この素晴らしい世界でゆんゆんのヒモになります   作:ひびのん

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第十五話

 入り口の他に見張りは誰もいなかったが、油断はできない。

 不法侵入の手前、透明化の魔法はかけっぱなしである。会ったことのあるアクシズ教団の人か、カズマのパーティーが見つかれば、近づいてこっそり話しかければいい。必要なのは、あのボロボロの少女や、知らないアクシズ教団の人に見つからないようにすることだ。

 もし心配通り、あのヨハネスが魔王軍的な存在なら、教会が大変なことになりかねない。

 

「このあたり、見たことある。アクアもこの辺りにいるかな?」

「ううん。でも、奥にけっこう長い廊下が続いてるかも。それに階段もあるから……下から探そう。昨日会ったプリーストの人が見つかればいいんだけど」

「あ。待って、なんか人の声が聞こえないか?」

「本当だね。あそこからみたい。昨日お世話になったプリーストの人が見つかるかも……どうかな、見える?」

 

 俺はひょこっ、とカーテンの陰から顔をのぞかせる。

 とことこと後ろからついてきたゆんゆんも興味があるのか、背中に手を当てて、軽く体重を乗せてきた。

 

「何か見える? 誰がいるの?」

「いた。みんないる! けど……まずいな。あの子もいるぞ。うわ、ずっとカズマの膝の上に座ってるのか?」

 

 そこは広めの部屋で、ちょうど壁にかかったカーテンの裏側から覗いているような形だ。

 部屋にはカズマのパーティーと、アクシズ教団のプリースト。そして白髪のボロボロ少女……ダメだ。これじゃあ出ていけない。

 

「どれ? あ……あわわっ、め、めぐみん!?」

「……うわぁ」

 

 あわわわわ、と震えながら、死んだような瞳でぶつぶつと何事かを呟き続けるめぐみんに釘付けになっていた。

 椅子にロープでグルグル巻きにされて、動けなくなってる。

 いったい何があったのか。俺たちがいない間に。まあきっとろくでもないことだろう。

 

「ああ、とんでもないことになってしまいました……ど、どうしましょうダクネス。今からでも、私たちだけでも逃げませんか?」

「それは難しいだろうな。見張りは厳重になっているようだし、どちらにせよこの状況で出ていけば大変な騒ぎになってしまうだろう」

 

 ダクネスが宥めているが、縛られていることに突っ込む様子はない。一体何があればああなるのか想像もつかなかった。爆裂魔法を教会に打ち込もうとでもしたのだろうか。

 アクアは一番奥に座り、優雅にワイングラスを呷っていた。それをカズマがたしなめる。

 

「おい飲みすぎだぞアクア。これから人前に出るのに、顔真っ赤じゃないか」

「いいのよ。私を誰だと思ってるの? こんなお酒くらい、その気になればチョチョイと浄化できるわ!」

「それ酒飲んでる意味がないんじゃ……おおっ、よしよし。どうしたヨハネスー」

「カズマお兄ちゃん。それちょうだい! のんでみたい!」

「これはダメだぞー。小っちゃいうちからお酒を飲んだら、このアークプリーストのお姉ちゃんみたいにパーになっちゃうからな」

「ちょっとそれどういう意味よ! って、ああああああ!! カズマさんそれ私のグラス!! かーえーしーてー!!」

 

 アクアのための祭りを前に、休憩しているらしい。

 よく見ると全員が普段の服装ではなく、正装らしき服を着ている……異世界だから本当に正装かわからないけど、めぐみん以外はみんなキリッとしてる。こんな時くらいあのローブ外せばいいのに。

 アクアの机にだけ昨日見た異世界文字で書かれた葡萄酒のボトルがあり、カズマがグラスを奪い取って、女神様が素っ頓狂な悲鳴を上げた。いつもの調子のカズマのパーティーにちょっと安心だ。

 

 さて、何とかカズマだけでも呼び出せないものだろうか。

 ……いや、いっそのこと、飛び出していったほうがいいかもしれない。この辺は顔見知りだから、もう捕まることもないし。内緒話は後ですればいいし。

 ゆんゆんとアイコンタクトをとる。

 ……おや。

 ゆんゆん? ゆんゆーん。

 ヨハネスを注視して、まったく動かなくなってしまっていた。何かあるのだろうか。

 

