遅れてすいませんです。
オリジナル要素を入れようとしてると、構成が難しくなっていきます。さぁ、妄想よ。もっと話を作り出すんだぁーーっ!!
なんて、ではどうぞ〜
夜に動いてもアルビオンに着けるか微妙なので、1度宿に戻ると言う意見を出したですが、ギーシュさんがしきりに姫殿下の名誉の為にも今すぐ追うべきだと、駄々っ子のように主張するので、仕方なくそのまま飛び出して来た訳です。
まぁ、星があるので方角を間違う事はないのが救いですが、シルフィードの体力が尽きるまでにアルビオンへ到着出来るといいのですが。
「いっざっ、すっすっめーやぁードラゴン! めっざすはーっアールービーオンっ!!」
「うるさいわよギーシュ! 静かにしなさい!」
「いいじゃないか。ここは空の上。誰にも迷惑は掛からないよ」
「私達に掛かってるでしょうが!」
私を挟んで喧嘩しないで欲しいです。
シルフィードの背は私達にはそれなりに広く、縦一列になれば4人くらい簡単に乗れるです。席順は、前からタバサ、キュルケ、私、ギーシュさんです。
タバサはシルフィードの主人で指示もしないといけませんから1番頭に近い所に座り、そうしたら自然にキュルケがタバサを抱えるようにその後ろに座ったです。タバサはシルフィードの背ビレに掴まり、キュルケの胸を枕にしてゆったりと座っています。まぁ、クッションにするにはいい大きさですね……。
「しっかし、まったく船が見えないな。方角間違ってはないだろうね?」
「間違いない」
「星の位置で方角は確認してるからちゃんと向かってるって。すぐ追い付けるかと思ったけど、船って結構速いのね」
キュルケは暖房代りにタバサを抱き締めながら、暗い空に目を凝らしているです。彼女の使い魔であるフレイムさんの尻尾の炎を灯りにして船を見つけようとしてるですが、綺麗な星と暗闇しか目に入りません。因みにギーシュさんの使い魔はシルフィードが手で持ってます。最初は口に入れようとしたですが、シルフィードのヨダレが凄い事になり、ヴェルダンデさんが怯えまくったので手で持つだけになりました。シルフィードがとても残念そうでしたが。
「追い付くのは無理でも、目的地に先回りくらいしたいですね」
「それにはどこに向かったか分からない事には無理よ。手紙でも飛ばせればいいのに」
「手紙ですか。………念話が届けば楽なんですがね」
「念話ってなんだい?」
私の独り言に、後ろのギーシュさんが反応したです。このメンバーではギーシュさんだけ私の魔法の事を知らないんでした。
「あぁ、いえ……」
どうしましょう? 教えて口止めしておけばいいでしょうか? いえ、そうやってなし崩しに知る人を増やして周りに広まっても困るですし……
「ユエ君?」
「まぁ、いいですか。念話とは、遠く離れた人と話す事の出来る魔法です。簡単に言うと遠見の魔法の会話版です」
携帯を使わなくても離れた人と会話出来るので便利ですが、余りに離れると届かないのが不便です。そういう時は携帯を媒体にして届かせる方法もありますが、普通にアンテナがある現実世界では使う事のない魔法です。こちらでは使う事もないだろうと思ってたですが、今はルイズ達にワルドさんの危険性を伝えなければいけないのでどうにか届けたいですが、媒体になる携帯を私しか持ってない現状では上手く出来るか分からないですね。
「ほぉー、そんな便利な魔法が東方にはあるのか。戦時中はさぞ活躍するんだろうな」
「いえ、それを妨害する魔法もあるのでそれほどではないですよ」
「まぁ、そうだろうな。で、その魔法でサイト君達と連絡を取るのかい?」
「そうしたかったのですが、ちょっと遠過ぎるです。才人さんも媒体を持っていればどうにかなるですが」
私は倉庫から携帯を取り出して電源を入れてみます。
才人さんも持っていれば念話の術式を使ってかける事が出来るのですが、私だけじゃ意味がないです。あ、電池が切れかかってるです。
「それが媒体かい? 面白いマジックアイテムだね?」
「へぇ〜……。ユエ、私にも見せてくれる?」
「えぇ、どうぞです」
キュルケに携帯を渡し、私はダメ元で念話の術式を起動してみます。届けばよし、届かないのなら仕方なし。と言う気持ちで呼び掛けますが、才人さんは元より、ルイズにも届かなかったです。
「ほら、タバサ。なんか光ってて綺麗よ?」
「ん」
タバサの前まで腕を伸ばして、携帯を眺めているキュルケ。相手が居なければただの光る板ですから、眺めるしかないですね。
「それで、ユエ君。あれでどう離れた人と会話するんだい?」
「あれを耳に当てると相手の声が聞こえるので、そのまま喋ると相手に自分の声が聞こえるです」
「へぇ、便利だねぇ」
携帯をマジックアイテムと言う事にして説明したですが、ギーシュさんの感想はかなり簡潔でした。もしかしたら私の魔法の事を言ってもそれほど驚かないかもしれないです。深く考えない人ですし。今度教えてもいいかもです。
『チャララ チャッチャチャーラチャーララララッ♪ チャラッラチャーラチャーラララーッ♫ チャラーーラチャチャラッチャッチャッチャーラーラーーッ♬』
「うひゃあっ!? なによいきなり!?」
「……え?」
軽快なリズムで鳴り出した携帯の音とキュルケが驚いて上げた声に、考え事をしていた私は動けなくなりました。着信音が鳴っているという事は誰かから電話がかかってきたという事で、しかしここは電波など届かない異世界。アンテナも無いのでかかって来るはずが………
「ちょっとユエ! これどうすればいいのっ!?」
「何だ、楽器だったのかい?」
「い、いえ……。キュルケ! 貸して下さい!!」
私は慌ててキュルケから携帯を受け取り、画面を見つめました。誰からかは分かりませんが、連絡出来ないはずの異世界にかかって来たこの電話には、なにかしらのヒントがあるはずです。
