楓さんと男子大学生   作:ブロンズスモー

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メール、デート、水着選び、お誘い。

 

 

俺に妙な知り合いが増えた。キッカケは、数日前に気まぐれでカブトムシ取りに行った事で、雨に降られ、なんやかんやで一つ屋根の下、一泊したからだった。

それ以来、高垣さんとは良くラインをする仲になった。まぁ、大体向こうから一方的に来るんだけど。なんて考えてる間も、俺のスマホは震えていた。

 

【楓:このいくら、いくら?】

 

【楓が写真を送信しました】

 

どうやら、寿司を食べているようだ。写真を見なくても分かる。なんて反応すれば良いのか分からないが、とりあえず反応しておかないと失礼だろう。

 

【慎二:うまそうですね】

 

【楓:今、同僚とお寿司屋さん】

 

だろうな。

 

【慎二:そういえば、ねぎトロの名前の由来ってネギとトロじゃなくて、マグロの骨の隙間のトロの部分をネギ取るって意味があるらしいですよ】

 

【楓:……なんで食事中の人にそういう事言うの?】

 

えっ?なんかマズかった?謝ったほうが良いかな……。でも、理由もわかってないのに謝るのって煽ってる事に……。

 

「何してるんだよ」

 

悩んでると、後ろから声が聞こえた。我が愛しきラブリーマイエンジェル飛鳥たそだ。最近、アイドルを始めたメチャクチャ可愛い天使の化身とも言える妹だ。

 

「んー、ライン」

 

「また?ここの所毎日じゃん。この前知り合ったっていう女の人とでしょ?」

 

「うん」

 

「………エロ兄貴」

 

「なんでだよ」

 

「泊りがけで出掛けて彼女作って来るなんて本当あり得ない」

 

「いや、それとエロは関係なくね。つーか、彼女じゃないし」

 

言っても、飛鳥は「ふーん」と全く信じてない顔で呟いた。なんで飛鳥は、高垣さんの事を話題に出すと機嫌が悪くなるんだろうか……。

 

「まぁ、なんでも良いけど。それより、暇なんだけど」

 

飛鳥の「暇なんだけど」は「遊んでよ」という意味になる。中学に入ってから反抗期なのか、素直に遊んでとは言わなくなった。まぁ、可愛いから良いけど。

 

「ていうか、お前JCでしょ?事務所の友達とかと遊びに行かないの?」

 

「………事務所の友達はみんな仕事なんだよ」

 

飛鳥がアイドルをするにあたって、俺には色々な不安がある。まず、うちの妹がファンに追い掛け回されるなんて考えただけで発狂し、そのファンを全員火山のマグマの中に突き落としたくなるが、飛鳥自身は楽しんでるそうなので、そこは何も言えない。

だが、それ以外にも心配な点は多い。この妹は厨二病なだけあって友達が中々出来ないのだ。だからすごく心配。

 

「おい、本当に?学校はともかく事務所にも友達出来ないのはキツイでしょ?」

 

「平気だよ」

 

「ちゃんと友達いるんだな?ハブられてないんだな?」

 

「ないよ。本当に今日は僕だけオフなだけなの」

 

「それなら良いけど……何かあったら言えよ?虐められてたりしたら、俺がこの世を終わらせてやるから」

 

「うるさい気持ち悪い。良いから暇なら付き合ってよ」

 

「お、おおう…………」

 

気持ち悪いは効いたぜ………。死にたくなった。まぁ、飛鳥の嘘は全面的に看破する自信があるし、大丈夫か。

それより、妹とデートだ。そうだ、高垣さんにも言っとこう。

 

【慎二:妹とデートして来ます】

 

【楓:そう、いってらっしゃい】

 

返事が来て満足してスマホの画面を落とし、立ち上がった。

 

「で、どうすりゃいいの?」

 

「とりあえず、出掛けるの」

 

「まぁ、良いけどよ」

 

「早く着替えてよ」

 

「はいはい……」

 

仕方ないので着替え始めた。さて、妹とのお出掛けだ。全力でエスコートしてやるぜ。

 

 

 

 

着替え終わり、玄関を出た。俺は車の鍵を開けて運転席に乗り込んだ。

 

「? なんで車に乗るの?」

 

その俺に飛鳥が不思議そうな顔で聞いた。なんでって、そりゃお前、車の方が楽だからだろ。

 

「え、なんで?出掛けるなら車でしょ」

 

「歩きで行きたい」

 

「えー。外暑いじゃん。まぁ、別に俺は構わんけど」

 

「じゃあ歩き」

 

仕方ないので、車の鍵を家に戻してから出掛けた。流石、夏休みの頭なだけあって外はバカみたいに暑い。こんな中を歩いて行くなんてうちの妹はマゾなの?

