昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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GERがメインなので、序盤はちょっと駆け足です。


どこかで見覚えのある、そのお顔

 

「本日付で原隊復帰しました! これから、よろしくお願いします!」

 

「お、おう……実戦への復帰はいつなの?」

 

「それはまだ決まってませんが……新型として、一刻も早く皆さんのお力になれるよう精進します!」

 

 

 あっれ。

 なんでこんなにテンション高いんだ?

 

 覚えている限り、アリサ・イリーニチナ・アミエーラは他の神機使いに陰口叩かれてビクビクするくらい弱ってたはずなんだが……。

 

 

「あぁ、それと。アオバ」

 

「あん?」

 

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラはつかつかと俺の前に歩み寄る。

 俺を見るその目は――決意?

 

 

「これから、よろしくお願いします」

 

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラは俺の手を無理矢理取って握りしめながら言う。

 なんだろうこの気迫。何がこいつをそうさせた?

 オオグルマ・ダイゴが変な暗示でもかけたのか?

 

 雨宮リンドウに次いで――俺を排除するような暗示?

 

 

「ヨロシクするつもりはない」

 

「いえ、そんなこと言わずに。よろしくしましょう」

 

「……勝手にしてくれ」

 

 

 何の為に……?

 わからない。わからないが、まぁ気にする事でもないだろう。

 俺にヘイトが向きまくっているので、アリサ・イリーニチナ・アミエーラへ陰口を叩く神機使いはいない。

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラに必要以上の精神負担をかけないためのヘイト稼ぎでもあったが、無駄になったか。

 

 

「……おぉ、なぁユウ。ちょっとあの2人仲良くなってないか? っていうか、やっぱり可愛い女の子は仲良くしてる方がいいよなぁ」

 

「うん……それに、やっぱりアオバが必要以上に嫌われようとしてたのは、アリサのためだったんじゃないかなぁ」

 

「ああ、俺もそう思うよ。なんだかんだ言って、アイツも良い奴っぽいよな!」

 

 

 勘違いが加速する。

 

 見当はずれな予測を口にしないでほしい。お前達の、特に神薙ユウの見解は広がりやすいのだから。

 ま、悪意でも善意でも好意でも、とにかく感情が俺に集中してくれていればそれでいいんだけど。

 悪意が一番操りやすい、というだけの話だ。

 

 

「それで……なんですけど。アオバにお願いがあって……」

 

「キ……なんだよ」

 

「私に、改めて戦い方を教えて欲しいんです。その……アオバはもう、教導の必要が無いほどに卓越した戦闘技術を持っていると、ツバキさんから聞きました。……お願いしても、良いですか?」

 

 

 あー……。

 うん。

 

 

「神薙ユウ」

 

「うん? なんだい?」

 

「頼んだ」

 

 

 返事も聴かずに昇降機に乗る。

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラの面倒を見てくれ、という命令は解除されているので、俺が頷く言われも無い。

 特務を請け負う性質上アリサ・イリーニチナ・アミエーラに付きまとわれるのは面倒なので、断るのが吉だ。

 

 

「キィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、やっぱり……私の印象って、悪い……ですよね」

 

「え? 俺はそんなことないけどなー。ユウは?」

 

「僕も、アリサのことは別段悪いようには見てないよ」

 

 

 そう言って朗らかに笑いかけてくるコウタと、胡散臭いながらもにこやかな笑みを向けてくるユウ。私が想像していたような悪意や敵意は欠片も無く、それがとてもありがたかった。

 それだけに、先程手を振り払われたあの少女の事が気がかりでならない。

 

 

「あー、もしかしなくても、アオバの事気にしてる……よな?」

 

「はい……。贖罪としての意味もありますけど、同期で同年代で同性で……今まで散々邪険にしてきたのに虫の良い話ですけど、仲良くしたいなって……。でもやっぱり、無理……ですよね」

 

「そ、そんなことないって! ほら、アイツかなり無愛想だししかめっ面だし口悪いけど、えっと……あれじゃん、戦闘中のフォローとか回復弾とか、かなり面倒見いい感じするし、そういうトコできっかけを作って行ったらいいんじゃないかな!」

 

