この素晴らしい世界でゆんゆんのヒモになります   作:ひびのん

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第三話

 二人はさておき、俺は宝箱の他に何か隠されているものがないか、ほとんど空っぽの部屋を続けて探し始めた。

 目をつけたのは本棚だったが、ほとんど薄汚れていて読むことができない……そもそも字が読めなかったっけ。

 

「これ何の本かわかるか?」

「……ううん、何かの魔法に関係する本みたい。えっとね、死霊術に関する本かな」

「死霊術って?」

「アンデッドのことかな。ここのダンジョンの人、アンデッドの研究をしてたんだと思う」

 

 パラパラとページを捲って目を通しながら、そう教えてくれた。

 カズマとアクアもどれどれと顔を覗かせたが、難しい専門書らしく、内容はさっぱりわからなかったらしい。「へー、そんなこともわかっちゃうの。さすが紅魔族ね」とアクアが褒めると、照れてゆんゆんの表情が緩んだ。

 

「ほっ他の本も、アンデッドに関係する本ですねっ。紅魔の里じゃ習わなかったことが書いてあります……」

「ゆんゆん、もういいわ。アクシズ教の信徒たるもの、アンデッド系等のバッチイ本なんて触っちゃだめよ。それは禁書よ、禁書。さっさと燃やしちゃいましょ」

「アンデッドの本か。なあゆんゆん、ってことは、ここはダンジョンの主の部屋か何かじゃないのか?」

「あっ……! う、うん。この本を読めるくらいの人だから、きっとすごい人だったんだと思う」

 

 多少興味深そうに中身を見つめていたが、首を横に振って本を閉じて棚に戻した。

 

「なあ。そんなに難しい専門書なら、高く売れるんじゃないか?」

「はぁ?! ちょっとカズマさん、アンデッドに関する本なんて今すぐ燃やすべきよ! 持って帰るなんて絶対ダメ!」

「お前の借金も減らせるぞ?」

「ぐ……わ、私がいつもお金でたぶらかされると思ったら大間違いよ!」

「なあ冷静に考えてみろアクア。お前の抱えてる借金、いまいくらだ?」

「え……ええっと、ひ、百万エリスくらい……だったっけ?」

「……お前、一晩でどんだけ飲んだんだよ」

 

 どうやらその額はカズマにとっても予想外だったらしい。たった二、三夜でそんな額を使い果たしたのかと感心していると、アクアが精一杯抵抗した。

 

「だ、だからって、これは売らないわよ! 私にだって女神としての責任があるんだから! いやー!!」

「よこせ! 借金をしたお前にははなから選択の権利はねえっ!」

「たすけて! カズマさんが邪教に魂を売り渡しちゃう!!」

 

 アクアがカズマから覆い隠すように本を数冊、まとめて棚から引っこ抜き、それに掴みかかったそのとき、カチリと奇妙な音が聞こえた。

 何かのスイッチを押したらしき音だ。全員が思わず固まる中……本棚がゆっくりと横にずれて、埃を散らしながら奥に続く道が現れた。

 

「隠し扉……ですよね?」

「ああ……」

「おいアクアお手柄だぞ。この奥にさらに売れそうなものがあるかもしれん」

「…………」 

「おいアクア、拾い食いして腹でも壊したか?」

「ちっがうわよ!! ……なーんか、この奥。すごい臭いの。みんな気をつけて、何かほんとにやばいものがあるわ」

 

 奥は暗闇に包まれているが、どうやら部屋のような構造になっているらしい。

 俺たちは顔を見合わせて、そして、カズマと俺を先頭に先に進んだ。そしてカンテラを持ち上げて、部屋中を照らす。

 

「うわっ!?」

「きゃぁっ!!」

 

 カンテラを掲げた以上の圧倒的な光量が、俺たちを襲った。

 すっかり暗闇に慣れた目を思わず覆い隠すと、瞼の向こう側に、うっすらと人影が見える。影はくっきりと見えるのに、完全にシルエットと化したその人影は優雅に手を振って一礼した。

 

「ほう。これはこれは、なかなか面白い侵入者ではないか。歓迎するぞ、冒険者の卵よ」

 

