どうにか日曜までに書き上がったなぁ。がんばった、うん。
というわけでようやく19話です。もう少しオリジナル要素を入れて行きたいけど、それはもう少しあとになってから。
それでは第19話いってみよー
「私達はどうすればいいのでしょうか?」
「混ざるですか?」
「遠慮しておきます」
ルイズが才人さんにお仕置きしてるのをどうしたのものかと眺めていたら、急に部屋の扉が開いてギーシュさんが飛び出てきました。
「きーさーまーっ!! 姫殿下にぃーっ! 何をしとるかーーっ!」
いつも持っている薔薇を才人さんに突き付けながら凄い剣幕で捲し立てます。
「薔薇のように見目麗しい姫様がこんな所に入っていくのを見つけたからドアの鍵穴から見ていれば! 平民のバカがキス……! うらやま許さーんっ!!」
「ギーシュ!? あんた立ち聞きしてたのっ!? と言うかこんな所で悪かったわね!!」
どうやら私達がルイズの部屋に入る所を見られていたようです。なんで女子寮塔に居たのかは置いておいて、その前の王女様のストリップが見られてなかったのは幸いでした。
「決闘だっ! こんのバカちんがぁ!」
「やかましいっ!」
どっかの先生みたいな事を言いながら薔薇を才人さんの顔の前に突きつけるギーシュさんに、ルイズに踏まれた状態のまま才人さんが怒鳴り返します。
「とうっ!」
「あだっ!」
ルイズに踏まれたまま、足でギーシュさんを挟み込んで引き倒し、そのまま4の字固め、でしたか? そんな技を掛け始めました。
「いたっ!いたたたたっ!! なんだねこれはっ!!」
「ふははははっ! プロレス技の一つ、4の字固めだっ! こちとら腕を折られた事忘れてねぇぞっ!!」
決闘の時に腕を折られた事を根に持ってたようですね。あれは受け方が悪かっただけだと思うですが、まぁ普通の高校生だった才人さんにそんな事言っても仕方ないですね。
ギーシュさんに変な固め技を繰り出しながらフハハハと笑っている才人さんと、その技に苦しむギーシュさん。まぁ、仲の良いことです。
「姫さま、どうしましょう!? ギーシュに聞かれてたようですけどっ!」
「そうね………、今の話を聞かれたのはマズイわね……」
極秘の任務のはずだったのに、すぐに人に知られたなんて言うのは確かに困るですね。
「ユエ、どうしよう?」
「記憶でも消すですか?」
「え!? それってギアスの魔法を使うって事? あれは禁呪よ?」
むむ、そうだったですか。と言う事は認識阻害とかもダメなんでしょうか? これは余り迂闊に使う訳には行かなそうです。ハルケギニアと地球との違いは難しいですね。あちらではまず記憶消去の魔法を習得して、それから他の魔法を覚えるのが通例なのですが。
「姫殿下っ! その困難な任務! ぜひぃぃぃっ! 痛いっ! やめないかこの平民! 是非ともこのギーシュ・ド・グラモンにぃぃっ! 仰せつけますよぉぉっ!!」
ギーシュさんが痛みに耐えながら王女様に売り込んでます。なかなか根性はあるですが、うるさいです。私はちょこちょこっと彼らに近寄り、
「ん? 夕映? どうしたんだ?」
「えい」
「ちょ! ひっくり返しちゃダメだっ!あぁぁあっ!!」
「お? 痛く無くなった。なるほど、こうすると逆に痛いのか」
4の字固めをしてる人をひっくり返すと、掛けてる側が痛くなると聞いた事があったので才人さん達をひっくり返したですが、実際に効果あるんですね。
「どうかお願いします姫様! このギーシュ・ド・グラモンに、貴女のお役に立てる栄誉をお願いします!!」
「グラモン? あのグラモン元帥の、ですか?」
「息子でございます。姫殿下……ええぃ! 動くなっ!」
「痛い痛い痛い! 真面目な話したいなら、放せこらっ!」
ギーシュさんは才人さんを痛めつけつつ会話を続けます。
「貴方も私の力になってくれると言うの?」
「はい! 姫殿下の為ならば、たとえ火の中水の中草の中森の中、土の中雲の中あの子のスカートの中! どこへなりとも馳せ参じます!!」
スカートの中には来るなです。
しかし、足の方は才人さんを攻めつつ、頭の方は神妙に土下座のポーズ。こうして横から見ていると変な格好ですね。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ならばギーシュさん。この不幸な姫をお助けください」
