原作と違いすぎてどうすればいいのかわからない   作:七黒八白

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小説のウラ話

 オウル「書き方とか安定しないな」

  作者「友人にも言われた」

色々悩みながら書いている、そんな小説。


第二十二話  すくわれぬ先に 封殺

 ―――――――実際の所オウルってどれくらい強いんだろう?

 

 シノンこと朝田詩乃は、最近よくそんな事を考えていた。そして今、それが試せる時だった。

 時間も相まって辺りは薄暗い、遺跡の大広間のような場所で、目の前では素手で佇む白髪の剣士が一人、一々明言する迄も無くオウルである。

 

(私は別に武道なんてやったことないけど―――――――)

 

 シノンとユウキは二層以来の、少しだけ懐かしい空気を、

 アスナとフィリアは恐らく、生まれて初めての空気を感じていた。

 

 

 ―――――――何故か踏み込めない。

 

 

 素手である、四対一である、距離は三メートル、しかも囲んでいる。

 だが、理性以上の何かが足を踏み出させることを押しとどめていた。

 

(―――――気圧されるって、こんな感じなのかしらね)

 

 彼女たちが、まだ対人戦において『戦い慣れている』という域に達していないのか。

 それとも目の前の青年がそれほど強いのか、シノンにはまだ理解できなかった。

 その横顔はいつもと同じ鋭い目つき、しかし伏目で何処を見ているのか、何を考えているのか、まるで見当がつかない。

 

 その時の少女たち四人の考えは全く一緒だった、『いつ仕掛けるか?』

 

 そして最初に仕掛けたのは――――――――

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

「・・・・――――――」

 

 ―――――――――オウルの真後ろに立っていたアスナだった。

 

 使う技は《リニアー》、狙いは頭部ではなく胴体、前面であれば鳩尾の部分。首であれば避けられる確率が高い、そして胴体なら躱すとき態勢が崩れ、例え避けても他の三人が追撃する、と。

 真後ろからの攻撃、無論死角であり出来る限り音は立てなかった、掛け声などもってのほかである。

 何より彼女が使う《リニア―》は攻略組でも視認不可で回避不可であり、見てから反応できるのはユウキだけである、まして背後から――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え――――?」

 

「―――()った」

 

 ()()()()()()()、オウルは足を少し開き体を横にずらし、右脇の下に《リニアー》を流した。アスナの肘の付け根を、握り拳を作りながら固くを閉じた。

 

(不味い―――――――!)

 

 フォローに入る、とシノンが考えて行動に移す前に、オウルは攻撃を終えていた。

 アスナが《体術》スキルを使う前に肘関節の逆方向に左手で力を加えてへし折る、

 

「確信、と言うより緊張に耐えかねたな?」

 

「なっ―――――」

 

 そしてアスナが何か言い返す前に、今度は右側に立っていたフィリアが仕掛ける。

 

(振り降ろしはダメ!突き技の方がカウンターは合わせられないはず!)

 

 ()()()()()()()()

 ソードスキルの急な加速は本人の技量によっては、消えたようにさえ見える。

 ソードスキルは一瞬の溜めがある、振り下ろす技は至近距離からだと押さえられやすい、突きならば、放てば当てられる――――

 

「―――――甘い」

 

「ぐッ!??」

 

 ―――――はずだった。

 彼女が間違えたのは、オウルの技量の高さ。

 スキルを使った時点で『どの位の速さで』『どこを通るのか』、オウルは見切り、カウンターで折りたたんでいた右腕で《閃打》を放った。

 

「ソードスキルは単発でも慣れてる奴は見切るぞ、特に元テスターなんかはな」

 

「・・・ッ・・・・ハハ―――――」

 

 

 アスナ 決め手 関節技―――――『有効』

 

 フィリア 決め手 カウンター《閃打》――――『有効』

 

 アスナが仕掛け始めて、僅か五秒。

 彼女たちは決して弱くは無かった、レベルもスキルも、仮想世界においての適性でさえ凡人のソレとはかけ離れていた。

 しかし、

 

「まぁ、こうなることはわかってた・・・・だから――――――」

 

 十年近い修練を、仮想世界で覆すならもっと経験か知識か―――――――

 

「――――――一番の鬼門はお前だよな、ユウキ?」

 

 ――――S()A()O()()()()レベルのセンスが必要である。

 

「―――行くよ?」

 

「来いよ――――」

 

 全てにおいて高速だった。

 ユウキの剣による、斬撃、刺突、拳打、脚撃。

 オウルの体術による、逸らし、足運び、牽制、回避。

 当然、剣を持っているユウキの方がリーチは有利である、少しづつHPを削られながらオウルは後退していく。

 しかし、ソードスキルと急所の攻撃だけは必ず避けるか牽制する。

 

(速すぎて割り込めない――――――!)

