『アルスとマリーはオルレアンに直接向かうそうだよ』
「そうですか。なら、こっちはこっちでしっかりとやらないと」
「はい! 必ず成功させましょうね、先輩」
アルスとマリーの無事も確認出来た事で士気も上がって皆やる気に溢れている。
向かうはオルレアン。ジャンヌ・オルタの居城。彼女を倒し、聖杯の回収を行えばこの特異点の修復は終了だ。
この特異点での旅も最終局面に差し掛かってきた、といったところか。
藤丸は目の前のワイバーンの群れを見据えつつ、勇ましく叫ぶ。
「先ずはファヴニールの元へと急ごう! ジークフリートには攻撃を届かせないくらいの心算でね!」
「任せな!」
クー・フーリンが獰猛な笑みを湛えつつワイバーンへと突進していく。
「よっと! 数だけは達者なもんだな全くよぉ!」
一突き、二突き。
槍を突き出せばワイバーンの心臓を穿ち確実にその数を減らしていく。
「クー・フーリン。貴様の討ち漏らしは私が受け持つ。──
エミヤが弓を投影し、アーチャーとしての力を遺憾なく発揮する。
クー・フーリンが打ち漏らし、竜殺しの力を恐れたのかジークフリートへと目掛けて一直線に飛ぶワイバーンを撃ち落とす。
「すまない、助かる」
そして出来た隙間をジークフリートが駆け抜けていく。
目指すは己が宿敵ファヴニール。ただそれだけを見据えて駆けていく。
前方にも左右にも敵は居る。だがジークフリートは走り続ける。
「吹き飛ぶがよい!」
「ぶっ飛びやがれ!」
周りの敵は必ず仲間が片付けてくれる。そう信じているからだ。
ネロとタマモが敵を吹き飛ばして最期の道を開く。
目前にはファブニール。ジークフリート達を視認したその瞬間には火球を放ち此方を睨みつけていた。その瞳には以前ジークフリートを見た時に在った怯えは微塵にも存在していなかった。
「さて。此処まで順調にたどり着いた訳だが、此処で一つ言っておこう」
「何を?」
「かつて俺はファヴニールを打ち倒しているが、その勝利は必然的なものではない。いくつもの敗北の中から見つけられない程の細い糸を掴み取った上での勝利だった」
「……つまり?」
「本当にすまないのだが、今回も勝てるとは限らないということだ。──だが、この一撃であの竜を沈めてみせよう」
「大丈夫だよ。貴方なら大丈夫だって信じているから」
そうか。とだけ返して頬を緩めるジークフリート。
そしてジークフリートの魔力が高まっていく。
「まだだ。まだ足りない」
「なら俺の魔力も使って!」
藤丸が令呪を使用し、ジークフリートへと魔力が流れていく。令呪は一日経てば一画回復する。通常は回復しないものであるのだが、そのような所もカルデアによる魔力のバックアップのお陰なのか、はたまたその特殊な契約方式の副作用なのか。カルデアの数ある特殊な一面の一つだ。
しかしそうなれば出し惜しみは不要。ここぞという所で使うべきなのである。
「これなら行けるか」
「後は任せるよ。よし、作戦通りにジークフリートの援護を頼むよ!」
「ああ。任せたまえ」
ジークフリートの隣を藤丸達が駆け抜けていく。
目の前の巨大な竜を睨みつけ、剣を握る手に力が入る。
今までの最大の一撃を。
フランスを蹂躙し続けていた邪悪なる竜を跡形もなく撃ち滅ぼす竜殺しの一撃を今此処に。
「行くぞファヴニール……もう一度地に還る時だ」
「──邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす──『
■
「──ッ!」
「これは……」
「どうやらジークフリートはやってくれたようだな」
現在マリーと二人、ジャンヌ・オルタの居城へと足を踏み入れたところだ。
此処までは敵襲もなく順調に進めているのだが、その静けさがかえって不気味だと感じさせる。
ジークフリートはファヴニールを無事打ち倒した。物事は順調に進んでいる。しかして気を抜けば待っているのは死。気をつけるべきだな。
薄暗い廊下を歩いていけば大きな扉を守るように立つ騎士が居た。太陽賛美をしながら。ふざけているのだろうか。
「──来たか」
「おい、そのポーズをやめろ」
「……。」
凄く、凄く残念そうにしながらソラールは太陽賛美をやめた。
シリアスに進めたいのであればそのポーズはダメだ。どうしてもネタに走っている感が否めない。
「ジャンヌ嬢との決着を着けにきたんだろう?」
