オウル「俺自身が抑止力となる事だ」
アルゴ「カッコつけんなヨ、馬鹿に見えるゾ」
このあらすじに拘る必要はない気がしながらも、投稿。
正しさとはなんだろう。
SAOに来てそろそろ一ヶ月、青白い月光を夜の森から見ながらそんなことを考えていた。
今俺は《翡翠の秘鍵》の潜入クエストを進行させている、隣にはフィリアもキズメルも居ない。今回のクエストは森エルフの大型キャンプ地から指令所をくすねる事が目的である。このクエストの大まかなクリア方法は二つ、一つは森エルフの皆殺し。ベータの時はこちらがよく使われていた方法だ、何故なら森エルフの経験値効率が良かったため大抵のプレイヤーは真正面から戦いを仕掛けに行った、だが今の俺ははっきり言ってそんな気分ではないのでもう一つの方法、恐らくこっちが正攻法の《潜入》をすることにした、無論囮役など居ないので完全に単独でだ。
デスゲームでこんなリスキーな真似をするのは褒められたことではないがNPCと言えどキズメルの様な存在を改めて確認すると皆殺しは気が引けるどころではない、トラウマにすらなりそうだ。出来る限り不殺を貫きたいが・・・・・・
「・・・・俺は梟であって、蛇じゃないんだけどな」
何か伝説の傭兵とやってることがよく被るな、別に意識してるわけじゃないんだが、
「でも、人殺しの俺が人殺しの抑止になるか・・・」
大した皮肉だと思う。俺がSAOに入ってきた理由は『未来で起こるであろう事を見て見ぬふりする罪悪感から逃れる為』、しかし今はどうだろうか?少なくともコペルの件やこれから行う事は俺がやる必要はあるのか?それこそアルゴに口裏合わせてもらいディアベルに任せることも出来ただろう、奴が俺の事を気に食わなく思っていても他のプレイヤーの為とあらば力は貸してくれるはずだ。
でも俺はそれをしなかった。シノン達を遠ざけて、ディアベルに頼らず、一人で人殺しの集団になるだろう奴らを相手にしようとしている。
「独り善がり・・・・何が抑止力だ・・・・」
説得出来る気がしないなど都合の良い言い訳、俺はただ人を信じられないだけだ、そして信じてもらえないと思ってるだけだ。実際そうだろう「俺は未来が分かる」なんて言われたら俺も頭おかしいと思うし、でも俺は何もせずにいられなかった。シノンの事件もそうだ、初日のコペルの事件もそうだ、そしてこれからもそうなんだろう・・・・・・
「俺は、正しいのか?」
俺は間違ってるのでは?そう思えてならない、人殺しの抑止力になる事はまだいい、だがだからと言って人殺しの集団を一人で相手をして、そして最悪の場合は殺す、これは正しい選択と言えるのか?俺は人に頼らないという意地で自ら選択肢を狭めて、これしかないと思い込んでいるだけなのでは?
「そもそも俺はコペルを殺した時こそ動揺したが、その後はうなされたりすることは無かった」
俺は人殺しを望んでいる・・・?
昨今では何かが間違ってるということは声高に唱える人や読み物が増えたが、「これが正しい」という考えや教訓はあまり見ない。まるでそれを唱えることは禁忌であるかの様に。
考えながら俺は夜の森を進む、大型キャンプ地は傾斜がキツイ丘の下だ、このまま進んでいけばキャンプ地を見渡せる場所に出るのでそこから潜入する場所を決めればいい、のだが・・・・
「・・・・・・いるんだろ?出て来いよ」
少し開けた河原がある場所で対岸の茂みに向けて言う、先程から粘つく様な冷たい視線を感じる。俺の勘違いでなければこれは・・・・
「あれぇー?バレちゃいましたかぁ?」
隠れていたにしてはわざとらしい程間延びした、大きな声で返事をしてきた。ここからもうキャンプ地は然程距離は無い、いざとなれば大声を上げるつもりか。
「ていうか、明らかにこっち見てないのに分かってましたよねぇ?何ですか、エクストラスキル《直観》とかですかぁ?」
「・・・さぁな、教える義理は無い。お前こそそこで何してたんだ?」
「そっちが教えないのにこちらに問いかけてきますかぁ、でもざんねーん教えられないんですねぇ、これが」
わざとらしい動作と共に間延びした声で鎖頭巾を被ったそいつは言う、縁の鎖はほつれてチャラチャラぶら下がっているので顔は見えない。
「お前もエルフのクエストをうけているのか?」
「お前じゃなくて自分、モルテってもんです、以後お見知りおきをー」
「以後ね、俺がキャンプ地に入った瞬間大声を上げてMPKをしようとしてたんじゃないのか?」
「・・・・・嫌だなぁ~そんな激ヤバな真似はしませんよぉ、それともあれですか、されたことあるんで?」
クスクス笑うように聞いて来る、さっきから苛立たしい行為ばかりして来るが自分でも意外な程俺の心は平静を保っていた。
「しかし、モルテね・・・・綴りはMORTEか?イタリア語か何かで死神を意味する名前だよな?」
それを聞いた瞬間、一瞬だけモルテから余裕綽々といった笑みが消えた気がした。図星か?
