でわ、第14話れっつごぉ
ルイズ達の所までの、大体数十メートルを身体強化も使って一気に走り抜けます。
先ほどのオーク鬼達は、大きな体のせいで木々をすぐには抜けて来れないはずです。森を抜けるのに手間取ってる間にルイズ達に説明してここから離れなければいけません。咄嗟に抱えて来たフーケの事もありますし、余りのんびりとはしてられません。
「あ、ユエ!良かった。無事だったのね!?ミス・ロングビルも大丈夫だったみたいねっ」
フーケを抱えたまま駆け寄ってきた私に、ルイズがとてもいい笑顔で声をかけて来ました。
「そうだ、ユエ!フーケがいないの!ゴーレムが居たんだから、それを操作してるはずのフーケも近くに居るはずなのよ!」
キョロキョロしながらフーケを探しているルイズ達ですが、今はそんな事より優先しなければならない事があるです。
「皆さん、今はそれは後回しです!急いでシルフィードに乗ってください。すぐここから離脱します!」
「ど、どうしたのよユエ?そんな急いで。フーケを捕まえなきゃ意味が無いのよ?」
説明は安全を確保してからにしたかったのですが、もう後ろからオーク鬼の鳴き声が聞こえてきました。
「ぶひぃぃっ!ぷぎぃぃーっ!!」
「げ!?なんだあれ!?」
「お、オーク鬼!?なんでこんな所にいるのよ!?」
全力で走っても、そんなに距離を稼げなかったようですね。
振り返れば、森の中からオーク鬼の群れがゾロゾロとやって来ていました。その数は十数匹くらいでしょうか。さっき見た時より更に増えてる気がするです。手に手に棍棒や、簡単に作られた斧を持ってプギプギ言っているオーク鬼の群れにルイズ達も震え上がります。
「あれは貴女の仕込みですか?」
私はまだ抱えたままのフーケに、彼女の手の一つかと聞いてみます。
「そんな事が出来るなら、最初からゴーレムなんて出さないでアレをけしかけてるよ」
「ミス・ロングビル?一体何がどうなってるの?」
いつもと雰囲気の違う彼女に、ルイズ達は困惑気味です。
今までの優しげな雰囲気が、気付けば鋭く冷たい物に変わっていれば、戸惑いもするです。
「彼女がフーケ」
「えぇ!?」
タバサはフーケの正体が分かったようです。
ルイズ達は信じられないと言った様子で、私が抱いている彼女を見ています。
「……ふん。……それで、いつまで私は抱かれていればいいのかしら?」
「そう言えば、いつまでも抱えてる必要は無かったですね」
「きゃ!?」
ドシン!
ついつい降ろすのを忘れていた私は、パッと手を離して彼女を降ろします。
少々荒っぽいですが、丁寧に降ろしてあげる関係でもないですし、そもそも敵が迫っている状況です。その辺りは目をつむってもらいましょう。
「いたたたた……。もうちょっと丁寧に降ろして欲しかったわね」
「状況が許すならそうしましたが、そろそろ遊んでもいられなくなって来ましたので」
オーク鬼との距離は、既に20メートルを切っているでしょう。目を離せば、一瞬で距離を詰められる間合いです。
ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ
[ジャベリン]
「ぷぎぃぃっ!」
タバサが冷静に魔法を放ち、一番近づいていた一体を撃ち抜きます。
それを見てオーク鬼達は、こちらがただのエサではないと分かったようで、進むのを止め、私達を囲むように広がり始めました。
「ちょっとちょっと!どうするのよ!何か一杯いるんだけどっ!?」
「ふぅむ……。お得意のゴーレムで蹴散らすなんて出来ませんか?」
私は、立ち上がってぶつけたお尻を撫でていたフーケに、ゴーレムでどうにか出来ないかと聞いてみますが、
「杖はあんたが捨てさせたじゃない。あたしは今丸腰なのよ?」
「予備の杖くらい、持ってないのですか?」
「メイジの杖は、一人一本って決まってるのよ。持ってる訳ないじゃない」
そう言えば、前にルイズもそんな事言ってたですね。しかし、
「怪盗なんてやってる人が、そんな常識守らないで下さい」
なんで怪盗やってる人がそんな決まりだけ素直に守るんですか、まったく。
「仕方ないでしょ!今まで秘書とはいえ、教師してたんだから。その辺り守ってないと怪しまれるじゃない!」
カモフラージュの為の職業だったとはいえ、その手の決まりは守ってないと要らぬ誤解やら、追求やらがあるかも知れないですし、仕方ない……のでしょうか?
「ほ、本当にミス・ロングビルがフーケなんですか?」
「ルイズ、その話は後にしましょう。皆さん、オーク鬼が近付かないよう牽制の魔法を撃って下さい。一気に来られたら面倒です」
私がそう言うと、皆真剣な表情をして魔法を唱えます。
しかし、相手は既にこちらを囲み切っていて、いつ襲いかかってくるか分からない状態です。
「このオーク鬼という種族とは、意思の疎通は出来ますか?出来れば話し合いで、解決したい所なんですが……」
「無理ね。こいつらは人間の子供が大好物なんていう連中よ?こんにちは~なんて言って近付いたら、頂きま~すって頭からかじられるのが落ちよ。そもそももう一匹倒しちゃったし、話し合いなんて出来ないわよ」
それもそうですね。しかし、人間が食料なのですか、私など食べても美味しくないですよ?
「数が多い。一斉に来られたら、呪文を唱える暇が無くなる」
神経を集中させないと呪文が唱えられないのは、どこの世界も変わらないのです。
動き回りながら唱える訓練や無詠唱などが出来れば別ですが、ここの魔法使い達はそこまで想定していないようですし、そもそも彼女達はまだ学生。そう言う手段を勉強する過程はまだ先の話です。フーケなら逃げる為にも、そう言う技術を習得してるでしょうが、今は杖のない状態で、ただの女教師です。乱戦になれば、直ぐにやられてるしまうでしょう。
そう、訓練ではないこの状況でのそれは、つまり死を意味します。
「オーク鬼というのは、他にどんな特徴がありますか?」
「言葉が喋れない亜人で、簡単な武器を持って村を襲う害獣よ。男は食べ、子供も食べ、女は食べられるより巣に連れていかれる事が多いらしいわ」
ルイズが緊張した面持ちで周囲を睨みながら教えてくれます。魔法による牽制と、シルフィードの威嚇のおかげでまだ襲っては来ませんが、時間の問題でしょう。
「……連れてかれた女の人って、どうなるんだ?」
デルフさんを構えながら、恐る恐ると言った感じで才人さんが聞きますが、ルイズは答えません。知らないのでは無く、言いたくないといった表情です。よほど悲惨な目に会うのでしょう。
「……ルイズ?」
「ダーリン、それは女の私達からは説明出来ないわ。まぁ、つまりそう言う事よ」
「あ、うん、わりぃ」
キュルケが珍しく助け舟を出して話を終えました。キュルケがルイズを助けるなんて珍しい事が起こる程の目に会うのですか。
「えーと、つまり、今ここにはあいつらにとって大好物が3つに、連れ帰れるのが2つ居るとしか見てない訳だ」
私、ルイズ、タバサは好物枠ですか?
