魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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お待ちどうさまでしたっ!
いやぁ、もう一個の方で躓いたせいで、こっちの書き出しが遅れてこんなに投稿が遅れました、すいません。

では、第18話スタートです。


ゼロの旅18

 

 

 

 

 

 

 

 さて、どうしましょう……?

 

不審者だと思って武装解除させてみたら、勢い余って全裸にしてしまった上、相手はこの国の王女様でした。なんて、笑い話でも無いですよ。

 

「あー……、とりあえずこのローブを羽織って下さい。色々こぼれて危険ですから」

 

「へっ!? あ、ありがとうございます」

 

アーティファクトのローブを取り出し王女様に羽織らせると、どうにか直視可能なまでに露出度が減ったので何故ここに居るのか聞く事にします。

 

「それで、その、王女様は何故こんな所で不審者の如くウロウロしてたのです?」

 

「ふ、不審者……。いえ、自分でもちょっと挙動不審だったかもとは思いますが」

 

 何やら落ち込んでしまいましたが、それは置いておいて、飛んで行った杖とか散らばったものを集めるとします。

1番目に付きやすかった杖を回収し、すぐ側に落ちていた何やら高そうな指輪も一緒に拾います。青く大きな石がとても綺麗で、かなりの値打ち物であると分かります。いやぁ、これが粉々になってたら弁償じゃ済まなかったでしょうね。

 

「どうぞ。衣服以外は全部無事だったので、回収出来ました。服は……まぁ、すいません。下着まで全て粉々になってしまいまして」

 

「いえ、これらが無事だっただけで。……でも、どうやって服だけ粉々に?」

 

「そう言う魔法でして。装備を吹き飛ばして隙を作るです」

 

「器用な魔法ですね………。肌に傷一つ付けないとは」

 

 ローブの前を開いて自分の胸やお腹を見ている王女様ですが、結構その姿は際どいです。同性とは言えドキドキします……

 

「王女様、とりあえず移動しましょう。替えの服を用意しませんと。一国の王女様にいつまでも素っ裸で外を出歩かせる訳にも行きませんし」

 

「ハッ!? そ、そうですね、お願いしますわ」

 

 ジーっと自分の体を眺めていた王女様が、慌てて顔を上げました。自身でも見惚れる体と言う事ですかね。羨ましい限りです。

 

 立ち上がる王女様に手を貸し、私達は寮塔に向かいました。

長い階段を歩きながら、王女様なんて人が一体なんの用か考えるです。ルイズに会いに来たと言っていたですし、知り合いなのでしょう。つまり、学院に来たついでに普段会えない友人に会いに来たと言う事ですかね。

 

「王女様、すいませんね。すぐに服を用意しますので」

 

「はい。あ、いえ、そんなに急がなくてもいいですよ?」

 

「いえ、急ぎます。ローブの丈が短いせいで、全裸よりエッチくなってますから」

 

「はうっ!」

 

 私用のローブですから結構小さく、王女様の背丈とメリハリのおかげで要所すら隠しきれないでチラチラと見えてしまっています。どうにか隠そうと引っ張るのですが、歩く度に白いお尻が見え隠れしてかなりヤバイです。街中ならすぐに捕まるですね。

 

「ちょっと待ってて下さい。私のでは小さいですし、サイズの合う人から借りて来ますので」

 

「は、はい……」

 

 私は王女様を伴ってキュルケの部屋に突入します。メリハリが効いてる王女様の体に合うサイズの服を持っているのは、私の知る中ではキュルケくらいしか持ってないです。部屋に入って行くと既にキュルケは寝る体勢に入っていました。

 

「キュルケ? もう寝てますか?」

 

「んー……? ユエー? どうしたの?」

 

 声を掛けると少し寝ぼけ気味にですが、返事がありました。

 

「実は服を一式貸してほしいのですが」

 

「なぁに? セクシーなのが要るような事するの?」

 

「ちがいます。サイズ的にキュルケのしか無理なのです」

 

 何でセクシーな服が要ると思ったのかは定かではないですが、気にせずタンスを漁ります。

 

「シャツとスカートを借りて行くですよ?」

 

「んー……。ベタベタのまま返さないでねー……」

 

「ベタ……? まぁ、了解です。お休みなさい」

 

 既に寝ぼけ気味だったキュルケはそんな事を言ってまた眠ってしまいました。なんか、パジャマ替わりだろうベビードールも捲れて、ほとんど全裸状態です。もし、男性がここに入って来たらどうなるか。私はススっとキュルケに近寄り、胸まで出てるベビードールを下ろし、シーツを掛け直します。それでもかなり際どく見えるのは、キュルケのスタイルのせいでしょうね。まったく。

 

 私は入り口で待たせていた王女様を招き寄せ、今借りたばかりの服を着せます。思った通り、キュルケの服は王女様のスタイルに十分対応してくれました。

 

「ふぅ、サイズが合ったようで何よりです」

 

「お手数お掛けしましたね」

 

「いえ、私のせいですし。あとはルイズの部屋に案内するですよ。と言ってもここの隣ですが」

 

 ほぼ全裸の状態からようやくマトモな状態になった王女様は、頭のティアラさえ無ければ普通の学生と言っても良さそうな見た目になりました。まぁ、『普通の』と言うには少しオーラが出過ぎているので、すぐに身分の高い人と分かってしまいますが。と、何故か私のローブをもう一度頭に被せてます。

 

「あの……? 何故にまたローブを?」

 

「あ、あぁ。その、私は今お忍びで来てるので、見つかると困るのです」

 

「はぁ……?」

 

 だからと言って被らなくても。

余計目立つですよ?

