Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
────彼の話をしよう
Fateを深くとはいかなくともそこそこには知っている自称中の中の中堅FGOプレイヤーの元大学生。
生まれは東京だが諸事情で北海道の大学に通っており、その大学寮の外に放置していてガッチガチに凍っていたチーズの角に後頭部を打ち付けて死亡。
推しキャラは岸波白野(男女共に)。苦手なキャラはレオナルド・ダ・ヴィンチ、便利で優秀な役に立つ人物なのは理解してるが若干ウザさを感じてしまう。そんな彼を生暖かい目で見てやってくれ
湖の騎士、それは
いったい、どうして、こんな事になったのだろう。
俺はその場で立ち尽くした。
その手に握っていた聖剣はいつの間にか手からすり抜け地面に突き立ち、傷からはとめどなく血が流れていく。
足下には物言わぬ屍が無造作に倒れ伏している。一つではなく二つでもなく何人も何人も何人も、その中には俺の事を慕っていた部下が、友の部下が、見知らぬ名前も知らぬ人間が、チラリと見たことがある程度の人間、様々な人間がいた。
血が流れる。血が、血が、血が流れていく。
このブリテンへ、このカムランに、余りに多くの人間たちの血が流れていく。
一昔前なら、いや、俺が俺になる前までならきっと何か聞くに耐えない事を叫び散らして目を背けていたであろう悲惨な光景が俺の前に広がっていた。
蛮族や幻想種を殺して広がるような光景とは違う。侵略者や遠征で感じるものとは違う。友を、仲間を、同胞を、知り合いを、殺した殺した殺した殺したそんな形容し難い何かが俺を襲った。
覚悟をしていた筈だった。
俺が、ランスロットになった時から
俺が、湖の畔から旅に出た時から
俺が、ブリテンに辿り着いた時から
俺が、円卓の騎士となった時から
俺が、俺が、俺が、俺が、俺が、
俺が、マーリンに未来を告げられたその瞬間に覚悟していた筈だろう────!!!
立ち尽くす俺の口内に鉄の味が広がる。
どうでもいい。
「……ランス、ロットォォ…………ッ!!」
背後から金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
息も絶え絶えの枯れながらも必死な声が聞こえてくる。
振り上げられた剣が空気を切る音が聞こえてくる。
血の染みた大地を踏みしめる音が聞こえてくる。
「……ランスロットォォォッ!!!」
振り降ろされた剣が空気を切り俺の背へと向かう音が聞こえてくる。
────斬ッ
握り締められていた手が、腕が、振り切っていた。その手には血に濡れてなお波紋一つ無い湖面の如き刃の聖剣が握られていた。
聖剣の先には剣が半ばから断ち切られ、その胸を腕と共に切り裂かれた騎士がいた。兜は砕け、額から流れる血に濡れた醜悪であるがしかし義憤に満ちた善性のその顔に俺は血の涙を流す。
「エクター……何故……」
「……な、ぜ?何故、だと?……ラン、スロット……貴様が、きさ、まが、それを言うのか…………!!」
俺のような男と比べとても美しく人々に愛された異母弟……円卓の騎士にはなれなかったがそれでもキャメロットの騎士としてガウェインを始めとする騎士らに称賛されたエクター。
額から流す血が、その義憤に満ちた善性であるはずの表情が、その憤怒に満ちた感情が、鳥の囀りの様な美声を枯らし、美顔を醜悪に変えた。
既に死に体ながらもその眼光は見るものを焼き殺さんが如き力を宿している。その眼光を受けながら俺は涙を流しながら我が弟に問いかける。
「何故、お前は……」
「ランス、ロット……!こた、えろ……何故、な、ぜ、……何故、我が、王を裏切ったァァァ!!!!」
嗚呼、そうだ。
何故こんな事になったのか。
それは至極簡単な事だった。
俺は、彼女を、騎士王を、我が友を、アルトリアを裏切ったのだ。
理解した。いや、理解したくないと頭の片隅へと追いやったものを手に取ったに過ぎない。
悲劇の主人公でも気取りたいのか?違うだろう。何を喚こうが、何を唄おうが、何を叫ぼうが、結果を見ろ。俺がこの国を、騎士王を、裏切ったのだ。
この戦いなど俺が差し込んだ切れ込みに、彼女が、モードレッドが暴走してその切れ込みを広げた結果起きた事だ。
いや、違う。モードレッドのせいではない。彼女は俺の開いた切れ込みに手を加えただけで誰が開こうがそんな切れ込みを作り出した俺が悪いのだ。
「何故、何故、な、ぜ………………」
血を流しすぎたのか、いや、単純にもう気力だけで動いていただけだったのか、エクターは倒れ伏した。その瞳は未だ力を宿している、俺はエクターの眼を閉ざさせ、辺りを見渡す。
「……ああ、そうだな」
ガウェイン、ガヘリス、ガレス、パロミデス、パーシヴァル、ライオネル、ボールスらそしてエクター…………共に語らいあった嘗ての友らが冷たくなって倒れ伏している。
とめどなく溢れていた血はもはや止まり彼らはもう二度とその身体を動かすことは無いだろう。
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
友を、仲間を、兄弟を、部下を。
ふと、剣戟の音が聞こえた。そちらを見れば槍に貫かれたモードレッドがいた。