意味の分かったルイズ達も鋭い視線を才人さんに向けます。自分の失言に気付いたのか、気まずげに視線を逸らし、誤魔化すように剣を構え直しました。
「呑気だね、あんた達。向こうは今にもヨダレを垂らして襲い掛かってこようっていうのに」
フーケが呆れた様子でそう言ってきます。確かに今はそんな状況じゃ無かったですね。
「ふぅ。才人さんのお仕置きは後回しです、ルイズ、タバサ。シルフィードに乗ってここから逃げないと、物理的に食べられる事になってしまいます」
自分達は牛や豚を食べますが、自分がそうなるのは流石に勘弁してほしいです。
「だ、ダメよ逃げるなんて!」
私が逃げる提案をすると、ルイズが慌てた様にそう言います。
「ルイズ何言ってるんだ!?」
「あいつらは人を襲うの!今までいなかったはずの所にいるって事は、この近くの村か街を襲うつもりなのよ!ここで倒しておかないと、大勢の人間が襲われる事になるわ!」
「だからって、このままじゃやられちまうぞ!?学院に戻って、応援を呼ばないと!」
「それで見失ったらどうするのよ!次見つけた時、大勢殺された後じゃ意味ないのよ!?」
確かにここで倒さずにいて、近くの村などが壊滅したら目覚めが悪いどころではないでしょう。私もそんなのはごめんです。
「だけどよぉ」
「いい、才人。私達は貴族よ?私達がなんでそう呼ばれるのか分かる?」
ルイズがオーク鬼達から目を離さずに、才人さん問いかけます。
問いかけられた才人さんは、ルイズの方を振り向きながら、
「どうしてって、魔法が使えるからだろ?そう言ってたじゃねーか」
「ううん、それは正確じゃないわ。私達は常に人の上に立つ責任があるの。それはただ威張るのが仕事じゃないわ。何かあった時、率先して敵に立ち向かい、命を懸けて領民を守るから私達は貴族と呼ばれるのよ。魔法が使えるからじゃない、敵に背を見せず戦うから私達はそう呼ばれるのよ」
そう言ったルイズの横顔は、同性である私ですら見惚れるほど美しく堂々としてました。
これが、幼い頃から人の上に立つ事が義務付けられてきた貴族の覚悟の現れなのでしょう。魔法を覚えただけの庶民で、成り行きで貴族になった私では真似できない事です。
「ふふっ、魔法も使えないヴァリエールのくせに威勢がいいじゃない?」
「何よツェルプストー?怖いなら逃げてもいいのよ?」
「冗談。あなたこそ、隠れてていいのよ?私が全部魔法で倒してあげるから、指をしゃぶって見てなさいな」
「咥えるでしょ!?赤ちゃんか私はっ!!」
こんな時に、いえ、こんな時だからこそいつものやり取りをして緊張をほぐしているのでしょう。いつもの様な怒り顔ではなく、ニヤリと笑っているのがその証拠です。
「そろそろ焦れてきたみたいよ?あなた達。じゃれ合ってる場合じゃないと思うけど?」
「ミス・ロングビル、いえ、フーケ!貴女に言われなくても分かってるわよ!」
まだ戸惑いはあるようですが、フーケにそう言い返したルイズは、キッと前を向いて杖を構えました。キュルケ達も杖と剣を構え、いつでも攻撃出来るようにとオーク鬼を睨みつけます。
「皆さん、一斉に魔法を撃ったら、急いでシルフィードに乗って下さい。彼らは私が引き受けます」
「何言ってるのよユエ!?わたしも戦えるわよ!?」
「そうよ!あなた一人に任せる訳にはいかないわ」
私の言葉に皆が驚いてそう抗議してきます。
「いえ、貴女達が足手まといと言ってる訳ではありません。しかし、乱戦になるのは必至なこの状況では、地上に留まるのは下策でしょう」
囲まれているこの状況で呪文を唱えている間に攻撃されてしまったら、障壁もない彼女達では大怪我は避けられません。だったら、乱戦でも十分戦える私が残り、彼女達を安全な空へ逃がした方がよっぽどいいでしょう。
「でも!」
「シルフィードで飛んで、空から魔法を撃つ」
タバサはすぐに理解してくれました。
ここに留まっていたら、勝てる相手にも勝てなくなるです。一般的な魔法使いは言わば砲台。パートナーが守っている間に高威力魔法を撃ち込むのが主な役割りです。今回パートナーの役割りを私がやって、ルイズ達には魔法を撃つのに専念して貰いたいです。
「私なら乱戦になってもどうにか出来ますが、貴女達は呪文を唱えている間無防備になってしまいます。魔法が間に合っても、すぐ次が来てやられてしまうでしょう。ならば、安全な空から魔法を撃てば詠唱に集中出来ると言う訳です」
私がそう言いますが、まだ納得しきれない様子のルイズ。やはり自分達だけ逃げる格好になるのが納得出来ないようです。
「ルイズ、これは貴女達をないがしろにしたい訳では無く適材適所と言うものです。私なら、あの程度の敵に負けはしません。それに……」
「それに……なに?」
ここに来て2週間くらいでしょうか。新しい魔法を習う機会に恵まれて夢中でしたが、理論ばかりでは実力アップは図れません。つまり………、
「最近机に向かうばかりで少々身体がなまってきてる気がするです。いい機会なので、存分に暴れさせて貰おうかと」
私がにっこりと笑いながら言うと、皆一様に引いたように体を揺らします。
なんだか誤解を招いたような気もするですが、今は置いておきましょう。話をしてる間に、包囲の輪が狭まって来てます。そろそろ一斉に襲ってくるでしょうし、急がなければ。
「さぁ、議論は終わりです。行きますよ?」
「ユエ、本当に大丈夫なの?」
ルイズが心配そうに言いますが、正直、負ける気はしません。
「えぇ、大丈夫です。久々に本気で行きます。一斉に連中の足元に魔法を撃ったら、すぐシルフィードで飛んで下さい。あとは、私がどうにかします」
「ユエ、怪我したら承知しないわよ?」
「分かってるです。まぁ、もし何かあったら、罰としてなんでもしますよ」
「なんでも、ね。覚悟しておきなさい」
ニヤっと笑うキュルケの顔を見て、早まったかもと後悔しましたが怪我しなければいいのですから、気にしない事にしましょう。
「では、行くですよ?………3、……2、……1、今!!」
シュパッ!! ドゴォォォン!!
「プギィィィ!?」
私、キュルケ、タバサ、そしてルイズの魔法が一斉に撃ち出され、オーク鬼の前方に炸裂しました。オーク鬼が突然の爆発に驚き動きを止めた隙に、急いでシルフィードに乗り込みます。全部で五人もいる訳ですが、その巨体はなんなく乗せきり空へと飛び立ちます。私はそれを
やがて、シルフィードが安全高度に到達したのを確認してから、私は戦闘用に思考を変化させます。今までの様な少し気を抜いていた物から、命を懸ける戦いに挑むための思考回路に書き換え、ゆっくりと手を上げます。オーク鬼が、とりあえず私だけでも確保しようと思ったのか一気に走って来るのを視界に納めながら、この世界に来て初めての全力戦闘の準備をします。
着装!!アリアドネー戦乙女騎士団動甲冑!!
更に!
