紅美鈴の現代入り ~東方格闘記~   作:suryu-

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鉄拳世界を知る人だからこそ分かるこの感じ。真面目に平和です。

今回見た人は多分あの人達が生きている事にびっくりするかもしれません。ではお楽しみを!


二話 買い物の新宿fightTime

「それにしても、幻想郷。か」

 

”先程美鈴さんと戦った自分としては、あの言葉が嘘に見えない。”

 

羽麗は心の中で呟きながらも少し前に雑談しながら友人の仁に見せてもらった文献を思い出す。

 

八条家の血を浄化するもの。幻想よりその存在は現れる。鬼悪魔を祓うと共に、世界を平和にと分岐させる。

その者が暮らすは幻想郷。神々や魑魅魍魎など忘れ去られし者が過ごす楽園は、今も我らの隣にある。

 

その言葉は今も鮮明に覚えている。妖怪や幽霊に神々など、普通なら信じ難いが仁は言っていた。

 

『一美お祖母様や父は幻想郷からの来訪者に救われたらしい』

 

仁は何か遠いものを見るかのようにその事実だけを告げていた。

そんな情景を思い出しながらも今自分の家に現れた紅美鈴の生活用品を買うために、出かける用意をしたかと思えば彼女の下へと向かうことにした。

 

「美鈴さん。それでは買い物に行きましょうか」

 

「いやぁ、すいません。私の為に修練の日に……」

 

「構いませんよ。では、向かうとしましょうか。ショッピングのお時間です」

 

実は、高三ではある羽麗は一応十八歳を迎えている為に免許を持っている。それゆえ美鈴のエスコートをしつつ家の鍵を閉めて車へと案内した。

その車はRX-8という所謂スポーツカー……というよりかは、スポーツカー風と呼ばれているその車なのだが羽麗はかなり気に入っている。

何故ならば峠であろうと首都高であろうと、この車は本当に走れるのだ。スポーツカー風とは呼ばれているのだが、それは先代のFDRX-7が改造によりより速さを求めることが出来るからと言うだけであって、ノーマル同士ならばサーキット等ではエイトの方が速いのだ。

普段は格闘技に力を入れていることから車に手を出したのは息抜きでもある為、実はきっちり弄ったりもしてるのだがそれは別の話。

 

「これが車ですか。初めて見ますが、本当に鉄の塊なんですね」

 

「なるほど。あなた達で言う外の世界の知識は無い訳ではないのですね。まぁ、乗れば良さは分かりますよ」

 

羽麗は車の知識がある事に驚きを感じつつも、全く文献がないわけではないのだな。という事実を頭に刻みつつ美鈴を隣に乗せて車を走らせる。

車が動き出すと「おお……」と美鈴が漏らした感嘆の声に可愛らしいなという感想を抱きながら、ショッピング街へと向かい始めた。

 

「それにしても、車とはかなり速度が出るんですね。空を飛ばない代わりに地面を走るものが発達してるんでしょうか?」

 

「空を飛ぶ? ……まぁ、妖怪でしたよね。それなら有り得なくもないし知り合いにもそんな存在が居るから納得出来ますけど。まぁ、確かにそういう事になりますね」

 

美鈴の空を飛ぶという発言には余り驚きはない。というのも知り合いには忍者やらなんやらが既に存在しているから、改めて考えるとそこまで不思議にはならないのだ。

ただ、一般論からするとずれてないかと言われたりしても仕方ない話ではあるが。

 

 

 

■■■

 

 

 

とにかく、買い物の場所に選んだのは新宿。パーキングに車を止めると美鈴と共に羽麗は車を降りた。

 

「凄いですね。高い建物がこうも多く鎮座するとは……」

 

「まぁ、ここは都市ですからね。美鈴さん。田舎になるとそうでもないですよ」

 

新宿。色んな意味で羽麗には思い出がある場所なのだが、その話は今はせずに美鈴の手をとる。

「え、え?」と混乱しながらも赤面する美鈴に「はぐれない為ですよ」と優しげな笑みを向けたあとに歩き出す。

羽麗としては女性の手を引く事に不慣れな為若干の緊張はあるものの、相手である美鈴も同じなのか緊張を感じるため少し安心しながら彼女を連れる。

 

「う、羽麗さん。なんだか視線を感じるんですが……」

 

「此処には恋人同士の人が来ることもありますし、それに美鈴さんは美人でその上チャイナドレスを着ているからではないでしょうか?」

 

「……やけに冷静ですね。他にこんなことをしたことがあるんですか?」

 

「いえ、まさか。ありませんよ」

 

