昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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主人公の見た目
真赤な髪。
吊り目・瞳の色は金。
普段はだるそうだけど、笑うと裂けたんじゃないかと勘違いされるほど上がる口角。

口癖?が「キィ……」


愛の為なら、飛びこめる

 オオグルマ・ダイゴ。

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラの主治医で、精神面のケアなどを担当する腕毛がトレードマークの男。見るからに不清潔そうな、という冠がつくと誰もが納得する。

 医者だと言うのに患者の近くでタバコを吸う時点でコイツが真っ当な類いに位置する医者ではない事くらいわかりそうなものだが、神機使い(ゴッドイーター)はそれくらいで体調を悪くしない、なんて先入観があればわからなくなることもある……の、かもしれない。

 

 神薙ユウと藤木コウタがアリサ・イリーニチナ・アミエーラの見舞いへ行こうとした所、件のオオグルマに呼びとめられて病室に入れてもらえなかったそうだ。いくら規格外とされる神薙ユウであっても流石に医者の域じゃあない。主治医の判断に従うのは当然の事、とのこと。

 疑いしかない様だったが。

 

 それを何故俺が知っているのかと言えば、なんでも俺と雨宮リンドウは”あの時”のトラウマスイッチのような存在だから、俺に病室に近づいて欲しくない、という伝言を言い渡されたなのだそうな。オオグルマから。

 忌み恨みも無ければ見舞いに行くほど果報者でもないので元から行く気は無かったと伝えれば、案の定2人は微妙な顔をしていた。

 とりあえず伝えたからね、と2人は去って行ったが、入れ違いにまた人間が2人、入ってきた。

 

 雨宮ツバキと、橘サクヤである。

 

「失礼するぞ」

 

「……失礼するわ」

 

 2人は全く別々の顔をして現れた。

 雨宮ツバキの方は仕事モードな顔。橘サクヤの方は、完全にプライベートな顔である。

 

「……アリサ・イリーニチナ・アミエーラの件でお叱りスか」

 

「いいや、その件ではない。とはいえ、その件でもある」

 

「……?」

 

「要件は2つだ、夏江アオバ。1つは、お前とリンドウに任せていたアリサ・イリーニチナ・アミエーラの面倒を見てくれ、という命令。あれを解除する」

 

「はぁ」

 

 そりゃ、ありがたい事で。

 

「その上で、橘サクヤのメンタルケア及びフォローを頼みたい」

 

「……この人のフォロー? 俺が? 新人の俺が?」

 

「できるだろう?」

 

「……まぁ、戦闘面なら。というか、そういうのって本人のいない所で話すもんじゃないんスか?」

 

「先程ユウに頼みを行っている所をサクヤに見られてしまってな」

 

「そりゃ……危機管理のなっていないことで?」

 

「そういうな。で、引き受けてくれるのか?」

 

「ご命令とあらば」

 

 まぁ、近接に走らない分アリサ・イリーニチナ・アミエーラよりは管理しやすいし。

 そもそも命令を受けた翌日に”アレ”だからなぁ。任務遂行できたとは言い難い。

 

「もう1つの要件だが、シックザール支部長がお前を呼んでいる。サクヤの用件が済み次第、向かうように」

 

 それではな、と言って雨宮ツバキは去って行った。

 

 残された俺と橘サクヤ。

 ヨハネス・フォン・シックザールの要件と言えばアレしかないので、とっとと橘サクヤの要件とやらを済ませて向かいたいところではあるのだが、しかしまぁ雨宮リンドウ絡みだろうことは手に取るようにわかる。一筋縄じゃ行かない事も、な。

 

「……なぜ」

 

「キ……ん」

 

「なぜ……リンドウを見捨ててきたの?」

 

 それは幽鬼の様な瞳だった。

 恐らくアナグラにいる『雨宮リンドウを慕っていた者達』全員の心の代弁でもあったのだろう、その一言。

 あの時雨宮リンドウと共にいたのが神薙ユウや藤木コウタであれば、また違っただろう。

 ただ雨宮リンドウを嘆き、どうしてと想いを馳せたかもしれない。

 

