言葉を探すのに時間がかかるかかる。もっと精進せねば。
でわ、第15話おまちどぉ
<ルイズ>
せっかくの舞踏会なんだしと、踊れないと言うサイトに簡単に教えながら踊った後、タバサが料理をかき込んでいるテーブルに移動してきた。
あの小さい体にどうしてあそこまで沢山入るのか不思議でならないわ。周りでも、そんな彼女の食べっぷりを見学する生徒達が結構いる。もう、完全に見世物になってるわね。
「タバサ、貴女よくそれだけ入るわね?」
「うん、美味しい」
「そんな事聞いてないわよ……」
大食いなのに、なんでこんなに小さいのかしら?
背も胸も小さくって、本当にまだ子供みたい。
「そういや、夕映はいないんだな」
「あらほんと、居ないわね。まだ支度してるのかしら?」
キュルケは男子達に囲まれて何か自慢っぽい事を話してる。タバサはここで大皿に盛った料理をどんどん口に運んでいる。いつもはここにユエも居てなんか妙な飲み物を飲んでるのに、今日はどこにも居ないわね。学院長室で何かあったのかしら?
「サイト、あんた何か知らないの?」
「いや、なんにも?」
「あんた、ユエだけ学院長室に残るように言ったじゃない。その後どうしたのよ?」
「俺も話の後はさっさとこっちに来ちまったからな。その後の事はわからん」
役に立たない使い魔ね。
サイトが違う世界から来たって事を信じる事にしたんだけど、それってつまり、同郷だって言ってたユエもそうだって事よね?
確かに、あのオーク鬼相手に戦ってたユエの強さを見ても、違う世界から来たからだと思えば、苦しいけど納得は出来るし。サイトだけじゃ無くてユエからも違う世界の事を色々聞きたかったんだけどなぁ。サイト、説明下手だし。
「一回ユエの部屋でも見に行ってみようかしら?」
「入れ違いになるんじゃないか?」
むぅ、確かにその可能性もあるわね。
「うーん、そうねぇ。もう少し待って見て、来なかったら迎えに行くとしましょう」
結局無難に来るのを待つ事にしたわ。ユエがどんなドレスを着るのか楽しみにしつつ、私も軽く食べる事にしよう。まだワインしか口にしてないからお腹が空いちゃったし。
「サイトも適当に食べてなさい。平民が、こんな料理食べられるなんて滅多に無いわよ?」
「まぁ、確かにこんな豪勢なのは結婚式で出てくるくらいだしな。よっし!じゃあ、遠慮無く食わせて貰うとするかっ!」
あのバカ、許可を出したらテーブルにすっ飛んで行っちゃったわ。余り恥ずかしい真似するんじゃないわよ。
それにしてもあいつの所では平民でも結婚式だとこれくらいの料理が並ぶって言うの?もしかして、サイトって平民の中でも裕福な家の出なのかしら?また聞かなきゃいけない事が増えたわ。まったくサイトの癖に生意気な。
「ミス・ヴァリエール、ちょっといいかな?」
「んむ?」
私が生意気なサイトをどうお仕置きしようか考えながら料理を食べていると、珍しく男子が1人私に声を掛けて来た。いつもはバカにして来る癖に、着飾った途端手の平を返した様に群がって来たバカ共を一蹴してからは静かだったのに、何の用かしら?
「何の用よ?踊りなら間に合ってるわよ?」
「いや、ダンスの申し込みじゃなくて、少し聞きたい事があってね」
「聞きたい事?一体何を聞こうって言うの?レ、レー……レイザーラモン?」
「誰だよ!?そんな名前どこから出てくるんだっ!」
「冗談よ、冗談。ちょっとボケただけよ、レイストーム」
「ちょっとかっこいいなぁっ!!けど!僕の名前はそんなのじゃないよ!?」
あ、あれー?違ったの?じゃあ、えぇーっと、なんだったかしら?
「あら?珍しくルイズが男連れてるわね?なんて酔狂な」
「なんか頭がやわっこい!!……って、キュルケ!?何するのよ!!」
私が頭を捻って名前を思い出そうとしていたら、キュルケの奴が私の頭にその無駄にでかい胸を乗せてきた。その柔い感触に振り返ってみれば、キュルケが肩と、胸の半分くらいが出ちゃってる頭の悪そうなドレスを着てワインを片手に立っていた。胸の所だけでも出し過ぎだって言うのに、そのスカートの部分が大きく縦に切り込まれていて、太腿の付け根あたりまで見えちゃってる。
「な、なんて物着てるのよあんた!」
「いいでしょう?このスリット、ユエの甲冑姿からヒントを貰って、急遽仕立て直したのよ?」
そう言ってスカートを引っ張り上げるキュルケ。確かにユエの甲冑には結構きわどいスリットとも言える切れ込みがあって素足が覗く構造になってたのは確かだけど、あれは甲冑なのに入ってるって言うギャップが格好良いんだけど、キュルケのはもうタダ露出したいだけに見えるわね。スリットから艶のある褐色の太腿を覗かせてポーズを決めていると、周りでそれを見ていた男共が、歓声を上げて下着でも覗き見ようと頭を下げた。キュルケはそれに気付いてるけど慌てて隠すような事はせず、余裕を持ってスカートを戻し、覗こうとしていた男共に流し目を送って微笑んでやる。それを見た男共は顔を真っ赤にして明後日の方向に向き直った。多分、誤魔化そうとしたつもりだろうけど、端から見てもまったく誤魔化せてない。これだから男は………って、サイトまで何してるのよ!?