動甲冑のシステムはオールグリーン………いえ、通信系が全滅してますか。世界が違うですし相手もいないので仕方ないですね。そして
さぁ、
「ハァッ!!」
準備してる間に間合いに入ってきたオーク数匹を、一回転しながら強化した剣で吹き飛ばします。五、六匹くらいまとめて飛ばせたですかね。そうやって最初の一団を凌いだあとは、すぐその後ろに来ていたオークを、すれ違うように踏み込みながら斬り付けるです。
「さらに!!」
そうして剣の勢いで体が回転するのを利用し、無詠唱の
「おっと!!」ガキンッ!!
振り下ろされた大きな棍棒の一撃を受け止めはじき返し、腕が上がりガラ空きになった胴体を袈裟斬りにし、その間に後ろから来たオークを、瞬動で更にその背後へと移動する事で回避して、そのまま背中に剣を振り下ろします。
これで半分は倒したですか。
私を巻き込まない為か、オーク鬼の輪の外側にルイズ達の魔法が撃ち込まれます。私に注目しているオーク鬼は、いきなり空から撃たれ為す術もなく倒されていくです。
私は
おっと、油断は禁物です。それで失敗したからここに来る羽目になったんでした。後悔はしてませんが、同じ轍を踏む真似はしてはいけません。
飛び上がり数匹まとめて
気付けばあと5匹ですか。あれだけ居た割りには早かったですね。
1匹を
そう思って剣を降ろそうとした時に、空からルイズの大声が響きました。
「ユエ!逃がしちゃダメ!群れが崩れたオーク鬼は、今まで以上に人を襲う様になるの!」
理由は分かりませんが、それはマズイです。逃げる相手を撃つのは心苦しいですが、仕方ありません。せめて一撃で終わらせましょう。
見れば逃げたオーク鬼はもうすぐ森の中に入ってしまいそうですし、
フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!
逃げたオーク鬼が入って行った所目掛けて思いっきり撃ち込みます。
雷を纏った竜巻が激しく渦巻きながら伸びて行き、地面を削りつつオーク鬼が逃げ込んだ森に突き刺さりました。
ズッガァァアアアアアッン!!
突き刺さった
木々と共にオーク鬼も吹き飛んだ様ですが、森の一部が消えてしまいましたね。や、やり過ぎたです?
「ユエーーッ!!」
空に逃げていたルイズ達が降りてきました。
シルフィードから飛び降りて一目散に駆け寄ってきます。
「「「今の怪我し夕魔あれ森でっかす全然なんごいの教なの風に貰うさいよだ!!」」」
一斉に喋られても聞き取れませんよ、聖徳太子じゃないんですから。
ルイズは興奮気味に
「キュルケ!服を捲らないで下さい!」
「ッハ!?ゴメンゴメン。このスリットが気になったもんだから」
確かにこの甲冑の足の部分は結構大胆なスリットがありますが、だからと言って捲る事はないじゃないですか。
「キュルケはそろそろ捕まって見るべきね。……それより、ユエ!強すぎよ貴女!!あの群れを一人で討伐するなんて、スクウェアクラスだって出来ないわよ!?」
「そうそう!特に最後の魔法は凄かったわねっ!森の1部が吹き飛んでるじゃない!!」
「ちょっとやり過ぎたですね」
「まぁ、森が吹っ飛んだからな。いやぁ、すげぇなっ!」
着弾点を見ればそれなりの大きさのクレーターになってました。
大きく抉られ木々が投げ出され、森がそこだけ無くなっていました。あー、完全な自然破壊ですね。
「まぁ、何はともあれオーク鬼も退治出来たし、フーケも捕まえたし、今回の任務完了ね!」
盗まれた品物も取り返せたですし、成功と言ってもいいで………
「……フーケはどこに行ったですか?」
「「「え!?」」」
見ればあの知的美人がどこにも居ません。大方降りた時にこっそり逃げ出したのでしょう。
「ほんとだ!どこにも居ない!!」
「に、逃げたー!?」
慌てて周りを見渡しますが、もはや遅いですね。こんな深く暗い森ですし、木々に隠れてしまえば人一人などまず見つからないでしょう。
「むーーーっきーーっ!!悔しいぃぃぃっ!!」
完全に逃げられたのが分かってルイズが爆発しました。魔法も感情も爆発好きですね。
キュルケ達も残念そうな悔しそうな顔をしてます。変わってないのはタバサくらいですね。いつもの涼しげな無表情で、周りを見渡してます。
辺りには事切れたオーク鬼が散乱してますが、それを余り視界に入れない様にして会話を続けます。
「逃げられたのは仕方ありません。破壊の杖はあるようですし、それを回収して任務完了としましょう。この森の中からたった一人を見つけるのは、些か無理があるです」
「むぅ、悔しいわね。捕まえたも同然だったのに!」
「逃げられない様に縛っておくべきだったな」
油断しすぎでしたね。杖が無くて何も出来ないと思い込んだのがいけませんでした。
自分で杖を無くした時の対策をなどと言っておいて、相手もそう言う事をしていると考え無かったです。いえ、こちらの世界の魔法使いを知らず知らずの内に侮っていたのかもしれません。自分も未熟者のくせに、なんて傲慢な。反省しなければいけません。
「帰る」
タバサがここにはもう用はないと帰る事を勧めます。
私達は煮え切らない気分のまま馬車を停めてあった所まで戻る事にしました。破壊の杖は取り返せましたが、犯人逃げられたのでどうにも締まりません。私は全装備をしまって、皆の後に続きます。
「…ぶ、ヒィィ!!」
「なっ!?」
皆に続いて歩いていたら、まだ息があったらしいオーク鬼が最後の力を振り絞って立ち上がり棍棒を振り下ろしてきました!完全に気を抜いていたので、まるで気付かなかったです!ま、まずっ!?
「ユエ!?」
「くっ!デルフ!」「おうよ相棒!」
急いで迎撃をしなければさすがにマズイです!
私は杖を引き抜き
ズガンッ!!
あと少しで私に当たると言う所で、地面から石槍が数本伸びて来てオーク鬼をその場に縫い止めました。腕や足だけでなく関節部分や棍棒自体も撃ち抜いていて、体を完全に縫い止めてます。これほどの精度で魔法を使えるとはかなりの腕ですね。おかげで完全にオーク鬼は事切れたようです。しかし、この石槍は一体誰が?