私は通話ボタンを恐る恐る押して、ゆっくりと耳元に持っていきました。
「も……もしもし? どなたです?」
『ユエさん!!』
いきなり響いた大声に思わず携帯を遠ざけてしまったです。
『ユエさん! あなたユエさんですわねっ!? 一体どこに居るんですの! 予定日になっても来ないわ、ニュースであなたが乗ってるはずの飛行鯨がボロボロで寄港したとか言い出すわ、インタビューであなたらしき人が
耳元から離しても響いてくる大声に、私のみならずキュルケやギーシュさんも耳を押さえてしまいます。
「え、
『どうやってじゃありません! 以前の様に軍の回線に割り込んであなたに繋がるまで掛けまくったんですわ! だと言うのにあなたは何を呑気な………ちょ! コレット! カッツェ! まだ話は終わって……』
『はいはーい。ユエと話せて嬉しいのは分かったから、ちょっと後にしようねぇ』
『そうニャ。委員長じゃ話が進まないニャ』
何やら向こうでドタバタやってる間に、今度はビーさんが電話口に出ました。
『ユエさん……』
「ビーさん、ご無沙汰です」
『ユエさんも元気そうで何よりです。それでユエさんは今どこに居るのですか?』
「私が今居るのはハルケギニアと言う所で、
『異世界、ですか。それは……』
『ユエさん! それはどういう事ですか!? アリアドネーに来ないで、そんなどことも分からない所にっ!……ええい! 2人共放しなさい!』
『もう委員長! 私達だって話したいんだからねっ!!』
『そうニャ。こう言うのは順番ニャ』
電話の向こうでまたしても争う音が聞こえて来るです。
「あー……、ビーさん。とりあえず話しを続けるですよ」
『はい。それで、ユエさんは何故戻って来ないのですか?』
「それが、ここはまったく違う世界のようで、こちらから戻る手段がないのです」
私がそう話すと、向こうでガタガタと騒音が響いて来たです。しばらく待っているとまた
『ユエさん! 戻れないとはどう言う事ですか!! そちらは
「
『なんですか! あなたがちゃんとこっちに来ないのが悪いんでしょう!? それより、どうしても帰る事は出来ないのですかっ!?』
一つ言うと更に高いトーンで返って来たです。おかげで私の耳は限界寸前です……
「ここは
『一体どうやったらそんな所に行けるんですか!』
それは私も聞きたいです。あの魔力渦がなんだったのか分かればもう少しなんとかなるですが。
「
『魔力渦ですって? 天然の
あ……、バッテリーが無くなったです。このままではせっかくの手掛かりが無くなってしまうです!
「キュルケ! ちょっと持ってて下さい!!」
「え!? ちょっと、何の話をしてるのユエ!?」
『ユエさん!? 誰ですの! そのキュルケとか言うのは!! また貴女はヨソで女を作って!!』
『委員長、本音が出てるニャ』『素直になればいいのに』
何やら騒がしいですが、気にして居られないです。急いで充電しなくては!
この携帯は電気が自由に使えない
「ネジ……、ネジはどこに……? ネギ先生の写真?
キーワードを唱えればすぐ出て来るはずの亜空間倉庫なのに、出て来るのは関係ない物ばかり。微妙に違う物やまったく関係ない物が出て、欲しい物が出て来ないです!
「ちょ! ユエ! もう持てないから! ……あ、いい男。ユエ、この人だれー?」
『ユエさん! ちょっとユエさん!? 返事なさい!!」
ネジネジ………あったです! 何故すぐ出て来ないですか、まったく!
「キュルケ、携帯を下さい!」
「え? ケイタイって、どれ?」
「最初に渡した光ってるやつです!」
キュルケから携帯を受け取りネジを一気に巻いて行きます。ギギギっと音を立てて魔力を籠めていき、充電を終えた携帯を耳に当てると、ツーツーと言う音が聞こえるだけで
「…………切れてるです」
画面を見ると通話終了と出てました。ネジを探している間に切れてしまったようですね。私はもう1度
念の為にのどか達にも掛けてみますが繋がりそうもないです。いつも充電しておけば良かったですが、失敗したです。
「ユエ君、どうしたんだい? 今の声は一体……。どこの言葉か分からなかったんだが」
「ユエー……、これはいつまで持っていればいいのかしら?」
私が携帯を睨みながら猛省しているとギーシュさんとキュルケに声を掛けられ、ハッと目を覚ましたです。慌ててキュルケから渡した物を受け取り倉庫に放り込みます。
「それで最後ですね。………キュルケ?」
「ユエ、これくれない? このカップに描いてある絵の人が気に入っちゃったわ」
そう言ってナギカップに印刷されているナギさんの顔にキスをするキュルケ。ナギさんは、面食いのキュルケのお眼鏡に適ったようですね。異世界にも通用するとはナギさんの威光は凄まじいですね。って、それはおいといて……
「まぁ、何個かあるのでいいですよ」
「ありがと! いい男ねぇ。ユエはこう言う男が好みなの?」
「いえ。それは私の世界の有名人です。私の友人がその人が好きでそう言うグッズを大量に持ってまして、何個もある物を私にくれたんです。そのカップだけで4つあるんで、一個くらい構いません」
コレット曰く、使用用、保存用、布教用、予備用との事ですし、布教用のカップを渡したとすればコレットに義理も立つですしいいでしょう。沢山あっても困るですし。それより問題は、どうして念話が繋がったのか検証しないといけないです。
私は携帯に探査の魔法を掛けて繋がった原因を探ろうとしますが、普通に携帯としての結果しか出て来ないです。
「ユエ君、さっきの声は何だったんだい?」
「あぁ、さっきのは私の故郷にいる友人です。どうしてか故郷と繋がった所だったですが、今はもう繋がらないようです」
「なるほど。さっきの言葉は君の故郷の言葉だったんだね」
ウンウンと頷いているギーシュさん。そんなに言葉が気になったんでしょうか?