ベシンッ!!
「痛!!無言で叩くなよ!」
「うるさい!!」
鼻の下を伸ばしていた使い魔に軽くお仕置きしてから、キュルケの前に戻って話を続ける事にした。
「急に走って行くから何かと思ったら。いいじゃない、少しくらい見てたって。ダーリンだって男の子なのよ?」
「見てたのがあんた以外の誰かだったら怒りゃしないわよ。この露出狂が」
「いい女は見られてなんぼよ?もっとも、見せられる物が無い人には無理だけどね?」
うぷぷっと口を手で隠して笑いながら、キュルケは私の胸を指で突つく。この変態はっ!小さくって悪かったわね!?
「な、何よ!そんな下品に膨らんでる方がみっともないんだからっ!」
私は手で胸を隠しながら反論するけど、自分でも負け惜しみにしか聞こえないのが悔しい。
「みっともなく大きくてごめんなさいね?あぁ、肩が凝って仕方が無いわ。ヴァリエールに分けてあげたい」
む、ムキィィィィッ!!
キュルケは、私に見せつける様に腕で押し上げて胸を強調する。大きな丸い胸が形を変えつつ盛り上がり、今にもこぼれ落ちそうになっている。こんのぉぉ………ッ
「あ~~、喧嘩は後にしてもらいたいんだけど……?」
私がキュルケの大きな丸い脂肪に噛み付いてやろうと、カチカチと歯を鳴らしていたら、隣で置いてけぼりを食らってた男子が遠慮がちに声をかけて来た。そういえば居たんだったわね、すっかり忘れてたわ。
「そういえば何の用だったの?レイモンド」
「レイナールだよっ!!君、覚える気無いだろ?」
「今までほとんど喋った事無いのに、隣のクラスの人間まで覚えてる訳無いじゃない」
学院に居る全ての人を覚えてる訳じゃないんだし、そもそも人をバカにするような連中の名前なんて覚える訳ないんだから仕方ないじゃない。でも覚えてなかった割りには近い名前が出たわね。さすが私。
「それで、レイナールは何の用だったの?ルイズみたいなちっさいのが好み?」
「誰の何がちっさいって言うのかしら?ツェルプストー……」
「あぁもう!喧嘩は僕の質問に答えてからにしてくれ!!」
もう一度キュルケと睨み合いをしようとしたらレイナールが間に入ってきて私達を引き剥がした。
「まったく、聞きたい事があっただけなのに、何でこんなに苦労しないといけないんだ」
「全部キュルケの胸が悪いのよ。文句ならキュルケの胸に言って」
「嫉妬深いルイズが悪いんじゃないのぉ?」
また私の頭に何かフカって言うか、フニャって言うか、そんな感触がしたと思ったら、キュルケの胸が上に乗ってた。私の後ろでわざわざ胸を持ち上げてプヨっと乗っけたらしいキュルケは、私の文句を無視してレイナールと話をし出した。おのれツェルプストー……
「聞きたい事って何なのかしら?わざわざルイズに聞く事なの?」
「いや、君でもいいんだけどね」
「なぁに?私はルイズの代わり?」
「そう言う意味じゃないよ。その、君達は良く一緒にいるから知ってるかも、と思って聞いたんだ。全然聞けてないけど……」
なんか歯切れが悪いわね。
私やキュルケに聞きたい事って何なのかしら?私達どちらに聞いても分かる話題なんて、お互いの悪口くらいだと思うんだけど。
「えっと、その……ミス・ファランドールはまだ来てないのかな?そ、その出来れば一曲お願いしようと思ったんだけど、見当たらなくて……」
「へ?ユエ?」
「……へぇ~、なるほどね」
わざわざ探してまでお願いしようとするなんて、よっぽどよねぇ。
うわぁ……、ちょっと横を見てみたら、キュルケが凄い顔してニヤついてる。私も疎い方だと思うけど、流石にレイナールが何を思ってユエを探しているかくらい分かったわ。つまりそう言う事よねぇ。あぁ、いけない。顔がニヤけちゃうっ!