「そうだね。僕が近接一辺倒なのに対してアオバは遠距離メインだから、戦線復帰したら最初はありがとうとか助かった、って言葉から段々話すようになっていけばいいと思う。アリサもどちらかというと遠距離メインでしょ?」

 

 

 この2人のことだって邪見にしていた。

 けれど、ここまで親身になって相談に乗ってくれる事に、心が温かくなる。

 

 話も有益だった。確かに、言われてみれば私とアオバの戦闘スタイルは似ている部分が少なくない。プライドを捨て、戦闘後などにアドバイスをもらうようすれば、少しずつでもあの少女と仲良くなれるかもしれない。

 

 

「2人とも……ありがとうございます。その、今までの事を水に流してほしいとはいいません。けど……2人とも、仲良くできたら、」

 

「俺は大歓迎! へへ、この極東支部で戦う仲間なんだし、もっと気楽……は、難しいか。でも、俺もユウも最初からアリサと仲良くしたいって思ってたし、こっちからもよろしくな!」

 

「うん。僕も同期として、同じ新型として、何より仲間として……君と仲良くできると、嬉しいよ。あと僕達に敬語はいらないから、ね?」

 

「……ありがとう。けど、コレはもう癖なので……」

 

「無理して外さなくてもいいけどね」

 

「……じゃあ、私は早速サカキ博士に戦線復帰の打診をしてきます!」

 

 

 バッとターンして、昇降機に向かう。

 

 

「いや流石にそれは許可降りないんじゃないかなー」

 

 

 ユウのその呟きが聞こえる前に、私は昇降機に乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

『上機嫌ですね。何かあったんですか?』

 

「キィ……いやなに、久しぶりに人目を気にしなくていい特務だからな……。それに、歌える喉があるんだ。あの別れの歌を歌うのも、悪い事じゃないのさ」

 

 

 煉獄の地下街を行く。

 

 ドロドロと流動するマグマが湧き出続けるココは、あらゆるものを捕食できるはずのオラクル細胞――アラガミがケロイド状に溶けているのが印象的だ。

 データベースには、マグマをも捕食しようとしたアラガミがその膨大なエネルギーに耐えきれず破裂した、なんて書いてあったか。核の炎さえも捕食したアラガミがいまさら何を、とは思うかもしれないが、嘆きの平原を食らい巻き上げたであろう蛇の様なアラガミがそれを行ったのではないかと俺は思っている。

 地球に聞いてもそこまでの記録はないみたいで、確認の仕様がないんだけどな。

 

 

『歌……ですか?』

 

「ん。神と人と……残酷な運命に抗う者と、残酷な運命に身を差し出す者の別れの歌。一見人間視点の歌にも思えるが……」

 

 

 青い月を見上げる。

 そして、この地上のどこかにいる少女を想う。

 

 

「……いや、なんでもないさ。人類は好まないが、この歌って文化は良いね。俺達の持つ感応現象も、歌と根本は同じなワケだし」

 

『前々からというか、”前”から思っていましたけど……サマエルさん、君は本当にアラガミですか? いえ、行動原理や思考回路は極めてアラガミらしい、地球の使徒であることがわかるのに……どうしてそこまで、「人間らしい」んですか?』

 

「んー……これを人間らしいって感じるのか。そりゃ意外だが……そうだな。いつかは、その疑問に答えてやるよ。おっと、こうやって『先延ばし』にしたり『保留』にするのも……人間らしい行動だよな」

 

 

 植物にしろ動物にしろ、覚えた”よりよい変化”はその場で実践する。実践後の成否は別として、後でやればいいとか後でしてやるとか、そういう思考はハナから無い。

 それはアラガミも同じだ。いや、アラガミがもっとも”そう”であると言えるだろう。

 

 そう言う意味では、おぉ、俺はアバドンの頃から『とても人間らしい』と言えるんじゃないか?