「・・・・さあ~?どうでしょうか?でもでもそんな事言ったらディアベルさんも悪魔の名前じゃないですかぁ?それだけで人を判断するのは良くないですよぉ?」
「でも他人はそんな事分かってくれるかな?お前は知らないかも知れないが二層ではボス戦の後攻略組では処刑が行われそうになったんだ」
「わぁ~~~それはそれは・・・・・・穏やかじゃないですねぇ」
「だろ?だからさ、」
一度溜めて俺は言う、これでこいつが釣れなければ俺はMPKされるリスクを背負ったまま《潜入》をしなくてはならない。
「これから何かPKやら何やら事件が起こったらそんな事を企んでる奴らが居るんじゃないかって、疑り深い奴は
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
今度こそモルテからは笑みが消えた、口元しか見えない為どんな表情かは分からない。ただ嫌らしい笑みを描いていた口は真一文字に噤まれている。
「・・・・うーん、そんな皆を不安にさせるような事はしない方がいいと思いますよ、てかしないで下さい」
「別に俺がするなんて言ってないだろ?あと指図するなよ、何様のつもりだ?こそこそ隠れて、顔を隠して、黒幕ロール楽しんでるつもりになってる根暗野郎が」
「あははは~~、これはただの趣味ですよぉ?でもでもぉどうやらオウルさんは自分の事を疑ってるみたいですし?ここは一つ賭けでもしますか」
「賭け?というと?」
「今から決闘しましょう、勝った方は負けた相手に一つだけお願いが出来る。あ!勿論実行可能なマイルドなやつですよ?女性プレイヤーにセクハラとかは無しですよ~?」
「・・・・・いいだろう、初撃決着でいいよな?」
一応俺から提案するが、まぁ、そうは問屋が卸さないだろうな・・・・・・
「えぇ~~?そんな簡単に済ませていいんですかぁ?自分が何を頼むか分からないんですよぉ?ここは半減決着にしましょう!そうしましょう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それを聞いて俺はまた考える、この場に置いての正しさとは、この世界に置いての正しさとは一体何なのだろう?
何処にもそんな物は存在しない、そう思えてならない。
「オウルが居ない?」
「そう!キズメル何か心当たりない?」
夜になり、オウルとクエストを進めるはずがパーティー欄からオウルの名前が消えていた。彼の強さを考えると死んだとは思えないが・・・・
「・・・・私はこれからフォレストエルフのキャンプ地に指令書を奪いに行くところだった、もしかすると・・・・」
「オウルは先に?」
「だが何の為かが分からん、単独で潜入など正気の沙汰とは思えん」
「・・・・・・・・・・」
それは恐らく、オウルはNPCの可能性をキズメルから見出したからではないだろうか?今のSAOではPKが忌避されてる様に彼は肉の体が無くとも心が人と同じならば同じように接したい、そんな心遣いが感じられた。
キズメルが居れば戦うことになるかもしれないから一人で潜入クエストに行った?いくら何でも勝手が過ぎる!