視線を浴びる事で美鈴は羞恥心を覚えているのだが、羽麗はこの際だとその視線を流して楽しむことにした。

でなければ、自分も雰囲気に飲まれてしまうということになるのだから、意識から外すのは当然の事。

対して美鈴は美人という言葉を受けて内心嬉しさを覚えるのだが、羽麗が手慣れている様子に見えてジト目を向けてしまう。

そもそも自分は恋人なんていた事がないのだ。と彼女は自嘲しながらも手を引かれることを良しとしているから自分も大概だな。と少しだけ笑ってしまった。

そんな様子を眺めた羽麗も微笑むのだが、その様子を見ていた周りが羨ましそうに呪詛を呟く阿鼻叫喚な絵面となる。

そして、今回の最初の買い物は服。やはりチャイナドレスは目立つ為に羽麗はそこからどうにかしようと思っていた。故に服屋に美鈴と共に入ると、ふむ。と悩む。

 

「美鈴さんに、似合う服はなんでしょうか……」

 

「私は動き安ければそれで……」

 

「ダメですよ。美鈴さんは女性ですし、美しい。着こなせばさらに美貌を高めることが出来る。そう思います」

 

「び、美貌ですか」

 

正直な話、美鈴はこの手の言葉には慣れてない。男性経験など修行や門番に費やしていた為にあるはずがないのだ。

それにも関わらず羽麗からはこうも女性を揺るがす言葉を向けられるのだから自分ばかりが赤面してばかりで納得はあまりいかない。

こういうのを女たらしと言うのではないか。と素直に脳内に浮かんだ言葉を小声でつぶやく。が、羽麗には幸いにも聞こえることは無かったようだ。

羽麗も羽麗で自分からさらりとこんな言葉が流れ出るとはと思うのだが、知り合いの社長の影響だと思う事にする。

エクセレントが口癖のその社長は二枚目としても有名な人物で、格闘技も強い事から何度か手合わせもしている。だから移ったのではないかと勝手に思う事にした。

 

「さて、これなんかどうでしょう。これもいいですね……」

 

「あ、あの?」

 

「さて、美鈴さん。これを着て見てください。試着室と言って着替える場所は此処ですよ」

 

「えっと……はい」

 

美鈴は羽麗から手渡された服を着てみる事になるのだが、こうして異性から勧められた服を着ることも当然初めて。

とはいえ、これが現代の服なんだと思えばその服を着てみるのだが、普段チャイナドレスばかりの美鈴からすると新鮮なものである。

鏡に写った自分を見ては、「これが私?」と疑問に思うくらいには衝撃的。

そしてこれを羽麗に見せるのかということに恥ずかしさを少なからずに感じると躊躇うのだが、意を決してカーテンを開いた。

 

「ど、どうでしょう?」

 

「……凄く、綺麗です」

 

羽麗は開いたカーテンから現れた美鈴を見て、息を呑む。

純白のワンピースに麦わら帽子。そしてサンダルという有り触れたシンプルな組み合わせではあるのだが、彼女が着ると何もかもが違うと思えた。

赤がかかった長髪に、端正な顔立ち。ワンピースの下にある肢体はグラマラスで妖艶な雰囲気を匂わせつつ、麦わら帽子のあどけなさが少女である事も決定づける。

清楚でありながら女性の魅力と色香がたっぷりのその立ち姿には、流石の羽麗も惚けることしか出来なかった。

 

「あ、あの。羽麗さん?」

 

「……」

 

「羽麗さんっ。何か言ってください……恥ずかしいです」

 

「あ、あぁ。すいません。店員さん。これ。買いますね」

 

「畏まりました。レジにてお受けします」

 

綺麗ですと一言述べたあとから羽麗はその美しさに見惚れていたのだが、美鈴から肩を叩かれてはっとする。

天使にも見えたな。と内心舌を巻きながら即座に購入を決めると店員に告げた。

これでも彼は稼いでいる事から懐には余裕がある。この程度の出費等。と考えながら彼女にいくつかの服を買うと良い物が見られた。そう思って店から出るとそこには思いがけない人物が居た。

 

「あれ、羽麗?」

 

「……どうした。鍛錬の日ではないのか?」

 

「あ、仁に暁雨。色々あるんだ」

 

その人物とは学校にて一緒の二人。風間仁と凌暁雨という人物だ。

仁は炎の柄の入ったパーカーとズボンを纏い、鍛えられた肉体を隠している好青年である。羽麗とはよく鍛錬をする仲でもある。

暁雨も同じく学校の仲間で、その見た目はツインテールにチャイナドレスとスパッツという組み合わせ。彼女も仁や羽麗と修行をする中国拳法家の卵だったりする。

そんな二人を見て美鈴は少しばかり気が揺らいだ。

 

「羽麗さん。その二人は?」

 

「美鈴さん。私の鍛錬仲間で友人ですよ」

 

