もう一度、あなたと   作:リディクル

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 相変わらず独自設定が多いです。
 あと久しぶりの一夏&楯無のターンです。

 それでもよろしければ、どうぞ。





二十一「胡蝶と淑女」

 

 

「皆! 無事か!?」

 

 突如として起こった異常事態に、一夏は思わずオープン・チャンネルで専用機持ち達へと呼びかけつつ、機体に急ブレーキを掛けて反転し、上空からの攻撃の着弾地点へと目を向けた。その隣では照彦が同じように後方へと体を向けながら、上空に存在している襲撃者へ気を配っていた。

 

「――サイレント・ゼフィルスか」

 

 その呟きを耳に入れた一夏は、隣にいる照彦と同じように自身の目を上空へと向ければ、確かに自身の視線の先に、イギリスから盗まれたBT2号機の姿を確認することができた。生憎搭乗者の素顔はバイザーによって隠されており、どのような人間かまではわからなかった。ただ、一夏が襲撃者の姿を確認した時、何故か()()()()()()()()()ような気がした。気の迷いだろうか? と思い、その考えを振り払おうとしたとき、ふと襲撃者が一夏達の方へと顔を向けた。

 

 ――そして、一夏の姿を認めた襲撃者は、小さく()()を浮かべた。

 

 バイザーによって、顔の大部分が隠されているので確信はできないが、自身と目があった彼女は、確かに笑ったのだ。

 その事実が、一夏の襲撃者に対する警戒度を引き上げさせた。あちらが何者であるのか、何故自身を見て笑みを浮かべているのか、その意味に対する答えを一夏は持ち合わせてはいなかった。仮にどこかで言葉を交わしたことがあるのであれば、面影か何かを覚えているのだが、自身の記憶を探っても目の前の襲撃者に似た人物は見たことがなかった。

 それ故に、全く面識がない相手に対して、何故だかわからないが()()()()()()()()()()()()()()と思っていること自体が、一夏にとっては異常そのものだった。

 あれは誰だ? という些細な疑問が一夏の脳内を支配しつつある中で、事態は動き始める。

 襲撃者の腕がゆっくりと動き出し、その手に持つBTライフルが一夏達の方へと向けられる。既にエネルギーチャージは完了しているらしく、銃口から蒼い光が漏れ出している。

 

 その襲撃者の一動作が、開戦の合図だった。

 

 一夏と照彦はほぼ同時に瞬時加速を行い、各々が目指すべき場所へと自機を駆る。一夏は上空に浮かび、こちらへ攻撃を仕掛けようとしているサイレント・ゼフィルスの元へ、照彦は襲撃者の攻撃の着弾点にいるだろう専用機持ち達の元へ、それぞれが現状出せる最高速度で動き出した。

 一夏が突っ込んでくるのを確認した襲撃者は、特に焦った様子を見せるような素振りはせずに浮かべていた笑みを消し、スラスターを操作してその場から後退をしながら、BTライフルの引き金を引き、ビームを撃つ。その攻撃を皮切りに、周囲に展開されているビットからもビームが放たれる。

 一夏は襲撃者の攻撃に反応し、横にロールするように回避行動を取る。しかし、十分回避できるだろうと考えているそれらの攻撃全てが()()()()

 ――偏向射撃か! 一夏の頭がその現象を理解するのと、咄嗟に雪羅のシールドモードを起動し、多方向から来る攻撃に対処するべく動きを止めたのはほぼ同時だった。

 シールドで防げる分だけを防ぎ、防ぎきれなかった分は回避するか、零落白夜を起動した雪片で切り払う。そうして襲撃者からの攻撃を防ぎ切った一夏が、再度相手の位置を確認すれば、遭遇した時とほぼ同じ距離開いているのがわかった。

 一筋縄ではいかない、そう思い、一夏が気を引き締めたその刹那――

 

 ――襲撃者へと、セシリアが最高速度で体当たりをかました。

 

 高速機動パッケージ(ストライク・ガンナー)の速度を存分に発揮した衝突の衝撃は、少し離れた場所から見ていた一夏にもその凄まじさはわかるもので、セシリアの突貫を備えもなしに食らってしまった襲撃者は、どうやら衝撃の影響でPICに一時的なエラーが出たらしく、くぐもった声を上げながら、それなりの距離を吹き飛んでいった。

 当たりに行った方であるセシリアは、衝突した時の痛みに顔を歪めながらも、襲撃者を逃すまいと間髪入れずに大型BTライフルを構え、撃つ。青色のビームが襲撃者の機体へと吸い込まれるように突き進んでいき――着弾するか否かというところで、突如展開されたエネルギーシールドによって防がれた。防いだ瞬間にPICが復活したらしく、襲撃者は宙返りの要領で態勢を立て直した。

 

 やはり、シールドビットを……

 

 声は聞こえなかったが、唇の動きと、サイレント・ゼフィルスの情報から、そう言っているのだろうと一夏は判断した。そして、これは協同して当たったほうがいいと考え、襲撃者から目を離さないままセシリアに通信を繋いだ。

 

『セシリア、聞こえるか』

『……一夏さん』

 

