これほどの高評価をいただけるとは。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
結果から言えばジャンヌ・オルタは俺の手を取った。
ジルも駆けつけた白いジャンヌと語り合い、満足そうな表情を浮かべて去っていった。
全てが終わった後、俺の隣に居たジャンヌ・オルタを見てネロ、タマモ、ソラールを除く全員が大層驚いていた。懸念材料であった藤丸とマシュは少し複雑そうな顔をしていたものの、受け入れてくれた。
丸く収まった、とは正にこのことを言うのだろう。たった一つの心残りは一人で戦う流れに持っていったソラールをぶっ飛ばそうとしたらそそくさと還ってしまい、結局ぶっ飛ばせずに終わってしまったことだろうか。
おのれソラール、これだから太陽戦士は。
それは兎も角、ここで一つ問題点というか、謎の現象が起きていたので記しておこう。
確かに俺はジャンヌ・オルタと契約した。
無理やりとは言えカルデアにも霊基を登録したので彼女が消えていくことは一応は心配しなくともいいだろう。
それはいい。
ただ何故カルデアに本来のジャンヌ・ダルクである彼女が居るのだろう。本人はにこにこと嬉しそうに笑っていたがこれは由々しき事態である。
何故ならば俺は召喚した覚えがない。もしやと思い藤丸に聞いても心当たりは無いと言いながら腹を抱えて笑っている始末。しかもパスは俺と繋がっていた。何故なのか。
腹を抱えて笑っている藤丸は藤丸で恐ろしい目に遭ったそうで、彼が帰ってきて最初に目にした光景は清姫だったそうだ。
確かにそれは恐ろしい。彼女はバーサーカーだ。会話が出来るとはいえ、彼女の狂化のランクはEX。会話は出来ても碌に話は成立しないだろう。
そんな清姫がカルデアにやってこれた理由だが、安珍という人間への愛の力で彼女の方から自力でやってきたらしい。
自力で。
成る程、言っている意味がまるで理解できない。英霊とは一体なんだったのか。
藤丸曰く、彼女には自分が安珍、もしくはその生まれ変わりに見えているのだとか。人違いとかそういうレベルじゃない。生まれたばかりの雛鳥が最初に見たものを親と思い込むレベルだ。狂化EXは伊達じゃないということか。
ざまあみろ、と言いそうになったがこれから四六時中ストーキングされる彼の心境を考えると笑えない。下手に嘘を吐けば焼かれるだろうし、この人理修復の旅を終えるまでに焼かれないように頑張って生きて欲しい。俺は応援だけしておく。
全く理解が出来ていないが、清姫がやってきた理論で行くとジャンヌも何かしらの力で此方にやってきて俺と契約したことになるのだが、さて。
カルデアのシステムは一体どうなっているのだろう。叩けば直るだろうか。
「おい、聞いているのかキミは」
「反省は少ししているが後悔は全くしていない」
「反省しろこの馬鹿」
と、フランスでの出来事を振り返ってレオナルドに説教されているという現実から目を逸らしていたら怒られた。
何故レオナルドに説教されているのかというと、許可も無くジャンヌ、ジャンヌ・オルタの両名と契約した点と、勝手に一人で突っ込んで戦いに行った点の二つで説教されている。
特に二つ目に関しては許せないことであったらしい。何でも、もっと自分を大事にしろだとか。残念ながら命の価値がその辺の雑草と同じレベルで軽い不死にそれを言うのはやめて欲しい。
俺の既に底辺に落ちているであろう名誉のために一応弁解しておくと、一つ目に関してジャンヌ・オルタは兎も角としてジャンヌについては不可抗力というか、カルデアのシステムに文句を言ってもらいたい。俺は知らない。
二つ目? アレはどうにも反論は出来ないな。でも先程言った通り、反省は少ししているが後悔は全くしていない。全て勢いである。ゴリ押し万歳。
「……全く。もういいよ、キミを見ている限り、言っても無駄だろうし。これからもそんな無茶を重ねていくんだろう、どうせ」