「ああ、終幕か」
そして、俺は自らの首に聖剣を添え、そのまま幕を下ろした。
ああ、どうすれば良かったのだろうか、アル。
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アーサー王伝説に曰く、円卓最強の騎士と誉れ高い、『湖の騎士』サー・ランスロットはアーサー王付きの魔術師マーリンとアーサー王の命により、ブリテンが大きく崩れ滅ぶ前に静かに国の解体作業をしていたと言う。
しかし、国の存続を願うアグラヴェインとの衝突、アーサー王の異父姉たる魔女モルガンの策略、アストラット王によるアーサー王の妻王妃ギネヴィアとの不義の捏造未遂、ローマ遠征の際に起きた諸侯の活動。
これらの要因が複雑に絡み合った事によりアーサー王が厚く信頼した『湖の騎士』は彼を中心に出来た罅へと最後の一打を降ろしたアーサー王と魔女モルガンの不義の子『叛逆の騎士』モードレッドによって『裏切りの騎士』とその名を貶められた。
ローマ遠征より急ぎ帰還したアーサー王と謀叛を起こしたモードレッドによる激突、後にカムランの戦いと呼ばれる戦にて件のランスロットは円卓の騎士としてアーサー王に味方しようとするもランスロットを『裏切りの騎士』と信じたランスロットの親友サー・ガウェインを始めとするサー・ガヘリス、サー・ガレスら、更には血を分けた異母弟であるエクター・ド・マリス、従兄弟であるボールス、ライオネルらの反発にあい彼は少数の自身を信ずる部下たちと共にモードレッドの軍へと遊撃する事となった。
だが、彼は彼を裏切り者として見ていた嘗ての仲間たちに襲われ、遂には一人でガウェインらとモードレッドの軍と戦うこととなり、嘗ての仲間を兄弟を従兄弟を殺し、悲嘆の中自害しその遺体を生き残った彼の部下が湖へと流したという。彼の故郷ではないが彼の好んだ湖で安らかに眠れるように、と。
後にアーサー王を看取ったベディヴィエールとアーサー王の秘書でありランスロットと衝突したアグラヴェインにより『裏切りの騎士』という汚名は晴らされ悲劇の忠臣として知られるようになった。
「ああ、なるほど、悲劇の忠臣か……馬鹿め。美辞麗句で罪が晴れるものかよ……」
カフェの屋外テーブルについていた青年はそう悪態をつきながらその手にあった厚めの本を閉じた。
興味無さげにアーサー王伝説解体新書と表紙に綴られた本をテーブルに放り、紅茶の入ったカップに口をつける。
濃紺の髪を束ねた髪型、俗に言うポニーテールにし、ワイシャツを着崩した二十歳を超えるか超えないかの青年。その瞳は波紋が立たない湖面のような何処か不思議なもので何処と無くこの世ならざる雰囲気を纏う青年はカップを置き向かいに座る人間に目を向ける。
「それで、俺に何の用だ。こんな本を持ってきて」
「うん?ただの嫌がらせだけれども?」
「…………」
青年は目の前の人物の全く悪気のない言葉にイラついたのかその人物に向ける眼を鋭くし舌打ちをする。青年にとって目の前の人物に悪気のない悪戯をされるのは幼い頃から日常茶飯事であった為、もはや慣れた事ではあるがやはりこの様な嫌がらせには流石にイラつきを隠せないのだろう。
「…………本題はなんだ。大人しく言わないなら俺は帰る」
「べ、別に君に会いたかったわけじゃないんだかr、ごめんごめん冗談だから座って座って」
「………………」
青年の冷ややかな視線は目の前の人物にさっさと話せと言わんばかりのもので目の前の人物は冷や汗を垂らしながら本題を話し始める。
「────────」
「────────」
「────────」
「…………」
「────────」
「────────」
「────────」
「…………」
「────────…………と、言うわけだけど」
目の前の人物の話を聞き終え、青年は聞いている間閉じていた瞳を開き一言
「断る」
「え?」
まさかの返答に唖然とした人物をそっちのけにウェイターを呼び飲んだ分の代金を払い、荷物を持って席から立ち上がる青年。
席を立つ音に意識を現実に戻した人物は慌てながら青年に話す。
「待って待って、なんで!?き、君にとって悪い話じゃないだろ!?」
「知らん。そんなもん受けるかどうかは俺の勝手だ」
「でも────!」
青年の背後から聞こえる人物────女性の声に耳を貸さず青年は歩く。
歩く。歩く、歩く。
歩く。歩く、歩く。
歩く。歩く、歩く。
歩く。歩く、歩く。
歩く。歩く、歩く。
後ろを振り返らずただ歩いていき、何度目かの角を曲がったところで唐突に左の手の平を空へと掲げる。
その掲げた手の甲を見上げ自嘲する様に青年は嗤う。
「ああ、誰がやってやるものか。昔からお前の善意は何らかの仇となって帰ってくるんだよ」
「だから、お前の提案、頼み事は蹴る」
「その上で俺は、俺がしたいからするんだ。それになにより、そんな事は知ってる、だからこそのこの10年間だ」
その手の甲には薄らと赤い紋様のような痣の跡があった。
読んでくれてありがとうございます。
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ところで水着の我が王は引けました?
引けませんでした。