「わぁっ、羽麗。その人凄い美人だね!」

 

「お前が女連れなど珍しいな。何があった」

 

暁雨は無邪気に笑いながら美鈴を褒めるのだが、仁の様子は何か訝しげなものを見る目で美鈴を見る。

やはり、仁も羽麗と拳を合わせる仲だからこそか美鈴の格闘家としての気に気づいたのだろう。

更には妖怪という事もあり常人とは違う気もある筈。その気の違いを比べた結果の目線なのだ。

 

「仁。前に見せてくれた文献関係。といえば分かるかな?」

 

「……まさか、幻想の。とでも言うのか?」

 

「その通り。まぁ詳しく話すとなると後でかな」

 

仁は頭の回転が早く羽麗の言葉からその関連したワードを引き出すと同時に理解までする。

暁雨は首を傾げるが、仁は何も言わずに構えた。その立ち姿にまさかなとは思うがその通りだった。

 

「構えろ。その美鈴という女性かお前が拳で語れ」

 

「やれやれ。ここ、新宿のど真ん中だよ」

 

「構わん。丁度ストリートファイトが出来る時間だろう」

 

「平八さん……まだそれを辞めてなかったのか」

 

全くだ。と遺憾の意を込めると同時に羽麗が構えようとした時、美鈴が遮った。

羽麗はなるほど。と頷くと一歩下がる。暁雨は「ち、ちょっと仁!?」と止めようとするも仁は構えを解かない。

 

『ストリートファイト。許可時間になりました』

 

アナウンスが鳴ると同時にどこからかレフェリーが現れる。

 

”新宿ストリートファイト許可時間”

 

三島財閥という日本や世界の政界と繋がりのあるその財閥は、格闘一家ということでも有名な存在である。

当主と会長である三島平八と三島仁八が特定の時間特定の場所で、ストリートファイトを許可する事を決定づけた時には世に震撼が走った。

というのも、定期的に The King Of Iron Fist Tournament という大会が開かれるために、それに出場する選手達が日々精進するための場を作ったのである。

勿論ストリートファイトとは言うものの、レフェリーは現れる。三島平八と三島仁八が用意したのだ。

ともあれ、そんな事情からストリートファイトは推奨され、格闘技界には以前よりも熱が入るようになったのだ。

 

そして今レフェリーが眺める中、仁と美鈴は構えをとった。仁の構えの流派は正統派空手。拳を顔と胴の近くに構えている。対して美鈴は羽麗と戦った時と同じ、左手を前に出し右手を拳に固め腰あたりに据えるもの。

 

「それでは、やりましょうか」

 

「……そうするか」

 

”fight!”

 

仁と美鈴は合図と共にお互いに拳を繰り出しお互いに紙一重で避ける。最初からの攻防にギャラリーは沸き立ち始めた。

二人共後方に飛ぶと、ニヤリと笑う。この初手にて相手が相当の手合だということを感じるのだ。

 

「ふふ、楽しめそうですね」

 

「ああ、お互いにな」

 

仁と美鈴はじりじりとにじり寄るようにゆっくりと動く。まるでタイミングを推し量るように。

そして、好奇と見たのか美鈴が仕掛ける。素早い動きから繰り出される蹴りは仁のガードに阻まれる。

返すように仁はカウンターとして中段突きを繰り出すものの美鈴はそれを後ろに飛んで回避した。

 

「なかなかに素早いな。どれ程修練を積んだか」

 

「それはどうも。貴方も力がありますね」

 

「ふっ、伊達で鍛錬を行っている訳じゃないからな」

 

二人はそんな会話をするのだが、お互い技を繰り出す中での会話。普通ならば有り得ない状態なのだが訓練を積んでいるからこその妙技なのである。

だが、時間はそこまでない。レフェリーが時計を見ているということは残り時間が少ないということ。

美鈴はここで確実にということで仁の防御を崩すために急速に構えを変えて、力を溜め込む震脚で踏み込み一気に背中をぶつける。

 

「鉄山靠っ!」

 

「なっ!?」

 

さらに震脚で懐に踏み入ると頂肘ではなく二つの手を開き内部に力を送るように叩きつけるその技を放つ。その名も。

 

「双掌打ぁっ!」

 

「ぐぅっ!?」

 

そしてその双掌打が決まった所でカウントはゼロになる。レフェリーがストップの合図をかけると勝負は終わった。仁は完全に耐えきり引き分けである。

 

「……久々になかなかの手合いに会えた。拳を合わせた今ならわかる。信じよう」

 

「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございます」

 

二人が手をとる事で、この試合は終わる。その様子を見ていた羽麗は笑みを浮かべ、暁雨は動くことが出来るまでに少しかかった。


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