Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
特異点Fすなわち冬木の核となる聖杯があるのは別の可能性世界及び俺たちが経験した十年前の聖杯戦争と場所は変わらない。
冬木の円蔵山と呼ばれる山の内部に存在している。そして聖杯戦争における大聖杯とは大空洞に設置されている冬木の土地を聖杯降霊に適した霊地に整えていく機能を持つ、超抜級の魔術炉心。
少なくともそういう背景がある以上この特異点Fの聖杯は大空洞にあるのは変わらないだろう……そして、そこに聖杯の護り手としてアルトリア・オルタがいるわけだが。
「ロマン、大空洞侵入はオルガマリーらに任せる。露払いは任せろ」
『えぇと……とりあえずなんで聖杯が山……円蔵山の中にあるって事を知ってるのかは深く聞かないとして……通信遅くないかなぁ?』
「しょうがないだろう。レイシフトした先の周囲にマシュらの反応がなかったのだから通信も何も無い」
穂群原学園を出て数分後にいきなり俺の端末にロマンからの通信が入りこうしてこちらの動きを報告していた俺は怪訝な表情のロマンに対応する。
『合流してない理由は?』
「少なくともここへ来るのは二度目である以上、ある程度動ける。それで情報を集めていたからだ」
『…………本音は?』
「オルガマリーの説教もとい癇癪から逃れる為」
俺の本音を聞くとロマンは自分の額をパチンと手で叩き呆れた様な表情で俺を見てきた。
『君なぁ……そんなに所長の事、嫌いなのかい?』
「いや?少なくとも上司として癇癪を不満無く受け止める気概はあるが」
『いやいや、そうじゃなくてね……』
「ともかく、だ。オルガマリーに伝えておいてくれ……説教諸々はカルデアに帰還したら聞くと」
『ちょ、ランシ────
止めようとするロマンとの通信を切り、俺は背後のトリスタンに声をかける。
通信中にエミヤの狙撃が来た時の事を考え、見張りを任せていた。如何にエミヤといえどもシャドウとなっていて、更には円卓の騎士トリスタンならば容易く迎撃できるだろうと判断した為だ。
「トリスタン、俺らは予定通りこのまま円蔵山に行く」
「…………」
「……トリスタン?」
返事がない。
俺は嫌な予感がして急いで振り向けば……
「(っ˘ω˘c )スヤァ……」
「…………」
…………。
…………嗚呼、駄目だこの眠り豚。
俺はキャメロットにいた時よりも駄目になった同僚を見てそんな事を感じてしまった。
俺のサーヴァントがこんな眠り豚な筈がない……これで二次小説一本書けそうだな……書かないが。
とりあえず、俺は落ちていた木の枝を拾い上げて『騎士は徒手にて死せず』で宝具化させトリスタンの脇腹を殴りつける。
「イゾルデッ!!??」
予想以上の威力が出たのか殴りつけられたトリスタンは錐揉み回転をして近くの薮の中に突っ込んでいった。
俺はただそれを白い目で見ているだけ。
うん、トリスタン置いてこう。
「起きたら追ってこい」
「…………」ポロロン
とりあえず返事は返ってきたので俺は一人先に大空洞へと向かった。
この後数分たって漸くトリスタンは追いついた。
────────────
「そう……そう…………」
特異点となって使われなくなった学校で休んでいた中唐突にドクターから通信が来て所長がドクターの話を聞き始めてから数分……その、なんというか、所長は笑っているんだけども目が笑っていなかった。
怖い……私とマシュは同じ事を思ってたのか身を寄せあって少し離れた所から所長を見ていた。
「あの……男……なにが『所長の説教もとい癇癪から逃れる為』よ。……この私をそこまでコケにした挙句、自分はここに来ないでロマンに伝言?喧嘩でも売ってるのかしらッ!!!」
『しょ、所長、お、抑えてください……ラ、ランシアだって悪気があったわけじゃ…………』
「少なくとも悪気ないならさっさとここに来て謝罪の一つはするものでしょう!?」
ごもっともです。……とりあえず私に矛先が向けられるのはいやなのでこっちに来てください……。
まだ会ったことも無い、ランシアさんに私はただ祈る。
「……なあなあ、嬢ちゃん」
「へ?何ですかキャスターさん」
「そのランシアって奴はよ、どんな奴なんだ?見た目とか」
「見、見た目ですか?……濃紺の髪を後ろで一括りにまとめてまして……後は何時もスタッフの制服の上にコートを着てますね」
マシュにランシアさんの見た目をいきなり聞いたキャスターはマシュの言葉に、指で顎を擦りながら考え事?をしていた。
そして、何か分かったのか納得したような表情で顎を擦るのをやめて、口を開いた。
「そりゃ、あの蟲の群れ相手に無双してた魔術師か」
「へ?」
「蟲の群れ、ですか?」
キャスターの口から出てきたのは意外な言葉。
虫の群れ?虫ってあの虫?……その群れって言うと藪蚊とか?
