最近、小説の執筆がマイブームなレミリア。
ゆかりんネットワークを使って作品を投稿していたのだが、ふと一人で小説を書くよりも霊夢達と批評を交わし合いたいと思い立つ。
早速、咲夜に言伝を頼み、霊夢達に小説を執筆するように告げる。
ついでに、カリスマ吸血鬼としての威厳を見せてやろう、と一人ほくそ笑むレミリアだったが──

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カリスマ作家 れみりあ

「──全員、集まったようね」

 

 室内の人達を順々に見回したレミリアは、テーブルの上で手を組んだ。

 口元には不敵な笑みを張りつけ、自信満々の様子を見せつける。

 

「はぁ……で、今度はなにをさせるわけ?」

 

 嘆息したのを隠そうともせず、呆れた眼差しを送っている霊夢。

 他にも我が家のように寛いでいる魔理沙や、呼んでもいないのに何故かいる文など。

 複数の少女が、この場に揃っていた。

 霊夢の言葉を聞き、レミリアは大仰に肩を竦める。

 

「なにをって、貴女達は理解しているでしょう?」

「まあ、いきなりあんな事を言われればね」

 

 遡る事一週間ほど前。

 いつも通りの日常を送っていた霊夢達は、レミリアの遣いとして来た咲夜により、各々が自信作の小説を執筆して持ってくるように告げられたのだ。

 

 そう──小説である。

 

 当然、面倒くさい霊夢等はにべもなく断ろうとするのだが、力を入れた咲夜の手料理にあっさり釣られ、こうして何人かの少女は集まった。

 どこの世も胃袋を掴まれると弱い、と示す良い例である。

 

 改めて、レミリアはこの場に集う小説家達を見回す。

 まず目に入ってくるのは、気怠げに頬杖をついている霊夢。

 欠伸を漏らしている様子から見ても、この催しに興味がない事が窺える。

 

「まだしないのか、レミリア?」

 

 期待に満ちた視線を向けてくるのは、快活な笑みを零している魔理沙。

 全身からウズウズとした雰囲気が漂っており、この場で一番乗り気なのは彼女だとわかるだろう。

 

「次の文々。新聞に使えそうなネタで、大変嬉しいですね」

 

 そんな事をのたまう、幻想郷の文屋。

 面白そうなネタを嗅ぎつけると、こうしてどこからともなく現れる、まるで風のような少女だ。

 とはいえ、文自身もちゃんと小説を持参してきているので、これはこれで良いとレミリアは気持ちを切り替えた。

 

 その他、レミリアと愉快な紅魔館の住人。

 以上の者達が、レミリア主催の小説披露会のメンバーである。

 なお、他にもアリスや永琳等々知り合いには手当り次第声を掛けたのだが、諸々の事情によりこれ以上の人数は揃わなかった。

 ただ、永琳からだけは一つの作品を渡されたので、永遠亭からもエントリー作品がある。

 永琳本人は、ものすごーく不本意そうであったが。

 

「では、改めてこの披露会の趣旨を説明しましょうか──咲夜」

 

 口角の片側を上げ、華麗な指パッチンをしたレミリア。

 しかし、スカった。

 

「……」

 

 場の沈黙が痛い。

 白けた眼差しを送る霊夢から逃れ、レミリアは咳払いを落とす。

 

「咲夜。説明しなさい」

「かしこまりました」

 

 テーブルの上にあった食器が消え失せ、代わりにホワイトボードとスーツ姿の咲夜が現れた。

 普段のメイド衣装との違いに、魔理沙は首を傾げてレミリアに顔を向ける。

 

「なんで咲夜の服が違うんだ?」

「ああ。これは、妖怪の賢者から取り寄せてもらったのよ。なんでも、外の世界の作家達にはスーツ姿の秘書がつくらしいの。だから、まずは形から入ってみたわけ」

 

 ふふんと得意げに顎を上げれば、何故か霊夢が憐憫の表情を浮かべた。

 

「よりにもよって、紫が情報源とか……」

「知らぬが仏ってやつですね」

「まあ、いいんじゃないか? レミリアが楽しそうなんだし」

「さあ、咲夜。霊夢達に教えてあげなさい」

 

 微妙に居心地悪そうにしていた咲夜は、その言葉を聞いてホワイトボードに書き込んでいく。

 

「事の発端は、八雲紫に渡された一つのパソコンです」

「パソコンって、外の世界の機械だよな?」

「河童達から聞いた事がありますね」

「はい、そのパソコンです」

 

 デフォルメされた紫がパソコンを渡している場面が、咲夜によって描かれている。

 それを受け取ったデフォルメれみりあ。

 なにやらパソコンを弄っている絵が加わり、そしてその下に自分の作品を霊夢達に見せる、と書かれた。

 

「いや、その絵いるか?」

「口頭だけでも十分じゃないの?」

 

 呆れた表情を浮かべた魔理沙達を尻目に、レミリアはテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「という事で、理解したかしら?」

