Fate/Grand order 番外・六乗魔王王国シガ 作:NoN
人混みを越え、門の向こうへと飛び出した立香たちが見たのは真っ黒な大地だった。
──否、そう錯覚しそうなほどに大量の"何か"が蠢く大地だった。
先ほどまで二人が歩いてきたとは思えないほど、真っ黒に染まった荒野。
空を見れば、ぽつぽつと野生動物とは思えない何かも宙を飛んでいる。
まるで濁流の様な軍勢は、街を丸ごと飲み込むほどの勢いで迫っており、剣や槍などを持った戦士たちが辛うじて押しとどめているのが現状だった。
まずい。そう、すぐさま立香は直感する。
「これは……マシュ!」
「マシュ・キリエライト、突貫します!」
身の丈ほどの十字の盾を手にマシュが軍勢へと突貫する。
本来は防御が得意なマシュを攻撃に回すのはあまりよくないことだったが、そんなことを言っていられる状態ではなかった。
軍勢に突撃したサーヴァントの身体能力で盾を振り回し、突き進む軍勢を蹴散らしてゆく。
それを確認した立香は、パスを通じて軍勢に踏み込み過ぎて孤立しないよう彼女に注意してから、右手をまっすぐに伸ばして人差し指を軍勢へと向けた。
立香の着ている新しい魔術礼装、カジュアル・スタイル。
その礼装には、立香が着る他の魔術礼装と同じように、いくつかの魔術が発動できるような仕組みが施されている。
立香は、その一つである魔術を発動させようとしていた。
それは、北欧神話の魔術。一説には、人差し指を相手に向けてはいけない、という習慣の原因の一つともされる呪い。
「ガンド・フィンの一撃!」
カルデアから供給される大量の魔力、それが物理的な呪いの弾丸となって、立香の指先から高速で射出される。
呪いの弾丸は戦士たちに迫る軍勢の前列へと着弾すると、まるで爆弾の様に炸裂し軍勢を吹き飛ばした。
魔術礼装カジュアル・スタイルが持つ第一の魔術にして、切り札ともぴえる一撃『ガンド・フィンの一撃』。
別の魔術礼装カルデア戦闘服に備えられたガンドの魔術とは異なり、この『ガンド・フィンの一撃』は物理攻撃に特化したガンドとなっている。
場合によっては防御系宝具を持つサーヴァントすら不調にさせるカルデア戦闘服のガンドを、物理的な衝撃を与えることに特化させたものがこのカジュアル・スタイルのガンドだ。連射すると礼装そのものが崩壊するために連射できないという弱点こそあるものの、その一撃はサーヴァントにすら通用するものとなっている。
マシュに指示を出しながら、立香は礼装を休ませつつガンドを軍勢へと放つ。
休んでいる暇はない。敵は、地平さんを埋め尽くすほどにいるのだから。
二時間。
軍勢との戦いが始まってから、二時間を過ぎた。
それでも、まだ戦闘が終わる気配がなかった。
戦士の人達と協力して、どうにか軍勢を押しとどめ続けるものの、一時間を越えて、二時間を越えてもまだ、軍勢には終わりが見えなかった。
「くっ、きりがない」
倒しても倒しても、まるで減った気がしない。
いや、減ってはいるのだろう。減ってはいるが、それが感じられないほどに敵の軍勢の規模が大きいと言うだけだ。
多少疲れはあるが、立香もマシュもまだまだ戦える。
問題は……
「カーターさん!」
「ぐっ!」
軍勢に吹き飛ばされたカーターが、傷だらけで地面を転がる。
咄嗟に立香はカーターを吹き飛ばした軍勢のうちの一体──翼を生やした人型の魔族にガンドを撃ち込み、その周囲にいる軍勢ごと吹き飛ばす。
「■■■
「■■■
ガンドで開けた空間を広げるように、周囲の魔族目掛けて多数の魔術が放たれる。
それらのほとんどは、魔族に命中する直前に闇色の波紋に逸らされたが、いくつかは魔族を吹き飛ばして軍勢を押しとどめた。
「待ってろカーター、すぐ治す。■■■■■■ ■■■ ──」
カーターに近づいた黒いローブを羽織った男が、何か呪文を唱え始める。
おそらくは治癒の魔術を使おうとしているんだろう。
そうなると、カーターが治るまでは誰かが軍勢を抑える必要がある。
「マシュ!」
「了解です、マスター!」
軍勢の向こう側、単身軍勢の中で戦っていたマシュが、魔族たちを飛び越えて戻って来る。
そしてガンドと魔術の連打によって開けた空間に陣取り、盾を振り回して軍勢を吹き飛ばした。
「──■■■■■■ ■■■
「ありがとう、十分だ」
ある程度怪我を癒したカーターが、立ち上がって戦うために剣を取った。
「リッカ、マシュ、ありがとう。代わろう」
「わかった。マシュ、一旦戻ってきて──」
──ほう、面白いのが混ざっているな。
軍勢の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。
忘れもしない、あの背筋が凍るような声──!
