今回は試験的に三人称です。読みにくかったり、文章がイマイチだなと感じたら容赦なく言ってください。因みに心は硝子で出来ています。
「『太陽の槍』ッ!」
「お前それ他の不死に当たるのか?」
「そういえばあまり当てたことは無いような気がするが言うな!!」
距離を離せばソラールが太陽の槍を投げ、近付けばジャンヌ・オルタとランスロットが切りかかってくる。
敵ながら見事な連携力だ、とアルスは思いながらもソラールを煽る。太陽の槍は予備動作も相まって避けやすいから仕方ない。
左手にアヴェリンを取り出し、ソラールに向けて乱射する。芸術品と呼ばれても違和感の無いアヴェリンだが、実際使ってみるとかなりの戦闘能力を発揮する。重いのが難点ではあるがそれを踏まえても高い威力と連射速度は脅威である。
右手には呪術の火を装備して混沌の苗床を投げつけたり、ソラールが近付いたりすれば発火などで対処する。アルスとしては珍しい戦い方ではあるが新鮮で楽しいと感じている為にいい笑顔であった。
「貴公は本当に何でもできるな!? 多芸すぎないか?」
「いや、これは筋力と技量が高く、ちょっとの理力があれば誰だって出来るが……」
アルスは器用貧乏である。万能であるといえば聞こえはいいが、一人で全てを補おうとした結果全てが人並みかそれ以下の成果しか出せなくなってしまったのである。それでも彼のソウルレベルは130程であり、経験も豊富であるが故にかなりの戦闘能力ではあるのだが。
だが、筋力と技量はそこそこに高いが特化型には敵わない。魔術にしてもそうだ。大抵の魔法使いのステータスは理力がかなり高く、また魔力を担う集中力もかなり高い。
「……まさか貴公、アレか。一人でなんでもできるようになろうとした結果器用貧乏になってしまったとかいう――」
「死にたいようだな。よし、望み通りに殺してやるから首を出せ」
アルスは激怒した。誰がぼっちかと。
ソラールはそんな事は一言も言っていないのだが、アルスにはそう聞こえた。お前白霊すら呼べないくらい友人居ないのかと。
確かに友人は少ない。少ないがぼっちはあんまりである。そして数少ない友人のソラールにぼっちと言われたこの悲しみはどうしてくれようか。
「被害妄想も甚だしいな! 心荒みすぎじゃないか!?」
「やかましい。面倒だからとっとと退け」
ファヴニールの相手は一人でも十分可能だ。とは言え自分一人だけが助かっても仕方が無いのだ。是非とも退いてもらいたいというのがアルスの心境であった。
ソラールが煽られたりアルスのぼっち疑惑が浮上したりと何だかんだと有ったが、連携力ではカルデア側も負けてはいない。
「炎天よ、奔れ!」
「まだまだいくぞッ!」
「Arrr……!?」
タマモの呪術は対魔力を貫通して相手を戸惑わせ、ネロの剣による鮮やかな連撃は敵に攻撃の隙を与えない。
「甘い!」
「チッ、無駄に守りだけは堅いですね本当に!」
「オラオラァッ! 俺を殺したきゃ倍は持ってくるこったな!」
「同感だ! この程度宝具を使うまでもあるまいよ!」
ジャンヌは持ち前の守りで敵の攻撃を一切通さないし、エミヤとクー・フーリンは怒涛の勢いでワイバーンを倒していき、ファヴニールにまでその攻撃を届かせる。ファヴニールを傷つけるまでには至らないものの、正に一騎当千の英雄と呼ぶに相応しい戦いぶりであった。
これは負けてられないとアルスは気合を入れて目の前のジャンヌ・オルタとソラールを睨みつけ斬りかかる。此処でアルスは疑問に思う。
彼女は此処、フランスで自身と過ごしたことやジルと過ごしたことを覚えているのか、と。
数回打ち合い距離を取った後、それを隣に居る自身のよく知るジャンヌにそれとなく言ってみれば、確かに気になると返事が返ってくる。
それもそうだろう。アルスはジャンヌと生前から面識があり、更に彼とは仲が良かったのだ。故に彼を目にすれば何か反応があると思っていたのだが、ジャンヌ・オルタはまるで見知らぬ他人のように接してくる。これは是非とも聞かねばなるまい。
「黒い私。もう一度聞きます。貴女は本当に私なのですか……?」
「しつこいわね! そうでなければ何だというのです?」
「貴女が本当に私であるのならば彼の事を覚えているはずです! 生前の記憶も持っているでしょう? 何か思うことはないのですか?」
「はあ?そのような男に見覚えなど――え……?」
ジャンヌ・オルタは失笑した。