「姫殿下がぼくの名前を呼んで下さったっ! 姫殿下が! トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君が! このぼくに微笑んでくださった!」
「痛い!痛いからっ! いちいち力を入れるなギーシュっ!!」
ギーシュさんが感激する度に足に力を入れるので、才人さんが物凄く痛がっています。いやぁ、見てる方は面白いですね、これ。ふむ………
「あ、ちょっとユエ君なにを!?」
「よっと」
「よっしゃぁっ!! 覚悟しろギーシュっ!!」
「イタタタタタッ!! ユエ君何故ぇぇえっ!!あだだだだっ!おれっ折れるからっ!!」
再度ひっくり返し形勢を逆転させ、私は王女様に向き合います。
「いいのですか? 余り人数を増やすと不味いのでは?」
「いえ、あのグラモン元帥の息子さんなら、きっと役に立ってくれますわ」
蛙の子は蛙と言うのを期待しているのでしょうが、大丈夫でしょうかねぇ。未だに才人さんの固め技で騒いでいるギーシュさんを見やり、少し不安になりました。グラモン元帥と言う方は知りませんが、元帥と言うくらいですしその実力も折り紙付きと見ていいでしょう。ギーシュさんを見ているとイマイチ想像出来ないですが、親の力をこれでもかと受け継いだ例を知っていますし、様子を見るとしますか。
「では姫さま、明日の朝アルビオンに向かって出発するとします。ユエもそれでいいわよね?」
「えぇ、構いません」
「ウェールズ皇太子は、聞く所によるとアルビオンのニューカッスル付近に陣を構えているとの事です」
「了解しました。以前姉達とアルビオンを旅した事がございますゆえ、地理には明るいかと存じます」
ルイズの言葉に一つ頷いた王女様は、机の上にあったペンと紙を取り、サラサラと何かを書いています。そして、一旦手を止めて悲しげな表情で首を振りました。一体何を想っていたのか分かりませんが、少ししてから決意したように一回頷いてまた書き始めました。
「始祖ブリミルよ……」
書き終わった物を手に取り何かを祈っている王女様に、私とルイズは何も言えずにその様子を見守ります。しばらくして満足したらしい王女様は、杖を振り、その書類に封蝋をして花押を押しました。そうやって作られた密書をルイズに渡し、王女様は更に自分の指に填められたあの大きな宝石のついた指輪を外し、ルイズに手渡したです。
「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りに持って行って下さい。きっとアルビオンに吹く猛き風から貴女達を守ってくれるでしょう」
そんな大切な物だったですか! はぁ、武装解除で粉々にならなくて本当に良かったです。
王女様から指輪を受け取ったルイズは、神妙に頭を下げて感謝の意を示します。
「この任務にはトリステインの未来が掛かっています。何も出来ない愚かな姫ですが、任務の成功と貴女達の安全を祈っています」
私とルイズの手を取ってそう言った王女様に、私達は1度視線を合わせてから声を揃えました。
「「お任せ下さい」」
今までやった事のあるものとはレベルの違う任務に武者震いがします。どれだけ困難な物になるかは分かりませんが、困難であればある程私は成長出来る気がするのでむしろ望むところです。必ずや達成して見せましょう。
「はっはっはっはっ! どうだっ!? 自力で返してやったぞ!!」
「くうぅぅぅ!! ギーシュめ! ちょこざいなぁっ!!」
あの2人はまだやってたですか、緊張感の無い………
明日の早朝に出発する為、私は自分の部屋に戻る事にしました。才人さん達はルイズに任せます。面倒ですし。
ルイズの部屋を出て廊下を歩く私の後ろには、またもローブを被った王女様がいます。用意された部屋に戻るまで見つかる訳にはいかないので貸しておいてくれと言われたので、そのまま貸してあるですが、やはりローブを被っている方が目立つ気がするです。
「では王女様。私はこの上なので、ここで失礼するです」