 

「あ、場所が分かれば大丈夫ですから。もうお部屋に戻っても構いませんよ」

 

「そうですか? まぁ、そう言うなら退散しましょう。せっかくの友人との水入らずを邪魔する程野暮ではないです」

 

 せっかく会いに来たと言うのに余り親しく無い人が居ては寛げないでしょうしね。邪魔をしないように部屋に帰りましょう。

 

「あ、邪魔と言う訳ではありませんわ! ただ、その……っ」

 

「分かっているです。だから気にしないで下さい。では、私はこれで……」

 

「はい。それでは………。あ、そうだ。貴女のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 

 部屋に戻ろうとした所、王女様に名前を聞かれてしまいました。あとで手打ちにされたりしないか心配ですが、ここで名乗らないのも失礼ですね。

 

「おっと、すいません。まだ名乗っていなかったですね。私はユエ・ファランドールと言います。以後お見知り置きを」

 

「ミス・ファランドール……ですか。フーケの一件の報告書にあった名ですね」

 

「報告書、ですか?」

 

 フーケの一件とは、この間の『破壊の杖』が盗まれて、取り返しに言った件の事ですかね。

 

「王女様が、ああ言う事件の報告書を読むのですか?」

 

「えぇ、勿論。と言っても読むだけで、その処理に私は関与出来ませんが」

 

 上に立つ者としては、そういうものも把握しておかねばならないのでしょうね。王女様はもう一度ローブの位置を整えてから私の目を見つめます。

 

「私が今日、ここに来た事は秘密にしておいて下さい。本当は出歩いてはいけないものですから」

 

 なるほど。

コソコソしてたのは、言い付けを守らずに出歩いてたからですか。意外とおてんばなお姫様なのですかね。

 

「了解です。杖に誓いましょう。……そうです。お姫様をひん剥いたお詫びに、何か私に出来る事があれば仰って下さい。出来る限り協力致しますので」

 

 本来なら極刑ものの罪を、頼みを聞く事でどうにか許して貰おうと思います。麻帆良だったら笑って終わりになる事でも、身分制度も厳しいこの世界では、流石にスルーとはいきませんでしょうし。

 

「ひ、ひんむ……。いえ、そうですね。何かあればお願いするでしょうから、その時は宜しくお願いしますね?」

 

「えぇ。ドラゴンくらいなら退治出来ますので、安心して悪のドラゴンとかに攫われて下さい」

 

「それ、安心出来ません……」

 

 ゲーム的なネタは、こちらでは本当に起こり得る事なので洒落にならなかったようです。失礼しました。

 

「………でも、ドラゴンくらいならって、貴女はそれほど腕が立つのですか?」

 

「いえ、まだまだ未熟者ですが。まぁ、そこらの竜種程度なら勝てるですよ」

 

「そうですか……」

 

 私がドラゴンくらいなら勝てると言うと、王女様は何かを考え始めました。もしかして、近々攫われる予定でもあるんでしょうか? ドラゴンとか、トゲ付きの亀とかに。

 

「あの、先ほどのお願い、今からしてもいいですか?」

 

「はい? いえ、全然構いませんが。何でしょう? 夜の相手とかは勘弁願いますよ?」

 

「そ、そんな事頼みませんっ! ……これからルイズにあるお願いをしに行くのですが、かなり過酷な旅になるはずです。良ければ貴女に付いて行って貰いたいのです」

 

 ルイズにお願い、ですか。

彼女に何を頼むのか知りませんが、過酷な旅と言うのは聞き捨てなりませんね。

 

「過酷な旅とは、どれほどの?」

 

「それは……今は言えません。余り人に知られる訳にはいかないのです。ですが、ドラゴン相手に、『くらい』なんて平然と言えるほどの貴女なら、きっとルイズの助けになれるはず。どうか引き受けてくれませんか?」

 

 ふぅむ……

これはつまり、ルイズに何かを頼むのでその護衛をやってくれと言う事ですかね。過酷な、と言うからにはそれなりに危険があるのでしょう。魔法が余り使えないルイズだけで行かせて、大怪我しました。なんて言われたら目覚めが悪いですし、ルイズは私の友人の1人です。護衛くらいやってもいいでしょう。

 

「ふむ、いいでしょう。つまり、ルイズに危険な任務を与えるので、その護衛を。と言う訳ですね。それならむしろこちらからお願いするです。私の友人が知らない間に死んでました。なんて言われたら、泣くに泣けないので」

 

「………お願いします。本当に危険な任務ですが、私が信頼出来る人はもうルイズくらいしか残っていないので」

 

 何かよっぽど切羽詰まっているみたいですね。今日会ったばかりの私にそんな任務の護衛を任せるくらいですし。いいでしょう。その信頼、大いに答えて見せます。

 