 男の声が聞こえると、光は徐々に弱まり姿が見えるようになる。さっきと同じような古びたその部屋に立っていたのは、魔導師のようなローブを被った男だ。

 手足は衣服に隠され、顔は奇妙な意匠の仮面を装備しているおかげで見えなかった。だが、大きく開いた口元の肌がくすんだ緑色。アンデッドだ。しかし、今までに出会った呻くだけの怪物とは明らかに違う。

 

「な、何だお前は!」

「ふうむ……名を名乗る時は自分から……と思ったが、貴様らは、我輩がダンジョンに訪れ、この身体を借りてから初めての客である。故に特別大サービスで、先に我が名乗りをあげるとしよう。我輩、ダンジョンの主であるキールの代理人、名をバニルと言う。以後、お見知りおきを」

 

 男は紳士と言うにふさわしい礼儀正しい態度で、腕を払うように一礼した。その優雅な一挙一動は、まるで宮廷魔導師のよう。

 バニル、どこかで聞いたことがある名前だ。一体どこで見かけたのか……しかし思い出す前に、男は言葉を続けた。こちらのパーティーを見定めるように口元を歪めながら、顎をさする。

 

「”セイクリッドエクソシズム”っっ!!!」

「ほう……なるほど。貴様らは、うぉっ!?」

「なっ、アクア!?」

 

 何かを言おうとしたバニルだが、それよりも先に、アクアが聖魔法をぶっ放したおかげで中断した。

 

「……おいそこの水色の小娘! 貴様、少々常識が欠けているようだな。人が喋っている時に邪魔するなと親に教わらなかったのか?」

「うるさいわね!! 三人とも、気をつけて。こいつ悪魔よ! しかもそこらの悪魔じゃない、大悪魔よ!」

「そうとも、よくぞ見破ったな。我こそは魔王軍幹部にして、地獄の公爵バニル様である! ハハハ、よくぞここまで辿りついたな冒険者ども!!」

「待て、魔王軍だって!?」

 

 カズマが「また幹部かよ!?」と、叫んだ。同時に、くいと袖を引かれた。隣を見ると、ゆんゆんの手が震えている。

 

「しょ、ショウくん。た、大変だよ。あの人からすごい魔力を感じるの……」

「ゆんゆんでもそう感じるのか。俺は全然だ……けど、魔王軍の幹部が、なんだってこんなところに」

「ふむ、その疑問はもっともであるな。無論、目的があって我輩ここにやって来たわけだが……」

 

 見定めるように四人に順に視線を向けて、顎を手で撫でた。

 一体何のために、こんな辺境の地へ? そんな疑問の視線が四人から突き刺さるが、本人はいたって気楽なもので「ああ、そうそう」と、今思い出したかのように手をたたき合わせた。

 

「平たく説明させていただくと、上司である魔王のやつに元幹部にして、復活して幹部候補筆頭となったハンスを滅ぼした冒険者がこの街にいるらしいのだ。でもって、その冒険者に挨拶してこいと言われ、この街を訪れたのである」

「えっ」

「え、ええっ……?」

「あの悪魔さん、それはマジ? この街にいるのは魔王軍幹部どころか、魔王軍一人にすら歯が立たないレベル20以下の初心者冒険者ばかりですよ?」

「間違っておらんぞ。ここはアクセルであり、君たちは今話した冒険者に心当たりがあるようだが?」

「あの、ちょっと作戦タイムをもらっても?」

「ああ構わんとも。存分にとりたまえ」

「おいみんなちょっと集合」

 

 思わず顔を見合わせた。だらだらと汗が流れ始め、ヒソヒソと裏会議で確認し合った。

 俺たちじゃね? 俺たちだな。私たちね。私たちです……。

 意見は当然のように一致。この魔王軍幹部とやらは、あの時アルカンレティアにいた冒険者六人を探しにきたらしい。

 よし逃げよう。

 カズマと視線を合わせ、言葉を交わすことなく意見を一致させる。だがそれを口にする前に、身体を射抜くような恐ろしい気配を感じ、慌てて視線を地獄の悪魔バニルに戻すと、両手の親指と人差し指で長方形を作り俺たちを見据えていた。