 

 ユウキの攻撃速度にも、オウルの防衛力にも敵わないと悟ったシノンは無理に割り込むよりも、ユウキが隙を作ることを信じ、オウルの死角に入りながら距離を詰める。

 そして―――

 

「ッ!」

 

「もう逃げられないよ!」

 

 ――――その瞬間が来た。

 後退し続けた結果、遺跡の壁面にオウルは追い詰められた。ユウキは間髪入れずに腰だめに剣を構え、突貫してくる。

 

「ゼァッ――――!」

 

 対するオウル、迎え撃つ形でスキルではない水平蹴りでユウキの顔を狙う。

 上手くいけばスタンが入り、三秒間の優位が手に入る。

 

(―――――目を瞑るな退くな!!)

 

 それでもユウキは退かなかった、むしろ足を限界まで伸ばし、蹴りを掻い潜る、すれ違う形で蹴りを避けるのはタイミングが難しいがユウキにははっきりと見えていた。

 そして加速の一切を殺さないまま、オウルの軸足を《ホリゾンタル》で斬り落としにかかる―――――

 

「これで――「まだだッ!まだ終わってない!」!!?」

 

 が、オウルはそのまま蹴りの勢いを殺さず、背面の壁を足の裏で蹴った。勿論スキルでも何でもないただの蹴りで壁を壊せるはずがない、オウルの目的はそこではない。

 少し前の戦いと同じように、蹴りの反作用により背中からユウキにのしかかる様に《ホリゾンタル》を回避する。左足の踵が僅かに削られるが、まだHPバーはイエローゾーンには入っていない。

 

「《スラント》なら足首位は落とせたかもな!」

 

「がッ――――!?」

 

 すかさずスキル硬直で動けないユウキの後頭部に《閃打》。例え反射速度が上であろうと、対処できない内に攻撃すればそこまでである。

 

(もっとも、コイツはまだまだ速くなるだろうが―――――)

 

 将来が末恐ろしい、内心独り言ちながら最後の敵を迎え撃つ。

 

「・・・・・・」

 

「どうした?来ないのかシノン?」

 

 今頃になって怖じ気づいているわけではない。

 だが、オウルの言を信じるならユウキはSAOの頂点に立つかもしれない程の実力を秘めているという。

 しかしそれがどうだ?アスナとフィリアを含めて、一分も経たないうちにやられてしまった。

 

(武道やってた、とかそういう次元じゃないでしょ!これは―――――!)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、素人目でも明らかな程。

 ボス戦も、PKプレイヤーの対処も、もうコイツ一人でいいのではないか?

 そんな馬鹿な考えが浮かぶが、一蹴する。

 

「別に・・・・あんた攻められてばかりだから、そっちに先手は譲ってあげる」

 

「・・・・ふーーん」

 

 折角出会えたのだ、折角ここまでついて来たのだ。

 意地でも付いて行く。例えコイツがこれから先どれだけ泥にまみれようと。

 腰を低くし、半身を逸らし正中線を隠す。手の中の短剣は今までと同じ感触を返してくれるのが頼もしかった。

 

「――――後悔すんなよ?」

 

「―――しないわよ、絶対」

 

 その言葉を皮切りに、シノンをなぎ倒さんとオウルが迫ってくる。七、八メートルはあった距離を滑る様に一瞬で詰めた。

 

(速い―――――でも!)

 

(真正面からだと、やっぱ反応されるか!)

 

 近接戦闘ではオウルを抜けば、ユウキとアスナが頭一つ飛びぬけてるが。今まで戦い続けてきたシノンも決して捨てたものでは無い。

 

「だが先手を譲ったのは悪手じゃないか!?」

 

「―――――ッ!」

 

 今までの戦闘を見るにオウルはカウンターを得意としている、下手に攻めるより迎え撃った方がいいとシノンは考えたが、

 

(いくらこっちの獲物が短いからって、こうも攻められるの!?)

