もう一度、あなたと   作:リディクル

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どんどん地の文が増えていって、結局前後編に分けた話です。
描写しなくちゃいけないものが多いのがいけない。
あと、ちょこちょこ独自設定があるのでそこはご容赦を。

それでもよろしければ、どうぞ。





六「一歩離れて(前)」

 

 

 

「――そういう訳で、零落白夜の理想形は一瞬の発動だと思うのよ」

「確かに、それが出来れば取れる戦術が大幅に増えますね。でも、あれを使う時は何故かビーム刃が勝手に展開されるんですよね」

「問題はそこね、奇襲性の観点からすればデメリットであるけど、攻撃範囲という点ではメリットになっているから……」

 

 翌日の放課後、一夏と楯無は第3アリーナの壁際で一夏の専用機である白式の運用方法について話し合っていた。楯無の通達通り、訓練を行うことにしたが、照彦がまだ来ていないということで、彼を待っている間、楯無が現状の一夏の状態が知りたいと言ってきたので、色々と説明しているうちにいつの間にかここまで話が発展したのだ。

 

「話は変わるけど、白式が第2次移行(セカンドシフト)した時に追加された――」

「雪羅ですね、それが何か?」

「それってどんな機能があるのかしら? 話せる限りでいいわ」

「えっとですね――」

 

 時に口頭で状況の例を出したり、時に空間投影ディスプレイで機体のスペックを参照したりしながら、二人はなるべく機密に触れないようにしながら談義を進めていく。一応、両者ともにISスーツへの着替えは済ませている。

 

「……呆れた、雪羅の方が兵装として出来ることが多いじゃない」

「確かにそうですけど、未だにその時の状況で使い分けるのが難しいというか……」

「そこは訓練で慣れていくしかないわね。目下の目標は荷電粒子砲を使いこなせるように――」

 

 こうして真面目な話をしているが、一夏の心には楯無と話している事への楽しさがあった。

 過去に専用機持ち達ともこのような会話を何度かしたことがあったが、そのときは誰と話しても今回のように楽しいという感情を感じることはなかった。唯一の例外は照彦だが、彼と話すときは常に楽しさよりも真剣さの方が勝っていた。

 そんなこともあり、一夏は今この瞬間が楽しいと感じていた。そして、この時がもっと続けばいいとも思っていた。

 

「――それにしても遅いわね、秋月君」

 

 ちょうど一夏との談義も切りが良くなったのか、楯無は話題を変える。照彦のことだ。

 

「そうですね、あいつは大切なことがある時はしっかりと時間を守るのに」

 

 照彦が持つ真面目さは、中学からの付き合いである一夏にとって見知ったものであった。その為、遅くなるなら遅くなるとわかった時点で、彼はこちらに何かしらの手段で連絡を取ってくるはずだ。それがないということは――

 

「――こういう時って、あいつがトラブルに巻き込まれている時なんですよ」

 

 そう言った瞬間、他の専用機持ち達の顔が浮かんできたが、まさかな、と思いその考えを打ち消した。流石に彼からばらすことはありえない。何故なら秋月照彦という人間は、真面目な上に口が堅い。だから、彼から彼女らに今回のことがバレるとは言い難い。

 

「なるほどねぇ、じゃあこのまま待っていてもいいんだけど、アリーナが使える時間も限られているし――」

 

 先に始めちゃう? と言った楯無の言葉に、一夏はそうですね、と肯定の言葉を返した。そして、心の中で照彦に謝罪しつつ、白式を展開しようとして――

 

「一夏!」

 

 聴き慣れた女子生徒の声が聞こえた。

 その声に、一夏は白式の展開を取りやめ、嫌な予感を抱きつつ声がした方へと顔を向けた。それにつられて、楯無も同様に、一夏が向いた方へと顔を向ける。

 そこにいたのは、いかにも怒っていますという表情を浮かべている専用機持ち達と、申し訳なさそうな表情を浮かべている照彦がいた。

 それだけで、一夏と楯無は彼がどんなトラブルに巻き込まれたか理解した。

 

「すまん、撒けなかった」

 

 そして、その言葉を聞いても、彼を怒る気にはなれなかった。

 そうこうしているうちに、専用機持ち達が二人の方へと歩いて近づいてくる。

 その様子に、一夏と楯無は顔を見合わせ、ため息をついた。

 

 

 

 えっとだな、と照彦と二人がかりで専用機持ち達の怒りを鎮めた一夏が、遠慮がちに口を開く。

 

「今日からしばらくの間、俺と照彦のコーチをしてくれることになった生徒会長だ」

「どもども、更識楯無です。コンゴトモヨロシク」

 

