原作と違いすぎてどうすればいいのかわからない   作:七黒八白

5 / 24
前回のあらすじ

 ユウキ「ボクは元気が取り柄だから!」

  梟助「(守りたいこの笑顔(´・ω・`))」

 
 原作前の話は今回で最後です。多分、きっと、メイビー.........。


第四話 出来過ぎた 禍福

 原作まで残すところあと2年、今は2020年の2学期に入った直後くらいである。運よく土日と祝日が重なり休みが増えて、あるものは宿題に四苦八苦し、あるものは悠々自適に過ごしている。俺は後者だ。ユウキとの出会いから4年弱程経った。あれからというもの平和なもので少なくとも紺野姉妹が虐められてるなどといった事件は無い。成績優秀、運動神経抜群といった紺野姉妹はちょっとしたアイドルみたいな存在だった。確証はないがHIVはもう俺の考えすぎだったのだろう。俺は今11歳、体もぐんぐん大きくなり170㎝に届いた。流石天性の肉体ならぬ転生の肉体。身長はSAOのステータスには関係ないらしいがリーチが長いのは良いことだ。早かったような遅かったような。どちらにせよもうすぐあの小学校ともおさらばだ。

 

「しかし、何だ。君は自分を高める以外にすることは無いのかね?」

 

「.........。」

 

 はい、無いです(白目)。今、俺は桐ヶ谷家にお邪魔している。家に居るのは俺と桐ヶ谷祖父だけである。直葉は紺野姉妹とかなり仲良くなったらしく、紺野家にお泊りしている。直葉の助言(致死)により色々努力したのだが、無理だった。決定的なのは直葉が同年代や年上を剣道で圧勝したことで、報復に出た悪ガキを瞬殺したことがいけなかったのだろう、しかもその後瞬殺した俺に対する報復に出た悪ガキの兄までなぎ倒したことが学校に広まり俺の扱いは完全にニトログリセリンか何かの爆発物に対するものだった.........自分でも意外だった。直葉のことであそこまで取り乱すのは。

 

「(ある意味、オリ主らしい行動だけど)......何してんだろう、俺。」

 

「....直葉の事は感謝している。子供の喧嘩に大人が出るのは逆効果だからな......。」

 

「いえ、完全に俺の暴走です。間違っても直葉の為なんて言えません。」

 

 誰かのためという考えは、誰かのせいという考えにすり替わりやすい。直葉をダシに使いたくはない。俺の自滅、それでいい。そうでなくてはならない気さえする。

 

「それでも直葉が救われたことは事実だ。君は確かに途中からは力に酔ってたのかもしれん。だが、人間得たものは力であれ、知識であれ、試してみたくなるもの.......君が特別な訳ではない。思い上がってはいかん。反省するのはいいが、守れたものもあることは忘れんでくれ.........直葉もだが、君が一番救われん。相手にも非はある。」

 

 .........今更だが、俺はこの人に剣道を教わってよかったのだろうか?SAOで活躍するためなどという不純な我欲でここまで来た.........上手く言えないが、不誠実極まりない気がする。桐ヶ谷祖父も後悔するんじゃないだろうか。自分の育てた弟子が、技術が、ゲームで使われる.........ふと、考えただけなのにどんどん申し訳なさが膨らむ。

 

「.........私は、終ぞ、君が何を目指してるのか分からなかった。」

 

 

 

 

 

 それに対して俺は、何も返せない。

 

 

 

 

 

「直葉に向けていた興味も、紺野君達に向けていた憐憫も。」

 

 

 

 

 

 

 言葉だけではない、恩さえも。

 

 

 

 

 

 

「だが、一つ確かなことがある。」

 

 

 

 

 

 

 にもかかわらず、

 

 

 

 

 

 

 

「私は、君と過ごせて楽しめたよ。老人にいい余生をありがとう。」

 

 

 

 

 

 この人は今でも無条件に愛情を注いでくれている。

 

 