「任せて下さい。白き翼(アラアルバ)、ユエ・ファランドール。その任務を引き受けます」

 

 黒い杖でアリアドネー式の敬礼で構え、王女様に敬意を表します。

王女に仕える騎士と言う感じで、動甲冑でも着てやれば格好もついたでしょうが、流石に王女様相手にあれを見せると面倒な事になりそうですし、このままで勘弁して貰いましょう。

 

「『白き翼(アラアルバ)』のユエ。…………その名、しかと覚えましたわ。このアンリエッタ・ド・トリステイン。貴女の忠誠を一生誇りましょう」

 

 何か芝居がかった仕草でそう言う王女様。

名前を覚えて貰えた事は、普通なら喜ぶ所なのでしょうが、先程ストリップさせたばかりなのを考えると素直に喜べないです。王女様はとても魅力的な笑顔を浮かべているのを見ると、もう気にしてないという事でしょうか? 自分を素っ裸にした相手に浮かべる顔じゃないです。流石は王女様と言った所ですね。その慈悲深さに感謝です。なので、頭にローブを被ったままなのは気にしないでおくです。

 

「それでは王女様、ルイズの部屋に行きますか」

 

「えぇ………ところで、先程の敬礼、見た事の無いものでしたが、どこの国のものですか?」

 

「あれは私の国の騎士団で使われている敬礼です。こちらでは東方、と言われる地域にあります」

 

「東方の……。それで見た事がなかったのですね。とても綺麗な礼でしたわ」

 

「ありがとうございます」

 

 こうして褒められると、皆で練習した甲斐があったと言うものです。杖も長いおかげで見栄えも良くなっていますし、本当にのどかには感謝です。

 

 キュルケの部屋から横に一つ移動すると、そこは王女様の目的地ルイズの部屋です。いきなり開けて2人でイケナイ遊びをしてたら気まずいので、ちゃんとノックをしましょう。えぇ、巻き込まれたら困るので!

 

「あ、まって」

 

「どうしました?」

 

 扉をノックしようとしたら王女様に待ったを掛けられたです。あれですか? いきなり開けて驚かそうって言うつもりですか? 確かに、久し振りに会う友人を驚かすのはよくある事ですが、ルイズの場合、ノックせずに開けるとイケナイ場面に出くわしかねないので、オススメ出来ません。

 

「実は、私とルイズだけが知っている秘密の合図があるんです。これならきっと私だって分かってくれますわ。扉が開いたらすぐ中に入って下さい。人に見られると困りますから」

 

 秘密の合図ですか。

おそらく、昔からよくこうやって部屋を行き来してたのでしょうね。じゃないとそんな合図考えないでしょうし。

 王女様は扉に向き直り、長めに2回、短く3回ノックしました。今のが秘密の合図なのでしょう。一拍おいて慌ただしく開けられた扉に王女様が飛び込んだのを見て、私もすぐに駆け込みました。そして私が入ってすぐに扉を閉めた王女様は、杖を構えて何かの呪文を唱えたです。

 

 青い光が部屋の隅々まで行き渡ると、王女様は安心したかのように軽く息をつきました。

 

「ディテクトマジック……?」

 

 部屋に入ってすぐに使われた魔法を、ルイズは見ただけで看破しました。流石は座学トップクラスなだけはあるです。

 

「えぇ。どこにどんな目があるか分かりませんからね」

 

 そう言って王女様はようやく頭に被っていたローブを取りました。

露わになった彼女の顔を見て、ルイズが驚きの声を上げさっと膝をついたです。あぁ、普通はあーやるのですね。私はその前に色々あったので、そう言う事をするタイミングを逃してしまっていましたが、普通は敬意を表して頭を下げた姿勢になるものでした。所謂『ハハァー』の状態ですね。

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

 

「姫殿下……」

 

 ルイズが膝をついた姿勢のまま、急に自分の部屋に現れた王女様を茫然と見つめています。しかし、王女様はそんな事はお構い無しで、ルイズを正面から抱きしめ頬ずりしています。

 

「あぁルイズ ルイズ、懐かしいルイズ! 貴女ったら全然会いに来てくれないんだもの、とてもさみしかったわ!」

 

「むぐぐっ! ぷはっ!! ひ、姫殿下、いけませんこんな下賤な場所へお越しになられては………」

 

 ルイズが、抱きしめられた拍子に挟まれた谷間から顔を引き抜き、いつもより畏まった声でそう言ったです。

 

「ああー! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ!! そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴! 貴女とわたくしはお友達じゃないのっ!」

 

「むーー! むーー!!」

 

 感極まった様子の王女様は更にルイズを抱きしめるですが、おかげでルイズは今にも胸で溺れそうです。大きな胸は、それだけで凶器なのですね。才人さんが羨ましそうに見てますが、窒息は、当たり前ですが苦しいのですよ? 羨ましがってる場合じゃないと思うです。

 

「王女様王女様? そのままではルイズが息出来ないですよ?」

 

「へ? あぁ!! ごめんなさいルイズ! 大丈夫かしら!?」

 

「ぷはぁーっ! だ、大丈夫です姫殿下……」

 

