Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……、なんで極東の島国なんかにこんなのがあんのよ」
暗いがほのかに明るい場所、大空洞に辿り着いたオルガマリーらが見たのは大聖杯。
この冬木の土地を聖杯降霊に適した霊地に整えていく超抜級の魔術炉心がそこにあった。
オルガマリーの口から零れるのは畏怖。それは恐ろしい程の魔力を溜め込んだ大聖杯とそんな大聖杯を創った存在へ抱いた感情。
『……資料によると、制作はアインツベルンという錬金術師の大家だそうです……魔術協会に属さないホムンクルスだけで構成された一族のようですが……』
「と、悪いな。お喋りはそこまでだ……奴さんに気づかれたぜ」
ロマニによる大聖杯についての補足を遮る様にキャスターは喋った。
その眼と杖は大聖杯の前に立つ一騎のサーヴァントに向けられていた。
「……な、なんて魔力……あれが、本当に……あの、ブリテンの騎士王……アーサー王なんですか?」
『……間違いない。何故か変質している様だけど、彼女はブリテン島の王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、きっと事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう……』
『ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろう? お家事情って奴で男のフリをさせられていたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんっとうに趣味が悪い』
膨大な魔力を滲み出させながら大聖杯の前に立つサーヴァント、アーサー王の姿にマシュはアレがアーサー王なのか、と疑うがそれをロマニは否定しアレはアーサー王なのだと語る。
最後のマーリンについて語る時にまるで見たか会ったか、知っているかのような口調と表情だったがそれに反応し追求する者はいなかった。
「……え? ホントだ……真っ黒で重厚そうな鎧を着てるけどあのサーヴァント……女の人だ」
「はい、そうみたいです……先輩、眼もいいんですね」
「おい、見た目は華奢だが甘く見るなよ?アレは筋肉じゃなくて魔力放出でカッ飛んでくる化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い……気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」
「……はい、理解しました。全力で応戦します」
アーサー王の性別に気づく立香とマシュに女だからと甘く見るな、と警告するキャスター……その語る表情はとても苦々しい顔。
そして、そんなキャスターの警告にマシュはその大盾を握る手に力を込める。内から感じる何かに気づかず。
「――ほう、面白いサーヴァントがいるな」
「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!? ……いや、あの弓兵野郎が命じられた……つってたな」
「何を語っても見られている。故に案山子に徹していた……だがまあ、あのサーヴァントがうっとおしかったので、厄介払いついでに邪魔者の排除を命じたな」
アーサー王が喋れた事にキャスターは驚きつつも大空洞を目指す前、山を登っていた時に出会ったアーチャーの言葉を思い出し納得する
冷徹さを感じさせるアーサー王の言葉にオルガマリー、立香、マシュは冷や汗を垂らす。
そのプレッシャーは距離があっても感じられ、特にアーサー王のその視線を向けられたマシュは一瞬硬直した。
「────面白い、その宝具は面白い」
マシュ、いやマシュの持つ盾を見てアーサー王はそう呟き黒く染まった聖剣を向ける。
「構えるがいい、名も知らぬ娘。奴が来るまでの手慰みとして、その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!!」
「来ます────マスター!」
特異点Fにおける最後の戦いが幕を開けた。
────────────
「ふん」
「くっ!」
アーサー王の振るう黒い聖剣は容易く、盾で防いでいる筈の私を押してきます。
強すぎる。
ただ、私の中でその言葉だけが反響し、焦らせていました。
私ではアーサー王に勝てないのではないか、と。
「ふん、あまりに脆い!」