「いやいや、ちげぇよ。お前さんの頭ぐらいの大きさの蟲が群れてやがっててよ。俺はうっとおしかったから避けてたんだが、そんな見た目の魔術師が魔術使ったりして無双してやがったよ」
「……それ、早く言うべきだったんじゃないかな」
「いえ、先輩、我々がランシアさんの話題を出していなかったのでしょうがなかったのでは……」
「悪ぃ悪ぃ、今の今まで忘れてた」
まったく悪びれないキャスターに私はため息をついて所長の方を見る。
どうやら、ちょうど良くドクターの通信も終わり、ここにいないランシアさんへの色々なアレが収まったようだ。
「立香、マシュ、そしてキャスター……我々はこれからこの特異点Fの原因とも言える聖杯がある円蔵山の大空洞へと赴きます。休息は取れたわね?」
「はい!」
「はい」
「お、ようやくか」
どうやら遂に本丸へと向かうようだ。不安だけども何だかワクワクしてきた!
…………でも怖いなぁ。
マシュに助けてもらおう。
────────────
大空洞の奥底で一騎の英霊が閉じていた瞳を開いた。
竜の如き金眼とその身に纏う重装備と漂わせる王威は見る者に畏怖の念を抱かせるモノ。
黒く染まれどもその根本は変わらぬ星の造り上げたラスト・ファンタズムたるその聖剣はただあるだけで周囲に圧をかけている。
その担い手たる英霊はその金眼で何を見ているのか
「……来るか」
彼女には嘗ての師のような見通す瞳は無いがその代わりに未来予知に等しい直感を持つ。
されど、それは反転した事によりワンランク下がっている。だからどうした。
「ああ、お前の事ならば手に取るように分かるぞ」
「ほう、いったい誰が来るのかねセイバー」
そして、大空洞に訪れる人影が一つ。
冬木に現れていたシャドウと同じように黒い影になりかけている一騎のサーヴァント。
彼女はそのサーヴァントに鋭い視線を向ける。
「……アーチャーか」
彼女が反転してから一番最初に討ったサーヴァント。どういう理屈か他のシャドウサーヴァントと違い、未だに理性を保っている。
その事が彼女は何より不可解だが、もはやそれはどうでもいい事として切って捨てる。なぜなら求めているものがすぐそこまで来ているが故に
「……貴様には外敵の狙撃を任せた筈だが?」
不可解さ故に彼女は己のいる大空洞からアーチャーを離すために他のサーヴァントの狙撃を命じていた。だが、アーチャーはこうして大空洞にいた。
「なに、キャスターとそのお仲間である異邦人がここを目指して来るようなのでね。先回りというわけだ」
「…………」
彼女はアーチャーの口調に苛立ちを感じ、その黒き聖剣をアーチャーに向ける。
「生憎だがここに来る者らを討つのはこの私の仕事だ。失せろ」
「…………」
「……ついでに言うが私は奴ではない」
邪魔だ、という彼女の言葉に無反応だったアーチャーは彼女の続けて出た言葉に表情や行動に出ないものの僅かではあるが反応した。
それを目敏く見つけたのか彼女は目を閉じ語る。
「この身は反転体……奴が私になった時点でこの霊器は別人だ。何より奴と私では決定的に違うものがある」
「…………属性、かね」
「否。愛だ」
「……何故、そこで愛ッ」
彼女の口から出た言葉にアーチャーは顔を歪ませ疑問を吐く。
反転する前の彼女はいったいこんなんだったか、という差異から来るものだろう。
「無論、奴にとて愛はあろう……ああ、未熟な一人の魔術師……嘗てのマスターにな?だが、私は違う」
「…………」
「この私が愛するのはアレだ。略奪愛?全く以て知らんな、あの国にあるものは私のモノだ」
「…………」
アーチャーは頭を抱える。
嘗て共に戦った憧れの騎士王が反転するとこうなる事を知ってしまったがために。
こんな事を知る事になるなら中には来ずに入口付近で待っていればよかった、と。
暫く反転する前の別の自分との差異を語った彼女はアーチャーを睨みつけ
「だから、とっとと失せろ。貴様の憧れた女はここにはいない。ここにいるのはオルタだ」
「……なるほど、よく分かった。私はもう何も言わん……好きにしてくれ」
疲れた表情でアーチャーは大空洞の最奥から出ていった。
後に残ったのは彼女だけ。
「…………来い、人理の為とはいえ、そう易々と私は敗れるつもりは無いぞ。我が騎士よ」
黒き反転体は大空洞で湖の騎士を待ち続けている。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます
そういえばランスロットの声ですが……原作とは違いほとんどカルナさんと同じと思ってください。
アルジュナ「カルナが二人ッ!?」声だけ聞いて