Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】   作:カチカチチーズ

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少し急ぎ足の気もしますが、作者の技量的に下手に伸ばすときつくなるので。

休み?思いついた時にやらねば……
某美食屋も思い立ったが吉日、その日以外は全て凶日です。



赤と湖

 

 

 

 

 

「それで、キャスター。大事な事を確認していなかったのだけれど」

 

「んぁ?なんだよ」

 

 私たちは大聖杯?のある大空洞という所を目指して山登りを始めてから五分ほど……中腹に差し掛かった所で唐突に所長がキャスターに話を切り出した。

 ところで所長、所長なんだか体力とかなさそうなのに意外とあるんですね。

 

 

「セイバーのサーヴァントの真名は知ってるの?何度か戦っているような口ぶりだったけど」

 

「そういえば、言ってなかったような」

 

 たしか、セイバーが強いとかなんだとかは言ってたけども真名に関しては一言も言ってなかった気がする。

 別に黙ってたわけじゃなくて、多分言うタイミングが無かっただけなんだろうけども。

 キャスターは所長の質問に少し間を開けてから答え始めた。

 

 

「……ああ、知ってる。奴の宝具を食らえば誰だって真名……奴の正体に突き当たる。他の奴らがやられたのだって、奴の宝具があまりに強力だったからだ…………」

 

「強力な宝具……ですか?」

 

「ようするにそれだけ有名って事だよね…………ねえ、もしかしてその宝具ってエ」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

騎士王と誉れ高い、アーサー王の持つ聖剣だ」

 

 私の言葉を遮って、唐突になんだかイイ声が解説をしてきた……というかやっぱりエクスカリバーじゃないですか、やだー。

 だよね、セイバーって剣使いでしょ?それで有名で強いって言ったらエクスカリバーのアーサー王ぐらいだよー。え?ヤマトタケル?たしかにあの人天照の子孫だからアーサー王以上だけれども、世界的な英雄ではないから。

 あと、とりあえず、

 

「誰ッ!?」

 

「アーチャーのサーヴァントッ!?」

 

「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってやがんのか」

 

 

 キャスターの言葉と同時にちょうど私たちの背後の高所から現れるのは黒いインナー?みたいな軽装に弓を構えたちょっと肌が黒っぽい白髪の男性……。

 所長が言ったが……この人がアーチャーのサーヴァント。アーチャーって事は遠距離狙撃で……つまり、私たちがレイシフトして最初に狙撃してきたのはこのサーヴァント?

 

 

「信奉者なんぞになったつもりは無いがね。それと別に護ってはいないさ、ただ彼女に厄介払いついでに外敵の狙撃を命じられていてね」

 

「ハッ、んだよ、黒い奴とは仲が悪いってか?いいぜ、丁度いいここらで決着をつけるとするか!」

 

「魔術師になってもその性根は変わらないと見える……文字通り、この剣で叩き直して、ッ!!」

 

 やっぱり、狙撃してきたのはこのサーヴァントだったんだ……。

 と、アーチャーのサーヴァントがキャスターの売り言葉に買い言葉で返そうとしたところでアーチャーが唐突に横へ回避した。というかアーチャーなのに何故に剣。

 …………いま、なんか音がしたような……どっかで聞いたような。

 と、私たちが通ってきた道の方から誰かの足音と声がした。

 

 

「おや、良い眼をお持ちのようだ」

 

「この場合は目じゃなく耳の気がするが忘れておこう」

 

「ラ、ランシア!!」

 

「ランシアさん!?」

 

「…………あれがランシアさん……じゃあ、あの赤い人は?」

 

 現れたのは濃紺の髪をポニーテールにしたドクターに似た制服の上にコートを羽織った高身長のイケメンの人と鎧?まるで物語に出てくるような騎士の格好をした赤い長髪の寝てるんじゃないか、と思う細目の男の人……多分あの人もサーヴァントなのかもしれない。

 あの人が件のランシアさんなんだろうけども…………なんだろう、予想してたのはドクターみたいなちょっと不真面目な人だったんだけどもどう見てもボイコットなんてしそうにない人なんだけれども!?

