楓さんと男子大学生   作:ブロンズスモー

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起床、後悔、挨拶、乗車、妹と通話、別れ。

 

 

翌朝、目を覚ますと、目の前の高垣さんはいなくなっていた。今更になって、昨日言った台詞を思い出し、恥ずかしくなる。何だよ、手を繋ぐって……アホか。つい、昔妹にやったようにしちまったけどよ……。

 

「………死にたい」

 

そう呟きながら、とりあえず立ち上がった。眠ぃーわ。さて、帰るか………。

欠伸をしながら伸びをすると、隣からオッさんの声が聞こえた。

 

「おはようございます」

 

「っ?」

 

ビックリした……。え?ていうか誰かなこの人。も、もしかして高垣さん⁉︎まさか、昨日ビール飲みすぎて酔ってて、高垣さんを見間違えてたのか⁉︎あんな美人な女性は幻想だったってことか………⁉︎

………てことはさ、昨日俺はこのおっさんと手を繋いで寝たってことか⁉︎

 

「あああああああああ‼︎嘘だああああああああ‼︎⁉︎」

 

「っ? ど、どうしたんですかっ?」

 

「死ねええええええ‼︎くたばれ俺えええええええええ‼︎」

 

「ちよっ……楓さん、この人はどうかしたんですか?」

 

「二宮くん、落ち着いて?」

 

高垣さんが入って来た。えーっと……じゃあその人誰なの?

………ああ、もしかして昨日言ってたプロデューサーさんかな?

 

「初めまして。うちの高垣がお世話になりました。346事務所プロデューサーです」

 

言いながら男の人は名刺を差し出してきた。正解かよ。

 

「あ、えっと、二宮慎二です」

 

「これから、あなたをお送り致します」

 

「え?マジすか?」

 

「マジです。二宮さんの服はとても着られる状態ではなかったので、こちらでご用意しました」

 

「マジすか⁉︎」

 

「マジです」

 

おいおいおい、マジでか!なんだよ、何の事務所だか知らんけどメチャクチャ良いとこじゃん!神様かよ。

プロデューサーさん……長いな、Pさんでいいや。Pさんは紙袋を差し出してくれたので、俺はありがたくそれを受け取った。

どんな服だろう、と思って広げてみると、「346」と黒い文字で真ん中に書いてあるだけの白いTシャツと真っ青の半ズボンだった。

 

「………………」

 

なんか、ポケモンの虫取り少年みたいだな。いや、贅沢は言わないけど。

とりあえずさっさと着替えて、荷物を持って部屋を出た。高垣さんと挨拶して、宿の方に挨拶して宿を出た。

車に乗り込み、高垣さんの隣に座って言った。

 

「いやーなんか申し訳ないです。服まで用意してもらって(スゲェダサいけど)」

 

「ふふ、まぁ別に何か私がお世話してもらったわけじゃないから、ここまですること無いかもしれないけれどね?」

 

「いやいや、高垣さんには色々とお世話したでしょう。夜中に雷が怖いとかむぐっ」

 

口を押さえられた。

 

「………他の人の前でそれは言わないで」

 

「っ、っ」

 

頷くと、手を離してくれた。なんだこの人、すごく怖い。

 

「それに、どちらかと言うと私の方がお世話したのよね?宿の手配とか」

 

「いや、それはプロデューサーさんがやってくれた事ですし」

 

間違った事は言ってない。高垣さんは「それもそうね」と微笑んだ。

 

「そういえば、結局カブトムシは取れたの?」

 

「昨日ですか?取れませんでしたよ?」

 

「あら、そうなの」

 

「はい。何度かこの山には来てるんですけど、大体いそうな木っていうのは覚えてるんです。………でも、今年はスズメバチとカナブンしかいなくて………」

 

「えっ……す、スズメバチ?」

 

「宿の方が珍しい虫多かったくらいですよ」

 

「………む、虫なんていたの?」

 

「え?女子風呂にはいなかったんですか?こっちには蜘蛛とかカマドウマとかいましたけど。写メ撮りましたけど見ます?」

 