「すみません。まったくわかりませんでした」

「私も、今のはないと思うぜ」

 

 首を横に振る文を見て、レミリアはこれ見よがしに嘆息。

 

「はぁ……」

「なんでしょう。そこはかとなくバカにされた気が」

「まあ、いいわ。早速、始めるから。まずは、霊夢。貴女の作品から見せなさい」

「はいはい。適当に書いたからあんまし期待しないでよ」

 

 紙の束を霊夢から受け取り、レミリアの隣に並んだ咲夜。

 今回は、咲夜が小説の内容を朗読する事になっており、自然と彼女の方へと視線が集う。

 いつの間にかメイド服になっていた咲夜は、小さく咳を落としてから口を開く。

 

「では、僭越ながら拝読させていただきます──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:日常】

 

 

 

「平和ねぇ」

 

 縁側で茶を飲み、一息つく。

 今日も晴れで、暖かな日差しが地上に降り注いでいる。

 

「あ、セミだわ」

 

 視界を横切る、アブラゼミ。

 木の幹に張り付くと、ジリジリと鳴き声を上げ始めた。

 心なしか気温が高くなった気がして、まさに夏の到来を実感する。

 

「ふぅ……」

 

 湯呑みを傾け、緑茶を喉に流し込んでいく。

 こんな平和がいつまでも続けば、私としても心が穏やかになれる。

 

「ふぁぁ……ねよっかな」

 

 チリンチリンと風鈴が鳴り響き、辺りを涼やかな風が通り過ぎた。

 自然と心地よくなり、私は縁側で横になる。

 重くなる瞼に逆らわず、内心で平穏を噛み締めながら意識を落としていく。

 おやすみなさい。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「……普通ね」

「普通ですね」

「普通だな」

 

 咲夜の朗読が終わると、レミリア達の心境は一つに包まれた。

 色々と思うところはあるが、とりあえずは平凡という言葉に尽きる。

 

「悪かったわね、普通で」

 

 頬杖をついたまま、ふいっとそっぽを向いた霊夢。

 微かに頬を赤らめている事から、どうやら彼女自身も内容に関しては自覚しているらしい。

 

 普通自体は悪くない、とレミリアは思う。

 小説を書き始めて実感しているのが、こうした何気ない描写が難しいという事だ。

 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。

 五感と呼ばれるそれ等を使い、読者を物語の世界へと誘うのだが。

 実際に書いてみると、五感を駆使するのは至難の技だ。

 その点、霊夢はセミや風鈴の聴覚や、気温を感じた触覚、緑茶を使った味覚も表現している。

 

 なるほど、これはセンスがある。

 流石は、幻想郷の腋巫女だ。と、レミリアは密かに戦慄していた。

 私の前に立ち塞がるのね、と。

 

「いいわ。認めましょう。霊夢、貴女は私の好敵手になるに相応しいわ」

「……はっ?」

「ふふふ。やはり、霊夢は興味深い。吸血鬼としての本能も、こんなに滾っている……クックック」

 

 途中で、スイッチでも入ったのか。

 右手に妖力を集めていたレミリアは、控え目に言ってもカリスマってた。

 室内は軋んで悲鳴を上げ始め、飾ってある調度品にヒビが走る。

 霊夢達も自然と臨戦態勢を取っており、辺りに重苦しい雰囲気が漂う。

 

「お嬢様」

「……はっ、いけない。つい、一人で盛り上がってしまったわ」

「レミリア、あんたねぇ」

 

 呆れた素振りで肩を竦めた霊夢を見て、レミリアはバツが悪い顔で目を逸らす。

 

「さ、さて! 次は誰の作品を見ましょうか」

「次は私のを頼むぜ」

「魔理沙ね、いいわ。咲夜、お願い」

「承知しました」

 

 魔理沙から紙の束を受け取り、滔々と朗読を始めた咲夜。

 

「では──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:私の不思議で愉快な冒険譚】

 

 

 

 私の名前は、霧雨魔理沙。

 高校に通っている、美少女だ。

 何気ない毎日を過ごし、代わり映えのしない日常を謳歌している。

 普通に楽しみ、普通に友達と笑い、普通に家族と過ごして……。

 こんな平凡な日常が、毎日続くと思っていた。

 

 だけど、違ったんだ。

 私が知らないところで、刻々と非日常が近づいてきていたんだ。

 きっかけは、ある出会い。

 いつも通り学校から帰宅していた私の元に、一人の厳かな女性が現れた。

 

「霧雨魔理沙、ですね」

「あ、あなたは……?」

 

 見知らぬ人から声を掛けられた私は、自然と警戒して身構えていた。

 だけど、彼女はその様子を見ても意に介さず、淡々と手に持つ棒を突き出す。

 

「貴女は黒です。よって、私と一緒に異世界で罪を償っていただきます」

「えっ!?」

 

 驚く私の手を掴むと、彼女はなにやら呪文を唱える。

 すると、私達は出現した魔法陣に包まれ、この世界から消え失せた。

 