 

 突きを体ごと滑り込ませて逸らす、振り降ろしは手刀で防ぐ、打撃は相殺する、しかも全て間髪入れず反撃してくるおまけつき。

 

「容赦なさすぎでしょ!貴方!」

 

「お前それサバンn・・・PK相手にも言えんの?」

 

 ―――――――何と間違えかけた、何と。

 そんな事もいう余裕もない程追い詰められる。いくらオウルが素手だと言っても一方的に攻撃され続ければ、イエローゾーンに入るのもそう遠い話ではない。

 ソードスキルを一発でも当てれば勝ち目はあるが、その一発が果てしなく遠い、短剣なので懐に入られても然程問題ではないが、ここまで近いとオウルでも無くともソードスキルの使用など見逃さないだろう。

 

(このままじゃジリ貧!賭けに―――――!)

 

「ハァッ!!」

 

「おっと」

 

 鳩尾を狙い、素早く突きを繰り出す。当然の如く避けられるが詰め寄られていた間合いが僅かに広まる。それを見越してシノンは行動に出る。

 広まった側からそばから間合いを詰めようとしてくるオウルに牽制で短剣を()()()

 

「うおっと!?」

 

 動こうとした瞬間に短剣を投げられ、流石のオウルも唯一のアドバンテージである武器を投げ捨てるとは思っていなかったので、上体をのけ反らしながら首を傾けて短剣を躱す。

 その間にシノンはメニューウインドウを出し、幾つかのアイテムを取り出す。

 それは――――――

 

「え?ちょ、おま、シノンさん?ソレずるくないっすか?」

 

「貴方それPK相手に同じこと言えるの?」

 

 ―――――――ダメージ毒瓶と麻痺毒瓶と火炎瓶。

 

「いやソードアートしろよぉおおおおお!!!!!」

 

「あんたにだけは言われたか無いわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌な・・・・事件だったな」

 

「うん・・・・まさか文字通り飛び火するとは・・・・」

 

「・・・・」

 

「一対四のデュエル、それも初撃決着でまさか火炎瓶投げてくるとはな・・・・」

 

「幸いHPは減らなかったけど、服ちょっと燃えたよ・・・・」

 

「・・・・・」

 

 少し、本当に少しだけ、大人気なかったと言うか本気になってしまったというか。

 兎に角対人戦を想定しての決闘だったにもかかわらず、《調合》で作った虎の子の火炎瓶を使ってまで負けてしまった。

 

「実戦ならいい判断だけど、パーティーメンバーに飛び火しない様に工夫するのがシノンの課題かな」

 

 五人で焚火を囲み、鉄串で色々な食べ物を焼きながらさっきの模擬戦の反省会を開く。アスナとフィリアはどちらかと言えば料理スキルの話に夢中な様だが。

 

「まぁ、二人はまず対人戦をもっと経験して自分の戦闘スタイルを確立させる所からだな」

 

「戦闘スタイルねぇ・・・・あんたは確立できてんの?」

 

「うーーん・・・・ボチボチ、かな?現実の武道の動き全部がこっちで通用するわけじゃないし、発勁とか」

 

「あなたホントに日本人?」

 

「日本人だよ、アレも要は体重と筋力から放つ打撃だからコツ掴めば難しくない、この世界には臓器とか血液とかは再現されてないから使えないけど」

 

 されてたらどうなっていたの?とは聞かなかった、使えるような環境だったら推奨年齢はもう少し上がっているだろう。

 

「仕方ないじゃない・・・・ここじゃ実際に命を削るんだから、対人戦は・・・・」

 

「言わんとしてることは分かるけど・・・・」

 

「逃げるに逃げられない状況とかになったら、嫌でも剣を抜かなくちゃいけないぞ?今のうちに折り合い付けておいた方が良い」

 

 珍しく、オウルにしては辛口な気がした。

 よく妥協や逃げ道を用意していたが対人戦に関しては譲る気はない様だ、確かに私達は半ば無理に彼について来たし、彼の行動方針に異を唱える気はないが・・・・・・。

 

「―――――近い内にまたPOH達が動く、ってこと?」

 

「・・・・・・詳しいことはアルゴが居る時に話すが、無きにしも非ずだな」

 

 無きにしも非ず?

 状況証拠だけで判断はしかねるということだろうか?

