shed~短編の倉庫~   作:Flagile

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ハーメルンでとある作品を読んだ時に思いついてそのまま書き上げてしまったプロローグです。続きません。


例えばこんな神様転生

 神様転生というのを知っているだろうか?ネット小説でよくあるテンプレな物語のスタートの仕方の事だ。トラックに轢かれて死亡して、神様の手違いだから転生させてあげるよ、というヤツだ。ついでにお詫びの印にチート能力を貰えたりもする。

 

 さて、いきなり神様転生の話なんて始めて一体なんなんだと思うかもしれない。だが、私にとって非常に重要な話なのだ。何故かって?

 

 私が神様転生の当事者だからだ。

 

 何を言っているのかと思うかもしれない。この科学万歳な21世紀に頭が沸いてる発言して恥ずかしくないのかとか思われるかも知れない。だが、厳然たる事実なのだ。私は神様転生をした。まずはその事を取り敢えずでも良いから受け入れて欲しい。

 

 そして私は今とても追い詰められている。死の瀬戸際まで追い詰められている。だから、落ち着いて私の話を聞いて欲しいのだ。そしてできればどうすれば良いのかアドバイスしてくれると嬉しい。

 

 さて、ここまで聞いてくれたと言うことは話を聞いてくれるという事だと思う。そろそろ私が抱えている問題について話そうと思う。そもそもの始まりは転生する直前に神様が付け足した一言だった。足元の魔法陣が光り輝き、前世への未練と新しい生への期待と不安、そんな物が心を占めていた時に神様が言ったのだ。

 

「……忘れていた。原作に関わらないと死ぬから、よろしく」

 

 そして何か言う間もなく私は光の中へと消え転生した。私はその時に始めて創作物の世界に転生するのだと知った。これは私の手落ちもあるだろうが、神様が別の世界とだけしか教えてくれなかったからだ。色々尋ねてみたのだがランダムだから神様にも分からないと教えてくれなかったのだ。ただ神様の言い方からてっきり異世界ファンタジー(なろう)な世界に転生するのだと思い込んでいたのだ。だから最後の最後で二次創作(ハーメルン)の世界だと知らされ驚いたのだ。最もその時は驚く暇もなかったが……。

 

 まぁ、そんなこんなで転生したのは良しとしよう。原作に関わらないと死ぬと知ったからには原作に関わってやろうじゃないかと当時は奮起した物だ。正直に言おう。それまでは異世界でそれなりに生きいければ十分と思っていた。だが、そんな甘い考えは許されないと知った以上、全力を尽くす覚悟をしたのだ。

 

 そして転生して数年、赤ん坊(暗黒)時代を過ごした俺は本格的に情報収集を開始する。まずは何を置いても一体何の世界に転生したのか知る必要があったからだ。残念ながら赤ん坊の身ではあまり情報を集めることができなかったからだ。分かっていたのは限りなく現代に近い世界だ、という事だけだった。

 

 ニュースがお気に入りの赤ん坊というちょっと変わった子供だった。だが、幸いな事に今生の両親はそんな変な子供を愛してくれた。赤ん坊時代を生き抜いた頃にはこの両親のためにも先に死ぬわけにはいかないし、死なせるような事も避けなければならないと思ったものだ。

 

 そんな話はさておき、ある程度喋れるようになった私は運良く求めていた物をねだることに成功する。地図だ。図書館に連れて行って貰った時にまだ辿々しい口とひ弱な手足をフルに使って手に入れたのだ。なぜ地図なのか?赤ん坊の回らない頭を必死に回して考えた原作を知るための方法、それが地図だったのだ。創作物の世界は特徴的な地名が多い。例えば海鳴市、あるいは冬木市、そんな都市の名前を見つけ出せば未だに判明しない原作の名前が分かるという寸法だ。

 

 結論から言おう。この試みは失敗に終わった。既に薄れかけている前世の記憶と比較しておかしいと思える地名など見つからなかったのだ。逆に言えばこの世界はFateやなのは、ネギまの世界ではないという事は分かったから収穫がなかったという訳ではないのだが、これには凹んだ。

 

 とは言えいつまでも凹んでばかりもいられない。すぐに次の手を実行に移した。歴史だ。歴史を紐解き、前世の記憶と比較するのだ。そのためにまた本をねだった。まずはマンガ日本史を攻めてみる。いろいろと知らない事が学べて面白かった。……が、ここで大きな問題があった。私は決して歴史に詳しくないのだ。それでも原作に繋がる『何か』がないかと片っ端から読破していく。両親からは私はえらく本好きな子供だと思われてしまったようだ。前世の事を考えれば決して本好きな人間ではないのだがそれもむべなるかなと言ったところだ。