 こうして、私と閻魔様の贖罪の旅が、唐突に始まったのだ。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「……回答に困るわね」

「なんか、主人公の名前が魔理沙まんまだし」

「映姫様も出てきてましたねぇ」

 

 なんとも言えない表情で、レミリア達は互いの顔を見合わす。

 対して、魔理沙は自信ありげに胸を張っている。

 

「どうだ? 面白そうだろう?」

「まあ、霊夢さんのよりはマシですけど」

「ちょっと、それどういう意味よ?」

 

 ジト目で見やる霊夢に、文は曖昧に頬を掻いて言葉を返す。

 

「いやぁ……それ、聞いちゃいます?」

「……いや、いいわ。言い返せないし」

 

 山も谷もない作品と、初っ端から異世界へ行く作品。

 改めて尋ねるまでもなく、ほとんどの人が後者の方を読みたいと思うだろう。

 レミリアだって、霊夢のぐーたらな日常より……いや、それはそれで良いかもしれない。

 ともかく、魔理沙の冒険譚の方が、読みたい感想を抱いた。

 

「というか、これってどこから発想を持ってきたの?」

「ああ、それならレミリアと同じ。私も紫からパソコンを貰ってね」

「え、あんた機械とかややこしいの使いたくないんじゃなかったっけ?」

 

 霊夢がそう尋ねると、少し照れくさそうに頭を掻いた魔理沙。

 帽子のツバで目元を隠し、小さな声で告げる。

 

「ちょっと、こーりんと一緒にな」

「……ほほぉ?」

 

 瞬間、文の瞳がピカーンと光った。

 一瞬でペンとメモ帳を取り出し、好奇心が多分に含まれた口調で。

 

「その話、詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」

「ば、なに言ってんだ! 誰がお前に教えるかよ!」

「まあまあ、そう言わずに。私と魔理沙さんとの仲ではないですか?」

「言わない! 文にはぜぇぇぇぇぇったいに言わないんだぜ!」

 

 強情な魔理沙に、文は不満げに頬を膨らませる。

 

「珍しく頑固ですねぇ。こんなに面白……興味深いネタですのに。もったいない」

「言ったら新聞にない事ない事書くんだろ!」

「な、失礼ですね! 私は新聞には常に真摯に取り組んでいるんです! そんなパパラッチのような真似は決していたしませんとも!」

 

 そう告げているが、レミリアは知っている。文がパパラッチの性質を持っている事を。

 何故なら、レミリアがフランと喧嘩して泣かされた時に……いや、よそう。

 誰にでも、知られたくない秘密はある。

 だから、文にレミリアの泣き顔を激写された時、紅魔館と妖怪の山の全面戦争になりかけても、仕方ない出来事だったのだ。

 改めて思い出すと、ムカムカしてしまうレミリアなのであった。

 

「あんまり、人が嫌がる事をしてはいけないわよ」

「いやいや、これは必要なので──」

「しては、いけないわよね?」

 

 レミリアが笑みを浮かべると、文はタラリと冷や汗を垂らした。

 ぎこちない愛想笑いを零し、大人しく席に座り直す。

 

「──そ、そうですねぇ。人が嫌がる事はしちゃいけませんね」

「……あんた、レミリアに一体なにをしたのよ」

 

 この変貌には驚いたのか、僅かに目を丸くした霊夢。

 しかし、文は無言で首を振って拒否の意を示す。

 パパラッチの性質を持っているとはいえ、文の口は固い。

 そう、固いのだ。決して、文々。新聞の隅にレミリアの痴態を載せてはいないのだ。

 レミリア本人には気づかれていないので、結果オーライ結果オーライ。

 なお、瀟洒なメイドである咲夜には、ばっちりとバレた模様のようである。

 同時期に、不自然にメイド服のポケットが膨らんでいたが、その事と文の口の固さは関係ないだろう。

 

「それで、パソコンが発想の元だったわね」

 

 レミリアが話を戻す。

 その言葉に魔理沙が頷き、口元に笑みを描く。

 

「外の世界では、このパソコンを使った小説が沢山あるんだ。その中で、沢山の小説で使われている定番を取り入れてみたぜ」

「ふぅん。それがこの異世界?」

「そうそう。外の世界では、私のタイプを“てんぷれおれつえー”物って言うみたい」

 

 てんぷれおれつえー。

 なんと難解な言葉だろうか。

 横文字を使えば、なんでも良くなるとは思うな。

 無駄に横文字を使うと、読みにくくて読者に優しくないのだ。

 こっそりと紫のパソコンから小説を投稿していて、そんな感想が来て泣いたレミリアの実体験である。

 

「とりあえず、魔理沙は外の世界に近い作品というわけね」

「話からそうですね。……それにしても、二人とも微妙です」

 

 その言葉に、霊夢達は目を細めて文の方へと注目を集める。

 

「へぇ、そういう事を言っちゃうのね」

「じゃあ、次は自信がありそうな文の作品にしようぜ」

「いいですよー。少なくとも、お二人よりはまともな作品だと自負していますから」

 

 口角を吊り上げた文は、咲夜に紙の束を渡した。

 ペラペラとめくり、彼女は微かに目を見開いたが。

 直ぐに澄ました表情に戻ると、読み上げ始める。

 

「題名は──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:私が見た紅魔館】

 

 

 

 皆さんは、紅魔館をご存知だろうか?