「返しなさいカズマ!! それは、わたしの可愛い子達が持ってきてくれた大切なお酒なの!! 返せーーー!!」

「馬鹿! 飲むなとは言ってねえ。あとで飲めって言ってんだよ!!」

「だって、もう注いじゃったんだもの! 今更ボトルに戻すわけにもいかないでしょ!! とらないでよ、ねえ、とらないで。私の楽しみとらないでよぉーーーー!!」

 

 ……出て行くタイミングじゃない。

 カズマがグラスを取り上げているが、後ろのプリーストの人が止める様子はなかった。察するに、同じようなことが何度もあったのかもしれない。従者との戯れ程度に思っているようだ。でなきゃ止めるだろうし。

 どうしよう。悩んでいると、ゆんゆんが、肩をつついてきた。しっ、と人差し指を顔の前に立てた。

 何やら揉めている二人の間で、ヨハネスが視線だけで周囲を見渡していた。

 キョロキョロ。何見てんだろ。

 そして静かにカズマが遠ざけているグラスに手を伸ばす。

 ……!?

 ヨハネスの指先から、ぽちゃん、と何かが落ちたのを、確かに見た。そして素知らぬふりをして手を引っ込めたところも。

 カズマ達は相変わらず争い、プリーストの人も、めぐみんもダクネスも気づいていないみたいだった。思わず、ゆんゆんを見ると、同じく目撃したらしい。

 

「お、おいゆんゆん。見たか?」

「う……うん! いまのって、もしかして……」

「おい、カズマ、ちょっと待て!!」

 

 俺はカーテン裏から飛び出した!

 

「な、なんですかなあなたは!? ……おや?」

 

 俺に、驚いたようなすべての視線が集中する。

 全員が警戒するように、こちらに魔法を打つべく手のひらを向けてくる……しかし、目をきょとんと開いた。

 姿を隠す魔法は既に解除してあるため、全員から見えている。カズマはグラスを空中に持ち上げた体制のまま、唾を飛ばして抗議した。

 

「おっ、ショウ!? び、びっくりさせんな! どうしたんだよ。ってか、どっから出てきた!?」

「ごめん今ゆんゆんと不法侵入の真っ最中! てか、カズマ。今すぐそのグラスを離せ。そこの子供が、今何か入れたぞ!」

「はぁ!? 不法侵入って……どうしたんだよそんな慌てて」

「だから、言った通りだって。早くそこの子供から離れろってば!!」

「お前何言ってんだ。何か入れたって……ああっ、ちょアクアおまっ!?」

「とったあーーーーっ!!」

 

 我が意を得たり、という風に無邪気に喜びながら。

 誰もが油断したその瞬間にアクアが奪い取って、あろうことか、そのまま口をつけてしまう。

 俺とゆんゆんは絶句した。

 

「あああっ!? おまっ、何してんだよ!」

「んぐっ……ぐえっ!! げほっ!!」

 

 アクアが凄い勢いで咳き込みはじめたのを見て、血の気が引いた。

 の、飲んでしまった!?

 全員が事態を飲み込んだ瞬間、ヨハネスは底知れぬ黒い笑みを浮かべた。まるで悪戯を成功させた子供のような笑みに悪寒が過ぎった。

 だが、しかし。

 

「な、なによこれ、マズっ。すっごいマズっ!」

「えっ?」

 

 アクアがペッペと唾を吐き出したのを目にして、邪悪な笑みが、あまりに間抜けなキョトン顔に変わる。

 

「ちょっとカズマ!! げほ、いくら飲ませたくないからって、一体何を入れたの!?」

「ちょ、俺は何もしてねえよ!? 人の話を聞けよ!! いまそういう流れじゃなかっただろ!!」

「へっ? 何かあったっけ。カズマからグラスを取るのに夢中で聞いてなかったんですけど」

「……いや。アクア、お前何ともないのか?」

「何ともないわけないじゃない!! ああっもう、この神聖なアクア様にいったい何飲ませたのよ。まだ舌がピリピリする……うぅ、”ピュリフィケーション”……」

 

