Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
何処からも無数の剣戟が響く戦場。
その中で一際俺のいるこここそが激しいだろう。
「この剣は太陽の移し身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎。『転輪する勝利の剣』!」
放たれる太陽の一撃。
嘗て轡を並べ戦い、戦場で背を預けあい、戦に勝ち凱旋した後は共に語らいながらエールを酌み交わし、卿の悩みは俺の悩み、共に切磋琢磨した最高の騎士。
嘗て心強いと感じた太陽の一撃が今この瞬間己の死を望んで放たれた。
湖の加護を受け炎熱に対する高位の耐性を得たというのに鎧越しでありながら肌がチリチリと焼けるほどの熱量に感嘆の念を抱きながら俺は聖剣を持った手で魔術を行使する。
一工程ではあるが湖の加護を用いた魔術である為、ある程度────せいぜい水が蒸発から沸騰に変わる程度だが────感じる熱を抑え、俺は迫り来る焔を湖の大盾を構え真っ向から迎え撃つ。
「ハァァァアッ!!!」
この焔の壁の向こう側から聞こえる友の叫び声。これだけで彼の気迫が想いが理解できる。
嗚呼、それほどまでに俺が憎いのか友よ。
「グゥゥ……オ、オ、オォォ!!!」
長い長い時間焔に耐えた。いや、きっと俺の感じた時間は本来の何十倍もの時間でしかないのだろう。
俺は焔が消えても尚、湖の大盾を構えながら走り出す。前方が見えなくなれども既に透視の魔術を起動している。これで前方の彼は捕捉出来る。後は………
「ランスロット卿、覚悟ッ!!!」
「ハアッ!!」
左右から挟撃を仕掛けてくる二人の騎士。
既にガヘリスは胸を貫き、パロミデスは肩から心臓を刺し殺し、ボールスは盾で圧殺し、パーシヴァルは心臓を撃ち抜いた。なれば挟撃を仕掛けてきたのは
「ガレスッ!ライオネルかっ!」
前方にいる我が友の妹で俺が騎士に任じた少女騎士、ボールス王の死後弟のボールスと共に俺と同じように湖の乙女に引き取られ実の兄妹のようにあの湖の畔で過ごした我が従妹である少女騎士。
聖剣はこの左手に握られた一振りのみ、右手は湖の大盾を構え前方のガウェイン卿に対して。
迎撃するにしてもガレス、ライオネルの片方のみにしか対応出来ずその間にもう片方が俺に一撃を入れる。盾で対応しようものなら前方のガウェイン卿が……なるほど、だからどうした。
「フンッ!!」
「「なっ!?」」
「なんと!?」
湖の大盾を地面に叩きつけ、その反動で後退する。これによりガレス、ライオネル、ガウェイン卿共に俺の前方になった。
ガレス、ライオネル共にすぐに体勢を立て直し、俺の下へ突っ込んでくる。そんな二人に反してガウェイン卿は防御の姿勢をとる。
流石、と感嘆するしかない。
「無毀なる湖光────」
聖剣に魔力を流し込み、湖面の如き淡い魔力の斬撃を放つ。ガウェイン卿の太陽の一撃程の威力がある訳では無いがそれでも数多の幻想種を屠った一撃。こちらへすぐさま突撃した為に防御をすぐさま行えない二人にはこの速度を持つ一撃はあまりにも致命的で
「あ」
「こふっ」
斬撃は容易く二人の胸に深い傷を残し消えた。
あの深さでは如何に魔女モルガンの娘、湖の乙女の加護を受けた少女といえども多量出血を回避する程の治療魔術は行使できないだろう。
故に俺は友へと駆ける。
「ガウェインッ!!」
「ランスロットッ!!」
既に一部が砕けて視界に影響を与えている兜を放り捨てる。
他の騎士ならともかくガウェインを相手に視界の一部とはいえ隠れている兜は致命的な隙となる。兜を外せば加護が一部消え炎熱に対する耐性が著しく低下してしまうが今は耐性ではなく視界を取り、ガウェインへと駆ける。
未だ日は沈まず、太陽の加護は消えていない。されど日没まで耐え凌ぐつもりは無い。
俺自身の力で太陽の加護を超えて見せよう。
嗚呼、例え裏切り者と呼ばれようとも
今この瞬間だけ
俺は
ランスロット・デュ・ラックは軋む想いを忘れた。
「…………夢、か」
どうやらいつの間にかに眠っていたようだ。
如何に人の身を超越した存在とはいえ、やはり疲れは溜まるのだろう。なにより、受肉しているのだ普通のサーヴァントらよりも疲労は溜まりやすいだろう……他のサーヴァントがどうかは分からないから確証はしていないが。
