この素晴らしい世界でゆんゆんのヒモになります   作:ひびのん

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このすばVita色紙ガチャは外れましたが、予約してたゆんゆんねんどろいどが届いたので初投稿です。皆さんも買いましょう(ダイマ)

まだあまり進んでないのですが、いま書けている分(4話)だけ更新します。よろしくお願いします。


第二章
第一話


 山道に住み着いたゴブリン討伐のクエストを受けた俺たちのパーティーは、二人できょろきょろと挙動不審にあたりを見回しながら、アクセルより離れたとある山中を歩いていた。

 

「出ないな、ゴブリン」

「うん。でも、山道を狙うみたいだから、きっともうすぐ出てくるよ。頑張ろうね!」

 

 黒い衣装を纏い、特徴的な紅の瞳を宿した少女が隣で嬉しそうに、がんばるぞ!という雰囲気を醸し出しながら、微笑ましく意気込んでたわわに実った胸が揺れた。

 そんな相方がそばにいることに嬉しさと気恥ずかしさを感じながら、自身の冒険者カードを眺めた。この世界の文字は相変わらず読めないままだが、隣のパーティーメンバーの指導のもと、ようやくいくつか単語を覚えられた。苦労なく読めるカズマが羨ましい、なんて考えが頭をよぎる。

 今日何度目かわからないくらいポケットから取り出し続けている手元のカードの職業欄には"アークウィザード"と記されてる。

 俺の名前はショウ、異世界転生者である。

 現世の死後に女神さまに選択肢を与えられ、強力な転生特典をもらって、この世界に転生してきた若者の一人だ。

 異世界転生者−−それは、地球で何らかの原因で死んだ若者が、神様およびそれに準ずる存在によって、魂だけ地球外に転移……肉体を得て新たな生を送っている人間たちのことである。

 しかし、一般的にはそれだけではない。

 異世界に転生した人間は、チート能力を貰えるのが物語のお決まりである。

 例えばドラゴンを切り倒すような凄まじい肉体能力、優れた魔法力、あるいは世の中の理から外れた特殊能力で敵をばったばったなぎ倒し、美少女パーティーとハーレムを築きあげるのが、いわゆるお約束というやつだが、残念ながらこの世界においては異世界転生者は珍しい存在ではない。チート能力をもらっている者もおり、同じように女神に転生させてもらった若者が大勢存在している。

 いまも王都で活躍している……らしい彼らをよそに、なぜ俺は最初の街で燻っているのかは、いまは語るまい。

 ……何はともあれ、あまり転生者に優しくない世界で、俺はようやくアークウィザードとして大成することができたのである。

 そして親愛なるパーティーメンバー、生まれながらにして魔法使いになることを宿命づけられた紅魔族という一族の長の娘とともに、冒険者として活動している真っ最中なのである。

 

「ショウくん、今日はずっと冒険者カード見てるね」

「早く試してみたくて、仕方ないんだよ。せっかく上級魔法を取れたんだし……なあ?」

「えへへ。このためにずっとスキルポイント貯めてきたもんね!」

 

 頬を緩ませて冒険者カードを見つめる男と、それを後ろからニコニコと嬉しそうに見守る女は、さながら男女の付き合いをしている二人連れのようにも思えるが、残念ながらそういった付き合いをしているわけではない。

 俺がこの世界に来て、ようやく初めてまともな攻撃魔法を取得することができた。

 そう、”ようやく”だ。

 ある同期の異世界転生者は短剣や弓矢を自在に操り、あらゆる状況に適応できる万能なスキルを得て仲間たちと冒険するほど成長しているのをまじまじと見せつけられながら、魔法使いという職業に就きながらも魔法の使えない、ヒモという非常に不名誉な称号を与えられてはや数ヶ月。耐え続けた甲斐があったというものだ、と密かに拳を握って涙を流した。

 この世界では、冒険者カードでスキルの振り分け……俺の場合は、新しい魔法の習得を行うことができる。

 オンラインゲームのように、この世界の住人にはレベルの概念が存在する。レベルを上げることでスキルポイントを得ることができ、各人の職業に応じて、決められたスキルを取得できるのだ。

