マルタの情報によればはぐれ英霊がリヨンに居る。そのリヨンに居る英霊がファヴニールを倒すために必要なジークフリートであるかは分からないが、一行は味方を増やすべくリヨンへと向かっていた。
「あと少しでリヨンか。ロマン?」
『うーん、残念だけど人が生きている様子は無いね。サーヴァントがそんな場所で留まっているとは思えないけど……』
「そうか……。まあ、取り敢えずは行ってみるしかないだろ」
基本的にジャンヌ・オルタに召喚されていない英霊は彼女達と敵対しているのでフランスの人々を守ろうと動いていた。既に滅んだ街に滞在する理由は無いはずだと言うロマンの言い分はもっともであるが、カルデアの索敵に引っかからない英霊も居る上に何らかの理由で留まっている可能性もある。リヨンに向かわない手は無いのだ。
「風が気持ちいいですねご主人様!このような状況でなければ二人でピクニックなど楽しめましたのに……」
「あー……一応、修復に関係なくレイシフトは出来るからピクニックに行くのなら別の場所にした方がいいと思うぞ。許可無く行くのは流石に不味いから申請しなきゃならないが」
「みこっ!? 本当ですか!? なら、帰ったら早速申請してくださいまし! わたくし、新婚旅行にロンドンなどいかがかと思っていた所なのです!!」
「……帰ったらな」
楽しげに話すタマモ。それをジト目で見つめる人物が一人。言わずもがな薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウスその人である。
ネロは基本的には自分が大好きである。しかし、同時に他の人々も大好きなのだ。タマモとはライバル故に争うことも度々あるが、俺とタマモが楽しそうなのは良いことであると笑顔でその会話を眺め、隙あらば自身も参加する。彼女はそういう性格をしているのだ。
だが、ネロには不満なことがあるのであった。
「むむむ……! 奏者よ! 余が居るにも関わらず二人きりでピクニックの計画を立てるとは何事か!?」
そう、ネロには二人きり、というのが気に入らないのであった。メインサーヴァントであり、伴侶である自分を差し置いて二人きりでピクニックなどどういうつもりなのかと。
これにはタマモも顔を顰める。
「普段は構い倒してもらっているのに何をいいやがりますか! わたくしが手にしたかった幸せを全部持っていったのにまだ足りないと申しますか。わたくしにも幸せをかみ締める権利はあるはず!」
「なにおう!?」
二人の言い争いは激化していく。藤丸達は藤丸達で談笑しつつもしっかりと此方を無視しているので助けを求めることも出来ない。この状況を一体どうしろと言うのか。どちらか片方の味方をするわけにもいかないが、代案が浮かぶわけもなく。正しく詰んだ、という状態である。はぁ、と溜息を吐いて空を仰ぐ。いい天気だなあ等と現実逃避をしながら。
『おっと、修羅場の所申し訳ないけどサーヴァントの反応を検知。かなり弱ってるみたいだ』
「引っかかったのか。よし、先を急ぐぞ」
下手に口を出すと大変なことになる。そう知っていたために無言を貫いているとロマンから弱ってはいるが英霊がレーダーに引っかかったと報告が入る。
これが好機と言わんばかりに先を急ぐと二人に声を掛けると二人は顔を見合わせて頷き両隣を歩く。タマモもネロも空気を読む位はするのだ。
リヨンにやってくると、報告にあった通り、街は破壊され人一人居ない場所となっていた。ロマン達が感知した反応を辿り、周りの建物よりも一際ボロボロになっている建物に入る。すると、そこには大柄の男が座り込んでおり、此方を視認すると明らかな敵意を瞳に宿し、苦しそうな表情をしつつもその手に持った大剣で切りかかってくる。
「また懲りずにやってきたか……!」
「待て! 俺達は敵じゃない。フランスを救おうとする側だ」
「何……?」
剣を構えたままではあるものの、男は摂り合えず話を聞く体勢を取る。事情を説明すれば申し訳なさそうな表情ですまない、と一言。
「俺はジークフリート。此処に召喚されたはいいが、事情もどうすればいいのかも分からず、取りあえず襲われている力なき人々を守っていたところだ。……つい先程、負けてしまい負傷したのだが」
「俺はアルス。アルス・ルトリック。隣に居る二人のマスターだ。お前がジークフリートか。無事で良かった……。」
ジークフリートを探すべく行動を開始してすぐに見つけられるとは幸先がいい。これで対ファヴニールの手札が揃った。ジークフリートが回復すればカルデア側にも勝機はあるだろう。そう考えてジークフリートを回復させようと奇跡「大回復」を使用するも何故かジークフリートに効果は無かった。ジークフリートはすまない、本当にすまないと繰り返し謝罪していたが気にするなと言っておく。確かに魔力の消費は大きいが、俺は基本的に剣を振るい戦うが故に魔力の消費はそこまで痛くはないのである。
