原作と違いすぎてどうすればいいのかわからない   作:七黒八白

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前回のあらすじ

 シノン「言うほどのんびりできてない件について」

 オウル「人の夢と書いて儚い」

分かってたはずなのに結構察しのいい人達が居て感想欄を見てビビった。
感想ありがとうございます、本当に励みになります。


第十六話 意味が無ければ 動けない

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 もうそろそろ何番煎じだよって突っ込まれそうだなぁ、ガレージのベンチに腰掛けて夕食のカニグラタンを食いながらLV19になった白髪片手剣士、俺ことオウルは思った。ちなみに隣でシノンはボンゴレパスタらしきものを食べている、猫っぽいのに貝食ってるのは少し複雑だ・・・・。

 今から少し前に、シノンと熊ならぬKUMAを相手して見事最上級の素材を集めてロモロと言う船を造ってくれる爺さんの元に持って来たのだが・・・・・・

 

「アドベンチャー・ギャリー号!!」

 

 とフィリア、確かキャプテンキッドの船の名前だ。

 

「ティルネル号!!」

 

 とアスナ、確かキズメルの亡くなった妹の名前だ。ていうかアスナ同性とは仲良くなるの早くね?俺の事は未だに警戒してるのに。

 

「ゴーイングメリー号!!」

 

 とユウキ、元ネタ?言うまでも無い。でもその名は最終的に別れることになるよね?あのシーンは未だに忘れられない・・・・

 

「・・・・何で涙目になってんの?」

 

「気にするな・・・それよりシノンはなんか無いのか、船名?」

 

「無い訳じゃないけど、争う位ならいいわ」

 

 まぁ、争いって言っても他愛のない物だがこのままずっと続くのだろうか。メンドクサイな、夕食もう一品買ってこようかな?俺もボンゴレパスタ食いたい。

 

「「「オウル(君)はどれがいいと思う!?」」」」

 

 何でそこだけ息ピッタリなんだよ、今まで仲良かったのに何で船名だけでそこまで白熱すんだよ。口いっぱいにグラタンを含めながら辟易する、シノンは我関せずといった態度だ。この中で一番大人びている、アスナが最年長のはずだが。

 

「何でもいいよ、よっぽど変じゃ無ければ」

 

「何でもってなに!?」

 

 ヒステリックみたいな叫び方しないでくれ、最初期のアスナってここまで性格きつかったっけ?キリトの様に仲良くできる気がしない。

 

「ありったけの()かき集めるって約束したじゃん!」

 

 してねぇよ、それは未来の海賊王にでも頼めよフィリア、ひとつなぎの大秘宝でも何でも手に入れて来いよ。でも悪魔の実だけくれ、ロギア系な。

 

「しっかりしてよオウル!大海原に漕ぎ出すんだからいい名前考えようよ!!」

 

 いや、お前らがしっかりしろ、特にフィリアとユウキ。ワンピネタ好きだな、あとここは海じゃなくて湖だからな?

 

「えー?じゃあ、エスポワール号」

 

 咄嗟に出たのはギャンブルで破滅した奴が乗りそうな船の名、別に誰もギャンブルしてないけど。

 

「果てしなく不吉ですけど!?」

 

「エスポワールって、フランス語で希望って意味よね?悪くはないと思うけど・・・・」

 

「ざわざわ・・・ざわざわ・・・」

 

 フィリアはネタを知っていたためツッコんでくれたがどうやらアスナは知らないようだ。この船名にしたら面白いかもしれない.

 あとユウキ、キャラ崩壊も甚だしいぞ?ていうか何処で知った?お前そういうネタあんま詳しくなかったよな?