「なかなか綺麗な声だったね。おそらく僕らくらいの年頃の女性だろう。少し気が強そうだが、人の心配が出来る優しい性格をしているに違いない。スタイルも良さそうだな」
「こ、声だけでそこまで分かるですかっ!?」
「僕ほどになればこれくらい簡単さ。言葉が分かればもっと詳しく分かるんだが、残念だ」
ギーシュさん、侮り難しです。声だけで
「今のって、ユエのお友達?」
「えぇ。私が留学しようとしていた学校に通ってるです」
「へぇ〜〜……、今のが異世界の言葉ね。なんだか興奮するわ」
しかし、どうして繋がったのでしょう……?
時間的な物でしょうか? それとも土地? 空の上だから? どれも仮説にもならないです。これが分かれば
私はしばらく携帯を弄りながらこの謎を解き明かすべく深く考え込んでいました。キュルケやギーシュさんの会話を聞きながらいろいろ仮説を立てて行くですが、どれも決め手に欠け、これだと言うものが出てきませんでした。青白い月を見上げて、私は久し振りに自分の世界の事を懐かしんでいました。
日も上がり、辺りが明るくなった頃にはようやく遠目でアルビオンとやらが視界に入りました。大きな島が宙に浮かび、流れ落ちる水が白い雲を作り出していて、なんとも壮観な眺めです。オスティアとはまた違った美しさですね。規模はこちらの方が大きいでしょうか? いえ、オスティアも全ての浮島を併せれば同じくらいになるですかね。
「いやぁ、絶景だねぇ。流石は『白の国』。素晴らしい」
「『白の国』とは何ですか?」
「アルビオンの別名さ。目の前で見て分かるように、一年中下半分が霧に包まれているから、通称『白の国』と呼ばれているのさ」
「ほほぉ、なるほどです」
確かに雲に浮かぶかのようなアルビオンの姿は、『白の国』と言う別名も似合うです。
「それでー、どこに降りる? 下手な所に降りたら革命軍に捕まるだろうし、あの子達がどこにいるか知らないけど、近い所がいいでしょう?」
「むぅー……、そうですねぇ……」
こちらは別に革命軍とも王家とも敵対する気はないのですが、ワルドさんが革命軍に所属してるようですし、おそらく向こうは私達を敵と見てるでしょうね。下手に見つかって追われでもしたら面倒です。そんな事になればルイズ達と合流するのも大変ですし、ヘマをして捕まろうものなら口封じに殺される可能性もあるです。まぁ、それは極端な例ですが、なるべく目立たないようにした方が良いですね。
「あの森辺りがいいかもです。シルフィードの巨体を隠すにも便利ですし」
「確かに、風竜を連れて歩いたら目立って仕方ないだろうね」
「じゃあ、とりあえず森に降りましょう。ね、タバサ?」
「ん。」
キュルケがまとめてタバサにそう提案し、タバサはキュルケの言葉に一つ頷いてシルフィードに指示を出しました。シルフィードはキュイと一声鳴いて指示通りに森に向かって飛んで行きます。
「森に降りたらどうするんだい?」
「街に行って、王党派がどこにいるか情報を集めるです。出発前はニューカッスル辺りに陣を構えていると聞いたですが、そこがどこかも分からないですし、1度地理に詳しい人に話を聞いた方がいいでしょう」
「なるほどな。じゃあ、降りたら街に向かうとして、どの街に行くつもりだい? 大きな街だけでも結構あるよ?」
そうですねぇ……
それなりに大きな街の方が見つかって逃げないといけない時も人に紛れて逃げられるですし、情報も集めやすいでしょうし……。
考えている間にシルフィードは森にある川の近くに降り立ちました。
「ん〜〜〜っ!! 長い事座ってたから体が痛いわ」
「一晩中風竜に乗ってたんだからね。僕も首がゴキって言ったよ」
皆さんようやく辿り着いた地面に座り、疲れを取ってます。流石に一晩中ドラゴンに乗ってたら疲れるですね。乗るための鞍がある訳でもないですし、掴まる所は背びれだけですし。
私も地面に座って固まった体をほぐします。普通に自分で飛ぶより疲れたです。ただ乗ってるだけですが、ちゃんと掴まっていないと落ちてしまうので足で挟み込みながら手は背びれを掴み続けるのですから疲れて当然ですね。
「それで、街に行くのはいいけど、どっちに行くの?」
「向こうです。少し歩くですが大きめの街があったです」
私は北東を指差して向かう先を教えます。距離的に半日も歩けば街に入れるでしょう。
「では、出発です。早く街に入って休みましょう」
私が声を掛けるとタバサはスッと寄ってきて準備をしますが、キュルケとギーシュさんは動きません。
「ユエ、ちょっと待ってー……。まだ腰が痛いのよ」
「すまない……。僕もまだ疲れがとれなくて。あと数分待ってくれ……」
ぐたーっとしたままキュルケとギーシュさんがそう言ってくるので、私とタバサは顔を見合わせて仕方ないとため息をつきました。慣れていたり、鍛えていないと長時間の飛行は消耗するです。鍛えているはずの私も結構疲れているですし。
「先に朝食にしますか。何か食べれば元気も出るでしょう」
「ん。」
私の提案にタバサも頷いて賛同してくれたので一緒に準備を始めます。
まずは薪を集める所からです。幸い森の中なので薪になる小枝には困りません。多少湿っていても魔法を使えば簡単に乾かせるので、すぐにそれなりの量が集まったです。
「フレイムさん、これに火を点けてくれますか?」
私の呼びかけに、フレイムさんはのっそのっそとやって来て組んだ薪に炎を1吹きして火を点けてくれました。魔法でやってもいいですが、せっかくのサラマンダーですしね。吹くだけで点くならそっちの方が速いです。
「さって、次は魚です」
「どうやって?」
横でコテンと首を傾げて聞くタバサに、実際にやりながら説明します。
「今回は人間4人と使い魔3匹分の数を獲らないといけないですから、ちょっと横着しましょう………
私は川の少し上流に向かって
「タバサ、魔法で今流れて来た魚を全部獲るですよ」
「分かった」
2人で協力して流れて来る魚を陸に上げ、それが終わるともう1度
「さて、次は山菜を採るです。やはり食事はバランスが大事ですからね。キュルケ、シルフィードが魚をつまみ食いしないよう見張ってて下さいね」
「え? んーー、わかったー」
木の根に座り込んでいるキュルケがそう言って手を振るのを確認して、私は森の中に入りました。学院に来る前につまみ食いされてますからね。用心するに越したことないです。
