Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】   作:カチカチチーズ

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IFルート


番外
有り得たかもしれない道:番外


 

 

 

────ガンッ、キィンッ、タァンッ!

 

 

 深夜の街の一角、港付近の人気の無いコンテナ区画にて金属のぶつかるような音が響いていた。

 ぶつかる勢いが強いのか音はかなり大きく響いているのにも関わらず周囲の人間には何も聞こえない。

 それは何故か。

 それはこの場には既に何らかの超常の力が……魔術によってこの戦闘区域から一定範囲内の外に音が響かない様にされているからであった。

 

 

 さて、その肝心の響く金属のぶつかる音、その原因は……二人の戦士。

 片や深い緑の軽装を身に纏い布が巻かれ隠された短槍と長槍の双槍を扱う泣きボクロを持った男。

 片や全身鎧に包まれた右に大盾、左に剣を扱う、何やら黒い靄のようなものでその全容が掴めない騎士。

 互いに達人以上の技量の持ち主か、常人では理解出来ぬぶつかり合いを行っている。

 

 双槍の男はその身に纏う軽装と短槍と長槍の双槍だが軽い身のこなしによる手数で騎士に仕掛けるが、騎士はまるでそれらを先読みするかの如くその右手の大盾で防いでゆく。

 大盾で防ぎ生まれた男の僅かな隙を逃さず騎士はその左手の剣で男の首を狙うが、軽装である為容易く男は回避する。

 こんな一進一退の戦闘が始まってから何度も何度も繰り返されていた。

 

 だが、遂に戦闘に変化は訪れた。

 男が騎士の攻撃を回避しそのまま後方へと退り槍を降ろし騎士を見て笑みを浮かべる。

 

「よもや、狂戦士の身でありながらこれ程の技量とは……感服するしかないぞ」

 

「…………ァァ」

 

 男の感心し敬意を感じさせる言葉に騎士は短く人語ではない唸り声のようなもので返答する。

 そんな騎士の行動が意外だったのか、男は一瞬目を見開き先ほどのようにいや先ほどより深い戦士の笑みを浮かべた。

 

「こちらの言葉に反応出来るとは、なるほどただの狂戦士ではないわけか……それは僥倖だ」

 

「ただの狂犬との戦いと思えば、よもや貴様のような狂気に身を堕としながらも己を保つほどの傑物と戦える、これ程の幸運があろうか」

 

「ァァァ…………ァァッ!!!」

 

 男の言葉に騎士は一際大きく叫び、剣を握る位置を変える。先ほどまでは鍔本辺りを握っていたがいまは柄先の辺りを握る。

 これによりリーチが僅かながらに変化する。

 変化にして10センチ有るか無いか、しかしこの二人の戦闘においてこの変化は大きなものとなる。

 柄先である為先ほどと違い動作が遅くなるがこの騎士にとってその遅延は速さを売りとする男に対しても問題はないのだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ゆくぞッ!!」

「ァァァァァァッッ!!」

 

 低姿勢で飛び込む男に騎士は大きく剣を振るう。

 低姿勢で動くため段々と加速していく男は大振りな騎士の剣をいとも容易く避けるが騎士の大盾による堅牢な防御は変わらず男は騎士に一撃を入れる事は出来ず、騎士は先ほどまでと違い遅延がある剣を振るわずそのまま大盾で打撃を繰り出す。

 しかし、騎士の大盾による打撃は男に当たる寸前に後ろに飛ぶ事でダメージを最小限に抑える。

 

 互いに決定打は生まれず。

 しかし男は少しずつ騎士の動きを理解していく。

 その防御が堅牢であるが故に騎士は迎撃を避けられた後に追撃はしない。狂戦士でありながら防御の隙を造らないようにする、そんな狂戦士とは思えない騎士の動きに先ほど以上の感嘆の意を抱きながら男は高らかに望む。

 

「我が主よ!どうか、宝具を使う事を許されよ!」

 

 目の前の騎士に出し惜しみは出来ないと感じ、このコンテナ区画の何処かでこの戦闘を見ているおのが主に懇願する。

 何より宝具、その内の一つを用いれば目の前の狂戦士の堅牢な防御を打ち破れるという自信を持っているため。

 

 

『…………』

 

「主よどうか!」

 

『……よかろう。ランサー、宝具の開帳許可しよう』

 

「ハッ!!勝利を主に捧げましょう!」

 

「…………ァァ」

 

 男の懇願にコンテナ区画の何処からともなく男の主の声が響き男に宝具の開帳を許した。

 その言葉に男は歓喜し主へ勝利を捧げる事を高らかに宣言し改めて騎士を見る。

 

「……狂戦士よ、貴様に我が宝具を御覧に見せよう。これは俺から貴様への敬意の表れだ」

 

 そう言って男は双槍の内長槍に巻かれていた布をとく。解かれた布の下から現れるのは紅。

 紅い長槍、これこそが男の宝具。

 これこそが男の勝利の自信の理由。

 騎士はその槍を見て警戒故か盾を自分の近くに引きどのような攻撃にも耐えうる状態を取る。

 

「……行かせてもらおうッ!!」

 

「ァァァァァッ!!」

 

 長槍による刺突。

 剣による対応をするにも男は速く、剣を振れば防御は間に合わず当たると騎士は直感し大盾により流す事を選び

 

「無駄だ!」

 

「ァァッ!!」

 

 男の紅槍が大盾に触れた瞬間、大盾は溶けるように紅槍の触れた箇所が消えた。

 騎士はそれに短いながらも驚愕するがすぐに身体を動かし肩を掠める程度に収める。

 無論、紅槍に触れた肩の鎧部分も溶けるように消え騎士の肩を浅いながらも抉った。

 騎士は抉られた右肩を無視し、鍔本に握り変え柄で男へ撃つものの男は短槍で剣を受け止め鍔迫り合う。

 