 何も嬉しかないが。

 

 

「っと、雑談はここまでだ。テスカトリポカ一匹とコンゴウ、コクーンメイデンね……レン、雑魚の掃除は任せるぞ」

 

『懐かしいですね。月でも僕は基本的に雑魚ばっかりで……まぁ、食いしん坊2人が突っ込んでいくからなんですけど』

 

「キィ……俺は全体のフォローでな。ま、全員が全員で狩りをしたのなんて数える程じゃないか?」

 

『はは……基本的に、あの2人が食べちゃいましたからね』

 

 

 あの頃を思い出してニヤりと笑えば、レンもつられて苦笑する。

 そう、そんな感じだった。喰いたがりの2人が最初に突っ込んで、俺とレンが撃ち漏らしの処理と回避、回復を担当する。なんだかんだいって連携のとれたパーティ。

 

 中でも雨宮リンドウの火力は凄まじく、同時に一番危なっかしくて――、

 

 

 

 

 

「リンドウ、馬いたぞ! バサシ! バサシたべたいぞ!」

 

「おいおいそういうビールが欲しくなるような事言うなよ……余計に喉が渇くじゃねぇか。ま、とっとと倒すぞ!」

 

「おー!」

 

 

 

 

 

 真赤な煉獄の地下街に、真っ白な童女が現れる。

 

 童女は肘から先を触腕として伸ばし、テスカトリポカへ絡み付く様に強襲した。

 その後ろから、両手に身の丈の3倍はあろうかという炎剣を迸らせた男が走って来くる。

 右目から右手にかけてを真っ黒に染めた男は、人間程度の身長であるにもかかわらず地下街の天井スレスレまで跳躍し、背中から螺旋状の炎を噴出させてテスカトリポカに突撃した。

 

 

「……」

 

『……』

 

 

 たまらずに雄叫びをあげるテスカトリポカ。

 無論そんなことに構う2人でもなく、ミサイルポッドへ執拗な攻撃を繰り返す童女によって結合崩壊、ザクザクと炎剣を前面装甲に刺しまくる男によってさらに結合崩壊を起こし、さらに男が地面に着いた数瞬後に出現した紫色の炎の渦によって、その場から一歩も動くことなく沈黙した。

 

 

 

「よっわいなぁ……歯ごたえ、あんま無さそうだ」

 

「むー、久しぶりにクビナガ食べたくなってきたぞ!」

 

「ん、まぁ美味ぇな。しっかし……ほんと、ビールが恋しいなぁ……」

 

 

 

 あぁ。

 

 そう、そのために常に持ち歩いていたんだ。

 

 

 

 捕食を行う2人に近づく。

 

 

 2人は食事に夢中で気が付かない。

 

 

 

 

 

 

「ほらよ」

 

 

 

 

 

 

 その2人に向かって、2缶。

 

 俺は配給ビールを投げた。

 

 

 

 咄嗟の事であってもしっかりと反応し、受け取る2人。

 

 

「んおっと……おぉ!? ビールじゃねぇか! 誰か知らんが、ありがとうよ! ……っく~、やっぱ美味ぇなぁ!」

 

「お? お? これ、どうやってあけるんだ?」

 

「ん、ここをこうやってだな……」

 

「お~! 出来た、ぞ!」

 

 

 ついでにテスカトリポカを捕食する。一応、特務に必要なコアだからな。

 これだけ近づいても飲み食う事に夢中な2人には呆れが出るが、そういえばそんな奴らだったと思い出して薄く嗤う。

 近くでレンもやれやれ、という感じで肩をすくめていた。

 

 

「っふぅ~……美味かった。つい一気に飲んじまったぜ。……っとぉ、スマン! 礼がまだだったな! 俺は――」

 

 

「……あれ? ニンゲン?」

 

 

「……はぁ。まだ気付かないか?」

 

 

『しょうがないですよ。見た目は完全に人間ですからね、君』

 

 

 

 ようやく振り返った雨宮リンドウがこちらを向いて固まる。同じように童女もこっちを向いた。

 

 

 

「あ、レンだ! ひさしぶり、だな!」

 

『はい、久しぶりです。リンドウ、君も久しぶり……だね?』

 

「――……あ、お……おう。レン――か。レン、だな。それで、こいつは……?」

 

 

 一度にたくさんの情報が入ってきてフリーズしていたらしい。

 雨宮リンドウは改めて俺達を見ると、まず初めに自分の神機であるレンを認識した。

 

 

「んー? 似てるー!」

 

「……確か……アオバ、っつったか……無事、逃げられたんだな……」

 

「おー、まだそこまで覚えてんのか。というか、かなり安定してんな。アーティフィシャルCNCも緑色だし……また地球に貰ったのか?」

 