「よく分かってるじゃないか」
「何で嬉しそうなの!? やっぱり馬鹿だなキミってやつは!!」
「おい、さっきから馬鹿馬鹿言いすぎだろ」
「は?」
「スミマセンデシタ」
モナリザになった彼が出してはいけない低音の声を出していた。これはダメだ、本気でブチ切れている。
大人しくしておかなければ生まれたことを後悔することになるかもしれないので大人しく話を聞こう。
「──まあいい。私がキミを呼んだのはこの説教だけが理由じゃないんだ。というか説教だけなら所長とロマニもセットでやるからね」
何だそれは怖すぎるぞ。
絶対に彼の用事とやらが終われば説教地獄が待っている。
半分はソラールの所為なのだけれど。どうにかしてソラールの世界に侵入できないだろうか。やはりぶっ飛ばしておくべきだった。
「私が呼び出した理由はこれだよ」
どう足掻いても絶望といった現実に憂鬱になっているところで彼が一つの本を取り出した。
かなり古びた本のようだが、題名すらもしっかりと読める辺りかなり厳重に保管されていたのだろう。
それはいいのだが、本の名前を見て俺はひっくり返りそうになった。
その題は『火の時代』。何故そんな本があるのだろう。呪われていたりしないだろうか。こう、開いた瞬間にバジリスクの呪いで石化するとか。
もし拾っていたのが俺であるのならば問答無用で即刻燃やしていた。あの時代の書物がこうして現代にまで残ってるとか控えめに言って決して開いてはいけない部類の呪いの本にしか見えない。
題名に戦慄しつつもレオナルドの話を聞く。
「工房を整理していたら見覚えの無い本が出てきてね。気になったから読んでみたんだけど」
「なんでそんな怪しげな本読むんだよ」
いや、本当に。
魔術を齧っているのであれば警戒すること必至である上に、著者不明の未知の時代の本なのだ。気になったからと言って容易に読もうとする彼はやはりどこか頭がおかしいんじゃないだろうか。
「知的好奇心がちょっと……。で、読んだんだけど内容が少し気になってね」
何がちょっとなのだろう。頭がおかしいんじゃないだろうか、ではなかった。普通に頭がおかしかった。ひょっとして彼は天才と馬鹿は紙一重の馬鹿の方なんじゃなかろうか。
そんな天才で馬鹿で変態な彼が読んだ本の内容はこうだ。
それはとある孤独な王の話。
最初の薪の王であるグウィンを打ち倒し、不死とはいえ、普遍的な人間でありながら自らを薪として世界を繋ごうとした一人の男の物語。
立ち塞がる数多の神を打ち倒した男は確かに世界を救ったのだ。
とはいえ、訪れた平穏が続くことは無く。
燃え尽きて火を失った『火の無き灰』という存在に成り果てた男は再び世界を救う旅に出ることになる。
その旅で立ち塞がったのはかつての薪の王達。男は神殺しの旅、王狩りの旅を経てまたも自らを薪として世界を繋いだ。
漸く終われる。そう男が思った矢先、男はとある地点に立っていた。
そう、それは男が灰として目覚めた灰達の墓標だった。
男は幾度も世界を繰り返したのだ。
何度も、何度も繰り返していく内に気がついた。
世界はもう終わっているということに。
思えば灰となってから火を継いだ時に気付くべきだった。
男を焼き尽くすほどに燃え盛っていた炎は今や篝火のように小さくなっていたのだ。
その火は神の力を指し示すもの。
神々が表舞台で活躍する時代の終わりを感じた男は火を消すことにした。
それはかつて男に使命を受け継いだ騎士や男を友と呼んだ友人達、そして世界に対する裏切りでもある。
だが、男は後の世界を──人が自らの力で生きていく輝かしい世界を望んだ。
かくして火を消した男は最後の薪の王となった。
だが、彼を王と呼ぶには足りない者があった。
彼には自分を王と呼ぶ者達は存在しなかったのだ。故に男は孤独な王なのである。
それは不死であるが故に。
それは呪われた忌まわしき人間であるが故に。
彼は自分が消えようと思うまで、後の世界を時には見守り、時には舞台の役者として。