「な、なんだよ!?そんな顔で見ないでよ!」
「だって、ねぇ?」
「そうよねぇ……ウフフフフ」
ニヤニヤが抑えられないまま、キュルケと二人でレイナールを見てると、その顔がどんどん赤くなっていくわ。自分の想い人がばれたと気付いたレイナールは、どんどん落ち着きを無くしてキョロキョロと周りを見回して助けを求めるけど、近くに居るのは未だに食べ続けるタバサだけ。サイトはいつの間にか別のテーブルに行ってフルーツを齧ってる。
「い、いないならいいんだ。じ、じゃあ、失礼するよ?」
味方を見つけらなかったレイナールは、少しずつ後ずさりながら別れの挨拶をするけど、そう簡単には逃がさないわよ?キュルケの方を見ると、彼女もこっちを見てニヤリと笑った。キュルケも逃がす気はないらしい。こっちも笑い返すと私の考えが分かったみたいで一層笑みを深くした。お互い同時に頷きレイナールの方を向くと、彼はビクッと震えてからクルっと背を向けて逃げようとする。
「さぁ、レイナール?こっちへいらっしゃぁい……」
「ほらほら、ワインついであげるわね?それとも、何か食べる?」
「あああああ、いや、結構です!結構ですから、離してっ!!」
私達は、レイナールを捕まえてイロイロ話を聞こうとしたんだけど、思いの外素早い動きで逃げて行っちゃったわ。ちぇー、せっかく面白い話を聞けるかと思ったのに。
「あぁん、逃げちゃった。恥ずかしがらなくてもいいのに」
「しっかし、ユエを、ねぇ」
「何よ、ルイズ?ユエがモテるのがそんなに不思議?」
私がレイナールの走って行った方向を見ながら呟くと、キュルケが首を傾げて聞いてくる。いつの間にかワインが赤から白になってるけど、いつもらったのかしら?
「ユエに男子が話し掛けてる所見た事ないもの。いつ好きになったのかしら?」
「別に四六時中一緒って訳じゃないし、どっかで話してたのかもよ?それに一目惚れって線もあるし」
まぁ、確かにユエにベッタリくっ付いてる訳じゃないし、どっかで仲良くお喋りしてても分からないけど、イマイチ想像が付かないわねぇ。
「一目惚れねぇ………」
「ユエは見た目小さいけど結構整った容姿してるから、十分可能性はあるわよ?」
んー………、そうかも。背は私よりちょっと低いけど、顔は結構綺麗だし、眠そうな目をしてるけどその瞳は不思議な輝きを持ってるのよね。特に魔法の勉強してる時なんかもうキラキラしてるもの。表情は全然変わらないけど。
「ほっほ、楽しんでいるかね?」
「あ、オールド・オスマン」
ユエのどこを好きになったかを考えてたら、少しめかし込んだオールド・オスマンがやって来た。いつもよりローブに刺繍があったり、おヒゲにリボンが付いてたりとパーティー用にオシャレしてる。
「今夜の主役なのじゃ、しっかり楽しむんじゃぞ?」
「「はい」」
「ところで、もう一人の主役はまだ来てないのかの?」
顎髭を撫でながらキョロキョロと見渡して誰かを探してる。もう一人って事は、ユエの事かしら?
「ユエならまだ来てませんわ。準備に手間取ってるんでしょうか?」
「キュルケと違って変に着飾るイメージが無いんだけど、案外凄く決めてくるのかしら?」
ユエがキュルケみたいなドレスを着ている所を想像してみたけど、意外と悪くないわね。チラッとキュルケを見て、そのドレスをユエに当てはめる。ボリュームに関しては私とほぼ同じだから、キュルケみたいにこぼれそうになる事はないかもだけど、なんか艶っぽいわ。なんでかしら?
「ふぅむ。部屋に置きに戻っておるのかもな。大きい物じゃし」
「え?何を置きに戻ったのです?」
「実はちょっとプレゼントをの。大きい物なので、持ったままでは来れんかったのじゃろう」
「えぇー?オールド・オスマン、ユエにだけプレゼントなんて、どうしてですかーっ?」
キュルケがプレゼントと聞いてブータレてる。
「いや、今回の任務の褒美とは関係なくての。ちょっと爺から孫へのと言う奴じゃ。せっかく出来た孫じゃしの」
「はぁー……。でも、どうしてユエが孫に?」
「おや?ユエ君は話してなかったのかね?」
「あー……、なんかそう言う話をする機会が無かったんです」
ユエの訓練の事とか、魔法の事とかばっかりで、留学してきた理由とかそう言うは全然だったわ。いやぁ、訓練のとか衝撃的過ぎたもの仕方無いわよね………?