 

「んん? んんー? あれ、おかしいぞー? 似てる、し……なんか、胸、痛くなってきた……」

 

 

 童女が疑問を浮かべ続ける。

 もう、仕方ないなぁ。

 

 

 レンの時と同じように、横に流している鮮血の様な髪を前に下ろす。

 

 

 少しだけ小首を傾げ、裂けるように嗤いながら、

 

 

 

 

 

「キィ……つってな」

 

 

 

 

 

 

「あー!!」

 

「ッ、お前……ッ!」

 

「サマエルー! 会いたかった、ぞー!」

 

 

 こちらに走り寄り、ジャンプして抱き着いてくる童女。

 あぁ、俺もだ。この身体は実に感情豊かで、心の底から湧きあがってくる――喜び。

 

 

「キィ……俺もだよ、シオ」

 

 

 しっかりと童女――シオを抱き留めて、頭を撫でる。

 あの頃は俺の方が小さかったが、この身体はシオより大きい。それに、抱きしめるための腕もある。

 

 

 やっと――会えた。

 

 

 凡そ人間の寄りつかない炎煮え滾る煉獄の底。

 

 ようやくココに、かつての3人と1匹――今では4人となった者達が再会(Reunion)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく……道理で似てるワケだぜ……」

 

『リンドウ。君はどうするんだい?』

 

「……どうするも何も……どの道、どうしようもねぇだろ、これは」

 

 

 右目をなぞる雨宮リンドウ。

 シオをぎゅむっと抱きしめながら、その姿を見遣る。

 

 右半身はほぼハンニバルで、先程戦闘で使っていた通り背中の服が破れ、逆鱗のようなものが見えている。

 既にハンニバルとしての力を使い始めているのは、やはりもう――。

 

 

『……君の中にあるハンニバルを僕がねじ伏せれば、あるいは人間に戻れるかもしれないよ?』

 

「……そりゃ、お前さんを犠牲にしろって……そう言いてえのか?」

 

『あれ、わかっちゃうんだ……それでも人間に戻れるなら、やろうと思わないのかい?』

 

「……いいや。俺は、このままでいいさ。どうせ今回もエイジス島に……アレがあるんだろ? だったらソレに乗って、4人で月まで行こうや」

 

 

 レンが雨宮リンドウをハンニバルから人間へと戻す事が出来たのは、レンの偏食因子とハンニバルの偏食因子がぶつかり合い、神薙ユウの異常な感応現象のブーストを経て打ち克ったからなのだろう。

 とはいえ神機に残された偏食因子では、今まさに活動している偏食因子に克ち得るはずがない。それが出来るのなら神機の偏食因子をアラガミに直接投与する、というやり方でアラガミを駆逐できるからな。

 

 だが、雨宮リンドウの中に入って雨宮リンドウを傷付けず、さらにハンニバルのオラクル細胞と闘う事が出来るのは、雨宮リンドウの神機であったレンだけ。

 それはつまり、どうやっても雨宮リンドウが人間に戻るのならレンを殺す事になってしまう。

 

 

「んー、んむー! んむ、っぷは! レン、いなくなったら、シオイヤだぞー?」

 

「だ、そうだ。お姫様のお願いだ、諦めるしかねェさ」

 

『……全く。じゃあまた、4人で月に行こうか』

 

 

 と、話がまとまってきたところで悪いのだが。

 

 

「キィ……残念だが俺は月に行く気は無いぞ」

 

「えー!? なんでだー!?」

 

「お前さん……わざわざここでまで調和を乱すような事言わなくてもだな……」

 

『サマエルさん、もしかしてその身体……月では活動できない、とかですか?』

 

 

 あ、まぁそれもあったわ。

 確かにこの身体、酸素必要だな、うん。

 

 

「それもあるが……何、今回は色々と状況が違うのさ」

 

 

 色々と、違う。

 こんなにはっきりと地球の意志が聞こえるなんて事も前は無かったし、神機がここまで捕食に長けていると言う事も無かった。

 じゃあ何が変わったのか、という話。

 

 

「なぁ、覚えてるか? 俺達が死んだ時の事(・・・・・・・・・)

 

 

 そう、それが……一番の鍵である。

 










絵心が無いマン

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