 音声上で聞こえるセシリアの声は、ひどく冷静なものだった――否、冷静なように聞こえた。

 

『セシリア、あいつは――』

『サイレント・ゼフィルスは、私が対処しますわ』

 

 一夏の申し出を遮るように、セシリアは言った。

 彼女の言葉に、一瞬だけ面を食らった一夏だが、すぐに正気に戻り、慌てて口を開いた。

 

『おい、お前一人じゃ』

『他の方々をお願いします、一夏さん』

 

 そこで、セシリアとの通信は終わった。彼女の側から一方的に終わらせたのだ。一夏はもう一度彼女に通信を繋ごうとしたが、遮断しているのか全く繋がる気配はなかった。

 その事実に表情を険しくしながら、セシリアの方へと目を向けてみれば、そこにあったのはビットで攻撃しつつ、後方へと退いている襲撃者へと追いすがるように、降り注ぐ攻撃を避けつつ、BTライフルでの射撃をしつつ突貫する彼女の姿だった。

 

「おい、セシリア!」

 

 無謀とも取れる彼女の行動に、一夏は思わず声を荒らげて呼びかけるが、当の本人には彼の呼び掛けが聞こえていないのか、徐々にサイレント・ゼフィルスとともに上空へと上がっていく。

 その姿に焦りを感じた一夏が、急いで彼女の後を追おうと動き出そうとし――

 

『――聞こえるか、一夏』

 

 寸前で、空中投影ウインドウが開き、ラウラの通信が入った。

 

『ラウラ! 大丈夫か』

 

 彼女の声を聞いた一夏は、すぐに返答と安否の確認をする。一夏の言葉を受けたラウラは、なんとかな、と返答を返した後、一つため息をついた。

 そんなラウラの様子に、一夏は思わずよかった、と呟き、安堵の表情を浮かべる。しかしそれも数秒のことで、彼はすぐに表情を引き締め、他の奴らは? と彼女とセシリア以外の専用機持ち達の安否を尋ねた。

 

『――正直、私達の中で満足に動けるのはセシリアぐらいだ』

 

 しかし、ラウラから返ってきた答えは、あまり芳しくはないものであった。

 彼女が言うには、まず多数の直撃を受けた箒と鈴音は、シールドエネルギーが尽きて戦闘不能。次に被害が大きいシャルロットは、スラスター等の駆動系が軒並みダメになってしまい、現在展開を解除してピットに戻り千冬の指示で動くらしい。そしてラウラ本人はというと、シールドエネルギーはまだ残っているが、スラスターに深刻な障害が発生しており、PICによってかろうじて飛ぶことはできるものの、サイレント・ゼフィルスに追いつけるほどの速度は出せないらしく、できることと言えば、地上からの砲撃支援ぐらいとのことだ。

 肝心な時に役立たずですまない、というラウラの謝罪の言葉を聞いた一夏は、別に気にはしてないよ、と返答するが、内心焦りが募っていた。

 男性以外の専用機持ち5人の内、3人が戦闘不能。残り2名の片方は実質砲台でしかなく、もう片方は現在襲撃者と交戦中……

 

『ラウラ、照彦。どうする?』

 

 情報を整理する限り、最悪に近い状況だ。今この瞬間も、サイレント・ゼフィルスに追いすがるセシリアが撃墜される可能性は刻一刻と増大している。しかし、今ある問題はそれだけではない。観客席の方へと目を向ければ、パニックを起こし、出口へと殺到する観客たちの姿が見えた。一応、手が空いているスタッフが誘導を行っているが、それで間に合っているとは到底思えなかった。

 セシリアへの増援と、観客たちの盾役。今現在必要なのはその二つだろう、と一夏は考えた。

 

『セシリアへの援護は――』

『私がやる』

 

 セシリアへの援護を買って出ようとした照彦の言葉を、ラウラは自らの即決によって制した。そんな彼女の言葉を聞いた照彦は、大丈夫なのか、と真剣な表情でラウラに聞き返せば、彼女は迷うことなく頷いた。

 

『今の私は、お前達と違い自由に動けると言える状態ではない。先も言った通り、砲台としての役割しかできないだろう』

 

 だがな、と前置いた彼女は、一夏へ真剣な表情を浮かべながら、口を開く。恐らく、照彦の方も同じようにウ空中投影ウインドウから彼女の表情を見ているのだろう。

 

『お前達は、私と違ってまだ飛ぶことができるだろう? だから、観客の――無辜の人々を守る役目を、いつでもそこへと駆けつけることができるお前達に頼みたいのだ』

 

 いいな? と投げ掛けられたその言葉に、今度は一夏と照彦が頷く番だった。

 二人が頷いた事を確認したラウラは、ふっと笑みを浮かべ、では頼んだぞ、と言った後に、支援砲撃がやりやすい位置への移動を開始した。

 

『一夏、お前は海側の方を頼む』

 

 ゆっくりと、ISに乗っているとは思えないような速度で移動し始めたラウラの姿を確認した一夏に、同じく彼女の事を見ていた照彦が声を掛ける。その言葉を聞いた一夏は、彼がいるだろう場所へと目を向けてみれば、既に住宅街側の観客席へと移動している彼の姿を見つけることができた。