 が、絶賛ヘイト稼ぎ中である俺であるとなれば話は別だ。

 元より旧型からは良い思いを抱かれていない上に口も悪く生意気、仲良くする気はないと平然と言い切って敬意も無い。

 ストレスと不安の捌け口にはこの上なく丁度いい。

 別に人間の悪性をああだこうだ言うつもりはない。そうなるように操作したのだから。

 

 だから、俺は平然とこう言おう。

 

「命令でしたので。逃げろ、と」

 

「……!」

 

 その右手が、高く上がる。

 同じ神機使いとして、何より仲間としての絆や情が無いのかと、俺の頬を――叩かない。

 

 俺の瞳を見て、気付いたのだろう。

 

 “こいつはそもそも人間を仲間だと思っていない”、と。

 

「あ……あなた、は……」

 

「まぁ、安心してください。これ以上の死人は出させませんから。――……あぁ、雨宮リンドウが死んだ、とも限らないですし、ね?」

 

 というか、十中八九生きているので。

 生存確認をするためにも、とりあえずのお帰りを願いたい。

 特務を――誰に咎められる事も無くソロで任務に行けるそれに、早く行きたいのだ。

 懐かしき我らが家族と、再会するために。

 

「……ごめんなさい。感情的になったわ……」

 

「いえいえ、誰だって好ましい男性が生死不明ともなれば、そういう反応を取るでしょうから……気になさらずに?」

 

「……そうね、ありがとう」

 

 表面上は、という冠を付けて、納得した様子で橘サクヤは去って行った。

 さて、俺も支部長室に向かいましょうかね。

 いやぁ、敬語は慣れない慣れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

 役員区画の最奥、支部長室。

 この部屋の奥の扉はどうなっているのだろうかなんて勘繰りを入れたくなるが、それはもう見られたくない何かがあるのだろうなぁとも思う。ラボラトリのあの部屋がそうであったように。

 

「夏江アオバ君。今回君に来てもらったのは他でもない――君に、ある特別な任務を受けてもらいたいのだ」

 

「……特別な、任務」

 

「そう――現在このミッションを請け負っているのは2人……いや、請け負っていた、というべきか。1人は君も知っているだろう、ソーマ。そしてもう1人が、」

 

「雨宮リンドウ、ですね」

 

「っ、そうだ。だが、今回の不慮の事故により、雨宮少尉はMIA……いや、KIAと断定されてしまうのも時間の問題と言えるだろう。そこで、雨宮少尉の受けていた特別任務――特務を、君に任せたい」

 

 あぁ、長ったらしい回りくどい遠回りな説明、どうもありがとう。

 恐らくだが俺以外にも神薙ユウが請け負う事になるのだろうが、それはいい。わざわざ不穏分子を克ち合せるなんて事、ヨハネス・フォン・シックザールがするとは思えないしな。

 アラガミを単独で狩る、という行為になんの恐れも無いが、ディアウス・ピターのような上級端末の場合のみ断らせてもらうとしよう。やろうと思えばコアを無傷で摘出、なんてこともできてしまうわけだからな。

 そりゃ流石に怪しまれる。

 

「任務の詳細は追って伝える。他に、何か聞きたい事は?」

 

「ありません。あぁ、でも1つお願いが……」

 

「ふむ、聞こう。なんだね?」

 

「配給ビールを、少しばかりでいいので気持ち多目にいただけませんか?」

 

 俺のそのお願いに、ヨハネス・フォン・シックザールは一瞬目を瞠った。

 そういう俗物的な、もしくは即物的な物を欲しがるとは思っていなかったのだろう。

 当然、これは俺のための要求じゃあない。ビールを恋しがっているであろう奴のためだ。

 

「……いいだろう。君への配給ビールを、そうだな……特務ごとに5缶ほど追加するよう調整しておく」

 

「ありがとうございます」

 

 ケッ、シケてやがんな。

 とは思いませんとも。

 いつか見たビール工場だが、あの規模では到底全世界の神機使いに配給するビールなど賄えまい。現在でも相当カツカツだろうそこに、1特務5本は上等な報酬だ。

 

「それでは、失礼します」

 

「あぁ、期待しているよ」

 

 そりゃどーも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ……」

 

