もっと早く書かねば、終わりまで一年近くかかるんじゃないの、これ?
なんて思う今日この頃、お気に入り登録数が1100を越えました。学校の生徒数くらいの人が見ている訳ですか!これはもう、自信持ってもいいんじゃないですか?あ、ダメ?
まぁ、何はともあれ第十話れっつごぉ
ここの暮らしにも随分慣れてきました。
使い魔ふれあい週間(私命名)が終わり、授業もしっかり一日やっています。ルイズとキュルケがケンカをしたり、ルイズと才人さんがケンカをしたりと、賑やかですが。
今日もまた一部だけ賑やかな授業が始まるです。
授業の内容は違えど、その風景はどんな学校でも同じです。教師が教科書などを使って物事を教えて行き、生徒はそんな教師の話を聞きながらノートに覚えるべき事柄を書き留めて行く。
ここではシャーペンなどは無いので、アリアドネーでも使っていた羽ペンとインクでノートに写して行くです。羊皮紙が主なので、シャープペンでは書けないと言うのも理由の一つですね。間違えても消せないのが少し不便ですが、ようは慣れです。日本の学校と違って、ノートの提出などはないので、最終的に自分が分かればいいですから、軽く斜線を引いて書き直せば問題ありません。
教室でペンなどの準備をしていると、ルイズがやって来たです。
「ルイズ、おはよ……うです?」
「おはよう、ユエ。……どうしたの?」
何ということでしょう。ルイズの陶磁器のように白く整った顔に、黒い線が縦横無尽に引かれています。白と黒のコントラストがお互いに引きたて合い、なんとも言えない雰囲気を醸し出しています。その姿はまさに先住民族のある部族のように………って、アホな事言ってる場合ではないですね。
教室の皆も気付いたようで、クスクスと堪えきれず笑っています。珍しく畏まった様子でルイズの後ろに控えている才人さんも、やたらとニヤニヤしてます。
どうやら才人さんのイタズラのようですね。いつ、どうやったかは知りませんが、いつも怒られている事への仕返しでしょう。怒られる原因の半分は自業自得なのですけどね。
「またこいつら、人をゼロゼロとバカにしてるのね。ほんとムカツク」
「仰る通りで、お嬢様」
「あんた、やっぱり何か企んでるでしょ」
「あー、ルイズ?」
もう手遅れですが、やはり教えるべきですね。このままにしておくのは気の毒です。まぁ、もしかしたらハルケギニア特有の理由があるのかもしれませんが、それだったら他の皆が笑ったりはしないですし。
「皆さん、席に着いて下さい。授業を始めますぞ」
コルベール先生がやって来て着席を促します。
ルイズもその言葉でさっさと席に着いてしまいました。私の隣で顔に施されたどこかの部族の戦化粧にまるで気付かず、ペンの用意をしてるです。
生徒の笑い声も少しずつ大きくなり、コルベール先生もとうとうルイズの惨状に気付きました。
「あー……ミス・ヴァリエール?」
「はい?なんでしょう?」
戦化粧のまま真顔で聞き返すルイズ。その姿に生徒達の我慢は限界を越えました。
「あはっ!あははははっ!!いいわルイズ!最高に綺麗よ!?私じゃ、足元にも及ばないわ!」
「わははははっ!ゼロのルイズ!今日はやけにめかし込んでるじゃないかっ!!」
「ブフッ!くくっ!息ができなっ……!!」
教室中が一斉に笑い出し、それに驚き目を丸くしながらキョロキョロと見回すルイズに、更に笑いを誘われると言う悪循環が完成です。
「え?な、なんなの?」
「あー、ミス・ヴァリエール。そのぉ〜、顔に……」
「顔?」
軽く首を傾げて手でペタペタやってるルイズに取り出した手鏡を渡します。渡された鏡を不思議そうに覗き込むルイズですが、その表情がだんだんと険しくなって行くです。
「こ、ここここれは一体、どどどーゆう事かしら?ねぇ、サイト?」
大笑いしていた才人さんもようやくルイズの怒りに気付いて顔を青くさせます。気付くのが遅いですよ。ルイズは、戦化粧のような落書きのせいで物凄い迫力を出してます。言っては何ですが、物凄く似合ってますね。
「い、いえ、えっと……似合ってるぜ?」
机の下に避難です。
防災訓練の要領で潜り込み、ついでに障壁を全開にします。いつもは二枚しか張ってないですが、それでは防げないのは実証済み。最大枚数の五枚を全力展開です。
「こここんのぉぉぉっ、バカ犬がぁぁああああっ!!」
チュドォオオオオンッ!!
ルイズの絶叫と共に大爆発が起こりました。いやはやいつ見ても恐ろしい威力ですね。余波だけで、障壁三枚が抜かれました。正面からは絶対喰らわないようにしませんとですね。
そんな授業の後、夕方からはタバサへの瞬動、身体強化の授業です。まだ理論を教えただけで使えませんが、彼女は魔力の扱いも上手なので、すぐに上達するでしょう。
「キュルケ達を巻くのが面倒ですね」
私達の魔法は、この世界でのタブーに触れるので、おおっぴらに使う事が出来ないです。故に、教えるのもこっそりとやらねばなりません。
「キュルケ達くらいは知ってても構わないのでは?」
タバサはキュルケやルイズに、瞬動を教わっている事を隠すつもりだそうです。二人は私の魔法の事を知っている訳ですから、隠さなくてもいいと思うですが。
「ダメ。心配する」
積極的にタブーを犯してる訳ですから、それは心配するでしょうね。今教えてる物なら誤魔化すのも簡単ではあるですが、どこからバレるか分かりませんから、用心するに越した事ないと言う訳ですね。
「では、タバサ。この円を片足ずつで踏みながら、向こう側に渡るです」
「ん。」
今タバサにやって貰っているのは、子供なら一度はやった事のある遊び、ケンケンパを元に考えた瞬動の練習法です。
瞬動はその速さ故に、一度足を取られると盛大にすっ転ぶです。そうならないよう、足運びをこの円を踏みながら進む事で覚えようと言う訳です。ネギ先生達のように武術の歩法を習得していれば楽なのですが、私もタバサも武術を習っていないので、むしろ時間がかかってしまうです。何度転んでも構わず練習、なんて事をしてもいいですが女の子ですし、傷は極力無くしたいものです。今はゆっくりケンケンパっとやっていますが、そのうちこれを超スピードでやれるようになれば完成です。一度出来る様になれば、多少足運びが崩れてもなんとかなるので、問題無いでしょう。
「んっ、ふっ、とっ」
一生懸命ケンパしてる姿は同年代とは思えない愛らしさです。
私がやってもこうはならないですよ。背丈などは私とほぼ一緒なのに、どこからこの差が出るのやら。
「あと一回やったら帰りましょう。夕食に遅れるです」
すでに十数回繰り返して息が上がってきたタバサにそう声をかけると、小さく頷きもう一度スタート位置につきます。杖を片手に持ち、精神と魔力を集中させて行くです。どうやら一度試してみるつもりのようですね。杖を起点にゆっくりと魔力が全身に行き渡っていくです。まさか、教えて数日でここまで見事に制御出来るとは思いませんでした。今まで杖からしか魔力を流してこなかった人が、これ程早く違う制御法を身に付けるとは。
これも才能ですかね。
いえ、この言い方は失礼ですね。タバサはかなり努力してるです。ただ、その努力が身になる速度が、普通の人より数倍早いと言うだけで。
「………っ!!」
気合いと共に弾かれるように飛び出すタバサ。瞬動にはなりませんでしたが、身体強化の初歩がすでに出来ています。だだだっと激しい音を立てて円を踏み抜いていくのを見ているとすぐに瞬動も物に出来るだろうと思えるです。私もうかうかしてたら、すぐ追い抜かれるです。更なる精進をしなければいけません。まずは虚空瞬動を習得したいですね。
「いつもより速く動けた気がする」