私はタバサと森の中を歩き回ります。流石にすぐには見つからないですが、一緒に来たタバサのおかげで食べられる物と食べられない物の区別は簡単に出来たので、1時間ほどでそれなりに山菜も集まりました。
採って来た山菜を、倉庫から出した鍋で湯がき、魚は枝をそのまま串にして焼いて行きます。サバイバル用に塩などの調味料も持っているので、十分美味しい朝食が作れたです。
「うわぁ……、こんなシンプルな朝食初めてよ」
「私はこう言うのの方がいいですね。学院の朝食は多過ぎるです」
「魚をそのまま焼くだけで結構美味しいものなんだね。初めて知ったよ」
貴族として豪勢な食事が普通だったキュルケやギーシュさんにも好評のようです。タバサはどうも慣れているようで、もくもくと美味しそうに食べてます。
「……でも、ユエってば結構手際良かったわね。簡単に魚も獲っちゃったし」
「これくらいは、サバイバル訓練をしていたらすぐ身に付くです。と言うより身に付かなきゃ食事にあり付けないです」
「あぁ………なるほど」
キュルケが納得したと言うように頷きました。私の訓練内容を思い出しているのでしょう、微妙に暗い顔をしながら魚を齧ってます。
その後は他愛ない会話をしながら食事をしていたですが、みんな食べ終わり火の始末をしようと言う段階でまずはシルフィードとフレイムさんが。次に私とタバサが、森の方から来る人の気配に気付きました。
「ん? どうしたの2人共」
「誰か居る」
「え?」
キュルケが慌てて森の方を見ますが、上手く隠れているせいか見付からないようです。私も気配感じたから見ているだけで、まだどこに居るかは分かりません。
「タバサ、分かるですか?」
「ん。正面少し左の木に隠れてる」
タバサの言葉を聞いて良く確かめてみると、何かの影が少し動いているのが分かりました。
「良く分かったですね」
「風のメイジは耳が良い。足音が聴こえた」
無意識に風を操り音を拾っているようです。私も風属性の魔法を得意とする魔法使いですが、そう言う技はないですね。これは見習うべき所です。っと、それは後回しにするとして……
「そこの人、誰です? 何かご用でしょうか?」
私が声を掛けると、その影の持ち主はビクッと震えて出ようかどうか迷っているかのように左右に揺れました。
私は杖を構えようとするキュルケ達を手で制し、こちらに害意がない事を伝えます。
「私達は貴方に危害を加える気はありません。ここらが貴方の土地で、私達が勝手に入っている事にお怒りだと言うのならすぐに立ち去るつもりです」
一応敵では無いと分かってくれたのか、そっと木の影から顔を出したその人はとても綺麗な女性でした。長くサラサラの金髪を靡かせて耳まで覆う大きな帽子を被ったその人は、木の影からおずおずと出てきたその女性を見た瞬間、キュルケが崩れ落ちました。
「………くっ! ま、負けたわ……っ」
いつもは自信に溢れているキュルケも、彼女の圧倒的な戦力に絶望したようです。なにせ彼女の胸は、素人目にもキュルケより大きいと分かるほどです。おそらくですが、那波さんよりも大きいでしょう。私は自分より大きい人など見慣れているのでなんとも思いません。えぇ、なんとも!
「ユ………ユエ君。僕を殴ってくれないか? これが夢かどうか確かめたいんだ」
「………自分でやって下さい」
アホな事を言うギーシュさんを無視して、私はこの胸爆弾を装備した女性に近付きます。私が動き出したのを見て少し怯えたようですが、やがておずおずとこちらに歩いて来ました。
「初めまして。ユエ・ファランドールと言います」
「あ、あの……はっ、初めましてっ!」
私が挨拶して握手をしようと手を伸ばすと、彼女は緊張気味にですが挨拶を返してくれ、オドオドと言った表現がピッタリの仕草で私の手を握りました。
「わ、わた私は、その……」
「落ち着いて下さい。私達は貴女に危害を加える気はありません。まずはゆっくり深呼吸して心を落ち着かせるです」
「は、はい! え……えーと……。ひっひっふー……ひっひっふぅー……」
何か産む気ですか、この人は。
そうやって何度か微妙に違う深呼吸をしている彼女は、私がこれまで会って来た人の中でも群を抜いて綺麗な容姿をしていました。蒼い目に透き通りそうな白い肌。ただ整っているだけでは出ない愛らしさも持ち合わせていて、どんな名工でも彼女の美しさを写し取る事は出来ないだろうと思わせる神々しいまでの美貌です。こちらの人は大概綺麗ですが、その中でももう1段上の美しさです。
そして、この大きな胸……。
これだけ大きいと言うのにまったく垂れてません。普通多少は重力によって下を向くはずなのに、ツンと上を向いて形を保ってます。目を凝らしてもこの大きさを支えられるほど頑丈な下着は見えないですし、天然でこの形を保っているようです。
チラリと視線を下に向けると、私の慎み深い膨らみがそこにありました。地面までしっかり見える程控えめなこの胸と比べるのが間違いだとは思うですが、この目の前で深呼吸と共にプルプルと震える凶悪とも言える膨らみは、私のとは次元が違うです。もう大きいからどうこうとひがめるレベルではないです。
思わず手を伸ばしてその感触を確かめてみたくなりましたが、流石に自重です。
「ふぅ……えっと……」
どうやら落ち着いたようですね。とりあえず名前でも聞いてみますか。
「名前を聞いてもいいですか?」
「は、はい。私、ティファニアって言います……」
「ティファニアさんですか。それで、私達に何か用があったですか?」
私が問い掛けると彼女、ティファニアさんはモジモジしながら何やら言い淀んでいます。その度にフルフルと揺れる大隆起。あれを枕にしたら、さぞ良く眠れそうです。
「その……特には……その」
「君! その大きな胸を触ってみてもいいかい!?」
「アホですかっ!!」
「アポロッ!?」
急に寄ってきてティファニアさんの胸を触ろうとしたギーシュさんを殴り飛ばしてセクハラを阻止します。なんとストレートに痴漢行為をしようとするですか、まったく。ほら、余りに突然なセクハラ宣言にティファニアさんも怯えてしまったじゃないですか。
「大丈夫ですよ? 指一本触らせませんから」
「ひゃ!! は、はゃい!!」
