Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
時系列は本編とは違います。
歩いている。
見知った廊下を歩いていく。
壁に付いている窓から光は差し込んでいるが薄暗い廊下を一人歩いていく。
こんなに暗かっただろうか。明るかった筈だ。俺の中にあるこの廊下はこんなに薄暗い場所では決してなかったはずだ。
ああ、あそこには確か部下の一人が作ってくれたモザイクアートがあったはずだが……何も無い。のっぺりとした影があるばかり。
廊下の窓から見える美しかった小さな庭園には嘗ての記憶にあるような色鮮やかな花々は無く、その代わりと言うのか寒気を感じさせるように黒い薔薇が咲き乱れている。
よく見れば壁面や、床には黒いタールのような何かがこびりついているようにも見える。
いったい誰の悪戯だ。いや、悪戯などでは済ませられない、そもそもなぜに俺はここにいるのか。わからない。
だが、きっと目的地にこの元凶またはそれに準ずるものがあるのだろう。故に俺は廊下を歩き続ける。
決定的に何かがズレていると、俺は感じながらもこの歩みを止めることは無かった。
───ふふ……私の愛しい御方。早く、私のもとに…………
────────────────────
「変な夢?」
カルデア、その数ある施設の中でサーヴァントやスタッフらの憩いの場である遊戯室にてカルデアのマスター兼サーヴァントであるランスロットは遊戯室で共にトランプに興じていたマーリンに一つの悩みを告げた。
「ああ。ここ最近何やら変な夢を見ている……はずなんだ」
「はずって、なんだい…………」
悩み、それはここ最近ランスロットが見ているのであろう夢の事。
見ているのであろう……そんな曖昧で疑問符が湧くような言い方をしたのには理由がある。
「感覚としては夢を見ている、というのは分かるんだが起きると酷く曖昧になる……それならただのよくある夢と思うんだが……」
「何やら嫌な予感がする、というわけだ」
直感のスキルを所持している訳では無いがランスロットはここ最近の曖昧な夢?に対して嫌な予感を抱いていた。
それはただの夢と断ずるには嫌な予感が過ぎる。
故にランスロットはこと夢に関しては専門家とも言うべきマーリンへと相談したのだ。
「うーん、とりあえず診るだけ診てみようか」
「ああ、頼む。ほら、ジャックのフォーカード」
「おっと、キングのフォーカードだよ」
くたばれキングメーカー。フォーウ。
マーリンの出したカードにランスロットは中指を立て、膝上のキャスパリーグもマーリンへ文句の鳴き声をあげる。
そんな一人と一匹にマーリンは笑みを浮かべながらその手をランスロットの頭へと伸ばしその額に触れる。
「一瞬、お前が女で額と額を合わせたら────と夢想したがそんなのは人理焼却で焼かれるべきだと思った」
「あはは、君の前で女体化したら黒いアルトリアに斬られかけたからね。やらないさ────あ」
ランスロットのジョークにマーリンは笑みを浮かべその表情が氷のように固まった。
それにランスロットは胸中に渦巻く嫌な予感が確固たるものと変わったのを感じとり
「……ランスロット、悪いがこれは私には少し手に余るようだ」
「…………そうか」
「いいかい?暫く自室で安静にしておくんだ……大丈夫、一日ぐらい横になってれば解決するさ」
マーリンの告げた言葉にランスロットは何か引っかかるものを感じつつも信じ頷いて席を立ちそのまま遊戯室より出ていった。
そんなランスロットの背をマーリンは複雑そうな表情で見送り、すぐさま何やら魔術式のようなものを広げ始めていった。
「おや、ガウェイン卿。どちらへ?」
「ああ、トリスタン卿。今日はベディヴィエール卿と共にトレーニングをしに行こうと話しあったところで」
「トリスタン卿もどうですか?」
ランスロットのマーリンへの相談より翌日、ランスロットと同じ円卓の騎士であるトリスタン、ガウェイン、ベディヴィエールは昼食を終え話しながらトレーニングルームへとその足を向けていた。
「なるほど……それはいいですね。ところでランスを知りませんか?」
「ランスロットですか?いえ、今日は見ていませんが……ベディヴィエール卿は?」
「いえ、私も今日はまだ見かけていませんね」
三人の話題は同じ円卓の騎士でありこの場にいないランスロットへと移る。仕事などの都合でアグラヴェイン共々遅くに就寝しようともそれなりに早く起床する彼を昼食が終わっているにも関わらず三人の誰も目にしていないことに三人は首を曲げる。
三人の中ではだいたい昼食の頃にはアグラヴェインと共に書類を片手に軽い昼食を取っていたり、我らが王とりわけトリスタン曰く「機嫌の悪い方の王」の供回りを務めているなどの認識だが今日はそのどちらでもないことを不思議に思いつつもそういう時もあるだろう、と結論付けた。
「きっと疲れて自室にでもこもっているのでしょうね」