「えぇ。すでに身体強化の初歩に届いてます。この調子で行けば、すぐに瞬動も出来るようになるですよ」
「がんばる」
そう気合いを入れる彼女と共に、私はゆっくり寮へと帰ります。まだまだ荒いですが、数日でこれならもう二、三週間もすれば完璧と言える出来になるでしょう。
負けてられません。
「そろそろ部屋の整理をするですか」
机とベットしかない部屋を見渡し、その殺風景さに少し思う所が無くもないです。確かにいつまでもベットと机だけと言うのも味気ないですし、倉庫に入っている生活に必要な道具の幾つかは出しておくとしましょう。自分の世界に帰るにしても、今日明日とはいかないですし、いわゆる自分の部屋、を作るべきですね。
と言っても、下手なものを置けば色々面倒な事になるこの世界。私だけでは、部屋に入った瞬間連行しますとか言われるような部屋になりそうです。
「明日にでも、キュルケ達に頼んで監修してもらうとしましょう」
ネギ先生との仮契約の証、アーティファクト
ギトー先生から貰った[偏在]の本も、読めない部分をタバサに手伝ってもらい全て読めるようになったので、さっそく
余り遅いと、明日の授業に影響が出るですし、そろそろ止めるべきですか。
「ふぅ、今何時ですかね?」
「「「朝だよ!!」」」
「マジですか!?」
思わず時計を自分の所まで魔法で引き寄せて確認するですが、まだ12時をすぎた辺りでした。なんとも紛らわしい。というか、
「今の声は誰です?」
この部屋には誰も居ませんし、一体どこから?
壁も隣の人の声が聞こえてくるほど薄くはないですし。さよさんのような幽霊でもいるのでしょうか?
む?今、外が少し明るくなった気がするですが、何でしょう?
「……何も見えないですね」
窓の外に目を凝らすですが、暗くて良く分からないです。
夜は暗く街灯もないこの世界では、月明かりだけが頼りと言う風情ある環境です。流石にこの状況では何も見えないですね。
まぁ、気にしない事にしましょう。死ぬ訳じゃないですし。
ポフっとベットに飛び込み布団をかぶります。いつからか枕が変わっても普通に寝られるようになったですが、やはりいつも使っていた物が一番リラックス出来るです。日本から持ってきておいて正解でした。
目覚ましをセットして明日の為に寝るとします。せっかくのチャンスなのに、授業中に寝てしまったら勿体無いです。文字もほぼ読めるようになったですし、更なる勉強が可能です。いつか帰ったら、のどか達にこの世界で考えついた魔法を見せるのです。
「そういえば、のどか達に貰った餞別を開けて無かったです」
落ち着いたら開けるよう言われていた餞別をすっかり忘れてました。新しい生活に夢中でだったせいですが、これではせっかく用意してくれたのどか達に怒られるですね。
「それも全ては明日です。今は寝るとしましょう」
お休みです、のどか、ネギ先生。あとついでにハルナとか。
暗闇の中から、ついでかよ!と言う幻聴が聞こえるですが、私はゆっくり睡魔に身を任せるです。むにゃむにゃ……
「ユエさん、今日の授業はお休みですよ、どうしたんですか?」
教室に向かう途中で会ったシエスタが不思議そうな表情で聞いてきます。なるほど、今日は日曜日だったですか。どうりで人が居ない訳です。いつも通りの時間に起きて食堂に向かうと、いつもより人数が少ないです。食べ終わり、教室へ向かう途中では誰とも会いません。おかしいとは思っていたですが、シエスタのおかげでようやく分かったです。異世界でもやっぱりあるのですね、日曜日。いえ、ここでは虚無の曜日と言うですか。と言うか、誰か教えてくれてもいいじゃないですか。
あぁ、普通そんな当たり前な事をいちいち言わないですね。
「単に休みと知らなかったのですよ。知っていれば、もう少し寝てる所です」
「あ、そうなんですか。そういえばユエさんは東方から来たばかりですし、知らなかったのも無理ないですね。今日は皆さんお休みですから、王都に出かけたり、部屋にこもったりと、思い思いの過ごし方をするものですよ。ユエさんはどうしますか?」
「どうしましょうか。図書館で調べ物でもしてますかね」
急ぐ事はないですが、知りたい事はまだまだ多いです。図書館に篭って本を漁るのも悪くないでしょう。
「そんな、せっかくのお休みですのに。
そうだ!ユエさん、トリスタニアにはまだ行ってないのでは?一度行ってみるのもいいですよ?」
首都トリスタニア、でしたか。確かここから馬で2時間か、3時間か行った所でしたね。首都と言うからにはそれなりに大きいでしょうし、いろいろな情報も集まるでしょう。帰る手段を調べるにも役立つかもしれないですね。
「今からだと、お昼頃になってしまうので、そんなに見られないかもしれませんが」
「大丈夫ですよ、1時間ほどで行けるですから。予定もないですし、そのトリスタニアに行ってみるです」
「い、1時間?あぁ、魔法で行くんですね?便利ですねぇ、魔法」
車や電車があれば簡単に行ける距離でしょうが、この世界では歩くか馬かしか無いみたいですし、余計にそう思うのでしょうね。
「シエスタも行きますか?ついでに連れて行くですよ?」
「え!? あぁ、残念ですが、私は仕事があるので無理ですね」
「そうですか、それは残念。では私だけで行くとします」
「はい、誘っていただいてありがとうございます」
シエスタと別れて、一度部屋に戻ります。何かを買う気はないですが、一応お金を持っておくとしましょう。オスマンさんに渡された分がまるまる残っているので、多少の買い物は出来るですし、お昼を向こうで済ますのもいいですね。オスティアのような賑わいの街を一人で歩くのは寂しくもあるですが、それもまた味と言う物です。
服も制服のままでいいでしょう、私服で行けばかなり目立つでしょうし。
そうです、タバサやキュルケ達にも声をかけるとしますか。手早く準備をして、まずは隣のタバサを呼びに行くです。
「誰も居ませんね」
隣のタバサも、一つ下のキュルケやルイズも居ませんでした。皆どこかに出かけたのでしょう。
「仕方ないです。一人で行きますか」
軽く服を整えて寮の外に出ます。空は澄み切った青空で、所々綿飴のような雲が浮かんでます。こう言う空を見ると昔は自由に飛んでみたいと思ったですが、今はそれが実行できる訳です。魔法使い万歳ですね。
機動箒を取り出し、いつもは省略する箒で飛ぶための呪文を唱えます。必要ないですが、単に気分です。アリアドネーではこのままひっくり返ったり、あらぬ方向に飛んで行ったりしましたが、それももう過去の事。今では自転車に乗るのと同じくらい気楽に乗れるです。必要とあらば、曲芸のような乗り方をする事も出来るです。エヴァンジェリンさんが放った無数の
直後、サーカスにでも入るのか!と、ツッコミと共に吹き飛ばされたですが。
高い建物の無いこのハルケギニアでは、二百メートルも上がればかなり向こうまで見渡せます。所々に家が立っていますが殆ど草原で、なんとものどかな景色です。こう言う所もヨーロッパの田舎風景に似てますね。写真でしか見た事ないですが。
「どこにあるか聞いてませんでしたが、おそらくあの大きな街がそうでしょうね」
周りをぐるりと見渡すと、少し遠い所にヨーロッパ調の街並みがありました。立派なお城もあるですし、おそらくあれが首都トリスタニアでしょう。
予想より少し小さいですが、魔法があるとは言え、ここの文化レベルではあの位が普通ですね。
せっかくですから、この綺麗な景色を眺めながら行くとするです。一時間少々の道のりですが、優雅な空の散歩です。誰かに見咎められる事を考える必要もなく、いきなり襲われる心配も恐らくない気楽なドライブといきます。
いえ、サイクリングでしょうか?でも、自転車ではないですし………ホーキング?