「見ないわよ。ていうか、カマ……なんとかって何なの?」

 

「虫です。脚が異様にデカいコオロギみたいなの」

 

「その虫、絶対に見せないでね。普通に気持ち悪いから」

 

「分かりました。それはそうと、ライン交換しませんか?」

 

「送る気満々じゃない。……二宮くんって、意外と意地悪なのね」

 

いやそんなつもりはないんだけど、昨日の夜の一件以来、なんかすごい親近感というか……なんか、こう……なんか、なんか絡みやすくなった。まぁ、ナンパするつもりはないけど。

 

「でも、ラインの交換くらい良いわよ」

 

「え?良いんですか?」

 

「………楓さん」

 

運転してるPさんが口を挟んで来た。すると、高垣さんは前屈みになって後ろから耳元でボソボソと呟いた。

 

「………大丈夫ですよ、彼は悪い人ではありませんし、私の事も知らないみたいですし」

 

「………まぁ、楓さんのプライベートの友達という事でしたら」

 

「………ありがとうございます」

 

何をボソボソ話してるのか聞こえないが、まぁ何か事情があるんだろう。

高垣さんはPさんから離れると、スマホを取り出した。

 

「はい、私のQRコード」

 

「あ、本当にくれるんだ。どうも」

 

ラインを交換した。まさか、俺のスマホの連絡先に歳上でなんの接点もない人の連絡先が増えるなんて。本当、人生何が起こるか分かったものではないな。

そう思ってスマホの画面を見ると、着信が57件あった。しかも、一人の人物から。

 

「………すみません、高垣さん。プロデューサーさん。妹から着信が57件来てて……」

 

「ご、57………?」

 

「ちょっと良いですか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

Pさんに許可をもらってかけ直した。

 

『もしもし⁉︎お兄ちゃ……兄貴⁉︎』

 

相変わらずノーコールで出やがった。こいつ暇なのか?

 

『何処で何してたんだよ!泊まり掛けで⁉︎』

 

二宮飛鳥、俺の妹で厨二病だ。まぁ、もっともその厨二キャラは俺には隠してる。バレバレだが。

 

「あー……悪い、カブトムシ取りに来たら雨降ってきて帰れなくなってて……」

 

『そ、そうならそうと言ってよ!心配したんだから!』

 

「悪かったよ。てか、今車の中だから。後で掛け直す」

 

『く、車⁉︎誰の車に……!』

 

「ねぇ、二宮くん。私も妹さんとお話ししてみたいんだけど」

 

『っ⁉︎ 今女の人の声が………‼︎』

 

「すみません、妹はちょっとアレな子なんで。なるべく、妹が高校に上がって自分を省みる機会が出来てからにして欲しいです」

 

『アレってどういう意味だよ!ていうか全体的にどういう意味だよ⁉︎』

 

「じゃ、駅着いたらまた連絡するから、じゃあな」

 

『あっ、ちょっと待っ』

 

通話と電源を切った。

 

「すみません、車内で」

 

「いや、良いのよ。でも、代わってくれても良かったじゃない」

 

「いや、マジうちの妹はイタい子なんで。まぁ、そこが可愛いとこでもあるんですけどね」

 

「あら、妹さんの事好きなの?」

 

「それはもう。あんなイタ可愛い妹この世にいませんよ」

 

「そ、そう……」

 

あれ、今軽く引かれた?そんな引かれるような要素あったか?

そんな話をしてるうちに駅に到着した。ここからなら、電車一本で帰れる。

 

「着きましたよ」

 

Pさんはそう言うと、ドアを開けてくれた。なんかリムジンに乗ってる気分だった。

 

「すみません、わざわざ送ってもらっちゃって」

 

「いえ。それではまた」

 

「またね、二宮くん」

 

「あ、はい」

 

Pさんと高垣さんと挨拶して、車から降りた。車を見送った後、俺はとりあえずスマホを取り出した。

………さて、愛しき妹に電話しなきゃ。電話をかけると、ずっと罵られた。

 

 


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