『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 ゾイテック社ノヴァヤゼムリャ製作所に保管されていた記録を元に2014年3月に実施されたバーサークフューラー改造コンペティションの概要を解説する。

 第一案を主任の二郎から開始し、以降

 第二案 バラクリシュナン

 第三案 ルンドマルク

 第四案 タケオ

 第五案 ツェリン

の順序でのプレゼン予定であった。但しタケオが最後に到着したことでプロジェクターへの図面準備が最後になり、五番目のツェリンと前後してタケオが末尾のプレゼンターに変更されている。

 具体的な各案の概要の紹介に移る。

 

○第一案;責任者 二郎・F

 仮称;シールドフューラー

 コンセプト;帝国と共和国技術の融合(レオブレイズ設計の際に得たデータを応用)

 機体特性;

・CASの互換性を排除。

・全身にインタークーラーを装備し流体力学に基づき空気抵抗を減少。

・高速移動を主眼とするためバスタークローを撤去し軽量化。

・Eシールドを対ジャミングウェーブ障壁として利用。その際の放熱を担うためのインタークーラー活用となる。

・Eシールドへのエネルギー供給により集束荷電粒子砲の威力は減退するも格闘性は向上。

・ブロックスと接合できる統一規格のハードポイントを機体各所に設け、チェンジマイズによる柔軟な運用を可能にさせる。

 プレゼンの際の質疑応答記録;

問「CASを放棄するのは本機最大の特徴を無くしてしまうのではないか。またインタークーラー装備による装甲の脆弱化に作戦行動上支障がないか」

答「高速ゾイドであれば装甲の軽量化は必然。現在共和国の制圧圏が限定されCASを搭載したホバーカーゴの上陸が難しい以上ブロックスを動くCASと見做しそれに代える」

(以下略) 

 

○第二案;責任者 ベルナー・イズラエル・バラクリシュナン(※二郎と同期入社だが三歳年長。第一次中央大陸戦争時のデルポイ移民のワンエイス(1/8)、隔世遺伝により風貌に神族の特徴がある) 

 仮称;未定

 コンセプト;〝龍〟の系譜

 機体特性;

・CASの互換性を排除。

・共和国伝統のキャノピー式頭部を採用し視界を拡大。

・従来の装甲による間接可動域干渉を無くし素体の可動域を確保するため避弾経始も考慮した曲面装甲と新素材を採用し素体の運動性を向上。

・荷電粒子砲のみに頼ることなく格闘能力を重視。

 付;設計者コメント

「東方大陸住民に伝わる〝龍〟の具現化をイメージしたもの。自然現象さえ操る〝龍〟のように劣勢を挽回できるほどのゾイドになることを願っている」

 

○第三案 クヌート・ルンドマルク

 仮称;ヤクトフューラー・イミテイト

 コンセプト;生産効率の優先と支援攻撃機としての運用

 機体特性;

・重火器装備型CAS(通常型及びシュツルムユニットとの互換性あり)

・ガイロス帝国軍の試作CASを再設計することにより開発期間を大幅に短縮。

・ジャミングウェーブ到達範囲外より荷電粒子砲及び重火器による長距離支援砲撃により鎮圧。直接の制圧はシールドライガーなどの主力機が行う(あくまで支援戦闘に運用を限定。位置づけはカノントータスに準じる)。

※発表時、制限時間を大幅に残してプレゼンを終了する。

 

○第五案 チューキョン・ツェリン(※唯一の女性設計士)

 仮称;未定

 コンセプト;空戦用CAS

 機体特性;

・飛行型CAS。開発期間短縮のために東方大陸棲息の大型飛行ブロックスのマグネッサーウィングを利用する計画とある。

・上記理由によりブロックス統一規格のハードポイントを装備。

・形態としてアーケオプテリクス型ゾイドのシュトルヒに酷似するも、サイズはサラマンダークラスに匹敵。

・戦略爆撃実施後にCASを換装し地上戦にも対応可能。

 

 そして最後のプレゼンとなったタケオの第四案に関し、主任が記録したコメントが残されている。以下二郎による文章の引用である。

 

○第四案 タケオ・D

「プロジェクターに投影されたのは各所が奇妙な斜線で塗りつぶされた機体であった。装甲を蚕食されたような特異な図面で、斜線部分の注釈に〝レイ・エナジー・アキュムレイトモジュール〟の表記がある。当然私達の関心はそのモジュールに集中した。

 タケオの説明を列記する。

・加速された荷電粒子の奔流によって対象物を破壊するのが荷電粒子砲の原理であり、荷電粒子砲を装備する各ゾイドは機体のアクセラレイター(=粒子加速器)によって加速を行っている。

・ゾイドの限られた容積で充分な加速が可能なのは、荷電粒子に極めて強力な偏向を与える圧力がかけられているからであり、それを大規模に応用したものが反荷電粒子シールドである。

・反荷電粒子シールドの場合、荷電粒子の奔流を後方に受け流すだけだが、アクセラレイターの荷電粒子封じ込めの機能を応用し攪乱するのではなく吸収・蓄積する機能を持たせるのが、本案のコンセプトとなる。

・各モジュール周辺に偏向フィールドを発生させ、モジュールを介在し荷電粒子を吸収する。吸収した荷電粒子はフューラー本体のアクセラレイターに流入させこれを撃ち返すことを可能にさせる。

・吸収した荷電粒子の余剰分はアキュムレイターに蓄積することによりコンバーターの負荷を減少させる副次的機能も備える。

・偏向の際にフューラー本体のコアの負担を補う為、コアブロックスを二つ以上装備させる。

 つまり撃ち込まれた弾丸のヴェロシティをマイナスにして撃ち返すという信じ難い機能であり兵器である。公式の場での悪趣味なジョークにも聞こえる素案に一部で失笑が漏れたがタケオは気に留めることなくプレゼンを継続し最後に告げた。

『モジュールは鏡面の様に輝く筈です。従ってこの機体を〝シュピーゲルフューラー〟と仮称します』

 この第四案の実現可能性を巡りコンペの結論は持ち越しとなり、その場でネフスキー所長と検討した結果更に三日の猶予を得ることとなった」

 

 文書記録に記されているのは以上だが、記録紙の余白には無数の書き込みがあり二郎の興奮と動揺が垣間見える。結論こそ得られなかったものの開発計画にとって大きな指針を得られた事は確実であった。

 

 

 

 並べられた五つの図面を眺め、二郎は目の前のバーサークフューラーの素体を見上げていた。

 滑稽だった。

 まるで恋人の衣装を見繕うかの様だと。

 愛する者に何が一番似合うのかを選ぶのは楽しいものだが、その相手がゾイドであるという現実に失笑していた。

「今現在の僕の恋人は、間違いなく君なんだね」

 菜の花畑は衰えを見せず咲き誇っている。黄色い花弁に纏った雫に朝日が煌めく頃、二郎は大きく伸び上がり再び神殿へと歩いていく。二郎の事務所泊まり込みの日数も三日延長となっていた。

 


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