そんな益体もない事を考えながらの小一時間、ようやく目的地のトリスタニアに到着です。やはり見た感じは中世ヨーロッパの城下町ですね。通路が狭かったりするのは、敵の進軍を阻害する目的なのでしょう。狭い道に人が溢れ、なかなか活気があるです。
どこか目立たない裏路地にでも降りるとします。認識阻害もかけておけば、まず見つからないはずです。
「あの辺りにするです」
メインストリートと思われる道から横にそれた所の細い道に降りる事にします。人の行き来もまばらですし、問題ないでしょう。
「よっと」
パッと箒から飛び降り、風で勢いを殺しながら軽い音を立てて着地します。こういうのは楓さん達の専売特許だったですが、今や私でもこれ位出来るようになったです。この調子で少しずつでも、彼女達に追いつけるよう頑張るです。
「まずは何をしましょうか」
首都とはいえ、歩き回れば一、二時間で周りきれる広さですし、とりあえずブラブラと見て回るとしますか。裏路地からメインと思われる通りに出てお城の方向に歩いて行きます。五メートルほどの道幅に人がごった返していて、かなり歩きにくいです。人にぶつからないように避けながら左右にあるお店を眺めます。瓶の形の看板は酒場ですかね、酒と書いてありますし。あのバッテンのは……兵士の詰め所のようです。壁に手配書などが貼られていて、剣を下げた兵士が入口でビシッと立ってます。
[森の奥にある遺跡の調査協力 報酬金貨10枚]
[土くれのフーケの情報求む 報酬金貨100枚 内容次第で報酬も上下します]
壁に貼られた手配書を見ると、結構いろいろあるですね。この顔にピンと来たら、なんてのもあるですが、写真じゃなく絵なのがまた味があるです。なんかその手のテーマパークに見えて来ました。
「こう言う物で稼ぐのも有りですね。まんま賞金稼ぎですが」
「お嬢様、貴族のお嬢様。何か見た顔でもありましたか?」
手配書の前に立ち止まって眺めていたら、入口で立っていた兵士に声をかけられたです。しかし、お嬢様とはなんだか気恥ずかしいですね。
「いいえ。こう言うのは、見かけたらどこに言えばいいのですか?」
「私共で構いません。報酬のあるものは、その際に証明書を発行いたしますので、それを持って宮殿近くにある本部にお越し頂ければ、報酬が支払われます」
「なるほど。では、見かけたら報告に来ますね」
「よろしくお願いします」
最後まで直立不動のままだった兵士と別れて散策を再開します。なかなかの練度ですね。会話しながらでも、ちゃんと周囲に注意を払ってました。
まぁ、それでも治安はそんなに良くはないですが。
スリなんかも多いでしょうね。さっきからつけて来ているのもいますし、余り油断していると面倒事に巻き込まれるかもです。まぁ、それでも魔法世界の辺境よりはマシですか。いきなり建物が崩壊するようなケンカが始まったりしませんし。
「あ、夕映だ。おーい!」
「あらほんと。偶然ね」
つけて来るスリか何かに注意を向けていると、向こうから才人さんとルイズがやって来たです。部屋に居ないと思ったらここに来てたですね。
才人さんとルイズが手を振りながら近付いて来ると、つけていた人物は諦めたのかどこかに行ってしまいました。
「どうしたのユエ?」
気配が消えた先に注意を向けているとルイズが不思議そうに聞いてきます。
「いえ、さっきまで誰かがつけて来てたんです。二人が来たら居なくなったですが」
「えぇ!?」
驚いて私の後ろを見渡す二人。もう気配も無くなっているですし、見つからないでしょう。
「もう居ないですよ。私が一人で居たので狙ってたんでしょう」
「危ない………とは言えないわね。ユエだし」
どう言う意味ですか。
「いや、夕映だって危ないだろ。女の子なんだぞ?」
「あんたはユエの強さを知らないからそんな事言えるのよ。コソコソしないといけないような奴じゃ、どうにも出来ないわ」
才人さんが女の子なんだからと心配してくれますが、ルイズはそんな心配無用と突っぱねます。いえ、私はそんな強くない普通の女学生ですよ?確かに少々特殊だと言う自覚はあるですが。
「信じられんけど、まぁいいや。ユエはここで何してるんだ?」
良くはないんですが。まぁ、話が進まないので置いておく事にします。
「今日は休みらしいので、まだ見てない首都を観光に来たですよ」
「私達が出る時ユエ見なかったけど、どうやって来たの?」
「え?飛んでですけど?」
「あの距離飛んできたの!?」
確かに結構な距離ですが、そこまで大変でもないです。
箒レースではもっと長い距離を飛んだですし、そもそもこの程度で疲れるほど柔な鍛え方はしてないです。
「それほど大変ではなかったですよ。
それで、二人は何しに?デートなら退散するですが」
「な!なんで使い魔とデートしなきゃならないのよ!?私はこいつに剣を買ってやろうとここに来たの!」
昨日の事をかいつまんで聞かされました。キュルケが才人さんにアプローチしてたのは知ってたですが、部屋にまで連れ込んでたですか。平民である才人さんがキュルケの恋人になったなんて噂が広まると、何人も居た彼氏達が才人さんに逆恨みでちょっかいを出してきかねないので、そんな時の為に武器を持たせようと思ったそうです。
「あのスピードは才人さんの能力だったですか。私の剣にそんな機能はないので、おかしいと思ったです」
「そんな訳で剣を持たせようと思ってね。一緒に来る?」
当てもなくぶらつくのも飽きてきましたし、付いて行きますか。
「ほらサイト!キョロキョロしない!行くわよ!?」
「へいへい」
そうしてルイズ、才人さんに付いて細い路地に入って行きます。一歩裏路地に入ると、途端に人通りは少なくなり、道の隅にはゴミや汚物が捨てられています。中世の頃はヨーロッパ辺りもこんな感じだったそうです。日傘やハイヒールも、上から捨てられる汚物がかからないように、道に捨てられている汚物で汚れないようにと開発されたとか。本当かどうかは興味なかったので知りませんが、そんな話が真しやかに流れた理由が分かる光景ですね。
「汚ねぇなぁ」
「文句言わない。これだから余り来たく無かったのよ」
現代人である私には少しキツイです。さっき降りた所は比較的綺麗だったですが、ここは酷いですね。長くいると病気になりそうです。
「秘薬屋の近くだったはず………あった、ここよ」
剣の形をした看板が下げられた店の前でルイズが立ち止まりました。木の扉がある石作りの店舗ですが、看板以外になんの店か分かるものがないです。ショーウィンドゥくらいあっても良さそうなんですが。
ルイズはお構い無しに入って行くので、私と才人さんも慌ててそれに続きます。
中は武器屋と言う通り剣や槍、短剣などの武器が所狭しと並べられています。武器だけじゃなく、防具なんかも置いてあるです。どう見ても飾りにしかならないものから、実用的な物まで一通り揃ってます。
「貴族の旦那、うちはまっとうな商売をしてますぜ。お上の御厄介になるような事は一切ないですぜ」
「客よ。剣を買いにきたの」
「へぇー!貴族様が剣を?こりゃぁ、おったまげた!」
そんなに剣を買う貴族と言うのは珍しいのでしょうか?