 人妖の楽園、幻想郷の一角にある館の名前なのだが。

 いや、知っている人は多いだろう。何故なら、そこには有名な人物が沢山いるからだ。

 

 まず、なにより紅魔館と言えば。

 レミリア・スカーレットの名前が一番に挙がるだろう。

 彼女は吸血鬼であり、妖怪の中でも上位に位置する種族である。

 もちろん、彼女も吸血鬼に違わぬ強さを誇っており、著者である私が本気を出しても負けるかもしれない。

 

 外から見れば、怖い印象ばかり与えるレミリア氏。

 だが、彼女は皆さんの思うような、怖い方ではないのだ。

 実際に会っている私が断言するのだから、間違いない。

 とはいえ、言葉だけを募らせても、説得力がないと思われる。

 よって、私はここにレミリア氏の意外と可愛らしい部分を執筆する事にする。

 

 あれは、私が紅魔館に潜入した時だったか。

 いつも通り派手に突入する魔理沙氏に隠れ、私は居眠り門番に気づかれず、紅魔館に入るのに成功したのだ。

 その日はレミリア氏の弱……取材をしようと思い、彼女を探していた。

 音を立てずに歩いていると、不意に鼻に良い香りが入ってきた。

 当てもなく探す事に飽きていたので、私は匂いに釣られて厨房へと足を踏み入れる。

 すると、求めていたレミリア氏を見つけたのだ。

 

 レミリア氏はこちらに背を向けており、私の方からでは詳しい様子は窺えない。

 自然と沸き立つ、好奇心。記者としての魂、とでも言うべきだろうか。

 なにをしているのか気になってしまい、私は気配を殺してレミリア氏に近づく。

 彼女は手元でなにかをしていて、斜め後ろからのぞき込んでみた。

 

 ──プリンに、名前を書いていた。

 

 恐らく、メイドの咲夜氏が作った物だろう。

 質の良い食器に入っており、見たところ冷蔵して固めていると思われる。

 そんな容器に、レミリア氏は一生懸命名前を書き込んでいた。

 しかも、しかもだ。

 平仮名で、れみりあと書いていたのだ。

 

 私は静かに悶えた。

 紅い悪魔と呼ばれるほどの、カリスマ溢れる絶対者。

 そこらの妖怪からは畏怖の感情を向けられている吸血鬼が、平仮名で自分の名前を書いている実情。

 意外と、レミリア氏も皆さんと同じように可愛らしい部分があるのだ。

 この後は、レミリア氏に見つかる前に、私は身悶えながら逃げ切った。

 強敵であった……レミリア氏、恐るべし。

 

 どうだろうか?

 皆さんも、少しは著者の気持ちが理解できたのではないだろうか。

 もちろん、レミリア氏の可愛らしい部分は、これだけではない。

 次は、このプリンをフラン氏に食べられて泣いてしまった時のレミリア氏について語ろう──

 

 

 ♦♦♦

 

 

「あぁぁぁああぁぁぁぁあああッ!」

「お、お嬢様!?」

 

 カリスマ──崩壊。

 頭を抱えて仰け反るレミリアからは、先ほどまでの威厳に満ちた雰囲気を感じられない。

 

 何故、知っている。

 あれはレミリアと咲夜だけの秘密だったのに。

 どうして、文に知られているのだ。

 いや、待て。待つのだレミリア。

 これは、小説である。空想の物語である。登場人物のレミリア氏は、架空の人間だ。

 つまり──アレは私ではない!

 

 妖怪として卓越された頭脳を駆使して、刹那でそう結論づけたレミリア。

 直ぐに我に返り、優雅に足を組んで微笑む。

 

「な、中々よくできている妄想じゃない」

「いえ、これは私の実体験を元にした話なんですけど」

「そ、そんな事あるはずないわ。だって、私はプリンに名前なんて書かないし」

 

 声が震えるのは抑えているが、頬の痙攣は抑えられない。

 しかし、ここで表情を崩してしまえば、文の言葉を言外に認める事になってしまう。

 それだけは阻止しなければならない。

 このまま、カリスマ溢れる吸血鬼として、文達に見せつけなければならないのだ。

 

「レミリア……」

「その、なんだ。私も本に名前を書いた事あるし、気にするなって!」

 