 さて、楠リッカに断りを入れて、やってきました神機保管庫。

 神機使いの神機が保管されているココは、神機使いの生命線。デッドライン。

 アラガミから摘出された無傷なオラクルCNCのみが神機本体へ加工できるという性質上、神機その物の数はそこまで多くそろえる事は出来ない。

 さらにはその神機と適合する人間の選別も難しいとくるのだから、大変だ。適合しない人間がその神機を持てば、たちどころに神機自体に捕食されてしまうというリスク付き。

 故に、神機は厳重に保管されている。万一盗まれたり破壊されたりしないよう、他の神機使いや清掃員、技術者が触れる事の無いように。

 

 勿論、俺の神機もここにある。

 ある一点を除いて特別変わった点の無い神機。スピアブラストバックラー構成のそれ。

 その一点というのは、捕食形態(プレデターフォーム)だ。

 

 純白。

 

 プレデタースタイルの一種に真珠鳥というのがあるが、それよりも更に白い。

 GOD EATER BURST後のソーマ・シックザールの神機やあの少女の捕食形態を思い出すこの色合いの神機は、出自もそれなりに特殊らしい。

 なんでも、地下に埋まっていたコア、なのだとか。

 

 現在嘆きの平原と呼ばれているあの鉄道地域がめくれ上がった(・・・・・・・)時に発見された物で、しかし長い間適合者がいなかったと。

 だが、近年開発された新型神機のコア――アリサ・イリーニチナ・アミエーラや神薙ユウ、防御一辺倒やドイツの青い縞々など――の構造と酷似している事から、ようやくソレが旧型のコアではなく新型のコアだと判明し、俺の手元に渡ったという経緯らしい。

 

「キィ……」

 

 恐らくは、というか十中八九地球が寄越したコアだろう。

 そこについてはノーコメントな地球が気になりもするが、そこはあまり気にする事ではない。

 問題は、というか恩恵は、この神機はプレデターフォームが自在である、という事だ。

 俺の意思が十全に伝わるというべきか。

 ゲームに準えて言うのならば、ミッション中にプレデタースタイルと制御パーツを変更する事が出来る、という素晴らしい仕様。しかも思考速度と同じ速さで変更可能。

 地球様様である。

 

 とはいえそもそも俺は地に足着いていればオラクル不足に陥る、なんてことは有りえないので、それほど頻繁に制御パーツを付けかけする事はなかったりするのだが。

 

「キィ……」

 

 さて、そろそろこの神機保管庫に来た理由を――要件を果たそう。

 俺の目の前にある、この神機。

 名を、ブラッドサージとイヴェイダー。

 

 そう、雨宮リンドウの神機だ。

 

 すでにこの時点で、雨宮リンドウの神機は回収されている。

 それは史実から見ればおかしなことだが、真実はとても簡単だ。

 認めるのは癪だが、ゲームの主人公より余程勘と頭の良い神薙ユウが、追憶の教会から雨宮リンドウの神機を取り出した、というだけの話。

 詳しい話は聞いていないが、太刀牙で柄を咥えてぶん回したらしい。ただ、腕輪は残されていなかったので未だ雨宮リンドウはMIA扱い、というわけだ。

 残されて居たら、問答無用でKIAだっただろうが。

 

「……おい、聞こえてんだろ」

 

 さっきからキィキィ鳴いてやっていたというのに、何故気付かないのか。

 雨宮リンドウの神機を見て感傷に浸るような奴に見えたのだろうか。

 そんなわけ、ないのに。

 

『……え? まさか……僕が見えているんですか?』

 

「見えているし、聞こえている。ついでに言うと触れる」

 

『そんな……直接触れた神薙ユウでもなければ、普通の神機使いには見えないはずなんですが……』

 

 普通の神機使いには。

 じゃあ普通じゃないんだろう。

 

『……赤い髪に、その瞳……どこかで見覚えがあるんですよね……。君、どこかで僕に触りました?』

 

「触ったし、咥えたな。具体的には3日くらい。一緒に宇宙旅行しただろ?」

 

『宇宙、旅行……? うーん……え? 待ってください、宇宙旅行? 地球から月へ(・・・・・・)?』

 

「ああ。その後、何億年か一緒にいただろ。雨宮リンドウと、あの少女と、一緒に」

 

