昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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トラップカード、リビングデッドの呼び声!



ネコは炬燵で物申す。
リバースカード・オープン!


 

 極東支部、エントランスホール。

 そこに、数人の男女が向かい合う形で立っていた。

 

「今日から極東支部に配属された新人二人を紹介する。待望の新型神機使いだ」

 

 そう言い放つツバキの横には、歳の頃16か17くらいの少年少女。黄色を基調とした服装を身にまとい、ツバキと同じくらいの身長を持つ少年と、神機使いに露出が多い事は最早常識に成りつつあるが、それにしても下半身をほぼ丸出しと言っていいくらいの健康的な太腿が目立つ少女だ。

 

「本日付で第二部隊に配属となりました。アネット・ケーニッヒと申します!」

 

「同じく第三部隊に配属となりました、フェデリコ・カルーゾです!」

 

「新型神機の戦術は、私よりお前達の方が詳しいだろう……出来得る限り面倒を見てやれ、いいな?」

 

「よろしくお願いします!」

 

 二人がキラキラとした目を向けるのは、勿論極東支部第一部隊がリーダー・神薙ユウ。

 その目線に慣れないのか、少しだけ困り顔で彼は頷いた。

 

「……そして、原隊復帰と……異動の通告だ」

 

「……ふぅ」

 

 何か含みのある、感慨と叫び出したい程の喜色を鋼の精神で抑え込んだような声色に、アネットとフェデリコの隣に並んでいた二人が一歩、歩み出た。

 右目に仮面。右手に篭手。だが、それだけではとうに隠しきれない程に半身を黒に染めた――、

 

「本日付で原隊復帰する、雨宮リンドウだ。ユウ、お前さんにならリーダーも任せられる。よろしく頼む」

 

 雨宮リンドウ。

 腕輪を付けていない、元ゴッドイーター。そう、現アラガミである彼が、このアナグラの中に当然の如くいるその事実、その絵面に、第一部隊だけでない極東支部の全員が感動と驚き、そして心配を彼に向けていた。

 リンドウもまたそれに気が付いているようで、何度も後頭部を掻いては姉であるツバキやユウに目線を向けている。無論、助けなどくれる二人ではないので溜息に終わるのだが。

 

 そして。

 

「同じく、第三部隊に異動になる夏江アオバだ。新人の教育なんて面倒な事はやらないのでよろしく」

 

 雨宮リンドウにアラガミの痕跡が多々露出しているのに対比するかのように、いつもと変わらない――否、少しだけ幼くなったかのようにも見える――夏江アオバ。

 雨宮リンドウが復帰した事で、戦力の慣らしを行うために防衛班への異動となったのだ。

 その姿、その言動に懐かしさを覚える反面、どう対応していいのかわからない、といった動揺もまた広がっていた。

 

「お前は……。まぁいい。新人と夏江は榊博士のメディカルチェックを受けた後、任務や挨拶に着け。以上だ!」

 

 前よりも扱い辛くなった少女に眉間の彫を深めつつ、ツバキは場を解散させた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……やはり異常は見られないね。むしろ、前のコアよりもさらに適合率が高くなっている……オラクルの活性化も。

 全く、アオバ君。とことん君は研究者泣かせのようだね」

 

「確認するけど、君がノヴァに取り込まれた時、君の神機のコアがそのまま件のアラガミのコアになっていたんだよね?」

 

「ああ、間違いない。アリウスノーヴァのコアは、俺の神機のコアだ。この目で見た事も根拠の一部だが、後はまぁ感覚だな。アイツが俺の神機だってのは、遠くにいてもわかる」

 

 例えそこに彼女の意思がなくとも。

 あの純白のコアは、俺達を包んでいたものだから。

 

「じゃあ、これはどこで手に入れてきたコア……ううん、神機なのかな」

 

「さぁ? 気が付いたら掴んでいた神機だからな……俺がアリウスノーヴァから分離、いや排出と言った方がいいのか? まぁ、別たれた時にはもってなかったはずだ。その辺は良く覚えてないが、この支部の近辺を彷徨ってた時にゃ持ってたはずだぜ」

 

「うーん……どこか山奥に遺されてた神機だった、って事かなぁ。それがこんなにも都合よく、異常値にさえ思える適合率のあるコアだった……ううーん」

 