 

「で、何処に行くの?」

 

「AE○N」

 

「は?何しに?」

 

「………水着を買いに」

 

「ふーん……はっ?水着?」

 

「そう」

 

「おい待てどう言うことだ」

 

「えっ?」

 

偉い剣幕で聞くと、飛鳥はビクッと肩を震わせた。だが、この件ばかりは飛鳥がどんなに泣きそうでも聞き出さなければならない。

 

「え、何?海かプールでも行くの?誰と?彼氏か?彼氏じゃないよな?」

 

「ち、違うっ!怒るぞ!」

 

「なんだ、違うのか」

 

ついうっかりアサシンになる所だったぜ……。

 

「じゃあ、なんで水着を?」

 

「………いや、その……今度、悠貴と……事務所の友達と海に行くから、その時のために」

 

「おい待てどう言うことだ」

 

「またっ?」

 

またっ?じゃないから、聞き捨てならないから。

 

「悠貴って誰だ。男か?男だよな?」

 

「違う!悠貴は女の子だ!」

 

「嘘だ!悠貴だぞ⁉︎」

 

「名前くらい知ってるだろ⁉︎乙倉悠貴!」

 

「………ああ、あの子」

 

「知ってるんじゃないか!」

 

「一回だけ飛鳥とユニット組んでた子だよね。マハロ♪マハロ♪で」

 

あの飛鳥より大きい子か。あの子も可愛いよなぁ。すらっとしてて身長高いし。多分、高校生くらいか?この子、可愛いし友達と出掛けるの慣れてそうだから大丈夫か。

 

「あの子と?なら、ちゃんと言うこと聞くんだぞ?」

 

「は?」

 

「歳上の言う事はちゃんと聞いて、逸れないようにしなさい。良いな?」

 

「ぼ、僕の方が歳上だ!」

 

「はっ?」

 

嘘でしょ?この子大丈夫?

 

「え、何言ってんの?大丈夫?」

 

「本当だよ。……悠貴はあの身長で中一なんだ」

 

「……………」

 

えっ、てことは何?この子達、中学生二人で海に行くつもりなの?待て待て待て、そんなのお兄ちゃん許さない。

 

「おい待て。まさかとは思うが、二人だけで行く気?」

 

「? そうだけど?」

 

「アホか!そんな事させられるか!」

 

「な、なんでだよ⁉︎」

 

「まだ中学生じゃん!そんなので田舎の海に行ったら、ブヒブヒしたモラルもヘッタクレもない奴らにブチ犯されるぞ⁉︎」

 

「田舎に対してどんなイメージ持ってんの⁉︎ていうか、そういう事大声で叫ばないでよ!」

 

顔を赤くして怒鳴り返して来る飛鳥可愛い嫁にしたいが、それとこれとは話が別だ。

 

「とにかくダメだって。危ないし、海の波の引き潮ってバカにならないからな?大人だって流される事あるんだから。保護者がいないと……!」

 

「で、でももう約束しちゃったし………!」

 

「えぇ……」

 

せっかくの友達との約束をアレするのは気が引ける……。

 

「向こうの親は?」

 

「悠貴の実家は岡山だよ」

 

「中学生に東京で一人暮らしさせんなよ……」

 

「いや、うちの事務所って寮あるから」

 

そうなんだ……。しかし、どうしようか。向こうの親は期待出来ないし………。事務所で保護者になれる人はいないのかなぁ。勿論、女の人で。

 

「………じゃあ、さ」

 

悩んでると、飛鳥が恐る恐るといった感じでポツリと呟いた。

 

「………兄貴が来てよ」

 

「はっ?」

 

「兄貴も、一緒に来れば良いじゃん。車の免許もあるんでしょ?」

 

「あー……まぁ、確かにそうだけど……」

 

俺が保護者か……。まぁ、それなら問題無いか。何より、飛鳥が水着で波と戯れる姿が見れるのか……悪くないな。

 

「良いよ。行こう」

 

「っ……!」

 

うわっ、すっごい嬉しそうな顔。うちの妹ほんとかわいい。

 

「や、やった!じゃあ、早く水着買いに行くぞ!」

 

「はいはい……」

 

目の前ではしゃぐ妹を見ながら、俺も内心はしゃいでいた。ビデオ、フル充電させて行こう。

 

 

 

 

デパートに到着した。中にある水着屋に入り、飛鳥は元気良く中を見回る。その後ろを俺はついて行った。幸運にも、俺と飛鳥は良く似ていると言われるので、通報される事はなかった。

 