軍勢の奥で、黒い光が立ち上った。
「この光は……」
「先輩、来ますっ!」
軍勢を巻き込んで放たれる斬撃。
宝具、ではない。あのすべてを飲み込む様な極光ではない。
斬撃の先にいたマシュがとっさに盾を構えたが、斬撃の圧力に耐えきれず吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。
うまく受けたのか怪我はなさそうだけど……。
数多の軍勢を緩衝材にしたうえで、それでもマシュが耐えきれない斬撃。
間違いなく、あの時よりも強くなってる。
「その表情……貴様、どこかで私にあったことがあるようだな」
斬り裂かれた軍勢の向こうから、黒いドレスアーマーの女性がゆっくりと歩いて来る。
その姿は、まるで魔王。放たれる冷徹な気配は、そこにいるだけで凍り付きそうな寒気を帯びていた。
「──アーサー王っ!」
「盾? いや……なるほど、あの世界のサーヴァントとマスターか。この世界にも抑止力が存在するという事だな」
あの世界、そしてこの世界。
グルリアン市内でマシュと話し合った内容が、立香の頭をよぎった。
「この世界ってことは、やっぱりここは地球じゃないのね」
「気が付いていなかったのか? ヤマト石で気が付くと思ったが……いや、もう人類にそんな余裕はないのだな。まあいい、ここで終わる貴様らには関係のない話だ」
騎士王が二歩前に進んで、上段に剣を振り上げる。
同時に高まる魔力と圧力。剣に黒い光が束ねられ、余波で暴風のような風をまき散らした。
「先輩っ! 真名、偽装登録──」
「マシュっ! 『跳んで』!」
立香の手から、令呪が一角消費される。
瞬間、マシュの身体が加速し、騎士王の目の前にまで迫った。
普通に防ぐだけなら、その場で踏み止まって防いでもいい。
でも、都市に近い場所で宝具を防げば、宝具の余波が背後の都市を吹き飛ばすかもしれない。
できるだけ近く、可能であれば目の前で、騎士王の宝具を防ぐ必要がある。
「ふ、
「宝具
「──
騎士王の剣から放たれた黒い光が、マシュの盾に弾かれて周囲にまき散らされる。
マシュの宝具、
数秒ほど放たれた光は、盾を貫くことなくマシュの宝具に押し込められた。
「ほう、盾越しに吹き飛ばせると思ったが……」
「はああぁ!」
宝具発動直後、一時的な大量の魔力の喪失により、十分な力が出せない一瞬をついてマシュが盾を押し込む。
けれども、魔力を消費しているのは彼女も同じ。盾は難なく受け止められ、黒い聖剣によって弾かれる。
「だが、まだ足りん」
剣と盾。
重量の差で盾の方が威力は出るが、その分どうしても大振りになる。
そのため、上手く受け流されてしまえば、大きな隙が生まれてしまう。
もっとも、立香もマシュもそのことは自覚していたが。
盾を受け流した騎士王が、剣を両手で握って振る──直前に盾の様に構える。
騎士王の視線の先にあるのは、人差し指を伸ばした立香の姿。
「ガンド・フィンの一撃!」
呪いの弾丸が、騎士王の顔面目掛けて放たれる。
ガンドは、騎士王が盾代わりに構えた剣に着弾すると同時に炸裂、騎士王のバイザーを吹き飛ばした。
「ちっ」
「マシュ、張り付いて宝具を撃たせないで!」
「了解、押し切ります」
よろける騎士王を、マシュは追撃する。
初めて出会った時ならともかく、四つの特異点で経験を積んだ今のマシュは盾を使った戦闘に慣れている。
一度攻勢に傾けば、簡単には反撃を許さない程度には盾を使いこなしていた。
「ガンドで私の対魔力を超えるか、ならっ!」
騎士王の身体から、紫色の光が微かに放たれる。
直後、騎士王とマシュの間に薄い半透明の板が現れ、マシュの盾を受け止めた。
「これは……!」
マシュは何度も盾を叩きつけるが、まるでびくともしない。
盾の向こう側にいる騎士王は涼しい顔をしており、衝撃がまるで伝わっていないようだった。
宝具?