 

「アルゴさんから」

 

「アイツとはちょっと色々話さないと駄目そうだな・・・」

 

 まさかのアルゴ、いやまさかと言うほど意外でも無かったな。

 閑話休題(まぁそれはそれとして)、結局船名どうしよう?三人はまとまりないし、俺はまるで考えて無かったし・・・・やっぱエスポワール号は無いわ。なので、

 

「シノン!君に決めた!」

 

「あんたの顔面に『きあいパンチ』叩き込めばいいの?」

 

 なつき度ゼロどころかマイナス。

 なかなかキレがある返しだな、だがそうではない。その構えを解くんだ、そんな事の為に護身術を教えたのではない。

 

「そうじゃなくってさ、船名だよ。三人は決められないからシノンの名前を採用する、俺に決定権があるならだが」

 

「・・・そうね、昔読んだ本にノーチラスとかあったけどアレ確か最後は沈んだ気がするし・・・ティルネルでいいんじゃない?」

 

 それ確かフランスの小説だぞ?子供の頃からそんなの読んでたのか?博識だなシノン、でもノーチラスは潜水艦だ。沈んだというのも持ち主の遺言で棺桶代わりに一緒に沈められたというのが正しい、まぁそれは置いといて。

 

「じゃあ、ティルネルで」

 

 無難に原作通りにしておくか、実を言うとゴーイングメリー号は捨てがたかったが。

 

「えー?サウザンドサニー号がいい」

 

「変わってるじゃねぇか」

 

 でもワンピからは離れないのか、言いながら船のネーム欄に『tilnel』と打ち込む。多分これで間違って無いだろう。

 

「よし!乗り込め、これから早速新しいクエストに行くぞ!」

 

「何のクエスト?」

 

 ロモロ爺さんが言うには船が造れなくなったのは何かわけがあるらしく、詳しい理由は教えてくれなかったが何でも木箱を乗せた大型船をスニーキングしろとのことなのでこれからその大型船を待ち伏せするため一度街の外に出る。

 

「だからまだクエスト終了のウインドウが出なかったのね」

 

「オウルは何か知らないの?」

 

 アスナが納得したといった感じで頷き、シノンが聞いてくるが残念ながら俺も知らない。このクエスト自体ベータの時は無かったのだから、そして細かいところは俺の原作知識は当てにならなくなりつつある。

 フィリアに出会ってからはあまり当てにしない様にしているが、モルテとの戦いでPOHが乱入してきたし。

 

「POHか・・・そいつ今どうしてるのかな?」

 

「さぁな、俺を攻撃したからオレンジになったが・・・ナーザの件があるから元々《圏内》には立ち寄ってないはずだ」

 

 残念ながら抑止としては弱い、モルテとジョーとかいうプレイヤーが手足となって動くだろうから今のアイツにはほぼ枷なんてないに等しい。

 しかしどうやってあんな奴らを手なずけたのだろう?洗脳とかできるはずがないしアイツの話術はそこまで巧みなのだろうか。

 

「ディアベルさんには言ったの?」

 

「言ってない、多分ギルメンの中にもスパイがいる・・・アスナも気を付けろよ」

 

 あえてジョーとは言わない。先入観は出来るだけ与えたくないし、ジョーだけとは限らないからだ。キバオウは多分大丈夫だろうが.。

 

「なんでキバオウは大丈夫なの?」

 

「俺がPOHならあんな悪目立ちする奴は仲間にしたくない」

 

「あー・・・確かに」

 

 苦笑しながらフィリアが賛同する。

 あのギルドの中でも年長だからか酸いも甘いも噛み分ける大人の一面を感じさせるところもあったのでPOHの甘言にそう簡単に乗りはしないだろう。出来る事ならそのまま英雄王まで超進化して欲しいが、今のままでは下ネタ好きの音楽家以下だろう。ワイのケツを舐めろ!とか言い出さないだろうな、そんな言い出せば多分コイツらは暗殺しにかかる。

 そんな事を考えながら待っていると目当ての大型船が《ロービア》から出ていくのが見えた。

 

「アレだな・・・」

 

「これさ、バレたらどうなるの?」

 

「あのお爺さんの言ってた感じだと戦闘でしょうね」

 

「オウル、絶対見つからないでね」

 

 シノンがフィリアの疑問を答えてユウキが念を押してくる。まぁ多分大丈夫だろう、もう夜の八時だが暗視ボーナスと船の大きさから尾行は然程難しくない。問題はmobとの戦いだ。

 

「俺は船の操縦で手が離せないから戦闘はお前たち任せだ、頼むぞ」

 

「任せて、そっちこそ船を転覆させないでよ」

 