「・・・・考えていても仕方ない。敵に見つからない様に隠密で行こう、時間は掛かるが」
「それでオウルが窮地に陥ったら元も子もないもんね」
装備はもう整えている、ポーチの中もアイテム補充したばかりだ。今からすぐにでも行ける。
「予め言っておくが私の外套はフォレストエルフには効きづらい、私が陽動してる間にオウルと合流するんだ」
「うん、近くまで行ったら私のスキ・・・・能力で分かると思う」
ダークエルフの野営地から出て幻想的な夜の森を走りながら答える、危うくスキルと言いかけた。慣れないとこれ面倒だなぁ。そんな事を考えながら人騒がせな梟とどう
「・・・待って!誰か来る!」
私の索敵範囲に二・・・いや三人引っ掛かった、スピードは然程ない。むしろ辺りを警戒しながら動いている様だ、何かを探しているのだろうか?
「こんな深夜に人族が何をしに・・・・」
「わからない、ダークエルフの野営地に用があるのかな?」
「フィリアとオウルなら兎も角、見ず知らずの人族を受け入れる程我らは友好的では無いよ・・・・嘆かわしいがな」
では一体何の為に?まさかとは思うが・・・・オウルが言っていたPKを扇動するプレイヤー?
「・・・・人族ならば私の外套が通じるはずだ、話を聞いてみるぞ」
「・・・・分かった」
私とキズメルは茂みの中に隠れて、キズメルの外套で隠してもらった。声が聞こえてくる。三人とも女性、というより少女の声だ。珍しい、ここでは男女差が凄まじく偏っているのに。
「アルゴさんが言うにはこの辺で反応が途切れたみたいだけど・・・」
「何も無いよ?霧が濃いし、迷わないようにしないと」
「・・・・・・・・」
細剣という珍しい武器、一番背の低いヘアバンダナを付けた片手剣士、そしてずっと沈黙してる短剣使い。しかしアルゴさんの名前が出たということはやはりここに何かを探しに来たようだ、反応が途切れた?プレイヤーを探しているのだろうか?
「アイツが今何を目的にして動いているか分かればいいんだけど・・・」
「わかんないよ、オウルはただでさえ話さないし」
オウル!今まさに自分たちが探しているプレイヤーの名前だ。じゃあこの三人が、
「キズメル、多分この人たちは信用できると思う」
「そのようだな、オウルが共に動いていたならばオウルの行先も分かるやもしれん」
今不足しているのは情報だ、男性プレイヤーならば兎も角同じ女性プレイヤーなら話位は聞いてくれるかもしれない。キズメルともそう話隠蔽を解いて茂みから出る。
「あの、ちょっといい?」
「誰!?」
一番近かった細剣使いが反応する、残り二人は声も上げずに既に武器を抜いている。明らかに戦い慣れている、オウルが指南でもしたのだろうか、両手を上げて敵意が無いことをアピールしながらオウルの事を聞く。
「えーっと、私フィリア。オウルとコンビを組んでたんだけどオウルが急にいなくなっちゃって」
「オウルと・・・・・・?」
「コンビ組んだ・・・・?」
「しかも女の子・・・・?」
あれ、何かヤバげ雰囲気がする?オウルは一体何をしたのだろう?