 というか短時間に人が集まりすぎでは……

 

 

 

「……ロマンに頼んだ伝言通り露払いは任せてもらおう。それぐらいはやらねばな」

 

「おいおい、そいつは……」

 

「キャスター……悪いがこちらは散々狙撃されたんでな。その鬱憤を晴らさせてもらう…………行け」

 

「…………たくっ、わかったよ。んじゃ嬢ちゃんら、ここはアイツらに任せて俺らは大聖杯ンところに行くぞ」

 

 獲物を盗られたキャスターは若干不機嫌そうな表情を見せたけどすぐに元の表情に戻り、所長の方へ向き直り先へ促す。

 多分ランシアさん?と一緒にいるのはサーヴァントなわけだろうから私たちがいなくても大丈夫だろうけど…………。

 ただ、不安なのはいままで戦ったサーヴァントのアサシンやライダーが影みたいな存在だったのに対してあのアーチャーのサーヴァントは影みたいじゃない……キャスターみたいな普通の見た目だ……それだけが私の不安。

 

 

「ちょっと、ランシアあんたねぇ!……ああもう、カルデアに戻ったら覚えときなさいよ!!」

 

「ランシアさん御武運を!!」

 

「…………その、頑張ってください」

 

 走って先に行く所長、マシュ、キャスターの後を私は走る。

 あのランシアさんがどんな強さなのかは知らないけれど、あの赤い長髪の騎士に頼るしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………カルデアに戻ったら、か」

 

 俺は決して叶わぬ約束を口にする。

 如何に俺の置換魔術が人間の域を越えているとはいえ、彼女の魂が、精神がカルデアスで焼かれる以上、人形にも置換は不可能だ。

 いや、可能ではあるが。俺はそれをしない。決して。

 

 この身が反転せぬ限り、黒く堕ちぬ限り、俺は魂を精神を人形には置換せん。

 

 俺は大空洞へと向かったオルガマリーらを見送りアーチャーを見る。

 アーチャーはアーチャーらしい挑発めいた表情でこちらを見ている。

 

 

「いいのかね?サーヴァント3人がかりなら勝利は確実だが?」

 

「おや、異な事を。何処の英霊かは知りませんが……罪深き身であれどこの身は円卓に名を連ねた騎士…………そう甘く見ないでいただきたい」

 

「そういうわけだ。アーチャーのサーヴァント、正直にいえばシャドウではない事に些か驚きはしたが……」

 

 

 そう、アーチャーがシャドウではない事が俺に驚きを与えた。

 ランサー、アサシン……ロマンとの通信からライダーもシャドウだったらしいが……奴はシャドウではない……それはつまり、宝具を使う可能性が高い事だ。

 さて、アーチャーはトリスタンの弓に目をやる。恐らく、トリスタンの円卓という言葉に反応したのだろう……円卓は奴にとっても無視出来る言葉ではないはずだからな。

 

 

 

「なるほど、その弓、そして円卓の騎士……トリスタン卿というわけか……いやはや、抗わせてもらうとするか」

 

「では、しばし我が琴の音に傾聴してもらいましょう」

 

 

 魔術回路を起動させ、アーチャーとの戦闘に備える。

 トリスタンへの支援魔術も……同時に発動させる。

 ただのサーヴァントならトリスタンへの支援など要らんだろうが…………目の前のサーヴァントは別だ。

 

 

「トリスタン、出し惜しみは無しだ……早々に片付ける」

 

「ええ」

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 戦いが始まりしばらく経つが場はトリスタンの優勢であった。

 

 

────ポロン、ポロロン

 

 たて続けに鳴り続ける琴の音がアーチャーへと迫りゆく。

 矢を番え引き射る、弓に必要な最低限の動作を省いたトリスタンの音の刃は次の矢を射つのに挟む時間は一切無く。

 アーチャーに接近するという時間を与えず、矢を番えるという時間を与えない。敵に決して思うように動かさせないトリスタンの攻撃は事実アーチャーの動きを阻害していた。

 

 

「クッ、私に攻撃をさせないつもりか!」

 

「生憎だがアーチャーの癖にそういうモノを使うという事は何らかの秘密があるのだろう?それに、こちらは無傷ですむならそれでいいんだな」

 

「騎士としてどうかと思いはしますが…………この戦いに負けるわけにはいきませんので、ここはこうして圧倒させていただきます」

 