 その瞳が見開かれる。瞠目する。

 最後の一押しに、普段は横に流している前髪を全て前に下ろした。

 そんでもって、裂けるほど笑う。

 

「キィ……ってな」

 

『……はは。僕も結構色々経験してきたけれど……これは流石に驚いたな』

 

「俺としちゃ、お前さんらが覚えている事自体が驚きだがね」

 

 最初は感応現象による俺の記憶の伝達――つまり、俺が覚えているからあいつらにもそれが伝わったのだと思っていた。

 だが、違う。

 明確に――こいつも、あいつらも、あの頃の記憶がある。

 曲がりなりにも”人間”になって得た感情を使って言わせてもらうのならば――嬉しい。

 

「また会えて、嬉しいぜ。――レン」

 

『僕も……ですよ。――サマエルさん』

 

 久しぶり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウ、お腹空いてるか?」

 

「……いや、大丈夫だ……昔に比べりゃ、落ち着いてる」

 

 雪降る廃寺。

 大きな青い月(・・・)が爛々と輝くその場所に、2人はいた。

 

 片方は白い童女。もう片方は、半身を黒く染めた男。

 男の手には碧色(・・)をしたコアのようなものが埋め込まれていた。

 

「……しかし……また、世話になるとはなぁ……シオ」

 

「リンドウは仲間で、家族! だから、な!」

 

 白い童女がにこにこと笑う。

 男もふ、と柔らかい笑みを浮かべるが、その心中はそれなりに複雑だった。

 

 白い童女――シオと出会った事で、リンドウが忘れていた(・・・・・)記憶は全て蘇った。

 極東支部における、一連の事件。そして、月における自分たちの創世記。

 それらがすべて本物である事はわかる。わかるが、割り切れるかと言われれば別だ。

 

 現在の雨宮リンドウは、まだ”人間”で。

 守るべき者が、沢山いるのだから。

 

「あとはレンと、サマエルだなー」

 

「……レンはまぁ、俺の神機にいるだろうが……サマエルは……」

 

 サマエル。

 アバドンと呼ばれるアラガミの、堕天種。もしくは接触禁忌種。

 赤黒い体色のアバドンを鮮血に染めたような見た目の、凄まじいまでの速力を持ったアラガミ。

 言葉は通じないまでも、その意志を通じ合うまでに至った自分たちの家族。

 レンのおかげで存外心配性だったり高い知能を持っていたりすることが分かった、もしかしたらあのメンバーの中で最も人間らしかったかもしれない、あのアラガミ。

 

 彼は見つけるのは至難の業と言えるだろう。

 

 何故なら。

 

「ピキィ……」

 

「……むぅ。ちーがーうーぞー? 白、じゃなくて、赤! なのにー」

 

「……確かに、アバドン……見てねぇなぁ」

 

 そう。

 何故か、この星に現れるアバドン種は純白――真っ白な、あのサマエルとは似ても似つかない体色をしているのだ。

 名前もアバドンやサマエルではなくアモルと、神格まで変わってしまっている。

 

「けど、どっかで見た気がするんだよな……」

 

「それ、ほんとかー!? サマエル、会いたいぞ!」

 

「あー……どこだったか……」

 

 リンドウは食欲と浸食に擱かされる頭で必死に記憶を探る。

 一度見たら忘れない、あの真赤な体色。こちらを嘲うかのような瞳。大きく裂けた口。

 丸い身体。

 

 はて。

 

「……ビールが恋しいなぁ……」

 

「ビール? また作るかー?」

 

「あー……それより、頭使ったら腹ァ減ってきた……狩り、行こうや」

 

「おー! 今日は象が食べたいぞ!」

 

「……こういう時アイツがいてくれると楽なんだがなぁ……」

 

 あの、超広範囲を感知できる上、自分達2人を咥えてその場に急行できたアイツがいれば。

 

「ない物ねだりしても、仕方ねェか……おっし」

 

「狩り、行くぞー!」

 

 禍根ややらなければいけない事は山積みで、いずれ来るだろう選ばなければいけない事も頭が痛い。

 だがまぁ、今日の所は。

 

「腹、減ったな……」

 

「ハラヘッター!」

 

 糧を得るために、狩りをしよう。

 











アンチ・ヘイトは結構多いのでお気を付け下さい。

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