 息が止まってたせいか、顔を赤くしながらも健気に言うルイズ。ハルナが前言ってたですが、大きな胸で窒息死するのは男性の憧れる死因の上位に入るそうですが、本当ですかね? どう考えても、窒息死なんて憧れないと思うですが。

 

「またそんな! ルイズ、ここには枢機卿も、母上も、あの友達面して寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族も居ないのですよ!? わたくしが心を許せるお友達は、昔馴染みのルイズ・フランソワーズだけだと言うのに! 貴女にまでそんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!!」

 

 そう言って再度ルイズを抱きしめる王女様。

そのままだと貴女より先にその心許せるお友達とやらが死んでしまいそうですよ? 王女様。

 

「幼い頃、一緒に泥だらけになりながら、宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないのっ!」

 

「……えぇ。お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルト様に叱られましたね」

 

 子供の頃は、お姫様でもお嬢様でもやることは変わらないようです。私はお爺様にべったりだった思い出の方が強いですが、やはり友達と走り回った記憶もあります。きっと彼女達も、同じように無邪気に走り回っていたのでしょう。

 

「ふわふわのクリームが乗ったお菓子を取り合って、掴み合いになった事もあるわ。ケンカになるといつも負かされてたわね。貴女に髪を掴まれてよく泣いてたわ」

 

 ルイズ、王女様相手でも容赦無いですね。まぁ、子供が喧嘩する時に相手の立場まで気を使うはずが無いですが。

 

「姫さまが勝利をお収めになった事も1度ならずともございました」

 

「あぁ、思い出したわ! 私達が、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦ね!」

 

 何と呼んでいるですと?

 

「姫さまの寝室で、ドレスの取り合いをした時ですね」

 

「そうそう! 『宮廷ごっこ』の最中に、どっちがお姫様役をやるかで揉めて取っ組み合いになったのよね。私の一発がうまい具合にルイズ、貴女のお腹に決まって!」

 

「私が、姫さまの御前で気絶したんでしたね」

 

 なんと言う武闘派。

予想以上にお転婆だったのですね、王女様。お姫様と言うのは、うふふあははと笑いながらお淑やかに遊んだりするイメージだったですが、なかなかのヤンチャぶりです。

ルイズ達はなおも昔話に花を咲かせていますが、どのエピソードもお姫様達の話と言うより普通に近所の子供達の話のようです。

 私がイメージとのギャップについて考えていると、何やら才人さんが打ち拉がれています。

 

「どうしたんですか?」

 

「え? あぁ、いや。王女様ってお淑やかに見えて、凄いお転婆だったんだなってな。なんかイメージと違い過ぎてビックリというか……」

 

 才人さんは、抱き合うルイズ達をボケーっと見つめながらそんな事言っています。

 

「あー……、言いたい事は分かります。でも、子供の頃なんて、みんなそんな物ではないですか?」

 

「まぁ、そうなんだけどな。ほら、お姫様なんて物語でしか見ないから、そう言うイメージで見てたもんで余計にな」

 

「……確かにそうですね。けど、私の知っているお姫様も飛び蹴りで人を十数メートル吹き飛ばしますし、案外お姫様なんてそんな物かも知れないですよ?」

 

「いや、それは絶対特殊な例だ」

 

 才人さんがジトっとした目で見てきます。まぁ、確かに彼女は特殊な例かもしれないですね。何せ、つい最近まで一般人として過ごして来た訳ですし。

 

「でも、ハルナ……。あぁ、私の親友の1人なのですが。彼女が言うには、王女様と言うのはお城の壁を蹴破って脱走するのが嗜みらしいですよ?」

 

 前にハルナが、同人誌を描きながらそんな事を言ってたのを思い出したです。その時はそんな嗜みがある訳が無いと思ってましたが、こうして生粋のお姫様が、結構武闘派だったと知り、あり得なくは無いのではと思ってしまったです。

 

「いや、それゲームの話だし」

 

「そうなのですか?」

 

「うん。有名なゲームのヒロインの話だよ」

 

「ふーむ。それは知らなかったです」

 

 ハルナがしたり顔で言ってたのはそう言う事だったですね。

 

「そういや、あの2人はどう言う関係なんだ?」

 

「話からして幼馴染と言った所では? ルイズの実家は公爵の位にある訳ですし、面識があってもおかしくは無いかと」

 

「そういうもん?」

 

「さぁ? しかし、幼い頃からの知り合いと言うのは確かみたいですね」

 

 未だに思い出話を続けている2人ですが、王女様は何か用があったんじゃなかったですかね?

 

「王女様? 盛り上がってる所ですが、何かルイズに頼みがあったんじゃなかったですか?」

 

 私がそう声を掛けると、王女様は一旦頭を左右に揺らし、そしてあっと言う表情をしました。忘れてたですね?