 オウルの真意を測りかねながら目の前の焚火と軽食を眺める、昼食はあまり食べていないので、夕食前だがついつい目が引き寄せられる。

 この世界はダイエットなど考えなくとも良い、おいしい物は食べたいときに食べられる。女子として危ない考えかもしれないが、必要のないダイエット行為で態々神経をすり減らす気にはなれなかった。

 

「しかしまぁ、アレだな。適当にストレージ漁ったら意外と出てくるもんだな食材」

 

 中々イロモノも多いが、と続けながらオウルが差し出した芋を受け取る。地元でもよく食べたホクホクで黄金色のサツマイモだ。

 

「イロモノ?このサツマイモのこと?ただの芋にしか見えないけど・・・」

 

「オウル、これ落としたのって確か――――」

 

「うん、四層迷宮区の半魚人」

 

「・・・・・・何で半魚人がサツマイモ持ってんのよ」

 

「さあ?郷土愛じゃね?」

 

 郷土愛?どういう事だ、まさか鹿児島に魚人伝説でもあったのか?

 取り敢えず食べ物に罪は無いので黙々と食べる、うん、普通に美味しい。これが魚人の肉だったら食べ掛けであろうとオウルの口の中に押し込むところだが、その必要は無さそうだ。同じように芋を頬張りながら私の疑問にオウルが答える。

 

「確かに鹿児島には磯姫っつー妖怪がいるって話があるけど、俺が言いたかったのはアステカ、もっと昔の原産地の方だよ」

 

「アステカ?中南米の・・・・」

 

「アステカ神話ではね、人類は三回目か四回目位に魚に変えられてるんだって」

 

 今度はユウキが口いっぱいに芋を頬張りながら答えた。仮想世界では熱さはほぼほぼ感じないため湯気が出る程の芋を口に押し込んでも火傷などしない、がリスの様に頬を膨らまし、湯気を出しながら喋るのはどうなのか。

 そう言えばこの二人はリアルでも繋がりがあるのだった、だったら知識を共有していてもおかしくない。

 正直ユウキが神話に興味がある正確には見えないし。

 

「じゃあ、もし肉がドロップしてたらカニバリズム・・・・」

 

「アスナ深く考えんなよ、ここはゲームだぜ?クール―病とか無いよ」

 

「それでも嫌なものは嫌よ・・・・」

 

「じゃあ、なんかいい食材あるの?」

 

 オウルが芋を片手にアスナに尋ねる、そう言われてアスナは黙ってしまう、この芋はB級食材と中々レア物らしい。

 いくら料理スキルを鍛えていても料理する食材が無いのでは話にならないのだろう、ていうかフィリアはまだしも、効率主義なのに料理スキルを持っているとは。

 

「二層の時みたいに変なもの食べさせられちゃたまらないからね」

 

「ちゃうんや・・・・わざとやないんや・・・・」

 

「ねぇ、シノン?二層で何があったの?」

 

 項垂れながらエセ関西弁で嘆くオウルを横目にフィリアが尋ねる、あぁ、そういえばフィリアが入ったのは三層からだった。食事を中断し、会話に混ざっていく。

 

「いつも通りオウルが社会的地位を失いかけたのよ」

 

「え?俺いつもそんな事してた?」

 

「四層のボス戦、閣下を連れてきたせいで攻略組ほとんど役立たずで終わったじゃない、結果的に良かったとはいえ皆ドン引きしてたわよ」

 

 そう、今私達がこの五層にいるのはヨフィリス閣下が無双してくれたからに他ならない。ボスが水を出せば水面を走り切り刻み、水が引けば神速の踏み込みで貫き、最終的にはアスナにLAボーナスを譲った。

 攻略組はもう何が何やらと混乱していた、ついでに活躍の場を全て掻っ攫った原因はオウルにあるとされた。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・あなたが悪くないことは知ってるから、何か言ったら」

 

「良かれと思って!」

 

「アレ?何か全部確信犯でやってる気がしてきたぞ・・・・」

 

 かつてない程オウルが目をキラキラさせて、ユウキが訝しんでいる。

 今更だけどオウルもキャラ安定しなさすぎではないか?