「きゃあっ!?」
先ほどよりもやや力の篭った一撃を盾に叩きつけられ私はまるで木の葉のように吹き飛び…………ッ
身体に簡単に傷がついていく。時折後方で支援に徹している先輩と所長からの魔術で傷は修復されますが……それでも失っていく体力は戻りません。
「蹂躙してやろう」
「あ」
吹き飛び倒れ伏す私にアーサー王はその黒い聖剣を振り上げ
「おいおい、相手は嬢ちゃんだけじゃねぇぞ!!」
「チッ!」
横合いから飛んできた何発もの炎がアーサー王へと迫った事でアーサー王は私の近くから離れた。私は急いで立ち上がり盾を持って助けてくれたキャスターさんを見ます。
「ありがとうございます、キャスターさん」
「おう、気にすんな。こっから先は俺に任せとけ……なぁに、勝機はあんでね」
そう言って駆け出すキャスターさん。
その背を見て私はただ不甲斐ない感情が胸に湧いてきたような気がしました。
「アンサズ!!」
駆けるキャスターさんの声と共に展開されるルーン文字からアーサー王目掛けて殺到する炎。
全力ではないとはいえ、あの炎を何度も防いだ私はあの炎の威力を知っている。
並大抵なら致命傷と言わなくとも十分な火力を出す炎。けれど
「目障りだ」
剣を振るうだけで簡単にキャスターさんの炎は消し飛ばされてしまう。
それでも、キャスターさんは怯まずに寧ろ笑って次々と炎を放っていく。
「…………すごい」
「あれが、正規のサーヴァント同士の戦い……」
『……しかも、片やブリテンの騎士王、片やアイルランドの光の御子……ですからね。並のサーヴァントが間に入ったらあっという間に倒されますよ』
後方からそんな先輩や所長、ドクターの声が聞こえる中私は……あの戦いの中に入れない事にもどかしい思いが隠せない。
今は先輩たちに見えるのが背中だけだからいいけども…………きっと、今の私の顔を見られれば…………とても辛いです。
いえ、これから、そうこれから強くなっていきます……みんなを護れるように……!
「ふん、いい加減に飽きてきたぞ。キャスター、貴様何を企んでいる」
「はっ、いいぜ。そんなにお望みってんなら見せてやらァ!!とっておきってなぁ!!」
キャスターさんの戦い方に何かを察知したのかそう言うアーサー王にキャスターさんは力強く笑ってその手を地面に付けました。
すると、アーサー王の足下から炎が吹き出して……って何ですかアレは!?
「き、木の人形!?」
「ウィッカーマン!?ドルイド信仰に出てくる木の人形!」
巨大な木の人形はアーサー王の足下から現れます。
流石のアーサー王もあの人形には驚きを隠せず
「なっ!?これはッ!!」
「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社────」
剣を構えながら人形の腕の上を駆けるアーサー王ですが、その重厚な鎧が足を引っ張ったのか人形の手に捕まりそのまま人形の中に入れられてしまいました。
確かウィッカーマンはその中に収穫物や家畜を入れて燃やすという人形だった筈……つまり!
「くっ、この程度!」
「倒壊するは
いつの間にかに燃えていた地面にアーサー王を入れた人形は倒れそのまま…………
大爆発を起こしました。
倒した、のでしょうか……?
「……ふぅ、ま、こんなもんかねぇ」
とても疲れた様子でこちらを振り返るキャスターさん、でもその表情は満足気な笑みでした。
キャスターさんがそんな表情をしたということはつまりアーサー王を倒したということで
「凄いですキャスターさん!」
「…………まさか、アーサー王を倒すなんてね」
「………………」
「はっ、これぐらい朝飯前……とはいかねえがまあ、これで大聖杯は何とかなるわけだが」
はい、後は大聖杯をどうにかするだけ。
これでこの特異点Fはなんとかなりますね!
「────まったくだ」
「なっ!?」
キャスターさんの背後いまだ煙立つ場所から聞こえた声に私たちは硬直し、そしてキャスターさんの胸から黒い聖剣が……
目の前で起きている事態を理解するのに数秒かけ、ようやく硬直が解けた私たちは各々の反応を見せる。
「キャスターさん!?」
「嘘っ、アレでまだ生きてるなんて……ッ!!」
「てめ、……流石にアレ食らって……それって、反則、過ぎん、だろ」
「ふん、あの程度火傷にもならん。何より私には会わねばならん者がいる。故に貴様は邪魔だ、『
あ────
キャスターさんの胸を貫いていた黒い聖剣から漆黒の風の塊が放出され、キャスターさんの身体には大きな孔が!!