「ユエ!大丈夫!?」
「怪我してない!?」
「えぇ、助かりました。完全に油断してたです」
油断禁物などと言っておいてあっさり不意をつかれるなど、エヴァンジェリンさんに知られたらどれほど厳しいお仕置きがあるか分かったものじゃありません。
「この魔法もユエがやったの?」
「結構強力な魔法ね」
この反応により、ルイズ達が助けてくれたのでは無いと分かったです。そもそも彼女達では属性が合わないです。そして、その条件に合うのは、
「フーケ」
「え?フーケ居たの!?」
「どこどこ!?」
タバサがポツリと呟き、ルイズ達が騒ぎ始めますが、タバサの言いたい事はそうではないでしょう。彼女が言いたいのは、
「いえ、タバサはこの魔法がフーケの仕業だと言いたいのでしょう。確かに彼女ならこの精度の魔法が使えても不思議ではありませんが………」
「なんで助けたのか、って事ね?」
助かりましたが、真意が分からないです。
軽く見渡しますがやはり彼女の姿は見当たらないです。これほどの精度で魔法を使うには、少なくても目に見える距離に居るはずですけど………ダメですね。魔力の残滓しか見つかりません。
「まぁ、助かったんですし感謝しましょう。助けられて文句を言うのも失礼ですし」
「うーん、まぁ、そうね。そろそろ帰らないと暗くなっちゃうし、帰ろうか」
そう言ってルイズ達は入り口の方に歩いて行きます。
私もそれに続きますが、ふと先ほどのオークを見直します。これほどの魔法が使えるなら、怪盗などしなくても働き口はいくらでもあるでしょうに、一体何故わざわざリスクの高い犯罪者などをやっているのか。もし次に出会ったなら、その時にでも聞いてみたいですね。
1部私の魔法のせいで明るくなったあぜ道を通り、馬車を停めてある所まで戻ります。
既にオーク鬼なんてものが出てきたので、この暗い森の中を歩くのも少し緊張しますね。木の陰からまた出て来ないか多少警戒しつつ歩いて行くと、ようやく広い道まで戻って来れました。しかし、見渡しても馬車とは名ばかりの荷車が見当たりません。
「あ、あれ?馬車ってこの辺りに停めてたわよね?」
「そのはずだけど………ないわね?」
いくらなんでもあの大きさの馬車を見失う訳ないのですが。
「ん……?あっ!!ちょ、ちょっと皆来てくれ!ここに何か書いてある!」
少し先まで行って探していた才人さんが大声で呼ぶので、私達は顔を見合わせたのち才人さんの所に行きました。
手を振って呼ぶ才人さんの足下には、なにやら文字の様な物が書かれています。こちらの文字なのでスッとは読めないですね。流石の文字翻訳魔法でも、逆さになっている文字を簡単に読ませる事は出来ないみたいです。
「……な、なぁぁーーーっ!?」
「やられたわね」
ルイズとキュルケが物凄く悔しそうに顔を歪ませ、タバサも珍しく不機嫌そうな雰囲気を滲ませてますが、これは………
「一体どうしたんだ……?」
「なになに……[学院の馬車、確かに領収致しました。土くれのフーケ] だそうです。やられましたね」
「え?って、馬車取られたってことかっ!?」
まぁ、確かにここから徒歩で逃げるのも難しいですし、持っていかれるのも仕方ないですね。
「ふふふふフーケェーーーッ!!次会ったら覚えておきなさいよぉーっ!!」
ルイズが大噴火です。
空に向かって手を振り上げ大声で吠えてます。なかなか強かですね、フーケ。
私達は、最後までフーケにしてやられた今回の任務を悔やみながら、結局シルフィードに乗って帰る事になりました。トカゲの乗り心地もそこそこ良いですね。まぁ、箒の方が私は好きですがね。先生の杖に乗った時を思い出しますし。
「あーあ、フーケは逃がすし、オーク鬼は出てくるし、散々だったわね」
「まぁ、俺らはゴーレム倒しただけで、オーク鬼は殆どユエが倒したんだけどな」
「魔法で援護するはずだったのに、全然手が出せなかったわ」
「ユエ一人で、軍隊を相手出来るんじゃないの?」
「いえ、流石に軍隊は無理ですよ。まぁ、私の友人達には軍隊相手に楽々勝つ人もいますが」
「「あ~~、やっぱり」」
私達はのんびり他愛ない会話をしながら、帰路につきました。
学院長室にて今回の事をお爺様に報告します。
私達を代表してルイズが、フーケの正体に始まり、オーク鬼の事まで話ていくです。お爺様はその話を髭を扱きながら聞いてます。
「ふぅむ。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはのぅ。美人じゃったものでなんの疑いもせずに採用してしまったわい」
「いったいどこで採用されたんです?」
私は少し疑問に思ってお爺様に聞いてみます。
「ん、んんー……とじゃな……」
「学院長?」
コルベール先生が促しますが、お爺様は何かためらっています。何故でしょう?
「あー……、街の居酒屋じゃ。儂は客での、彼女は給仕をしておったのじゃ」
「それだけで秘書にしたのですか?」
コルベール先生が不思議そうに聞きますが、私も疑問ですね。給仕をいきなり秘書にする理由が分からないです。
「ん、んん!いやの。彼女美人じゃし、酔っていたもので、ついついお尻に手が伸びてしまっての。それでも怒らないので、秘書にならんかと言ったら、なると言うんでの……」
「なんでそれだけで?」
「秘書の仕事は割とストレスが溜まるのでの。少しくらい触られても動じないくらいがいいんじゃ。それに魔法も使えると言うのでの」
セクハラしても怒らないからなんて理由で採用したのですか。
よもや、麻帆良の学園長ヨリの性格だったとは。お爺様のイメージが崩れていくです……。
「思えばあれも魔法学院に潜り込む為のフーケの手じゃったのかも知れんの。居酒屋で寛いでいると儂の所に何度も来て愛想良く酒を勧め、魔法学院学院長は男前で痺れますぅ、なんて言われたら気分も良くなるし、あんな美人が自分に惚れてるんじゃと思ってつい秘書にならないかと言ってしまうのも分かるじゃろ?」
ちょっと何言ってるか分かりません。
しかし、横で聞いていたコルベール先生は、何故か目を泳がせてつつ感心した様子で頷いてます。
「そ、そうですな!美人はそれだけでいけない魔法使いですなっ!!」
「その通りじゃ!うまい事言うな、コルベール君!!」
なにやらいい笑顔で固く握手する二人に、私達は白い視線を送ります。
学校の責任者と言うのは皆こんな性格じゃないといけないのでしょうか………?