「ふむ、ではちょっと話をしようかの」
そう言ってオールド・オスマンはユエを孫にした理由を話して下さったわ。タバサの召喚に巻き込まれてこの学院に来てせっかくだから生徒にしてくれって、本当に勉強が好きなのね。
「とまぁ、もっと詳しく知りたいならユエ君に直接聞いておくれ」
本人に断りなく色々聞くのも失礼な話だものね。今度じっくり聞かせて貰おう。
「しかし、ユエ君は来んのぅ。頼みたい事があったんじゃが……」
「頼みたい事って、どんな事ですか?」
「んむ?ちょっと個人的な事でな」
なんだろう?学院長なんてやってる人が頼みたいなんて、よっぽどの事よね。でも、ユエならなんでも出来る気がするし、頼みたくなる気持ちもわかるわ。
[ ユエ・ファランドール様のおなぁーりぃーーっ!! ]
「なんです!?その掛け声!?」
あ、ユエが来たみたい。
ああやって呼ばれるのは慣れてないのか、変に戸惑ってるわね。あたふたとしてるユエが着てるのは黒を基調にした落ち着いたデザインのワンピース。ドレスと言うには余り派手ではないけど、ユエに似合っててすっごく素敵。靴は余り見た事のないデザインの物で、ちょっと光ってるのは宝石かしら?靴にまで宝石を飾るなんて凄く贅沢な作りね。首元には何も飾らず白い首筋を黒の服で強調させてる。髪は軽く上げてバレッタで留めているけど、その色合いも綺麗だし、それ自体に絵が描かれていてとても精巧な作りをしている。ユエの持ってる物はどれも凄く作りが細かくて、手間が掛かってるのよね。やっぱり物凄く位の高い家柄なんだろうな。
「おーおー、男共が群がってるわ」
「今まで話し掛けもしなかったのに、ホント男ってバカね」
「ほっほっ、そう言ってやるな。美しい女性に男は惹かれるものなのじゃから」
オールド・オスマンは、男共に囲まれてアワアワ言ってるユエを嬉しそうに見ながらそんな事を宣う。その目は正に孫を見る祖父の物だった。
「はぁはぁ……。み、皆さんお待たせしたです」
「あはは、災難だったわねユエ。ちょっとくらい踊ってからでもよかったのに」
「いえ、私ダンスはやった事がないもので」
ふぅーっと息を吐いて落ち着きを取り戻したユエがダンスは出来ないと言い出した。何でも出来るイメージだったけど、出来ないものもあるのね。
「うむうむ。ユエ君、実に美しいぞぃ。その髪飾りなども実に良く似合っておる」
「あ、ありがとうです、お爺様」
オールド・オスマンに褒められて顔を赤くして俯くユエ。照れてる所は可愛いわね。ずっと見てられるわ。
「………何ですか、ルイズ。ニヤニヤして」
「なんでもないわよ。えぇ、なんでもありませんとも」
また顔がニヤけてたみたいね。気を付けなきゃ。
ユエがジトーッて見てくるけど、そっぽを向いてどうにか誤魔化してみる。まぁ、誤魔化せてないだろうけど。
「んふふー。ユエはまた可愛いわね。ユエの持ってる物はどれも仕立てがいいわね。よほど腕の良い職人に作らせてるのね」
キュルケがユエのドレスに興味を持ったのか、ぐるぐるとユエの周りを回りながら、服の仕立てを確認している。襟を見たり、裾を見たりと忙しそう。あ、何を思ったのかユエのお尻を撫で回し始めたわ。
「ぅひゃあっ!?キュルケ、お尻を撫でないで下さい!!」
「あはは、ごめんごめん。いや、不思議は感触の生地だったからついね。でも、いい手触りよ?自信を持ちなさいな」
「そんな自信、要りませんっ!」
ユエはお尻を隠しながら飛び退いて文句を言うけど、キュルケはまるで反省してないわ。キュルケの奴、よくユエを触るわよね?もしかして男だけじゃなくて、ユエも狙ってるのかしら?
「ほっほっほっ。眼福眼福。若い娘達の戯れる姿は、実に生き返る光景じゃのぅ」
オールド・オスマン、発言が完全にスケベ爺になってるわ。ユエを見る目は目尻を下げてなんだかいやらしいわね。もしこれがオールド・オスマンじゃなかったら、ユエの貞操の為にも捕まえるべきかも。
「……ミス・ヴァリエール?なんじゃな、その微妙な目は?」
「いいえ。何でもありませんわ、えぇ」
ジトっと見てたらオールド・オスマンが怯んだ様子で聞いてきた。そんな変な目してたかしら?キュルケのユエ観賞もひと段落したのか、二人ともこちらに戻って来た。
「まったくキュルケは。一度捕まるべきです」
「大丈夫よ。ユエやタバサくらいしかやらないから」
「私にもやらないで下さい!」
ほんとに反省してないわ。
「まぁまぁ、ユエ君が綺麗に着飾っているから我慢出来んかったんじゃろ。儂も酒場で会ったのなら声を掛けるぞぃ」
ホクホク顔でユエにそう言うオールド・オスマンだけど、フォローになってるのかしら?