 

「それよりも、芋もう無いのか?まだ食い足りないんだけど・・・・」

 

「うーん・・・・駄目だね、城ではずっと食堂で食べてたから補給とかしてないよ」

 

 ストレージを弄りながらフィリアが答えた通り、私達は防衛戦の後すぐにボス戦に突入したのでほとんどアイテムが無い。これでも閣下が代わりに戦ってくれたから消耗は少ない方なのだが。

 

「ねぇ、オウル君?そろそろ主街区に向かわない?圏外の村とかじゃ碌に補給も出来ないよ」

 

「そうだなぁ・・・・食い足りないけど、そろそろ行くか」

 

 言いながら立ち上がり、焚火を散らそうとすると――――――

 

「あ、待った。いい食材が一つあったよ」

 

「ダニィ!?でかしたユウキ!」

 

 ―――ユウキが待ったをかけた。そしてストレージを素早く操り出したのは、

 

「はい、召し上がれ♡」

 

「―――――――え?」

 

 三十センチはある白い芋虫だった。

 

「―――ッ!?!?!?」

 

「ちょ!ちょっと待って!?イヤホントちょっと待って!??」

 

 アスナは無言で引きつり、フィリアは待ってばかり連呼して全く要領得ない。

 よく見たらうねうねしている、生きてる、めっちゃ生きてる。私はどちらかと言えば田舎の方に住んでいた為、女子にしては虫などは慣れている方だと思うが、正直これはキツイ。無言で抜剣し、距離を取る。

 

「ユウキ!?あんたいつそんなの手に入れたの!?」

 

「二層で蜂狩りした時の戦利品」

 

「あー、ありましたねぇそんな懐かしい日常!!じゃあハチノコかよ、それ!?」

 

 未だにうねり続ける恐らく《ウインド・ワプス》の幼虫。

 え?じゃあ何?今の今までユウキはあれをストレージの中に突っ込んで行動していたの?オウルばかりに目が行っていたが、ユウキもユウキでぶっ飛んでいる、いや才能とか別で。

 そしてユウキは模擬戦の報復と言わんばかりにズイッとオウルにハチノコを差し出す。

 

「いや~ユウキさん折角ですが、やっぱり辞退させて・・・・ちょ、おい、やめろよ~近づけんなよ~、おい、ホント、やめッ―――HA☆NA☆SE!!」

 

 退くオウルより早く詰め寄り、馬乗りになってオウルの口に近づける。

 そのまま無駄の無い 無駄に洗練された 無駄な攻防が繰り広げられる。

 

「ダイジョーブ、毒はないしA級食材だよ?」

 

「ビジュアル的に無理!!」

 

「ドロップ率1パーセント以下のレア物だよ?」

 

「お前が食えよ!?」

 

「女性として無理かなーって」

 

「ほざけ!貧にゅ――――モゴゴッガ!?!?」

 

 ・・・・・・・・・・・・取り敢えず、私達が出発したのはもう少し後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――伊勢海老だったわ」

 

「――――――――マジで!?」

 

 その後、《カルルイン》なる五層の主街区でアルゴさんと合流し情報交換を行う、でもまず最初に行う情報交換がソレなのか、それに驚きのあまり素の口調になってるし。因みにユウキとアスナとフィリアはオウルの強い勧めにより地下墓地にクエストを消化しに行った・・・・・・・絶対に良からぬことを企んでいる。

 

 

「あぁ、味はもちろん食感に至るまで完全に伊勢海老だった、どうだアルゴこの情報?結構いい値段するんじゃないか」

 

 いや伊勢海老だと分かっていても三十センチは下らないハチノコの情報なんて―――――――

 

「分かったヨ、三万くらいでいいカ?」

 

 ―――――売れるの!?しかもオウルが昔装備してた剣並の値段で!?

 

「だってなぁ、こんな下層で、しかもゲテモノだって多いのに伊勢海老だぜ?」

 

「うんうん、日本人は生粋のグルメだからナ、欲しがる奴はゴマンといると思うゾ」

 

「・・・・・私はゲームでも食べられない」

 

 現実世界のハチノコでも食べられない、炒めてあっても無理である。

 というか美味しかったのならオウルはユウキの事を許したのだろうか?

 

「フフフフフ・・・・・さあ?どうしようかな?もしかしたらもう、良からぬことを企んでるかもよ?」

 

 凄むな凄むな、気持ちはわかるけど年下の妹分相手に本気で報復しようとするな。

 この分ではオウルの強い勧めでクエストにいった三人が心配である・・・・・・・今更だが完全にフィリアとアスナは巻き添えではないか?

