……他の話に比べてすこし長いです(普段2000〜300程度、今回4000超え)
6番目のアフターグロウ特別編
「まったく、まさか潜入させられることになるとは…」
僕は天野翼。友希那やリサと幼馴染みの高校一年生。
で、今何やってるのかというと……
__友希那の制服を着て、夜に羽丘女子学園に潜入、ピアノの調律をしています。
……大半の人が、「は?」ってなったでしょう。変態、とも思われるかもしれません。
しかし、ちゃんと訳があるのです。
時は数時間前に遡ります__
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*****
今日は友希那の学校の登校日だった。のだが、、、
「友希那、どうしたんだその声!」
「ちょっと翼、どうしたの?」
「声が半音ズレてる!」
帰ってくるなり歌声が半音ズレていた。
原因を尋ねると、ひとつ心当たりがあるらしい。というのも……
「今日、学校のピアノで声合わせをしたのよ。きっと、それが原因ね」
「学校のピアノが合ってないんだな、、、」
調律くらいちゃんとしろよ羽丘女子学園!
思わず頭を抱えた。
「……翼」
「どうした?」
「学校のピアノ、調律してくれないかしら」
……え?
突然の依頼に、思わず目をぱちくり。
だって、色々と問題がある。
「つまり、羽丘女子学園に行って学校のピアノ調律してこい、と?」
「えぇ、そうよ」
「……男の僕に、羽丘
「えぇ、そうよ」
……門前払いな気がするんだけど。
「もちろん、そのまんまいかせるわけにもいかないわ。そんなことしたらすぐに捕まるでしょ?」
「え、ならどうするの?」
「…そ……わ…せ……く……て……けば」
「……なんて?」
なんか急に小声で話し始める友希那。顔が赤いところをみると、恥ずかしがっているのだろうか。
「えっと、だから、その、つまり
……わ、私の制服着て、女装するのよ。これで、中に入っても大丈夫よ」
「え?けどそれって、、、」
「まさか、匂い嗅ぐような変態じゃないわよね?その辺は信用してるんだから」
……まぁ、そんなことするような奴に自分の着ていた制服なんて渡さない。考えてみれば当たり前だ。
「それに…あのピアノには今までお世話になったし、これからもお世話になるから。学校で練習する時、良く使ってるのよ」
「うーん……確かに、ずれたままだと困るね。わかった、やってみる。」
そういった事情があるなら、断るわけにもいかない。
「じゃあ、頼んだわよ。翼」
「うん、わかった」
というわけで、友希那の制服を借りて、バレないようにヘアピン等でおめかし。
もともとヘアスタイルがショートヘアで、茶髪なので、割とかんたんにそれっぽくできた。
声も、女性が出す声色に合わせておく。
ちなみに、それを見た友希那は
「……翼ちゃん」
「はーい☆」キュピッ
「……あなたの頭の中の女の子ってアイドルしかいないのかしら」
仕方ないじゃん!
友希那やRoselia、バイトの先輩くらいしか女の子出会わないから、アイドルくらいしかみてないもの!
……ともかく、翼くん改め翼ちゃんは放課後の羽丘学園に忍びこんだのであった!
*****
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ピアノを直して、あとは脱出するだけだったんだけど。
「…駄目だ、昇降口にはすでに鍵がかかってる」
はい、詰んだ!