 そう言うがアスナさんよ、これ結構難しいからな?ていうか俺任せなのね。今更ながら貧乏くじを引かされた。最初のほうは新鮮味があって楽しかったが今ではもう単調な作業に飽きてきている。明日は誰か変わってくれないだろうか、日差しを浴びながら昼寝したい。

 

「・・・・明日は私が変わってあげるよ」

 

「すまんなフィリア、主街区に戻ったらパニーニっぽいの奢るから」

 

「九個でいい」

 

「お前じゃねぇよユウキ」

 

 お前いつの間にそこまでアルゴに教え込まれたんだ?いや、それよりお前いいの?そんなネタキャラ路線で?悲惨だよ最近のネタキャラに走ったヒロインの末路は。某何でも屋のチャイナ娘を知らんのか、実写でもゲロッてたよ?頼むからお前はああなるなよ?

 

「バカやってないで集中しなさい」

 

「「へーい」」

 

 完全におかんポジションに嵌ったシノンに窘められ擦れた悪ガキのような返事をする、ユウキが頭上がらないわけだ。シノンから逆らえない空気を肌で感じながら船を操る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらオウル、大佐、聞こえるか?潜入に成功した」

 

「何やってんのよ」

 

 あの後船を進め続けたら洞窟に入ったので《索敵》と《隠蔽》を持っている奴と俺のペアでスニーキングすることになった。

 アスナは持っていないので除外、ユウキは隠蔽が無いので除外、残るところシノンとフィリアになったが十数回に及ぶジャンケンのあいこの末シノンが勝った。

 そんなにしたかったのかスニーキング、将来が不安である。主にお前らに好意を向けられた男が。SAOのヒロインって妙にヤンデレがマッチすると思うのは俺だけではないはず。

 

「あんたが馬鹿やらかさないか不安だっただけよ(なんか失礼な事考えてるわね・・・)」

 

「失敬な、やる時はやるさ」

 

「今さっきふざけてた奴がそれを言うの?」

 

 水浸しの体を拭きながらジト目でコチラを睨む。船は表の三人に任せてきたので泳いできた、幸い大型の船だったのですぐ近くを張り付いてもバレることはなかった。本来ならば水も滴るいい女に見とれるところかも知れないがここは敵の本拠地(かも知れない場所)そんな愚を犯せば武蔵さんが化けて出て来て殺しに来る。

 

「行くぞ、投剣に意識攪乱のボーナスがあるから俺が先行する。後をすぐに着いて来い」

 

「わかった」

 

 短く返事をし、周囲と武器の確認をする冷静さはこちらも落ち着ける頼もしさがある。

 こういった斥候役に一番適正があるのかもしれない、四人の中で一番強いのは恐らくユウキだろうがシノンも何か感じさせる強さがある。今はそれを上手く形容できないがいつか開花する所を見てみたいものだ。

 そんな事を考えながらも神経を張り詰めて水没した洞窟ダンジョンを進む、それらしい言い方をするなら『海賊が宝を隠した洞窟』と言った感じだ。周りに錆びついたドアがあるが下手に開けて敵に知れたらたまったものでは無いので今はスルー。

 進んでる内にエルフと水運ギルドの商人が何やら怪しげな取引をしているところを発見。後ろからは誰も迫って来ていない、アポトキシン何とかという薬を飲まされる心配はない。

 

「アレって・・・・エルフよね?何でこんなところに」

 

「さぁな・・・嫌悪してるはずの人間の力を借りるなら相応の理由があるだろうが・・・」

 

 大きな木箱をフォールンエルフがせっせと運んでいく、三層ではシノン達が合流した後戦った事もあるがあの時はキズメルが居たし、今は戦う事が目的では無い。

 ギルドの商人達が船で帰ってくのを見送り、エルフが一通り木箱を運んだのを計らって俺たちも扉の向こう側へ行く。

 

「・・・このまま後をつけるの?」

 

「あぁ、アイツらうるさいしバレないだろ」

 

 このまま後を付けて箱の中身を確認すればいい、それでクエストは達成・・・・のはず。

 

「はずって・・・・」

 