「────!!!……クソッ……ここで、だつ、らく、か」
そう言い残してキャスターさんは…………
…………。
「さて、次は貴様だ。キャスターはもうおらず、いるのは未熟な貴様だけだ」
「あ……あ、ぁ」
「構えろ。その盾を私に見せてみろ」
ゆったりとした歩みで私に向かってくるアーサー王に私は強い恐怖を覚える。
同時にゆっくりと振り上げられた黒い聖剣には膨大な魔力が収束されていく。私は一歩退って
「マシュ!!」
「マシュ・キリエライト!貴女ならきっと……!!」
「……先輩!所長!」
そうだ。私の後ろには先輩と所長がいる。
私が、護らなきゃいけない。
私は盾を構え、足腰に力を入れる。
すると盾に魔力が流れていくのを感じる……これなら……!
「
「宝具、展開します……!!」
眼前に展開される守護障壁。
アーサー王の振り下ろした剣身から放たれた光すらも飲み込んでしまうのではないかと感じてしまう黒く染まった極光が仮想宝具の守護障壁に激突する!!
「ぁぁあああああッ!!!!」
強い。
アーサー王の宝具はその膨大な魔力そのままで守護障壁にぶつかってくる。
それはいままで受け止めてきた一撃も比べものにならず私はその衝撃を殺しきれない。
「ぁぁぁぁあああッ!!!」
止まらない。いったいどれほどの魔力が込められているのだろうか…………一向に宝具は止まらない。殺しきれていない衝撃が少しずつ少しずつ私の身体に影響を与えてくる。
嗚呼……
腕から力が無くなってくる………
地面を踏み締める足から力が無くなってくる……
心が折れそうになってくる……
辛い。辛い辛い。苦しい苦しい。
でも、でも…………背後から聞こえる先輩の声、所長の声、ドクターの声。私が折れればみんなが…………
力の入らなくなってきた手足に力を込める。だけれど、それはあまりにも無情に訪れた。
身体が重くなった。
宝具が乱れ始めた。
これ、じゃあ…………でも、私は……!
「はぁぁぁぁあああッ!!」
あの人に合わせる顔がなくなる────!!
「見事────だが、それは空元気というものだ娘」
アーサー王が発したその言葉と共に私の身体が軋む。
それはアーサー王が宝具に先ほど以上の魔力を流し込んだからだろう。いくらこの宝具がアーサー王の宝具と相性が良くても、その際の衝撃に私自身が耐えれていない……きっと、私が私にその力を貸してくれた彼の真名を、宝具を私が知っていればきっとこんな事にはならなかったかもしれない。
でも、それでも、
「から、元気と、言われ、ようとも!」
全身で盾を支える。
決して先輩たちに怪我をさせない為に。
私は、マシュ・キリエライトは全力でここを護る!!
「どれほど、耐えられるか見物だな!!」
更に魔力が高まる。
意識が朦朧としてくる。
それでも、それでも、私は……先輩を、所長を護るッ!!!!
「はぁぁぁぁあああッ!!!!!」
駄目だ。
身体が沈む。
未だ息吹は止まらず。
朦朧とする意識。
私は────────
「────いや、卿はよくもった。後は私に任せてほしい……ああ、だが意識は強く持ちなさい。まだ寝るには早いのだから」
「あ」
抱きとめられる身体。
どこか懐かしいと感じられる声。
朦朧としていた意識は次第にハッキリし、そこには貴方がいた。
「サーヴァント・セイバー。真名ランスロット・デュ・ラック……御生憎だが乱入させてもらおう
その湖光の剣で黒い息吹を切り裂き貴方はそう笑った。
────────────
マシュ視点で書くのはなんだか難しいですね。
なんだか変な感じです。
若しかしたら書き直すかもしれませんね……でも頑張りました
まさかのルビ振り忘れてました。
意見感想待ってます。
黒メイド……執事ランスロット……