さて、ここからどう脱出しようか悩んでいると、なにやら人の気配が。
「ねぇ、君どうかしたの?もしかして、迷子?」
そんな声がかかったので、後ろを振り返ると黒いセーラー服を来た黒髪ツインテールの女の子がいた。
「はい、迷子です。というか、あなたはだれ?」
「…………え?」
いや、突然口をあんぐり開けられても、、、
「私の事、みえてるんですか?」
「はい、見えてます」
「本当!?わーい!やったやった!」
なんかぴょんぴょん跳ねるくらい嬉しいらしい。
「ねぇねぇ、お話ししよ!」
「うん、してもいいけど、僕はここから出ないといけないんだ。だから、、、」
「わかった!お姉ちゃんがここから出してあげるよ!ついてきて!その代わり、いっぱいお話しましょ!」
「わわっ!?」
女の子に手を引かれ、駆け出していく。
しかし、その先に灯りがみえた。つまり、だれかいる。
「ストップ、ストップ!」
「どうかしました?」
慌てて手を引引っ張って女の子を止める。
「実は、訳あって他の人に僕の姿を見られるわけにはいかないんだよ」
「なるほど。つまりあの娘たちに見つかるわけにはいかない、ということですね」
「そういうこと」
よくよくみると、たしかあれはアフターグロウというバンドの娘たちだ。
なんか、妙にビクビクしているのは怖いからだろうか。
……しかし、あの巴すら怖がるとは。意外な一面を垣間見たな。
って、そんな場合じゃない。彼女たちはこの学園の生徒。顔バレしたら即アウトだ。それに、巴にいたってはRoseliaでよく練習風景を撮影するあこの姉だから、僕の顔と名前を知っている可能性が高い。
「フフフ、それならお安い御用よ!」
「なにか、策があるんですか?」
「もちろん、イタズラするのよ!私、訳あって普通の人には姿がみえないから!」
「えっ!?」
一体、何をするのだろう。何故か、不安になった、、、
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なにやら、階段でもめている。どうやら、階段の数を数えるらしい。怖いのに、なぜわざわざそんなことをするのかは僕にはわからなかった。
ちなみに、お姉ちゃん(他に呼び名が思いつかなかった)はアフターグロウのすぐ横にいる。というのに、誰も気がつく様子はない。
「フフフ。さぁて、イタズラ開始よ!」
アフターグロウの人たちは階段を数えている。
そして、階段を数え終わったあと…
お姉ちゃんが、「13!」と、巴の声で叫ぶ。
なぜ怖いのかよくわからないが、効果は抜群だったようで、みんな怖がっている節があった。
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「へぇ、意外!友希那ちゃんと知り合いなんだ!」
「お姉ちゃんも、友希那のこと知ってるの?」
「もちろんよ!いつも、歌の練習ばかりしていてね。すごく頑張ってるわ。ただ、ここ最近すこし喉の調子が悪い気がするわ」
「……また、大根はちみつのど飴つくってあげようかな」
途中、お姉ちゃんの要望どおりお話をした。
(名前を聞いても答えられないようだったので、なんて呼べばいいのか聞いたら『お姉ちゃんって呼んで!』っていわれたので、お姉ちゃんと表記する)
何故バレてはいけないのかということ、僕は本当は男で女装していること。ピアノを調律したこと。そして、友希那のこと。
お姉ちゃんはどの話しも親身になってきいてくれて、決して僕のことを笑ったり罵ったりはしなかった。
ちなみに、いまはバレないように先程調律したピアノのある部屋に隠れていた。ゆっくりはなすならここがいい。と、お姉ちゃんに言われたからだ。
と、考えていた時だった。
突然、歌声が聞こえて来た。
『くらくら〜いあうと♪くらくら〜いあうと♪』
これは、確か彼女達の持ち歌だったな。
『不器用でも足掻いて進んで♪』
ちょくちょくハワイロールってネタにされるが……
『一ミリも無駄なんてない足跡残すから♪』
いい曲だよなぁ……
『そうさ♪』
「フフフ、歌には音楽よね!ピアノを奏でましょう!」
「え、この曲しってるの?」
「もちろんよ!この曲、あの子たちがこの学校でよく練習してるもの!」
お姉ちゃんが引くピアノは、とても上手だった。ピアノの腕なら、燐子にも引けを取らないのではなかろうか。
しかも、短調にアレンジされている。暗くて怖い感覚が夜という周囲の状況と相まって……とても、良い音だ。
「あれ?ピアノの音、直ってる?」
「僕がさっき言ったじゃん。僕がそのピアノ直したの」
「そ、そうなんだ、、、」
なんて、話していると、外からアフターグロウの人たちの悲鳴が上がる。
それを聞いた少女はクスクスと笑っていた
「面白いわね、あの子達の反応!あそこまでイタズラしがいのある子達ははじめてだわ!それに、私の事が見える子も始めて!なんだか、今日はとっても面白い日だわ!」
「……ねぇ、お姉ちゃん。ちゃんと脱出できる?」
「……ええ、大丈夫よ!お姉ちゃんに任せなさい!」
なんだろうか、この不安は。
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灯りを探したには、二人しかいなかった。そのうち一人は見かけたことがある。たしか、喫茶店の女の子だ。
「……あれ?」
やべっ!?目があった!