 

「……ほう! これは面白いことになっているようだ。まさか、こんなところで女神と相見えることになるとは!」

「なっ!? なんでそれを!」

「分かるとも。この大悪魔バニルの瞳は全てを見通す! ……とはいえ、そんな能力使わずとも、やたらめったら眩しく見えるそこの女がそうであるということは、悪魔なら誰でも分かるだろうがな」

 

 何かのスキルを発動させていることは明白だった。バニルの仮面の奥に赤い光がギラリと宿り、不気味な予感を感じた。

 まるで、この悪魔に心の奥底を見透かされているよう。しかしそれより、悪魔が女神であることがバレていることを知って心臓が鳴った。心が読まれたのか、それともアクアが悪魔を察知できるように、悪魔も女神を察知できるのか。

 とにかく両者はお互いの存在を正しく認識したようだ。バニルはアクア個人を見て舌舐めずりした。その仕草にゆんゆんがぞっとしたようで、両腕で体を抱きかかえた。

 当人のアクアはというと、ただただ嫌そうに顔を顰め、はぁぁと大きなため息を吐いた。

 

「悪魔がアンデッドの体を乗っ取るなんて初めて見たけど、便所以下の臭いね。魔王軍だか何だか知りませんけど、この部屋、悪魔とアンデッドの臭いしまくりで、臭くてたまらないんですけど? ちゃんと自分の存在を抹消してから換気しといてもらえます?」

「言うではないか、少し鼻が敏感な駆け出しのプリーストよ。駆け出しにしてはなかなかのものであったぞ。それほどに臭いが気になるというのなら、ここまで訪れたその努力を讃えて、我輩特製の鼻栓を差し上げようではないか。ほれ」

「いらないわよ!! この悪魔、さっさと私の神聖な魔法で浄化されてしまいなさい!!」

「フハハハ!! 地上に墜ちた女神程度の魔法で、我輩が……ん? 何だこれは?」

 

 さんざ高笑いをあげていたバニルが、新たに放たれたアクアの魔法を回避した途端、足が地面に沈んでいった。ゆんゆんが素早く詠唱を終え、叫んだ。

 

「”ボトムレス・スワンプ”! い、いまです、アクアさん!」

「お手柄よっ!! 食らいなさい、"セイクリッド・エクソシズム"!!」

「うぉぉぅっ!?」

 

 女神の魔法が真っ直ぐバニルに向かい、慌てて腕で聖なる光を防御するも、抑えきれずに顔面に直撃……したと思ったが、曲芸のように身体を捻ってかわし、魔法はフードを僅かに擦るだけだった。

 通常なら当たっても何の効果もない魔法。しかし悪魔に対してはひどく強力な一撃であったらしく、かすった仮面がかすかに煙をあげている。沼化していない地面に膝をつき、悪態を吐いた。

 

「ぬぅぅぅ、こんな初心者の街に頭のおかしい紅魔の一族までいるとは、さすがはハンスを倒したパーティーというところか。駆け出しとは思えん面子ばかりのようだ」

「あっ、頭のおかしい!? ……うぅっ」

「おい悪魔、ゆんゆんを虐めるのはやめてもらおうか!」

「……今のは、そんなつもりはなかったのだがな、おおっ!?」

 

 ゆっくりと、よろよろ立ち上がったバニルだが、不意打ちで再び飛んできた光を跳躍でかわした。またアクアだ。悪魔浄化魔法を次々に連発し、バニルはそれをかろうじてかわしていく。

 

「ええい! やめんか、話もできん!! 今日は見逃すつもりであったが、どうしても痛い目に遭いたいようだな、地上に堕ちた女神よ!」

「うるさいわね! みんな、悪魔の言うことなんて聞く必要ないわ。とっとと浄化されて消えてしまいなさい!」

「いいぞアクア、そのままやっちまえー!!」

「うぬぬ、舐めるなよ。この身体は最高峰のアークウィザードのもの。貴様を倒す手段などいくらでもあるのだよ!」

 