 生暖かい目を向ける霊夢に、にっと爽やかに笑ってフォローする魔理沙。

 だが、残念ながら魔理沙の言葉は慰めになっていない。

 それに、魔理沙が名前を書いた本とは、もしかしなくともパチュリーから借りた魔術書だろう。

 前に本を取り返した時、本の中央にデカデカと魔理沙と書いてあり、激昂したパチュリーの姿はよく覚えている。

 むきゅむきゅと憤慨して、喘息と貧血のダブルパンチでノックアウトしたパチュリーに、紅魔館が騒然した出来事もよーく記憶に残っている。

 

「魔理沙。パチェが怒ってたわよ」

「……細かい事は気にするなって! 私は気にしないぜ!」

「いや、あんたは気にしなさいよ」

 

 ため息を吐いた霊夢だったが、彼女も大概ズボラなのを知っている。

 この前レミリアが神社へ遊びに行った時、親父臭い仕草の霊夢が──

 

「レミリア?」

 

 流石、博麗の巫女だ。

 レミリアの内心を的確に察して、牽制に睨んできたのだから。

 腋巫女侮れぬ。

 密かに慄いてから数瞬、レミリアは肩を落として文に声を掛ける。

 

「内容の是非はともかく、霊夢達よりよくできていたわ」

「……まあ、そうね」

「えー。私の小説も、中々良い感じだっただろ?」

「魔理沙のはなにかが違うのよねぇ」

 

 レミリアがそう呟くと、魔理沙は不服そうに口をへの字にした。

 

「これからが面白くなるんだぜ。ちーととかいう物を使って、世界を冒険するんだから。ちーとはパワーだぜ!」

 

 それはなにか違う。

 

「で、後はレミリアのだけ?」

「いえ、他にも紅魔館の皆が書いた小説があるわ」

 

 テーブル上にある紙の束を指差し、それを小分けにしていくレミリア。

 レミリア自身も中はまだ見ていないので、誰がどのような小説を執筆したか知らない。

 自然とワクワクしながら、一番上にあった紙の束を咲夜に渡す。

 

「これは、パチェのね」

 

 小説を流し読みしていた咲夜は、微かに頬を赤らめて口を開く。

 

「……本当に、読むのですか?」

「もちろんよ。せっかくパチェが書いてくれたのだから、読まなきゃ悪いわ」

「……なんだか、嫌な予感がしてきた」

 

 肩を震わせる魔理沙を気の毒そうに一瞥した後、咲夜は感情が篭らないよう読み進めていく。

 

「で、では──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:ドキッ、私と魔理沙の禁断の恋模様】

 

 

 

 ある日、いつも通り本を読んでいた私。

 静寂に包まれた空間で、本がめくられる音だけが反響する。

 だけど、直ぐに別の音が加わった。

 軽快な足取りがこの部屋に近づいており、やがてドアが開かれると元気な声が入ってくる。

 

「よお、邪魔するぜ」

 

 声の主である魔理沙は、この神聖な空間をズカズカと踏み荒らしていく。

 自然と眉尻が吊り上がるのを抑えきれず、私はぶっきらぼうな口調で言う。

 

「ちょっと、もう少し大人しく入ってくれない? 本が汚れちゃうでしょ」

「細かい事は気にするなって」

「細かくないんだけど」

「あー、もう。相変わらず、パチュリーは小姑みたいだな」

 

 やれやれだぜ、と言わんばかりに肩を竦めてみせた魔理沙。

 こ、小姑ですって!?

 私はただ、魔理沙に読んでもらう本が汚れないようにと思っただけなのに……

 

「酷い、酷いわ魔理沙!」

「お、おいおい。いきなり泣くなよ、パチュリー」

「知らない!」

 

 ふいっとそっぽを向き、魔理沙の視線から逃れた。

 表情には不機嫌の形相を張りつけているけど、心の中では自分の面倒さにため息をつく。

 

 本当は、素直に魔理沙と本を読みたいと言いたかった。

 私達以外誰もいない司書室で、ゆったりとした雰囲気を楽しむ。

 でも、早速魔理沙に酷い対応をしてしまった。

 

 ……嫌いになっちゃったのかな。

 魔理沙の顔を見られず、俯いて胸元に本を抱く。

 先ほどまでは好きだった静寂が、今はとてつもなく嫌になる。

 

「パチュリー」

「っ……な、なにかしら」

 

 私の方に影が伸び、すぐ側で魔理沙の気配を感じた。

 つっけんどんな返事をした私の頭に、彼女は優しく手を乗せてくる。

 

「ごめんな」

「あ、貴女が謝る必要はないわ」

「顔を上げてくれ」

「あっ……」

 

 赤子を持つような手つきで、私の顔を上げさせた魔理沙。

 慈愛を含んだ彼女の瞳と目が合い、思わず頬を火照らす。

 そんな私の様子を見て、魔理沙はゆっくりと顔を近づけていく。

 

「今から、私がパチュリーの悲しい気持ちを忘れさせてやる」

「ま、魔理沙……」

 

 自然と目を瞑った私は、これから訪れる幸福の感触を噛み締めようと──

 

 

 ♦♦♦

 

 