『――そこから今すぐ離れて!サーヴァントの反応が三つとサーヴァントですら小さく見える程の大きな反応が一つそちらに向かってるわ!』
オルガからの報告に驚愕する。
英霊すら凌駕する存在ともなるとそれはもうワイバーンやキメラ等とは比べ物にならない幻想種だ。俺達が持っている情報からするとそれは恐らくファヴニールなのだろう。
ジークフリートも回復していない今、ファヴニールの相手をするのは自殺行為に等しい。満場一致でリヨンから離脱することになった。
「ハッ、あくまでも逃がさねえってか?」
「全く、呼ばれて早々厳しい戦いになりそうだな……!」
此方に向かって高速でやってくるワイバーンを見てクー・フーリンとエミヤが愚痴を零す。ワイバーン程度、今居る面々には雑兵に等しい。だが今此処でワイバーンの相手をするとファヴニールに追いつかれる。
どうしたものか、と考えていると背中に悪寒が走る。英霊達の気配を感じワイバーンの群れを目を凝らして見る。よく見ればワイバーンの中に良く見れば人が二人程乗っているのが見えるではないか。黒い鎧姿の騎士にバケツのような形をした兜を被り、普遍的な鎧を身に着けてはいるが太陽のシンボルマークが描かれている為に唯一にして無二の存在となった鎧。
「Arrrr…thurr…!!!」
「……貴公、ジャンヌ嬢と誰かを間違えてないか? 足止め役を買って出たはいいが……これは話を聞かなさそうだな」
黒い騎士の方は確かランスロット。理性が微塵とも感じられないが恐らくバーサーカーとして現界しているのだろう。ジャンヌとアルトリアを間違えているのか、ジャンヌにしか目が行っていないのでそのまま相手をしてもらうことに。
太陽の騎士はロードランにて出会った太陽の戦士、ソラール。朗らかで情に厚い性格をしており、彼の地では世界が重なって出会うことも多く、自身の友とした人間の一人。まさかジャンヌ・オルタ側に呼ばれているとは思いもしなかった。
しかし、この二人が居るお陰で離脱が難しくなってしまった。こうなっては仕方ない、ファヴニールに追いつかれない事を祈りつつ二人を片付けてしまうことにした。タマモには防がれたときのカバーを、ネロには背後からの強襲を目配せしてソラールに襲い掛かる。
「久しいなアル――」
「ああ、久しぶりだなソラール! そして悪いが早々に死ね!」
これは酷い不意打ちだ、と藤丸から聞こえた気がするが気のせいだろう。そもそも知り合いであっても敵だと分かっていれば俺に容赦など存在するはずも無い。ソラールに限った話ではないが、ロードランで周回を重ねた際に出会った人物達は軒並み能力が上昇しているのだ。その状態であるのならば手加減などしていては此方が殺される。故に全力で殺しに掛かるのが正解だ。
「相変わらず容赦が無いな貴公! しかしなんだ、あの頃より変わったな。こう、柔らかくなったというか。そこのお嬢さん方のお陰か?」
「……チッ。まあ、そうかもな。二人とも俺を唯一のパートナーと認めてくれた素晴らしいヒト達だ。」
前後からの不意打ちに驚くことも無く防ぎきったソラールに舌打ちをする。彼は最期、太陽虫に寄生され此方に襲い掛かってくるので、まともに相手にするのは面倒だ。よし、じゃあ後ろからバックスタブだ。と、毎回不意打ちでバックスタブを決めて殺していたのだが、それの所為で不意打ちに慣れきってしまったのだろうか。これは反省しなければならないだろう。
そんな彼も最後の周回では寄生される前に太陽虫を倒すことに成功し、寄生されずに生存した。もっとも、最初の火の炉で白霊として召喚して以降、行方も知れぬままにロードランを去ることになったのだが。
「ほう。あの貴公がなぁ……。うむ、貴公が人並みの幸福を見つけたのはいいことだ。しかし、最初の火の炉で貴公と戦った時に比べ随分と力量が増したな」
「……そうか。お前は火を継ぎ、次の薪となる者を待ち受ける亡者となった俺と戦ったのか」
これには驚愕する。
ロードランで火を継いだ者はグウィンのように、火を奪わんとする者への防衛機能として、もしくは次に薪となる者を薪とするに値する者かを試す壁となるべくその場に佇み続ける。ソラールの世界ではその壁が俺だったのだろう。
「そうとも。貴公はただ、世界の終わりまでを引き伸ばしたに過ぎずとも、世界を存続させようと戦い続けるその在り方は俺の目指した太陽そのものだった。だから、オレも貴公と同じ道を歩んでみようと思ったんだ。それに、オレは今、英霊として座に登録されているからこそ知った。幾度も幾度も貴公がオレを殺し、それでも最後にはオレを確かに救ったのだと」