ギーシュさんのせいでやたらとビクついてしまったです。ビクビクしているティファニアさんの手を引いて焚き火の近くまで引っ張って行きます。そこには今だに項垂れているキュルケと、無表情のまま自分の胸をさするタバサがいます。
「どうぞ、ここにでも座って下さい」
「は、はい。ありがとうございます……」
さっきまでギーシュさんが座っていた平石に座らせて、私も自分の席に戻るです。
「それで、ティファニアさんはどうしてここに?」
「い、いえ、あの……。ただ大きな音がたくさんしたので、また兵隊さんが来たのかなって思って、様子を見に来ただけで……」
大きな音ですか。
あぁ、魚を獲る時に撃ち込んだ魔法の音ですね。結構大きな音が出たですし、かなり響いたのでしょう。
「その音は私が魚を獲る時に使った魔法の着弾音ですね。必要数が多かったので、発破電気漁をしてたです」
「はっぱでんきりょう……ですか?」
「爆発の衝撃で魚を気絶させて獲る漁法と、雷で魚を痺れさせて獲る漁法を魔法で一緒にやってたです。そこにいる魚を粗方獲ってしまうので継続してやると魚がいなくなってしまいますが、今日限りなので許して欲しいです」
「はぁ……」
イマイチ理解しきれていないようですが、まぁいいでしょう。
「先ほど兵隊が来たと思ったと言ってたですが、そんなにこの辺りには兵隊が多いんですか?」
「あ、はい。少し前から戦争が始まったせいか、時々兵隊さんが来るんです。道に迷っただけならいいんですが、家を荒らしたり、住んでる人に乱暴したりするんで注意しないといけないんです」
戦争中には、モラルの低下で兵隊が山賊まがいの事をやったりするらしいです。なまじ装備が整っているので、ただの山賊より厄介です。民間人では抗い難いですね。
「そんな注意しないといけない兵隊かもしれないのに、何故見に来たですか?」
「本当にそうだったら隠れないといけないので。子供達もいますから、乱暴されたら困るんです」
「あら? あなた子供がいるの? 同い年くらいだと思ってたのに」
ティファニアさんが子供の事を話していたら、意気消沈していたキュルケが復活したです。どうやら年上だから大きくても仕方が無いと納得したようです。暗い雰囲気で自分の胸を揉んでいたタバサも立ち直ったようでこちらに顔を向けました。
「……いえ、私の子供と言う訳じゃないですよ? その、戦争で両親を亡くした孤児達を預かっているんです。私の姉さんがアルビオン中で見付けてきた孤児を連れてくるんで、どんどん増えてきてしまって。今では子供達だけで一つの村みたいになっちゃってます」
どんだけ居るですか。
まぁ、若く見えて子沢山と言うのでは無かったようです。おかげでキュルケがまた意気消沈してしまったです。
「そんなに沢山子供がいると、食費だけでも大変そうですね」
「確かにそうですけど、狩りをしたり、自分達で野菜などを栽培してますから大丈夫なんです。姉さんも出稼ぎに出てくれて、お金を稼いで来てくれるのでなんとかなってます」
わざわざ出稼ぎしてまで孤児達を育てるとは、なかなか立派な人なのですね。
「いいお姉さんなのですね」
「はい! 小さい頃からずっと可愛がってくれて本当に大好きなんです! 最近はお仕事が一段落したからって家に帰って来てくれたので、一緒に過ごせて本当に嬉しくて……」
先ほどまでのオドオドしてた態度から一変、とても生き生きとした表情でお姉さんの事を語るティファニアさんは、とても魅力的で思わず見惚れてしまいました。その後も、ティファニアさんは子供の頃にお姉さんと一緒に遊んだエピソードや、たまに帰ってきた時の甘えたがりなお姉さんの様子などを身振り手振りで話していきました。目を覚ましたギーシュさんが話す度に震える胸を凝視している事も、何か折り合いをつけたらしく復活したキュルケが、フレイムさんを枕にしながら彼女の話を聞こうとして堪えきれずウトウトしている事も、タバサが話に飽きてきたのかずっと焚き火をイジって遊んでいたりするのにも気付かずに、2時間近く話し続けていました。
「それでですね………はっ!! す、すいません。私、つい話し込んでしまって……」
「いいえ……。貴女がどれだけお姉さんが好きかと言うのがよく分かったです」
「うっ……はうぅ……。恥ずかしいです……」
ティファニアさんはそう言って真っ赤な顔を帽子で隠す様に引っ張り俯いてしまいました。おっと、そうです。せっかくなので彼女にも
「そうです、ティファニアさん。一つ聞きたい事があるのですが……」
「な、なんでしょう?」
未だに顔は赤いティファニアさん。恥ずかしがりながらも顔をこちらに向けて聞く姿勢を取りました。
「貴女も知っての通り、最近王党派と貴族派との戦争が起こってるのですが、どちらがどこに陣を張っているとか聞いたことありませんか? もしくはその手の情報が手に入りそうな場所に心当たりはないですか?」
「え、えーっと、どうでしょう? 私、余りこの森から出ないものですから。お買い物をしに近くの街まで行く事はありますが、余りそういう話をしたりしないもので……」
「そうですか……」
テレビがある訳でもなし、自分から積極的に情報を集めないと知る事は出来ないですね。やはり大きな街に出る方が早そうです。
「……あっ。姉さんなら何か知ってるかもしれません。私と違って街にも良く行きますし、この間まで出稼ぎに出てましたから、外の様子も詳しいはずです」
ティファニアさん自慢のお姉さんですか。森から余り出ないと言うティファニアさんよりは期待出来るですね。それに街に出て目立つリスクを背負う必要がないのもいいです。
「もしよかったらお姉さんに話を聞いてみたいのですが、いいですか?」
「はい! 姉さんは家で子供達に勉強を教えているはずですから案内しますね」
ニッコリと笑い立ち上がるティファニアさんに従って私も立ち上がります。
「キュルケ、起きて下さい。移動するですよ?」
「んーー……?」
結局寝てしまっていたキュルケを起こし、寝ぼけ気味の彼女をタバサが手を引き、目を酷使しすぎて目が開かなくなったギーシュさんを私が引っ張りながら、私達はティファニアさんについて彼女が暮らす家に向かいました。
乳神様、ティファニアが登場です。
これで無から爆まで揃いました。貧代表の夕映は彼女達爆乳部隊に勝てるのだろうか!?