「……オホンッ。さて君達、よくぞフーケから破壊の杖を取り戻してくれた。逃げられたのは惜しかったが、杖もまた宝物庫に収まったし一件落着じゃ」
お爺様は誇らしげに礼をする私達の頭を優しく撫でながら更に言葉を続けます。
「宮廷に、君達の[シュヴァリエ]の爵位申請を出しておいた。追って連絡があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサは既にシュヴァリエの爵位を持っておるので、君には精霊勲章の授与を申請しておいたぞぃ」
ルイズ達は顔を輝かせて喜んだ。タバサも珍しく分かり易い喜びの雰囲気を漂わせています。顔はいつも通りですが。私には、それがどれほどの物なのか良く分からないのですが、ルイズ達の反応からすると、相当名誉な事なのでしょう。ただの庶民な私としては、表彰状くらいで十分な気分ですが。
「本当ですか?オールド・オスマン」
「うむ、本当じゃ。君達はそれ位の事をしたのじゃ。フーケから杖を取り返し、偶然発見したオーク鬼の群れを準備無しで討伐するなど、衛士隊でもそうは出来んぞぃ」
キュルケの確認に、うむうむ言いながらお爺様がそう返し褒めてくれます。
その言葉にキュルケは飛び上がって喜びました。タバサを抱き締めクルクル回ってます。タバサを抱き締めるの好きですねキュルケは。ルイズはと言うと、才人さんの様子を気にしているようです。今の説明では彼への恩賞が無い様でしたから、それを気にしているのでしょう。
「オールド・オスマン、サイトには何も無いのですか?」
「残念ながら、彼は貴族ではないのでの」
申し訳無さそうな表情で言うお爺様ですが、才人さんは気にしてない様です。
「何もいらないですよ、俺は」
「すまんのぅ。一応儂の自腹でいくらか出させて貰うから、それで勘弁しておくれ」
お爺様がそう言うと、ルイズも少しホッとした様子で胸を撫で下ろします。
私は見てないですが、才人さんも頑張った訳ですし、何も無いのは可哀想ですからね。
「さぁ、今夜はフリッグの舞踏会じゃ。破壊の杖も戻ってきたし、予定通り執り行えるぞぃ」
キュルケの顔が更に輝きました。かなり眩しい笑顔です。
「あ!フーケのせいで、すっかり忘れてましたわ!」
「今日の舞踏会の主役は間違い無く君達じゃ。存分に着飾るのじゃぞ?」
ルイズ達は綺麗な礼をしてドアに向かいました。
私もそれに続こうと歩き出した所で、才人さんが動かない事に気付いて立ち止まります。ルイズも動かない才人さんを見てどうしたのかと言うように立ち止まり、彼の顔を見つめています。
「先に行ってていいよ。すぐ追い付くから。あ、夕映は残ってくれ、話を聞きたいし」
「へ?えぇ、分かったです」
「何よ?ユエが残るんなら、私も残るわよ?」
怪訝そうな顔をするルイズは、小首を傾げてそう言いますが、才人さんは首を横に振って断ります。
「いや、聞きたい事があるだけだからすぐ済むよ。ルイズは準備もあるんだろ?早く行かないと遅れるぞ?」
「………まぁ、いいわ。ユエだって仕度があるんだから、余り時間かけるんじゃないわよ?」
そう言った後、ルイズは何故か心配そうな表情で私の方を見て、軽く手を振ったのち学院長室を出て行きました。
才人さんはそれを見送った後珍しく、と言ってもそこまで長い付き合いでは無いので本当に珍しいのかは分かりませんが、とても真剣な顔をしてお爺様と向き合います。
「何か聞きたい事があるようじゃな。言ってごらんなさい、君に爵位を授ける事は出来ないが、せめてものお礼じゃ。出来るかぎり力になろう」
お爺様は、久しぶりに会った孫を見るような優しい表情を浮かべて才人さんを促します。
「では、オスマンさん。あの破壊の杖を一体どこで手に入れたんですか?」
「ふむ?……あれは昔、森を散策していた時、突然ワイバーンに襲われての。まだ若かった儂では倒す事が出来んかった。そして、もうダメかと思った時、あの破壊の杖を持った男が現れてワイバーンを一撃で吹き飛ばしたのじゃ。礼を言おうと近付くと、彼はパタリと倒れてしまった。見れば酷い怪我をしているのではないか。儂は急いで連れ帰り、手厚く看護したのじゃが、何分かなりの重傷での。ヒーリングだけでは追い付かん、水の秘薬を取り寄せて治療に当たろうと思ったのじゃが、秘薬が届く前に………」
「亡くなったんですか?」
「……うむ。儂は彼がワイバーンを倒す時に使った一本を彼と共に墓に埋め、もう一本を破壊の杖と名付けて宝物庫に納めた。恩人の形見として、大切にな。それがあの破壊の杖じゃ」
きっと今、お爺様の脳裏には、その恩人の事が浮かび上がっているのでしょう。懐かしそうに、それでいて悔しそうな、そんな表情をしているです。
「そうですか。手掛かりが見つかったと思ったのに……」
「ふむ。手掛かりとは、何のじゃ?」
お爺様が思い出に耽るのを辞め、才人さんを見つめます。
「実は、俺は、いや、俺と夕映はこの世界の人間ではありません。こことは違う世界から来たんです」
あー、やはり言ってしまいましたか。
異世界から来たなんて、頭の病気を疑われる様な事は極力言いたく無かったです。しかし、お爺様の話に出てきた人物は、おそらく地球からここへ飛ばされて来たのでしょう。私と同じ様な天然の
彼の事を詳しく聞けば、帰る為の方法を探る手掛かりになるかも知れないですね。
「多分、いや確実にその破壊の杖の持ち主は、俺達と同じ世界から来た人間です。あの破壊の杖は、俺達の世界の武器で、M72対戦車ロケットランチャー、とか言う名前だったかな?とにかく、その人がどうやってコッチに来たのか分れば帰る方法も分かるかと思ったんですが……」
才人さんは何の予備知識も無しに、いきなりここに呼び出されたんでしたね。
帰れるなら帰りたいと思うのも当然です。友人や両親ともお別れをしてないでしょうし、きっと向こうでは大騒ぎしてるでしょう。私も、留学途中でいきなり消息不明になった形ですし、のどかや
「ふむ、それで合点がいった。彼は最後までうわごとの様にこう繰り返しておった。『ここはどこだ?元の世界に帰りたい』とな。この元の世界と言うのが、君が居た世界と言う訳じゃな」
「えぇ、そうです。その人がどうやってここに来たのか分かりませんか?俺自身は、ルイズの召喚魔法でここに来ました。だけど、夕映は事故でここに来たそうです。その人がどうやってこの世界に来たのか分れば、帰る手掛かりになると思うんです」
「……ふむ、そうか。しかしすまんのぅ。儂はついぞ、彼とまともに会話する事が出来んかったんじゃ。じゃで、どうやって来たのか、どこの誰なのかは結局分からず終いじゃった」
ふむ、手掛かりなしと言う事ですか。
しかし、この世界は一体どう言う位置付けなのか。才人さんは日本の秋葉原から直接ここに召喚され、私は魔法世界の森から吸い込まれてこの世界の森に放り出され、その恩人さんは多分日本以外のどこかから来た。つまり、この世界は新世界と旧世界の両方と繋がっていると言う訳です。地図を見ると、ここの地形はヨーロッパ近辺にとても良く似ています。もしかしたら、このハルケギニアはヨーロッパを基盤にした異界空間なのかも知れません。魔法世界も火星を基盤にしたもので、その地形は元の火星と同じですし、この仮説は十分可能性があるですね。
「……そうですか。またふりだしに戻っちゃったな」
「力になれんですまんの。こちらでも君を送り返す方法を調べて見るので待っててくれんか?まぁ、見つからんかったとしても今後の生活は保証するぞぃ。住めば都と言うし、ここでの生活も悪くないじゃろうて。それにちゃんと嫁さんも見つけてやるしの。なんじゃったら儂の孫なんてどうじゃ?このユエ君なんじゃが、なかなか器量は良いぞ?まぁ、全体的にちょっと小さめじゃが……っ!?」ピコンッ!!