 さて。最初にウィザードという職業に就いた俺が、なぜ”ヒモ”と同期の異世界転生者に罵られなければならないのかを説明しておこう。

 俺は今でこそアークウィザードであるが、その前に、習得しなければならないウィザードという前提職業がある。

 世の中のウィザードは、自分の経験値をためるために普通は中級魔法を取得して、戦いの中でレベルを上げてからアークウィザードになるのが一般的である。

 しかし、紅魔族という魔法使いの天才……ゆんゆんのアドバイスを受けて、状況は変わった。

 

「あの、あのね。これは学校で習ったんだけど、普通に中級魔法をとるよりも……アークウィザードになってから一気に上級魔法をとったほうが、凄い冒険者になれると思うの!」

 

 この世界には"養殖"という冒険者用語がある。

 敵を倒せば経験値を得て、レベルが上がる。自身で敵を倒さずパーティーメンバーに倒してもらっても、トドメさえさせば自分に経験値が入る。

 そう、パーティーを組んでくれたゆんゆんに敵を倒してもらうことで、ほとんど序盤のスキルを取得せずに、大量にスキルポイントを余らせることができたのだ。

 ぶっちゃけ、同期冒険者の言うとおり、寄生していただけのヒモに他ならなかったわけだ。

 しかし、今日でそれも卒業だ。

 

「うへ、へへ……ふふふぅ……っ」

 

 いまだ山のように余るスキルポイントを見るだけでもにやけが止まらないが、それよりも、取得した上級魔法を使ってみたくて、ずっとうずうずしていた。気味の悪い笑いを零していたことに気づいて、おっと、と慌てて口を塞いだ。

 アークウィザードとしてのスキル欄に浮かび上がっている唯一の文字。そこには明るく”ライト・オブ・セイバー”と記されていた。

 

「ところで、もう体調は大丈夫そう? 昨日は真っ青だっだけど……」

「ああ。ごめんごめん、アルカンレティアの後はカズマたちのパーティーと飲みまくったからなぁ……ほんとごめん、昨日一日寝てたのに、まだ頭ちょっと痛いかも」

「ううん! わたしも楽しんじゃったから……えへへ」

 

 昨日よりもマシになったものの、いまだ痛む頭。ゆんゆんはシュワシュワは飲んでいなかったけれど、昨日までのお祭り騒ぎが忘れられないのか、思い出したようにちょっと赤くなった頬が緩んでいる。

 

「あっ、カズマさんたちは大丈夫かな。ショウくんよりずっと遅くまで飲んでたみたいだったよ」

「あいつらはヤケ酒だから、まあ仕方ないさ。アクアなんて、ギルドの裏手に行っては飲みの繰り返しだったしな」

「あ、あははは……アクアさんは水の女神だから……大丈夫だよね?」

「女神の威厳はこうして失われていくのであった」

「そ、そ、そんなことないよっ!! い、いまでもすごく感謝してるよっ!?」

 

 いま話に出たカズマとは、俺と同じ異世界転生者の名前だ。

 本名は佐藤和真。アクシズ教の御神体である女神アクアとともに、この世界に降り立った冒険者である。

 先日、色々あって、この世界に俺たちを転生させるように導いた女神アクアを信仰しようと考えたゆんゆんは、アクア本人に洗礼を受けたいと願い出て、アクシズ教総本山であるアルカンレティアに向かった。

 しかし、女神の加護を受ける神聖なはずの街は、魔王軍が謀略を巡らしている真っ最中であった。そこで、アクアを筆頭に俺たちのパーティーで、”デッドリー・ポイズン・スライム”と呼ばれるモンスターである幹部ハンスを見事に撃退してみせたのだ!

 ……あのときは、一歩間違えれば死んでいたかもしれなかったな。

 で、そんな後世にまで語り継がれそうな大冒険を乗り切った俺たちは、調子に乗って連日飲みまくった。

 吐き続けるまで飲んだ。

 そりゃもう、毎日。

 ハンス討伐の報酬が貰えないことがわかり、その日はアクアに付き合ってみんなでヤケ酒もした。

 そして当然グダグダになり、ようやく動けるくらいまで復活したのが今日の話。きっと俺みたいに、カズマ達も昨日はどこかでぶっ倒れていたことだろう。

 まあ、俺たちは勇者でもなんでもない、チートをもらわなかった一般人だから、こんなものだろう。

 