でも、ユエが来てようやくいつもの4人になったわ。
ちょっと前まではいつも一人でいたのに、今はだいたいこの四人で居る事が多くなった。ユエとは何か波長が合う感じがして良く一緒に居るんだけど、そうするとタバサがチョコチョコっと寄ってくるし、それにくっついてキュルケも来る。結果学院ではいつも四人で行動する事になるんだけど、今まで喧嘩ばっかりしてた私とキュルケが一緒に居るから、結構他の子達が騒ぐのよね。時々私が一人で居る時に、仲直りしたのかと聞かれたりするし。実は最初から仲が良かったのかとか。
まったく迷惑な誤解よ。
私はユエと二人の方がいいんだけど、まぁ、四人でも別にいいかと最近は思う様になった。前とは考えられない程賑やかな毎日は、ちょっと気に入ってるわ。ツェルプストーだけが微妙だけど。
「そういえば、ユエ結構遅かったわね?何してたの?」
「あぁ。実はパーティドレスなんて持って無かったものですから、それっぽくなる服の選定に手間取りまして」
「へぇ〜。じゃあ、それは普段着なの?」
キュルケが袖を触りながら聞く。どうしても触りたいみたいね、キュルケ。あんた女で良かったわね。男だったら、確実に蹴られてるわよ?
「えぇ、そうです。いくつかある中で、一番近いかなと思いまして選んだんですが、どうですか?」
そう言って軽く回るユエ。高い位置が基準になっているスカートがふんわり広がって、なんとも可愛らしい。いいわねぇ、これ。私も着てみたいわ。
「ユエの所は、こんな上等な服を普段着にしてるの?」
「大量生産品ですよ?これ」
ユエが言うには、わざわざ合わせて作ってもらうんじゃなくて、一定の寸法で大量に作られたものなんだとか。このレベルのものを大量になんて、それだけで凄い労力よ。
「おおっと、儂はまた挨拶回りをしてくるんで、これで失礼するぞぃ」
「あ、はい。オールド・オスマン」
「では、お爺様。また」
私達はこの場を離れると言うオールド・オスマンにお辞儀をして見送る事にした。
彼は軽くグラスを掲げてそれに応えると、他のテーブルに移動して行き、と思ったら戻って来た。
「いやはや忘れる所じゃった」
「どうしたです?お爺様」
立ち去ったと思ったら急に向きを変えて戻って来たオールド・オスマンに、何事かと聞いてみるユエだけど、そういえばさっき頼みがあるとか言ってたっけ。それの事かしら。
「いや、実はユエ君に頼みがあっての。その、あれの事なんじゃが……」
オールド・オスマンはそう言ってユエの耳元でコソコソっと何かを呟いた。ユエは最初不思議そうな顔をしてたけど、すぐに納得の行ったと言う顔をして大きく頷いた。
「えぇ、構いません。むしろ私からお誘いするつもりだったです」
「おぉ、そうかね。では今度頼むぞぃ」
「えぇ。しかし、さっき見た時、かなり内部は荒れてましたので、整備をしてから招待するです」
「ならば、楽しみに待っておこう。では、皆のもの邪魔したの」
そう言って今度こそ他のテーブルで談笑してる教師などに声を掛けながらこの場を後にした。
「何の話だったの?」
「お爺様が下さった物の話でちょっと。使える様になったら、お爺様にお見せすると約束したんですよ」
さっき言ってたプレゼントの事かしら?
一体何をもらったのかしらね。ユエに聞くと、ここは人目があるからまた後でって話になった。つまり、ユエの魔法が関係してくるのね。あれ?オールド・オスマンはユエの魔法の事を知ってるのかしら?