 案外、このまま自称魔王軍幹部の悪魔を倒してしまえるのではないかと少し思ってしまった俺たちだが、そううまくはいかないようだ。

 バニルが両腕をアクアに向けて伸ばし、茶色の紙を千切る。すると幾重もの紅色の魔法陣が展開され、その光に呼応するように壁から土がこぼれ落ち、積み上がって形を為した。

 ただの土塊であったはずのそれらは、人型となり、タキシードを着た小型の仮面人形に変貌する。部屋に、総計数十体。湧き出てきたそれには見覚えがあった。

 

「これは、さっきの……!!」

「そう。これぞ我が固有スキルのバニル人形さん達だ」

「……なんか気の抜けた名前だな。って、おいまずいぞ!」

「威力は既に知っているだろう、さあ行くのだ。そして女神よ、食らうがよいわッ!」

 

 ニヤニヤと笑っているように見える人形たちは、主人の命令を受けてひた、ひたと行進を始めた。俺たち……というより、アクア囲むように。

 

「え、ちょっと。えっ!? 待って、"セイクリッドエクソシズム"! え、き、効かないっ!? "セイクリッドターンアンデッド!"、ちょ、ちょっと!? か、カズマさん! カズマさん、助けてーー!!」

「お、おい! 待ってろ! っ、何だこいつらっ!?」

「フハハハッ! 貴様らを害するつもりは毛頭なかったが、そこのプリーストだけは別よ。これはほんの挨拶代わりだ、んー、受け取りたまえっ!」

 

 気づけばアクアだけでなく、他の三人にも少数だがそれぞれ迫ってくる。じりじりと壁際に追い詰められ……背中が、ぴたり石壁とくっついた。これだけの量、いっぺんに自爆されたら目も当てられないことになる。

 アクア以外の三人に迫った人形は、そうやって追い詰めてから動く様子がないが、一歩でも動けば自爆しにくるだろう。大ピンチだ。

 

「いやぁああーーーっ! こ、こないでーーー!」

「くそっ、アクア!?」

「やれ! バニル人形さん達よ!!」

 

 すっかりバニル人形に囲まれたアクア。そしてとうとう、囲んだ全てのバニル人形がアクアに飛びかかろうとした−−だがそうはならず、直前で姿がかき消え、空中でぶつかったバニル人形さん同士がぶつかりあい、うつ伏せの人形の山を作る。そして一斉にぽふん、と消えた。

 

「アクアが消えたっ!?」

「俺だよ! 今だアクア!!」

「よくやったわねショウ!」

「何っ、急に別の場所から現れただとー!?」

 

 大仰に驚いた仕草で、さっきと別の場所から姿を現したアクアに振り返るバニル。

 

「よくもやってくれたわね、今度こそ食らいなさいッ! ”セイクリッド・ハイネス・エクソシズム"ゥゥッ!!」

「なっ……!! ぬおおおぅっ!!!!」

 

 泥に片足を捕らわれ、突然標的が姿を消したことに困惑するバニル人形に気をとられたバニルに放たれた女神の魔法が、今度こそ直撃した。

 蒼い光の弾丸は身体を直撃して、衝撃を受けた壁に蜘蛛巣状のヒビを入れた。

 やがて地面に落ちたバニル。しかし喜ぶ間もなく、すぐさま満身創痍といった風に起き上がった。ローブは土に塗れ、悔しげな表情が浮かんでいる。

 

「やったか!?」

「ぐぬぬぅ……おのれぇ、女神めえええ……なんてな!!」

「何!?」

 

 腕を抱きかかえて悔しげだった表情から一転、両手を天井にあげ、ハハハッと笑いながらなんでもない風に首を振った。

 

「か、カズマさん!? 効いてない、わたしの魔法が効いてないんですけど!?」

「どういうことだ!? お前、地上で調子に乗りすぎてとうとう女神じゃなくなっちまったのか!?」

「ちっがうわよ!! この神聖なオーラがあんたには見えないわけ?!」

「フハハハ、地上に降りた女神の力など、今の吾輩には効かぬ。これを見るがいい!! これぞ悪魔に対して害のあるあらゆる神聖魔法を完全無効果するアイテムよ!」

「なんですって!?」

 