 まぁ、出来過ぎた話なのは認めよう。なんたって、真赤な嘘だしな。

 その真赤なコアは、何を隠そう俺のコアだ。

 正確に言うならば――元俺のコアだ。

 

 勿論月に在った方。地球に在った奴はコアとしての形は成していないからな。

 

 適合率が高いのなんて当たり前だ。俺と俺のコアの適合率が低かったら嘘だろう。アリウスノーヴァの身体は元シオのコアに任せてきた。第二のノヴァなんだ、特異点のコアを持っていても不思議じゃあないだろう。第二のノヴァの母体、ってんなら違うだろうけど。

 

「……ふぅ、うん。身体の方は特に異常なし、だよ。刀身はスピアからサイズに変わってるみたいだけど……元に戻しておく?」

 

「いや、このままでいい。ルクスティア……いやはや、素材集めは無駄だったな」

 

 神属のスピア造りに専念していたが、まさか直々に賜るとは思わなんだ。

 

「それで、アオバ君。君が取り込まれていた件のアラガミ……アリウスノーヴァの動向なんかに心当たりはあるかい? なんたってあのノヴァの母体が転化したアラガミだ。早急に討伐しなければ、どんな個体になるかわからない」

 

「残念だがN/Aだ。俺はその答えを持ち合わせていない。どの方角にいるか、くらいは感覚でなんとなくわかるが、座標指定までは難しい」

 

「いや、それで十分だよ。この後観測班の方へ寄って欲しい。あぁ、勿論これはお願いではなく命令だよ」

 

 ペイラー・サカキがその糸目をうっすら開けて言う。

 ワオ、すっぽかす事見抜かれてやんの。

 

「……命令とあらば」

 

 ……ああ、なんだかさらに喜怒哀楽が豊かになった気がする。

 新しい身体は何を元にしてんだか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カレル・シュナイダー。新型だからと優遇する事はない。仕事を熟せばそれでいい」

 

「ジーナ・ディキンソンよ……これから、よろしくねぇ?」

 

「俺は小川シュンだ。ま、よろしくなー」

 

「よろしくお願いします! 改めまして、フェデリコ・カルーゾです!」

 

「夏江アオバ。特にヨロシクする気は無い」

 

 観測班に適当な方角をお知らせした後、第三部隊の歓迎会……なんて雰囲気は無く、つまるところの新人含めた顔合わせ。アサルト、スナイパー、ロングに加えてロング・スナイパーとサイズ・ブラストが入ったワケだ。火力的には中々バランスも良い。

 ちなみに第二部隊はアネット・ケーニッヒ一人が加入しただけだが、元から大森タツミとブレンダン・バーデルという堅実且つ効率のいい二人組に、台場カノンという超高火力でバランスの保たれていた部隊だ。アネット・ケーニッヒという火力が加入しても、バランスが崩れる事はないだろう。

 

「ロングの扱いは小川シュンに聞け。スナイパーの扱いはジーナ・ディキンソンが熟知している。狩りの効率ならカレル・シュナイダーの右に出る者はいないだろ。金払いの良い依頼の見分け方もな」

 

「あら、案外ちゃんと見てくれているようだけど……それ、自分は何もしないって……そういうコト?」

 

「その通りだ、ジーナ・ディキンソン。新型という共通点はあれど、俺はサイズにブラスト。更にはバックラーだ。装備に一つ足りと共通点が存在しない。教えられる事なんてないのさ」

 

 強いて言えばバースト管理くらいだが、コイツは育てりゃ自ずと受け渡し弾を撃ちまくるようになるので必要ないだろう。

 アネット・ケーニッヒと比べ、生存力の面で言えばコイツはピカイチだ。むしろ余計な茶々は入れない方がいい。

 

「何、お前達にとっても悪い話じゃあない。コイツはオラクル活性化能力が非常に高いからな、新種遭遇時なんかには優秀な働きが出来るはずだ。お前達の技術を注ぎ込めば、それだけ良い依頼も回ってくる。特に新種の探索任務なんかがな」

 