白い自分が血迷ったことを言い出したと思えば、生前に目の前の男の事を覚えているか等と。聖女が親しくしていた男性など精々ジル・ド・レェが精一杯だった筈だ。
だというのに、目の前の男に関して記憶を探れば身に覚えの無い記憶がフラッシュバックする。笑う聖女と男。それを微笑ましげに見守る元帥。
ジャンヌ・オルタは混乱した。
ジャンヌ・オルタとして召喚された自身の記憶ではなく、聖女として在ったジャンヌ・ダルクとしての記憶。どうしようも無く愛おしいと感じる日常の記憶が頭を過ぎる。
心がまるで嵐にでも会ったかのように荒れる。憎悪に満たされた心にほんの少しではあるが温かさを感じてしまったのだ。
「何……これ……知らない、わ、たしこんな……あり得ない、あり得ない。知らない……!」
「ジャンヌ嬢……」
「これは……」
「――どうやら、前から思っていたことが現実になりそうですね」
ジャンヌ・ダルクは確信した。
目の前で苦しむ自分は自分ではない。確かに自分を殺した者を恨んでいないと言えば嘘になるかもしれない。だが、それでも共に戦ったフランスの民達を殺すとは思えないし、かつて皆で過ごした温かい日常の思い出があれば、ジャンヌ・オルタのようにはならない。
「うるさい……うるさいうるさいうるさい! あり得ない、ええあり得ませんとも。――ファヴニール。こいつらを焼き尽くせ!」
「ジャンヌ、どうやら相手の神経を逆撫でしてしまったようなんだが」
「そのようですね……ならば此処は私の宝具で耐えましょう」
ジャンヌの魔力が高まっていく。
彼女は通り名であった『
「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ――」
それは彼女が同胞と認めた者を守るモノ。
彼女のシンボルとでも言うべき旗が輝きを放つ。何と神々しい光であることだろうか。神など碌な奴が居ない、関わらないほうが良いと日常的に吐き捨てていたアルスですら思わず見惚れてしまう程の美しき光。
「
ファヴニールの炎がアルス達を飲み込まんと襲いかかる。
だが誰も動かない。動く必要がない。
彼女の旗は彼女の心が折れない限りは負けない。負けるはずが無いのだ。
たった三十秒。彼女からすれば長い時間だっただろうか。彼女はファヴニールの炎をものともせず防ぎきったのだ。
「くっ……やはり厳しいですね。ですが何とかなりました……!」
「ファヴニールの炎すら防ぐか……! ジャンヌ嬢はつくづく持久戦に向いているな……!」
「そりゃそうだ。彼女は優しいからな。守りの方が向いているに決まっている」
からからとアルスは笑って言う。
そも、彼女は生前から指揮官として活躍していた。白兵戦はそこまで得意ではない。精々護身程度に武術を修めていた位のものだろう。戦場に在って血に塗れる事に怯えず、自らの行いによる犠牲にも目を逸らさない心の強さ。それがジャンヌ・ダルクが聖女として最後まで戦えた理由の一つなのだ。
「そうだな。ファヴニールを相手に一歩も退かないその姿勢には感服する。そして――すまない。貴方達が持ちこたえてくれたお陰で宝具一回分なら魔力が回復した。此処は俺に任せて欲しい」
防ぎきったと同時にジークフリートの魔力の回復も完了する。
ファヴニールはジークフリートを目にした途端にどこか怯え、それ故に目の前の男から逃げようとするも身体が動かない。そのような状態に陥る。
それもそうだろう、ジークフリートはファヴニールを倒した大英雄。ファヴニールにとっての天敵なのだから。
「ジークフリート……!? くっ、退きますよソラール、ランスロット!」
「承知した! しかしランスロット殿は話を聞くかどうか分からんぞ!」
「聞かないようであれば捨て置きなさい! ここで全員やられて消えてしまうよりはマシよ!」
ジャンヌ・オルタ達が騒がしいがどうでもいい、とジークフリートは考える。
自分にとって今、やるべきことは目の前に再び現れた邪竜を打ち倒すこと。ならばこの身体がどれだけ傷つこうとも立ち上がって見せよう。あの炎を防ぎきった聖女のように。
「貴様と再び見えることになるとはな。ファヴニールよ、俺を覚えているな? 貴様が二度蘇るのであれば二度打ち倒そう。行くぞ――」
「――『
■
「――逃がしたか。すまない……ぐっ」
ジークフリートが放った宝具はファヴニールに届くことは無かった。だが、ジャンヌ・オルタ達を退けることに成功したのだ。