「ねぇ、ユエ……」
「み、ミス・ファランドール。あ、あの、僕と一曲お願い出来ますか?」
私が質問をしようとしたら、さっき逃げて行ったはずのレイナールがユエをダンスに誘ってきた。ユエが入場した時は、他の男子のせいで輪の外に弾かれて近づけてなかったから、今がチャンスと思って寄ってきたのね。ちゃんと誘えたのはいいけど、私を遮るんじゃないわよ、まったく。
「あ、あの嬉しいのですが、私はダンスが出来ませんで」
「あ、あう。そうですか……」
「ユエ、レイナールがリードしてくれるから大丈夫よ。せっかくなんだから、一回だけでも踊ってらっしゃいな。ねぇ?」
キュルケがユエの手をレイナールと繋がせながらそう言って、私の方に目配せをしてきた。どうやらすぐ諦めそうになったレイナールのフォローをする気らしい。珍しくいい事するわねキュルケ。私も手伝って上げるとしますか。
「これから先ダンスをする機会は多いんだから、今のうちに覚えた方がいいわ。ほら、次の曲から行きなさいな。レイナール、しっかりリードするのよ?」
キュルケと二人で強引にだけどペアを組ませて、会場に押しやってやる。レイナールに任せてたら最後まで誘えなそうだし。
「え、あ、あの、お二人共?」
「ほら、次の曲が始まるわよ。レイナール、ほら、行きなさいって」
レイナールはユエの手を握ったまま戸惑ってたけど、キュルケに促されて覚悟を決めたのか大きく一回頷いてユエに向き直った。
「僕と一曲お願い出来ますか?レディ」
「う、え、あ、はいです」
手を握りユエの目を見つめながらダンスに誘うレイナールに、ユエは顔を赤くしながら了承した。レイナールって、顔はそれなりにいいから、真剣な表情をするとなかなか見れる顔になるわね。おかげでユエもイチコロみたい。
「ユエって、意外と面喰いなのね……」
「そうねぇ。顔を真っ赤にして、可愛いわ」
キュルケがなんかいい笑顔しながらユエとレイナールのダンスを見ている。なんか子供の門出を見てるみたい。タバサとユエの二人がキュルケの子供枠って事かしら?
「なぁに、ルイズ?」
「なんでもないわ。おぉ、しっかりリードしてるわね、レイナール。ユエもちゃんと踊れてるし。ほら、お母様、ちゃんと見てないとダメですよ?」
「んん?誰がお母様なのかしら?誰のお母様なのかしら?」
キュルケがニコーっとしながら私の顔を覗き込んでくる。
キュルケは怒るけど、やってる事はどう見ても母親のそれだから、謝る気はない。ないのよ。
「最近私に子供が居るなんて噂が流れてるんだけど、あなたの仕業?」
「ぶふっ!!本当に!?私以外にもそう思う人がいたのね。プフーッ!」
「笑うんじゃないわよっ!」
「ぷふふーーっ!ほや、ひゃんひょみふぇないひょふぁめひょ?」
キュルケに頬を引っ張られても笑うのは止められない。
他の同級生からもそう見られてるんだと思ったら、もう、プフフーッ!
<夕映>
何か良く分からないうちにレイナールさんとやらとダンスを踊る事になってしまい、ステップを教わりながら一曲踊りました。何度も足を踏んでしまい、申し訳なさで一杯になりながらも、なんとか踊り切りキュルケ達の所に戻って来たですが、キュルケとルイズは二人で頬を引っ張り合いながらじゃれてました。人がテンパってる間に何を仲良くやってるですか。いえ、仲が良いのはいい事ですが、何の説明も無しに送り出しておいてそれもどうかと思うです。
どうもあの二人が悪乗りしてレイナールさんと私をペアにしようと画策したみたいですね。別にそこまでしなくてもと思うですが、何を思ってこんな事を企んだのでしょうか。レイナールさんにはいい迷惑でしょう。
「で、どうだったユエ?レイナールと踊ってみて」
「初めて踊ったので、沢山足を踏んでしまったです。レイナールさんには申し訳ない事をしたです」
「いいのいいの。レイナールにはご褒美よ!」
「どんなですか……」
こうして寮の部屋へ向かう途中でもキュルケは何かテンションが高くておかしいです。ルイズも何かニヤニヤしてるし、一体なんなのでしょう。
「二人の様子がおかしいのですが、何か知りませんか?」
「さぁ?俺はいろいろ食べるのに夢中だったから」
「知らない」
二人の知らない間に何かあった訳ですか。
「まぁ、いいじゃないの。今日は疲れたし、早く寝ましょう」
「まぁ、フーケとの対決にオーク鬼討伐、そして舞踏会。イベント目白押しだったのは確かですね」
なかなか濃い一日でした。
こんな濃い一日はそうは無いです。大変な一日と言うのは麻帆良で慣れたつもりだったですが、ここ最近のんびりとした生活だったおかげか、随分なまってるようですね。
「じゃあ、おやすみユエ、タバサ。ついでにキュルケ」
「えぇ、おやすみです」
「おぉっと。ユエはこっちよー?寝るまでお話しましょっ?」
挨拶をして、自分の部屋がある階へと上がろうとしたら、キュルケが私の肩を抱き寄せそう言ったです。
「ちょっとキュルケ、何企んでるのよ?」
「別に何も企んで無いわよ。ただユエとお喋りしたいだけ。タバサも来る?」
「もう寝る」
タバサは一言呟いて階段を上がって行きました。それを仕方ないと言った表情でキュルケは見送って、ルイズ達の方に向き直ります。