 

「私に頼み? 一体なんでしょうか? 姫様」

 

 王女様は可愛らしく首を傾げるルイズの顔をジッと見つめ、やがて大きく頭を横に振りました。

 

「いえ、やめておきます。そのつもりでしたが、大事なお友達を巻き込むなんて、やはり出来ません」

 

「巻き込む……? 姫様、巻き込むとは何なのですか? おっしゃって下さい。こんな所にまで来なければならない程、お困りなのでしょう? 」

 

 どうして心変わりしたのかはなんとなく分かるですが、王女様はルイズに与えようとしていた任務の事を黙っている事にしたようです。おそらく、直接会い、思い出話をした事で、ルイズに危険が及ぶだろう任務を与えるのが怖くなったのでしょう。

 

「いえ、なんでもないの。いやだわ私ったら。どうして貴女を巻き込もうなんて思ったのかしら。自分が恥ずかしいわ……」

 

「姫様、おっしゃって下さい。昔は何でも話し合ったではないですか。私をお友達と呼んで下さるなら、どうか」

 

 ルイズの真剣な訴えに感動したらしい王女様は、ルイズの両手を取って目を潤ませます。

 

「ルイズ………ありがとう。……実は私、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったの」

 

「げ、ゲルマニアですって!? あんな野蛮な成り上がりの元に!?」

 

 ゲルマニアー……、確かキュルケの出身国と言ってたですね。ルイズの家とは国境を挟んで隣同士だから、戦争になると真っ先にぶつかる間柄だとか。ルイズはそれもあってキュルケに噛み付くようですが、キュルケはどちらかと言うと、そんなルイズをからかう方が楽しいようで、ちょっと温度差があるです。

 まぁ、それはともかく。王女様は危険な任務と言ってたですが、それと結婚がどう関係してるのでしょう?

 

「仕方が無いの。同盟を結ぶ為なんだもの。私はトリステインの姫。籠に飼われた鳥も同然。飼い主の都合であっちに行ったりこっちに行ったり、必要なら別の飼い主の元に」

 

 所謂政略結婚と言う奴ですね。今の地球では滅多に無いようですがその昔はよくあった事です。ハルナが聴いてたCDの何かで、「女は政治の道具じゃないわっ」と言う歌詞があったですが、当人達にとってはまさにそう言う心境なのでしょう。恋愛の自由が割と尊重されてる現代出身の私には、その気持ちを正しく理解出来ないでしょうが、それでも好きでも無い人と結婚しなければならない辛さは想像出来ます。

 

「今、アルビオンで反乱が起きています。そのせいで王室は間も無く倒れるでしょう。そうなれば、次は立地的な理由からもトリステインに侵攻してくる事は簡単に想像出来ます。しかし、今のトリステインでは単独での対抗は難しい。よって、ゲルマニアとの同盟を結ぶ事になったのです」

 

 戦争など、本当はしない方がいいのですが、それが出来るなら苦労はないですね。ファンタジーの代名詞とも言える魔法世界でも、永らく世界を2分する大戦があったですし。

 

「そう……だったんですか……」

 

「いいのよルイズ。好きな相手と結婚出来るなんて、物心ついた時から諦めてました」

 

「姫さま……」

 

 ルイズは悲壮な表情で王女様の手を握ります。手を握り少しでも慰めになればと思っての行動でしょう。そんなルイズの心遣いに王女様は少しだけ笑みを浮かべて……ふと、部屋の隅に座る才人さんを見ました。

というか、才人さんは何故に藁束に座ってるですか?

 

「……ルイズはちゃんと好きな人と結婚出来そうですね」

 

「へ? 何を?」

 

 ルイズは本気で分からないと言った表情で王女様の顔を見つめています。

きっと、王女様は、才人さんがルイズの恋人か何かと思ったのでしょう。この時間に男女が一緒の部屋に居たら、そんな勘違いをするのも当然です。

 

「そこの彼は、貴女の恋人なのでしょう? 羨ましいですが、せめて、貴女だけでも幸せになってくれるなら、私が嫁ぐ事にも意味が出てきます」

 

 うんうんと頷く王女様に、ルイズは慌てて誤解を解きにかかります。

 

「ひ、姫さま!? この生き物が私の恋人な訳ないではありませんか!」

「生き物言うな」

 

「違うのですか?」

 

 えー? と言う表情をしながら私に聞いてくる王女様に、しっかり真実をお伝えするべく、私は口を開いたです。

 

「2人は公衆の面前でイケナイ遊びをしてしまう程の仲です」

「まぁ!」

 

「ちょっとユエ!?」

 

 ルイズが顔を真っ赤にして怒ってますが事実ですので、怒られても困るです。

 

「もう! 変な事を言わないで! 姫さま! これはただの使い魔です! こんなのがこここ恋人だなんて、じじじょじょ冗談じゃありません!!」

 

 ルイズが必死に否定しています。普段を見ていると、特殊なカップルぽく見えるですが、ルイズにとってはあり得ない事らしいです。あんまり激しく否定するので、才人さんが落ち込んでますが、どうやら王女様もこれは違うらしいと分かったようです。

 

 不思議そうに才人さんを見つめる王女様。

 

「使い魔……? 私には人にしか見えませんが………」

 

「うぅ……人です、姫さま」

 

 少し傷付いたっぽい才人さんが、ワザとらしく一礼してみせます。こちらでは使い魔と言うのは幻獣に限られているそうですし、人が使い魔だと言われても驚くでしょうね。

 

「そうよね。私の見る目がない訳じゃないのね。……はぁ。ルイズ・フランソワーズ、貴女は昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずのようね」

 

「好きでアレを使い魔にした訳じゃありません」

 

 ルイズが憮然とした面持ちで息をつきます。ルイズにとっては普通の使い魔が出て欲しかったそうですし、仕方ないですね。でも、伝説の使い魔らしいですし、ある意味当たりではないですかね?