「ああ。それで? お前は此処で少しでも戦力を削るように言われたってとこか?」
「まあ、な。とは言っても、貴公と白いジャンヌ嬢は通す。白いジャンヌ嬢は一緒じゃないみたいだがまあいいだろう。──黒いジャンヌ嬢を……頼むぞ」
ソラールがそう言って扉に手を掛ける。
金属製の扉が重い音を立ててゆっくりと開いていく。
その扉の先にはジャンヌ・オルタとジル・ド・レェの姿が見える。
彼らは俺を見て大層驚いていた。死んでいたと思っていたのだからそれも当然といえば当然か。
「ソラール……これはどういうつもり? まさか裏切った等と言い出さないでしょうね」
「まさか。この男と白いジャンヌ嬢以外はきっちりと足止めさせてもらうさ」
ジャンヌ・オルタの鋭い視線に対して、ソラールは極めて冷静に肩を竦めて此方に背を向けて扉を閉じた。
何だか自然な流れで一対二で戦う事ことになっている気がするのは気のせいだろうか。気のせいであってほしい。
「……いってしまいましたな」
「まあ、いいでしょう。どうせ最終決戦になるでしょうし」
「そうでしょうとも。さあ、ジャンヌ、共に戦いましょうぞ」
気のせいじゃなかったみたいだ。クソが。
とてもやりたくは無いがやらなければ死んでしまうので頑張るとしよう。復活するとはいえ、死ぬのは文字通り死ぬほど辛いのだ。
剣を構えて彼らを見る。
定石であれば明らかに後衛のジルから始末するところだが、彼の元へ辿りつくには彼の召喚した魔物を倒しつつ進まなければならない。
「たとえ旧知の仲であっても容赦なく斬り捨てると言わんばかりの殺気……相変わらずのようで」
「お前もな、ジル。相変わらずジャンヌにしか目が行っていない」
「褒め言葉です」
ダメだ、煽ったつもりなのに褒め言葉になってしまった。
舌打ちをしつつもジルの放った気持ちの悪い触手のようなものを斬り捨てる。
触手自体は柔らかく、まるで水でも斬っているのかと錯覚するほど手ごたえが軽いが、如何せん数が多く減っている気がしない。
と、ここで暫く様子見に徹していたジャンヌ・オルタが動いた。
「喰らえッ!」
「ぐっ……!」
剣を逆手に構え、そのまま振り下ろしてきたので左手に持つ短剣で迎え撃つも、彼女が炎を噴出することでダメージを負う。
左腕が焼け爛れ、激痛を訴えているが無視。消し炭にならなかっただけマシだ。
左腕を力なくダラリとしつつも高速で薙ぎ払う。
ジャンヌ・オルタにしっかりと防がれたもののこれで距離は稼いだ。この隙にエストで回復をしておく。
しかし、まだほんの少し打ち合っただけではあるがやはり厳しいな。迂闊に隙を晒せば消し炭にされる。
白いジャンヌはまだ到着しないのだろうか。
「どうですか、ジャンヌの力は」
「それはお前が一番知ってるだろうよ。そっちのジャンヌと一番長く居たのはお前なんだろうからな」
「ええ、そうでしょうとも。何せこのジャンヌは私が望んだジャンヌ。貴方の事が記憶からすっぱり消えていたのが不思議な点でしたがね」
彼の望んだジャンヌ。
確かに、彼女が死んだことにより狂気に侵されて猟奇的な事件を引き起こしたジルが望んだのは白い、俺のよく知るジャンヌではなく自分を裏切り、殺したフランスを憎み蹂躙することを望むジャンヌなのだろう。
彼の発言によってジャンヌが確信を抱いていた、俺が疑問に思っていた事も解決した。
以前聞いた時、突然癇癪を起こしたことからそれはほぼ確信に至っていた事ではあるが。
ジャンヌ・オルタはジルが聖杯に願うことで造り出された英霊だ。
彼女がそうであるのならば、俺の事が記憶に無いのも頷ける。
何故ならば、彼女は文字通りジルによって願い造り出された、フランスに憎悪を抱き復讐を誓ったジャンヌ・ダルク。
フランスに復讐するのに思い出など要らない。彼の発言からして恐らくは彼にとっても想定外の事なんだろう。
「馬鹿なことを……。彼女を想っているからといって彼女を造りだそうとしたのか、お前は」
「我ながら素晴らしい案であると思っていたのですがね」
何故彼は気付かないのだろう。
彼女はジャンヌであってジャンヌじゃないのに。それはただの彼のエゴに過ぎない事なのに。
ジャンヌ・ダルクを想うのであれば、彼女の選択を尊重するべきだ。決してそれを自分の意思で捻じ曲げるべきではない。
それを何故彼女を誰よりも想い、誰よりも近くで見守っていた彼が分かってあげられないのだろうか。
いや、想っていたからこそ、か。