 自分の口に魔法をかけて、ようやく安心したようにアクアは息を吐いた。

 かなり平然としている。残されたワイングラスは倒れ、テーブルクロスを汚した。それには葡萄の色だけではなく、得体の知れない艶やかな黒色が混ざり、浮かび上がっていた。

 まるで水たまりに油をぶちまけ、虹色に濁っているさまのよう。明らかに不純物が入り混じっている。

 

「ゆんゆん。もう一度言ってください。今なんて?」

「そ、その子が、アクア様の飲んだグラスに何か入れてたって……!!」

「何ですって!?」

 

 今度は、カズマに媚を売っていた少女に視線が集中した。

 汗がダラダラと滝のように流れていた。カズマも思わず手放し、椅子を倒してあとずさる。

 幼女は取り繕うように、みんなのほうを見て、最後に涙目で水をあおったアクアに視線が固まった。

 

「み、みんな? どうしてわたしを見るの? っていうか、お前なんで何ともないの?! 今けっこう本気でやったのに!!?」

 

 未だゲホゲホ咳き込んで苦しそうなアクアを見て、そんなことを言った。

 真っ黒だった。

 誰もが理解したその瞬間、カズマが誰よりも早く手を向けて、叫んだ。

 

「"バインド"ぉっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅーーっ、んっ!!」

「アクア様の従者の方。あなたがたの証言が正しいことは、ただいま、アクシズ教徒の証言から確認がとれました」

「ということは……この子供が、連日の騒ぎの主犯?」

「何ということだ! この街を汚すモンスターめ!! 魔王軍の手先にちがいない!」

「しかも偉大なる女神アクア様に毒を飲ませるなど!! 大層お目にかけられ、寵愛を受けていたというのに、何ということか!!」

「神罰だ!! そのモンスターに神罰を下せ!!」

「「「神罰! 神罰!! 神罰!!!」」」

「んーーっ!!!!?」

 

 アクシズ教団の視点に立ってみると、珍しく十分に理解できる対応だと思った。

 なにせ自分たちの信仰する神様が、街が滅ぶかもしれない危機を前に自分たちを救いに天から降りてきてくれた。しかし、そんなところを、人間なら死ぬ量の毒を盛られて殺されかけたのだ。

 ……まあ、制止したのに、自分から飲んでたけれども。

 しかし端から見れば、だ。

 ロープで縛り上げた幼女を、大人がよってたかって糾弾している危ない図である。

 事情を知らないエリス教徒がこの場に入って来れば、慌てて止めに入ることだろう。

 

「お、おい。さすがにこれはやりすぎじゃあ……」

「んー……!!!」

 

 床に放り出されたヨハネスは罵倒に囲まれながら、弱々しい潤んだ瞳でカズマを見る。

 まるで雨の中ダンボールから顔を覗かせる捨て犬のようだ。

 ここしばらく膝に抱きかかえて可愛がっていたカズマだが、さすがに面と向かって止めることはできなそうだ。だが、やりすぎだと間に入ろうとしたところで、アクア達の会話を聞いてピタリと手を止めた。

 

「アクア様、本当に大丈夫ですか? えとっ、毒が体に残ったりしませんか?」

「この私を誰だと思ってるのよ。水の女神様よ? モンスターの出せる毒ごときで死ぬわけないじゃない。けど、ひどい目に遭ったわ……というかあたしが咳き込むほどの毒って、ヤバすぎるですけど。あいつ超ヤバいんですけど」

「具体的にはどのくらい毒性が強いんだ?」

「そうね。カズマが飲んだら、一秒と持たずに死後の世界でこの私に会えるくらいかしら。わたしは聖なる水の女神だから何てことなかったけど、常人なら臭いでコロリね」

「…………」

「んーっ!!!」

 

 死にかけていたと知ったカズマは、そっと背を向けた。

 

「とにかく、裏口からでも何でもいいから出せ!! これ以上アクア様に近づけるな!!」

「申し訳ありませんっっっアクア様!! 私共が気付けなかったせいで、危険にさらしてしまい……」

「私たちの提供した葡萄酒でこのような事態になるとは、恩を仇で返すようなもの。いっそ死んでお詫びを……」

 

 信者がアクアにひれ伏し、冷や汗を流しまくっていた。

 命じれば腹でも切りそうな勢いだ。しかし当のアクアはケロッと、まるで気にしておらず。

 

