昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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ネタバレ回。



裏返ったり、ひっくり返ったり

 

 月での生活は億単位で続いた。

 外敵らしい外敵は居らず、日々進化を続けるハイブリット生物たちと、変化を続けるアラガミたちを眺めたり捕食したりおちょくったりして、ジュラシックパークも真っ青な大恐竜時代を過ごし、更には文字を起こす知的生命体まで出現した。

 そいつらは人間より繁殖力が低く、そして縄張り意識が強かったために必要以上の範囲を侵略することなく、良い感じに発展していった。

 

 俺とシオとリンドウとレンの事も目撃されていて、ただそいつらは人間らしい形じゃあ無かったために同族とは思われず、アラガミの一種として……それも原初のなんたらっていう仰々しい名前までつけられて、それからも長い年月を生きていた。

 互いに不可侵。俺達もわざわざそいつらのテリトリーに行ってまで狩りをする事は無いし、そいつらもこっちをカミだのなんだのと崇めて近寄ろうとしない。

 

 まぁ何が言いたいかと言えば、知的生命体が出現してもなお、俺達は脅かされることなく生きていたんだ。

 

 

「けど、俺達は死んだ。だからここにいる」

 

「……うー? シオ、死んだのかー?」

 

「そういや俺……なんで死んだんだったかね……」

 

『僕も覚えていませんね……サマエルさんは覚えているんですか?』

 

 

 煉獄の地下街で話を続ける。

 ちなみにコンゴウ(ざこ)とコクーンメイデンはピターにあげた。この前の駄賃だ。雨宮リンドウは微妙な顔をしていたが。

 

 

「覚えてない。けど、それらしいものは見た覚えがある」

 

 

 思い出す。

 それは何の前兆も無い、いつもと変わらない狩りの時間。

 ゴッ、という大爆音と、一瞬で真っ暗になった視界。

 

 そこで記憶は途切れ、気付けばこの身体だ。

 

 

「えーと、えーと……むー、思い出せないぞー?」

 

『大きな音と突然の暗闇……それだけじゃ、なんとも言えませんね』

 

 

 あぁ。

 だが、アタリもついている。

 

 

「なんだよ、答え出てるんじゃねぇか……お前さん、つくづく人間らしくなったなぁ」

 

『あは、リンドウもそう思うかい? それで……アタリっていうのは?』

 

「キィ……あぁ、多分なんだが――」

 

 

 俺がそれを話そうとした、その時だった。

 

 突然、ビービッ! と腕輪が鳴ったのだ。

 

 

「……そういや特務中だったな。作戦行動制限時間5分前……だってさ」

 

『戻りますか?』

 

「あぁ。とにかく、だ。俺は月へ行くつもりはない。で、アーク計画も成功させる気はない。シオをコアに使うなんて言語道断だし、雨宮リンドウ、お前も使わせない。だからまぁ、適当に逃げててくれ。レンは俺と一緒だ。じゃないと、騒ぎになる」

 

 

 シオを離し、雨宮リンドウに向き直る。

 今のノヴァの母体は素材がほぼ集まっていない、スカスカの状態だ。

 俺達アバドンが文字通り血肉とならない限り、例え特異点のコアがあったとしてもノヴァ足り得ないだろう。

 

 流石にソレはヨハネス・フォン・シックザールもわかっている。

 だからこうして俺やソーマ・シックザールが特務に出ているのだし、神薙ユウが第一部隊のリーダーになれば奴も駆り出されるだろう。

 

 

「シオ、ノヴァの母体はお前を呼んでるか?」

 

「う? ううん、呼んでないぞ! アレ、いらないって!」

 

「雨宮リンドウ、お前さんはエイジス島になんか感じるか?」

 

「いや……感じねえ。ありゃハリボテも良いトコだろ……それよか、ちと腹が減ってきたな……」

 

「ん、探して――ってあぁ、今はそこまで耳良くないんだった……あー、じゃあ俺は退散するから、狩りに行ってきな。レン、行くぞ」

 

