要はどっちか分からないからフロム脳を最大限に使え!ってことですね(適当)
夢見 / フランスの地
『あははははっ!いいわ、いいわね!よく燃える薪ですね!
私を殺した愚かな祭司達は死んだわ!……しかし、この未だ煮え滾る復讐心やこの今までの全てが抜け落ちた感覚はどうすれば収まるものか……。
……ああ、そうだわ。この国を蹂躙しましょう。
愚鈍な民衆を殺しましょう。己が権力に溺れた汚らわしい権力者を粉微塵にしてあげましょう。ありとあらゆるものを破壊しましょう。
――そして、この国を滅ぼしましょう』
『そうすれば、きっと私は――』
――――――――――
今回の夢は以前の悲しい夢とはまた違った夢だった。
復讐者を名乗る彼女は確かに、救いを求めていた。
生前に面識があり、1431年のフランスにおいて既に死亡している人物であり、SE.RA.PHでも目にした人物。
――ジャンヌ・ダルク。
見た目が変わっていた。恐らくは冬木に居たアルトリアと同じく別の側面が召喚されたと見ていい、とは思うのだが。
彼女は聖人だ。自分が死んだことに悪感情は抱いていないだろう。後に続くモノがあったのであれば、それでいいと。
だが、彼女は人間だ。人間は悪感情を持たずに生きるのは不可能なのだ。
無意識の内に、自覚せずとも、確実にソレは芽生えているモノなのだから。
そう考えると黒いジャンヌ・ダルクが召喚されたのにも頷けるが……。あくまでジャンヌ・ダルクは聖人なのだ。騎士の王として冷酷な面も持ち合わせていたが故に、その側面が一英霊として数えられたアルトリアと違い、無意識レベルのものでの悪感情が別の側面として召喚されるとはどうしても思えない。
――うん、よく分からない。あれこれ考えるのはやめにしよう。成せば成る。要は行き当たりばったりだが、これまでも何とかやってきたのだ。
「ご主人様。私は……」
言わずとも分かっているとも。
彼女としてはジャンヌ・オルタを気に掛けるのは良くないことだと思っているはずだ。だが、一方で、あの夢に出た彼女の苦しそうな表情を目の当たりにして何か思うこともあったのか、迷いの見える表情をしていた。
「まずは、あの時と同じく対話を試みようではないか。敵だからといって理解もせず、憎むのみでは、な」
やはりネロはそう来るか。
月でもそうだったが、彼女は基本的に敵対する者の事を最大限理解し、その力を認めた上で真っ向から勝負し勝利する事を良しとする。
祭司を殺し、国を滅ぼすと言った彼女がどうしてそうなってしまったのか。彼女は対話で、対話が無理なら一度叩きのめした上で聞こうとしているのだろう。
結局の所、会って話を聞かなければ何も分からないし始まらない、か。
「座標の確認終了。1431年のフランスに間違いありません。どうやらレイシフトは成功したようです。百年戦争の真っ只中ですが、確かこの時期は休戦中だったはずです」
「まずは召喚サークルの設置だったよね」
「はい。カルデアからの支援を受けるために必要ですから最優先で行うべきです。……フォウさんがまた着いて来てしまっていますが、どうしましょう先輩」
「まあ、前も大丈夫だったし大丈夫だと信じておくしかないんじゃないかな……。んじゃあ、霊脈を……ってアルスさんどこ見てるんですか」
考えも一応はまとまり方針は決まったので、気持ちを切り替える。
マシュと藤丸の会話を片手間に聞きながら、ふと、空を見上げる。そこには空を覆う大きな円……いや、輪、と表現するのが一番近い、何かが存在していた。
アレが何であるのかは分からないが、良くないモノであるのは分かる。
カルデアとの通信も取り合えずは繋がったので、取り合えず空を見てみろと言って皆にもその存在を知らせる。
『アレは……光の輪、いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式……?とんでもない大きさだなあ、下手をすれば北米大陸と同サイズだ』
『1431年のフランスにあんなものが存在していたなんて記録は無いわ……』
『間違いなく未来消失の理由の一端だ。