 どこかで聞いたようなセリフで挨拶をした楯無に、照彦は何か納得したような表情で、ああ、この人が、と呟いた。

 

「っと、こちらも挨拶しないとな――初めまして、生徒会長。俺が()()()の秋月照彦です」

 

 そう言って、照彦は楯無に軽く頭を下げる。そんな彼に楯無は、はい、よろしくね、と屈託のない笑顔を浮かべて答えた。

 そんな二人の様子を何も言わずに眺めていた一夏の背中に、()()()()()五つの視線が突き刺さる。この頃その視線の意味を薄々分かり始めてきた一夏は、正直振り向きたくないと思いながらも、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 視線の正体は、こちらを睨む専用機持ちだった。彼女たちはその視線で一夏を亡きものにしようとするかのごとく、彼から目を逸らさず、睨み続けていた。そんな彼女たちの様子に、一夏は思わず呆れたような表情を浮かべ、ため息を吐いた。

 そんな一夏の態度が気に入らないのか、五人は一夏への睨みをさらに強くした。

 

「ちょっと一夏!」

 

 その中で、凰鈴音(ふぁんりんいん)が声を上げる。

 

「……なんだよ、鈴」

「なんだよ、じゃないわよ! 誰よあの女!」

 

 そう言いながら、まるで掴みかかるような勢いで迫ってくる鈴音に対して、一夏は辟易しながら口を開く。

 

「さっき言っただろ、あの人は生徒会長で――」

「だから! そういうことを聞いてるんじゃないの!」

 

 吠えるように言う鈴音に対して、一夏は心の中で勘弁してくれ、と呟いた。無論、それを感情として表情に出すような愚行は犯さない。彼女ら専用機持ちと関わっていく中で、自分の感情を素直に表すことはあまりよろしくないということを学んだからだ。

 

「そうだぞ、一夏」

 

 そんな一夏に、さらに突っかかっていく女子が一人。篠ノ之箒(しのののほうき)だ。

 鈴音よりは語気が荒くはないものの、彼女もまた一夏を責めていることには変わりがない。その証拠に、一夏に話しかけてきた時も、他の専用機持ちと同じような鋭さの眼差しだった。

 

「私たちが聞きたいのは、いつ、お前が生徒会長にあったのか、ということだ」

 

 箒の言葉に、他の専用機持ち達が頷く。その言葉は、鈴音ほど強い口調ではないものの、どこか詰問に近い雰囲気を帯びていた。

 そんな箒の問いに、一夏はどう説明しても難癖をつけてくる彼女らの気質に面倒くささを感じつつも、どのように答えようかと思案する。

 そんな一夏の沈黙に何かを邪推したのか、なんとか答えたらどうだ、と少々語気を荒げながら箒は一夏に迫る。

 

「やめろ、篠ノ之」

 

 そんな二人の間に、照彦が割り込む。その顔には、呆れの他に少々の怒りが浮かんでいた。

 

「織斑がいつ生徒会長に会ったかなんて今は関係ないだろう」

「関係ないのはお前だ、秋月」

 

 たったそれだけの言葉を交わしただけで、箒は感情的になった。

 

「私は今一夏に聞いているんだ、お前は引っ込んでいろ」

「――そうして、納得のいかない答えだったら一夏に暴力を振るうつもりか」

 

 照彦はそう言って箒を睨む。その瞳は友人を見るようなものではなく、まるで敵を見るような鋭さを帯びている。対する箒も、胸で燃える怒りを隠すことなく睨み返す。

 そんな二人を、専用機持ち達は誰も止めに入らず、むしろ箒に加勢せんとばかりの眼光で照彦を睨んでいた。まさに、いつ争いが起こるかわからない一触即発の状況であり、これは流石にまずいと考えた一夏は、二人を諌めようと口を開き――

 

「はい、そこまで」

 

 その言葉とともに鳴らされた手の音を聞き、出そうになった言葉を寸でのところで飲み込んだ。そして、その音を出した楯無の方へと顔を向ける。他の人間も、一夏と同じく音がした方へと視線をやる。

 楯無は、笑顔を浮かべていた。ただその笑顔は、どこか背筋が凍る何かを醸し出しているものだった。

 

「織斑君、訓練を始めましょうか」

 

 今までの流れをまるで無視するかのような言葉が、楯無の口から出た。

 余りにも無理やりの軌道修正に、専用機持ち達が驚愕の声を上げた。それを無視して、一夏は彼女の言葉に乗るかのごとく、問い掛ける。

 

「初日である今日は何をするんですか?」

「今回は模擬戦をしようかと思うの」

 

 そう言って、楯無は扇子を開く。今回は珍しく、扇子に文字は書かれていない。

 

「現状の君がどこまで戦えるのかわからないからね、一回戦ってみて見極めようかと思ったの」

 