「あ、はい。ご迷惑をお掛けしました」
「いえ。こちらこそ。ローブやシャツ等は誰か適当なメイドに渡して下さい」
ここのメイドさん達ならすぐに分かるでしょうし、わざわざ誰のか等と言わなくてもいいでしょう。どうやって見分けているのか知りませんが、きっとメイドさん特有の技でもあるのでしょう。
「はい、分かりました。あっ! ミス・ファランドール……いえ、ユエさんとお呼びしても?」
「えぇ、構いません。むしろ光栄です」
本気のお姫様から名前を呼ばれると言うのは一般人出身の私には勿体無いくらいです。明日菜さん? あの人は似非ですし……。
「えっと、ユエさん……」
「はい、なんでしょう?」
「…………いえ、今はやめておきます」
「はぁ………?」
「ルイズを頼みますね? ユエさん」
そう言って王女様は階段を下りていきました。
一体何を言いかけたのでしょうか? よく分かりませんが、そこはかとなく嫌な予感がするです。変な事にならなければいいのですが。
翌朝、朝靄が漂う中、私達は学院から借りた馬に乗る為の鞍をつけています。しっかり調教されているので私のぎこちない動きでも、暴れ出したりはしません。初心者の私にはありがたいものです。
「夕映は乗馬ってやった事あるのか?」
「いえ。どんな物かは知ってるですが、実際に乗った事はないです」
鞍をつけ終えた才人さんが聞いてきますが、現代日本で育った私は馬を実際に見るのもこれが初めてです。クラスのいいんちょさんが馬術部に所属してたですが、そう言うものに入っていたりしなければ、現代人が馬に乗る機会などないでしょう。
「それなら私と一緒に乗った方がいいかしら? 初心者で長距離は大変だろうし」
「………俺はいきなり3時間ほど乗せられたんだけど?」
「あんたとユエを同じ扱いする訳ないでしょ」
「さいで……」
最初は馬車でと思ってたですが、あれはのんびり進むのが基本で、今回の様に急がなければいけない旅には不向きだと言われ、馬単体での駆け足旅を余儀無くされました。
「乗り方さえ分かればなんとかなるですよ?」
「アルビオンの玄関口である港町まで早馬で2日掛かるのよ? 馴れない内からそんな距離乗ったら、お尻がバカになっちゃうわ」
2日ですか。それはちょっと大変ですが一緒に乗っても時間的には変わらないですし、どうせならここで乗馬技術を習得するのもありですね。
「これから何度も馬に乗る機会があるでしょうし、その度にルイズを連れ出す訳にもいかないでしょう。ここで乗馬に馴れる方が今後の為だと思うです」
「んー……、まぁそうだけど。無理しないようにね?」
「えぇ。辛くなったら休憩させてもらうですよ」
「そうして頂戴」
私は鞍をつけ終わった馬を軽く見やります。私の背丈の倍近くあるその体躯はしっかりとしていて、私が乗ってもびくともしないでしょう。
「夕映なら箒で飛ぶ方が早いんじゃないか?」
「あれは目立ちすぎるです。私の魔法はこちらではおいそれと使ってはいけないようですし、馬の乗り方くらい覚えておいて損は無いでしょう」
「そんなもんか。俺には魔法なんて全部同じにしか見えないけどな」
系統魔法も精霊魔法も発動後の見た目は変わらないので、魔力を感知したり出来なければ区別付かないでしょう。ただ、私達の精霊魔法は、発動させれば物質のようになりますが詳しく調べれば魔力が固まっただけで実際の物質になった訳ではないです。しかし、こちらの系統魔法は発動すると呪文に応じた物質を作り出します。『火』なら周囲の酸素を消費しながら燃え上がるですし、『水』や『氷』の魔法を使えば空気中の水分を消費して発動します。変わりに周囲の水分が無くなれば魔法が使えなくなると言う弊害があるようですが。
つまり系統魔法には科学的な条件が必要だという事です。魔力さえ掴めれば使える精霊魔法とは違い、魔法を使う時の周囲の環境もしっかり把握しなければいけない訳です。この事から、どうやら二つの魔法の違いは呪文だけではないと言う事が分かります。これはもっと細かく調べなければいけないようですね。
「……少しお願いがあるんだが」
「どうしたです?」
ギーシュさんが神妙な顔をしてやって来たです。お願いとはなんでしょうかね?