 

 王女様はそんなルイズを微笑みながら見つめ、脱線していた話を戻します。

 

「ふぅ……。話を戻しますね? あの礼儀知らずのアルビオン貴族達は、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。二本の矢も、一本ずつなら簡単に折れますからね」

 

 一国相手ならともかく、同盟を組まれ二国を相手にしなければならないですから、それは何としても阻止したいでしょう。

 

「……同盟をさせない為には、私と皇帝の結婚を阻止するのが1番早い。従って、婚姻の妨げになる材料を血眼になって探しています」

 

「もしも、そんな物が見つかったら……」

 

 これ幸いとその証拠か何かを公表して、王女様の結婚の阻止を企むでしょう。そして、同盟がなされないトリステインは、一国で反乱軍と戦う事になる訳です。こちらが反乱軍を蹴散らせるだけの強さがあればいいですが、そもそもそんな物がないと判断したから、王女様と引き換えに同盟を結ぼうとした訳です。同盟されぬまま戦争になれば、この国は負け、その後どうなるかは分かりません。しかし、確実に悲惨な事になるでしょう。そんな事にならないよう、細心の注意をしなければならないのですが………

 

 ルイズは王女様の様子などから、そんな材料がある事に気付いたようです。

 

「…………あるのですか? その、妨げになりうる物が」

 

 王女様はその問い掛けに目を伏せる事で答えます。

 

「一体何が……? 姫さま! 一体姫さまの婚姻を妨げる材料とはなんですか?」

 

 王女様は暗い顔のまま苦しげに呟いたです。

 

「……以前私がしたためた一通の手紙です」

 

「手紙?」

 

 手紙一つで、結婚が妨害出来るのですか?

 

「王女様、それはどんな内容のものなのです?」

 

「……それは言えません。でも、それを読んだらゲルマニアの皇室は、この私を赦しはしないでしょう。婚姻は潰れ、同盟は反故となり、トリステインは一国であの強力なアルビオンに立ち向かわなければならないでしょう」

 

 一体どんな事を書けば、それ程の効果を出すと言うのでしょう? いえ、平時ではなんて事の無い内容でも、今の状況においてはマズイ、そんな内容かも知れないですね。

 

「一体その手紙はどこにあるのですか? トリステインに危機を齎すその手紙は!」

 

「それが……手元には無く、アルビオンにあるのです」

 

「あ、アルビオンですって!? では、既に敵の手中にあるのですか!?」

 

 それが本当なら、既に詰みの状態では無いですか。あるとしたら、敵地に潜入して、その手紙を奪取する他無いです。………まさか、ルイズに頼もうとしていた任務とはそれですか?

 

「いえ………、持っているのはアルビオンの反乱勢ではありません。その反乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子です」

 

「プリンス・オブ・ウェールズ? あの凛々しい王子様が、ですか?」

 

 ウェールズ……皇太子? なんかどっかで聞いた事のある気がする名前ですね。

 

「遅かれ早かれ、ウェールズ皇太子は反乱勢に捕らえられてしまうでしょう。そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう。そうなったら破滅なのです! 同盟ならずして、トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなります!!」

 

 おぉ……、王女様に余裕が無いです。しかし、これはかなり厳しいですね。戦争真っ只中の、それも敗北寸前の勢力まで出向き手紙を回収して無事に戻ってくるなど、普通の学生には出来ない事です。あぁ……楓さんなら簡単に出来そうですね。頼めば2,3日で取って来るでしょう。ほんと、私の周りは規格外な人が多くて困るです。

 

「姫さまが、私に頼みたい事と言うのはもしや……?」

 

「無理よ! 考えてみれば、争いの真っ只中にあるアルビオンに赴くなんて危険な事! 頼める訳がありませんわ! 何故私はそんな事にも気付かずにここまで来てしまったのでしょう!」

 

 余程切羽詰まってたのか、はたまた今まで忘れてたのか。どちらにしても動きだしが遅過ぎたですね。もっと早く回収するか、そもそもそんな手紙を書かなければ良かった訳ですし。

 

「何を仰います! 姫さまの御為とあらば、例え地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、何処なりとも向かいますわ!」

 

「ダメよ、ダメよ、ダメなのよぅ! 大切な貴女を死地に向かえなどと、どうして言えますか!」

 

「姫さま! 『土くれ』のフーケから『破壊の杖』を取り戻し、何十匹もいるオーク鬼を退治して見せたこのラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズにその一件、是非ともお任せ下さい!」

 

「………ルイズっ」

 

 片膝をつき恭しく頭を下げ、王女様に是非にと言うルイズを、王女様は感激した面持ちで見つめています。

 

「いや、『土くれ』から取り戻したの俺だし、オーク鬼倒したのは主に夕映じゃねーか」

 

 才人さんがツッコミを入れてますが、ルイズ達2人はまるで気にせず話を続けます。

 