「何をそんなに驚くのよ?」
「いえね、奥様。杖を振るのが貴族で、剣を振るのは兵士だと相場が決まっておりますので」
貴族のほぼ全員がメイジだと言うので、そんなイメージが定着するのも仕方ない事なのでしょう。魔法だけで対処出来ない事などいくらでもあるですから、メイジでも武器くらい買いそうなのですが。
「使うのは私じゃないわ。使い魔のほうよ」
「忘れていました。昨今は使い魔も剣を振るようで」
さっさと調子を合わせてくる店主。普通にお客と分かって、機嫌を取る事にしたみたいですね。
「うわぁ、すげー。夕映見てみろよ、これ本物かなっ」
「全部本物ですよ。あ、素手で刀身を触ってはダメですよ?手の脂で錆びてしまいます」
「わかった。すげーなぁ、これなんか格好いい!」
男の子はこういうのが好きらしいですが、本当なのですね。店に入ってからずっとこんな感じで興奮しっぱなしです。
「剣を使うのはあちらの方で?どのような物をお捜しで?」
「私は剣なんてよく分からないし。ユエ、選ぶの手伝ってくてる?」
興奮してウロウロしてる才人さんに付いて剣を眺めていたら、ルイズに呼ばれたです。
「私も別に詳しい訳ではないですが」
「いいのよ。少なくとも私よりは分かるでしょ」
武器の選び方なんてよく分からないですが、確かに触った事もないだろうルイズよりは適任でしょう。
「これなんてどうでしょう。最近貴族の間で下僕に剣を持たせるのが流行ってまして。その際に選ばれるのがこの剣でさぁ」
店主が店の奥の倉庫から一本の剣を持って来ました。片手剣ですね、レイピアって言うんでしたっけ?
細身で柄にハンドガードが付いていて、長さは一メートルほどですか。盾などを持ちながらでも使えるタイプですが、しっかり訓練しないと、支えきれずに体が泳いでしまいますね。
「下僕に剣を持たせるのが流行ってるって、どういうこと?」
「へぇ、なんでも最近この城下町で、土くれのフーケとかいうメイジの盗賊が荒らし回ってるらしくてですね。貴族の方々はそれを恐れて下僕にまで剣を持たせてるそうでして」
土くれの……さっき詰め所に貼られてたですね。魔法を使う泥棒に、剣一本持たせても余り意味ない気がするですが。
「他にもトリスタニア近くの森で、オーク鬼の群れを見たなんて噂もありまして、そのおかげでこちらも儲けさせて貰ってます、へぇ」
ルイズはもう興味がないのか剣をジロジロ見つめてます。
私も選ぶのを手伝うと言った手前、しっかり見てみないといけないですね。
「持ってみてもいいですか?」
「へ?お嬢様が、ですか?」
私が持ってみると言うとやたらと驚く店主から剣を受け取り、誰も居ない方向に向けて振り下ろします。ビッと言う音を立てさせ真横で止めます。
バランスは悪くありませんね。重さも片手で十分振れる範囲でしょう。あぁ、身体強化を使ってる私じゃ重さの事は参考になりませんね。
「う〜ん、綺麗な剣だけど、もっと太くて大きいのがいいわ」
綺麗で見栄えはいいですが、実戦に耐えられるかまでは分からないです。
「お言葉ですが、剣と人には相性と言うものがありまして。見た所奥様の使い魔とやらには、これくらいが丁度いいかと。いえ、こちらのお嬢様は見た目と違って、よく使われるようですが」
見た目と違って力があると言いたいようですが、私はズルしてるので、一般的な感覚は当てになりませんよ。
「もっと太くて大きいのがいいの!」
「「ブフッ!?」」
なんか不穏な事を大声で言うルイズに、才人さんと店主が吹き出しました。
「ルイズ、いきなり何を言い出すんだ!?」
「なによ。この前はもっと太くて大きいのを使ったじゃない。こんな細いのじゃ満足出来ないわ」
「いやいやいや。多分剣の事を言ってるのは分かるが、ちょっと言い方を考えろよ」
「何がよ?」
よく分からない事で慌てる才人さんに、ルイズが首を傾げてどうして慌ててるのか聞いています。店主は微妙にニヤニヤしてそんな二人のやり取りを見ています。
「ルイズったら、こんな昼間から何を言っちゃっちゃってるのかしら、もう!」
キュルケはそんなルイズをクネクネしながら突っつきます。って!