 

 地球はアレを欲していない。

 というより、消してほしいとさえ思っている。

 ノヴァの母体と、ヨハネス・フォン・シックザールさえも。

 

 

『はい。ではリンドウ、シオさん。また今度』

 

「おー! またなー!」

 

「あぁ……また、な」

 

 

 

 

 

 

 

 帰路に着く。

 ヘリは無い。歩いて帰る。

 段々、分かってきた。

 

 俺がやるべきことは最初からわかっているけれど、この世界がどういう場所であるのか――何故、GOD EATER BURSTやGOD EATER 2の世界からGOD EATER RESURRECTIONの世界へ移行したのか。

 前とここで、何が違うのか。

 

 

『……それで、アタリというのは?』

 

「ん? あぁ……簡単な話だよ。なんで俺達が過去の……というか、前の記憶を持っているのか。それは素材が記憶していたからだ。覚えあるだろ? お前さんは特に、さ」

 

『感応現象……ですか?』

 

 

 そう。

 人の想いを増幅して力にする現象――感応現象。

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラと神薙ユウの間に起こった記憶の再生や、レンが雨宮リンドウの中で起こした追憶の再生。

 これらはただの人間が起こし得る現象ではない。

 オラクル細胞あっての――”意志”に馴染んだオラクル細胞同士が触れあってこそ起こる現象だ。

 

 他、例えば世界を終える者の残滓であったり、世界を拓く者の残滓であったり、残滓という名の記録の再生もオラクル細胞あってのこと。

 そも、アラガミは考え、変化し続けると共に……形状を記憶している。

 よりよい形質を残し、さらに捕食に適した形へ変化するのがアラガミだ。

 記憶する、という点において、オラクル細胞は最も優れていると言えるだろう。

 

 

「感応現象による記憶の保管はオラクル細胞が起こす唯なる現象だ。つまり、前の記憶はオラクル細胞に保管されていたものなんだよ」

 

『……でも、それはおかしいんじゃないですか? だって僕達が死んだのは月で――ここは地球。月のオラクル細胞が、どうして地球に?』

 

「その前提が違うんだよ」

 

『? ……どういう』

 

 

 すっかり暗くなった空に浮かぶ青い星(・・・)を見上げる。

 そしてソレを指差し、

 

 

 

 

 

「あれが地球で、」

 

 

 

 地面を足で叩き、

 

 

 

「これが月だ」

 

 

 

 

 そう、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「些か時間がかかり過ぎではないかね?」

 

「すみません。何分、暑かったもので。それと、帰りの時間を考慮していませんでした」

 

「……そうか、ヘリを手配しないと伝えていなかったのはこちらのミスだな。以降は気を付けるとしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー」

 

 いやはや。

 ヨハネス・フォン・シックザールは、素晴らしい上官だな。

 積極的に自身の非を認めていくスタイルは、なるほど支部長に上り詰めるだけはある。

 そもそも雨宮リンドウの暗殺にしたって雨宮リンドウが勘繰りを入れたからだしな……ヨハネス・フォン・シックザール自身は人類の為だけに行動していた点を見ても、人間種族にとってヨハネス・フォン・シックザールはかなりの星なんじゃないかと思える。

 

 

『お疲れ様です。人間はやっぱり疲れますか?』

 

「ん。……まぁ、そうだな。睡眠が必要なのは不便だが……思ったよりいいものだぞ。微睡ってのは」

 

『それで、話の続きをお願いします。あはは、なんだかワクワクしているんですよ……不思議な感覚ですね。僕もリンドウやサマエルさんに毒されちゃったのかな?』

 

 

 アナグラへ到着してしまったので一度切っていた話。

 俺が仰向けに眠るベッドに馬乗りになって聞いてくるレンの瞳は、いつぞやのシオのように好奇心に満ち溢れていた。

 疑似”人”格とはよく言ったものである。

 

 

