「あやや、椛じゃないですか!どうしたんですか?」
「近くに来たので挨拶に伺いました。」
射命丸さんに声をかけて挨拶する彼女。年老いた髪ではない透き通った白髪で腰には刀。射命丸さんのように頭に頭襟をしている。
「ところで、隣の子の方は」
「彼は四条 周くん。うちで新聞記者として働いてもらってるんです」
「あ、で彼女は犬走椛。妖怪の山の哨戒を仕事にしている天狗です」
ご紹介に預かったのでよろしくお願いします、と一言。犬走さんもニコッと微笑んだ。
「立ち話もなんですし、家で話しませんか?」
射命丸さんの提案に乗って家に入っていく。犬走椛、仲良くしていけたらいいが....
「お二人とも座っててください。お茶入れてくるので。居間まで案内されると僕ら2人を残して射命丸さんは台所へと向かった。今机を挟んで僕と犬走さんは対面している状況だ。初対面なのに、気まずい。顔を見ないように机の模様を目で追う。
「四条 周、あなたは人間?」
その沈黙を切り裂いて犬走さんは話しかけてきた。顔を上げるとそこには先ほど射命丸さんに見せた顔とは別の落ち着いた表情を見せていた。
「はい」
「それにしては、妖気が多い」
「そうゆう人間もいると射命丸さんに教えてもらったので」
そう、犬走さんが話を区切ると、また沈黙が僕らの間に生まれる。なんだろうこの人、淡々と聞いてくる姿勢に、僕と仲良くなりたいという好意を微塵も感じない。ただ他人でいたいとは思わないのか話しかけてきた。探られている感じだ、なにを考えているんだろうか?
不安になりつつも平静を装う。勿論目線は落としたままで。
「ねぇ、文さんとはどうゆう関係」
一瞬、反応できなかった。恐る恐る顔を上げるとそこには僕の目をじっと見据える犬走さんがいた、僕の答えをただ待ち続けているのかなにも発さずただ僕だけを見ていた。
「どうゆう関係、とは?」
「ここで働きかけたきっかけとか、あと」
一呼吸置いて、彼女は言い放った。
「男女の仲とは」
男女の仲?この人なにを聞いてるんだ?
固まった僕を見て犬走さんが少しずつ感情をあらわにしていく。
「この屋根の下男女が同棲してるんですよ。そう考えたっておかしくないじゃないですか?」
「そうだね、だけど僕は別に射命丸さんのことをそんな風に見た覚えはないよ」
これだけは嘘偽りない真実だ。そもそも僕があの人と釣り合うはずがない、高嶺の花、あくまで上司と部下だ。
「嘘です。絶対狙っています。」
机に上半身を乗り出して顔を近づけてきた、ぐいっと迫ってきたので思わず手をついて体をのけぞらせたが、近い近いです、と言って落ち着かせる。
「本当ですよ、射命丸さんをそんな風に見ていません」
「嘘!」
すると声を荒げて、急に机を叩いて立ち上がった。あまりに急なことだったのであっけに取られただその姿を見ることしかできなかった。僕を見下ろしている犬走さんは腰に手を当てて感情をあ露わにする。えっと、何か怒らせたかな?
「射命丸さんは確かにどこか適当で振り回されることもありますが!仕事への情熱と誰にでも優しく接する態度となにより、あのナイス身体!男が好意を抱かない理由がないじゃないですか!?それも人間の男!人間の男といえばそもそも「はいはい。椛」
身体全部を使って感情のまま話す犬走さんの話を遮って射命丸さんが今に入ってきた。両手で盆を持ちその上には冷たいお茶が入った入れ物が3つ置いている。
「椛は静かにね、座って」
テレビの一時停止の様に射命丸さんを見て固まっている犬走さん。それを他所に盆のお茶を机に置いておく。射命丸が自分の前お茶を置いて座っていた頃には、犬走さんはいつの間にか顔を伏せて座っていた。とりあえず、また落ち着いて話ができる様になったかな?
「聞いてましたか....」
今にも消え入りそうな声だ。伏せているから尚更聞こえづらい。
射命丸さんはお茶に口をつけてから
「ばっちり」
と一言。すると何かうめき声が低い声が犬走さんから漏れ出してきた。
「椛は普段は優秀なんだけどね。時々暴走しちゃうことあるから、ごめんね四条くん」
「いえ、大丈夫です」
誹謗中傷暴力が飛んできたわけじゃないし。ただ少しだが親近感が湧いた。こうやって恥ずかしがることがあるんだと分かったことで人間とはやはり近いんだなと感じた。
「確かに屋根の下男と女だから、考えちゃうのも仕方ないね。椛なら尚更。」
「う、うう」
「椛は全てはやとちりしすぎなんです。とゆうか私のこと適当とかって「嘘ですよ...」
肘をついて犬走さんへとゆっくり口撃を始める。発言の中身を指摘され慌てて否定する犬走さん、それをからかう射命丸さん。
楽しそうだな、傍で見て強く感じる。長いこと一緒だったんだろう。
「そんなに私と四条くんの間が気になりますか?」
「それは、もちろん!」
はぁー、と小さくため息を漏らしたあと、僕に話を振った。
「では、私との出会いを話してもらいますか?」
「出会い、一週間前ですか?」
それを話して納得してもらえるのだろうか?
「わかりました。とりあえず聞いてみましょう、ただし変な脚色はやめてくださいね」
聞いてはもらえる様だ。変な脚色もなにも僕は無様な姿はどうやっても隠しきれない。なら話すかな。
「僕が幻想入りして、目覚めたのがこの妖怪の山周辺だったんだ。」
それから話し始める。僕らの始まりの物語を