「まさか、咄嗟に避けるとはな。普通ならばあのまま心臓を貫かれ終わっていたのだが……やはり貴様はなかなかの傑物だな」

 

「……ァァ」

 

「どうした、御自慢の防御を俺は貫くぞ。殻に籠らず攻めてこい!」

 

 武装、否魔力を無力化する紅槍に騎士は下手に距離を取れない。

 紅槍は長槍である為、間合いに踏み込んでいれば使用が難しくなり防御を無力化される事は無い。しかし、騎士にとって間合いが近ければ、攻撃に転じてもすぐに防御に移れず短槍による一撃を食らうと理解しているのか、短槍を抑える為の鍔迫り合いを続ける事しか出来ない。

 無論、その間紅槍が振るわれる危険性がないわけではなく。

 

「攻めぬならば────」

 

 男は騎士の行動に対し、紅槍をすぐさま短く持ち直して

 

「このままその首を貰い受けるッ!!」

 

 魔力を無力化するその紅槍で首元へと刺突を放つ。

 盾による防御は紅槍に無力化され、

 剣は短槍と鍔迫り合い、

 頼みの鎧は盾同様魔力で構成されていて、

 

 

「────(この勝負貰ったッ)」

 

 

 

 

「然シ 甘ク アル」

 

 首元へ突き立てられる筈だった紅槍は突如首元に出現した手を貫き首元に届かず止まる。

 

 

「な、に……?」

 

 それは目の前で起きた目を疑う様な光景にか、それとも先ほどまで人語ではない唸り声を口にしていた狂戦士がカタコトなれど明確な人語を口にした事にか。

 紅槍は現れた手に握られている。相当の握力か、手を貫かれているというのに握られている紅槍からは軋む様な音が聴こえてくる。

 男の驚愕は最もな反応ではあるが、この場においてそれはあまりにも致命的な隙で

 

「フン!」

 

「ヌゥッ!?」

 

 騎士は左足で驚愕で動けない男を蹴りつける。

 そこまでの力は篭っていなかったのか男は僅かに後退するだけだが紅槍は握られて動かせない為手放してしまい。

 

 

 

「────!」

 

 

 

 騎士の剣が男の短槍を持っていた右肩を切り落とした。

 

 

「ガアァァァッッ!!??」

 

 

 断ち切られ大量の血が吹き出す断面を抑えながら男は絶叫する。

 そんな様を見ながら騎士は剣を地面に突き刺してから何らかの術を行使していたのか首元に出現していた手から貫通していた紅槍を引き抜く。

 その後、貫かれていた手は消え盾の裏からその手を出す。傷がない左手で盾裏から何やら液体の入った瓶を取り出し右手にかける。

 忽ちに傷は塞がり元通りの手になり穴の空いた篭手は魔力で修復される。

 騎士は何を思ったか、盾をその場から消して落ちている紅槍を拾い上げる。

 そして、再び男を見る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……いったい、何が……」

 

 男は驚愕する事があまりに連続で起きた為か何がどうなったのかきちんと分かっていないようだった。

 そんな男に騎士は

 

「ワカラナイ カ」

 

「タダ 一部ノ 空間の繋がリ ヲ置換したダけ だ」

 

 落ちていた男の右腕から短槍を拾い上げその布をといて

 

「下位の 基礎魔術だ」

 

 男の胸に背後から黄色の短槍が生えた。

 

 

「カハッ────」

 

 男は血を吐きながら胸から生えた己の槍を見る。

 ありえない、それが男の心中だった。

 必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)。それは生前男が妖精王より贈られた治癒不能の傷を負わせる呪いの短槍。

通常のディスペルは不可能でこの槍で負った傷は槍を破壊するか、男が死なない限り癒えぬ事がない。

 しかし、しかし、この槍は使い手である男を傷つける筈がなく────

 

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)……この槍は俺の槍だ」

 

 

「宝具、を、奪う……宝具、だと」

 

 もはや狂戦士であった人語ではない唸り声でも無く、カタコトでも無く、流暢な言葉で騎士は語る。

 その語られた言葉に男は驚愕するしか無かった。

 

 

 

「『騎士は徒手にて死せず』……アロ、いやアレは使えずジョワイユは解放ができない代わりに使う事の出来る直接的な攻撃力を持たない俺の宝具」

 

「────よも、や、まだ力を、隠して、いたとは……」

 

「紅槍は無理だが、この黄槍はこのまま使わせてもらおう。逝けランサー、貴様の聖杯戦争はこれにて終わりだ」

 

 

 男へ告げる男の敗北に男は涙を流しながらこの戦いを見ていた主へとこんなところで敗北する己の至らなさを深く深く謝罪した。

 

 

「もう、しわけ、ございません……わが、ある、じ…………」

 

 

 こうして男、ランサーのサーヴァント・ディルムッド・オディナの聖杯戦争は終了した。

 後に残るのは騎士だけ。

 

 

 だが

 未だ夜は終わらず

 むしろ、ここから

 

 

 

 

 

「まさか、既に我々より先に来ていて且つサーヴァントを一騎落とした、とは……さぞ名のある英雄なのでしょう」

 

「セイバー……気をつけて」

 

 

 

 

───ああ、来たか

 

 騎士は声のした方を振り向く。その手にはランサーより所有権を宝具で奪った黄槍と愛剣ジョワイユ。

 バーサーカーのイレギュラークラス、シールダー・ランスロット・デュ・ラックの聖杯戦争はまだ始まったばかりなのだ。

 

 




何も言うな。
分かってる。
何も言うな。

バーサーカーぽかったのは魔術です。

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