「あーいいのよいいの。それより、あなたたちが無事でいてくれて本当によかったわ。私はこんなことじゃあなた達の前から消えたりしないから、安心して!」

「おおっ、何というお慈悲……」

「偉大なるアクア様……お前ら、この恩を忘れるんじゃないぞ!!」

「もちろんです! 今すぐこの魔王軍の手先は、我々が始末いたします! おい、まずはこいつを教会から叩き出すぞ!」 

「「「「「神罰! 神罰!! 神罰!!!」」」」」

 

 ズルズルと床を引き摺られ。

 モンスター幼女はアクシズ教団の皆様の手によって部屋から連れていかれてしまった。とうとう観念したのか無抵抗だ。ジロリと部屋の人間を一瞥したが、引っ張られ、やがて部屋から見えなくなった。

 

「まったく、ひどい目にあったわ! 女神に毒を盛ろうなんて、ほんっと、あの幼女モンスターいい度胸してるわね!!」

「いや、警告されてたろ。お前が奪い取って飲まなかったらそんな目には遭わなかったからな」

「しかしよく気づいたな二人とも。私たちはほとんど疑っていなかったのだが……騎士として恥ずかしい」

 

 俺たちを見たが、怪しいと気づいたのはゆんゆんである。

 俺がゆんゆんを見ると、全員がゆんゆんを見た。

 大勢に注目されて、恥ずかしそうに顔を真っ赤に「ち、違うよ! これはみんなが一緒だったから……!」と言い訳し……やがて指をこすり合わせながら、ぽつりと恥ずかしそうに語る。

 

「いつからあの子供が怪しいと気づいていたんだ? 俺たちずっといたはずなのに、全く気付かなくってさ」

「うん。実は……最初に会った時から」

「えっ!? そんな時から気づいてたのか。教えてくれりゃよかったのに」

「ごっごめんなさい! そのときには、ちゃんとした確信はなくって」

「なぜ気付けたのですか? 確かに私も、最初は怪しいと思っていましたが……」

「えっと、あの子……ずっとひとりぼっちだって言ってたよね。でもわたしよりずっとお喋りするの上手だし。あ、あとは、わたしと違ってあの子は知らない人にどんどん話しかけて、会話の輪に自然に入ってたし……ちゃんと相手の目を見て話しなさいって。めぐみんに怒られて、ようやく最近ちょっとだけできるようになったのに、あの子は最初からできてるみたいだったし」

「…………」

「他の人のことをはっきり褒めれてたし。それに”かっこいいお兄ちゃん”なんて、わたし一生かかっても言えそうにないし……それから」

「ゆんゆん……」

「もういい……もういいです……私が悪かったですから」

 

 帽子を深くかぶっためぐみんがそう言い、俺はぽんと肩を叩いて言葉を止めさせた。

 当人は平然と首を傾げたけれど、さっきまで張り詰めていた部屋の空気は、同情の色で満ち溢れた。

 ようやく場の雰囲気に気づいたゆんゆんが、おろおろし始め、涙目で「なんでそんな目でわたしを見るの!?」とめぐみんに縋った。カズマが、そんな空気を打ち破るために、わざと明るい声を出した。

 

「で、でもこれで、この街の毒騒ぎは解決したってことだよな!! 一件落着!」

「そのようですな。どうやらあの汚らわしいモンスターが元凶であれば、我々が責任を持って処分いたしますので」

「処分とは穏やかではないですね。まあ、あんな事件を起こしては当然と言えなくもないですが……」

「み、みんなちょっと待って!! わたしたちの聞き込みでは、まだもう一人、メイスを持ったプリーストが……」

 

 それを口にした瞬間、地面が言葉を遮った。

 まるで内側から突き上げられたみたいに振動した。

 全員が一瞬体制を崩しかける。地震か。「うわわ」と、カズマが尻餅をつき、天井からパラパラと石片が落ちてきた。

 揺れはすぐにおさまったが、凄まじく嫌な予感がした。

 

 

「な、なになにっ、何なのこの揺れ!?」

「おい、なんだ今の……」

「地震でしょうか。あの、そろそろロープを解いてくれると助かるのですが」

「……こんなタイミングで地震だと? カズマ、何だか嫌な予感がするぞ……おおっ!?」

 

