もう一度、あなたと   作:リディクル

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お久しぶりの方はお久しぶり、初めましての方は初めまして。
いきなりですが、今回の話は短めです。

それでもよろしければ、どうぞ。





序「初対面≒再会」

 

 

 

 ほう、とISスーツに着替え終わった織斑一夏は小さく息をついた。もうすぐ午後の授業が始まる為か、今この更衣室には彼一人しかいない。

 ほかの男子――秋月照彦(あきづきてるひこ)は、自分が更衣室に入った時には既に着替えを終えてグラウンドに行ってしまっていた。

 その行動だけで見てしまえば、照彦が薄情な奴であると思ってしまうが、中学時代からともに過ごしている一夏からしてみれば、その態度こそが照彦にとって信頼の裏返しであるのだ。

 簡単に言ってしまえば、秋月照彦という人間はお節介を焼くタイプであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その為、一夏が更衣室に置いていかれているということは、“彼ならば待っていなくても大丈夫”と照彦が判断したということなのだ。ぶっきらぼうで、どことなく突き放した言動が目立つ親友であるが、そんな彼から大きな信頼を寄せられているという事実を再確認すると、不思議とこそばゆい気持ちになってきて、自然と苦笑を浮かべてしまう一夏だった。

 

 そうしたことを考える一方で、あまり遅くなると幼馴染をはじめとした専用機持ち達から詰め寄られてしまう。

 今でこそ親友である照彦が間に入ってくれるが、彼がいない時や、どう考えてもこちらが悪く、間に入ってくれない時は、彼女たちが物凄い勢いで食らいついてくる。その剣幕は、本当に彼女たちが女性であるかわからないくらい雄々しいものであり、臨海学校を終えたくらいから、一夏は彼女達を普通の女性だとは思わないことにした。

 そこまで考え、一夏は急いで制服や貴重品をロッカーの中へ入れ、鍵をかけた。あんまり考え事をしていて遅くなってしまえば、まさに自分が考えている通り、彼女らに詰め寄られる未来が容易に想像できてしまう。それだけは避けたかった。

 そうして、諸々の準備を済ませてグラウンドに移動しようとして――

 

「だーれだ」

 

 目の前が真っ暗になった。

 

「……え?」

 

 いきなりの不意打ちに思考が一瞬止まったが、動き出した頭が最初に浮かべた感情は困惑だった。辛うじて一夏がわかるのは、自分の目が塞がれたという現在の状況と、目を塞いだであろう人物が女性であるということぐらいだ。

 自身の目の上にある柔らかい手の感触も、耳に心地よく聞こえた悪戯が好きそうな声色も、()()()()()()()()()()()()()いい匂いも、全てが初めて感じるものだった。

 早い話、一夏には誰だかわからないということだ。

 

「えっと、誰ですか」

 

 ただ、そこで止まっていても事態は進展しないし、何よりこれ以上時間を食うと授業に遅れることが確定してしまう。それだけは避けたい一夏は、自分の目を塞いでいるだろう背後の女子へ言葉を投げかける。しかし、女子から返ってきたのは彼が望む返事ではなかった。

 

「誰だと思う?」

 

 返ってきたのは問い掛けだった。一瞬「質問に質問を返すのはどうなのか」と一夏は思ったが、そんなことよりも何も情報が得られなかった事の方が問題だった。振り払えば済む話ではあるのだが、もしも振り払った拍子に背後の女子が怪我をしてしまえば、それだけで大事になってしまう。日本はまだマシであるが、女尊男卑の風潮は世界中のいたる所にあるのだ。

 振り払うという選択肢が潰されてしまえば、後は彼女が誰であるか答えるしかないのだが、情報がほとんど無いに等しい現在の状況下で答えを言い当てることはできないし、当てずっぽうでクイズに答えるほど一夏は迂闊な人間では無い。

 そうした思考があった為か、結果的に何も言わずに時間を浪費するという悪手を取らざるを得なかった。

 何か言おうにも、言葉を発する直前で飲み込んでしまう。そんなことを何度かしていると、背後の女子がため息を吐いた。

 

「意地悪しすぎちゃったかしらね」

 

 その言葉とともに、目を塞いでいた彼女の手が離された。一瞬諦めたのだろうか、とも思ったのだが、背中に感じる視線が消えていないことから、まだ彼女はいるようだ。

 それがわかった一夏は、ひと呼吸おいて心を落ち着けてから、ゆっくりと振り返った。

 

 ――女子の姿を視界に収めた瞬間、織斑一夏の時が止まった。

 

「初めまして、織斑一夏君」

 

 そうだ、今目の前にいる彼女とは初めて出会った。

    ――違う(ああ)■■さんと自分は久しぶりに出会ったのだ(もう貴女には会えないと思っていた)

 

「でもちょっと油断してるんじゃないかな? あんまり感心しないぞー?」

 

 彼女は狐を思わせるような笑顔を浮かべている。

    ――■■さんは(貴女は)自分を安心させてくれる(俺が傷つけてしまった)いつもの笑みを浮かべている(あの笑顔を浮かべている)

 

「まあ、私が相手だからね、気にするだけ無駄というものよ」

 

 恐らく、自分の実力をしっかり理解しているような自信を抱く彼女。

    ―― あの時の(懐かしい)自分を救ってくれた(俺が傷つけてしまった)強さを持っている■■さん(優しさを持っている貴女)

 

「ん、もしもーし、聞こえてるー?」

 

 考えがまとまらない(色々なことを話したい)どんどん自分の中から何かが(あなたへの愛おしさが)湧き出してくる(溢れて止まらない)

 

 一夏の頭の中で、既知と未知が混ざり合う。

 知っているのに知らない、しかし知らないのに知っている。

 情報が絡み合い、ついに限界を迎えた一夏は――

 

「――あ」

 

 頭痛という言葉では形容できない程の激痛とともに、意識を落としていった。

 

 そんな彼が最後に見たものは、初めて出会った(ようやく会えた)彼女の驚いた顔だった。

 

 

 

 

 

 





現状この話だけでは一夏の状態がわからないと思います。
一応次の話でどうなっているのか書きますが、次の更新が待てないという方は、作者の過去作でも見て待っていただければ幸いです。

拙作ではありますが、感想をお待ちしています。




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