 既に動き出している彼の姿を認めた一夏もまた、自身が為すべきことをなす為に、海側の観客席へと移動をしつつ、楯無へと通信を入れた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「――なるほど、大体のことは理解できたわ」

 

 少なくない人数の観客が出口へと殺到する中、楯無はその人ごみをかき分けながら、一夏からの通信を受けていた。

 彼女が一夏から受けたのは、襲撃直後から現在の状況に至るまでの事の流れだった。簡潔に、かつ過不足のない現場の情報を一夏の口から聞き終え、自身のいる場所からは得られない情報を補うことができた楯無は、観客席へと向かっているだろう一夏へと、感謝の言葉を述べた。

 しかし、楯無の感謝を受けた筈の一夏は、険しい表情を浮かべたままだった。

 

『一応、出来る限り早く避難を終わらせる為に努力はしますが――』

「そこのところは大丈夫よ、さっき虚ちゃんからの連絡で8割の観客が避難できたと言っていたわ」

 

 だから、安心して、と楯無が言えば、そうですか、と一夏は呟き、表情を和らげた。そんな彼の表情を見て、楯無もまた笑みを浮かべる。彼女の予想通り、一夏の懸念は今まさにパニックを起こしている観客にあったようだ。彼らが逃げ遅れれば逃げ遅れるほど、彼がセシリアへ援護に向かうことが出来ないのだ。そのことが、彼の心にはかなりの負担になっているようだった。

 そう思いながらも、楯無は浮かべていた笑みを真剣な表情へと変え、口を開く。

 

「……ただ、未だに逃げ遅れた人もいるかも知れないわ、だから」

『わかっていますよ、楯無さん。まだしばらく捜索をしてみます』

 

 楯無の言葉を半ば遮るように、一夏は自らのやるべきことを口にする。自信満々――とまではいかないが、先程よりかはだいぶ余裕がある表情だ。ただ、セシリアを心配しているのか、未だに少し急いているようにも思えた。

 

「ねえ、織斑君」

『何ですか? 楯無さん』

「リラックス」

 

 故に楯無は、一夏へ満面の笑みを浮かべるとともに、言葉を投げ掛けた。いきなり起こった彼女の変化に、一夏は目を瞬かせ、キョトンとした表情を浮かべた。そんな彼の表情に、楯無は思わず可愛い、と言いそうになったが、すんでのところで飲み込み、言葉を続ける。

 

「織斑君、今貴方が気負ってもいい結果は出てこないわ」

 

 何故かはわかるわね? と楯無が問えば、一夏は表情を真剣なものに戻して頷きつつ、焦りが別の問題を生むからですね? と答えた。彼の返答に対し、分かっているようで何よりよ、と言った後、楯無はあくまで彼に言い聞かせるように言葉を続ける。

 

「だから、リラックス。肩の力を抜いて、一つ一つやるべきことをこなしていきましょう?」

 

 いいわね? と楯無が聞けば、一夏は目を閉じて何かを考えた後、深呼吸を一つしてから目を開き、どこか憑き物が落ちたかのような笑みを浮かべながら、了解、と答えた。

 そんな彼の表情に、楯無もまた、いい笑顔を浮かべながら、よろしい、と返した。

 

「じゃあ最後になるけど、くれぐれも無理はしないように。ヤバイと思ったら織斑先生なりに連絡を入れること。わかった?」

『わかりました――楯無さんの方も、お気をつけて』

「ふふ、ありがとう。じゃあ切るわね」

『はい』

 

 一夏の返答を確認し、楯無は彼との通信を切った。そして周囲を見渡してみれば、既に観客がいない区画まできていることがわかった。

 周囲に自身と()()以外の誰もいないことを確認した楯無は、改めて前方へと目を向ける。

 

 ――彼女の目の先には、一人の女が立っていた。

 

 長く、よく手入れされた金の髪を靡かせ、同じ女性であるからこそ羨んでしまうその女盛りの肢体に、血よりも炎を思わせる赤いスーツを纏っている、外見年齢は二十代後半と予想されるその女は、不敵な笑みを崩すことなくアリーナの方へシャープな造形のサングラスで覆われた目を向けていた。

 ――その女こそ、楯無が今この瞬間において相対せねばならない()であった。

 

「こんにちは、スコール・ミューゼル」

 

 本家へ戻った時に部下から報告を受けた情報を、頭の中から引っ張り出し、その中から目の前の女の特徴と合致している存在の名を、楯無は言葉にする。彼女の言葉を聞いた女は、ゆっくりと自身の名を呼んだであろうIS学園の生徒会長の方へと、顔を向ける。

 その目はサングラスによって隠されていたが、その口元は確かに笑みの形を取っていた。

 

「こんにちは、更識楯無」

 

 赤い口紅が塗られた形の良い唇が、楯無の名を紡いだ。

 

 

 

 

 

 




 ISでの戦闘――特に空中戦はまだ拙いところがあると自覚しています。
 しかしISは空中戦が華なので、まだまだ精進が必要ですね。

 このような作品ですが、感想をお待ちしています。



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