「ぼくの使い魔も連れて行きたいんだ」
「使い魔ですか?」
「お前使い魔なんて居たのか」
「いや居るよ、当然だろ?」
使い魔を召喚するのは2年生に進級する条件なのでギーシュさんに使い魔がいるのは当然でしょう。
………そういえば、私も2年生という事になっているですが、それはつまり使い魔を召喚しなければいけないのではないでしょうか? ふむ、1度お爺様に相談してみないといけないですね。
「連れて行けばいいじゃねーか。って言うかどこに居るんだ?」
「ここ」
ギーシュさんが地面を指差して言いました。見ればそこには何の変哲もない地面があるです。はて? 私には見えないですが、どこに居るのでしょう。見えない程小さいのでしょうか?
「居ないですね」
「居ないわね」
ギーシュさんがニヤリと笑って足で地面を叩きました。するとモコモコっと地面が盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出したです。
「僕の使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデだ。あぁ! 可愛い! 可愛いよ、僕のヴェルダンデ!!」
ギーシュさんがでっかいモグラに抱きついて可愛い可愛いと連呼してるです。人の趣味をとやかく言いたくはないですが、なんとも珍しい好みですね。いえ、目だけは可愛いと言えるほど円らな目をしてるですが。
「なんだこれ」
「でっかいモグラですね」
こんな大きなモグラは初めてみたです。いえ、モグラ自体今まで見た事無かったですが。
「あぁ、ヴェルダンデ! 君はどうしてヴェルダンデなんだい!? まったく、君はいつ見ても可愛いね」
モグモグ言ってるヴェルダンデ?さんをギーシュさんがかいぐりしているです。その可愛がりようは、テレビで見た動物王国の王様のようです。
「ギーシュ、ダメよ。その生き物は地面の中を進んで行くんでしょう?」
「そりゃあ、なにせモグラだからね」
「モグラが空を飛んだら、面白いですがね」
空飛ぶモグラとは、見てみたい気もするですが。
「私達は馬で行くのよ? そんなの連れて行けないわよ」
のんびり行くならいいですが、今回は急ぎの旅ですしモグラがモグモグ掘り進んでいるのを待っている訳にもいかないですね。確かに。
「地面を掘り進むの結構速いんだぜ?」
「私達これからアルビオンに行くのよ? 空の上の。地面を掘って進む生き物なんて、やっぱり連れて行けないわ」
そりゃそうです。飛べるならまだしも、ずっと地面を行くモグラじゃどうあっても浮遊大陸のアルビオンには行けないです。
しかし、アルビオンとは一体どんな所ですかね。私の知る浮遊大陸はオスティアだけですが、あんな感じなのでしょうか?
「うぅ……っ! お別れなんて辛すぎる! ヴェルダンデェ……っ!」
泣きながらヴェルダンデに抱きつこうとしたギーシュさんを避け、ヴェルダンデさんはちょこちょこっとルイズの方に擦り寄って来ました。
「なによ、このモグラ! ちょっとどこ触ってんのよぅっ!!」
「主人に似て女好きなんかな」
モグラに押し倒されて身体中をまさぐられているルイズを見ながら才人さんが呑気にそんな事を言ってるです。主人を守る使い魔としてそれでいいんですか?
「やっ! きゃっ! ちょっとやめ……ひゃんっ!」
「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、なんかいいなぁ」
「まったくだな。可愛いヴェルダンデと美少女との絡みのなんと官能的な事か」
この2人、いろいろダメかもしれないです。まったく。
「アホな事言ってないで助けなさいよぉっ!!やぁんっ!!」
「あぁ……、ルイズ。今助けるです」
身体中まさぐられたせいでシャツやスカートがめくれ上がり色々危険な状態になっているルイズからヴェルダンデさんを引き剥がしにかかります。
「この! 無礼なモグラね! 姫さまから頂いた指輪に鼻をくっつけるんじゃないわよっ!」
「ほら! 離れるですっ!」
首根っこを掴んで一気に引っ張るですが、爪を地面に立てて抵抗します。中々生意気なモグラです。よいしょぉっと!