「小さめで悪かったですね」
失礼な事を言うお爺様にピコピコハンマーでお仕置きしつつ、私はこれからの事を考えます。
帰る事は急いでいませんが、一筋縄では行かなそうだと言うのはヒシヒシと感じます。まず、この世界がどう成り立っているのか調べないと行けませんね。完全な平行世界であるならば、小手先の方法ではまず帰れないでしょう。何せ世界を越えなければいけないんです、ただ長距離を跳ぶのとは訳が違いますから、魔法を勉強するだけではどうしようもないかもしれません。
「すまんすまん。いや、ユエ君は十分魅力的じゃぞ?お人形の様な可愛らしさじゃ!」
「いえ、いいんですが………」
「夕映ってオスマンさんの孫だったのかっ!?」
「まぁ、いろいろと事情があってそう言う事になってるです」
才人さんにはちゃんと事情を説明出来なかったんでしたね。まぁ、重要な事ではないですし、また今度でいいでしょう。
「っとそうだ、オスマンさん。このルーンの事も聞きたいんですが」
才人さんが左手に刻まれたルーン文字を見せつつお爺様に聞きます。
「これが光ると何故か武器を自在に使える様になるんです。剣だけじゃなくて、俺の世界の武器まで」
剣を持つと素早く動ける様になるのが能力だと思ったですが、武器を操るのが能力だったんですね。
「……これなら知っておるよ。これはガンダールブと言う伝説の使い魔の印じゃ」
「ほほう。伝説ですか」
「うむ、その通りじゃ。その伝説では、ありとあらゆる武器を使いこなしたと言われておる。破壊の杖を使えたのもそのおかげじゃろう」
使い魔には、時折特別な能力を宿すものがいるそうですが、才人さんもそう言った理由で能力を得たのでしょうか?才人さんが特別だったのか、召喚主であるルイズが特別なのか分かりませんが、大層な能力を手に入れましたね。
「なんで俺がそんな使い魔に……?」
「分からん」
「分からない事ばかりだ。……そうだ、夕映は何か分からないか?」
才人さんがそう聞きますが、流石に情報が少なすぎて推測もままならないです。
「いえ、そう言われてもですね。今言えるのは、私達の世界に帰るのは容易ではないだろうと言う事くらいですね」
「そんなにか?」
「えぇ。何せ、ここがどう言う世界かも分からないのですから。単純に隣の国に来たのとは訳が違うのです」
帰るには、まずこの世界が平行世界なのか、地球のどこかを基準とした異界であるかを見極めなければいけません。その上でそれを飛び越える為の魔法を構築する必要があるのですが、私ではまだそこまでは無理です。
「ふむ。そう言えばユエ君も才人君と同じ世界から来たのだったね」
「はいです。嘘をついていてごめんなさいです」
「構わんよ。いきなり儂は異世界から来たのじゃー、なんて言われても信じないと思ったのじゃろぅ?」
「はい。私なら正気を疑いますから」
本当はもっと後にしたかったですが、いい機会ですし言ってしまうのも良いでしょう。いつまでもお世話になっているお爺様に嘘をついているのもイヤですし。
「くぅぅぅっ!異世界とは!心が踊るようですなっ!」
「おぉぅ、コルベール君、君も居たのじゃったな」
「最初から居ましたとも!!」
名前じゃなく存在を忘れるとは、流石に可哀想ですよお爺様。
「コルベール君、今の事は他言無用じゃ。良いな?」
「分かりました。確かに騒がれたら面倒ですしね」
異世界があると知られたら、いろいろ聞かれそうですしね。好奇心旺盛な人に捕まったら大変そうです。
「あ、ミス・ファランドール。君が授業で魔法を失敗するのも、そのせいなのですかな?異世界と言うくらいですし、魔法もこちらとは違う可能性がありますし」
コルベール先生は、授業中に何度試しても魔法を失敗する私に疑問を持っていたようです。う〜ん、もう隠している必要はないですね。
今まではルイズ達が大騒ぎになると言うので隠して来ましたが、魔法が使えない者が、今回の様な任務を成功させられるはずは無いと騒がれるかも知れません。そんな時に私の魔法がバレたら、それこそ大騒ぎです。今の内に打ち明けておいて対策を練っておくべきですね。
お爺様はこの学院のトップですし、何か良い考えが浮かぶかも知れません。
「えぇ、コルベール先生。今まで誤魔化して来ましたが、実は私は系統魔法は使えません。しかし、魔法は使えます」
「ふむ。それはどう言う事じゃ?」
お爺様も不思議そうに私の方を見ます。
お爺様は、仕事の関係や時間が合わないせいで余り話す機会がなかったですが、ちょくちょく私の事を教師達に聞いていたそうです。そのおかげで、私が魔法を使えない事も知っていたようです。しかし、出会った時に魔法を使えると言っていたので、どう言う事か聴こうと思っていたとか。一時的とはいえ、祖父と孫だと言うのに、余りに会話がなさすぎでしたね。これからはちょくちょく話をしに行くとしましょう。
「ここからは他言無用でお願いします。知られれば、私はここに居られなくなるです」
「……ふむ。よかろう。コルベール君も分かったかね?」
「はい、勿論です!」
先程から少年のように目を輝かせているコルベール先生が、これでもかと言うほど元気に返事をします。
「……ルイズ達が言うには、私の魔法はこちらでは先住魔法に分類されるそうです。世界に満ちる力を呪文で制御する私の魔法は、こちらの人達にとってタブー視される邪法で、知られると異端審問にかけられるのだと」
「…………先住魔法とな。なるほど、これは大変な問題じゃ」
「系統魔法は使えないのですかな?使えるなら、そちらだけを使っていれば問題無いと思うのですが」
確かに使えるならそれだけを使っていれば気にする事も無いのですが、それは既に無理だと分かってしまっています。
「いえ、私では系統魔法は使えません。これは私達の資質が関係しているです。こちらでは貴族しか魔法が使えないですが、それが何故か分かりますか?コルベール先生」
「む?メイジになれるのは貴族のみなのは当然だと思っていましたが、その理由まで考えた事はなかったですな。……はて、一体何故なのか……」
コルベール先生がアゴに手を当てウンウン唸ってます。今まで疑問にも思ってなかった事も、いざ理由を考えるとなるとなかなか思い付かないものです。
「思い付かないですなぁ。正解はなんですかな?」
「いえ、私も完璧に分かっている訳ではないですが、貴族の方と平民の方では魔力、こちらでは精神力と言いますが、それの総量がかなり違うのです。平民が1とすると、貴族は50から100はあるでしょうか。そして魔法を使うには、一番弱いドットランクの魔法でも精神力を10使うとすると、何故貴族だけが魔法を使えるのか分かるでしょう」
魔力が足りなければ魔法が使えないのは当然で、これが平民が魔法を使えない理由と思うです。何故貴族の方はそれだけ魔力があるのかと言うのは、長い時間を掛けて魔力量が多い血筋を守って来たからでしょう。
「なるほどのぅ。精神力が1しかない平民が魔法を使えないのは当然じゃな」
「はい。貴族はその精神力の多さを長い時間血筋を守ることで維持して来たので、メイジになる事が出来るのでしょう。そして、私が系統魔法が使えない理由もそれです。私はお爺様の養女にしてもらったおかげで貴族と言う位を得ましたが、血筋は平民です。なので精神力が足らず系統魔法が発動しないのです」
私の家は完全に一般家庭ですしね。