「あっ。ショウくん、見て。これゴブリンの足跡じゃないかな」

 

 ゆんゆんが地面を指さすと、確かに人間ではない、何かの生き物の足跡があった。

 山道を逸れてその方角を追ってみる。すると、そこには小さな広場のような場所があり、数匹の緑色の生物がたむろしていた。

 身長は子供程度で、錆びた槍やら、剣を地面に引き摺っている。

 間違いない、モンスターだ。

 

「あれがゴブリンか」

「うんっ。ショウくん、がんばって!」

 

 とうとう魔法を使うときがきたのか、と意気込んだ。使い方は、手に魔力を集めて使いたい魔法をイメージするだけだ。

 ゆんゆんを見て頷く。うきうきと、大きな胸を寄せながら両拳を握って「がんばれ」と言わんばかりに目を輝かせていた。

 よし、いくぞ。

 そうと決まれば先手必勝。

 初めての攻撃魔法を使うため、俺は意気揚々と草むらから飛び出して、ゴブリン達がこちらに気づく前に手をかざした。

 そして、ヒモから卒業する瞬間が、とうとうやってきたのだ。

 

「行くぞ、”ライト・オブッ……セイバァァァーーーーッ”!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドに戻ってきた俺は、受付に向かった。

 

「おかえりな……あ、あの……どうかされたんですか?」

「いえ。なんでもないです。達成報告お願いします」

「え? あ、は、はい。それではカードの提出をお願いします」

 

 金髪のお姉さんはこちらの様子を見て顔を引きつさせた。

 何も言わずに冒険者カードを提出すると、お姉さんも乾いた笑いを気にするそぶりはあったが、追求はしてこなかった。何も言わずに確認を済ませ、カウンターから金貨数十枚をトレーに乗せて差し出してくる。

 

「はい、確認できました。ゴブリン十匹の討伐で二十万エリスになります」

「ありがとう、ございます」

「あ、あのー。何があったのか分かりませんが、元気出してくださいね?」

「はい。どうも……あは、あはは」

 

 頷いて、受付を離れると柱の陰で待っていたゆんゆんが駆け寄ってきた。

 

「あ、あの……お疲れ様。あ、あのね。考えたんだけど……今日の報酬はショウくんが全部もらうべきだと思うの! ゴブリンは全部ショウくんが倒したんだから!」

「うん……そうなんだよな。あ、ははは」

「ええっ!? ちょ、ちょっと、どうして泣いてるのっ!?」

 

 完全に気をつかわれていることが分かって、涙が溢れそうになった。

 そうさ。薄々は感じていたさ。

 たかだか少し才能があるだけの、アークウィザードになったばかりの身。そんなちっぽけな存在が、生まれながらにしてアークウィザードになることを宿命付けられたベテランと並べるはずがないということだ。

 技のレパートリーで負けるのはわかっていた。そもそもレベルはゆんゆんの方が上だし。

 でもな。同じ魔法なのに、あそこまで才能の差が出てくるなんて思うか?

 例えるなら、ゆんゆんが天を貫くほどの光の聖剣なら、俺はただの道具屋の平凡なロングソード。

 いや、決して弱いわけじゃないんだ。

 比較対象が悪いだけ。

 うん。

 ちっくしょう。他の異世界転生者は王都で大活躍してるっていうのに。

 

「おい店員、シュワシュワ持ってこい!!」

「だ、だめだよ!? まだ昨日の酔いが残ってるのに体調悪くしちゃうよっ!」

「ええい離してくれ! 飲まずにやってられるか!」

「だ、大丈夫だから! これから頑張ればちゃんと威力も上がっていくからっ、ね!?」

「あら、私の敬虔なる信徒のゆんゆんとショウじゃない。何で、こんなところで騒いでるのよ?」

 

 テーブルに置いた報酬の金貨半分を、無理やりゆんゆんに押し付けたところで、入り口のほうから透き通るような水色の髪の持ち主がとてとてとやってきた。

 俺を転生させた例の女神アクア。アクシズ教の御神体にして、カズマのパーティーのアークプリーストだ。

 昨日までの二日酔いっぷりを忘れたかのようにけろっとしており、整った美しい顔でしばらく俺の顔をじいっと覗き込んで、むっとした表情で言った。

 