「そして、休んでいるにも関わらず面倒事が転がりこんでくる…………ああ、それは悲しい」
「…………ベディヴィエール卿が私のネタを使っているような違うような……複雑な心境に私は悲しい」ポロロン
互いに笑い合う三人。
だが、すぐにその笑みは止まることとなる。
『緊急連絡です────ガウェイン卿、ベディヴィエール卿、至急管制室におこしください……あ、トリスタン卿もお願いします』
館内に響き渡る放送に三人の表情は先ほどと打って変わる。
「何やら緊急事態のようですね」
「ええ、我々円卓の騎士が必要のようです、急ぎましょう」
「………………まるで私がおまけのように呼ばれて、私は悲しい」ポロロン
「悲しんでないでさっさと行きますよ、トリスタン!!」
何やら嘆いているトリスタンにベディヴィエールは叱咤し、その首根っこを掴んでガウェインと共に管制室へと急いでいく。
幸か不幸か三人のいた場所はそれなりに管制室に近く、すぐに管制室へとたどり着き入室した。
「円卓の騎士ガウェイン及びベディヴィエール、トリスタン、三名ともに到着しました」
管制室へと入った三人を待っていたのは司令代理であるレオナルドに立香やマシュ、さらには騎士王アルトリア・ペンドラゴンにアグラヴェインとモードレッドという三人以外の円卓の騎士もそこにいた。
三人が来たのを見てレオナルドは一度頷き用件を述べ始める。
「案外早くてよかった。実は微小な特異点が観測されてね……この前の件に似たような反応が感知された」
「この前というとそれは……トリスタン卿の件ですか?ダ・ヴィンチちゃん」
「…………」
マシュの質問にトリスタンはその表情をやや申し訳なさそうにするが誰もそれは気にとめずレオナルドの言葉に耳を傾ける。
「ああ、それであってる。で、今回円卓の騎士を呼んだのは前回の微小な特異点との類似性を調査してほしいんだ」
「なるほど……アレ?ランスロットさんは?」
「……ランスロットは少し不調ということもあり今日は自室待機だそうですリッカ」
トリスタンを中心とした謎の微小な特異点。確かにそれと似通った反応があるというのならばその類似性を調査するのに円卓の騎士が派遣されるのは納得のいくことであるがその一人であるランスロットが管制室に不在。
それに気づいた立香へすぐさま騎士王は今朝マーリンより伝えられた事を立香に伝える。そんな二人を尻目にレオナルドは今回のレイシフトについて話し始め……
「それで、今回のレイシフトのメンバーだけど────」
「おっと、間に合ったみたいだ」
「────マーリン」
その話を途中で遮って管制室へとやってきたマーリンに視線を向ける。急いできたのかやや羽織っているローブが乱れているがマーリンは気にせず立香の下へ近づき、懐から何かを取り出した。
外套だ。
特になにか紋様があったり、装飾がされているわけではない無地の外套。
「えっと……」
「これを持っていくといい、今回の特異点には必要になる」
「え?」
「マーリン、それはどういうことだい?」
マーリンの外套と言葉を受け取り立香は唖然として、レオナルドやマシュをはじめとする円卓の騎士も皆一様に怪訝な表情でマーリンをみる。何か知っているのか、と。
「それなりに、ね。だからこそ今回のレイシフトメンバーは少し私が口出しさせてもらうよ。アルトリア、アグラヴェイン、トリスタン、ガウェイン、モードレッドの五人を連れていくのがいい」
「……マーリン、何故私は……?」
「ベディヴィエール、君には念の為にこっちに残って欲しい。念の為にね……」
というわけで、さぁ早く用意して!そうマーリンは急かして立香らにレイシフトの用意を始めさせる。
そんなマーリンを見て騎士王は詳細を聴くことを諦め、アグラヴェインは溜息をつき逃げようとするモードレッドの首根っこを掴み用意へと向かっていった。
残るのはベディヴィエールとレオナルド、マシュにマーリン。
レオナルドはマーリンに怪訝な表情を向け続けるがマーリンはそれを無視しそのままベディヴィエールへ一、二言喋りかけるとベディヴィエールは頷きすぐに管制室を後にした。
『アンサモンプログラム スタート。
霊子変換を開始 します』
『レイシフト開始まで あと3、2、1……』
『全工程 完了。
グランドオーダー 実証を 開始 します』
────────
湿った音がする。
なにかに浸かっている気がする。
暗い昏い冥い。
右腕が何かに濡れている感覚がする。
どこかで感じた事のする感覚だ。
嗚呼、そうか。気をつけろ魔女が嗤っているぞ。
Twitterや活動報告の方でも言ってますがアナスタシアを無事引くことが出来たらカドックくんに憑依転生してアナスタシアを召喚するSSを書きたいなと思います。
ランスロットの方もきちんと少しずつではありますが書いていくので安心してください。
感想や評価、意見、誤字脱字報告お持ちしています
ランスロット自体久々で少し書き方を忘れかけた件