「な!キュルケ!?何であんたがここにいるのよ!」
「あんたとダーリンが出掛けたのを見つけて、慌ててタバサに追いかけて貰ったのよ。驚かす為に隠れてたのに、昼間っからヴァリエールがエッチにおねだりする声が聞こえたもんだから、思わず出て来ちゃったわ!」
いきなり現れたキュルケに唖然としていたら、いつの間にか隣にタバサも居ました。居ないと思ったら、キュルケに連れられてここまで来てたのですね。
「もしかして、さっき私の後をつけてました?」
「キュルケが驚かそうって言って。ルイズ達が来たから、一旦離れた」
さっきの気配はスリ等ではなく、イタズラしようとしたキュルケ達だったですか。変に警戒して損しました。
「もう!あんた達は訳の分からない事言って邪魔しないの!剣を選べないじゃない!!」
才人さんとキュルケに邪魔されてとうとうルイズがキレました。魔法をぶっ放さないだけマシですが、むきーっと両手を振り回し、纏わり付く二人を追い払います。
「しっし!あっち行ってなさい、まったく!」
「なんだよ、ルイズが変な事言うから悪いのに……」
犬のように追い払われた才人さんがブツブツ文句を言ってます。同じく追い払われたキュルケは、ニヤニヤした表情のままルイズを見ています。何をそんなに喜んでるんだか。
「キュルケ達も城下町に来てたんですね。道理で部屋に居ない訳です」
「ダーリン達をすぐ追いかけなきゃって慌ててたから、ユエの事を忘れてたわ。ごめんなさいね?」
「まぁ、構いませんが」
きゅっと頭に抱きついてくるキュルケをやんわり押しのけ拘束から逃れます。あの凶悪な胸に挟まれたら窒息するです。
「とりあえず、もっと大きいのを出してちょうだい」
やはりレイピアは気に入らないのか、他の剣を出すよう指示するルイズ。まぁ、幾つか見て決めるのも一つの手ですね。店主は、店の奥に引っ込み次の剣を持って来ました。
「それでしたらこれなんてどうでしょう?うち一番の業物でさ。ゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が鍛えた一品で。魔法もかけられていて、鉄だって斬り裂きまさぁ」
1、5メートルほどの見事な大剣です。金色に輝き、至る所に宝石が散りばめられています。どうも余り実用品には見えないですね。確かに頑丈そうですし、刀身も両刃で斬れ味も良さそうです。しかし、実用品のはずの剣にこんなに宝石を付けてどうするんでしょう?その全てが魔法処理を施した魔法石だと言うのなら分かりますが。
「すっげぇ。これすげーなっ!なっ、夕映!これがいいんじゃないか!?」
剣を一目見た才人さんがこれに決めようと言ってきます。キラキラ光る剣が相当気に入ったようですね。しかし、こと武器に関しては見た目だけでは決まらないものです。
「持ってみても?」
「へぇ、どうぞ」
今度はすんなり渡されました。さっきと同じように手に持って一振りしてみます。ブンと振り下ろし肩の高さで止めます。こうして持つとどうもバランスが悪いですね。いい物は柄辺りに重心が来るので、手に吸い付くように持てて、刀身がないかのように感じられるそうです。しかし、これは剣の先の方が重く、柄が浮いてしまうです。これを振り回すと剣先に引っ張られて体が泳いでしまいますね。実戦では少しのミスも命取りになるですし、こういう隙になりそうな原因は極力無くす必要があります。
「ユエ、そんな大剣を片手で振るのはどうかと思うんだけど?」
「店主が引いてるわ」
キュルケとルイズが何か文句言ってますが、気にしないで行きましょう。次に魔力を流してみます。才人さんは魔力も気も使えないですが、ちゃんと先まで魔力が通るものは、魔力等を使わなくても剣先まで意識を集中出来るので、自分の手と変わらない感覚で使えるです。
「んん?」
おかしいですね、ちゃんと流れて行きません。
どんな粗悪品でも、それなりに流れるはずですが、これは途中で止まってしまうです。刀身の半分も行かない所で堰き止められる感じがします。
「どうしたの、ユエ?」
私が剣を持ったまま首を傾げているので、ルイズが不審に思ったのか聞いてきます。どう説明すればいいか、この感覚は知ってる人にしか分からないですし。
「どうも、途中から繋ぎ合わせている感じがするですね。幾つかのパーツに分けて作ったものを一つにした感じです。多分すぐにこの辺りから折れるですね」
私は柄から10センチほどの魔力が堰き止められる所を指差しながら説明します。魔力を流して分かった事は、幾つかの所で繋がりがなく、分断されているということ。多分これは壁などに飾る置物なのでしょう。見栄えはいいですし、飾るには持ってこいです。
「お嬢様、そいつぁ聞き捨てなりませんな。これはさっきも言った通り、シュペー卿が作った業物ですぜ。ここに銘もある。それをナマクラのように言われちゃぁ、こっちも黙っていられやせんぜ」
別にナマクラとは言ってませんが、自分の店一番の一品をすぐ折れると言われて店主は憤慨してます。
「夕映、これダメなのか?」
才人さんが物欲しそうな目をして私を見てくるです。そんなウサギみたいな目をされても困るんですが。
「これは多分飾りですよ?いわば模型です。壁などに飾る為ならいいですが、実用品としては使えないと思うです」
「お嬢様、貴方様は貴族で剣の事が分からないから仕方ないかもしれやせんが、こちとら何年もコレでおまんま食ってるんでさ。飾りと真剣の違いくらい見りゃわかりまさぁ」
自信満々で言う店主ですが、魔法処理されているので見た目だけは完璧です。なので、魔法が分からないとまず見分けられないでしょう。
「使える様に見えるのは表面だけです。芯の部分がツギハギなので、耐久力は皆無ですね。魔法がかけられてるのは実用品としてのものではなく、この煌びやかさを保つ為のようですね。他にも……」
店主に事細かに説明していくと、どんどん顔色が悪くなっていきます。結構な額をはたいて仕入れたものが実は模造品だったと知って落ち込んでしまったようです。こればっかりは魔法が使えないと分からないので、落ち込まなくてもいいと思うですが、商売の事を考えると落ち込まずにはいられないでしょうね。
「けっけっけっ!親父ざまぁねーな!」
落ち込む店主にどう声をかけようかと思っていたら、どこからか彼をからかう声が聞こえました。
「今のは……?」
声がした方向を見ても誰も居らず、剣などが飾られた壁しかありません。
「ふむ。腹話術が上手いですね、ルイズ」
「いや、私じゃないわよ?」
「じゃあ、タバサ?」
キュルケが隣のタバサの顔を覗き込みながら聞きますが、彼女は軽く首を振って否定します。まぁ、タバサだったら、それはそれで驚きですが。
「てめーらの目は節穴か!俺様が言ったんだよ!」
再び声がしますが、やはりどこにもいませんね。窓の外に居るのかとも思ったですが、人影すら見えません。
「ふ〜む………幽霊でも居るですかね?」
姿を消して、いえ、見えないほど希薄な幽霊が喋ってるのかもしれません。普通ならあり得ない可能性ですが、ここは魔法が横行する異世界。さよさんみたいな例もありますし、ないとは言い切れないと思うです。
「なにぃ、幽霊!?」
「どこどこ!?」
才人さんが更にキョロキョロしだし、ルイズ達も周囲を見回し探し始めます。まぁ、それで見つかるとは思えないですが。
そうして皆がキョロキョロする中、タバサだけが微動だにしません。どうしたんでしょう?
「タバサ?」
声をかけたらビクッと震えて、横に居たキュルケの腰に抱きつきました。顔をお腹に押し付けてふるふると震えています。
「あー、もしかして幽霊が怖いとか?」
抱き付いたままコクリと頷くタバサ。キュルケの服を力一杯握り締めて離そうとしません。そんなに怖いですか。
私も初めて幽霊を見た時は驚いたものですが。その後、その幽霊と普通に友達付き合いをするとは、その時は夢にも思わなかったですね。
「タバサ。幽霊はそんなに怖いものではないですよ?まぁ、確かにいきなり目の前に出てこられるとビックリしますが」
壁とかから、すり抜けて来られた時は本気でビビります。何もない壁に突如顔が浮かんでくるんですから、驚かない方がおかしいです。
「あ〜、夕映。もしかして幽霊見たことあるのか?」
「えぇ。クラスメイトに一人いました。目を凝らさないと見えないくらい薄い子でしたが」
「あーそう」
ついでに少しさよさんのエピソードを話して行きますが、話し終わると才人さん達はなんだかゲンナリしました。幽霊クラスメイトとのドタバタ劇は、どうもイメージが違ったようです。しかし、タバサは更に怖くなったようで、キュルケのマントに潜り込んで彼女の背中側に張り付いています。マントから彼女の足だけ見えて、二人羽織してるみたいです。
あぁ、握り締めすぎてシャツのボタンが千切れそうです。引っ張られて、キュルケの色黒の肌が隙間から覗いています。
「タバサ?くっついてるのはいいから、服を引っ張るのはやめて?ほら、破れて脱げちゃうから、ね?」
そう言われて力を抜いたのか、服の隙間が小さくなりました。肌が見えなくなり、才人さんと店主が露骨にがっかりします。
「ふん!」
「いてぇぇっ!!」
それに気付いたルイズが、才人さんの足を踏み抜きました。だらしない顔して見てるからですよ。
「けけけけけっ!」
先ほどの声がまた聞こえて来ました。一体どこから?