 なんの憂いもない、微笑み一つでそれを物語っていた。別に俺は親に虐待されてるわけではない。だがここまで理解しその上で見守ってくれたのは武蔵さんだけだ。明確に何をするかは分かっていないのだろう。だが何かをするということは分かっていた.........少なくとも武蔵さんはその目的を追及してもいい立場だった。子供と言えど得体がしれないのだから。だが、武蔵さんは何も聞かずに鍛えてくれた。何故なのかは分からない.........理解するには、この人はあまりにも偉大だった。

 

「......私は今年で80。今の時代なら静かに過ごせば生きながらえるだろう。」

 

「武蔵さん.....?」

 

「だがね、興味無いのだよ!布団の上だけで過ごす余生なんて!」

 

 いつも以上に声を出し笑っていた。老いてなお、その心、その気迫は微塵も衰えていない。死を恐れていない。

 

「修行もいいが、折角の休みだ。何処か行かんかね?何、親には適当に上手いこと言えばいいさ、得意だろう?そういう事は?旅費は私が出す。」

 

 いたずらでもするかのような笑みでそう言った。そこには昔かたぎの雰囲気はなく、ただの孫思いの好々爺だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~良い湯だ、五臓六腑に染み渡る。」

 

「本当に疲れが取れるんですね。いい温泉って。」

 

 そんなわけで俺と武蔵さんは東北のとある有名温泉に浸かっていた。朝風呂は体にいいのか悪いのかはっきりとは知らないが俺としてもテーマパークとかよりもこういう方が気が休まる。何より今は静かなところで自分の方針について考え直したかった。原作とそのキャラクター、いや、人間に対してどういうスタンスをとるか。

 

「温泉から上がったら、どうする?梟助君。」

 

「そうですね、折角ですし街でもブラブラ歩きますかね。」

 

 旅館でずっとごろごろしてるのも勿体無いし。

 

「そうか、私はルームサービスでマッサージでも頼むかな。何かあったら連絡してくれ。」

 

 取り合えず直葉と紺野姉妹に土産を買わなくてもならないが、何にしよう?なまはげの面でも買うか?そんな事を考えながら温泉から上がり脱衣所で着替えようとする時、

 

「.....?はて?何か忘れてるような.........。」

 

 洗面具などは持ってきてるし、いったい俺は何を忘れているのか。何も思い出せん。気のせいか?

 

「まぁ、今はいいか。しっかり息抜きしよう。」

 

 そして俺はわずかな違和感を忘れる。

 

 もっとも直に思い出す、いや直面するのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんべい、クッキー、饅頭.........これは、雛あられか?なまはげ全面押しだな。」

 

 ご当地キャラは違うのに、そんなことを苦笑しながら俺は街を散策していた。土曜の午後だというのに人は少なかった。ここらは田舎なのだろうか?確かにただの連休で旅行に出るやつなどそうそういないだろうが旅館も繁盛してるようには見えなかった。暇を持て余してる大学生くらいの青年、手元のメモと睨めっこしてる小学生、ベンチで日向ぼっこしてる老人、娘の手を引きどこかへ向かう主婦.........主婦?

 

「何だ?、何か今?、物凄いことに直面しかけてるような.........。」

 

 あの主婦に何かあるのか?そう思い自然を装い距離を取り横から顔を見た。その瞬間、電撃が走るような衝撃に襲われた。実際電撃が走ったわけではないが主婦が手を引いてる女の子には見覚えがあった。

 

「朝田.....詩乃...?」

 

 聞こえないように声を抑えることは出来たが、それでも俺は衝撃を隠せなかった。もし、今、二人が向かってる先が郵便局だったら?原作と乖離しなかったら?それ以前に二人とも死ぬかもしれない........。

 

「.........ここが分水嶺、今どうするかで俺のスタンスは決まる.........。」

 