「この私の力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 私の大事なお友達!」

 

「もちろんですわ姫さま!!」

 

 ルイズが王女様の手を握りながら熱い口調でそう言うと、王女様はポロポロと泣き出しルイズを抱き締めました。

 

「あぁルイズ! ありがとう!」

 

「姫さま! このルイズ、いつまでも姫さまのお友達であり、まったき理解者でございます! 永久に誓った忠誠を忘れたりはしませんわ!」

 

「あぁ忠誠! これが誠の友情と忠誠! 感動しました! 私、貴女の友情と忠誠を一生忘れませんわ、ルイズ・フランソワーズ!」

 

 何かのお芝居を見ているような流れる展開に、私と才人さんはただ見ているしか出来ませんでした。才人さんがどうしようと言う感じの目を向けてきますが、私に言われても困ります。2人が落ち着くまで待つしかないと思うです。

 

「アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子を探し出して手紙を取り戻してくればいいのですね? 姫さま」

 

「えぇ、その通りです。『土くれ』のフーケを出し抜き、オーク鬼をも退治して見せた貴女達なら、必ずやこの困難な任務をやり遂げてくれるでしょう!」

 

「………達?」

 

 ルイズが何かに引っ掛かったようで、クイっと首を傾げます。

 

「えぇ。世間知らずの私でも、この任務が困難なのは分かっています。なので、彼女を護衛をつける事にしたのです」

 

 そう言って私を手で示す王女様。

ルイズは私の方を見て驚いています。

 

「ユエが護衛ってどう言う事ですか?」

 

「彼女の事は報告書で知っていました。それに先ほど彼女の魔法も図らずとも見る事になりましたし、その腕前はかなりの物でした。それに、ドラゴン『くらい』等と平然と言える彼女なら、きっと貴女の助けになるはずです」

 

「まぁ、確かにユエならドラゴンくらい倒せるでしょうし、十分護衛も務まると思いますが。どうして魔法を見る事になったのですか?」

 

 王女様と私はついっとルイズから目を逸らします。

不審者の如くコソコソしてた王女様と、そんな彼女を素っ裸にした私。そんなちょっとルイズには言えない経緯がありますからね。この話題は早く終わらせるべきでしょう。

 

「まぁ、それは置いといて、いつ出発するかが問題です。急がないとアルビオンに着いた時には手遅れになっていた。なんて事になりかねません」

 

「ちょっと、どうしてそうなったか教えてよ?」

 

「えぇそうですね。アルビオンの貴族達は、王党派を国の隅っこまで追い詰めていると聞き及びます。敗北も時間の問題でしょう。ゆっくりしていて着いたら全て終わっていたなんて、目も当てられません。……しかし、夜に出歩くのは危険です。出るとしたら早朝にするべきですね」

 

「あの? 姫さま? 何故そうなったのか教えて下さい」

 

「ならば早速明日の朝にでも出発しましょう」

 

「ウーーーッ! ニャーーーッ!!」

「「うひゃぁっ!」」

 

 私と王女様がルイズを無視して話を進めていたら、ルイズが爆発しました。

その勢いに驚いた私と王女様が少し後ずさるほどの爆発です。魔法だけじゃなく、感情でも爆発させる事が出来るとは、やりますねルイズ。

 

 私は一歩下がっただけですが、王女様はすぐ後ろにベットがあったのでそこに躓き、ポフっと腰を下ろしました。

 

「もう! ちゃんと教え………へ? ひ、姫さま!?」

 

 そんな王女様を見たルイズが何かに気付いたようで、王女様を見ながら固まってしまいました。あー……もしかして、腰を下ろした時見えた……ですか?

 

「え?え? あれ? ひ、姫さま?」

 

 ルイズが戸惑いながら王女様のスカートをチラチラ見ています。これは確実に気付いてますね。

 

「あ、あの! これには事情があるのです!」

 

「どんな事情ですか! な、なんではいてムグッ!!」

「ルイズ! それ以上は言わなくてもいいのです!」

 

 ルイズが言おうとしていた事に気付いた王女様が、ルイズの口を塞ぎます。ムグムグ言って暴れるルイズを抑え込みながら王女様は必死に説得しています。どうにかルイズにスカートの中の事を忘れて貰おうとしていますが、2人で暴れてるせいでスカートがヒラヒラしてとても危ないです。

 

「2人共、そこまでです。このままでは話が進みません」

 

 2人は争うのをやめて、仲良くベットに腰掛けました。王女様はぴっちりとスカートを抑えて中が見えないようにしていて、ルイズはチラチラとそんな王女様を見ていますが、とりあえず置いといて話を続けましょう。

 

「とりあえず出発は明日早朝でいいですね? アルビオンまではどう行けばいいか、分かりますか?」

 

「えぇ、それは前に行った事があるし、私が分かるわ」

 

 ルイズが軽く手を上げてそう言ってくれます。視線は相変わらず王女様のスカートに釘付けですが。

 

「では、案内はルイズに頼むとしましょう。他に何かありますか?」

 

「私は無いわ」

 

 ルイズは即首を振り、王女様も特に何もないようです。彼女はふと才人さんの方を見て、おもむろに彼の方へと歩いて行きます。

 

「頼もしい使い魔さん、私の大事なお友達をこれからもよろしくお願いしますね?」

 

 そう言って王女様は才人さんに左手を差し出した。握手でもするのかと思ったですが、手の甲が上に向いているのは一体?