「ねぇフィリアさん?オウル君が何処行ったか、知らない?」
「私達今ソイツに用があるのよ」
「・・・・・・・人族の女はほったらかしにされただけで、ここまで殺気立つものなのか」
オウル、釣った魚には餌をやらないと・・・・
「(誰かに勘違いされてる気がする・・・・)半減決着でいいんだな?」
「はい、勿論負けたからと言って約束を反故する気はありませんよ?HPバーが半分以下じゃ自分も危ないので」
その言い方はMPKを企んでいたと言ってる様な物だが、もう隠す気はないのか?それともここで終わらせる気だからか。モルテがデュエル申告をこちらに飛ばしてくる、内容は半減決着。俺はベータの時は何度もデュエルをしたがデスゲームになってからデュエルをした経験はシノンとユウキに稽古をつけた時だけだ、鈍ってなければいいが。
「・・・・剣、抜かないんですかぁ?」
「お前こそ構えたらどうだ?」
デュエルが始まるまで丁度一分、かつては長すぎると批判があったが結局これは改善されることは無かった。思えばSAOのシステムはもとからデスゲームに調整されていたのだろう、俺は残り三十秒を切っても棒立ちのままモルテを見る。頭には鎖頭巾、ヌラリと月光を反射するスケイルアーマー、そして俺も使っていたアニールブレード、何処まで強化されてるかは分からないが最大まで強化されてると考えていいだろ。
残り、十秒。
「・・・・」
「・・・・」
俺もモルテも何も話さない、考えてることはただ一つ、
残り、五秒。
モルテが剣を抜く、肩に構えるそれは《ソニックリープ》。河原を飛び越えて一気に切りかかるつもりか、
ワンテンポ置いて俺も剣を構える、《ソード・オブ・ディキャピテート》、断罪や首切りを意味する剣。アニールブレードと比べると斬ることに向いてるのか長く、鋭い。強化値は+5、丈夫さに2、鋭さに3振ってある、現時点で手に入る武器よりずっと基礎スペックが高いので攻撃型にしてある。
残り、一秒。
「
呟いたのは俺か、モルテか、
ソードスキルのモーションを極限まで伸ばしたモルテは一秒になった0,5秒後ほどにこちらに跳んで来た、デュエルが始まる前に攻撃を仕掛ければその時点でオレンジになるが、
「シィィイイイイヤッ!!!」
俺の目の前に着た瞬間、【DUEL!】の文字が輝く。
「ゼヤァァアアアアッ!!!」
水平斬り《ホリゾンタル》、モルテの剣と俺の剣がぶつかり、水色の輝きと翡翠の輝きが金属音と共に辺りを照らす。上から斬りかかるモルテの方が有利な状況ではあるが、
「ッ!?」
「ッォオオ!!」
ピキッ、っとモルテの剣がひび割れる。ほんの僅かな物だがこれでモルテは剣のスペックでは負けていることが分かったはずだ。しかし一度発動したソードスキルは中断すればスタンが入る、モルテはもう後ろには下がれない。
気合と共に剣を押し出しそのままアニールブレードを真っ二つにしようとするが、運がモルテの味方をした。足場が悪かったのか力を加えた瞬間ズルッと滑り俺とモルテの初撃は空振りに終わった。河原という状況では未だに戦った事が無かったな・・・・反省しなくては、生き残れたら。
「ショウッ!」
「ハァァァ!」
そのまま戦えば不利と悟ってるはずだがモルテは下がることなく攻撃してくる、ニヤニヤした笑いは消えており明確な殺意を迸らせていることが分かる、やはり半減決着の狙いは俺を殺す事。命令されたのか、自分の判断かは分からない、だがこの状況は裏を返せば、
「
「あらあらぁ!?殺る気MAXみたいじゃあないですか!」
モルテの突きと斬りの中間的な攻撃をステップとパリィで捌きながら俺は言う、最短距離を駆けて心臓などを狙うその技量は確かな物ではあるがいささか太刀筋が正直すぎる。クロスカウンターのように俺も刺突を放つ、刀身同士が擦れて火花を散らし、剣と剣の鍔に引っ掛かり一瞬の硬直が生まれた、
「ハァッ!」
身を屈めて下から突き出すように肘打ちをモルテの鳩尾に向けて放つ、
「チィイ!」
しかし、やはり戦い慣れているのか空いてる左腕でガードする、かなりいい衝撃が伝わってきたので暫くは痺れてまともに使えないだろう。
「シャアアッ!」
「ッ!?」
苛立つように剣を振り払い、逆手に持ち替えてそのまま前傾姿勢で斬り込んでくる。咄嗟に刀身に手を当てて反らしたがそんな真似も出来るのか、コイツ!
斬り込んで二、三度斬りはらったら自然に持ち替えてまた刺突の嵐、だがな、もう見飽きてるんだよ。
「ッガ!??」
「ぶっ飛べ!」
刺突を出した右手の外側に回るように回避、そして同じく右手で掴み剣の柄頭で鼻の辺りにカウンター気味に殴る。モルテのHPバーが一割強減った。勢いに逆らわずそのまま後転し、水飛沫をこちらに飛ばして来る、そんな古典的な目つぶしは効かん、武蔵さんの教育は伊達ではない。
距離を取ったモルテが次に出た行動は、メニューウインドウを出す事だった。
「ゥ・・・オオォオオッ!!!」
溜める様に叫び突貫する、いくらメニューの操作が長けていようとも十メートルも離れていないこの距離で武器を替えることなど出来ない、この間に二、三撃は叩き込める!