人々の営みを観測し続けていくのだろう。
彼は火の無き灰。それは、火を、命の輝きを求め続けるのだから。
本はそう締めくくられていた。
「私は驚いたよ。まさか、こんな時代があっただなんてね」
俺も吃驚だよ。
本当に誰なんだこれを書いたのは。
ロードラン、ロスリックと続けて書いてあるとか余計に分からん。
ロスリックで出会った人々で俺の事を知っている人間と言えば、あのパッチと鍛冶屋のアンドレイ、後はひたすらにトゲの鎧を纏いローリングし続ける変態カーク位のもの。
あの二人が俺の物語を書くとは到底思えないし、カークに至ってはロードラン時代からの敵対者だ。
その上、俺が火を消したことも書かれていた。あの場所には俺一人しか居なかったはずだが。分からないことだらけで頭痛がしそうである。
「……そうだな。それで? それがどうかしたのか?」
「単刀直入に聞こう。キミはこの本における主人公、最後の薪の王だね?」
「……。」
「沈黙は肯定と受け取るよ。この本を読み、キミの構築した篝火を見てピンときたのさ。それに冬木でのアルトリウスにフランスでのソラール。両名とも主人公の友として名前の挙がっていた人物だ」
確かに俺は火の無き灰であり、最後の薪の王だ。
だが、その名前に意味は既に無い。火の時代は終わりを迎え、新しき神々の時代を超えて今や人間達の時代なのだから。
「俺が薪の王だとして、何が聞きたいんだ?」
「そうだね。キミは寂しくはないのかい? いつも最後にはたった一人の人間になる。私がそうなったとしたら、きっと耐えられないだろう。人間は皆そういうものだよ。孤独は人にとって、少し冷たすぎる」
「まあ、確かに人間には孤独っていうのは耐えられないものだ。俺もそうさ。でも──ネロやタマモ。彼女達のような美しい輝きを放つ人々に出会えた。
今で言えば、そうだな。やはり君達カルデアの人々だな。皆と笑って精一杯生きた。その思い出があれば俺は寂しくはない」
「そう、か。うん、ありがとう」
彼は穏やかな顔でそう言った。
満足の行く回答であったのであれば幸いだ。少し気恥ずかしいものではあるが。
「それで、聞きたいことはそれだけか?」
「ああ、いや。後二つ聞きたいことがあるんだ。まずは一つ目。キミは、一人の人間が身を捧げて世界を救うことをどう思う?」
一人の人間の犠牲の上で成り立つ世界か。
それは救いではない、と俺は思う。勿論それは綺麗事で、理想論だ。世界はそんなに優しくない。
でも理想も語れなければそれこそ終わりだとも思う。
「そんなの決まってる。世界を救った人間がその後の平穏を享受できないだなんて、馬鹿げた話があってたまるか。例え綺麗事だ、理想論だと言われたとしても俺は意見を曲げる気はない」
「ふむ、いいじゃないか。私は嫌いじゃないよ。綺麗事だなんだとよく言われるけど、それで終われるのが一番なのだからね。それじゃあ二つ目。この人理修復の旅が終わったとして、キミはどうするんだい?」
この旅が終わったらとは、レオナルドも思い切った質問をするものだ。
まだ始まったばかりなのに終わった時の事を考えることになるとは思いもしなかったが、そうだな。この旅が終わったら──
「君たちが居なくなる、その瞬間までカルデアに残るよ。俺にとって君たちは既に特別な存在だから」
「……そうか。私たちはそんなにもキミにとって……。うん、私からは聞くことはもう無いよ。所長やロマニにこってりと絞られてくるといい」
そうか、そうだよな。
本心を話していて忘れていたがこの後地獄が待っているんだった。ちくしょう。
まあでも、彼に言って改めて決意できた。
カルデアの皆は誰も欠けさせない。それが例え欠ける運命にあったとしても。
今を生きる彼らには笑って、精一杯人生を生きて、次に繋がる何かを遺して欲しいから。
「──だってさ、ロマニ。キミが消えたらきっと、彼は悲しむ。だから少しくらい抗ってみてもいいんじゃないか?