『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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【挿絵表示】


 くさリル様(ツイッターアカウントhttps://twitter.com/kreiselschnecke/with_replies)に『凱龍輝―蒼き龍の系譜』のイメージイラストを描いてもらいました!
 これは著者である私が注文したのではなく、読者として全てイメージを築き上げて描いて頂いたもので、一種の感想とも解釈できます。
 時間と労力を割いてまで、拙作のイメージを描いて頂いた事、感激しています。
 本イラストに負けないように、私も『凱龍輝』の執筆に力を入れていきたいと思いますので、どうかイラスト同様、本文にも目を通して頂けたらと思っています。




 レッドリバーを遡上する輸送部隊に帝国軍の攻撃は集中した。

 まず、二郎が個人的に記録した戦闘経過を元に、敵の波状攻撃の概要を追う。

 

【第一波攻撃:レッドリバー クーパーポートより約100㎞上流付近】

 

06:32 LG(=ロードゲイル)視認、戦闘態勢へ移行

 FS(=フライシザース)、GK(=グレイヴクアマ)約20飛来

 対空迎撃、全凱(=凱龍輝)、ヒ(=飛燕)分離

 エ(=エヴォフライヤー)、フェ(=フェニックス)展開

 

06:44 河川水面上敵出現 DG(=ディプロガンズ)、SK(=シェルカーン)、MC(=マッカーチス)約10(不明)

 全凱、月(=月甲)分離、水上戦闘開始

 

06:50 ポ(=ポセイドン)艦首被弾、損傷軽微、航行に支障なし

 

07:02 水上爆発×3 DG破壊?

 水上攻撃鎮静 FS×2とGK撃墜確認 LG退却

 月浮上、全て凱に合体

 

【第二波攻撃:レッドリバー・グレイリバー合流地点】

 

07:46 LG×4 ZB(=ザバット)×10飛来

 全凱ヒ分離、フェ、エ、と共に対空迎撃

 

07:48 敵SB(=スマート・ボム=誘導爆弾)投下

 ポ艦尾、ネ(=ネプチューン)左舷被弾、損傷軽微 

 

07:50 ZB×4撃墜 全LG退却 

 

07:52 ヒ帰還、全凱合体

 

【第三波攻撃:グレイリバー、グレイ湖まで約150㎞付近】

 

08:30 河岸狭隘地点にて右岸よりDH(=デモンズヘッド)×6出現

 ディ①(=ディスペロウ080-11)、ディ②(=080-14)共に戦闘開始するもディ①被弾、大破、敵不明?

 

08:33 左岸LG×2、DA(=ディアントラー)×4、SK×8出現、連携火器攻撃

 凱①(=070-2号機)格闘戦、BZ(=ブロックスゾイド)数機破壊ママ

 

08:34 凱①被弾打撃? 敵不明? 胸部装甲破損

 

08:41 LG×2、ZB×6、KS(=キラースパイナー)、DD(=ディメトロドン)出現

 ZBのSB投下、ネ ブリッジ付近被弾、まだ何かいる?

 

 帝国軍はグレイ砦包囲攻撃の報を受け、本来であれば未だ抵抗を続ける南東部のマウント・ジョー攻略に当てる予定だった機動陸軍第8装甲師団を北方のグラント砦より引き抜き派遣する。

 ゼネバス回廊の中央山脈西側拠点グラントがなけなしの兵力大半を移動させた理由は、帝国が占拠しているヘリックシティー防衛の(かなめ)としてキマイラ要塞が本格的に稼働を始めたからである。生じた予備兵力を投入し、なんとしてもグレイ砦の陥落を防ぎ共和国の気勢を制するのが目的であり、輸送部隊が接触した大小ゾイド群は正しく移動中の第8装甲師団の先行部隊であった。

 

〝何もない空間から電撃を浴びた。敵が見えない〟

〝凱龍輝装甲の損傷状況からストライクレーザークローと判断、セイバータイガーがいるのか?〟

 攻撃を受けたディスペロウと凱龍輝より矢継ぎ早に報告が入る。ポセイドンのブリッジで戦闘記録を取っていた二郎が顔を上げ、艇長エドワードと見合わせた。

「ゼロイクスです」

 艇長兼指揮官は無言で頷いていた。

 ブレードライガーVSジェノザウラー然り、ライガーゼロVSバーサークフューラー然り、単機同士の戦闘に於いてジェノザウラー系ゾイドは概ねライガー系ゾイドとの相性が悪いと記録されている。帝国軍と共和国軍の立場が入れ替わったものの、高出力の光学迷彩機能を持つライガーゼロイクスに対し凱龍輝もまた苦戦を強いられた。

 戦闘に集中し大局の俯瞰が不可能なゾイドパイロットに代わり的確な指示を送るのが戦闘指揮官の役目である。エドワードも適宜ゾイドの配置を指示していたが、積載するフェニックスユニット保持のため戦術に消極性が感じられた。二郎にとってブロックスシステムを有効に活用できないエドワード達に言い知れぬもどかしさを覚え、堪らず声をあげていた。

「技術者としての提案です。ボレル機を凱龍輝デストロイにチェンジマイズし榴弾でゼロイクスの動きを封じ、残り2機を凱龍輝スピードにして対抗できませんか」

「了解した。各機へ通達」

 驚くほど速やかに命令が下され、二郎は自分の共和国軍内での位置付けが既に特別なものになってしまっていたのだと知らされた。

 

08:49 凱①+エ①(=019-2)、凱③(=70-7)+エ②(=019-3)CM(=チェンジマイズ)⇒凱スピード×2

 凱②(=70-6)足装備分離、+ディ②CM⇒凱デストロイ 

 