「ふぅむ、なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が好きだから、その大きな指輪が気に入ったのだろう」
「イヤなモグラだな。まぁ、この光景を見せてくれた事は褒めてやるが」
「イヤとか言わないでくれたまえ。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕の為に見つけて来てくれるんだ。『土』のメイジである僕にとってこの上ないパートナーさ」
地面を掘って行って、埋まっている原石などを採ってくるんですか。確かにそれは便利………でもそんなの関係ねぇ、です!
「ほら、離れるです! ルイズにイタズラするのは帰ってきてからにするです!」
「いや!帰って来てからでもダメよ!?」
どうにか持ち上げてルイズからどかしていたら、急にヴェルダンデさんが飛び退いたです。おかげでバランスを崩しかけたですが、そこにいきなり突風がやって来て盛大にスカートがめくれ上がってしまったです。この風、魔力が籠ってるです! 誰のイタズラですかっ!!
「な、なんですこの風!?」
「むむっ!? 見ろギーシュ!」
「やや! 黒の紐パンとは意外なっ!」
「何見てるのよ!」
勝手に人の下着を見た才人さん達はルイズがお仕置きしてくれましたのでそっちは任せて、人のスカートを捲った突風を起こした犯人を探します!
「誰ですか、人のスカートを捲ったハレンチカンカンはっ!!」
「す、すまない。モグラを狙ったのだが、思いがけない速さで飛びのかれたもので、君を巻き込んでしまった!」
そんな事を言って朝靄の中から現れた羽帽子をかぶった長身のメイジ。この人がさっきのハレンチな風の犯人ですか!
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵だ。姫殿下より君たちに同行するよう命じられてね。学生だけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務ゆえ1部隊をつける訳にもいかない。そこで僕が指名されたと言う訳だ」
「それで挨拶がわりのスカート捲りですか? 私の下着はお気にめしたですか?」
私は杖を持って
「いや、改めて謝らせてほしい。婚約者がモグラに襲われているのを見て咄嗟に風を飛ばしたんだが、まさかモグラが避けるとは。本当にすまない」
婚約者ですと? モグラに襲われてたのはルイズですし、もしやそのルイズが?
「ワルドさま」
「おぉ、久しぶりだなルイズ! 僕のルイズ!」
僕のルイズー……? ルイズに駆け寄り抱き上げるヒゲのハレンチ子爵。見た感じ親と子ぐらいに離れて見えるですが、一体いくつなんでしょう、このハレンチ子爵は。
「お、お久しぶりでございます」
「相変わらず軽いな君は! まるで羽のようだ!」
「……お恥ずかしいですわ」
ルイズが顔を赤らめて恥じらっているです。その様子は愛らしいですが、相手がハレンチ子爵だと、素直に見れないですね。
「さぁ、彼らを紹介してくれないか?」
ルイズを下ろし、帽子を被り直したハレンチ子爵が私達の方に向き直ってそう言ったです。
「は、はい……まずはギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のサイトです」
紹介されてギーシュさんは深々と、才人さんはなにやら不貞腐れたような表情で頭を下げたです。
「君がルイズの使い魔かい? まさか人間とは思わなかったな。僕の婚約者が世話になってるよ」
彼は才人さんにも気さくな態度で挨拶しています。あまり貴族としての権力をひけらかさない人のようですね。だからと言ってスカート捲りをしていいとは言いませんが。
「そして友人のユエ・ファランドールです」
「どうもです」
私もハレンチ子爵に軽く頭を下げて挨拶します。
「そうか、君が姫殿下が直々にルイズの護衛にしたと言っていたメイジだったんだね。なんでもかなりの腕を持つ『風』のメイジだとか。先ほど杖に纏わせていたのはライトニングかい? 色が白かったが」
「かなりの……それは少し持ち上げすぎです。先ほどのは確かにライトニングですよ、何故か私のは白くなるもので」
『ライトニング』は普通の雷の色、黄色をしているので、私の
「そうか、それは珍しい。君に二つ名をつけるとしたら『
「そんな仰々しい二つ名は私には似合わないです」
まぁ、『ゼロツー』よりはマシでしょうが。
とりあえず怪しまれなかったのは僥倖です。こちらには魔力を調べると言う技術は無いようですから、よほどヘマをしなければバレないはずです。
「そう思うなら、胸を張って言えるようなメイジになればいいのさ」
「………確かに」
ハレンチ子爵の癖に良い事言うです。なるほど、
「流石に良い事言いますね、魔法衛士隊隊長。お礼にさっきの暴挙は忘れましょう。ですが、2度目は無いですよ?」
「肝に銘じよう。ミ・レィディ」
そう言って片膝をつくハレンチ子爵、いえ、ワルド子爵。これは、どうすれば……?