 新種はそれだけで危険が付き纏う。故に、報酬金もケタが違う事が多い。

 素材だって良いモノが手に入るし、そう言う種は得てして強力な個体が多い。

 カレル・シュナイダーの行動理念にも、小川シュンの行動理念にも、ジーナ・ディキンソンの好むヒリつく戦いにも合致する。

 

「あぁ、勿論回復はするぞ。むしろ基本的に俺はそっちがメインだ」

 

 仕事をしないとは言っていない。ただ、教育はしないと言っている。

 その時間、俺は他の事に使うから。

 

「それじゃ、小川シュン」

 

「おう!」

 

 とりあえず、小川シュンに誘われたヤクシャ・ラージャ退治に行こう。

 サイズの手応えも確かめないといけないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! おかえりだな! アオバ!」

 

「おかえりなさい、アオバ」

 

「ただいま、シオ、リンドウ。……と、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ」

 

「よ、お疲れさん」

 

 隔離部屋――ペイラー榊のラボラトリはソーマ・シックザールが引き継いだが、この隔離部屋はそのままに残してあった。

 理由は簡単で、隠しようがない程にアラガミであるシオとリンドウがここにいるからだ。

 普段はジャミングを人工的に引き起こす装置で、アナグラ内部のアラガミを感知する装置を騙しているが、長時間使える類いの物ではない。 

 雨宮リンドウがほぼ完全なアラガミである、という事を知っているのは、第一部隊に加えてペイラー・サカキ、楠リッカ、竹田ヒバリ、雨宮ツバキの四名のみ。

 他の面々にはペイラー・サカキと楠リッカが共同開発した装置と、雨宮リンドウの強靭な肉体及び精神力により半アラガミ化、程度で済んでいる。そう説明されている。

 

 故に、捕食衝動含めて余計なトラブルが起きないようにこうして隔離部屋で過ごす”決まり”となっているのだ。

 シオも同じ理由。無論ソーマ・シックザールは嫌な顔を隠さなかったが、少しずつ和解し始めているようですよ? とはアリサ・イリーニチナ・アミエーラの談だ。真偽のほどは知らん。

 

「もう、部隊が変わったとはいえ仲間なんですから……フルネームじゃなくていいですよ?」

 

「相手をフルネームで呼ぶのは癖みたいなものだと思ってくれ。家族ともなれば別だが、何、面倒だと思った事はない」

 

 あぁでも、ディアウス・ピターやプリティヴィ・マータはそれぞれピター、マータと略すな。やっぱり意識の違いかね。

 シオとリンドウに視線を促せば、隔離部屋のさらに奥……訓練場とこの部屋の間に広がる設計図上の謎の空間――こと、捕食場に二人が向かう。名前の通り、アラガミたる二人が新鮮なオラクル細胞やアラガミ素材を捕食する場所で、隔離部屋と同じ材質の空間だ。

 

 新しい俺の神機のコアは、流石俺とでも言えばいいのか、食欲不振気味。否、前の神機が食欲旺盛過ぎたのだろうが、そこまで腹が空かないのが難点だな。とはいえしっかり味は感じるし、満たされることは満たされるんだが。

 

 意識が乗っていないとはいえ、彼女のコアを持つアリウスノーヴァがひもじい思いをしていなければいいんだが……。

 

「アオバ?」

 

「ん……なんだ?」

 

「いえ、ですから、よければこの後一緒にお食事に行きませんか? 帰ってきてすぐにここに来たみたいですし……まだ食べていないのなら、その……」

 

 断る、と言おうとして踏み止まる。

 

「……ああ、いいぞ」

 

「やっぱりなんでも……え」

 

「あぁ、いいならいいが」

 

 悪意を向けさせるのは存外難しい事は十二分に理解した。

 ならば、出来得る限り歩み寄って行こう。その分面倒事も増えるのだろうが、特に第一部隊とは仲良くしておいた方が今後の為だ。

 慌てるように言葉を訂正するアリサ・イリーニチナ・アミエーラを観察しながら、口を尖らせてこちらをジト目で見ていたレンに軽く目配せして、隔離部屋を出る。

 

「あ」

 

「げ」

 

 ばったり。

 神薙ユウに見つかってしまった。

 







説明するって言ったよなぁルルォ?!
ちょ、ちょっと触りは説明したから!

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