いや、騎士王を知ると言っていたあのサーヴァントは、こんな宝具があるとは言っていなかった。
アーサー王はあらゆる攻撃を遮断する鞘の宝具を持っているとは言っていたが、鞘をを手に取った素振りはない。そもそも宝具の神明も聞こえなかった。能動的に発動させるタイプの宝具はに真名開放をしなければ宝具としての力を発動できなかったはず、だから宝具を発動したはずがない。
あの盾はいったい……。
「この薄い盾は、
「物理攻撃の、完全無効化!?」
ユニークスキルが何だかは知らないが、物理攻撃の完全無効化はあまりにも脅威だ。
騎士王の言葉が間違っていないのなら、攻撃手段が物理攻撃しかないマシュでは、騎士王は絶対に倒せないという事になる。
「そら、絶望するにはまだ早いぞ。少しばかりあがいてみせろ」
振るわれる黒い聖剣。
マシュはそれを受け止めて反撃するも、先ほどと同じく半透明の盾に阻まれる。
その隙に放たれる斬撃。マシュは、なんとかそれを受け止めたが、再び盾を弾き上げられることになった。
次は、立香のフォローはない。
「っ、シールドエフェクト!」
マシュがとっさに行ったのは、魔力防御スキルによる防御力引き上げ。
魔力によってマシュの防御力が強化され、鎧で剣を受け止める。
「なるほど、守るだけならそれなりか」
僅かに鎧が斬り裂かれているが、皮膚までは至っていない。
腹部の剣をそのままに、マシュは盾を叩きつける。
「やあっ!」
「ふん、遅い」
それを阻むのは、空間に浮かんだ盾。
マシュの全力の一撃を、その盾はまるで小石の様に受け止めた。
マシュは、盾の一撃に僅かに遅れて盾の陰から蹴りを一発放つ。
「ふっ!」
「足掻くな」
盾が貼られないために、意識の外からの一撃を目指して放たれたそれは、騎士王の持つ剣に見ることもなく受け止められた。
直感スキル。
本来の予知の様な直感こそないが、それでも十分な直感として機能する。
視界にその姿を映しているのであれば、盾に隠れて隠された程度の一撃ならば十分に察知できる。
蹴りを受け止められ、十分な踏ん張りができなくなったマシュ。
そんな彼女に、騎士王の剣が迫る。
「マシュっ!」
「はい! シールドエフェクト、発揮します」
再びの魔力防御。
マシュの体表面に魔力の鎧が生成され、マシュの防御力が引き上げられる。
「二度も通じると思ったか!」
だが、騎士王はそれすらも読み切っていた。
聖剣に大量の魔力が充填される。その魔力は、先ほどの一撃の倍以上。マシュの魔力防御を貫通するにふさわしい魔力が込められている。
──だが、ここでも騎士王は剣を止めねばならなかった。
マシュのはるか後方。騎士王が斬撃により切り開くことでできた道の、その中間。
そこに、人差し指を騎士王に向けて走る立香の姿があったのだ。
このまま騎士王がマシュを切れば、その隙に超級のガンドが彼女に撃ち込まれる。
立香の放つガンドは、対魔力による減衰を加味しても、それでも当たる場所次第では致命傷になりうるガンド。
それは、ユニークスキルでは物理的な攻撃しか防げない騎士王にとっては、この場では最も警戒しなければならない魔術だった。
マシュを斬り裂かないように一歩下がりながら、騎士王は剣を振り上げる。
そこから放たれるのは斬撃──ではなく、魔力の噴流。
聖剣に籠められた黒い魔力は、まるで間欠泉の様に地面から吹き上がり傍にいたマシュを吹き飛ばした。
この吹き上がる魔力は、ガンドに対する盾だった。
いくら対魔力を貫通するほどのガンドであっても、これほど大量の魔力を吹き飛ばして騎士王を打ち抜くには僅かに遅れが生じる。