だけど、アレは此方で解析するしかないな……。キミ達は現地調査に専念してくれていい。まずは霊脈を探してくれ』
「了解」
レイシフト直後から不穏な空気だな。溜息を吐きたくなる思いを殺しながら、残り火を取り出して握りつぶす。
身体から火の粉が舞い、身体に力が漲る。
残り火を身体に取り込んだことにより擬似的に薪の王と同じ状態となる。具体的な効果は体力の増加。ロードランに居た頃は人間性を取り込み、亡者の姿から元の人間の姿に戻っていたのだがロスリックに行き着くと見た目が亡者になることはなくなった。そのため、支援を得るために白霊を召喚する時以外ではあまり使用せずに居た。使用すると侵入霊が現れたりと割と面倒であったためだ。
この時代、不死の呪いを受けた人間も自身のみとなった現在で使用した場合、黒霊が侵入してくるかは分からないが、あの時代に見えていた灰達のメッセージも一向に見えないため、恐らくはないと見ていいだろう。
あの時代の人間が此処に居るとすれば、英霊として召喚されるくらいか。
そういえば、いつまでも隠したままではいけないと思い、レイシフト前に藤丸に自身の事は話しておいた。なのでもう負い目に思うこともない。
暫く信じられはしないと思っていたのだが、彼は「そんな事情を抱えてるような気はしました」と直ぐに納得してくれた。拠点で篝火を構築することを伝えた時にはそれで回復するのが羨ましいと言われたが。結構図太いな彼は。
「皆さん。人……兵士の方々が見えました。接触するべきでしょうか?」
と、そこでマシュから報告が入る。
英語で話しかけようとしているが、ここはフランス。フランス語で挨拶したほうがいいのではないだろうか、と伝えたのだが彼女は自信満々に大丈夫だと言って話しかけにいった。正直不安でしかないが、グッドラックと言って送り出すことにした。
「エクスキューズミー。こんにちは。わたしたちは旅のものですが――」
「ひっ!? て、敵襲!!敵襲ー!!」
「ああ、そら見たことか……戦闘になるぞ、これは」
「伝わると思ったのですが……」
「いや、今は休止期間とはいえ、百年戦争の最中だろう?」
「……そういうことは早くお願いします」
アレは言っても聞かないヤツだと分かっていたので止めることはしなかった。後悔も反省も少しだけしている。だが、ノリノリで話しかけに言ったマシュが正直悪いと思ったのであった。
「何を遠い目をしてるんですか……。分かりました。この事態を引き起こした者としての責任があります。アルス先輩。現地人への攻撃は調査の上ではご法度。かくなる上は出来るだけ流血沙汰にならないように峰打ちでいきましょう!」
「よし分かった。混乱しているなマシュ? ……だが、峰打ちには賛成だ。……ん?峰?」
盾で峰打ち。
峰打ちを行う場合には打刀、または物干し竿に持ち替えて行うので問題はないのだが、彼女の主武装、というか唯一の武装は身を覆い隠す程の盾である。
一体彼女はどこで峰打ちを行おうというのか。そもそも盾における峰ってどこなのだろうか。納得はいっていないが、あの盾で峰打ち(仮)を行った場合、対象が圧殺されるのではないか。
疑問点が尽きず、脳内が混乱に混乱を重ねて最早混沌としつつあるのだが。
■
いやはや、意外と手加減をしながら戦うというのは疲れるものだな。
打刀で峰打ちを敢行している中、戦いの最中でマシュの戦う様を見ていたのだが何と言うか心配になる戦いだった。主に兵士が圧殺されないかで。
戦闘終了後、彼女に感想を聞いてみると「盾の峰打ちの感覚を掴んだ」と言っていた。
拝啓、ロマンにマリー。マシュはとても逞しい子に成長しています。ただ言っていることが良く分からない不思議っ子になりつつあります。
「……走って砦の方へと逃げられていきましたが、どうしましょうか?」
「行ってみよう。あれだけ怯えてるなら何かがあったんじゃないかな」
あの攻撃をまともに受けておいて走って逃げられるとは兵士も中々に頑丈なようだな。伊達に前線で戦っては居なかったということだろうか。
いや、それにしたって手加減しているとはいえ、あの盾で叩き潰されていたにも関わらずあれ程の速度で走るとは彼ら軽く人外の域に片足突っ込んでるのでは?