「………ふむ、セカイが選択せし水着、か…………」

 

おい、聞こえてんぞ飛鳥。小声で言っても聞こえてる。まぁ、俺の厨二はそんなもんじゃなかったから、そういう意味でも可愛いもんだ。はははっ……今思い出しただけでも死にたくなるぜ……。何だよ、Death日記って……完全にデスノートと未来日記足して2で割っただけじゃねぇか……。

………あ、ダメだ。これ以上考えるな死にたくなって来た。

 

「なぁ、飛鳥。俺、外に出てても良い?」

 

とりあえず、一人になりたかった。だが飛鳥はジト目で俺を睨んだ。

 

「ダメ。一緒に選んで」

 

「いや……別に良いだろそんな……。自分の好きな水着を選んだ方が良いでしょ?」

 

「………じゃあ、兄貴のタイプを教えてよ」

 

「はぁ?なんで」

 

聞き返すと、飛鳥は頬を赤く染めてポツリと呟いた。

 

「そっ………それがっ、僕の……タイプだから………」

 

「はっ?大丈夫かお前」

 

「………いらり」

 

え?れんちょん?

 

「………意地でも選ばせるから。早く選んで」

 

「えっ、じゃあ……」

 

「テキトーに選んだら張り倒すから」

 

「むしろ張り倒して下さい!」

 

「あ?」

 

「や、なんでもないです」

 

飛鳥って怒るとすごく怖いわ。今「あ?」って言ったよ「あ?」って。

しかし、飛鳥に似合う水着か……。なるべく厨二チック且つ厨二病に見えない奴が良いよなぁ……。飛鳥的には色は暗めの方が好きだろうし……多分、赤黒が好き。だけど、それじゃ面白くない。

 

「……あ、兄貴。なんか周りの人が見てるよ………?」

 

あと、俺としては露出度高い方が良い。他の男に見られるリスクもあるが、俺が見れるリターンもある。

よしビキニ決定。どうせ、俺が選んだってバレるのは精々、飛鳥と乙倉さんだけなんだ。俺への直接被害は皆無に等しい。

とりあえずビキニで……色だな。飛鳥が好きそうな厨二っぽくて赤黒じゃないの……。思い出せ、俺の錆び付いた厨二魂を極限まで高めろ!

 

思い出したくない思い出(封印されし記憶)・解放‼︎」

 

「っ⁉︎」

 

ビクッとする飛鳥を他所に、俺は思考回路を巡り巡らせた。厨二病にとって外せない色は黒、それなら黒に合う色を探せ。飛鳥は髪の色が明るいから、服装は多少暗くてもバランスは取れる。黒に合う中で俺の厨二心をくすぐらせる組み合わせを思い出せ。

 

「あ、兄貴……店員さんの注目集めてるよ………?」

 

来た………!黒紫だ!クールなイメージがあり、尚且つ混沌と闇を連想させる完璧な配色!

そのビキニを探し出せ。俺はビキニコーナーに向かい、紫と黒の水着を掘り出した。

 

「飛鳥!これでどうだ⁉︎」

 

「お客様、ちょっとよろしいですか?」

 

「えっ?」

 

店員さんが目の前にいた。飛鳥はいつの間にか店の外で待機していた。

とにかく、謝り倒した。

 

 

 

 

水着を買って、飛鳥はトイレに行った。アイドルだってトイレはするんだ。飛鳥が用足したトイレの残り香だって嗅いだことある。そんなファンにブッ殺されそうな事を考えながらスマホをいじってると、何となくふと思った。

考えてみれば、当日の保護者は俺であり、他所の家のお子さんも俺が見なきゃいけないわけだ。つまり、その子に何かあったら俺の責任になるって事だよな。

 

「……………」

 

あ、ヤバイ。なんか嫌な汗が………。そう思うとすごく緊張して来た。飛鳥だけならまだ良い。何度か二人で出掛けてるし。だが、他所のお子さんともなれば話は別だ。つーか、アイドル二人にもし何かあった時の損害もやばそう。飛鳥は大丈夫だと思うけど、乙倉さんはどういう子なのかも分からないし、万が一ヤンチャな子だったらどうしよう……。

 

「……………」

 

………もう一人、せめてもう一人保護者が欲しいな……。でも、俺の大学の知り合いは無理だし……。

あ、でも一人だけ良い人がいるかも。俺はスマホを取り出した。

 

「もしもし、高垣さん?」

 

『二宮くん?どうしたの?』

 

「次の土日、暇ですか?」

 

『ちょっと待ってね。………うん、空いてるわよ』

 

よし、なら頼むか。

 

「海行きませんか?」

 

 


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