「あらやだ。二日酔いでしんどいのはわかるけど、駄目よ、あなたたちはアクシズ教徒見習いなんだから。”汝、何かのことで悩むなら、今を楽しく生きなさい”ってあるでしょ!!」

「うん……ありがとう、アクア。あと俺はアクシズ教徒見習いじゃないぞ」

「んー? まあちょっと他の人よりも少ないけど信仰心を感じるし、信徒みたいなものよ」

「そういうものなのか……?」

 

 まあ確かに転生させてくれた恩とか、アルカンレティアの件で感謝はしているけど……というか。女の子二人に気を使われて励まされたかと思うと、どんどん悲しい気持ちになってきた。

 

「よう。昼間っからなにをそんなに落ち込んでんだよ」

「ああカズマか。一緒に飲まないか」

「……お前、本格的にヒモが板についてきたな。クエストに行ったんじゃなかったのか?」

 

 すると続いて同郷であるカズマもやってきた。すっかり毒気を抜かれた俺は、手を上げて挨拶を交し合った。

 

「あっ。か、か、カズマさんも。え、えと、二人ともクエストを受けにきたの?」

「もちろんそうよ! 私たちはお金を稼がなきゃいけないんだから!」

「……はぁ、金が必要なのはお前のせいだがな。本当は寝てるつもりだったんだが、今日は妙にカラスとアクアがうるさくってな」

 

 ジロリとカズマが、胸を張るアクアを睨みつけ、息を吐いた。

 あー、ここ数日の金使いは荒かったからな。俺は、まあ、ゆんゆんのお金で払えたからギルドに借金をせずに済んだが……俺たちのいないところでも飲みまくっていたらしいから、現在の借金額も相当なものだろう。

 ハンス討伐の報酬をあてにしていたようで、貰えなくなった今……噂によれば、借金総額は五十万エリスを超えるとか。

 ……どんだけ飲みまくったんだよ。

 リーダーのカズマも、普段なら「お前の借金はお前が払え!」怒鳴りつけるところだ。しかしアクアほどではないがノリノリで宴会に参加していたせいで今は強くは言えないらしい。

 

「と、そんなわけだ。今日はいいクエストは出てないか? できれば一攫千金のうまいクエストがいいんだが……そんなの、あるわけないよな」

「今日はもう締め切られたけど、ゴブリン討伐のクエストは美味しかったぞ。一匹で二万エリスだからな、カエルよりお得だ」

「へえゴブリンか……うーん、それなら俺たちにもできそうだな。明日めぐみんとダクネスも連れて四人で行ってみるか」

「そういえば二人を見かけないけど?」

「ダクネスはなんか用事があるらしくてな。めぐみんは、まだぶっ倒れてるよ。今頃は馬小屋で顔を青くしてるんじゃないか?」

「めぐみんったら。調子にのってシュワシュワ何杯も飲むから……」

 

 ゆんゆんはそう言いつつも、ソワソワとしだした。親友のことが心配なのだろう。まあ、かといってどうしようもないが。

 俺たちとしては、頭痛のあまり街中で爆裂魔法をぶっ放さないかのほうが不安である。

 

「カズマカズマ、これなんていいんじゃない?」

 

 ピリッと掲示板から一枚の紙を剥がして、アクアが持ってきた。

 

「おい勝手に剥がすなって! は、ダンジョン探索クエスト? ……ってお前。こんな高難易度のやつ受けれるか!!!」

「あ、ちょっと!? 返しなさいよー!!」

 

 ”氷災狼の迷宮 ボス討伐クエスト”と書かれたそれには、髑髏マークがいくつも記されていた。いわゆる、報酬はめちゃくちゃ高かったが、難易度の高いクエストだ。カズマは持ってきたそれを取り上げて、アクアを怒鳴りつけた。

 初心者の街にそんなクソ難易度のクエスト張り出しておくなよと思った。駆け出しの俺たちが、そんなの受けれるはずないんだからさ。

 ……魔王軍幹部を倒した俺たちなら、と一瞬思わないでもなかったが。

 しかし、あの時は運がよかっただけだ。

 そもそも、ダンジョンとなると勝手が違う。地上探索ですらまともにできないのに、受けられるはずない。

 じゃあカズマはどれがいいと思うわけ? と、腰に手を当てて鼻を鳴らしたアクアを横目に、めんどくせーという表情を隠しもせずに掲示板に向かった。もちろん、美味しいクエストなど早々増えているはずもない。