 凱龍輝デストロイにチェンジマイズする場合、飛燕、月甲が分離できないため合体シークエンス間はほぼ無防備となる。だがボレルの乗る凱龍輝に限っては新たな装備が追加されていた。

 消音装置によって(あしおと)を潜ませ忍び寄ったイクスを、人とは異なる視覚センサーで察知し突入する小型ゾイドがあった。AZ電磁キャノンと四連装マルチプルキャノンをフレームとするそのゾイドは、飛燕、月甲と比較し規格外の重量を有する。重金属の塊の如き小型ゾイドの低重心の突進は、例え大型であっても高速戦闘用に軽量化されたイクスを転倒させるに充分な重力加速度を持っていた。

 足元を掬われ横転したイクスの光学迷彩が一時途切れ、チェンジマイズを終え異変を察知した凱龍輝デストロイが三連砲二基の砲身を巡らせ榴弾を斉射する。

 炎に包まれ輪郭を露呈したゼロイクスの後方で、半身を埋め榴弾攻撃を回避する小型ゾイドがあった。

 

08:51 雷電AI正常稼働。凱龍輝・真 完成

 

 凱龍輝第三のブロックスとして〝サンダーボルト〟と仮称し二郎が設計した雷電は量産化の際製造は見送られたが、既存のテクノロジーを最大限に活用するクヌート・ルンドマルクの手に拠って完成され、その実験機がフェニックスユニットと共に輸送部隊に贈られていたのだった。

 正体を露呈したイクスに凱龍輝スピードが肉薄する。エレクトロンドライバーを振り翳し抗うイクスも、3機の凱龍輝の攻撃を全て防ぐことは不可能であった。

 

08:55 X(=ライガーゼロイクス)破壊

 同時刻通信途絶、DD?

 

「ジャミング、ディメトロドンです」

闇の獣王を葬った直後にブリッジと各ゾイドとの連携は遮断され、二郎の戦闘記録も一時ここで途切れる。以降、凱龍輝70-6号機パイロット、マグリット・ボレルによる戦闘報告を元に戦況を辿る。

 

「〝イクス〟ヲ(たお)シタ凱龍輝(デストロイ)二、〝キラースパイナー〟ガ突入シテ来タ。右ノ〝ジャイアントクラブ〟ガ伸ビテ、凱龍輝ノ三連ロングレンジキャノン基部二〝ヒット〟シ〝バランス〟ヲ崩シテシマッタ。

 辛クモ転倒セズ踏ミ止マッタガ〝トップヘビー〟ノ状態デハ格闘ニ不利ト判断シ、(凱龍輝デストロイモードからの)〝チェンジマイズ〟解除ヲ試シタ。

追撃シテ来ル〝スパイナー〟トノ間ニ凱龍輝スピード(バーディーン機・70-7号)ガ割リ込ミ時間ヲ稼イデクレタ。

〝パーツ〟ヲ排除シ、傍ラニ〝ディスペロウ〟ヲ従エ身構エタ。獣脚類型ゾイド同士ノ格闘戦トナッタ」

 

 互いにプロトレックスを素体とするゾイドの激しい戦闘は、恰も同族嫌悪を思わせた。

ジャミングウェーブの威力を失ったとは言え、キラースパイナーの戦闘性能は高い。ジャイアントクラブとストライクスマッシュテイルが衝突し不快な金属の擦過音を立てる。ボレルと同様チェンジマイズを解除したブルックスの凱龍輝(070-2号)も接近しキラースパイナーを包囲し一時的に凱龍輝側が圧倒していたが、格闘戦に集中するあまり敵はキラースパイナーだけではないことを忘却していた。

 引き続きブルックスの報告書を追う。

 

「後方二殺気ヲ感ジ、反射的ニ飛燕ト月甲ヲ分離シタ。

 雷電ト共ニ3機ガ地上ニ降リタ翼ガアル〝キメラゾイド〟ニ一斉ニ襲イ掛カッタ。

 防御態勢ノ取レナカッタ最初ノ1機ハ撃破出来タガ、〝ロードゲイル〟ハ次々ト着地シテ来タ。

 2機3機ト舞イ降リ、最終的ニ計10機ノ〝ロードゲイル〟ニ部隊ハ取リ囲マレテイタ」

 

 ヘルズファング、エクスクロー、エクスシザース、マグネイズスピア、マグネクロー、マグネイズテイル。全身に備えた凶悪な格闘兵器が蒼き龍に牙を剥く。

 バイドラッシングによってバーディーンの凱龍輝の右肩集光パネルが破壊された。無人ゾイド群によって敵を充分疲弊させたのち、徹底的に叩くのが有人ブロックスの戦術の定石であった。

 一方、ザバットによるネプチューンとポセイドンへのスマート爆弾攻撃は間断なく続いていた。帝国製ドラグーンネストの強力な装甲であればこそ持ち堪えられるものの限界はある。地上には後続のブロックスゾイド部隊が無数に迫り、多勢に無勢は免れない。

 ポセイドンのブリッジの眼下、二郎は凱龍輝に再度キラースパイナーのジャイアントクラブが迫るのを目にした。

 

 僕の凱龍輝が犯されてしまう!

 

 声にならない叫びで胸は張り裂けんばかりであった。

 

 眼下に白い獅子が出現しキラースパイナーが吹き飛ぶ。

 

09:10 φ(=ライガーゼロ)×34加勢 間に合った

 

「教化部隊(≒懲罰部隊)合流。レイ・グレッグ少尉以下34機のゼロです」

 聞き覚えのある兵士の名を耳にし、二郎は百万の味方を得た気分に満たされた。

「少尉さん、タイミングが良すぎますよ。心臓に悪い……」

 

 ライガーゼロ群の上空をフェニックスが舞う。共和国軍の反撃が開始される。

 


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