「ひっ!」
ビビビッ!!
「やあん!ボタンがっ!タバサ!?大丈夫だから引っ張らないで!?胸出ちゃうから!ね!?」
声に驚きまたもタバサがパニックを起こしたようです。とうとう耐えきれずにボタンが弾けました。そのまま更に後ろに居るタバサが引っ張るので、前面がはだけてしまってます。どうにか胸がこぼれないようキュルケが頑張って押さえてますが、タバサが落ち着かない限りセミヌードを晒すことになるのは時間の問題です。
「これだけ怖がられると、なかなか楽しいもんだな」
なんとも迷惑な事で喜んでいる謎の声。いい加減見つけないとタバサが落ち着いてくれません。そして、キュルケがはれて痴女の称号を得ることになるです。
「お。この剣から聞こえたぞ?」
剣、ですか?
才人さんが持っているのは片刃の少し古めかしい大剣です。あれから聞こえたとは一体?
「かっかっかっ!おうよ、俺様が喋ってたのさ!」
才人さんの持つ大剣は鍔の部分をカチカチ鳴らして喋り始めました。
「それ、インテリジェンスソード?」
ルイズが喋る剣を見てそんな名前を口にします。インテリジェンス……知性がある剣という事ですか?
「おうよ。デルフリンガー様だ、娘ッ子」
喋る剣ですか。
なんとも珍妙な代物ですね。才人さんが持つ大剣がカチカチ鍔を鳴らしながらルイズと喋っています。なんか才人さんが腹話術してるみたいで面白いです。
「やいデル公、客を驚かすたぁなんて事しやがる!貴族に頼んで溶かしちまうぞ!?」
「はん。鼻の下伸ばして娘ッ子の乳見てた奴が偉そうに。と言うか、俺様と話してるってーのに、いつまで乳見てやがんでぃ!!」
デルフリンガーと名乗る大剣と会話してるはずの店主の目は、さっきからキュルケの胸から外れません。彼女は既にお腹から胸までをほとんど晒していて、隠れているのは手で押さえてる胸の真ん中辺りのみと言う状態です。才人さんも足の痛みを堪えながらキュルケを見ています。まったく、胸は大きければいいって物ではないという事を知らないのですか。
「ちょっと主人!ダーリンならともかく貴方に見ていいなんて誰が言ったのよ!後ろでも向いてなさい!!」
見られてる事に気付いたキュルケに怒鳴られて、店主はしぶしぶ大剣の方に目を向けました。
「さっきからの声は全部こいつの仕業でさぁ。ほんと性格の悪い奴でして、へぇ」
知ってたならもっと早く言って欲しかったんですが。キュルケの胸見たさに放ったらかしにするとは、職務怠慢です。
「へぇ〜、剣が喋るなんて面白いなぁ」
才人さんはデルフリンガーを目の高さまで持ち上げて、いろんな角度から見回しています。スピーカーでも探してるですかね。
剣が喋るのを見るのは初めてですが、オコジョが喋るくらいですし、剣だって喋るでしょう。カモさんと会わせたらオコジョと剣だけで会話する場面が見られる訳ですね、それはなんともシュールな光景です。
「インテリジェンスソードなんて珍しいわね。でもサビサビ。どうせならもっと綺麗なのがいいわ」
ルイズも才人さんが持っているその大剣をマジマジ見てますが、お気に召さないようです。まぁ、確かに錆びだらけですし、中古もいいとこです。新しく買おうと言うのにこれは余り選ばれないでしょう、普通は。
「えー?いいじゃん、喋る剣なんて面白いし。なぁ、夕映、俺これにするぜ」
ルイズと違って、才人さんは大いに気に入ったようです。
剣を掲げたまま上機嫌に自己紹介してます。無邪気ですねぇ。
「結局それにするの?もっといい物がいっぱいありそうなのに」
タバサが幽霊ではないと分かってようやく落ち着いたのか、キュルケがこっちにやって来ました。ボタンがなくなって前を止められなくなったからか、シャツを胸の下の辺りで縛ってブラジャーのようにしています。露出度は高くなりましたが、前面をはだけたままよりはマシでしょう。タバサは落ち着きはしましたがまだ怖いようで、キュルケのスカートを握り締めたままです。いつもの落ち着きようからは考えられないですね。なんか可愛いです。
「もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ。ほら、そこにもっと綺麗で大きいのがあるじゃない」
「バカか、娘ッ子。その大剣は、馬の上から振るう馬上剣だぜ?相棒なら使いこなせるが、広い場所じゃなきゃぁ、振り回したらすぐ引っかかっちまうぞ」
いつの間にか才人さんを相棒呼ばわりです。どう言う心境の変化があったのやら。
「む!剣のくせに貴族をバカ呼ばわりなんて、生意気な剣ね!」
「剣は見た目じゃねぇんだよ。物を知らなすぎだ」
「むぅぅぅ!サイト、やっぱ他のにしなさいよ!」
剣にバカにされて怒るルイズ。剣が喋るのを見るのが初めてなら、その剣とケンカする人を見るのも初めてです。
「喋らない剣は山ほどあるけど、喋る剣はこれしか無いんだぜ?ちょーお買い得じゃん」
お買い得ではない気もするのですが。
まぁ、本人が気に入ったのならいいんですかね?サビサビですが。
「え〜?ユエー、これどう?やめといた方がいいんじゃない?」
ルイズが私に意見を求めてきます。先ほどのように、悪い所を上げて貰って諦めさせようと思ったのでしょう。じゃあ、ちょっと確かめてみますか。
「では才人さん、ちょっと貸して下さい」
「ん、ほらよ。気を付けろよ?」
柄の方を向けて渡されたデルフリンガーとやらを持ってみます。
重さのバランスも丁度いいですね、取り回し易い感じです。私では、背中の背負ったら地面についてしまうくらいの大剣ですが、その大きさが気にならないほど持ちやすいです。
「おいおいおい、おでれーた。この嬢ちゃん、ちっこい体で俺様を軽々振りやがる!」
「ちっこいは余計です。作りはかなりしっかりしてますね。思い通りに振り回せます」
金属の塊なのに、まるで棒を振っているかのように負担がないです。これならどんな方向からの攻撃にも瞬時に合わせられそうです。サビと口の悪さ以外は完璧ですね。ちょっと魔力も流してみましょう。いい出来ですし、この確認は必要ないかもですが、念の為です。
「よっと………!?」
ガシャン!
「あだっ!」
今の感覚は一体?