 

「いつ見てもこのパーティーは飽きないナ」

 

「そう言えばアルゴさん?ユウキを魔改造したことについて―――――」

 

「おおっと!そういやシノのんにはネズハの時の借りがあったな!何でも聞いてくれ!」

 

 露骨に逸らされた、彼女も少し反省してるのかもしれない。

 

「――――今は見逃します」

 

「」

 

 だが許すかどうかとは別である。

 

「残当、それより着いたぞ」

 

 迷路の様な裏路地を右へ左へくねくねと進みながら着いたのは、奇麗に舗装などはされているが遺跡の様なレストランだった。まるで岩の壁を掘ったかの様だ、現に横には向こう側が見えない程高い壁がある。

 

「おお、中々の慧眼だなシノン」

 

「どうゆうこと?」

 

 入れば分かる、とはぐらかしながら店に入る。本日のおすすめが書かれたメニュー看板も碌に見ないのはもう頼むものが決まっているからだろうか?

 

「シノのん、ここでは何があっても走っちゃだめだゾ」

 

「アルゴさんまで・・・・」

 

 先を行くオウルは鋳鉄のリングが付いた扉を一気に開ける、瞬間冷たい夜風が体を包み込んだ。

 

「寒ッ!?何?冷房ききすぎじゃない!?」

 

「SAOに冷暖房設備なんてあるわけないだろ、見てみ」

 

 言われて扉の先を見てみると、遺構を残したまま木材で修復し、おしゃれなカントリースタイルとなっている、がそれ以上に石造りテラスの先が異常だった。

 

「・・・・・これ、落ちたらどうなるの?」

 

「死ぬよ、勿論」

 

「ベータでは慌てた奴は何人も落っこちたナァ」

 

 寒いわけだ・・・・目の前には濃紺の夜空が広がっている。今までは気にしていなかったが今の季節は冬だ、SAOでは対して気にならないが普通だったらこんな所では寒すぎて食事なんてする気にならないだろう。

 

「BLINK&BRINK、瞬きと崖っぷち。この店はアインクラッドの端を少しだけ補填工事して出してんだとさ」

 

「じゃあ、店の横にあった遺構みたいな壁は・・・」

 

「多分、この浮遊城の壁だろうナ」

 

 そう言えばここは一応城の中なんだっけ、色々あったからそんな基本的な設定まで忘れてしまっていた。下の雲を少し眺め、今度は天蓋ではない本物の―――――いや、この夜空もある意味造り物だが、久々に外の空を見上げる。そこまで詳しい訳ではないが、現実の夜空と違い星座の類は見当たらない。

 

「まぁ、此処の名物は三人が来てからにしてだ」

 

 コート・オブ・ミッドナイトを椅子に掛け、剣も横に立てかけてオウルは椅子に座りウェイトレスに珈琲を頼む、メニューを見ても名物がどれか分からないし、数時間前に食べたばかりなので、今は私も珈琲だけにしておいた。

 

「んでサ、話って何だヨ?まさかハチノコだけじゃ無いだロ?」

 

 単刀直入、座るや否やアルゴさんは切り出した。

 オウルがアルゴさんを呼ぶということは、それなりに重要な話があるのだと思われるが・・・・・・

 

「アルゴは・・・・覚えてないな、その様子じゃ」

 

「覚えてない?ベータの時の事カ?」

 

 うーーーン、と頤に指を当て考えるが思い出せない様だ、何だろう?この五層で何かあるのだろうか。考えるにこの『五層』が問題点なのであってプレイヤーが主題では無い、とすれば―――――――

 

「―――――アイテム・・・・とか?」

 

 情報屋のアルゴさんが忘れている、となればクエストは除外しても良いだろう。まさか五層が開通してからガイドブックを作成しているとは思えないし、ボスの情報も忘れているとは、これまでの活躍から考えるにあり得ない。

 

「正解だ、シノン」

 

 オウルは然程意外そうでも無かった、私が当てることを予期していたのだろうか。あの三人では無く、私を付き添いになる様に仕組んだのも・・・・・流石に考えすぎだと思ったが、それこそ考えてみれば私は彼の何を知っているというのだろうか。今までの行動から彼は、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()活躍していた。判断材料があったとはいえ、私より視野が広いのは確かだろう。

 

「正式名称は忘れたけど、ここのボスはギルドを超強化する旗みたいな槍をドロップするんだ、因みにLAボーナスでは無い」

 

「マジかヨ・・・・・・その強化ってどの位ダ?」

 

「確か、半径十か十五メートル位の同じギルドメンバーの各種能力を上げる。地面にその旗をつけてる限り制限はない。地面から離しても、もう一回地面につければ同じ効果が出る」

 

「・・・・ねぇ、聞いてる限りじゃ悪いことじゃないと思うんだけど?」

 

「そうだナ、ディアベルのギルドがそれを手に入れれば・・・・アッ」

 

「そう、問題はそこなんだよ」

 

 問題?ディアベルのギルドの何がいけないのだろう?