「しょうがないだろ、俺もこのクエストは初めてだ。というかフォールンエルフが居ること自体ベータの時と違う、そもそもあいつらはここに出ないはずだった」

 

 囁き声で会話しながら尾行、そして木箱を一旦端に集めて両開きのデカい扉の向こう側に消えていった。何やら擦ったり、削ったり、ノコギリの様な音が聞こえる。

 

「何やってるのかしら・・・」

 

「この箱の中身を見ればわかるだろ、かなりの大金を貰ってたし」

 

 言いつつ木箱の中身を覗いてみるが・・・・

 

「「・・・・?」」

 

 何も無い、え?マジか、コレでクエスト達成なの?しかしクエストログは何の変化も無い。どうすればいいのだろうシノンに意見を仰いでみるか、と考えた瞬間。

 

「・・・!?ヤバイこっち来る・・・!」

 

「えっ、どうするの!?」

 

 驚きながらも大声は上げないその精神は感嘆したくなるがそんな場合では無い、此方にガシャガシャと鎧を着た者の足音が近づいている。木箱の陰に・・・・いや無理だ、エルフは総じて気配に敏感だ。隠蔽でも陰に隠れた位ならすぐに看破する。なら残された手段は_________

 

「箱に隠れろ!隠蔽は忘れんなよ!」

 

 言いながら木箱の蓋を素早くずらし中に滑り込む、俺の身長は175㎝、しかも剣を背負っているのでかなり狭いがそれでも胡坐をかく態勢ならば余裕がある、代わりに身動きは取れないが状況的には見つからなければデメリット足りえない。

 

「ちょっと、もう少し端によって!」

 

「!!??」

 

 でもお前が入ってくるのは予想外だったよ、シノン。

 

「何故に同じ箱に入ってくる!?」

 

「だって・・・その、心細かったし・・・」

 

 若干拗ねたように上目遣いでこっちを見る。

 こ う か は ば つ ぐ ん だ !

 どうやら土壇場でどうすればいいのか咄嗟に判断できなかったようだ。それはそうだろう、SAOでは常に命が掛かっているのだ。何も動じずいきなり行動に移せる俺は自分で言うのもおかしな話だが少数派だろう。

 

「動くなよ、隠蔽が解ける。見つかったらクエストは諦めて一目散に逃げるぞ」

 

「うん・・・」

 

 しかしこの態勢はあまりよろしくないな、俺の胡坐の上にシノンがしゃがんでる様な体勢。顔の近さは10㎝以下だろうか、女子特有のなんかいい香りが漂ってくる。茅場ァ!!どこにリアル追及してんだ!でもありがとう!!

 シノンの吐息を鼻の辺りで感じる。あまりにも照れくさいので木箱の隙間から外を見ようと試みる様に顔を逸らす。べっ、別に恥ずかしいわけじゃないだからね!・・・・キメェな、死にたくなった。

 

「・・・・・顔、紅いわよ」

 

 しかも赤面になってるのバレてるし、索敵の暗視ボーナスがありこれだけ近ければそりゃあそうなるか。思いっきり叫んでエルフに八つ当たりしたい衝動に駆られるが。

 

「ノルツァー閣下、予定通り材料は集まりました」

 

「ご苦労、では五日には出れるのだな?」

 

「勿論でございます」

 

 と何やら重要そうな話が聞こえてきた、いや俺の八つ当たりの衝動を消し飛ばしたのはそこではない。ノルツァーなるエルフのカーソルだ。今まで見てきたどのカーソルよりも赤い、というか最早黒だ。四層の安全と言えるレベルは12程だろう。それより高い、下手すればSAOで一番高いかもしれない俺でも絶対に、勝てない。

 

 

 ________見つかったら間違いなく、死ぬ。

 

 

 この時の俺の思考は間違いなくシノンと同じだったろう。アレだけ黒ければ逃げる事すら難しい、無理矢理うるさい心臓の鼓動(恐らくナーヴギアの機能によるものだが)を鎮める。俺が死ぬだけならまだしもここにはシノンも居るのだ。

 

「ハッ・・・・ハァ・・・!」

 

「落ち着け・・・大丈夫だ・・・!」

 