逆立ちしたって系統魔法は使えないでしょう。どうにかして自力の魔力量を増やす方法を見つけるか、精霊魔法の使い方で系統魔法が使える様に術式を組み替えるとかしなければいけないです。まぁ、そこまでするくらいなら似たような魔法を使って誤魔化す方が早いでしょう。
「ふむ、つまりユエ君は系統魔法を使えるほど精神力が無いと言う事か。その代わり先住魔法が使えると」
「ふぅむ。しかし、先住魔法か。確かに知られればロマリアの神官どもが騒ぐじゃろうな。どうしたものか……」
お爺様達は事の難しさに頭を抱えてしまいます。
宗教関係はどんな世界でも難しいのでしょう。なにせ、それを絶対の物と信じている所に違う物が来るんです。よほど頭が柔軟じゃないと、それを受け入れられず排除しようとします。しかもこの世界の根底に関わる魔法技術についてです。そう簡単に解決出来ないでしょう。
「これは難しい問題じゃのぅ。ユエ君の魔法を公表するとロマリアの連中が騒ぐ。公表しないと、彼女がメイジだと証明出来ず成績に影響が出る。うーむ………」
「そんなに考えるものですか?出身が違うから魔法も違う、でいいと思うんですけど」
才人さんが不思議そうにそう言いますが、やはり理解は難しいでしょうね。
なにせそう言う差別と言うか、宗教上のタブーなどが無い日本から来たのですから仕方ないです。
「いや、それほど単純な問題では無いのだよ。系統魔法は始祖ブリミルが伝えた物でね?……」
コルベール先生が才人さんに何故先住魔法が問題なのかと説明しますが、宗教にこだわりの少ない日本人である才人さんには余り理解出来ないようです。私も実はそれほどちゃんと理解してる訳では無いので、人の事をとやかく言えませんが。
「とりあえず、ユエ君の魔法の事は今は隠しておいた方がいいじゃろうな。いつまでもとは行かないじゃろうし、近い内にどうするか決めないといかんがの」
お爺様もこの難しい問題を解決する方法が思い付かないようです。日本のように、世界中の宗教から自分達に都合の良い所だけを吸収していく柔軟性があればいいのですが、そんな節操の無い国はそうそう無いですし、いきなり解決は無理でしょうね。
「しばらくは現状維持ですね」
「うむ。窮屈な思いをさせるじゃろうが、我慢してほしい。なるべく早くどうにかするのでの」
「いえ、構いません。これが難しい問題なのは分かっているです」
宗教問題を一人で解決出来る訳がないので、帰る時まで隠してる事になっても仕方ないですね。才人さんにいろいろ教えていたコルベール先生も、文化の違いで一向に理解し切れない様子の彼に困り果てているです。
「……ふぅ、これが世界の違いですか」
「すいません、頭が悪いもんで」
「ほっほっ。まぁ、今は知られるとマズイとだけ分かっておればいいじゃろうて。まだ実害は無いし、ゆっくり覚えていけばいい」
お爺様がそう結論付けて、才人さんへの教育はお開きとなりました。この問題の解説はおいおいやって行くとするです。
「だいぶ話し込んでしまったの。そろそろ行かないと舞踏会に遅れてしまうぞぃ。才人君も、ミス・ヴァリエールのエスコートをせねばならんじゃろ?もう行くといい」
「はい。いろいろありがとうございました」
「なんのなんの。余り役に立てずに申し訳ないのぅ。嫁さんが欲しくなったらいつでも行ってきなさい。綺麗どころを選んでおくでのぅ」
「ははは。まぁ、その時はお願いします」
才人さんは軽く笑って誤魔化し、そそくさと部屋を後にしました。今の歳で結婚なんて、余り考えられないのでしょう。私も今誰かと結婚してる所など、想像も出来ないですし。
「ではお爺様、私も行くとするです」
「おぉ、待ってくれんかユエ君。異世界のメイジである君に、見て貰いたい物があるんじゃが、少しだけいいかね?」
私も部屋を出ようと思ったら、見せたい物があると言ってお爺様が引き止めて来ました。余り舞踏会には興味が無いのでいいのですが、一体なんでしょう?
「見て貰いたい物とはなんですか?」
「うむ、こっちじゃ。……コルベール君ももう行きたまえ。ここから先は、儂とユエ君だけの秘密じゃ」
目を輝かせてついてこようとしたコルベール先生を、お爺様がしっしと追い払います。
「そんな!?ここまで来てそれはないですぞ!オールド・オスマン!」
「いいから行くのじゃ!舞踏会にでも出て、嫁さんでも探して来なさい!」
グイグイとコルベール先生を部屋の外に押し出そうとするお爺様と、必死に抵抗するコルベール先生。何を見せるつもりなのか、強引に人払いまですると言う事はよほどの物なのでしょう。少し楽しみです。
お爺様は、コルベール先生を押し出してバタンと扉を閉めました。軽く息をつき、書類などが入っている棚の前まで歩いて行きます。
「ふぃぃ、まったくコルベール君はしつこいのぅ」
「一体なんなのですか?」
「うむ、少し待ってておくれ。随分昔なのじゃが、他国を旅していた時にとある洞窟を見つけたての」
ゴソゴソと棚を漁りながらお爺様が昔話を始めました。
書類や本を取り出し、空にした棚の奥に手を入れて何かをしています。
「若かった儂はその洞窟を探検しようと一人で入って見たのじゃ。なかなか複雑な洞窟での、曲がりくねっておって先を見通せないし、所々細い横穴があるしで、全てを探るにはかなり時間がかかりそうな、そんな洞窟じゃ。……おっと、あったあった」
棚の中をゴソゴソやっていたお爺様が、何かを押し込む様に手を動かすと、棚の下半分が左右に開いていきました。
どうやら棚の中に細工がされていて、隠し通路への扉が開く様になっていたみたいです。お爺様は私を手招きして通路に入って行きました。私も急いで後を追い、魔法で明かりが付けられた狭い通路を進んで行きます。
「儂はその洞窟を3日掛けて探検した。何かお宝でも眠ってはいないかと思っての。まぁ、ほとんど何も見つからなかったがな。じゃが、遂に洞窟の一番奥に何かあるのを発見した。儂は慌てて明かりをかざしたんじゃ。ようやく見つけたお宝がどんな物か、ワクワクしながら目を凝らすと、そこには不思議な瓶が数個あった」
「瓶、ですか?」
お宝と言うからてっきり何かの財宝的なものかと思ったですが、瓶ですか。
「そう、瓶じゃ。じゃが、普通の瓶ではなかった。一抱えもあるその大きな瓶の中には、山や川、そしてそれは見事な城が入っておったんじゃ。儂は一目見て気に入ってしまってのぅ。しかし、それら全てを持って帰るには、些か大き過ぎたし道は狭過ぎた。儂は泣く泣く何個かある瓶の中から、一番綺麗なものを選んで持ち帰ったんじゃ。っと、着いたぞぃ。お入りなさい」
そう言ってお爺様が通してくれた場所は、少し天井が低い20畳ほどの部屋でした。
本や絵画、妙な形の甲冑などが所狭しと並べられているです。私が部屋を見回している間に、お爺様は部屋の隅にあった木箱を持って来ました。部屋の中央にその箱を置き、私を手招きするのでソロソロと近づいて行くと、お爺様はにっこり笑ってその箱を開けました。
「これが見て貰いたい物じゃ。この様なもん、儂等メイジでも作る事は不可能じゃ。最初はエルフが作った物だろうと思っておったんじゃが、ユエ君達の話を聞いてもしやと思っての。一度確かめて貰おうと思ったんじゃ」
そう言って箱から出した物を見て、私は目を疑いました。
大きな瓶の中に塔が立っていて、周りには海らしきものがあり、そして瓶の表面に書かれた[EVANGELINE'S RESORT]と言う文字。間違いありません、これはエヴァンジェリンさんの別荘のダイオラマ魔法球です!