 

「なっ! いけません姫さま! 使い魔にお手を許すなんて!」

 

「いいのですよ。この方は私や私の大切なお友達の為に働いてくださるのです。忠義には報いるところがなければいけません」

 

 もしや、これがお芝居や漫画などでよくあるシュチュエーションの一つ。騎士がお姫様の手にキスをすると言うアレですか。ふーむ、まさか本当にこう言う場面が見られるとは思わなかったですね。

 

「お手? 俺、ここでも犬扱いなのかワン?」

 

 才人さんがよくわからない落ち込み方をしてるです。朝は喜んで犬のマネをしていたと言うのに。

 

「違うわよ。まったく、これだから犬は……。お手を許すって事は、簡単に言えばキスしていいって事よ」

 

「そんな豪気な……」

 

 ポカンと口を開けて王女様を見上げる才人さん。彼も物語で出てくるシュチュエーションに遭遇して驚いているようですね。王女様はそんな才人さんにニッコリと笑いかけます。その笑顔を見て才人さんは妙に嬉しそうにルイズの方を見てから、もう一度王女様の方を見ます。やたらと喜んでいますが、そんなにこのシュチュエーションに憧れてたのでしょうか?

 

 そして、才人さんは王女様の手を取り、そのままぐいっと自分の方へ引き寄せキスをしました。

………唇に。

 

「あれ? 気絶? なんで……?」

「こ、この犬! 姫殿下に何してるにょぉぉおおおーーっ!!!」

「プゲラッ!!」

 

いきなり暴挙に出た才人さんに、ルイズはそれは見事な飛び蹴りを繰り出しました。ゴリゴリ床に擦れながら飛んでいく才人さんを横目に、私は気絶して倒れかけた王女様を支えます。倒れこんでスカート全開になろうものなら、取り返しがつきませんからね。

 

「この!この!この!バカ犬がっ!! お手を許すって言うのは、手の甲にするのっ! 手の甲にキスすんのよっ!! 唇にするバカがどこにいるっていうのよっ!!」

 

「だっ! いたっ! いや、だってお前らのルールとか知らねぇもん。そうならそうと先に言ってくれないと」

 

「才人さん、漫画とかで見た事ないですか? こう、片膝ついて手の甲にキスしてる場面とか」

 

「あー………、なんか見た事あるかも?グエ」

 

 ルイズのお仕置きが止まりません。

靴のままゲシゲシ蹴りつけ続けてますけど、王女様にキスしてそれで済むなら安いものでしょう。私は腕の中の王女様が目を覚ますまで、ルイズ達のプレイを見続ける羽目になったです。こうしてみると、踏む時靴を脱いでいたエヴァンジェリンさんは、優しかったのでしょうかね。私自身はされたくないですが。

 

「うぅ……?」

 

「あ、起きましたか? 王女様」

 

 目覚めた王女様はまだフラフラしてるので、自身で立てるように支えてあげます。ようやく目をパッチリと開いた王女様の前に、ルイズが才人さんを引っ張って来ました。

 

「申し訳ありません姫さま、使い魔がとんだ粗相を! 全て私の不始末です! ほら! あんたも謝りなさい!!」

 

「ぐえっ! す、すいません。でも、キスしていいって言うから、てっきり」

 

「唇にする奴がどこに居るっていうのよ!」

「ここ」

「ふんっ!」

 

 ルイズの体重が乗ったとても良いゲンコツが才人さんの頭に落とされたです。ゴンと言う良い音がしました。

 

「忘れてたわ。誰が人間の言葉を喋っていいって言ったの? ワンだろこらっ! ねぇ犬?ワンって言え!わんわんわんっ!!」

「キャインキャイン!!」

 

 部屋の中だからか、いつもの蛇のような鞭ではなく、乗馬用の鞭を使ってワンワン言いながら才人さんを叩き続けるルイズ。そして床を転げ回りながら逃げる才人さんの2人を、王女様は目を丸くして見ています。

 

「……これがさっき言ってたイケナイ遊びですか?」

 

「今は遊びと言うよりお仕置きですが。まぁ、似たようなものですね」

 

「叩いたり叩かれたりって言うのは、そんなに良いのですか?」

 

「少なくとも、私にそんな趣味はありません」

 

 妙に熱心に見つめる王女様に、そこはかとない不安感を覚えながら、どうルイズ達を止めるか考えるのでした。

 

 

 

 







はいぃ、第18話でしたぁ。

今回はいつもより妄想成分が多めで、そうはならないだろうとか思われそうな展開でした。でも、いいの。妄想小説だから。所々強引に進むのは、いつもの事。もっとスムーズに話を繋げれるようにならないとねぇ。

さぁ、次はもっと早く書くぞぅ。では、次回にまた!


途中で姫さんに「どげんかせにゃいかん」と言わせようとしたんですが、なんか合わなかったので見送りしました。でもいつかどこかで!

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