「続きって程話す事も無いけどな。ここは月で、あっちが地球。俺達を記憶していたオラクル細胞は惑星間を移動したんじゃなく、元からここに在ったんだ。やけに聞こえやすくなった地球の意志も、月の意志だったなら納得だ。月が乳幼児の頃から一緒に居るみたいなもんだからな」

 

 

 親和性はアッチより高いだろう。

 

 

『君が聞いた轟音と、突然の暗闇は?』

 

「それもオラクル細胞。地球のオラクル細胞だよ。俺達は気付いてなかったけど、月はかなり大きくなってた。超質量のオラクル細胞のおかげで引力も馬鹿にならない程に強くなってた。それこそ、地球を超えるくらいにな」

 

 

 そして、超えた後のサロス周期――月が地球に最も接近する周期のその日に、それが起こったんだ。

 

 

「地球の地表もまたオラクル細胞だ。それも、あれだけ大きい星を覆う程の。だが、度重なる終末捕食によって地中のオラクル細胞が噴出と埋没を繰り返した結果、結合が弱くなっていたとすれば」

 

 

 果物の皮を剥いた後に貼り付け、更に剥いて貼り付けていた所に超強力な掃除機登場。

 皮は物凄い勢いで果実から離れ、吸い込まれていきました。

 

 

『月の地表に、地球のオラクル細胞所以の地表が落ちてきた……と?』

 

「勿論全部じゃあないだろうけどな。だがここまで同じ文明、同じ歴史を繰り返すくらいだ。地球のオラクル細胞による記憶の保管が手助けしたとしか思えん。プレデターフォームの充実だって、地球の頃より豊満なオラクル細胞が可能としているんだろう。元地球のノヴァの母体と地球で起きた終末捕食の2つ分があるんだから」

 

 

 ラケル・クラウディウスが起こしただろう、ソレ。

 俺のもう一つの記憶にある神威ヒロが同じことをしていたのなら、もっと多いかもしれない。

 

 

『いや……それが本当なら、凄い話ですね』

 

「月からしてみりゃたまったもんじゃないだろうけどなぁ。折角楽園を築いたってのに、地球から厄介ごとを記録したオラクル細胞が落ちてきて、案の定世界が荒廃しちまったんだ。ハイブリット生物も月のアラガミも、あの知的生命体もぜーんぶ地面の下。台頭してきた人間とかいう生物が我が物顔で世界を荒らす……滅ぼしたくなる気持ちもわかるだろ?」

 

 

 だから俺が遣わされた。

 病巣になってくれと。癌になって、全体を滅ぼしてくれと。

 

 

『ということは……探せば、あのビール工場もあったりするのかな。僕の昔の身体とかも』

 

「さぁなぁ。ビールタンクの方は地面を掘りまくればあるいは……だが、お前さんの身体はもう分解されたんじゃないか? 神機なんて、オラクル細胞の塊だし」

 

『……そうだね。でも、同じ神機に僕の人格が宿ったのは……』

 

「月が手を回してくれたとしか思えんなぁ」

 

 

 月様様だ。

 だからこそ、今度は俺達が恩を返す番だ。

 

 恩返しの恩返しの恩返しだな。

 ウロヴォロスだ。

 

 

『月に行く気が無い、って言ってたのは、そういう事だったんですね』

 

「あぁ、あっちに戻って同じことをしたら、多分同じことが起きる。創世記を経て地表が落ちて、文明と歴史が繰り返す。それじゃあ意味が無い」

 

 

 だから、今度はここで潰す。

 人類を滅ぼし、月を楽園に戻す。

 

 

「キィ……そのためには、出来るだけ神機使いに生き残ってもらわないとな」

 

『あはは、悪い顔だ』

 

 

 

 そりゃ元からだよ。

 







はい。
元の地球            |地球の地表|地球|地球の地表|
現在見えている月              |地球|
現在居る地球   |地球の地表|地球ノヴァ母体|月|地球ノヴァ母体|地球の地表|

こんな感じです。

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