいへい。ジャリに見られて恥じるような身体はしてないっての」
「……もしや、人に見られる事を恥ずかしいとは思わない人ですか?」
「そんな訳ないだろ? ここは自分の家で、見ているのは年下の同性、隠す必要がないだけさ。ジャリ共を風呂に入れるのと変わらないよ」
子育て的な思考を私に適用しないで欲しいです。かといって変に意識されるのもイヤですが。
フーケは出してあった服をテキパキと着ているのですがそれを見ているのも変なので、私は今いる部屋の中を観察します。ベットが一つにタンスが二つ、あとはランプがあるだけで余り飾り気がないですね。服を出していた事からフーケの部屋なのでしょうが、国を騒がす怪盗の自室にしては何もありませんね。
「……おや?」
飾り気のない部屋に鮮やかな色が見えたです。ベットに座ってタイツを履いてるフーケの少し後ろにあるタンスの上に、ピンク色の何かがあります。
「あの……タンスの上にあるアレはなんですか?」
「……ん? あぁ、あれはテファが昔遊んでたブタの人形だよ。子供の頃は私とテファだけだったからね。森の中で人形使って良く遊んだもんだよ」
異世界でもおままごとってあるんですね。さっきのミニフーケと小さいティファニアさんが森の中でおままごとしている所はなんとも微笑ましいです。なんとなく切り株をテーブルにしてるイメージが浮かんできました。
「ちなみに名前はフランソワーズだよ」
「ブフッ!」
ピンク色でフランソワーズ。………キュルケとルイズには教えない方がいいですね。キュルケは必ずからかいのネタにするでしょうし。
「あともう一個人形があったはずだけど………。テファかジャリ共が持って行ったのかね?」
服を着終わったフーケがタンスの上を覗き込みながらそんな事を呟きます。
「もう一つ人形があったのですか?」
「あぁ。メイドみたいな服を着た奴がね。スヴェルの夜の機嫌が良い時だけ喋る変な奴さ。テファはやたらと気に入ってたけど、あたしはどうもソリが合わなくてね」
「そうですか……」
タンスの上やら裏やらを覗き込んでいたフーケが、不意にドアの向こうへ顔を向けると、顔色を変えてすぐさまタンスの中に飛び込もうとしました。
「な、どうしたですか?」
「……っと、そうだった。もう逃げる必要はないんだっけ」
誤魔化すように頭を掻きながらタンスから身体を引っ張り出すフーケ。耳をすますと、パタパタと走る足音がこの部屋に近付いてくるのが分かりました。どうやらティファニアさんが来るのを察知して、先ほどまでと同様に逃げようとしたみたいですね。
「姉さん、ここに…………あぁっ!!」
予想通りカチャっと扉を開けた入って来たティファニアさんが、大人の姿に戻ったフーケを見てそのままパタリと倒れこみました。
「も、元に戻っちゃってる。これから一緒にお風呂に入ろうと思ってたのにぃぃぃ」
「はっはっはっ、残念だったねテファ。私の代わりにジャリ達を入れてやりな」
「私は姉さんと入りたかったのっ! 身体を洗って、肩まで浸かって10数えましょうねーってしようと思ったのに……」
「あたしゃ肩まで浸かるのは好きじゃないんだけどね。まぁ諦めな。ほら、この服もジャリ達の誰かに着せてやりな。可愛いカッコしたい奴もいるだろうし」
フーケはそう言ってさっきまで自分が着てたフリフリの服をティファニアさんに渡しました。落ち込み気味な表情のティファニアさんがそれを受け取りつつ小さく唇を尖らせます。
「みんな可愛いのイヤがるから姉さんに着せたのに」
「あたしもフリフリは似合わないからイヤなんだけど?」
「似合ってましたよ?」
「やかましいっ」
素直に褒めたのに怒られたです。なんと理不尽な。
誤字とか大丈夫かなぁ。一応見直したけど、それでもあるのが自分だし・・・
最近「本好きの下克上」という小説を見つけてはまっております。「なろう」で毎日結構な文字数で更新されていて、そのうえ面白いという凄い作品です。
自分もあれくらい書けたらいいんだけどなぁ。