まぁ、そんな戦いにはなりませんがねぇー。
では次回、あの巨乳怪盗が登場! ……させてもいいけど、どう動かそうかなぁ。まぁ、お楽しみにー
歌詞ってソックリそのままは危険らしい……1部分だけ変えてみた。これで誤魔化せるかな?
・・・っと思ってたけど、ダメらしいので擬音に変えました。さーせん。
<番外 愛しいあの子の手掛かりを探せ>
ツーーっ ツーーっ ツーーっ
「もし? もしもしもしもし!? ……ん~~~~~っ!! 切れましたわっ!!」
聞こえなくなった念話に、エミリィは怒りのまま机を力一杯叩いた。
「んもーー、委員長ズルイよぉ。ほとんど委員長だけ話してるんじゃん」
「そうニャ。愛しいユエと話したいからってルールはちゃんと守って欲しいニャ」
「なっ! 誰が愛しいですか!! ユエさんとはライバルです! 変な事言わないで下さい!!」
ブーブー文句を言うコレットとカッツェにエミリィは大きな声で怒鳴り返す。
「すいません、お嬢様。軍のセキュリティに引っ掛かりそうだったので、予定より早く切断する事になってしまいました」
「はぁ………いえ、捕まっては面倒です。いい判断ですわ、ビー」
申し訳なさそうに言うベアトリクスだが、エミリィは問題ないと言って許した。そのままセキュリティに引っ掛かり捕まってしまったら全てがダメになってしまうのだ。それが分かっているからエミリィは最初から危ないと思ったら独断で回線を切れと指示していたのだ。
「でー、どうすんのエミリィ? 一応繋がったんなら、またタイミングを見てハッキングしてみる?」
デュ・シャの言葉に、エミリィは真剣な表情で考え始める。これまで何十、何百と試して来てようやく繋がったのだが、それも向こうのトラブルで途中から話が出来なくなってしまった。つまり、もう1度やってもすぐには繋がらない可能性が高い。
「デュ・シャ、ユエさんの話はちゃんと記録してましたね?」
「一字一句しっかり録れてるよ。ほら」
デュ・シャから受け取ったログを睨み付け考え込むエミリィ。そんな彼女を見て、コレット達は考えるのは任せたと言わんばかりに雑談を始めるのだった。
「でも、ユエ元気そうで良かったニャ」
「ねー。でも異世界とかに行っちゃったなんて思わなかったよぉ」
「流石は世界の英雄チーム、
コレット達がユエの無事を知り雑談をしていると、
「ビー! もう1度セキュリティの状態を確かめなさい! 今度はユエさんのお仲間の方に念話を飛ばしますわよ!」
「お仲間、ですか?」
ログから顔を上げたエミリィが、ベアトリクスにそう指示を出した。言われたベアトリクスやコレット達は一体何をするつもりかと首を傾げる。
「お仲間にって、どうするつもりニャ?」
「ユエさんは魔法世界でも旧世界でもない異世界にいると言ってましたが、自由に動けない私達では満足に調べる事が出来ません。それに手がかりが旧世界にあったとしたら手が出せなくなりますわ。ならば、新旧どちらの世界でも活動出来る彼女達に協力してもらうのが1番でしょう」
ふふん、と胸を張って答えるエミリィ。
「で、誰に繋げるつもり?」
「決まっていますわ! ネギ様です! ………と言いたい所ですが、あの方はお忙しい身の上。私などがおいそれと邪魔をする訳にもいきませんわ。なので、ユエさんのご学友の方達の誰かに念話を繋ぎます」
「でも、大丈夫なのー? ユエにだって苦労したってゆーのに」
「彼女達は
「それはいいけど、誰にかけるニャ? あと番号が分からないとかからないんじゃなかったかニャ?」
「ふっ! それくらい分かってますわ! コレット! 貴女、確か何人かとアドレス交換とか言うのをしてたわね? 誰でもいいから、一つ寄越しなさい」
言われたコレットは、なるほどと頷いてポケットから手帳を取り出した。
「はいはい、この手帳に全部書いてあるよぉ。誰にする?」
ペラペラと手帳をめくりながら聞くコレットに、エミリィは胸を張って答えた。
「あの触角女以外の誰かですわ!!」
「触角………って、パルナさん? 委員長ってば、なんであの人の事を目の敵にするのさー?」
コレットが訝しんで聞いてみると、エミリィはプイっと顔を逸らした。
「あんな私のライバルに馴れ馴れしく話し掛ける人、知りません」
そんなエミリィの態度に、見ていたコレット達は苦笑する。
「ユエと仲がいいから嫉妬してるニャ」
「恋のライバルはパルナさんって訳ね。……ぷぷっ」
「ぱる……? ハルナじゃなかったっけ? まぁ、どっちでもいいか。今までは離れていたからヤキモキしてたけど、これからは一緒に居られるって喜んでた矢先に行方不明だから、エミリィも気が気じゃないんだろうね。ライバルに協力を持ちかけるくらいだし」
「お嬢様、頑張って下さい」
「誰が嫉妬してますか! 誰が恋のライバルですか!! ユエさんも私も女ですわよ!? あなた達、頭おかしいんじゃありませんの!?」
勝手な事を言うコレット達に鬼の形相で怒鳴るエミリィだが、コレット達には照れ隠しにしか見えず、こみ上げる笑いを必死になって堪えていた。
「まったく………。さぁ、ビー。準備なさい。このコレットの手帳に書いてある人物に、片っ端からかけるわよ!」