 すると、つんつんとカズマの背中がつつかれる。おそるおそるな表情の、ゆんゆんだ。

 

「あ、あの。カズマさん……クエストじゃなくて、ダンジョンに潜ってみるっていうのは、その、どうでしょうか……?」

「ダンジョンに? でも、経験のない俺たちじゃさすがに無理じゃないか?」

 

 カズマは不思議そうな顔をした。アクアは我が意を得たりといわんばかりに手をたたき合せる。

 

「そうよ、わかってるじゃないゆんゆん!! ダンジョンはお宝でいっぱいだもの。王都では、一回で何億ってエリスを稼いだ人もいるって話よ。ほらカズマ、やっぱりそれで行きましょう! うまくいけば億万長者にだってなれるわ!」

「経験のない俺たちがダンジョンなんて潜ったら、一発で囲まれて終わりだっての! 高レベルのダンジョンじゃ、俺の使える盗賊スキルだって通用しねーし。てかフェンリルなんて明らかやばそうなやつのダンジョン、行くならお前一人で行って食われてこい!!」

「うー……仕方ないわね。じゃあ、他のダンジョンでもいいわよ。私のアークプリーストの魔法に、カズマのスキル。あとはそこの二人のアークウィザードの魔法があれば、そのへんのダンジョンなんて楽勝だと思うんですけど?」

「まあ、そりゃそうだが……お、そういえば、ゆんゆんは真っ当なアークウィザードだったっけ。ショウ、お前もとうとう攻撃魔法を使えるようになったって言ってたよな」

「うん……まあ、うん……」

「……あっ」

 

 へこんだ俺を見て、何かを察したカズマは慌てて話を逸らした。

 

「うん! まあなんだ。やっぱ、経験者なしでいきなりダンジョンってのは、どう考えても不味いよな!」

「でもダンジョンでもないとわたしたちの借金は返しきれないわよ?」

「わたしたち、じゃなく、お前の作った借金な」

「そ、それなら、ここの近所に初心者向けのダンジョンがあるって聞いたことがあるんですけど……そ、そこはどうかな?」

「そんなダンジョンがあるのか?」

 

 全員に目配せする。そういえば、この前の宴会でその話をしていたっけ。思い出していると、先にアクアが説明してくれた。

 

「そういえば、アクセルの近くに初心者向けのダンジョンがあるとは聞いているわ。けど、もうさんざん探索された後だから、いいものは残ってないと思うわよ?」

「ふーん。そうだな……でも、俺たちみたいなパーティーにはうってつけだ」

「練習がてら行ってみるってのはありじゃないか?」

「ええー……? でも初心者用ダンジョンなんて大したお宝はなさそうね?」

「今後、高難度のダンジョンに潜るのに必要な経験になるだろうが。よし、じゃあ今日はそこに行ってみようか!」

「う、うん。じゃあみんな頑張ってきてね……」

「いや、俺らも行くんだぞ?」

「ふえっ!? ほ、ほ、本当にいいの?」

「行く流れだったろ。それにカズマ達二人だけで行かせるわけにはいかないだろ」

「わたしなんて一回もダンジョンに潜ったことないから、皆さんにご迷惑をかけるかもしれないし、いつも森の実習ではみんなに忘れられて置いてけぼりになっちゃうし……」

 

 とかなんとか。

 両指をつんつんしながら俯いてぶつぶつ言いはじめたので、可哀想になった。ほらー行くわよ! とアクアが先に行ってしまったので、俺は無理やり腕を引っ張ってギルドから連れ出すことにした。

 

「え、ふええ、ショウくん! ま、まって、引っ張らないでー!!」

 

 ダクネスとめぐみんも誘いたかったが、いないものは仕方ない。ゆんゆんの手を引いてギルドを出てから明日以降に伸ばしてもよかったなと思ったが、どうせ今回は金の手に入らない冒険だし、お互いのパーティーで都合を合わせるのも大変だろうということでカズマと話し合い。

 今日の午後は、ここに集まった四人で、初心者御用達迷宮”キールのダンジョン”を冒険することに決まった。

 

 


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