 

 正直に言えば最低限の騎士道さえ守れればランシアは初手宝具、恐らくアイアスで防がれる可能性のが高い、アイアスの解除と共に俺が斬ればいいのだがな。

 まあ、トリスタンの為だ。此処はトリスタンに委ねるとしよう。と考えているのだがランシアはそれを胸にしまっておく。

 

 

「ならばッ!」

 

「ぬ、これは!」

 

 

 トリスタンの琴の音による間隙の無い刃の檻に囚われたアーチャーは干将・莫耶を投擲した。

 干将・莫耶は間隙の無い筈の刃の檻を抜けそのままトリスタンとランシアへと迫るがやはり、円卓の騎士である二人にとってそれは容易く避けられるもの。

 ランシアはやや、その意図を理解するが何もしない。

 

 

「なるほど、私の音が届く前に新たな刃を創りだせる……矢は番えずともその程度の余裕はあるのですね」

 

「生憎、いくらでも出せるのでね。さて、そちらはこのままでいいのかね」

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

「何、言葉の通りだよ。如何にキャスターがいれども未熟なサーヴァントもどきが足を引っ張ってしまえば彼女に勝てるとは思えん」

 

 

 挑発ともとれるアーチャーの言葉にトリスタンはやや顔を顰める。

 なるほど、キャスターはともかく少女マシュでは大空洞にいるというあの英霊に勝つ事は難しいだろう、しかしトリスタンは友であるランスロットがマシュたちに任せたのを信じその挑発を無視する。

 そして、

 

 

「トリスタンッ!!後ろだ!」

 

「ッ────!」

 

 

 背後からトリスタン目掛けて回転する先ほど投擲した干将・莫耶にランシアは寸前で気が付きトリスタンに叫ぶ。

 それによりトリスタンは迫る干将・莫耶を回避する事が出来た……だが、それは先ほどのように数歩移動する程度のものではなく急な事であったために大きく飛び退いた。

 その間、トリスタンは妖弦フェイルノートを弾いておらず

 

 

「────I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

「……これはっ!?」

 

 

 問題のアーチャーの方を向いたトリスタンに待っていたのは螺旋状の刀身が矢のような形状になった歪なソレを弓に番えていた。

 トリスタンはソレに込められた魔力に驚き一歩後退する。だが、すぐさまフェイルノートの弦に指を添え、放とうとして

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグII) !!」

 

 

 トリスタンよりも先に空間すらも捻じ切らんとする一撃が放たれた。

 

 

 

「…………円卓の騎士……と言ってもこれ程の距離でならば……ただではすまないだろう」

 

 

 円卓の騎士とてひとたまりもない一撃にアーチャーは一瞬だけ気を緩ませたか。しかし、それはやってはいけないことであった。

 

 

 

 

 

「そうだな。あの距離で食らえば日中のガウェインでなければ……あるいはだな。だが────起きろ」

 

「なッ────!!!???」

 

 

 唐突に背後から聴こえた声にアーチャーは振り向き、背後から身体を断ち切られた。

 声のした方には何もなく、先ほどまで見ていた方向からの一撃。

 崩れゆく身体、意識が遠のき消えてゆく中、アーチャーは己を斬った者を見る。

 それは美しい剣だった。

 月夜の湖面の如き美しい剣。

 それは嘗て彼が憧れた一人の女騎士の持っていた剣のように人の心を掴んで離さない星の聖剣、その一振り。

 

 

「……そう、か…………君も……英霊だったのか」

 

 

 その言葉を残してアーチャーはその身体を消滅させた。

 後に残ったのは、あの一撃があったというのにどうやったのか無傷のままで聖剣を握ったランシアとトリスタン。

 

 

「…………いくぞ、トリスタン」

 

「ええ……行きましょう」

 

 

 

 

「……(カラドボルグ……空間を捻じ切る一撃……保険があったとはいえ後少し置換が遅ければ…………些か傲慢が過ぎたか)」

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
今度こそ明日は休みます。

ちなみになんで先に行ったランシアらがオルガマリーらの後ろから来たかというとルートが違う上にトリスタンが来るのが遅かったからです

少し変えました

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