「は、はい。お嬢様」
ベアトリクスが手帳を見ると、アドレスの一つがペンで消されていた。おそらくここがハルナのアドレスが書いてあった所なのだろう。一瞬で塗り潰してしまうエミリィの嫉妬深さに、流石のベアトリクスも苦笑を漏らした。
「ではまず、のどかさんから行きますがよろしいですか?」
「えぇ、どんどんやって頂戴」
「では………ミンティル・ミンティス・フリージア………」
まず軍の回線にアクセスしてセキュリティ状況を確認する。機密を守る為にその都度パスワードなどが変わるので、さっき出来たからと同じ様にやっていたらすぐにセキュリティに引っ掛かってしまう。割と気軽にやっているようで、捕まればかなりマズイ重罪を犯しているので、この辺りの下準備は慎重にやらなければならないのだ。
「………回線、繋がりました!」
「よくやったわ、ビー! すぐこちらに回して!」
「はい」
すぐにエミリィが話そうとしたが、そこにコレット達が待ったをかけた。
「あ、ズルイよ委員長! 今度は私達に話させてよぉ!」
「そうニャそうニャ! 自分ばっかりズルイニャ!」
「これは遊びではないのですよ!!」
騒ぐコレット達をたしなめてから、エミリィは親指と小指を伸ばして受話器の形を作り、念話の術式を発動させた。
「……聞こえてますか? 私はアリアドネーのエミリィですわ。のどかさん、で合ってますか?」
『はいはーい? のどかはちょっと出られないけど、何か用なら聞いとくよー?』
「んなっ!? 触角女!!」
エミリィの想像していたちょっとトロそうな声ではなく、聞きたくなかった呑気な声が聞こえてきて、思わず念話を切ろうとしたが、コレット達が慌てて止めに入った。
「ちょ、委員長! 繋げるの大変なんだから、そんなポンポン切らないで!」
「そうニャ! 結構リスク背負ってるんニャから、我慢するニャ!」
「な、なんですか!? ちょ!やめっ!」
しばらくドタバタやってどうにかエミリィを取り押さえたコレット達は、今度は邪魔されない様にと芸術的な縛り方でエミリィを縛り上げ、猿轡で口を塞いで喋れなくした。更にコレットは縛り上げたエミリィをベットの柱に引っ掛けて吊るしてしまった。
「ふぅ……これでよし」
「むー! むーっ!」
『ちょっとー、何ー?』
暴れる振動でユラユラ揺れるエミリィを見ながら汗を拭く仕草をするコレットの耳に、念話の向こうから呼び掛けるハルナの声が響いた。そこでコレットは念話を放ったままだったのを思い出し、慌てて念話の術式を自分の手に繋げた。
「あははー。ごめんねー。ちょっとトラブルがあったもんで。どうも、パルナさん。コレットです、お久しぶりー」
『おぉ、コレットちゃんか。久しぶりー。んー? じゃあさっきのはあのツンデレ委員長だったのかな?』
「あはは、ごめんねー? 委員長ってば、パルナさんがユエと仲良しなもんだから嫉妬してるみたいでー」
『ははぁ~ん。いやぁ、ゆえ吉ってばモテモテだねぇ。今度夕映の写真使って抱き枕カバーでも作って送ったげようかね』
「うわぁ、それは喜ぶよぉ。もしくは悦ぶよぉ」
『替えも合わせて、3、4枚はいるかもねー』
あははー、と笑い合うコレットとハルナの会話に反応してエミリィがビチビチと跳ねて抗議した。猿轡をされ手足をがっしり縛られている上、吊るされてしまってはそれくらいしかできないのだ。だが後先考えずに暴れたせいで紐が食い込み、ちょっと大変な事態になってしまっていた。
「これはカバーに喜んでいるのか、縛られて喜んでいるのか、どっちだと思う?」
「怒ってるって選択肢はないのニャ? と言うか、コレットはどこでこんなエロイ縛り方を覚えて来たのか、そっちの方が気になるニャ」
カッツェとデュ・シャは、プルプル震えているエミリィに施された芸術的な縛り方について話し合う事に夢中でエミリィの紐を解こうとはしない。痛みに耐えながらそんな2人に視線で文句を言ってみるエミリィだったが、痛みのせいかその顔は赤く、目には涙がたまっていた。
「それでね、パルナさん。今日念話したのはユエの事でちょっとね……」
『え? 夕映?」
「そうー。もう知ってるかもしれないけど、ユエってばアリアドネーに来る途中で事故って行方不明になってるんだよぉ」
『あー、うん。ネギ君経由で聞いたわ。なんでもドラゴン追っ払おうとして飛行鯨から飛び出して戻って来なかったんでしょ? それ聞いてのどかが飛び出して行っちゃったんだよねー』
「えー!? 飛び出してって、どこ行ったの!? あ、こっちに来てるって事?」
『そうそう。のどかが飛び出して行って少ししたら麻帆良のゲートが開いて大騒ぎしてたし。あの子ってば最近やたらとアグレッシブでねぇ。多分、もう現場に到着してる頃かも』
「のどかさん、前見た時は大人しそうな人だったのに……」
以前会った時ののどかの姿を思い出したコレットは、そのイメージの違いに戸惑うのだった。
『それで、夕映がどうしたの? もしかして見つかった?』
「あ、見つかってはいないけど、偶然連絡が取れてね?」
『うわ! マジで!? あの子ってばどこに居たの!?』