ルイズの方を見れば手の甲を指差しながら、手を上げる仕草をしてるです。もしかして、あの手の甲にすると言うアレですか?
ルイズの指示のまま手を持ち上げると、ワルド子爵が私の手を取り軽く触れるかどうかと言うキスをしました。才人さんように引っ張って口になんて事をせずに、物語の騎士のようになんとも優雅なものでした。………私なんぞにそんな事しないでもいいのですが、きっとお詫びの意図もあるのでしょう。本来は高貴な人にしかしないものらしいですし。
その後ワルド子爵が口笛を吹くと、朝靄の中からグリフォンがのっそのっそと歩いて来たです。上半分が鷲で、下半分が獅子、つまりライオンですが、そんな体を持つ幻獣です。鷲の頭を見るとモヤモヤするんですが。以前に脱がされた影響でしょうか。
「おいでルイズ」
ワルド子爵がグリフォンに跨ってルイズを手招きするです。どうやら一緒に乗って行こうと言う事ですかね。それなりの大きさのあるグリフォンですから、体の小さいルイズなら十分タンデム出来るでしょう。
ルイズは躊躇うように恥じらうように俯いてモジモジしてるです。ふむむ、いつものルイズと違って恋する乙女みたいです。なかなか動かないルイズをワルド子爵はヒョイと抱き上げてグリフォンに乗せました。
私もさっと馬に乗ろうとした所でヒョイっと持ち上げられ才人さんが乗る馬に乗せられてしまったです。
「あ、あの? 才人さん?」
後ろに跨る才人さんの顔を見ると、なんともむすっとした表情をしてるです。彼の視線は仲良くグリフォンに乗るルイズとワルド子爵に向いています。なるほど……
「………ヤキモチですか? 才人さん」
「………そんなんじゃねーよ」
言葉では否定するですが、表情は完全に嫉妬してるです。私の腰に片手を回して抱え、手綱を握る才人さんからは不機嫌な雰囲気がしっかり出ています。
「背丈は同じでも私はルイズの代わりになどならないですよ? 好きならちゃんと言わないと、後で必ず後悔するですよ」
自分の時はあぁも大騒ぎしたと言うのに、何を偉そうな事をと自分でも思いますが。
私は才人さんの手をすり抜けて自分で鞍をつけた馬に跨りました。せっかくの機会に人に乗せてもらっては練習にならないですし、何より痴話喧嘩に巻き込まれるのはごめんです。
鐙の具合を確かめたり、ギーシュさんから簡単に乗り方、手綱の手繰り方をレクチャーして貰いながら、出発の時を待ちます。
「諸君、準備はいいか? では、出発だ!」
ワルド子爵が杖を掲げて合図してからグリフォンを走らせました。私達もそれに続き馬を走らせます。こ、これは結構揺れるですね。ルイズの言っていたお尻がバカになると言う意味がもう分かってきたです。アルビオンの玄関口だと言う港町まで持つでしょうか、私のお尻………
途中の駅で2回馬を替え、それ以外は休みなく走って来ましたがワルド子爵のグリフォンは全くペースを変えずに走っています。流石は幻獣、普通の動物とはポテンシャルが違うです。
「もう半日以上走りっぱなしだ。どうなってるんだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」
「相手はグリフォンですからね。普通の馬と同じに見てはいけないです」
「そういうユエ君も、結構大丈夫そうだね?」
「いえ、結構お尻が痛いですよ。初めての乗馬でこんなに走る羽目になるとは思わなかったです」
「宿に着いたら痛みが引くようにさすってあげるよ」
「遠慮するです」
そんな感じでギーシュさんと軽口を叩きながらグリフォンに追いすがって行くですが、ちょっと急ぎ過ぎではないでしょうか? どうにかついて行けてますが、このままでは引き剥がされてしまうかもしれないです。いつもは全員がグリフォンに乗ってる部隊を率いているそうですから機動力の違いを把握出来てないのでしょうか? でも、そんな人が隊長格になれるとは思いにくいです。何か私達がいるといけない理由があるとでも?