右側の腰に剣を構え、前傾姿勢でモルテに迫る。
「フェイント、だろ?」
「なっ・・・!」
恐らく使ったスキルは《クイックチェンジ》、そして出したものは剣ではなく、ラウンドシールドだった。タイミングに合わせて俺の剣を弾くつもりだったのだろうが水平に素早く振った俺の左手は、空っぽだ。絶対に引っ掛かる自信があったのだろう、モルテは分かり易く動揺している。
「生憎両利きでなッ!!」
右手に握った剣を地面すれすれから腰を捻り、上体を反らし、足を今度は滑らない様にしっかり踏みつけ斜め下から《スラント》でラウンドシールドの縁を叩く、剣に比べると鈍い、しかし馬鹿でかい音と共にシールドはすっ飛んでいった。
そしてモルテの上体も勢いで泳いでいる、
「歯ァ食いしばれぇ!!!」
「ッ!!!」
反らした上体の左脇に痛くなるほど強く折りたたんでる腕を、拳を、体を戻す勢いに乗せてモルテの顔面に放つ!赤く尾を引く拳はまるで流星の如くモルテの顔面に突き刺さった。
「ウォラアアァ!!」
「ゴッ・・・ブ!!」
真っすぐ、しかし肩は必要以上出さずに《閃打》の勢いをモルテに押し付ける。残りHPは七割弱、これなら《ホリゾンタル・スクエア》からすかさず体術スキルに繋げば、俺は、モルテを、
「おいおい、ショータイムにはまだ早ぇだろう?」
蠱惑的な、男の声だった。聞き覚えは無い、しかし理性と本能が誰か一瞬で悟らせた。
振り返る途中の視界の端に捉えたのはシンプルな造りの短剣、
「うおおぉ!?」
ほぼ反射的にバック転で《弦月》を発動、目元に迫っていた短剣だけを蹴り上げる。まさかコイツが出てくるのか・・・!
「お前は・・・!」
「ヨォ、梟さん。人殺しは良くないぜぇ?英雄の名が泣いちまう」
黒ポンチョの男、どこかリズミカルな喋り方でこちらに語りかけてくる。
「そっちのコイフのプレイヤーさん?今のうちに逃げちまいな」
「・・・・いやぁ、
言い切る前に《クイックチェンジ》でシールドを戻し、夜の森に消えてくモルテ・・・・ここで仕留めたかったが、目の前のこいつの事を考えればあんな奴は小物である。
「白々しい・・・お前らどうせグルだろ?ネズハに強化詐欺を教えた黒ポンチョの男よ?」
「何のこと言ってんのかわかんねぇけどさ、まぁ強化詐欺はその通りだぜ?梟よ、しかし黒ポンチョの男か・・・いいねぇ、殺人鬼には通り名は必須だよなぁ・・・」
恍惚といった感じでソイツは呟く・・・・立ち振る舞いだけで分かる、
「何の為に出てきたのか知らないし、知るつもりもないが・・・お前は危険だ、俺の独断と偏見で悪いが死んでもらう」
「おおっと!?平和ボケした国で生まれ育ったにしてはいいSENSE持ってんじゃあねぇか?いいねぇいいねぇ・・・!ますます惜しいぜお前さんよぉ・・・!」
気色悪い・・・・コイツ、一体何の為に出てきたんだ?仲間は死なせない、とかいうキャラでも無いだろうに・・・・
「何の為に出てきたか分かんねぇ、って面だな。簡単なことだよ、
「・・・・何でお前なんぞに兄弟呼ばわりされないといけないんだ」
「同類だからさ、同じ人殺しだろう?仲良くしようや」
「・・・・俺が同類ね、確かに人殺しであることは否定しないが・・・俺はお前らと違って快楽目的じゃ無いんでね」
確かに俺はコペルを殺した、人殺しだ。それはもうどう言い訳のしようもない事実だ。だからと言ってコイツの仲間になるなんて論外だが、
「・・・オイオイ、オイオイオイオイ?お前まさか自覚無いのか?」
「・・・?何のことだ?」
心底不思議そうに黒ポンチョの男は聞いて来た、自覚がない?本当に何のことだ?それとも得意の話術で引き込もうとしてるのか・・・・
「お前さんは倫理、道徳、秩序を弁えろみたいなことを言ってたがよ、人を殺すと決めたらそこから悩んだり、魘されたりすることは無かったんじゃあないか?ん?」
「・・・・だとしたら何だ?」