皆が気にするな、よくやってくれたと声を掛けるがジークフリートは身体の痛みでそれどころではなかった。どれだけ治療を施そうとも癒えない傷。何とも不気味なものであるが、ジークフリートはこのままではまともに戦えないと満場一致で判断する。
「取りあえず、此処から少し離れたところにある砦で彼を休めましょう」
『ジャンヌの言う通りにしよう。皆も消耗していることだし休息をとった方がいい』
「ですね。俺はジークフリートの回復を試みていただけですが、相当な激戦だったようですし」
「もう当分ワイバーンは見たくなくなるくらいには倒したな」
げんなりとした顔をしながらクー・フーリンはごちる。確かにそうだとアルスは同調する。しかし同調した上で良かったなクー・フーリン。まだまだおかわりはあるぞ、と声を掛け、急速に目が死んでいく様を見届けた。とんだ畜生である。
ソラールを煽り始めた辺りからはっちゃけ始めたアルスに一行は少し引きながらも着々と足を進めていき、何事もなく砦へと辿りつく。
各自で思い思いに休みつつ、話題はジークフリートの傷についてに移り変わる。移動中、ジークフリートはマリーの宝具のガラスの馬に乗せてもらっていた。そのマリーの宝具は傷を癒す効果があるのだが、一向にジークフリートの傷が癒える気配はない。不審に思ったタマモがちょっと失礼、と声を掛けてジークフリートを診る。
「……これは呪いですね。それも飛びっきりの。わたくしでも解呪は難しい代物とは……」
分析が終わり、呪いであると判明したのはいいものの解呪が不可能な代物だった。力になれず申し訳ありませんと謝るタマモ。
聖人であるジャンヌも診てみると、成る程、これを一人で解呪するのは難しい。もう一人の聖人と共に洗礼詠唱を行う必要があるという結論に至る。
アルス自身、呪いを解くのに有用なアイテムに心当たりがあった。その名も解呪石。そのままである。
解呪石を使いさえすればジークフリートに掛かった呪いなど瞬く間に解けるだろう。しかし、彼が今まで旅をしてきた中で解呪石が必要になる場面が無かったので数少ない友人の一人に全て丸投げしているのである。その友人は自身の能力を上げるためにわざと亡者化し、ある程度進行したら解呪石を使い亡者化から逃れるという日々を送っていた。故に現在アルスの元に解呪石は無い。こんなことがあるのであれば丸投げなどしておかなければ良かったと心底後悔している。
それを聞いてジークフリートは落胆した。折角救ってもらったにも関わらず、恩を返せないというのは悔しいという一言に尽きるのだ。
「これじゃあ咄嗟に匿って貰ったあのサーヴァントに会わせる顔がないな……」
「マルタ、は情報として持っていただけだから違うか。ソラールでもないだろうし……」
「そういえば、どことなく高貴な雰囲気を纏っていたな」
「と、なればヴラド三世であろうな」
ジャンヌ・オルタの様子がおかしくなりつつあるのもあって、ヴラド三世は護国の将としての誇りを思い出すことに成功したのか。はたまた呪いに苦しむ様を見て遊びが過ぎただけなのか。詳細は分からないものの感謝すべきだろうとアルスは思案する。次会った時にまだ血が欲しいだの、魂を貰うだのと言うのであれば礼と同時に剣を贈らせてもらおう。そう考える彼の顔はとてもイイ笑顔であったという。
そこでふと思案顔に戻ったアルスは疑問を口にする。
「……なあ。聖人を探すのはいいんだが、もう時間もないだろう。どうするんだ?」
アルスの言うことはもっともである。
既にフランスの領土は半分以下となるまでにジャンヌ・オルタの影響が及んでいる。捜索自体はそれ程難しくはない。だが、それ程にまで影響が及んでいるということは即ち、フランス国家の崩壊が近いということである。集団で固まると戦力的には十分だが速さが致命的に足りないのだ。
「なら、今こそくじを引きましょう!」
「……はい?」
そうきたか。唐突に何を言うかと思えばくじ引き。マシュの返事がそうなるのも仕方が無いとアルスは顔を引き攣らせた。
だが、考えてみるとどうだろうか。案を練っている時間も惜しい現状で素早く分けられるくじ引き。成る程、悪く無い。
マリーの鶴の一声でくじでグループを分けることになった。因みにくじの製作はアマデウスである。彼の扱いの雑さは最早見慣れたものではあるが、もう少し扱いを優しくしてあげてもいいのではないだろうか。どうか彼には強く生きて欲しいものである。
最近主人公の性格がぶっとんできている気がしますが気にしない(白目)
あと、コメントにて解呪石についてお話を頂いたので加筆いたしました。