「才人君の様子がおかしいんだが、あれはそれかな? ワルド子爵に嫉妬してるのかな?」
「おそらくそうでしょうね。憎からず思っていた相手に婚約者が居たんです。しかもやたらとくっついてますから気が気でないのでしょう」
「そっ! そんなんじゃねーよ!!」
馬の首にもたれていた才人さんがガバッと身を起こして否定してきました。完全に図星を刺されて慌ててるです。
「ぷ、ぷぷぷ。ご主人様に適わぬ恋を抱いたのかい? いやはや悪い事は言わないよ。身分違いの恋は不幸の元だよ?」
「うるせぇ。あんなやつ好きでもなんでもねぇや。ま、確かに? 顔はちょっと可愛いかもしれないけど、性格最悪じゃねーか。それなら夕映と付き合う方がいいやい」
ルイズの代わりとは失礼な。いえ、本命にしろと言ってるのではなく、誰かの予備と言う扱いが女として許せないです。少し懲らしめてやりましょう。
「あ、キスしてますね。お熱いこと」
「なぬっ!?」
才人さんが大慌てで前を向きました。そして目を凝らしてルイズ達を見てるですが、もちろん2人がキスしてる場面なぞ見えないです。なにせ私のついた嘘ですから。
「ぷぷぷっ。騙されてるです」
「素直じゃないね、才人君。ぷぷぷっ」
「ぐぬぬぬぬ!」
才人さんが悔しそうにこちらを睨んでいるですが気にしません。人を代わりにしようとするのが悪いんです。
「素直になった方がいいんじゃないかい?」
「うるせぇよ」
あらら、拗ねてしまいました。
前を向いて黙々と馬を走らせる才人さんを見て、私っとギーシュさんは顔を見合わせて肩を竦めました。私が言う資格は無いですが、素直になった方が後悔しないですよ?
馬を何度も替え、ほとんど休みなく走って来たので出発したその日の夜には港町ラ・ロシェールの入り口までやって来れました。はぁ〜、疲れたです。
港町と言ってもここは岩がゴロゴロしてる険しい岩山の只中にあります。最初は普通の海にある港町かと思ったですが、聞いた所によると飛行鯨の港みたいな物のようですね。
「なんで港町なのに山の中なんだよ?」
「あれです。空に浮かぶ船の港なんだそうですよ」
「まじで?」
もうすぐ休めると言う安心感から私も才人さんも饒舌になってきました。1日乗ってたですから物凄く疲れたです。初乗馬の人間にスパルタ過ぎやしませんか? 魔法を習い始めたばかりの人に、魔法でラカンさんに向かっていけと言ってるくらいスパルタじゃないですか?
………いえ、それは難易度が違いすぎたですね。
「才人君はアルビオンを知らないのかい?」
「知らん。」
「ははっ! まさか、常識だよ?」
「お前らの常識を俺の常識と思ってもらっちゃー困る」
まぁ、そりゃそうです。
私も魔法を知らず、魔法世界で飛行鯨などの港を見ていなければ、海にあると思い込んでいたでしょう。でもこちらの船は魔法世界ほど発達していないようで、『風石』と呼ばれる風の力が固まった鉱石の力で空を飛ぶらしいです。しかも進むためには帆を張り、風を受けて進むと言う普通の船と同じ方法をとっているそうです。魔法技術まで昔のものなんですね。
そうして話ながら峡谷を進んでいたら、突然崖の上から火の着いた松明が私達めがけて投げ込まれました!