「いや、あの変態は疲れ知らずで何やら発明だの何だのしていたな」
趣味だから。と言われれば納得せざるを得ないがアレを見る限り疲労が溜まる様子は見えない。
「…………さて、今日はいったい何日だ?流石に四日目辺りから記憶が曖昧だぞ」
目の前の重要機関、守護英霊召喚システム・フェイトの最終調整やその他の主にレフによって破損させられた時の事を考えて用意した予備システムなどの調整に少なくとも四徹はしたのだが……四日目から記憶が曖昧すぎて実際何徹したのかが分からない。
騎士であった時はアグラヴェインと共に六徹は余裕だったのだがな。
「……緊迫感の違いか。あの頃は下手すれば明日にも滅ぶ可能性があったからな……終わりを知っていてもあくまでそれはそういうのがあるだけで現実はいくらでも滅びがある、か」
俺は固くなって軋む身体に若干の苦痛を感じながら立ち上がり出口に向かう。
変な姿勢で寝ていたせいか、首周りがやや痛むので首を抑えながら廊下を歩いていく。
端末を見たらプロジェクト当日だった事に驚きつつ、時間が時間なので部下に一度交代しマイルームで三十分間ほど仮眠をとることにした……したのだが
「…………なるほど」
俺の視線の先にはレフとマ……キリエライト、そして橙色の髪の少女がいた。
ああ、つまりこの世界の我らがマスターは立香くんではなく立香ちゃんだった訳だ。
とりあえず、これから彼女が辿るかもしれない悲しい辛い運命に合掌しておこう。溶岩を泳ぐあの三人組の相手は辛いだろうが頑張ってくれ…………。
俺は踵を返す。マイルームでの仮眠は諦めこのままフェイトの近くで仮眠をしよう。そっちの方が有事に対応出来るだろう。
「それに、礼装はマイルームじゃなくフェイトの所に保管しているしな」
背後で聞こえる彼女らの談笑に耳を立てながら俺はフェイトの元へと戻っていった。
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「大丈夫ですか先輩?」
「うーん、大丈夫かなぁ?」
髪で片目が隠れた眼鏡を掛けた少女、マシュに心配されている先輩と呼ばれた橙色の髪の少女は赤くなった頬を抑えながら唸るようにマシュに答える。
つい先程の集会に遅刻した挙句、居眠りして追い出されるという類を見ない暴挙をやらかしてしまったなんとも剛胆な精神を持った少女にマシュはなんとも言えない表情で笑う。
「そう言えば」
「どうしたんですか?」
「所長がさ、なんか召喚とか何とかの説明の時に何だか怒ってたけど、私以外に居眠りしてた人でもいたの?」
少女は先ほどの集会での眠気と我慢の間で聞いたような聞かなかったような記憶をふと思い出しマシュに問いかけるとマシュは困ったような表情で
「ええと、それはですね…………守護英霊召喚システム・フェイトによって召喚されるサーヴァントの事について説明する予定だったのですが……」
「……?」
「その、説明をする責任者がいなかったんです」
「いなかった?えーと、それはどういう?」
より一層疑問を深めていく少女にマシュはなんとも言えない表情で語っていく。
「ランシア・ニヴィアンという方でして、本来ならあの時間あそこで説明をする筈だったんですが……何故かあの場に居なくて……フェイトの方に連絡しても連絡が無くて……」
「あー、それで所長は怒ってたんだね?」
「はい」
「そっかー、若しかしたら何時かその人にも会ってみたいなぁ。同じ集会で所長に怒られる仲間として」
「きっと、会えますよ先輩」
マシュは少女を少女に宛てがわれた部屋へと案内してミッションへと向かった。
少女はマシュの遠ざかる背中を見送り部屋へと入る。
始まりまでもう僅か
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「…………うん、寝過ごした」
今日からリアルで仕事がまた忙しくなってきましたので若干遅れますが暫くすれば一話一話の期間が短くなると思います。
今回も読んでくれてありがとうございます!
感想や意見待ってます!
ここのランスロットの見た目はダクソのアルトリウスの背中からあの原作ランスロットの伸びてる飾り?がついてると思ってください