「あぁぁぁああぁぁぁぁあああッ!」

「ま、魔理沙?」

 

 突如、叫び声を上げた魔理沙に、霊夢は引き気味に身を引いた。

 頭を抱えて何度もテーブルに頭を叩きつけており、彼女の心境の乱れが窺えるだろう。

 

「コホン。続きを読みますか?」

「やめろッ! やめてくれぇッ!」

 

 魔理沙の精神に、よほどダメージが来たらしい。

 強い口調で拒否……いや、いっそ懇願とも言っていいほど、顔を上げた魔理沙の表情は必死だ。

 

 まあ、無理もない。

 自分の見知らぬところで、ラブストーリーのキャラにされたのだから。

 先ほど文に攻撃されたレミリアにとっても、深くふかーく同情できる思いである。

 

「あやや。これは強烈な作品が来ましたねぇ」

「なお、補足ですが。この後は濃密な性交描写が書かれており、パチュリー様の作品はいわゆる艶本となっております」

「余計な情報を伝えるなぁ!」

 

 哀れ、魔理沙。

 知識だけを無駄に溜め込んだ、パチュリーに好かれたのが運の尽き。

 大人しく、彼女に捕……添い遂げてほしい。

 結婚式の時には、友人代表としてスピーチを披露するから。

 と、魔理沙に合掌をするレミリアだった。

 

「ん、んん。魔理沙とパチュリーの恋愛は置いておいて」

「置いておくなよ、おい」

「作品内容に関して議論しましょうか」

 

 ジト目の魔理沙を無視した霊夢は、顎に手を添えて小首を傾げる。

 

「架空の物語だからか、現実のパチュリーと随分違ったわよね」

「ロマンチストのようでしたねー」

「色々と、ツッコミどころも多かったし」

「一応、拝読させていただいた私の私見を申しますと、パチュリー様の作品は読み手の想像を掻き立てる描写力が逸脱していました。心理描写にかけては、恐らくこの中で随一かと」

「実際に読んだ咲夜がそう言うのだから、間違っていないのでしょうね」

 

 流石は、パチュリーだ。

 本に関して彼女の右に出るものは、ほとんどいないだろう。

 活かされるのが艶本なのが、色々と残念ではあったが。

 

「とりあえず、こんなところね」

「霊夢が日常物で、魔理沙が冒険物。文のは……エッセイ風とでも言えばいいのかしら?」

「まあ、私の主観が多分に含まれているので、間違ってはいないかと。そして、パチュリーさんの恋愛……恋愛物?」

「どちらかと言えば、愛欲物じゃない?」

「どっちでもいい。私にとっては致命傷だからな」

 

 そう呟くと、魔理沙はテーブルに突っ伏した。

 あまりにも心が疲弊しているその姿に、レミリア達は追撃する気が起きない。

 ひとまず、強く生きてくれと無言で励ますのみであった。

 

「さて、次は誰のにしようかしら」

「私としては、そろそろレミリアさんの作品を読みたいですね」

「もったいぶっても仕方ないし、さっさとあんたの小説を見せなさい」

「……そうね。そろそろ貴女達に格の違いを思い知らせる時が来たわ」

 

 ふっと口元に弧を描き、全身からカリスマを迸らせ始めたレミリア。

 自然と場にシリアスな空気が満ち、霊夢達はどんな作品なのかと居住まいを正している。

 少女達から注目を浴びているが、レミリアは気にせず大仰に一つの紙の束を咲夜に渡す。

 

「咲夜。読み上げなさい」

「御意……あの、お嬢様。本当に、これでよろしいのでしょうか?」

 

 何故か問いかけてくる咲夜に、レミリアは肘掛けの上で頬杖をついて微笑む。

 

「あまりにも私の作品が素晴らしすぎて、霊夢達に見せるのを戸惑っているのね。……二度は言わない。読みなさい、咲夜」

 

 主に二言を告げさせてしまったからか、咲夜の表情に後悔の色が宿った。

 しかし、直ぐに決然とした面持ちになると、思いを込めて朗読をしていく。

 

「では──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:カリスマ吸血鬼、レミリアの優雅な日常】

 

 

 

 総てが赤に染められた部屋。

 鮮烈な色の部屋の中央で、一人の女性が佇んでいた。

 魔性を秘めた眼を愉悦に細め、倒れ伏すもう一人の女性へと微笑みかけている。

 

「クックック……無様だな、妖怪の賢者よ」

「くっ……まさか、此処まで力量に差があったとは」

 