騎士王であれば、その一瞬で剣を切り返し、ガンドを切り払うことなど造作もないことだった。
「来るがいいっ!」
けれども、ガンドが撃ち込まれることは無い。
騎士王がガンドを警戒している間にマシュは体勢を立て直し、吹き上がる魔力が収まる頃には、マシュは騎士王に盾を構えていた。
「ちっ……ブラフか」
舌打ちをする騎士王に、立香はほっと胸をなでおろす。
同時に、魔術礼装がガンドの再発射が可能になったことを立香に伝えた。
そう、立香の人差し指は完全にブラフ。そもそも、最初からガンドなんて撃てない。
過去の対戦経験、そしてカルデアにいるあるサーヴァントから以前聞き出した情報から判断した、中途半端なものに劣化した騎士王の直感スキルを利用したブラフだった。
そして、立香のブラフは撃てないと錯覚させるための行動でもある。
「いくよ、ガンド・フィンの一撃!」
ガンド撃ちはブラフ、そう思ってマシュに斬りかかった騎士王に、立香はガンドを放つ。
同時にマシュは聖剣を受け流し、その場から飛び退いた。
ガンドの狙いは、顔面。
眼球などの弱点となりうる部位が集中した顔なら、立香のガンドでも十分な効果が期待できる。
うまく目にでも入れば、戦闘不能にすることも不可能ではない。
けれども、ガンドを見た騎士王は、避けるそぶりも見せず不敵に笑った。
「甘いな、
次の瞬間、顔面に当たったガンドが、まるでラケットで撃ち返されたテニスボールの様に、立香に対してそのまま跳ね返った。
「え?」
「先輩っ!」
マシュが立香の前に割り込み、盾でガンドを受け止める。
「ぐっ!」
「マシュ!」
「大丈夫です、先輩! はあああ!」
マシュは、魔力防御によって防御力を引き上げ、気合を込めて盾を支える。
盾の上でガンドが破裂するが、彼女は後方に一切の被害を洩らすことなくその一撃を耐え抜いた。
「マシュ! 大丈夫!?」
「大丈夫です、マスター。ですが……」
マシュは、立香への返事の言葉を途中で濁して騎士王に視線を向ける。
そこには、莫大な漆黒の光を剣に束ねた騎士王の姿があった。
「終わりだ、
宝具の真名開放。もう一度、あの極光を放つつもりだろう。
マシュなら、もう一度あの聖剣を防ぐことができるかもしれない。いや、できる。けれども……。
立香は、背後にならぶ城壁を見つめる。
聖剣の余波は、あの城壁を巻き込んで街を蹂躙するだろう。
聖剣を撃たれた時点で、グルリアンの都市は終わる。消滅は流石にしないだろうが、都市として成り立たない様な傷を負ってもおかしくない。
どうする、ガンドを撃って妨害する?
いや、それしかない。礼装が壊れるかもしれないけれど、人が一杯死ぬのを見過ごすわけにはいかない。
指先に、魔力を──!
礼装が悲鳴を上げて紫電が走る。
袖が裂け、右手の指先から広がる様に魔力が暴走する。
──させないよ!
瞬間、魔力でできた大量の槍が、騎士王へと降り注いだ。
「──
「
空の上から槍と共に女性が一人降り立ち、同時に先ほどと同じ魔力の槍がその人から放たれた。
騎士王はその槍を切り払い、躱し、どうにか切り抜けようとするが、あまりの量の多さに数本対処しきれず鎧を打ちのめされる。
貫通こそしなかったものの、その衝撃は強烈なものだったのか、騎士王の唇から僅かに血が零れた。
「貴様!」
「まだまだいくよー!
「っ、
三つの槌。
そのすぐ後に騎士王の体を覆った紫の光。
一つ目の衝撃は反射されて二つ目の衝撃を打ち消したものの、三つ目の衝撃は反射されずに騎士王の鎧にめり込んだ。
あれ、反射されなかった?