おかしな感覚に驚いて思わず投げてしまいました。
「おいおい嬢ちゃん!いきなり投げるとは、どういうりょーけんでぃ!!」
「ちょっと夕映、どうしたんだ?」
「いえ、それが……魔力を流そうとしたんですが、どうもおかしくて」
「魔力?」
デルフリンガーに魔力を流した瞬間、その魔力がかき消え、いえ、あれは吸い込まれると言った感覚でした。思わず剣を放り投げてしまうほど、急速に吸われたので驚きました。
「あん?なんだ、俺様はなにもしてねーぞ?」
「もう一度やってみます」
再度剣を受け取り、魔力を流してみます。手から流れた魔力が柄に渡り、刀身に向かった所でまた急に吸い取られました。例えるなら、掃除機で手を吸われる感じですかね。シュコっと吸われてまた思わず投げてしまいました。
「だから投げるなよ嬢ちゃん!おりゃぁ、振るものであって、投げるものじゃねーんだから!」
「あぁ、すいません。吸われる感触に驚いておもわず……」
どうも魔力を吸い取る機能が備わってるようですね。
明日菜さんの[破魔の剣]とは違い、消す訳ではないようで問答無用で無くなる感じではなかったです。
「今度は投げないので、もう一度やらせて下さい」
「一体なんなんだってんだ」
ブツブツ文句を言ってるデルフリンガーをもう一度受け取り、掲げるようにして構えます。今度は少しくらい吸われても気にせずやってみましょう。
「では、いきます」
気合いを入れて魔力を流します。ズズズっと流れて行く魔力が柄から刀身に進んでいくと、やはり刀身に届いた辺りからどんどん魔力が吸われていきます。
「んっ」
この吸われる感触、慣れませんね。くすぐったいような、痛いような、微妙な感触です。そんな感触を我慢しながら、どんどん魔力を流していきます。
「なんか、夕映の手とかが光だしたんだけど!?」
「なんか変な圧力を感じるわね」
流しても流しても吸われていくですが、それ以上の勢いで流していきます。しかし、やはり刀身に入った辺りで魔力は吸われてしまい、剣先の方までは一切届きません。かなり強力な魔力吸収能力ですね。魔法攻撃も楽々吸い込めるでしょう。
「お?おぉ?こりゃぁ……」
魔力を流し続けると何やらデルフリンガーが騒ぎ出したので、一旦やめる事にしました。
「どうしたの、ユエ?」
「いえ、この剣が騒ぐので」
「あぁ、まっ、気にすんな!もういいだろう?俺を買えよ、損はさせないぜ?」
よく分かりませんけど、まぁ、いいです。
「ユエ、どう?もっと綺麗な方がいいわよね?」
ルイズはどうしても綺麗な見た目の剣がいいようですが、これはこれで掘り出し物です。魔法に対抗出来るなら、魔法も気も使えない才人さんにはピッタリな装備です。剣でガードするだけで魔法が防げるなら、こんな便利な事はありません。
「ルイズ、どうもこの剣、掘り出し物ですよ?今は錆びてますが、綺麗に研いで貰えば見栄えもよくなるですし」
「そ、そうなの?」
こそっと耳元でこの剣は価値があるかもと囁いてルイズを説得します。交渉次第では魔法吸収機能を持つ魔法剣を安く買えるかもしれません。
「ユエがいいって言うならこれでもいいか。主人、これはおいくら?」
「へ、へぇ。それでしたら200で」
「ちょっと高いですね。これだけ錆びてて、売りは喋るだけなのに200ですか?50がいいとこです」
「嬢ちゃん!俺様が50たぁー、どういうこった!?」
剣が騒いでるですが、無視です。レアな機能が付いた剣を安く手に入れる為に、値切らなければならないので、相手なんてしてられません。
「へぇ、一応これでもそれなりの品ですし、口は悪いがインテリジェンスソード自体、価値のあるものでして、へぇ」
「それでも200は高すぎるですね。これだけ錆びてて中古とも言えないほどの物をそんな値段で売り付けるつもりです?」
「へぇ、しかし……では、150で」
「50です」
「いえ、しかし、相場ではこのサイズの剣は200くらいなんで、これでも安いくらいで……」
「50です。そうですね、オマケであの飾り剣を高く売る方法を教えましょう。あれの仕入れで赤字ではないですか?むしろ儲けられるようにして見せますよ?」
少しオマケを付けて相場以下の値段になるよう交渉します。こちらには損が出ない物を付ける必要があるですが、今回はいいダシがあるですし、利用させてもらうです。
「あ、あれを?それは願ったり叶ったりですが……」
「決まりですね。あの飾り剣の売り方と金貨30で成立です」
「あ、あれ?50じゃ……」
「決まり、ですね?」
「へ、へぇ、30と売り方で」
ふっ、勝ちました。冷静になれば簡単に突っぱねられる内容ですが、仕入れ失敗で落ち込んでましたし、それを帳消しに出来るかもと言う期待のせいで、しっかり考えられなくなってたお陰でいい買い物が出来ました。
「やるわね、ユエ。勢いだけで相場の四分の一以下にしちゃったわ」
「俺様、30……」
「げ、元気だせよデルフ。な?」
「もっと綺麗なのにすればいいのに」
外野がうるさいですね。こういうものは言った者勝ちなのです。
「じゃあ、とりあえず30ね?持って来た分が結構余ったわ。どうしようかしら?」
ルイズが少し呆然としてる店主にお金を払いましたが、まだまだ重い財布を見て、どうするか考えてます。
「俺、30……」
「ま、まぁまぁ。これからよろしくな、デルフ?」
剣を必死に励ます才人さん、なんだかおかしな光景ですね。しかし、才人さんって意外に順応性高いですよね?異世界に連れて来られても平気っぽいですし、剣が喋っても面白いで済ませますし、麻帆良の生徒だったりするですかね?あそこの生徒達は、たとえ魔法のゴタゴタに巻き込まれても平然と対応するくらい順応性が高いですし、ただの一般人とは少し違うのかも。今度聞いて見ましょう。
「あと250はあるわ。どうせなら綺麗な奴も買おうかしら?」
「あら、ルイズ。魔法を諦めて剣士にでもなるの?あなたの細腕じゃ、ナイフくらいしか持てないんじゃない?」
「なんで私が持たなきゃいけないのよ!自分の使い魔がサビ剣しか持ってないなんてみっともないから、ちゃんとした奴も買おうと思っただけよ」
ルイズがまだ綺麗な剣を諦めてなかったようで、何かないかと探している所にキュルケがチャチャを入れます。確かにルイズが剣を持つのは難しそうですね。身体強化の魔法を使えばまったく問題ないですが、今のままではよほど鍛えないと、まともに振ることさえ出来ないでしょう。
「ルイズなら、この細身のショートソードまでですね。これ以上は、よほど鍛えないとすぐ腕を痛めるです」
棚に並んでいた刀身が50センチほどの剣を見せて、目安を教えます。大きければいいと言うものでもないですし、かと言って小さすぎると使う場面が限られるです。彼女の体格から言ってもこの辺りが妥当でしょう。
そう思って勧めたですが、
「ゆ、ユエまで魔法を諦めろって言うの?」
涙目になって、なにやら誤解してるルイズが目の前にいるです。
「やっぱり私に魔法の才能がないから、ユエにまでメイジをやめろって言われたんだ。ユエだけは応援してくれると思ってたのに………ふぇぇっ」
「ちょ!?違うですよ!?ルイズが買うなら、です!別にメイジをやめろとは言ってませんよ!?それにメイジでも、剣を持つ事は有効です」