「職業柄分かっちまうんだよなぁ・・・・そういう理屈抜きで合理的に命を天秤に乗せ、摘むことが出来る奴。お前さんは秩序がなんだと叫んじゃいるが善人じゃあない、むしろ程遠いと思うぜ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
コイツ・・・・良い目してやがる、人の悩んでることピンポイントで打ち抜きやがった。
「いや、良いんじゃねえか?気にすんなよ、悪いのは茅場晶彦だろ?ここはゲームの世界だぜ、現実じゃ許されないが人殺しはここでは一つのspiceさ。一緒に来いよ、歓迎するぜぇ、兄弟・・・!」
「・・・・・・・」
俺は、確かに自分が善人というには我執が強すぎると常々から思っていたがまさかコイツにそれを指摘されるか。・・・・いいのかもしれない、それでも。俺が何もかも背負う必要は無い、ここで楽な道を選んだって、
「確かに、俺だって人と全力で戦う事に何の高揚もない訳じゃない・・・・お前に付いて行けばもっと充実した闘争があるのかもな・・・」
「あぁ!約束するぜぇ、兄弟。退屈はさせねぇ一緒に________」
「だが断る」
でもそもそもの話、俺の目的は俺自身の正否ではないのだ。地獄に堕ちたって構わない、陳腐だが守りたいものがある、始まりは違ったかもしれないが今はそうなのだから仕方ない。誰かのためにという考え方は、誰かのせいという考えにすり替わりやすい、しかし、それでも、
「間違いだらけでもいい、多くは望まない、ただ一つの願いの為に・・・・」
「その為には・・・・同族でも死んでもらうぞ」
「へぇ・・・俺には分からんね、その感情」
理解は求めていない、元よりお前に限らず人と分かり合えるとは思っちゃいないしな、
「お前はただ死んでくれればいい」
「お前じゃねぇ、POHってんだ。よろしくな、兄弟・・・・次があればだが」
短剣を抜く、俺も剣を構える。索敵に引っ掛からなかったところを見るに間違いなくモルテよりも強い、身のこなしも体術、というよりもっと実践よりの格闘術の心得があるようだ。短剣も日頃から使い慣れているのかクルクルと手の中で回している。
「楽しもうや!」
「嫌だね、死ね」
デュエル申告など行わない、これから始めようとしているのはただの殺し合い_______
「オウル!!」
が、突如、聞き覚えがある凛とした澄んだ声が聞こえた。
「シッ・・・・!」
名前を呼びそうになって、自分で口をふさぐ。こいつに名前を知られるのはまずい。そして気を取られた為に俺はPOHから目を離してしまった、
「ヒャッハァッ!!」
赤いライトエフェクトを纏った黒い短剣が俺の胸を抉った、斬られた個所から体全体に冷たく痺れるような感触が走る。これは____
「麻痺か・・・・!」
「yes、of course.ただ斬り合うだけが殺し合いじゃないぜ?卑怯何て言うなよ、むしろ搦手の一つも用意してない、お前の舐めプが悪いんだぜ?」
全くその通りだった、俺はここに至るまで何故毒の有用性が分からなかったのだろう。殺しを行う奴らと全員まともに斬り合うつもりだったのか?我ながら馬鹿すぎる!
いや自分の愚かさを呪うのは後だ、シノンは逃がさなくては、
「逃げろ・・・・!」
「嫌よ、あんたとは色々話さないといけないから、主に女の子の扱い方とか」
あっ・・・(察し)。
「オイオイ?兄弟?恋人をほったらかしで他の女とよろしくしてたのか?スゲェな、オイ」
「違ぇよ・・・馬鹿が・・・」
さっきまでの緊張感は何処にいった、何だこのいたたまれない空気は。返せ、俺の決死の覚悟。
「フーーーム・・・・このまま続行してもいいが、ショータイムには早いって言ったのは俺だしな・・・今日のところはずらかるぜ」
「いや・・・その前に解毒剤を寄こせ・・・」
「わりぃな兄弟、俺昼ドラとか結構好きなんだよ」
「今、夜ですけど!?」
この野郎見捨てる気満々だ!ヤバイよ、空気がコミカルな感じになると同時にシノンから殺気が膨れ上がってるよ!