 ここに来て分かり易い絶望(死線)を目の当たりにしたためかシノンは過呼吸気味になってる、ボス戦の時とは違い予め覚悟が出来てなかったからだろう。まずいな、咽たりしようものなら間違いなく見つかる。

 

「許せよ、シノン」

 

「!?・・・・・・・」

 

 セクハラ覚悟で胸、俺の心臓の辺りにシノンの顔を押し当て鼓動を聞かせる。過呼吸はパニックによって起こるもの、ならば落ち着かせればいい。ハグされると人はストレスが軽減されると聞いたし、心臓の鼓動も母体の頃の記憶か本能かリラクゼーションの効果があるらしい。

 

「・・・・・ハ・・・ァ」

 

 意外な位効果があったようだ、シノンはそのまま溶けるかのような吐息をした後一気に脱力した。取り敢えず一難は去ったか。

 

「しかし・・・・滑稽なことだな、我らはエルフにあってエルフに非ず・・・にも拘らずこうして禁忌に縛られている」

 

 俺達が入っている箱とは別の箱を撫でながらノルツァーは言う、禁忌?生木を切り倒せないというエルフの誓いの事だろうか?これは自然と共に生きるエルフの自然への礼儀の様な物で破ることは出来ないらしい、分かり易い例えで言うならケルト神話でよく出てくるゲッシュの誓いと思えばいい。

 しかしどうしてそれがここに出てくる?

 

「まぁ、言っても詮無きこと。エドゥー、必ず五日後までには・・・」

 

「分かっております、全ては我らの大願成就が為・・・」

 

 返事をしたエドゥーなる人物、いやエルフに視線を合わせると流石に閣下程カーソルは紅くなかった、アレならばいざという時は倒せるだろう。しかし注目するべきはforemanなる単語、職人頭?あのハンマーは工具か・・・・!

 

「そうか、分かったぞ・・・・」

 

 その単語に反応したわけではないだろうがクエストログが『しかるべき相手に伝えろ』と変化する。恐らくここで出来る事はもう無いだろう。

 

「行くぞ、シノン・・・・シノン?」

 

 何故か俺の胡坐の上のパーティーメンバーから返事がない、木箱の隙間から視線を移してみると。

 

「・・・スゥ・・・スゥ・・・」

 

 寝てた。見事な程穏やかに寝息を立てている。

 

「・・・担いだままここ出れるかな?」

 

 起こすという選択肢は、何故か思いつかなかった。

 

 

 

「・・・・一体何してたの?」

 

「いや・・・スニーキングミッションだけど?」

 

 シノンを担いだまま洞窟から出て(道中避けられそうにないエルフは後ろから羽交い絞めで首を麻痺毒ナイフで切り裂いた)船に戻ると寝てるシノンを肩から下げてる俺を見て何故かご立腹のアスナさん、怒りのツボが分からない。

 

「じゃあ何でシノンは寝てるのよ!」

 

「ちょっと色々あってな、俺よりシノンから聞けよ」

 

 どうせ俺からの言うことは信じないだろう、こめかみに青筋たてているアスナから視線を逸らし船を漕ぎ出す。フィリアとユウキは追及してこないところを考えるに俺はそこまで悪いことをしたとは思えないのだが・・・・・。

 

「オウル、アスナは初めから仲間外れにされたことでピリピリしてるんだよ」

 

「それにしたってあそこまで怒るか?シノンのは不可抗力だぞ?」

 

 未だに寝てるシノンをユウキに任せて、フィリアがこっそり教えてくれる。

 

「う~~~ん・・・・私は最近パーティーに加わったばっかりだから分からないけど、シノンのことがそれだけ心配だったんじゃ?」

 

 つまり俺の力不足でああなったのだと、アスナは怒ってるわけか?成程、それなら分かる。アスナの怒りも的外れでは無い、確かに俺の力不足ではあったし、やはりスニーキングミッションは単独で行うべきだった。

 

「まぁ、それはそれとしてこれからどうするの?」

 

「まずはフィールドボスの情報収集だな、その後攻略組で戦う」

 