「ちぃ、目障りな!」
「その反射系ユニークスキル、一回ごとにかけなおす必要があるタイプでしょ。なら、飽和攻撃は対処できないよね。それにしても危機が悪いなあ……魔法軽減系のスキル持ちは相手にしたくないんだけど」
彼女がそう口にしている間も、絶え間なく魔力の衝撃が降り注ぐ。
流石の騎士王もこれには防戦一方で、謎の反射と聖剣から放つ魔力の斬撃でどうにか対処している様だった。
どう見ても、一方的な戦いだ。
このままいけば、いずれ騎士王は倒されるだろう。
「すごい、高い対魔力を持っているはずのアーサー王を、あんな簡単に……!」
マシュが、隣で興奮気味に呟く。
だが、はっと何かに気が付いたように息を呑んで、マシュはその表情を険しいものに変えた。
「先輩、あの人」
「マシュ?」
「あの人は、おそらくすごい無理をしています」
「え?」
そう言われて彼女の顔をよく見れば、その頬には滝の様な汗が流れ出ていた。
「アーサー王をあそこまで追い込むには、その一挙手一投足を把握して、そこから動きを予測して魔術を撃たなければなりません。経験で予想しているのか、それとも何らかの魔術を用いているのか、どちらにしてもかなりの集中が必要になります。魔術の行使とそれを両立するあの人には、かなりの負担がかかっているはずです」
よく見ていれば、少しずつだが魔術が外れ始めているのがわかる。
あれだけの魔術を放っているのだから何発かは外れても当然だと思って気にしていなかったが、もしマシュの言う通りなのだとすれば、これは少し不味いかもしれない。
「マシュ」
「了解です」
マシュが、ゆっくりと魔力を練り上げ始める。
立香は魔術に関してそこまで詳しくないので何となくでしか察知できていないが、マシュが立香の意図を読み取ってあるスキルを使用しようとしているのが伝わって来た。
立香とマシュは、戦う二人をじっと見つめ続ける。
そして、その時が来た。
「舐めるなよ、小娘!」
「やばっ」
魔力放出によって加速し魔術の連打をすり抜けた騎士王が、女性目掛けて突貫する。
即座に女性が魔術で障壁を生み出すも、それを軽々と斬り裂いて駆け抜けた。
防御を抜けられ無防備になった女性に、騎士王の剣が振るわれる。
「マシュ!」
「了解、シールドエフェクト……発揮します!」
立香の声にマシュが応え、マシュが一気に魔力を消費する。
直後、女性の肌の上に魔力の光が灯り、女性を両断しようとしていた聖剣の勢いを大きく削いだ。
それは、自陣防御のスキルによって生じた、味方に対するダメージ削減。
「何っ!」
「隙あり!
女性の鎧を引き裂いた聖剣が、彼女の肉を少し斬り裂いたところで止まる。
その事実に驚く騎士王に、騎士王の目の前で発動した女性の魔術が直撃した。
騎士王は、土壇場で身体を捻り急所への一撃は何とか回避したようだが、右腕に魔術が命中してしまう。
その衝撃で間接でも外れたのか、それとも骨が折れたのか、騎士王は腕をだらりと下げて騎士王は女性から離れた。
「ふふん、これで片腕は使えないでしょ。両手ならともかく、片腕ならなんとか凌げるわ」
得意げに笑う女性に、騎士王は何も言わず剣を地面に突き刺し、左手を右肩に翳した。
「
騎士王にまた紫の光が灯り、すぐに消える。
するとまるで傷なんてなかったかのように、騎士王の右腕が動き出した。
「げっ、回復系のユニークスキルまで持ってるのかー」
「ふん、使う気はなかったのダがな……ちっ」
急に騎士王の言葉が不気味に乱れる。
何だろうか、今のは。
何か不穏な、絶対に壊れてはいけないものが壊れてしまいそうな、どこか危険を感じる声。
立香は、ぞっと背筋が凍り付きそうな気分に陥っていた。
「先輩?」
「……いや、大丈夫」
心配そうな声をするマシュに、立香は心配させないように言葉を返す。
マシュは不安そうな表情をするが、今はそれどころではないので後回しにして騎士王の方へ視線を戻した。
「安心するがいい。私は一旦引く。貴様のせいで、少し霊核に負担をかけすぎた」
「へえ、弱ってるなんてそんな簡単に言ってもいいのかなー?」
「ぬかせ、貴様こそ魔力はほとんど残っていナイだろう?」
「うぐぅ」
騎士王の言葉に、まるで棒読みの様に女性が呻く。
本当に魔力が切れているのか、立香はその作ったような呻き声からは読み取ることはできなかった。
「……まあいい、そこのマスターとサーヴァント、その連携はそこまで悪クない。次ぎ合う時までに、もう少し歯ごたえのある強さまで鍛えておけ」
騎士王は立香たちを睨みつけると、まるで転移したかのようにその場から姿を消した。
気が付けば、周りにいた軍勢も誰一人いない。倒されたのか、それとも転移か何かで逃げたのか。
「君達、周りに敵の気配はあるかい?」
「え? あ……感じる、マシュ」
「いえ、私には特に感じられませんが……」
「そう。なら、君達を信じるよ」
そう言いうと、女性がばたりと音を立てて地面に倒れ込んだ。