だからこそ彼はジャンヌの死の原因であるフランスを許せなかったのだろう。
だからこそ彼はジャンヌ・オルタを作りだしたのだろう。
だとしても。
ジャンヌ・オルタはジャンヌ・ダルクにとって存在し得ない側面であり、恐らくはジルが願ったことにより、今回に限り召喚された特殊な英霊。
云わば贋作なのだ。
それを彼女が知ればどうなるのか。
答えは簡単なことだ。
「──ジル。それは本当の話なの……?」
「……はい。申し訳ありません。ですが──」
「黙れ! 私のこの憎悪は作り物……!? どうして、どうして……!? 私は……間違ってなんか──!」
自分がしてきたことへの意味を、意義を見失う。
それはそうだ。自分の過去が作り物であるのならば、彼女が行ってきたフランスの蹂躙に意味など無い。
「絶えぬ復讐心を、憎悪を消し去りたいから私はフランスへの復讐を始めた! きっと救われるはずだと、そう信じていたから!」
ジャンヌ・オルタの魔力が異様に高まっている。
聖杯のバックアップもあるからか、それはいっそ清々しいまでに暴力的で今もなおビリビリと肌を刺す。
「──なのに! それを貴方が否定すると言うのか!! 『
表現するのならば、あのアルトリア・オルタのような黒き極光とは正反対のただただ暗い、闇の如き黒い炎。彼女の内にある憎悪のようにどす黒い恐ろしい炎。
ただ、それを放った彼女の顔は今にも泣いてしまいそうな子供のようで。
「う、おおおおおぉぉッ!!」
避けることも、防御することも出来た筈なのに、思わずその炎に正面からぶつかっていた。受け止めるべきだと何故か思っていた。
痛い。熱い。今すぐにでも逃げ出したい。
だけど逃げない。俺の知るジャンヌ・ダルクとは別人であったとしても関係ない。今にも泣き出しそうな顔をしている彼女をそのままにしておくだなんて出来ようか。
きっとそれはかつての自分と重なったからなのだろうか。
オスカーに救われたばかりの頃の自分と。
ただ、使命を果たせば世界も、自分も救われるのだと思い、ひたすらに突き進んでいた自分と。
「な、なんで……なんで耐えられるのよ……」
「……さあな。一度死んで耐性でもついたのかもな。──さて。竜の魔女、ジャンヌ・ダルクよ。これから俺はお前に二つの選択肢を与えよう」
「選択肢……?」
「ああ。一つ、ここで俺に殺される」
まあ、却下だろうが。誰だって嫌に決まっている。不死である俺でも嫌だ。
万が一これを採用されるとそれはそれで困る。
「却下」
「だろうな。二つ、俺と契約してサーヴァントとして俺と旅をする。……どうだ?」
きっと、ロマンもレオナルドも反対するだろう。
いや、カルデアのスタッフ達も、もしかしたら藤丸達も反対するかもしれない。人々を殺しまわっていた訳だから。
それでも俺は彼女と契約するべきだと思ったのだ。
俺が旅の中でネロやタマモを始めとした大事な人たちと出会った様に、彼女も自分が大事だと、守りたいと思える何かを見つける事がきっと出来る。
彼女が忌まわしい、作り物の憎悪するに値する過去しか持っていないというのであれば、大切にしようと思える想い出を。
贋作である彼女はフランスで自分が死んだということしか経験していない。だからその憎悪も、復讐心も潰えることはない。きっと、彼女が消え去るその最期までそれはなくならないのだろう。
でも、そんな復讐や憎悪に塗れた生涯だったとしても、いい人生だったと笑える最期を迎えられたのであれば、それはとても、とても幸福なことだ。
英雄達は皆悲惨な最期を迎えているが、それでも彼らはそれでよかったと言う。
悔いが無かった訳でもない、やり残したことがないわけでもない。それでも彼らは俺に笑いかけて逝ったのだ。
そんな最期を迎えるために、彼女はこの旅を経験するべきだ。
「だから──俺と来い、
当初書いていたときは8000文字超えてました。
その癖訳の分からない展開に発展したので削りに削り書き直しました(震え声)
そして書き直したにも関わらずこの急展開。僕の文章力ではこれが限界でした(白目)
次はフランス後日談と幕間の物語になりますかね。多分きっと特異点は幾つか飛ばすとおもいます。じゃないと完結しない未来が見える。
そういえばLast Encoreが放送開始しましたね。色々と気になるところではありますがEXTRAファンとしては嬉しいものです。ネロはいいぞ……。