慌てて、物陰に隠れる
「どうかしたの?」
「つぐー、この鏡の前立ってくれる?」
「モカちゃん?一体、何を、、、」
「……今、つぐがこの前を通り過ぎたとき、明らかに鏡につぐじゃない人が鏡に写ってたんだよね」
「えっ!?モカちゃん、それ冗談だよね?」
女の子が振り返ったタイミングで、突然背中をどんって押された。
ふと先程いた場所をみると、お姉ちゃんがクスクスと笑いながらそこにいた。
「あっ!また写った!」
げっ!見られてる!
慌てて、また物陰に隠れた。今度は押すような真似をしない。
「…………!」
「つぐが振り向いた瞬間、また……」
「いやあーーーー!!!!」
この悲鳴に、お姉ちゃんは腹を抱えてのたうち回っていた。
「アハハハハハハ!面白い、面白いわ!なによ、あの悲鳴!傑作だわ!」
「ちょっと、罪悪感が、、、」
「でも、この悲鳴は翼くんがいないと聞けなかったわね。ありがとう、翼くん。おかげで、今日は最高の夜になったわ!」
「う、うん。どういたしまして、、、」
あれ、僕名乗ったっけ?
「ここまでしてくれたんだもん。ちゃんと責任持って貴方をここから出してあげるわ!」
「わわっ!?」
そのまま、僕はお姉ちゃんに手をとられそのまま駆け出していく。
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*****
体育館。
まだ、誰もいない。僕とお姉ちゃんの二人っきりだ。
「今日は、最高に楽しかったわ!でも、もうおしまい。フィナーレよ」
「僕の方こそ、ありがとうございました。おかげで、僕もなんだかんだで楽しめました!」
「それはよかった。でも、もうお別れよ」
誰かがやってきた。アフターグロウの人たちだ。
すると、突然お姉ちゃんは駆け出して、アフターグロウの人たちのもつ懐中をいじりだした。そして……
「うわっ!?」
懐中電灯が、壊れた。あたりは暗闇に包まれる。
「大丈夫、すこし接触を悪くしただけだよ。すぐに直るから」
ふと、耳元でお姉ちゃんの声がした。そして、また突然手をとられ、僕とお姉ちゃんは駆け出していく。
そのまま、お姉ちゃんの声が前から聞こえてきた。
「何度も言うけど、今日は本当に楽しかったわ。あなたやあの子達のおかげよ」
__僕も、楽しかった。
そう言おうとしたが、何故か声が出ない。
「あの子達は、私が後で責任を持って外にだすから、あなたは先に帰っててね。私のピアノも直ったし、色んなイタズラもできたし、私は満足。正直、外に出すだけなんてお礼として足りないと思ってるくらいよ。
だから、これが、本当に最後」
風を感じる。が、視界は真っ暗なままだ。
お姉ちゃんが、手を離したのだろう。握られていた感触がいつの間にかなくなっていた。
視界が真っ暗な僕はその場に立ち止まるしかない。
__いや、気配は感じるが、体をピクリとも動かせない。
『金縛り』という単語に、行き着いたその時だった。
突然、頬に柔らかい感触がした。
そして、耳元からお姉ちゃんの声が聞こえる。
「翼くん。私を楽しませてくれて。そして、私のピアノを直してくれて。どうもありがとう。そして、さようなら」
お姉ちゃんが言い終えると同時に視界が開ける。
……ここは、羽丘女子学園の校門のようだ。
今日は満月。月の光が辺りを照らしている。
僕は、もはや聞き慣れたアフターグロウの人たちの悲鳴を背に、一人こっそりと友希那の家へと帰るのだった。
幽霊だって、可愛ければ怖くない!
…………はず。