「いやぁ、念話が偶然繋がっただけだから、詳しくは……。でも、ユエ本人の話では、
『はぁー? あの子って、いつからそんな主人公体質になったのよ? もしかして異世界で世界を掛けた冒険でもしてるとか?』
「世界を掛けて戦った
『なるほどー。おけおけ、こっちも何人かで
ゴソゴソとやってる音が聞こえる中、ベアトリクスがコレットに注意を促した。
「コレットさん、電子精霊を誤魔化すのもそろそろ限界に近いので、急いで下さい」
「あ、了解ー。あとどれくらい持つ?」
「まだ数分は大丈夫なはずですが、いつ引っ掛かってもおかしくは無いです」
「オッケー」
そこでメモの準備が終わったらしいハルナが話し掛けて来た。
『準備いいよ。出来るだけ細かくちょうだい』
「あ、うん。でもこっちもそれ程分かってないんだよね。なんせ途中で念話切れちゃったから。ユエが今居るのはハルケギニアって言う所らしくて、
『ふむふむ……。あの子も変なトラブルに巻き込まれたわね。でも、
「あははっ、確かにね。じゃあ、そろそろ電子精霊騙すのも限界みたいだから切るね?」
『うん、サンキューね。何かあったら連絡するわ』
「はーい。じゃあ、よろしくねー! ばあーい」
『ばーぁい』
念話が切れた事を確認したコレットは、一つため息をついてベアトリクスの方へと振り返った。
「ビーさん終わったよー。大丈夫だった?」
「はい。ギリギリでしたが捕まらずに行けました」
「そっかー、良かった」
危ない所だったようだが、なんとか無事に連絡も取れたし、後はハルナ達に任せておけばいいだろう。コレットは安心した様に大きく息を吐いた。
「コレットー? そろそろこっちもどうにかしないと、後が怖いよー?」
「へ?」
デュ・シャの声に振り向くと、そこには顔を真っ赤にしたエミリィが目をトロンとさせ、妙に荒い息遣いでユラユラと揺れていた。
「お、お嬢様ーーーっ!?」
「あー……、忘れてた」
どうやら上級レベルの縛りだったせいで、開けてはいけない扉に手をかけてしまっているようだ。
「お嬢様! い、いま助けますから! ……っと。こ、こっちはどうやって解けば……こっ、このっ!!」
「んっ! はうんっ! び、ビー……そんなに揺らさないで……ふぁっ!」
猿轡はすぐに取れたが、身体を縛り上げている紐がまるで解けず、どうにかしようと四苦八苦しているベアトリクスのおかげで右に左にと振られてしまい、キッチリ食い込んだ紐がイロイロと擦れて大変な事になっている。
「あー……、ヤバイかなぁ、あれ」
「目覚めてもビーさんが頑張るニャ、きっと。それよりあんなエロ縛り、どこで覚えたニャ? あーゆーのが趣味ニャ?」
「ち、違うよぉ。ちょっと前の外出日にね、街で迷子の空飛ぶ猫ちゃんを拾ったんだけど、その子の飼い主さんを探して届けてあげたらお礼にって、この本をくれたの」
そう言って胸の谷間から古風な表装がなされた一冊の本を取り出してみせた。
「これに書いてある通りに練習したら、2時間くらいで出来るようになったんだよぉ」
「いやその前に、空飛ぶ猫って何よ……?」
「こう耳をパタパターってやって飛んでたんだよー。猫が。すっごく可愛かったんだから」
コレットが自分の手を頭の上でパタパタとやりながら説明するが、デュ・シャとカッツェは可哀想な物を見るようにコレットを眺めていた。
「コレットって、結構ヤバイニャ?」
「前から頭がお花畑だった気がするけど?」
「失礼だよーーっ!?」
コソコソっと囁きあっているデュ・シャ達にコレットは手を振り上げて抗議した。確かに呑気な性格ではあるが、お花畑とまで言われるほどではないと本人は思っている。
「にゃはは、冗談だニャ。で、その本を読んであんなの覚えたニャ?」
「えーっと……『浦島流捕縛術指南書』か。……なにこれ?」
「私がアリアドネーの魔法騎士団候補生だって言ったら、警備の仕事に役立つだろうって」
デュ・シャがパラパラと本を開いてみると、細かく絵で縄の縛り方が説明されていてたとえ字が読めなくてもある程度把握出来るようになっていた。
「ふぅーん……。絵入りだからコレットでもすぐ読めたのか。………結構いろんな縛り方が描いてあるのね」
「どれもエロ難易度が高い奴ばかりニャ。これ描いた人は変態かもしれニャいニャ」
本を覗き込み、失礼な事を言う2人に、コレットはプリプリ怒っていた。
「もう! せっかくくれたのに失礼だよっ! これを覚えたら手配犯を捕まえる時凄い楽なんだよ!? 上手くなれば一瞬で縛れるんだってっ!」
「捕まえる度に亀甲縛りする気か、あんたは」
「そんなハレンチな騎士団いやニャ」
誰かを捕まえる度に上級な縛り方をする騎士団なぞ、逆に捕まりそうである。コレット達は本に書かれている瞬間捕縛術について話し合い始めた。1ページずつ捲りながらワイワイやっている後ろでは、ベアトリクスが自分の大剣を取り出して大きく振りかぶっていた。
「お嬢様、待ってて下さい! 今、紐を斬って助けますから!!」
「ハァハァ……ま、待ちなさいビー……。そんな制剣を振りかぶる……んっ! んじゃありません……っ!」
「えーーいっ!!」
「きゃぁあーーっ!!」
今日もアリアドネー組は平和そうであった………