 馬鹿げてるかもしれないが、もうこの世界にいる以上意識せざるをえない「原作」というもの。目の前にいる悲劇に合うかもしれない二人......ここで動けないなら、俺はSAOだけでなく全ての出来事に関わるべきではない。都合の良い時だけしゃしゃり出て、悪ければ知らん顔。許されるはずがない、少なくとも俺はそう思う。責任があるわけではない。あの日の決意通り誰も彼も救う気はない。がしかし、ここで怖気づくなら、俺は....生まれるべきではなかった。そういう事になると思う。

 

「命を懸ける.......この展開は予測してなかったが、覚悟はあったはずだ。SAOに入るため武蔵さんに鍛えてもらうよう頼んだ時から.....。」

 

 或いは、それ以前から。

 

「.........。」

 

 どれほど迷っていたのか、二人の姿は見えない、もう行ってしまった。だがこの先に郵便局があるのは覚えている。

 

「......人のとる行動は、その人の考え方を最も的確に表明するものである。」

 

 とある政治哲学者の言葉だ。他者の言葉をあまりあてにはしたくないが、今ばかりは前に進むために。

 

 俺は迷いを振り切るように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは土曜日の午後のことだった。私は母親についていき郵便局で本を読んでいて、他に客は誰もいない。母が何らかの手続きを窓口でしているのを見ながら私は暇そうに待つ。そんな中、キィと扉が開く音がした。入ってきた男は妙な奴だった。灰色の目立たない格好で軍手をしてる。目はなんだかせわしなく動いていて片手に持ったボストンバッグを少し見た後母がいる窓口まで行き、強引に横に突き飛ばした。驚いたのも束の間、私が大声で抗議するより先にバックの中から黒く光る何かを取り出し、轟音、郵便局の中は静まり返った。

 

「誰も動くな!!動けば殺す!!」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、おそらく局員もだろう。魂がぬけたかのように呆然としている。

 

「こいつに金を詰めろ!!警報は鳴らすな!」

 

 そこまで言ったところでようやく事態が飲めたのだろう。局員が悲鳴を上げた。が、

 

「うるせぇぇ!!!騒ぐな!!ぶっ殺すぞ!!」

 

 男性局員に向けて発砲する。狙いは甘かったのか肩に少しかすった程度のようだが一般人にはそれで十分過ぎた。唾を飛ばしながら叫んでいることは悪ガキのそれと大差ないが、実際に人を殺せる武器が手元にあるなら話は180度変わる。

 

「さっさとしろ!!金を詰めろ!!こいつも撃つぞぉ!!」

 

 座り込んだ局員を引きずり、立たせようとするが思うようにいかず、業を煮やした強盗犯は私の母に拳銃を向けた。

 

 

 

 

 私が

 

 

 

 

 私が、母を、

 

 

 

 

 私が母を守らなくてh―「そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!」!?!?

 

 今まさに強盗犯に飛び掛かろうとしていたその直後、この場に似つかわしくない声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生してから考えていたことがある。俺が選ばれた理由は何だったのだろう?というもの。もうほとんど思い出せないが、あの『カミサマ』はそれっぽい事を言ってた気がする。もし、理由があったなら、今分かった気がする。目の前で起こることを知っていたら、悪化する可能性があるのを分かっていても何かせずには居られない.....きっとそんな気質があの『カミサマ』の琴線に触れたのだろう。あの『カミサマ』が何をするまでもなく、俺は操り人形と大差ないのだろう.........だがそれでも構わない。自分の為でもあり、誰かの為でもある。そんな普通の人間としての行いをする。そう決めた。偽善で結構、転生した時点で本物などもう分からない。ただ目の前の最善をつかみ取る。今はそれだけでいい!

 強盗が銃を発砲し喚き散らしてる間に俺はそっと扉を開けて郵便局に入る。銃声で全員耳がイカレてるのだろう。扉を開く音も聞こえた様子はない。誰もが強盗の銃に視線が釘付けになってる間にカウンター側に回りこみ誰にも気づかれないように電気ポットをとる。よし、中身は十分ある。そして、その中身をぶっかける!