 ダクネスの言葉の途中で再び縦揺れの地震。

 断続的なものではなく、まるで巨人が足踏みをしているような、大きな揺れ方。

 ばらばらばらっ、棚からアクシズ教の聖書が滑り落ちる。

 

 次の瞬間、外のほうから「助けてくれぇ!!」と、悲鳴が聞こえてきた。

 ダクネスと、解放されためぐみんが飛び出していった。

 

「お、おい待てダクネス! ああっもう、ショウ俺たちも行くぞ!」

「分かった! 裏口のほうだな!」

「あっカズマ、待って!! わかんない、何がどうなってるのよーっ!?」

 

 一テンポ遅れて、俺とカズマ、ゆんゆんとアクア。そしてアクシズ教のプリーストの人と一緒に駆け出し、外へ。

 裏口を抜けて外に出ると、連れて行った教団員、そして裏口を警護していたプリースト二人もぐったりと倒れていた。

 打撲の跡が、服の上からでもはっきり残っており、プリーストのローブは大きく千切れている。

 

「どうしたんだ! おい、何があった!?」

「う……うぅ」

「待ってダクネス。"ヒール"っ! ……これで話せるようになったでしょ! ねえ、あのモンスターは?」

「あ、アクア様……申し訳ありません……に、逃げられ……」

「どこに逃げたか分かるか!?」

「う、上……水源のほうへ……」

「……私の可愛い子たちよ、倒れた子達を任せます」

 

 既に介抱に入っていた信者の人たちだが「あ、アクア様は……?」と一人が不安げに見上げる。

 

「私はカズマとショウ達と一緒に上に向かいます。可愛い子達を傷つけたモンスター……完膚なきまでに、ボコボコにするわ。絶対許さないわ……!!」

「おおっ……何ということだ。アクア様自らがお出になられるとは……」

「私も付き添いたい……しかしっ、介抱せよというのがご神託。分かりました。ですが他に何名かを一緒に向かわせることをお許しください。この場はお任せください!」

「安心して。ぶっ倒したあとは、ちゃんと降臨祭に間に合うように戻るから! ……さっカズマ。あいつをボコりに行くわよ!!」

「…………」

 

 しかし、カズマは周囲の惨状を見て固まっていた。

 普通のモンスターではこうはならない。まともに相手したモンスターといえば、アクセルのジャイアント・トードばかりで、それ以外の戦闘経験はカズマにはほとんどない。俺もないけど。

 

「なあアクア。これ、どのくらいヤバい相手なんだ?」

「へっ。そうね……私を苦しませるくらいの毒を持ってて、これだけの人数を一気に倒してるのよ? 相当ヤバいのは確かね。魔王軍の幹部って言われても頷けるくらいには」

「ちょっとお腹痛くなってきたから、あと頼むわ。先に部屋戻ってるな」

「ちょちょ、ちょっとカズマ!? どこに行くの、アクシズ教団の危機なのよ!!? 行くのよ! 行かなきゃ私の可愛い子たちが危険な目に遭っちゃうんですけど。カズマーー!!」

「いやだって魔王軍の手先かもしれないって……いきなりハードル高すぎだろ」

「カズマカズマーー!! 見捨てないで、私の子たちを見捨てないでよぉーーーー!!」

 

 アクアは慌てたが、それ以外のパーティーメンバーはあまりアクシズ教団を助けることに乗り気ではないようだ。

 縛られていためぐみん。恍惚とエリス教徒のペンダントを出しっぱなしにするダクネス。振り回されるカズマ。女神待遇のアクア。

 ……ろくなことがなかったにちがいない。

 

「あ、アクアさん! わたし一緒に行くよ……!! 放っておけないもん!」

「あっ! よく言ったわね、ゆんゆん!! さすが私の敬虔なる……あれ? なんか私への敬称変わってない? ねえっ?」

「仕方ないですね。ゆんゆんが行くというなら、私も行かざるを得ません」

「わ、私も行くぞ。私はこの街が好きなのだ。滅びられては困る」

「カズマ、俺たちも行こう。諦めろ」

「……ったく。俺たちは初心者冒険者だぞ。分かったよ!! 解決して、さっさとアクセルに帰んぞお前ら!!」

 

 ヤケクソ気味に叫んだカズマに同調し、全員が「おー!!!」と、思いっきり腕を上げて呼応した。

 

 

 


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