「仕方ないわねぇ、あなたも来る?」
「誰がツェルプストーの部屋になんか行くものですか。ユエも止めておいた方がいいわよ?何されるか分かったもんじゃないわ」
そう言ってルイズは自分の部屋に入っていったです。
あー……もしやヤバイのでしょうか?チラリとキュルケの顔を見ると、それに気付いた彼女はにっこりと笑いキュっと抱きついてきたです。
「じ、じゃあ、俺はこっちに……」
「あんたはこっちよ!!」
ベチンとサイトさんの頭を叩いて引きずって行くルイズ。部屋から出て来るのが見えませんでした、やりますね。
「で、では私もこれで。おやすみです、キュルケ」
「ユエはこっちぃ。いろいろ話し足りないんだから」
ヒョイっと私を抱き上げて部屋へと連れ込もうとするキュルケ。しかし、確信も無く拒否するのも失礼ですし、しかしもし万が一そうだったら困るわけで。
「あー……キュルケ?」
「大丈夫大丈夫ぅ」
「いえ、何がですか。ちょ、離すです」
「テリーを信じてぇ」
「誰です!?テリーって!!」
乱暴にする訳にもいかないので、そのまま抵抗も出来ず部屋に連れ込まれてしまったです。まぁ、普通はそんな事を警戒する必要もないのですが、キュルケは面白がってちゃんと否定してくれないので、もしやと言う思いが募るばかりです。これはそう、
「ほぉら、時間は有限よ。さっさと着替えてお喋りしましょ」
そう言ってキュルケは言葉通りさっさとドレスを脱ぎ去り、タンスから以前サイトさんに迫った時に着ていた物より大人しめのベビードールに着替えてしまいました。出る所は出て、引っ込む所は引っ込む、見事なプロポーションです。彼女は18だと言ってたですが、自分が二年後にああなっている所が想像出来ません。のどかも最近どんどん大きくなってきたと言うのに、私の成長は微々たる物でした。むぅ、一体何が違うのでしょうか。って!
「キュルケ!服ぐらい自分で着替えられます!!」
「ユエがぼーっとしてるんだもの。着替えさせてくれって言ってるのかと思ったわ」
「いえ、普通そんな人はいないです」
まぁ、何かあったら魔法で眠らせてしまえばいいです。
私もさっさと服を脱ぎ、倉庫からパジャマを取り出しました。この一年愛用しているパジャマに着替えて、私服を倉庫に放り込むとキュルケが不思議そうに私を見ています。
「なんです、キュルケ?」
「いやぁ、剣から妙な飲み物から、なんでも出すわね。ところでそれでいつも寝てるの?」
私のパジャマが珍しいのか、ジロジロ眺めて観察するですが、こちらでは寝巻きと言えば今キュルケが着ている様なベビードールだったり、下着だけだったりするのが普通らしいです。まぁ、パジャマはインドから来たものですし、ヨーロッパの文化圏に酷似していて、しかも他所との交流が一切ないハルケギニアではない文化ですね。
「着心地はいいので、良く寝れるですよ」
「へぇ〜、これまた仕立てもいいし、生地も凄いわ。エキュー金貨で2、30枚って所かしら?」
日本の量産品も、中世レベルの文化圏では高級品に見えるようです。キュルケ達が事あるごとに私の服や持ち物で騒ぐのはそう言う理由だったですか。
「これもいいわねぇ。今度実家に頼んで作って貰おうかしら?でも、ちょっと野暮ったいかも」
「……キュルケ、脱がさないで下さい」
縫い目などを細かく観察したかったらしいキュルケは、それに夢中になる余り、どんどんパジャマを脱がしていくです。こうじっくり見られながら人に脱がされるなんておかしな気分がするので、速攻止めて貰いたいです。
「あはは、ごめんなさい。でも、もうちょっと見たいわ。いいでしょ?」
「それで半裸にされたらたまったものじゃありません。もう一枚出すので、そっちでお願いします」
ポンと倉庫から予備のパジャマを出してキュルケに渡すと、喜んでベットに飛び乗り渡されたパジャマを裏返して作りを観察していきます。
「私の服を見たいから部屋に呼んだですか?」
「んー、それもあるけど、あなたの事が知りたかったのよ」
「私の事、ですか?」
キュルケはパジャマの縫い目を確認しながら、話を続けます。
「舞踏会で、ユエが来る前にオールド・オスマンからちょこっとあなたの事を聞いたのよ。それで、そう言えばあなたの事を全然聞いた事なかったわねって思ってね。ほら、この学院に来た時の事は聞いたし、来る前の事も見せてもらったけど、どうして留学する事にしたのかとか、あなた自身の事を聞いて無かったわねぇって、気付いてね?じゃあ、せっかくだしとこうして部屋に呼んだのよ」
折を見て話そうとおもってたですが、意外とタイミングがなくてズルズルきてしまったのが原因ですね。
「そう言えばキュルケ達には話してなかったですね。機会があれば、と思ってたですが、そう言う時間が全然なかったですし」
「そうよ、まったく。だからこうして連れてきたのよぅ。ベットの中なら時間はたっぷりあるんだから、いくらでも話せるわ」
キュルケはそう言いながら私に抱き付いてベットに引き摺り込んだです。抱き付いたまま頬ずりしてくるキュルケのせいで、息ができないです!
