外伝~2~永い後日談のクトゥロニカ神話『一途な彼等』   作:カロライナ

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Episode2〖物陰のイヌ〗

……クンクン…

 

「あ? 何の音だ?」

 

 大声で叫んでいた彼は気になる物音でも聞きつけたのか、瞬時に背後を振り返る。右手は拳銃のホルスターに手が伸びていたが、左手は放すまいとライオットシールドの取っ手を力強く握りしめていた。

 彼はガスマスクを左右へと音の発生源を探るかのように見渡し、しばらく周囲の様子を伺ったのちホルスターから拳銃を抜くと1つの岩陰を覗き込む。

 覗いた岩陰には、大柄な体格ではあったが多少薄汚れているが、真っ白な毛並みを持ち、優しそうな瞳に、何処か可愛らしさを覚える『犬』がくんくんと切なげに鳴きながらも丸くなっているのが飛び込んできた。

 

「イヌ…?」

「クゥン」

 

 彼の小さな呟きも鋭い聴覚で聞き分けたのか、『犬』はのそのそと丸くなっていた姿勢から立ち上がると彼に接近する。その動きは決して獰猛な狂犬のような機敏な動きではなく、何処か弱りながらも興味のあるものを見つけ、少し喜びが入り混じっているかのような接近方法であった。

 現に『犬』は、フル装備で顔も見えない彼に対し尻尾を振りながら接近している。

 

「なんだ、やっぱりただの犬か。」

 

 唸ったり吼えたりして来ない犬に対し、取り出していた武器を定位置に戻し 膝を地面に付けると犬と同じ目線になり 敵意がなさそうに装いながら近づいてくる犬を優しく撫でた。

 

「キュンキュンキュン」

 

 その犬は、やけに毛並みが硬く、ゴワゴワして、黒目は濁り、通常の犬よりも体温が低いようであり、その異変にも素肌で触ることができれば感じることもあっただろうが、彼は気にした様子もなく、撫でることを嫌がらない犬に対し、やや力強くも優しくわしゃわしゃと撫でくり回す。『犬』もまた、その行為に応じるように甘えた鳴き声をあげながら彼にじゃれ付いた。

 

「おー、よしよしよしよーし。まさか、こんな放射能にまみれた場所で犬と出会えるだなんてなぁ。…傍に飼い主が居ないところを見ると…ご主人において行かれちまったのか?」

「クゥン」

「やっぱ緊急時は人命が優先されるからなぁ。分かるぜ? お前の気持ち。別に慰めとかじゃなくてな、俺も一時的にペットを飼っていたことがあるから分かるんだ。お前を連れて行けなかったご主人もきっと同じ気持ちだろうよ」

「クゥン…」

 

 『犬』は嫌がる素振を見せることもなく、全身を撫でまわされながら男の質問に対し、まるで意思疎通が出来ているかのように悲しげな鳴き声をあげつつも返事を返す。また律儀に返事を返してくれ『犬』に対し、愛おしそうな手付きで『犬』の側面。右頬にあたる部分を撫でてやるのだった。

 

 

 




【後書き】
 最近、忙しさにかまけて投稿が滞っておりましたが、無事に戻って参りました!カロライナです。
 ラノゲツクールと呼ばれる新手のアプリでラノベを作っていましたら、いつの間にかに日付が・・・って奴ですね。前回のクトゥロニカの執筆を行った際に『ドラマ風に近づけるのであればダイスの表示を行わない方が良いよ。』とのアドバイスを頂きましたので、今回はダイス判定を非表示にしての執筆となります。

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