 身体を伏せたまま、悔しげに呟きを漏らした妖怪の賢者。

 対して、皮膜上の羽根を揺らした女性は、其の涼やかな美貌に笑みを浮かべる。

 彼女の笑顔を見れば、老若男女問わず見惚れて膝を屈するだろう。

 否、寧ろ自ら進んで女性を拝むかもしれない。

 其れ程までに、女性の姿からは妖艶さが漂っていた。

 絹の如き流麗な蒼掛かった銀髪と、其れとは対照的な程真紅の双眸。

 口許から微かに覗かせる八重歯を考慮すれば、彼女の種族に察しが付くだろう。

 人間にとっては馴染み深く、又世界的にも非常に有名な妖怪。

 其の身体能力は鬼に追随し、宙を飛ぶ姿は天狗を想起させる如き速度。

 伝承では不老不死となっている──吸血鬼だ。

 誰もが知っている妖怪なのだから、斯うして彼女が勝つのは自明の理である。

 寧ろ、妖怪の賢者は良く持ったと讃えて良い。

 女性──レミリアはそう結論付け、優雅に妖怪の賢者の傍に近付く。

 歩く姿一つを取っても、艶やかさが乗る。

 全身から迸るその威圧感──正に、彼女にこそカリスマの言葉を贈呈するのに相応しい。

 

「言い残す事はあるか?」

 

 魅了の言霊が含まれる、レミリアの声。

 一言呟けば男が下僕と化し、二言目を告げれば女が同性愛へと性癖を変える。

 彼女が言葉を発する度に、総ての生物が一二もなく耳を傾けるであろう。

 然し、眼前の妖怪の賢者は、レミリアの声を聞いても眼に畏怖を宿さない。

 只、敵意に満ちた眼差しを、彼女へと送るのみ。

 

「わたくしを倒しても、第二第三のわたくしが貴女を討伐せんと訪れるでしょう」

「──はっ!」

 

 妖怪の賢者の言葉を聞き、哄笑を飛ばしたレミリア。

 大層愉快であると示す様に、只々顔を覆って笑い声を響かせて行く。

 俯いて詳しい表情は窺い知れないが、レミリアの全身からは覇気が放たれていた。

 室内には巨大な亀裂が走り、其の強大な威圧感に妖怪の賢者は冷や汗を垂らす。

 只笑うだけで敵を圧すレミリアは、矢張りカリスマ吸血鬼と呼ぶに相違ない。

 否、最早カリスマを越えた吸血鬼だ。

 総ての生物は本能に従い、レミリアの下に付いて手脚の如く動くだろう。

 其れ程までに、彼女の存在は神懸っていた。

 

「クックック……面白い。戯れに貴様を下してみたが、存外と良い拾い物をした様だ」

「其の余裕が何時まで続くか見物ですわ」

「続くさ──其れこそ、永遠にな」

 

 三日月状に口許を歪め、八重歯を光らせたレミリア。

 表情の変化一つを見ても、其の気品と厳かさは損なっていない。

 最早、天に遍く太陽ですら、レミリアの威容に白旗を振るしかない筈だ。

 

「……流石は、紅い悪魔(スカーレットデビル)。噂に違わぬ強さですわ」

「ククッ、妖怪の賢者は其れ程でもなかったがな」

 

 そう告げると、レミリアは妖怪の賢者に侮蔑の視線を送った。

 貴様の強さは期待外れだ、と言外に示す様に。

 其の眼には思う所があるのか、妖怪の賢者は瞳に剣呑の色を宿す。

 

「ふっ!」

「おっと、危ない危ない」

 

 能力を行使でもしようとしたのだろう。

 然し、レミリアには総てお見通しであり、直ぐ様妖怪の賢者の動きを封じる。

 カリスマ吸血鬼に掛かれば、相手の能力を封印する事等訳無いのだ。

 

「くっ……!」

「さて、そろそろお開きにしよう」

 

 不敵な笑みを浮かべたレミリアは、己の力を解放して行く。

 彼女の力に呼応して、部屋全体が──否、この星其の物が震え始める。

 余りの威圧に、妖怪の賢者は戦慄した表情で気を失う。

 

「さあ、その身に刻め──」

 

 

 

 ──〈神槍:スピア・ザ・グングニル〉

 

 

 

 此の瞬間、星の歴史に新たな一幕が書き込まれた。

 以降、総ての生物は彼女に平伏し、そして永遠なる紅い月が耀く。

 真紅の満月を背に背負う圧倒的覇者。

 其の名も──

 

 

 ♦♦♦

 

 

「……」

「……」

「……」

「も、申し訳ありませんお嬢様……私には、もうこれ以上読む事ができません」

 

 ハラリと涙を流した咲夜は、苦渋に満ちた面立ちで紙の束をテーブルに置いた。

 霊夢達はなにを言えばいいかわからないのか、様々な感情が入り混じった表情を浮かべている。

 対して、レミリアは白目を剥いて硬直していた。

 

 端的に表すと、提出する作品を間違えたのだ。

 先ほど咲夜が読み上げた小説は、レミリアが初めて書いた話である。

 空想上なので自分のやりたいような内容をこれでもかと詰め込み、結果として今のような非常に痛い内容になってしまう。

 ちょっと遅い、厨二病である。

 

「い、色々と強烈ね」

「あやや。流石に、私でもなにも言えません」

「ふぅん……なんか、難しい漢字ばかり使って読みにくいな」

 