 楯無の言葉を聞き、一夏はなるほど、と呟いた。確かに、自分は楯無に対して口頭で説明できるところはしたつもりだ。しかし、実際にどこまで出来るのかはしっかりと確かめたほうが、今後の訓練の方向性を決める上で重要な指針の一つになることは間違いない。要は、百聞は一見に如かずということだ。

 照彦の方を見てみれば、彼もそのことを理解しているのか、あまり表情は変わっていないものの、納得しているようだった。

 しかし、その他の専用機持ち達は、一夏が自分達以外の人間と訓練するということ自体が気に入らないのか、ずっと怒りの表情を浮かべたままだった。その様子を見る限り、楯無の言っていることを理解はしているものの、認めてはいないという感じだ。

 

「――必要ありません」

 

 最初に反論の言葉を口にしたのは、箒だった。

 彼女の声を聞き、一夏がほんの少しだけ表情を変える。それに気が付いたのは、照彦だけだった。

 

「私達だけで十分です。なので、生徒会長はお引取りを」

「そうよ!」

 

 箒の言葉に便乗するかのように、鈴音が声を上げる。二人以外の専用機持ちは、言葉を発しておらず、浮かべている表情の差はあるものの、箒や鈴音と同じような気持ちなのだろう。

 ――皆が皆、一夏と一緒にいる時間を減らされたくないのだ。ただでさえライバルが多い彼女達だ、これ以上増やされたらたまったものじゃないだろう。そうした彼女らの感情を、今まで一夏の隣に立ち、彼女達と関わってきた照彦は、手に取るようにわかっていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう思いながら、照彦は一夏の方へと目を向ける。箒が楯無へ反論した時から浮かべているその表情は、一夏には珍しい苛立ちの表情だった。

 何故彼がそのような表情を浮かべているかは、照彦にもわからない。ただ、その表情を浮かべている時の一夏は何をするのかわからない。過去に一度、原因は今回とは全く似ても似つかないが、一夏の苛立ちが爆発したことがあった。その時のことは思い出したくない。そう考えてしまうほど、苛立ちの原因となった犯人に悲惨な結末が降りかかったのだ。

 そういったことを経験しているからこそ、照彦としては専用機持ち達に引いてもらいたかった。しかし、彼女らは一歩も引かず、むしろどんどん楯無に突っかかっていく形で踏み込んでいっていた。そして、それに比例して一夏の苛立ちはどんどん募っていくばかりだ。

 本当にどうしたものか、と照彦は心の中で思いながら、ため息をついた。

 

「――じゃあ、貴女達と私で模擬戦してみる?」

 

 いつ誰かの感情が爆発するかもわからない状況の中で、楯無の声が上がった。今まで何も言わなかった彼女の突然の発言に、その場にいた全員が彼女の方へと顔を向けた。全員の視線が集まる中でも、楯無は笑顔を浮かべている。()()()()()()()()()()()()()()、鉄の笑顔だ。

 

「だから、私達で――」

「私が負けたら、もう織斑君には一切関わらないわ」

 

 感情のままに反論しようとした箒に、楯無は間髪入れずに条件を提示した。

彼女が出した条件を聞いた全員が驚愕する。もちろん、渦中の一夏も例外ではない。

 専用機持ち達は、楯無が出したその条件を理解し、色めき立つ。そんな彼女たちに、ただし、と楯無は付け加えるように言う。

 

「私が勝ったら、今後一切私と織斑君への口出しをやめてもらいたいの」

 

 追加された条件に、少なからず喜色を表していた専用機持ち達は絶句する。その反面、一夏は自身の中にある苛立ちが少しずつ収まってきていることに気が付いた。

 そんな中ではっと我に返り、何かを言おうとした箒と鈴音を手で制しつつ、初めてセシリア・オルコットが口を開いた。

 

「――その言葉に、嘘偽りはございませんね」

 

 少々棘があるその言葉を聞き、楯無は無いわ、と答えて頷いた。

 楯無の返答を聞いたセシリアは、安心しましたわ、と言い、自らの専用機を展開する。ほかの4人も、彼女に遅れまいと専用機をその身に纏う。

 

「では、時間も押していることだし――」

 

 いつの間にかISを展開していた楯無が、右手に持っているランスを彼女らへ向け、口を開く。

 

「まとめて相手をしてあげる。かかってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 




自分で書いててヒロインズに偏見持ってるな、と感じてます。
なるべくアンチやヘイトにしないように気を使っているのですが、
どうしても色眼鏡で見てしまう……
そこらへんはどうにかしたいと思っている今日この頃。

後編は明日の夕方までには投稿したいと思っています。

よろしければ感想を書いていただけると幸いです。



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