 バニルは首にかかった紫色の宝石を埋め込んだネックレスを見せつけた。

 なんてことだ。そんな便利な魔道具が存在するのか。あれがある限り、アクアの攻撃は通らない。不味いことになったことに気づいたアクアは、一歩あとずさって歯噛みする。

 

「な、ならもーっと強力なのを何発でも打ち込んであげるわ! これで終わりと思ったら大間違いなんだから!」

「ふうむ。それも面白そうだ。ならば吾輩も反撃に出たい……ところではあるが、今日はこのあたりにしておくべきか」

「あら逃げるつもり? ふふん、やっぱりそのアイテムには限界があるみたいね! それか、わたしの威光に気づいて恐れおののいたってわけね? けど、逃がさないわよっ!」

「こちらとしても大変不本意で、残念ではあるが、こちらにも少々事情があってな。これで魔王のやつに言われたうち四人に挨拶は済ませたことだし、今は退かせてもらう……ところで女神よ、連れの男が、さっきから貴様の下半身にイヤらしい視線を貴様に向け続けているが、それは気にしなくてよいのかな?」

「はあ!? ちょっとカズマさん!?」

「おい馬鹿んなわけねえだろ騙されんな!! あーー!!」

「フハハ、よい悪感情であったぞ。さらばだ新米冒険者の諸君!! しばしの後、また会おう!」

 

 振り返ったときには、遅かった。アンデッドの肉体を残して仮面が黒煙になって、天井に吸い込まれていく。

 慌てて駆け寄るも遅く、仮面だけがその場から消滅していた。おそらくあれが本体だったのだろう。溢れていた魔力のせいか、それとも放たれ続けていたプレッシャーのせいか、重圧な雰囲気は幾分か和らいだ気がした。

 

「あーー!! 逃げた、逃げたわよあのクソ悪魔っ!!」

「お前、どんどん言葉遣いが悪くなっていくな」

「そんなことよりカズマ! いくらわたしが魅力的だからって、こんな時までジロジロ見るなんて何考えてんのよ!」

「見てねえよ!! んなもん見るくらいだったら、ゆんゆんの胸をガン見するっつうの!」

「ひぃっ!?」

「あ、いやそのこれは違うんですその」

「ほーら! やっぱり頭の中はエロいことで一杯じゃない、このヒキニート! ていうか、うちの信者にそういう目で見ないでくれます?」

「だ、だから見てねーって! っていうか、ちがーう!! 悪魔の言うことに簡単に騙されんなって! な、二人は後ろから見てただろ? 見てなかったよな、な?」

「…………」

「…………」

「おい! 目を逸らさないでなんとか言ってくれよ!?」

「……はぁ。けど考えてみれば、このわたしの何よりも美しい姿を見るなというほうが無理ってものよね。それに、カズマが女の子のパンツをスティールする変態だっていうのは周知の事実ですもの。パーティーメンバーですし、まあ、端から見るくらいなら少しくらい我慢してあげないこともないわよ。けど、ちゃんと時と場合を考えなさい。いいわね?」

「お前の威光なんざ、ギルドの酒場でゲロ吐いてるのを見てとっくに全部丸ごと吹っ飛んだわ! 寝言は寝てから言え、この駄女神!」

「あーー!!! それはみんなには言わないでって言ったじゃない! ゆんゆんの前なのよ!? それ以上言うと許さないわよ、このクソニート!!」

「あの……二人とも、その辺で。あんなヤバい悪魔野放しにしたら、地上がめちゃくちゃになっちゃうんじゃ……」

 

 喧嘩している二人も、俺が止めるとはっと顔を上げた。ようやく状況を思い出してくれたのだろう。よかった。

 ちなみにゆんゆんはというと、後ろで途中から耳を塞いでしまっていたので聞いていなかった。終わりましたよ、と肩をつつくとほっとした顔で戻ってきた。そしてさっきよりも、カズマから50センチほど離れている気がした。その申し訳なさそうに目を逸らす表情に、カズマは少し傷ついたように涙を流した。

 

「……そこにいるのは、誰、だ?」

 

 地上に戻ろうとしているムードだった俺たちに、その声は冷水を注した。

 恐る恐る振り向く。バニル……とは違う声の、緑色の肌をしたアンデッドが目を開けていた。

 


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