 

「今の攻略組の人数は四十数人だが()()()()()()()()()()()()()()()()()」」

 

「あ・・・・」

 

 そうか、言われてみればそうだ。

 LAボーナスならまだしも、普通にドロップするのであれば確率は半分以下だ。どっかの誰かさんが活躍しまくってるのであっちは思うように人が集まらず、色々歯がゆい思いをしていることだろう。

 しかしそれでも―――――

 

「別にいいんじゃないカ?譲ってもらうってのは希望観測だけド・・・・・ディアベルのギルド意外にドロップしたっテ?」

 

「そうね、惜しくはあるけどそこまで悩むことじゃ――――」

 

「――――攻略組にPOHの手先が居る」

 

「あーーー・・・成程ナ、考えすぎ・・・・とは言えないナ」

 どういう事だ?

 今度はアルゴさんの方が理解が速かった様だ、私には言わんとしてることが察せない。単純にそのスパイに旗が手に渡るのが不味いだけでは無いのか?

 

「勿論それが一番危惧してることだ・・・・・・でもな、組織力ってのは結構馬鹿にならないんだ。人がたくさんいるってだけでもスパイにとっちゃかなりの制限になる、単純に人目が多けりゃそれだけ隠密は難しい」

 

「だからもしダ?今の攻略組にはディアベルのギルド以外にでかい組織は無い、でも今回のアイテムで何処かがギルドを造ったとしよう、だがすぐには人は集まらないだろうナァ・・・・今のSAOじゃギルドマスターはただ強ければいいってもんじゃなイ、最低限でもディアベルの様なカリスマと指揮力が要ル」

 

「・・・・・・新しくギルドが出来る前に殺されて、奪われる?」

 

 そうなれば確かに厄介だ。黒ポンチョの連中は私達と違いボス戦に積極的には参加できないためスキル及びステータスでアドバンテージがある。それが無くなれば奴らはもっと大胆に殺しにかかるかもしれない。

 まだ予測に過ぎないが、実現する可能性はドロップ率だけで言えば五分以上。

 

「・・・・・はっきり言って、それだけならまだいいさ、問題は『スパイがギルドマスター、もしくはそれに近くになる事』だ」

 

「よーするに、今後のギルド同士の会議とかで発言力が生まれる事だナ」

 

「・・・・!」

 

 確かにそれは困るだろう、いや困るなんてレベルでは無いが。

 まず間違いなく私達は目をつけられている上、攻略組の中での発言力は残念ながら皆無に等しい。集団行動を求められる中で良くも悪くも逸脱しているのだ。そんな中、黒ポンチョの手先に今後の攻略を左右する立場になれば何が起きてもおかしくない。ディアベルのギルドと新しくできるかもしれないギルド、両方に裏切者がいれば、ギルド間の抗争も・・・・・・・。

 

「兎も角、まず間違いなく、POHの手先は俺たちの妨害と自分たちの勢力拡大を図るだろうな」

 

「でも、そもそも旗の事を知ってるの?」

 

「俺が森で戦ったプレイヤー、モルテは多分テスターだ。可能性は十分ある、旗は一度ギルド登録すればもう変えることは出来ない。現状ディアベルのギルドにドロップする確率は半分以下、だから確実に旗を手に入れるには信頼できるメンバーだけでここのフロアボスを倒さなきゃいけない」

 

 正直、そんな厄ネタいらないんだけどなぁ、とオウルは続けた。確かにこれ以上逸脱するのは私達としても本分ではない。飽く迄効率的かつ見知った仲間と居れさえすれば、私自身は攻略にそこまで拘ってはいない。少なくとも黒ポンチョ達の事が無ければ、オウルだってここまで強くなろうとはしなかったのではないか?

 兎も角、何も起きないと思うのは楽観的過ぎるか。

 流石に何もかも相手の思うように上手くいくとは思えないが、今の話の『勢力拡大』か『スパイの昇進』、どちらかは出来そうな気もする。ウェイターが運んで来た珈琲は暖かかったが、緊張はまるでほぐれてくれない。

 

 

 

 

 




小説書きたいけど、自分で書くのは少しメンドイ(支離滅裂な思考・発言)

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