 レミリアの小説を手に取り、めくりながら読んでいる魔理沙。

 時折くっと頬が上がりそうになっており、同時にバツが悪そうに眉根を寄せている。

 どうやら、レミリアの痛々しさが面白いのだが、自分にも心に来ているらしい。

 既に厨二病を卒業していたとしても、他人の黒歴史を見てしまうとダメージを受けるものだ。

 

「うふふ」

「っ! 誰だ、今笑ったのは!?」

 

 魔理沙が慌てた様子で目を走らせると、霊夢がさり気ない動作で顔を背けた。

 しかし、やはり博麗の巫女は伊達ではない。

 従来の勘の良さを駆使する事で、魔理沙からの追求を逃れたのだから。

 頻りに霊夢達を睨む魔理沙を尻目に、咲夜は優しい手つきでレミリアの身体を揺する。

 

「お嬢様、お嬢様。お気を確かに」

「……はっ!」

「お目覚めですか、お嬢様?」

「ええ、もう平気よ。ありがとう、咲夜」

「もったいなきお言葉です」

 

 慇懃に頭を下げる瀟洒なメイドを見て、レミリアは自分が気絶する前の出来事を思い出した。

 黒歴史、暴かれ、カリスマ崩落。

 

「あ、あ、あ、あ、あれは私の処女作だからっ! 決して、今もあんな話を書いてなんかいないからねっ!」

「ふむ。次のレミリア氏の話は、これでも良さそうですね」

「あ、貴女!? 正気、正気なの!?」

 

 いきり立つレミリアに、文は肩を竦めて営業スマイル。

 

「いいではないですか。このレミリアさんを見せれば、きっと人里で人気者になれますよ。

 紅魔館の吸血鬼、レミリアちゃんのとっても楽しいお話って感じで」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁっ!」

「あ、やば」

 

 怒りが臨界点を超えたレミリアは、椅子を蹴飛ばして文に突貫。

 しかし、やべーっとテヘペロした彼女が羽ばたいて逃げた事により、文字通り鬼ごっこが開始された。

 ドアを突き破って去った妖怪二人を尻目に、咲夜に紅茶のお代わりを貰った人間二人が、残りの小説を手に取る。

 

「他のも見てみようかしら──」

 

 

 ♦♦♦

 

 

【タイトル:魔法少女✩マジカルゆかりん】

 

 

 

 わたしは八雲ゆかり。

 普通の小学生……って、言いたいんだけど。

 実は、わたしにはみんなと違うところがある。

 きっかけは、ある出会い。

 学校を帰っていると、突然知らない女性から一本の杖を渡された。

 

「えっと?」

「貴女は白です。よって、今後は魔法少女として人々を助けなさい」

「へ?」

 

 びっくりしている間に、その女性は消えてしまう。

 こうして、なんだかよくわからないけど、わたしの魔法少女物語が始まったのである。

 

 貴方の心のスキマにマジカル✩ゆかりん!

 みんなのために、わたし頑張ります!

 だけど、そんなわたしにライバル登場!?

 

 次回、魔法少女✩マジカルゆかりん、えーりんちゃんの変貌。

 

「ゆかりちゃん──死んで?」

「えぇ!?」

 

 一体、わたしはどうなっちゃうの!?

 

 

 ♦♦♦

 

 

「あんたの頭がどうなってるのよ」

 

 額に手を添えた霊夢は、今の話を見なかった事にした。

 無言で紙を閉じ、そっと遠くの方に置く。

 

「レミリアもいなくなったし、お開きか?」

「そうね。他にも何個か残ってる作品があるけど、それもレミリアがいた時ね」

「今日はお嬢様から泊まっていくように仰せつかっているわ」

「お、そりゃいいな」

 

 快活に笑う魔理沙を見て、咲夜はからかい混じりの笑みを浮かべる。

 

「パチュリー様も、魔理沙に会いたがっているわよ」

「……おおぅ」

「魔理沙、頑張って」

 

 霊夢がぽんと肩を叩くと、魔理沙は呻き声を上げて項垂れた。

 こうして、数名の少女に心の傷を負わせた小説披露会は、ひとまず幕を下ろすのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 なお、これは余談だが。

 美鈴の実体験を元にした格闘バトル物や、咲夜の従者愛に溢れたレミリアとフランのほのぼの昔話。

 他にも、輝夜のえーりんとの秘密の実験等々……。

 様々な小説があったが、結局投票で一番に輝いたのは──

 

「ふふん。お姉様はまだまだね」

 

 紫が創った優勝トロフィーを持った少女は、得意げに笑みを零した。

 ピコピコと七色の羽根を揺らし、机の上にある小説を見つめる。

 

「まあ、お姉様の真っ赤な顔が見られたし、満足かな」

 

 机にトロフィーを置いた後。

 小説を手に取ると、少女は優しく微笑んでタイトルをなぞるのだった。

 

 

 

 ──【タイトル:私のお姉様】

 

 

 

 

 



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