きっと彼は最初の火の炉で俺と戦い、そして打ち勝ち、自らを薪とした。だからこそ今この場に英霊として存在しているのだ。
自身の知る限り、ソラールという人間は英雄として名を残すような人間ではない。確かに太陽のように大きく、熱い男ではあったがただそれだけの平凡な男だった。だが、俺の在り方が彼を英雄たらしめんとしたようだ。
言葉を交わしながらも戦闘は続いていく。
「やはり奏者は遥か昔から変わっていなかったのだなっ! 余は嬉しい!」
「これでも随分と変わったつもりだが!」
「おぉう、相変わらず重いな貴公の剣はッ!!」
ネロとの猛攻をものともせず、それどころか応戦までしてくる始末。彼にも狂化は掛かっているが、それを感じさせないのはどういうことなのか。彼はそれ程剣の技量が高いわけでも無かったはずだが。
「ハハハハッ! 我らのように長く生きた不死人が狂化如きで変わる訳がない。貴公にも身に覚えがあるだろう? そも、ただの人間であったオレ達が何度も何度も死を味わう事に耐え切れるわけがないさ」
成る程。
ソラールは自分達不死者が既に狂っていると言いたいらしい。それはもっともなことである。アルトリウスのような強靭な精神を持っている訳も無く。ただの人間であった自分達が殺し、殺されを繰り返す。そんなもの耐え切れる訳がない。
『まずい、もう反応がすぐそこまで来ているわ! 早く退避を――』
「無理だ。逃げられない」
ジャンヌ達はジャンヌ達でランスロットに手こずっている。円卓最強の名は伊達では無いということか。此方も此方でソラールが鉄壁の守りを展開している。彼自身はただの時間稼ぎと割り切ってあまり攻めてこないのが何ともやり難くて仕方がない。
故に逃亡は不可能と判断した。背中を見せれば彼らに対して致命的な隙を晒すことになる。
『何とかならないの!?』
「――一応、アテが無いこともない」
後方に隠れているジークフリート。彼が一度でいい、宝具を使用できれば逃げるチャンスはある。
「藤丸くん! ジークフリートの様子を見て宝具を使える様になるまで回復を。此処は俺達で持ちこたえる……!!」
藤丸に叫んで指示を出せば彼は頷いてジークフリートの元へと向かった。此方に切り札が居ることがバレてしまうがそれは問題ない。
「成る程。ジークフリート殿が其方に居るのか。……ジャンヌ嬢、これは不味いんじゃないか?」
「これで退いてくれるのであれば楽なんだが」
「そういうわけにも行くまいさ。オレ達は貴公らの敵なんだからな」
「だろうな」
咆哮の衝撃がビリビリと肌を刺す。
あまりに大きな音に平衡感覚を失い思わずふらつきそうになる。
「……来たか」
それはあまりにも強大だった。
それはあまりにも邪悪だった。
多くの英雄を屠った邪竜。その存在を目にしただけで勝てないと思わせる風貌。
――だが、それだけだった。
足りない。自身を葬るにはあまりにも足りないのだ。
藤丸を葬るのであればその爪先で撫でるだけで事は終わるだろう。
英霊を葬るのであればその口から放たれる熱線だけで事は終わるだろう。
ただ――自分に恐怖を抱かせる程ではない。心が折れそうになるほどの恐怖が足りないのだ。
火力は自身を殺すのには申し分ない。だが身体は動く。ならばそれを防ぐなり避けるなりすればいい話だ。
ファヴニールを自身の手で倒すことは出来ない。だがこの程度のものであるならば時間稼ぎは十分に可能だ。
「――何だ、話に聞いたよりも随分とマシだな」
「あら、もう一人のマスターが居ないようですが……まあいいでしょう」
「ああ、そうとも。お前の相手は俺達だ」
後方にはマシュと藤丸、それにジークフリートが居る。
恐らくジークフリートの回復にはまだ少し掛かるだろう。彼が宝具を撃てるまでに回復すれば此方の勝ち。それまで持ちこたえてみせるとも。
「出し惜しみはしない! エミヤ、クー・フーリンとマリー、アマデウスは周りのワイバーンを落とせ! 宝具も使って大丈夫だ! 俺とジャンヌ、ネロ、タマモは敵サーヴァント及びファヴニールの相手、全力で掛かるぞ……!!」
ダクソシリーズで主人公はやべーやつらと戦ってますからね、きっとこの態度も仕方ないです。はい。
一人称視点で書いていると主人公の心理描写だけで物語が進行しがちなのを直さないといけないなと思いましたまる
一度三人称視点で話を書いてみるのもアリだと思っているので、次回は一回三人称で書くかもしれません。その話が不評であれば一人称で書き直して、と言った感じにしようかなぁと。