「じゃあ、あばよ。次会う時まで死ぬなよ・・・・いやマジで」
待ってくださいお願いします何でもしますかr「オウル、ちょっとOHANASIしましょうか」・・・・詰んだ\(^o^)/オワタ。
後日談的な物。
あの後フィリア達とも合流しクエストは簡単に終わった、モルテと黒ポンチョの男、改めPOHには逃げられた。そして俺はと言うと____________
「なぁ・・・そろそろ降ろしてくんない?現実なら頭パーンだよ?」
「パーンするほど中身詰まってないから大丈夫でしょ」
フィリアとキズメルを除いた三人に木から逆さづりにされている、シノンさん中々毒舌ですね。
「死んじゃダメって言ったのに一人でPKとやり合うなんて・・・・援護の余地ないよ、オウル」
いや、あるだろ?このリンチから解放するように進言するとか、
「大丈夫、ここ一応圏内だから」
いや、心配してるとこはそこじゃないよ?アスナさん?
「大丈夫よ、一応フィリアが弁護人になってくれるから」
弁護しきれなかったらどうなるんですかねぇ・・・?あまりにもあんまりなこの状況、果たしてフィリアに打開できるのか。
「えっと・・・取り敢えず、オウルの罪状は何なの?」
「一人でPKと戦おうとして事」
とユウキ、まだ分かる、
「一人で動くことを仄めかして置きながら別の女と行動してたこと」
とシノン、その理由でPOHを退けたって考えるとすごく複雑なんですけど、
「二層のクエストで教えるべきことを教えてなかった事」
とアスナ、まだ体術スキルの事根に持ってたのね、いいじゃん別にそれ位の事。
「あのね、オウル君は少しは乙女心を理解しようとは思わないの!?」
「男に理解できるもんじゃないだろ、それ」
理解出来たら出来たでオネェになるじゃないかな?今の状況的に「ごるぱ!!」ってなるよね?それよりもフィリア、早く弁護してくれ、いくら仮想でも気持ち悪くなってきた。
「あ、うん。オウルが勝手に行動してたのは事実だけど、私達が居ても何かできたとは限らないし・・・その辺で勘弁してあげたら?」
「・・・そう、ね」
あの時俺がいざという時、人が殺せるか?という問いを思い出したのかしょげながらシノンは返事をする。この三人が周りの酷評を気にしないとしても実際に殺人を犯すとなると話は別だ。どうあがいても俺はこの方法しか選べない、ていうか女に殺人させる方がよっぽど罪悪感が凄まじい、
「それに一応オウルは私のコンビだし・・・」
「・・・・そうね」
シノンさん?声が低いですよ?怖いですよ?
「それに一緒に冒険して、夜も共に過ごした仲間だから手荒な真似はやめt「夜を?共に?」・・・あっ・・・」
今までの事をペラペラ話してると無意識にフィリアが爆弾を投下した、空気が凍てつく。おかしいな、誰だよヒャド系の呪文使ったの。そんな事を考えてるうちに三人がこちらをゆっくり振り向く、あの温厚なユウキも形容しがたい顔をしている・・・・
「オウル・・・?」
「ボク達が心配してた時・・・」
「何をしていたのかしら・・・・?」
「・・・・間違っているのは俺じゃない、間違っているのはこの世k_________」
責任転嫁の言い訳を言い切る前に、三人同時に体術スキルをこちらに発動した。わぁすごい、仮想空間でも強い衝撃を受けると気絶できるんだぁ。
遠目にこちらを、何とも言えない表情で見ているキズメルを最期に、俺は意識を手放した。
主人公、死亡(嘘)。
最後の展開は天啓のように閃いた、最近シリアス(と言える程でも無いけど)が続いてたのでやってしまった。