「な、なんだぁっ!?」
「奇襲だっ!」
突然投げ込まれた火に驚いて馬が暴れ出し、私達は地面に放り出されたです。私はなんとか着地しましたが、才人さん達は地面に転げ落ちたです。
松明の飛んできた方を見ると、今度は何本もの矢が飛んで来ました。才人さん達はまだ痛みで動けそうにないですし、ここは私が障壁で止めるしかないですね。
ビョオッ!!
「おとと……?」
私が風の障壁を展開しようとした時に、横合いから突風が吹いてきて全ての矢を吹き飛ばしたです。
「大丈夫か!?」
「は、はい!助かりました!」
風の吹いてきた方を見れば杖を構えたワルド子爵がいました。今の風はやはり彼だったですか。今度はスカートに一切の影響を与えず矢だけ吹き飛ばしたですね。やはり隊長格、腕は確かなようです。
「野盗や山賊の類か?」
「メイジをわざわざ狙うとは、気合い入ってますね」
矢が飛んできた方を目を凝らして見てみるですが、暗くてよく見えないです。
そうして警戒している所に、バッサバッサと何かが羽ばたく音が聞こえて来たです。ワルド子爵のグリフォンはここにいますし、この音の主は一体……?
その時崖の上から男性の悲鳴が複数聞こえて来たです。何事かと見てみると、崖の上に小型の竜巻が巻き起こり、おそらく矢を撃ってきた人達でしょう、数人の男性が崖を転がり落ちて来ました。
「『風』の呪文だな。なかなかの腕のようだが」
「仲間割れなどではなさそうですね」
そのまま崖の上を眺めていたら、月をバックに見覚えのあるドラゴンが降りてきました。
「シルフィード!?」
そんなドラゴンの背中には私達の級友である、タバサとキュルケが乗っていたです。地面に降りたシルフィードからキュルケが飛び降りてきてさっと手を挙げて挨拶してきました。
「ごめーん、まったぁ〜? キュルケお姉さんよぉ〜?」
「待ったぁー? じゃないわよ! 何がキュルケお姉さんよ! なんでここにいるのよ、キュルケ!」
待ち合わせしてた訳でもないのに、待ったー? などと言うキュルケにルイズが噛み付いたです。
「昨日、ユエとお姫様の話を少し聞いちゃってね。気になって朝窓から見てたらあなた達が出掛けるのが見えて、すぐタバサに追っかけて貰ったのよ」
「あんた、盗み聞きしてたの!?」
「失礼ねぇ。盗み聞きもなにも、私の部屋で話してたのよ? 寝てたとしても起きちゃうわ」
……あー……、服を借りにいった時ですね。1度起こしてしまい、そのまま話してたからキュルケにも聞こえてたのでしょう。これは私と王女様のミスですね。
「な、なんでキュルケの部屋で!?」
「なんか服を借りに来たのよ、ユエが」
バッとこちらを向くルイズからさり気なく目を逸らします。服を借りなければならなくなった原因を話したらきっと怒るでしょうし、どうにか話を逸らさねば……
「ユエ、どう言う事なの?」
「ルイズ、気にしたら負けですよ?」
「何によ!」
どうにか誤魔化したいですが、どう誤魔化せば………
実は王女様には露出癖が。なんて言ったら今度は本当に罰せられそうですし。むむむ……
「そういえば、昨日もユエと姫さまは何か隠してたわね。今日こそきっちり喋って貰うわよ!」
もう怒ってるですし、こっそり教えて黙ってて貰うとしましょう。コソコソしてた人が悪いんです。私は悪くないです。
……………よね?
はいー、第19話でした。
次はアルビオン行きです。いったいどうしようかなぁ。
ほら、回復魔法使えば、王子様死なないかもしれないし?