 でないと恐らく『しかるべき相手に』伝えられない、もうそろそろアルゴのガイドブックがロモロ爺さんのクエストを広めている頃だろう。現在の時刻は22時、フィールドボスとの戦いに30分程度費やして、明日の9時に戦い始めるとしても十分に休息は取れる。

 

「・・・早めに起きてレベリングするかな」

 

 《ロービア》に向かいながら俺は呟く、仮想世界でも疲れは生じるが肉体的な疲れは無いせいかただでさえショートスリーパーの俺はめちゃ早起きである、白髪も相まってユウキには爺さん扱いされる始末である。

 そんな事を考えてるとフィールドボスの縄張りのカルデラ湖に着く、さてここからは思考を切り替えよう。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・んぁ?」

 

 真夜中、予約しておいた個室に風呂付の宿屋の一人部屋で目が覚めた。時間は午前五時、フィールドボスとの戦いは予定通り30分で終わり街には23時に戻り宿に着くなり俺は寝た。

 

「流石にシノン達が目覚めるには少し時間があるか・・・・」

 

 よろしい、ならばレベリングだ。

 頬を自分でバシンと叩き意識を完全に覚醒させる、試したいこともあるし。ストレージからポーションなどをオブジェクト化、必要な物を片っ端からポーチに突っ込み、いざという時の為に作っておいた(と言うには出来は子供の工作レベルだが)保険を確認しストレージにしまう。

 

「ボス戦でLV20に上がる位は経験値溜めとくか」

 

 そして全ての準備を終えて宿屋から出ると思いもしなかった先客がいた。

 

「・・・何してるの?」

 

「まだ何も、これからレベリングしようとしてた」

 

 シノンだ、お前もショートスリーパーなのか?季節もあって辺りは薄暗く霧がかかっている。

 

「少し早めに寝させてもらったからね・・・・」

 

 あぁ、気絶したままだったから早くに目が覚めたのか。

 

「どうする?お前もレベリングするか?」

 

「・・・・ちょっと話したいことがあるんだけど」

 

 話か・・・人とお喋りを楽しんだ経験は殆どない。シノンの相談事を解決出来る気はしないが・・・・

 

「・・・為になる様なことは期待しないでくれよ?」

 

「いいわよ、聞いてくれるだけで・・・」

 

 言いながら近くのベンチに腰を下ろした、朝早いせいか周りにはNPC以外誰もいない。攻略組の連中に騒がれる心配は無いだろう。

 

「話って、洞窟で気絶したことか?」

 

「それも関係無い訳じゃないけど・・・・あなたは何で戦うのか知りたくて」

 

「何のため・・・?」

 

 それは唐突な話だった。俺が戦う理由、罪悪感と・・・救済欲だろうか?

 なぜこんな話をシノンが降ってきたのかイマイチ意図が読めなく頭の中が疑問符で埋め尽くされる。そして少しずつシノンが話し出す。

 

「私ね、あんまり社交的な性格じゃなくってさ。幼い頃からずっと本を読んでばかりでね・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 今でも『幼い』が通じる年齢だと思うが、口にこそ出さないがそう思う。だがシノンが醸し出す雰囲気は確かに大人びているため、あまり違和感は感じなかった。

 

「空気が読めないというか・・・・よく周りと衝突したのよ、いたずらで上履き隠した男子を殴ったり、とか」

 

「それはその男子の自業自得だと思うが・・・・それで?」

 

「まぁ見事に孤立して、クラスの人間からは腫れもの扱い。清清するけどね、正直」

 

 これは私見だが、読書をする人間は総じて賢いと思う。本を通じて頭の中の語彙が増えるとその分思考が回り知能指数が上がる。現に痴呆の予防になるとか聞いたことがあるし。

 多分シノンは頭の良さから周りが馬鹿騒ぎしてることが理解できず、集団に馴染めなかったのだろう。子供の馬鹿騒ぎに意味などない、幼い子供は基本何も考えていない。本能のまま暴れ、時にその無邪気さから虐めなどを行う。