「うぅ…?どういうこと?」
思わぬ所で泣き始めたルイズをどうにか説明するです。剣を買うかどうかで、いきなり魔法使いをやめる話にまでなるとは。私が思ってる以上に魔法が使えない事にコンプレックスを感じてたようです。少しミスりました。
「説明するですよ。まずルイズ、杖を貸して下さい?」
「ぐすっ、はい…」
涙を拭いながらポケットに入れられていた杖を渡すルイズ。そのまま涙を堪えながらこちらの話を待ってます。まずは誤解をとき、私があっさり剣を勧めた理由も話していきます。こちらの魔法使い達はどうも魔法至高主義といいますか、魔法が全てみたいな考えがあるようで、魔法使いが魔法以外の手段を持つのはおかしいと思ってるようです。今は学校に通っているだけなので問題はないですが、ひとたび事件に巻き込まれた時、そして杖を奪われた時、何も出来ない子供に成り下がってしまうのが、私達魔法使いです。この辺りをしっかり理解して貰わねばなりません。たとえこの世界では、あの激動の夏休みのような事件が起きたりしないと言われても、大なり小なり何かしらの事件は起きるはず。そんな時、魔法が使えない状態になり怪我をしたり、下手したら死んでしまうかもしれない。そんな目にせっかく出来た友人を会わせる訳にはいかないです。
「ルイズは、この杖でいろいろな事が出来ます」
「出来ないわよ?爆発しか」
「うぅ……ぐすっ……」
「キュルケはこれでも飲んで黙ってて下さい」
早速茶化してくるキュルケに、炭酸豆乳のパックを渡して黙らせます。飲んでればその美味しさに喋る余裕もなくなるでしょう。説明が飲み終わるまでに終わるか微妙ですが、なんとかなるです。
「改めて。ルイズはこの杖でさまざまな事が出来るです。しかし、ルイズ。今の貴方には何か出来ますか?貴方の杖がここにある今」
「すん……無理ね。何も出来ないわ」
「そう、杖に飛び掛かって奪おうとするくらいですね。つまり、私達メイジは杖が無ければただの人です。貴方も私もタバサも、そこで倒れてるキュルケも………って、なんで倒れてるです?」
いつの間にかパックを片手にキュルケが倒れてるです。余りの美味しさに気絶でもしたですかね?まぁ、邪魔される事はなさそうですし、このまま行きましょう。
「まぁ、何で倒れてるかは置いといて、です。このキュルケも杖が無ければただのえっちぃ同級生です。相手が武器を持っていたら、何かしようとしても返り討ちに合うのが関の山です」
ルイズはまだ涙目ですが、心持ち真剣な顔になって私の話に耳を傾けます。私達の世界では、ただ魔法を撃つだけで満足してる者は二流以下です。私の知る限り、一流、もしくは本物と言われる人達は等しく魔法以外の接近戦用の手段を持っています。エヴァさんの合気柔術、ネギ先生やフェイトさんの中国武術、他にも凄腕の人達は何かしらの手段を用意しています。なのにここの人達は魔法さえ使えればいいと思っているのか、まったく接近戦への備えをしてないです。才人さんが戦ったギーシュさんもゴーレムを出すだけで、接近されたら棒立ち、剣を突き付けられたらすぐ降参してました。少しでも接近戦への備えをしていたら、多分才人さんが負けてたはずです。
「ルイズ、貴方も例外ではありません。杖を取られた今の貴方は、ただ人形のように愛らしいだけの女の子です。いつもは従えている才人さんでも、襲われたらなす術もなく組み伏せられてしまうでしょう」
「いや、いきなりルイズ押し倒したりはしねーぞ?」
外野は無視です。
あとルイズ、顔を赤くしないで下さい。褒めましたが、そう反応されるとこっちも恥ずかしいです。
「そんな時、剣の一つでも持っていたら話が変わってきます。その剣で倒すもよし、適当に振り回して杖を奪う隙を作るもよし、やりようは無手の状態より多くなります。
メイジだからと言って魔法だけに頼っていては二流止りです。一流に、いえ、超一流と言えるメイジになりたいのなら、魔法以外の手段も持っておくべきです」
純粋に魔法技術を磨き上げるのも一つの手ですが、時間が掛かり過ぎるでしょう。仲間や前衛を揃えられればいいのですが、四六時中一緒にいるわけでもないですし、どちらにしても接近戦の技術は必要でしょう。
「何かあって、魔法が使えない状況と言うのも良くある事です。だから、貴方が剣を買うと言うのを聞いても何の疑問を持たなかったのです。決して、魔法を諦めろと言いたかった訳ではないんですよ、ルイズ?」
「う、うん。分かったわ。ごめんね、ユエにまでメイジは無理って言われたと思って、悲しくなって……」
「いえ、私もすいません。貴方の気持ちを考えてませんでした」
彼女が魔法を使えない事をかなり気にしてる事は知っていたはずなのに、私とした事がとんだ失態です。
「タバサ、それ何飲んでんだ?」
「キュルケが持ってた。もう飲まないみたいだし貰ったの。あげない」
「炭酸豆乳……?また夕映のだな?豆乳に炭酸いれるなよ」
どうにかルイズと仲直りして振り向けば、キュルケはまだ寝てますし、タバサはさっきのジュースを飲んでいます。店主は倒れてるキュルケのそそり立つ胸をにやけた顔で見つめてますし、才人さんもキュルケの方をチラチラ見つつ、タバサの持つジュースに興味を示しています。
「ルイズ、どうです?剣を一つ持ってみませんか?貴方が魔法にこだわりがあるのは分かってますが、魔法だけではどうにもならない事も沢山あります。そんな事に出逢った時、剣の一本もなかったせいで貴方が怪我をしたりするのは我慢なりません。未熟ですが、剣の使い方も少しは知ってるですから、教える事も出来るです」
向こうはまだ放っておいてもいいようですし、ルイズにサブ手段を勧めましょう。剣に杖を仕込めば、魔法を使いつつ剣で斬るなんて方法も取れるですし、いい考えでしょう。
「でも、魔法が……」
「魔法も剣も、どっちも出来るようになればいいんです。私も魔法だけじゃなく、接近戦の訓練もしてるですし、一緒に頑張りましょう?」
うつむくルイズの手を取って私は説得します。彼女は小柄ですが、可愛らしい容姿をしてますし、相手が下衆な人物なら杖を取られれば無力な彼女に何をするか分かった物じゃありません。対抗手段は多い方がいいでしょう。
「う、うん。分かったわ。……ユエ、私の剣を選んでくれる?」
「もちろん、任せるですよ」
さぁ、それではルイズの剣を探しますか。この広くはないですが狭くもない店から、彼女に合った剣を見つけてみせるです。余り重たいのはダメですね、短すぎるのも相手の懐に入っていかねばならないので、体重の軽いルイズでは抱きかかえられたら何も出来なくなります。丁度いいのを選ばなければ。
「うぅ……30……せめて100……」
「夕映ー?こっちのフォローもしてくれよ」
「はふっ、美味しい」
「うぅーん……」
「おぉぅ、いい揺れしやがる……」
さて、どんなのが似合いますかね。
第十話でしたぁ。
展開が強引なのはいつもの事。どうにか自然に話が作れるようになりたいものです。
ようやくデルフ登場です。一体いつになったら原作一巻が終わるのか。
いつ終われるか分かりませんが、頑張るのでよろしくお願いします