 

 もう結論が分かってしまったかも知れないが、この方法も失敗に終わった。この段階で私は本格的に焦り始めたと思う。何せこのままでは最短で数年以内に死亡するのだ。インターネットはまだ普及していない中、情報探すには図書館とテレビしかなかった。だから片っ端から図書館の本を読破して何か手がかりがないか探したものだ。

 

 逆の手法も試してみた。思いつく創作物を片っ端から挙げ、それに関連しそうな事柄について調べるのだ。だが見つからず幾つか候補を絞り込めただけだった。そもそも私が知っている原作なのかすら怪しく思えてきた。だが、そんな事を言ったら元も子もない。だから諦めずに調査に邁進した。

 

 学校が舞台の原作が多いと思いつけば片っ端から学校名を調べた。受験がある進学校はともかく公立の中学校や小学校を調べる事は困難を極めた。だが、ここまで来たら意地だった。3万校を越える学校を虱潰しにした。途方もない労力を費やした末、徒労に終わる。途中で薄々感じていたのだが舞台になった学校の事などあまり覚えていなかったのだ。その過程で有力だと思っていたテニプリの世界ではないらしい事が分かった。

 

 さて、もう私が何故追い詰められているのかは明白だろう。そう、私は原作に関わらないといけないのに原作を見つける事ができなかったのだ。

 

 小学校時代、まだ諦めきれない私はあらゆる事を調べた。その過程で幼児離れした知識を得ていた私は親の勧めもあり小学校受験をした。今生で得た豊富な知識、そして大人として生きてきた経験、それらが合わされば小学校受験なんて問題ではなかった。

 

 親には心配させないように気を配っていた『つもり』だったのだが、やはりつもりはつもりでしかなかった。勧められた学校はギフテッドに対応した学校だったのだ。ギフテッド、即ち先天的に高度な知的能力を持つ者、そう思われていたのだ。思い返せば当然の結果だと今なら言える。だが当時は驚いた。何せアメリカやヨーロッパで専門の教育を受けるかと尋ねられたのだから。両親にそれ程の覚悟をさせてしまったことを私は恥じた。

 

 小学校に入った私は何が起きても大丈夫なように身体を鍛え始めた。それまでもそれなりに運動はしていたのだが、やはり調査最優先だったからだ。それを調査の優先度を下げ、近所の剣道道場に通い始めたのだ。

 

 そして中学、原作について何も分からず、知識と身体を鍛える日々。幸いなことに友人に恵まれ、部活も始めてみる。この段階でまだベイビーステップが候補に残っていたのでテニスを始める事にする。学校から初めて全国大会に出場するという快挙を達成し、2回戦進出という結果を残すことができたが、結局どうも違う事が分かる。

 

 もう半ば吹っ切れていた。ここまで調べても分からないという事はゼロの使い魔みたいな召喚系の作品の可能性だってあるのだ。そうであれば自分にできることは召喚されるのを待つことだけだ。それでも私は調べ続けていた。調べても、いや調べるほど新しく学ぶことが増えていく事に快感を覚えるようになっていたのだ。

 

 中学校生活も終盤を迎え、高校受験に備えて受験勉強に励んでいた時の事だった。良く晴れた日の事だった。見たいテレビがあって電源を付けた時の事だった。ニュース番組だった。塔矢行洋引退。その言葉が目に飛び込んできた。

 

 風化しかけた記憶に襲われる。ヒカル!進藤ヒカル!ヒカルの碁!なぜ思い至らなかった!塔矢行洋!五冠の棋士の引退、知識としては知っていた。なのに思い出せなかった。

 

 ようやく私は原作の名を知ることができた。だが、これからどうする?記憶も朧気だが塔矢行洋引退時には既にヒカルはプロになっていた筈だ。いや、待て。もしかして私はヒカルと同い年なのではないだろうか?いや、そんな事はどうでもいい。問題なのは既にヒカルの碁の終盤だ、という事だ。今から囲碁に挑むのか?授業でやったことはある。だが果たして自分に才能などあるのだろうか?

 

 死が目前まで迫っている。もう間に合わないかもしれない。それでも諦めることなどできようはずもない。こうして話すことで整理ができたように思う。とにかく芽があろうとなかろうと囲碁を始めよう。そして明日にでも会いに行くのだ。進藤ヒカルに。それで何が変わる訳でもないかもしれないそれでも縁を繋げば何か起こるかもしれない。もうその僅かな可能性に掛けるしかないのだ。

 

 


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