ジタバタと足掻いて、どうにか拘束を緩め一息つきます。
「危うくキュルケの胸で窒息する所でした」
「あはは、ごめんなさいねぇ。殿方は喜ぶんだけどねぇ」
「私は女なので、喜びません!」
キュルケのスキンシップは男女両方に同じベクトルで行うのでなかなか困りものです。
今度は軽く抱き寄せられ頭を撫でられます。グズる子供にやるように優しく撫でるですが、私は子供じゃないんですが?
「ユエ、あなたずっと手が震えていた事に、自分で気付いてた?」
「へ?手、ですか?」
私は確認する為に自分の手を眺めてみます。天井に向けて伸ばした手は、確かに少し震えてました。
「あのオーク鬼を退治した後くらいから、ずっと震えているわ。タバサもルイズも気付いてたわよ?」
そう言って伸ばしてた手に自分の手を絡めて抱き寄せるキュルケ。フニュンとした感触を感じながら今日の自分を振り返るですが、震えている自覚がまるでありませんでした。唯一踊った後にワインを受け取った時、取り落としそうになったくらいです。
「やっぱり怖かったのかしらね?あの時フーケの魔法が無かったらあなた大怪我してたかもしれないもの」
「怖かった、ですか」
そうなのでしょうか?いえ、怪我をするのは慣れてるです。訓練中エヴァンジェリンさんは死なない程度にしか手加減をしません。それは私が頼んだ事ですが、それくらいじゃないと先生達に追いつけないと思ったからです。なので大怪我くらいで怖がるはずはないです。では、何故手が震え………
「ユエ?」
「いえ、怖くて震えてる訳では無いかもです」
「どう言う事?」
キュルケは促しながらも優しく撫で続けてくれます。その感触を心地よく感じながら、私は自分でも気付かなかった感情を告白します。
「私は今までいろいろな訓練をしてきたです。強力な魔法を使い、接近戦もこなすエヴァンジェリンさんに、それこそ全身を砕かれるような攻撃を受けた事もあるですし、剣の訓練でヘマをして腕一本切り落とされた事もあるです。なので、怪我自体にそれほど恐る事はありません。ただ……」
「ただ?」
「私は今まで訓練しかして来なかったんです。相手は自分の遥か先に居る格上相手ばかり。実戦も経験してますが、その相手は召喚されたゴーレムとかでしたし。今日のように、生きた相手を斬る事など一度も無かったんです。何かの命を戦いで奪う事などただの一度も無かったんです」
いろいろな相手と戦ってきました。
「んふふー」
「うぷっ!?な、なんですキュルケ?」
私が自分の弱さを猛省していると、キュルケが急に抱き付いてきたです。またしてもその凶悪な胸に顔を埋めて息が止まりかけたです。
「ユエって、なんでも出来ちゃう凄腕メイジってイメージがあったから、なんか嬉しくてね。あなたにも弱い所があるんだって」
キュルケはそう言って、また子供をあやすように頭を撫でて来ます。今度は更に優しく、私を慰める様に丁寧に。
「さっ、ユエ。お話しましょ?いっぱい話してぐっすり眠れば、きっと大丈夫よ。初めての経験を思い出して怖くなったとしても、今日は私が抱いててあげるから」
キュルケがそう言ってしっかり抱きしめてくれたからか、手の震えはもうありませんでした。
私はキュルケを抱き返し、いろいろ話す事にしました。まずは自分が異世界人である事から。
「やっぱり東方の出身じゃなかったのね」
「はい。もっとまったく違う所です」
そこには学校があり、こことは違う事を教え、私が魔法をどうして習う事にしたかなど、二人が寝てしまうまで話続けました。心のままに話して聞かれた事も隠さず話して、ここ最近でもっとも長く話をしたです。修行ばかりでのどか達ともここまで長く話さなかったというのに。
「そう言えば、キュルケの言動は逐一いかがわしいですね」
「悪かったわね!」
エヴァンジェリンさんの言っていた「泥に塗れても前に進む者であれ」と言う言葉を、しっかり頭に刻みながら、私は意識を沈めました。
ふぅ、これで原作1巻がやっと終わった第15話でしたぁ。
このペースじゃ終わるまでどれだけ時間がかかる事やら。
自分はファッションの事は詳しくないので、その手の描写が適当ですが、勘弁してくだせぇ。あと文章が強引なのも。
さぁ、次からは髭子爵だ、ルネッサーーンス!どうしてくれようっ!