 

そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!

 

 でもこの叫び声は無かったな。いやどんな風に出ようか迷って最終的にはこんな声になってしまった.........なんだよ、そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!って、丹田に力込めて出した、文字にしたら太字なってるくらい出たけど、声量とは別に驚くわ。そんな間抜けなことを考えてると、

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

 

 強盗が叫んでた。服と帽子があるとはいえ90度の熱湯、不意にかけられたら誰だって泣き叫ぶ。ここで安心はしてられない。確かあの銃は安全装置が無いのが特徴、さっさと取り上げないと!強盗が呻いてる間にカウンターから飛び出し、トカレフを持ってる右手を脇固めの要領で締め上げ、落としたトカレフを遠くに蹴っ飛ばす。

 

「てめぇ!!何をしやがる!!離せぇ!!」

 

「てめえこそ何してやがる?」

 

 無理矢理拘束を解こうとするので、お望み通り離してやり。

 

「死ねぇぇえええええええ!!」

 

 懐にでもしまってあったのだろう、ナイフを突き出してきた。だが、まぁ、

 

「武蔵さんに比べたら欠伸が出るな。」

 

 右手で突き出されたナイフを右手ごと左手で内側に捻り、緩んだところをはたき落とす。そして、

 

「セイッ!!!」

 

「ゴハッ?!?」

 

 右手とともに前に出された右足を大外刈りのように刈り、相手の顔面を後ろに落ちるよう押し出す。結果、後頭部が真下の床にぶち当たって、しばらくの間死に掛けの虫のように動いてたが、そのまま気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分弱くらい経ってから警察がやってきた。もちろん強盗犯は手も足も、目もガムテープで塞がれてる。強盗はどれくらいの刑期かは分からないが拳銃所持で懲役3年、一発撃つごとに無期または3年以上の懲役、単純計算10年弱は表に出れない。いや、人に向けて撃ったことや麻薬使用の疑いもあるから、もっとか?どちらにせよ俺とシノンにはもう関係ない.........何気なくシノンと考えてたが、俺が介入したので朝田が『シノン』、つまりVRに関わるフラグはへし折れたのではないだろうか?

 

「あの...。」

 

「ん?」

 

 しかし、

 

「.........助けてくれてありがとう。」

 

「気にすんな、馬鹿が馬鹿やらかしただけだよ。」

 

 それでもいいと思う、今の俺にあるのはただ一人の女の子を救えた充実感だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、署までついてきてね。聴取とるから。」

 

 例え、この後警察に連れてかれ、武蔵さんと家族に怒鳴り散らされるとしても.......やっぱり逃げ出したい。

 この後めちゃくちゃ事情聴取された。

 

 

 

 

 

 後日談的な物、精魂尽き果て搾りかすのようになった俺は桐ヶ谷家の縁側で話していた、何かもうここの家の子じゃないかってくらい馴染んでるな、俺。

 

「いい顔をするようになったな。」

 

「え、そうですか?」

 

「少なくとも今までの迷子のような顔ではない。」

 

 この人は何処までお見通しなのだろう.........。

 

「これで私も心置きなく逝ける。」

 

「.........直葉が怒りますよ?縁起でもないって。」

 

 

 

 この人が死ぬことが想像できない。少なくともこの時の俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 3月中旬俺と直葉の小学校卒業式。式を終えて晴れ姿のまま桐ヶ谷家と雨木家で宴会を開いた翌朝、

 

 

 桐ヶ谷 武蔵は死んでいた。役目は終えたと言わんばかりに笑って。享年82歳。

 

 

「.........ありがとうございました.........。」

 

 この日俺は生まれて初めて、泣いた。

 

 

 

 

 




 詰め込み過ぎた気がする、そしてチートキャラ老衰死。正直ここまでキャラが出来るとは自分でも考えてませんでした。

 次回からSAOです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。