「お、お爺様!?これは一体、どうしてここに!?」
「ほっほ、やはり知っておったか。どうしても何も、さっき話した持ち帰った一番綺麗な瓶がこれじゃ。その様子じゃと、これが何か知っておるのじゃろ?教えてくれんか、これがなんなのか」
い、一体何故これがここに?これは今もエヴァンジェリンさんのログハウスの地下室に安置されているはず。私が留学する前日にも使わせて貰いましたから、それは間違いないです。それなのに、お爺様の話ではかなり昔にこれを手に入れている訳で。時間軸がおかしいです。まるで、このダイオラマ魔法球が時間を越えて来たかのようです。しかし、そんな事があり得るのでしょうか?いえ、確かに私も時間移動をした経験があるです。しかしそれは超さんの作ったタイムマシン、カシオペアがあっての事。この別荘にそんな機能が付いている訳もなく、更に異世界に来るはずがないです。いえ、そう言えば超さんが卒業式の前に戻って来た時、平行世界へと行ける機械を作ったとか何とか言ってたですね。詳しく聞く事は出来なかったですが、そう言う事が出来ると言う事はこれがここにあるのもおかしく……いえ、やはりおかしいです!そもそもエヴァンジェリンさんが、これを手放すはずもないですし、過去の異世界に送る理由が見当たりません。しかし、それなら何故これが……
「あー………、ユエ君や。大丈夫かの?」
「ッハ!!……すいません。つい考えこんでしまいました」
何かあるとつい考え込むのが私の悪い癖です。
「うむ、構わんよ。して、これは一体なんなのじゃ?まるで瓶の中に一つの世界が入っておるように見えるんじゃが」
「概ねその認識で間違っていないです。これはダイオラマ魔法球と言って、瓶の中に仮想世界を作り出すマジックアイテムなのです。中に入る事ができ、体感時間まで操作する事が出来ます。例えば外の1時間を瓶の中では1日に伸ばすと言う具合です。私達はこれを別荘と呼んで、短い時間を伸ばす事で通常より長く修行が出来るようにしてました」
「な、なんと。時間までもいじれるのか!?この瓶の中に入る事が出来るなんぞ、信じられんのぅ」
私も初めてこれに入った時は驚きました。流石魔法だと喜びつつも、そのスケールの大きさに圧倒されたものです。お爺様は、なまじ魔法と言うものを知っているので、余計信じられないのでしょう。自分の常識ではあり得ないものですから。
「えぇ、しかしこれがここにあると言うのがおかしいのです。お爺様、これを手に入れたのはいつ位なのですか?」
「ふむ、なにぶん昔の事じゃで、細かくは覚えておらんが、少なくとも40年は昔のはずじゃ」
「40年前ですか。やはりおかしいです。私は、この世界来る二日前にこの別荘に入って訓練の総仕上げをやっていたです。つまり、これは2週間ほど前にはまだ、私の世界にあったと言う事です。なのに実際には40年も昔にお爺様がここにしまっていた」
「ふむ、確かにそれはおかしいのぅ。儂は確かに若い頃にこれを手に入れた。さすがにボケているとは思いたくはないし、これは確実じゃろう。そうすると、このダイオ……なんじゃったかな?」
「ダイオラマ魔法球です、お爺様。単に別荘でも構いませんが」
ちょっとすぐには覚えられない名前ですし、仕方ないと言えなくもない、ですかね?
「おおう、そうか。で、その別荘は時を越えて来たと言う訳じゃな」
「そうとしか思えませんが、この別荘にそんな機能は無いはずですし」
私の知らない間に超さんが追加したと言う可能性も無くは無いですが、エヴァンジェリンさんが勝手に弄る事を許すとは思えないですし、彼女自身も時間感覚が普通の人間とは違うので時間移動に興味を持つとは少し考えにくいです。
「まぁ、考えても仕方がないじゃろう。既に異世界からここに来た人間が何人も居るくらいじゃ。時を越えるくらい不思議でもあるまい」
「……そんな大雑把でいいのですか?」
「それくらいじゃなければ、長生き出来んぞぃ」
お爺様はそう言って私の頭を撫でてくれました。
懐かしいその感触に思わず目を細めてしまいます。昔、我儘を言った私を諭す時や、褒めてくれる時によく撫でられたですが、その時の事が鮮明に思い出されるです。
「うむ、そうじゃ。ユエ君、これを貰ってくれるかの?」
「え!?いいのですか?」
「あぁ、勿論。老い先短い儂がこのまま隠し持っていても仕方がないし、これが何か知っている君が持っていた方がいいじゃろうて」
お爺様は私の頭をもう一撫でしてから、ダイオラマ魔法球を箱に戻して手渡して下さいました。
「ありがとうございます、お爺様」
「うむうむ。孫に贈り物をするのは、ちょっと憧れておったのじゃ。昔馴染み達が子供や孫の話をする度に、羨ましく思っていたのでの。むしろ儂がお礼を言いたいくらいじゃ」
言葉通りに、とても幸せそうな顔をするお爺様を見てると、私も嬉しくなります。
私達は本当の祖父と孫のように顔を見合わせ笑い合ってから、この隠し部屋を後にします。狭い通路を抜け学院長室まで戻ってくると、お爺様はまた棚の細工を戻し、通路を隠します。
「この通路は、何故わざわざ隠してるのです?」
「ここは儂の個人的な宝物庫と言った所での。王宮にも見せたくないと言う特に気に入った物をしまっておるんじゃ。あの破壊の杖も、本来はここにしまっておきたかったんじゃが、あれは王宮に知られてしまったでの。王宮に取られてしまうそうになったので、せめてと学院の宝物庫にしまったんじゃ」
恩人さんの形見ですからね。
ひっそりとしまって置きたかったと言うのに、フーケに盗られかける羽目になったとは災難でしたね。
「さぁ、随分遅くなってしまったがユエ君も舞踏会に行くと良い。しっかり着飾って、君の可愛らしさを見せつけるのじゃぞ?」
ポフポフと頭を撫でて、お爺様は笑います。私は子供に戻ったつもりで返事をして、学院長室を後にしました。手の中の木箱の中身がどうしてここにあるのか、話に出てきた他のダイオラマ魔法球は、割れたり欠けたりしていたと言っていましたし、一体どうしてそうなったのでしょう。一度ちゃんと調べないと気になって仕方ありません。舞踏会に出るように言われましたが、その前にちょっとだけ中に入ってみるとしましょう。もしかしたら中に何かの手掛かりがあるかも知れません。
「……時間設定はリセットされてますね。いつも1時間が1日の設定だったので、少し違和感があるです」
私はとりあえず机の上に別荘を安置して、入り口となる魔法陣を
「さて、出来ました。一体どうしてこれがあるのか、分かればいいのですが……」
起動させた魔法陣に乗り、久しぶりの別荘に入ります。こんな異世界で別荘に入るとは思っても見なかったですね。この世界にこれがあるのは何故かしっかり調べましょう。
はいー、そんな第14話でした。
いやぁ、戦闘シーンって、どう書けばいいんでしょうね?頑張ったけど、おかしいぞ、って言う人は、脳内で補完して読んで下さい。そのうち、上手くなってみせますので………
今回で原作1巻が終わる予定だったのに、長くなりすぎたの途中で切るはめに。そんな訳で次回もよろしくです!
三人称って、どう書くんだろうか………