彼らを追って砦へと向かってみると砦の入り口は開放されていた。
外から見るとそそこそこ無事ではあるが、中がこれまた酷い損傷具合だった。こんな状態では最早砦と呼べない状態である。
「中に居るのは負傷兵ばかり……か」
1431年にはフランス側のシャルル七世がイギリス側についたフィリップ三世と休戦条約を結んでいる筈だ。
故に戦争行為で負傷した兵士が此処に集められているとは考えにくい。と、いうか夢の内容的にはおそらくはジャンヌ・オルタの仕業か。
此方を目にした途端焦燥しきった表情で再び襲い掛かってこようとした負傷兵を宥めて、何とか話を聞くことに成功した。
魔女の炎に焼かれ、シャルル王は死んだ。まあ、そんな気はしていた。
十中八九、魔女と言われている人物はジャンヌ・ダルクその人だろう。……いや、この場合はどう表現すればいいのか分からないが、とにかくジャンヌ・ダルクが蘇ったらしい。
イングランドはとうに撤退しており、残されたフランス兵は"竜の魔女"に怯えながらも抵抗を続けているとか。
話の途中で竜牙兵が襲い掛かってきたりしたが、大して強くも無かったので軽く蹴散らしたところ、竜牙兵とは比べ物にならない魔力の反応が此方へ高速へ向かってきた。
『気を付けて!何か大型の反応が複数そっちへ向かってる!』
「ああ、此方でも確認している。これは――」
「ド、ドラゴンか奏者よ!余も初めて見たが、これは……」
「いや、これはワイバーンだ。竜の亜種なんだが、間違っても十五世紀のフランスに存在していいものじゃない」
「ううむ、ではこやつらは……」
「竜の魔女、ジャンヌ・ダルクの差し向けた尖兵ってところだな。よし、軽く捻ってやるか」
アレくらいなら問題はない。確かに数による暴力は大変脅威ではあるが、要は囲まれなければいい。侵入霊二人を相手取るよりよっぽど楽だ。
それに、かつてはもっと強力で恐ろしい竜種と一対一で戦ったこともあるのだ。今更ワイバーンを恐れてどうするのか。
「そこの方々!水を被って下さい!一瞬ですが彼らの炎を防げます!そして……出来るならば私の後に続いてください!」
左手にクロスボウ、右手にアルトリウスの大剣を出現させて彼らの群れの中に飛び込む。
その際に、見覚えのある姿と声を聞いた。何故かかなり弱くなっているようだが、間違いなくジャンヌ・ダルクだ。彼女の性格上、出てくるのは仕方が無いとはいえ、今の兵士達にとって"ジャンヌ・ダルク"は"恐ろしい竜の魔女"なのだ。大丈夫だろうか。
時には翼を切り裂き、時にはクロスボウで撃ち抜き、時には強引に大剣で複数を吹き飛ばす。
繰り返すこと数分だろうか。ワイバーンはあっけなく全滅した。
『いやあ、よくやったぞ諸君!手に汗とゴマ饅頭を握って見入っちゃったな!』
「ドクター。それはわたしが用意したゴマ饅頭ですね」
一体ロマンは何をしているんだ……。
スポーツの試合でも見ている気分だったのか。あと、その手に持った饅頭を食べるのをやめたのであれば、まだ痛い目に遭わずに済むと思うので是非そうしてもらいたかったのだが、生憎と彼はマシュの藤丸へのささやかの労わりである饅頭を咀嚼していた。それはもう美味しそうに。
「……先輩。帰還時には一回分の戦闘リソースを残しておいて下さい。習得した峰打ちを叩き込みたいエネミーを一人登録しましたので」
「オーケー、任せろ」
――さらばだロマン、お前の事は忘れない。五分くらいは。
あの峰打ちはロマンならきっと死ぬ。カルデアで身体を鍛えることもせず日々研究や医療の仕事に明け暮れていた彼ならばきっと死ぬ。それ位の威力はあった。
この特異点の修復が終わればマシュに峰打ち(仮)を叩き込まれ死ぬであろうロマンはさておき、此方は此方でやらなければならないことを果たすとしよう。
まずは兵士達に怯えられ、危うく攻撃されそうになったかと思えば目の前でギャグを披露され、どうすればいいのか分からず困った表情をしておろおろとしている聖女、ジャンヌ・ダルクに話しかけることにした。
相変わらず文が安定しませんね……。
少しダクソ要素が増えた、かもしれません。