 虐められる側に原因がある場合などありはしない、ある場合はそれは虐めではなく喧嘩、咎める側の大人でもすることだ。

 大概の虐めは考えなしの無邪気で馬鹿なクソガキが暇つぶしにするものだ。そして殴った方は忘れ、殴られた側は何時までも忘れず、いつか報復に出る。そしてなぜこんな真似をしたと問われればこう答えるのだ。

 

 

 ________『自分で何とかしろって言われたから』

 

 

 誰も助けてくれなかったからそうしたのに。

 みんな見て見ぬふりしてたのに批判する時だけモラルを振りかざし善人ヅラでソイツを魔女裁判。

 虐め、それは人の弱さと悪癖から出る物なのに誰もがそれを理解せず、報復に出る者を狂人扱いする。本当の被害者は報復するまで傷ついた人なのに。それを理解せず、或いは見て見ぬふりで『学校』という場所は馬鹿の一つ覚えの様に性善説を敷く・・・・・・嗤える話だ。

 

「ついつい思っちゃうよな、どいつもこいつも無能だって」

 

「そこまで思わなかったけど・・・・まぁ、聖職者なんて嘘っぱちだとは思ったわ」

 

「でもその話が何の関係が?」

 

 ついつい自分哲学を語ってしまったが、ここからどう繋がるのか。

 

「・・・・私は、誰も頼らないことにした」

 

 その顔は十三歳の少女がしていい顔では無かった、強い、強すぎる決意が固まった顔だった。

 

「親族は兎も角、自分の事は自分で何とかしないと、って思った。誰も信じないって決めた」

 

「・・・・それで?」

 

「あなたとの、あの強盗事件が起きた」

 

 また唐突な、その時のことは今でも思い出せるが・・・・

 

「何か、わけ分かんなくなっちゃったわよ。他人を信じないって決めてたのに・・・・赤の他人に親子共々救われるなんて」

 

「一つの考え、答えで人生をやってけるとは思わない方がいい。善悪の価値観、秩序すら時代で変わるんだから」

 

 このデスゲームが最たる例だろう、ここの秩序は人の心に委ねられているのだから。最善にもなり得るし、最悪にもなり得る。

 

「・・・・私は、いつかあなたとのパーティーも解散するんだろうなって思っていた」

 

「助けられた理由を知れば俺と一緒にいる理由は無いから?」

 

「うん・・・・それで、何であなたは________」

 

「______ねえよ理由なんて、ただ居合わせたからだ」

 

 実際必死過ぎてあんまり考えて無いしな、というかあの時言ったろ。

 

「馬鹿が馬鹿やらかしただけだよ」

 

「・・・・・私の知ってる馬鹿はそんな勇敢な行動には出れなかったけど?」

 

「そいつらは馬鹿と言うより間抜けだよ」

 

 馬鹿は馬鹿なりに考えて行動するが、間抜けは何も考えて無いし、感じてない。

 だから人を傷つけることを躊躇わない。

 

「お前が何を感じて考えて、どう生きるかは自由だ」

 

「・・・・・・」

 

「でもまぁ、人なんて生き物例外の固まりみたいなもんだし。あんまり凝り固まった考え方はしない方がいいぞ、足元掬われたくなかったらな」

 

「・・・・あなたは戦う時、何も考えて無いの?」

 

「そういうわけじゃない、ただケースバイケースってだけだ」

 

 もっとも、方針はあるがな。

 何か結局説教みたいになったな、為になる事は言えないとか言ってたのに。

 

「・・・・・・もう明るくなってきたな、レベリングは辞めだ」

 

「そうね・・・ねえ」

 

「ん?なんぞ?」

 

 宿に戻り、食事をとろうとしてた所を呼び止められる。

 

「これからもよろしくね、オウル」

 

「・・・?あぁ、こちらこそよろしく」

 

 何だそれだけか?態々言うことでも無かろうに。

 朝日を背に俺とシノンは一旦宿に戻り、皆と食事をとった。

 ボス戦はもうすぐだ。

 

 

 

 




遅くなり申し訳ありません。
遅れた理由は忙しかったことや体調を崩した事などありますが、エタらせるつもり無いので恐る恐る投稿しました。

まだ忙しい時期が続きそうなので文字数減らしてもいいですかね?
もっと時間が欲しい。

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